切り花は11月、鉢植えはクリスマスごろから花が楽しめるクリスマスローズ。冬から春にかけてさまざまな種類が咲き、年々注目度があがっている花です。この時季にしか咲かない季節の花を、押し花に加工して楽しんでみませんか。「私たちが早春に作るのは、クリスマスローズやビオラ。素朴で可憐な花を押し花にしています」と語るのは、千葉・船橋で花店を開く『セラヴィ』の宮﨑慎子さん。ビニールハウスを利用した店内に咲くのは、ひと重咲きや八重咲きなど、多種多彩なクリスマスローズです。鉢植えは1輪が1か月も咲き続けるほど。数輪摘んでは押し花に、そんな贅沢ができます。最近では種類が多くなった切り花を使っても手軽です。押し花の楽しみ方を、『セラヴィ』の宮﨑慎子さんに教えてもらいましょう。
*正式名称はヘレボルスですが、本記事では通称の「クリスマスローズ」と表記します。また、花びらに見えるところはガクで、正式にはガク片といいますが、本記事では「花びら」とわかりやすく表記します。
目次
押し花に向いているクリスマスローズのタイプは?
クリスマスローズは、平たい花形が押し花に向いています。園芸店やホームセンターで多種多彩な鉢植え、花苗が並ぶなか、特に押し花に仕立てやすい種類を、まずは知っておきましょう。
初心者はひと重咲きがおすすめです
切り花も鉢植えも、目移りするほど多種多様な花が出回っているクリスマスローズ。そのなかでも、押し花ビギナーが作りやすいのはひと重咲きの品種です。花びらが重ならないので、乾きやすく、ドライフラワー作りの初心者に最適。価格が八重咲き品種より手ごろなことも魅力です。
色はニュアンスがかったものを選んで
白っぽい花色は変色しやすいので、赤紫や黒っぽい花色、くすんだニュアンス色を選ぶといいでしょう。小さな斑点模様まできれいに残ります。
小さめサイズが、押し花にしたあと使いやすい
咲き始めたばかりのクリスマスローズは花が小さく、日数が経つにつれて、しだいに輪が大きくなります。咲いてから数日の小さな花を選んだほうが、押し花に仕上がったあと、広い用途に使えるでしょう。品種によっても輪の大きさが異なるので、花の大きさを見比べてみてください。
開花の具合で、仕上がりの印象が違います
初めて押し花を作る場合は、咲き進んでおしべ、めしべが落ちたシンプルな花を使った方がいいかもしれません。咲き始めたばかりの花で、おしべ、めしべを生かして作ると繊細な押し花になりますが、細かい部分を生かすので多少テクニックが必要です。写真左はおしべとめしべが落ちた状態、写真右はおしべめしべがついている状態のクリスマスローズです。
クリスマスローズの押し花を作るときに準備するもの
押し花作りには必要なものは下記です。
・クリスマスローズ
・乾燥シート
・ウレタンフォーム
・合成薄紙
・ジッパー付き保存用袋
・厚みのある本 *重石用
・ピンセット
・ハサミ
押し花作りの便利グッズ「押し花シート」
押し花シートとは、乾燥剤などを染みこませた押し花専用の紙で、いまや押し花作りには欠かせないものです。現在では、さまざまな押し花キットが、インターネットや量販店などで販売されているので、こちらを利用するのもひとつの手です。押し花シートは水分を効率的に吸収してくれるため、花が茶色く変色することが少なく、元の花色を残したまま短期間で押し花を作ることができます。
繊細な花の扱いにはピンセットが便利です
花は、どんなタイプでも乾燥すると、花びらなどが取れやすくなります。繊細な花の扱いには、ピンセットが必需品。ここでは、完成したクリスマスローズの押し花を取り出すときに、ピンセットを使います。
作るときは湿気が少なく、晴れた日を狙います
きれいな押し花を作るには、花の水分量がポイントです。なるべく水分が少なく、きれいに咲いたクリスマスローズを使いたいので、庭や鉢植えから摘み取る場合は、晴れた日の午前中にしましょう。空気中の水分量が多い雨の日は、押し花作りは避けたほうがいいでしょう。花が濡れているときは、花瓶に挿して表面の水分が蒸発してから使います。
知りたい! クリスマスローズの押し花の作り方
いちばん簡単な押し花の作り方は、小学生などが夏休みの宿題で作るような方法です。新聞紙、ティッシュペーパー、重石になる厚い本を使って、アサガオやオシロイバナの押し花を作った経験はありませんか? 特別な材料や道具がなくても押し花は作れますが、簡単に作れる押し花だからこそ、コツがあります。
色がきれいな押し花を作るポイントは、花の水分を早く乾かすことです。宮﨑さんは次の道具を使っています。写真左から乾燥シート、ウレタンフォーム、合成薄紙です。
①クリスマスローズを用意します。正面向きの押し花を作る時は、押しやすいように茎は短くカットして。花自体を平面的にすると、押しやすいですね。このとき、写真のように、花を下に向けて置くと押しやすくなります。
②乾燥シートは水分を吸い取って、花を早く乾燥させます。花の大きさ、花びらの数などに合わせて、これを数枚~10数枚重ねて使用します。ウレタンフォームの役割はクッション。表面に凸凹がある花材でも、ウレタンフォームを使うと均一に押すことができます。直接花材に触れる合成薄紙は、通気性が高く、押しあがったときにはがれやすい素材です。この3つを、乾燥シート、ウレタンフォーム、合成薄紙の順に重ねます。
③ ②で重ねた合成薄紙の上にクリスマスローズを置き、さらに、合成薄紙をのせます。このとき花びらが折れてしまっては、完成品が台無しになってしまいます。花の表情を意識しながら、丁寧に扱いましょう。
④ ③の上にウレタンフォーム、乾燥シートを順にのせ、上下からクリスマスローズを挟みます。複数並べていちどに作る場合は、花と花の間隔を約1輪分あけることがポイント。間隔をあけて早く乾燥させることで、きれいな色に仕上がります。たくさんのドライフラワーをいちどに作るには、このセットをミルフィーユのように何層も重ねます。
⑤ ④で重ねたものを、ジッパー付きの保存用袋に入れ、空気を抜きながら密閉します。このとき、中身が動かないように固定して。保存用袋を使わず、上下から段ボールで挟み、ゴムバンドなどで固定する方法もあります。
⑥図鑑や雑誌などを数冊用意しましょう。合計約5kgの本を、⑤の密閉袋の上から載せて重石にします。重石をしたクリスマスローズの押し花は、日光が直接当たらない冷涼な場所に1~2日間置きます。押し花が蒸れたり、温度変化で水滴が発生したりしないよう、注意しましょう。
⑦重石をした⑥の状態で1~2日すると、乾燥シートがたっぷり花の水分を吸収します。ここで水分を吸った乾燥シートを、新しい乾いたシートに取り換えることが、美しい押し花作りのポイントです。乾燥シートを取り換えることで早く水分が抜け、色や形がきれいな押し花に仕上がります。乾燥シートを取り換えたあと、5~6日置くと、花びらはパリッと乾きます。
⑧約1週間で押し花が完成します。合成薄紙からクリスマスローズの押し花をはがす時は、ピンセットを使って、丁寧に。乾燥しているので、花びらが欠けたり、壊れたりしやすいので注意しましょう。パリッと乾燥した押し花は、写真のように指で挟んだときに、ピンとして張りがあります。
押し花を短期間で完成させたいときの便利な道具
宮﨑さんは、合成薄紙、ウレタンフォーム、ジッパー付きの保存用袋などを使い、約1週間、自然乾燥をさせて、クリスマスローズを押し花にします。手作りの押し花ですから、できあがりを待つ時間も楽しみのひとつです。では、急いで作りたい場合はどうしたらいいでしょうか。道具を使って、短時間で仕上げる方法もあります。
アイロンを使う方法
合成薄紙やティッシュの間にクリスマスローズを挟みます。中温のアイロンを約10秒当て、そのあと空気に晒し、湿気を飛ばします。クリスマスローズがパリッと乾燥するまで、これを繰り返します。このとき、うっかり高温でアイロンをかけると、花の色が悪くなるので注意しましょう。花によっては加熱に弱く、色が変わりやすいものがあるため、すべての花で使える方法ではありません。
電子レンジを使う方法
料理と同じように、電子レンジは押し花作りの時短に活用できる便利な道具です。ただし、この方法で大事なのは微妙な加熱時間の調整。わずかな時間の差でも、花が焦げてしまうことがあるので注意しましょう。花ごとに時間を調整しながら作ります。
クリスマスローズの押し花を作る際のコツと注意点
いままで紹介した手順などで、クリスマスローズは簡単に押し花になります。ここでは、さらに美しい押し花に仕上げるために、知っておきたいことをまとめてみましょう。
厚い花びらはサンドペーパーで傷をつけて
クリスマスローズは品種によって、花びらが厚いものがあります。厚みがあると乾燥しにくいので、クリスマスローズの花を裏返しにして、サンドペーパーで表面を軽く傷つけ、水分の蒸発を促します。
八重咲きの花は、花びらを間引きします
花びらは多いほど乾燥に時間がかかります。そこで乾きにくい八重咲きのクリスマスローズを押し花にしたいときは、花びらを間引いて枚数を減らしてから押し花にします。取り除いた花びらも、一緒に押し花にすると、楽しみが広がります。
葉や茎は、花と別々に乾燥させましょう
葉や茎が花びらに重なると、仕上がったときに花びらに跡が残ってしまいます。1本のクリスマスローズを、葉や茎がついたまま押し花にすることもできますが、花だけ切り取って、葉や茎と別々に押し花にしましょう。分けて手作りする方が乾燥も早くなります。
花びらの押し花で、花の横顔を描きます
乾燥して、押し花になったあとでは、クリスマスローズの花びらの向きや角度を変えることはできません。クリスマスローズの横顔を押し花にしたいときは、花をパーツに分けて乾燥させてから、作りたい表情に仕上げましょう。最初から花を横向きにして押し花にすることもできますが、花びらの重なりが多くなるほど乾きが遅くなります。
①ひと重咲きのクリスマスローズを用意します。5枚のうち2枚の花びらをはずします。横顔らしく見えるように残りの3枚にうちの1枚は、半分にカットします。花びら2枚半と1枚を押し花にします。押し花ができたら、パーツを組み合わせ、横向きのクリスマスローズの花を作りましょう。
②別に作った押し花の葉と茎に、①の花を付けて組み立てると、クリスマスローズの表情がよりいきいきしてきます。
厚みのあるつぼみ、太い茎は半分にカット
ころっとして水分が多いつぼみは、このままではなかなか乾かないので、押し花にする前に半分にカットしましょう。このとき、中身のおしべやめしべは取り除きます。茎が太くて乾燥しにくい場合も同様です。半分にカットしてから押し花に仕立てて。
しべを残して、押し花にしたいときは…
クリスマスローズの中心に集まるおしべ、めしべは、そのまま押すとつぶれてしまいます。おしべ、めしべを残して、きれいな押し花に仕上げたいなら、こんなひと工夫をしてみましょう。おしべ、めしべをつぶさずに押し花に仕上げる方法を紹介します。
①乾燥シート、ウレタンフォーム、合成薄紙の順に重ねた上にクリスマスローズをのせます。ここまでは一般的な手順と同じです。
②クリスマスローズの上にのせる合成薄紙2枚、ウレタンフォーム1枚を、クリスマスローズがすっぽり隠れる大きさにカット。それぞれ中央に丸い穴を空けておきます。
③クリスマスローズをのせた①の上に、②で作った合成薄紙、ウレタンフォーム、合成薄紙の順にのせます。こうすることで、クリスマスローズのおしべ、めしべをつぶすことなく、立体感を保ちながら乾燥させられます。
④このあとは、通常の押し花作りと同様に、ウレタンフォーム、乾燥シートを順にのせます。ジッパー付き保存用袋に入れ、上から本を重ねて重石にします。
クリスマスローズの押し花を、美しいまま保管する方法
色や形がきれいに残ったクリスマスローズの押し花ができると、嬉しいですね。じつは、押し花はできあがったあとの保管方法が大事なんです。宮﨑さんはクリスマスローズの押し花の保管に、セロファンのカバーがついた保管専用のトレイを使っています。合成薄紙の間に、押し花を挟んでトレイに入れたら、湿気を吸わないように乾燥材といっしょにジッパー付きの保存用袋に入れておきます。手に入れやすい食品用のタッパーなど、密閉性の高い容器に乾燥材を入れて保管してもいいでしょう。
できあがったばかりはきれいな花色でも、保存の仕方によっては変色してしまうことも。湿気は禁物です。酸化や紫外線にも弱いので、日光が当たらない乾燥した場所に保管することをおすすめします。
クリスマスローズの押し花をアレンジ! 飾り方アイデアも
クリスマスローズの押し花を作ったら、ぜひ、いろいろな用途に使ってみましょう。押し花は保存がきくので、贈り物にも最適です。長く楽しむなら、酸素や湿気に触れにくくなる、フレームに入れて飾るのがいちばんです。また、クリスマスローズの押し花の上に、専用のフィルムを貼ると、押し花の面をカバーしながら、シールのように利用することができます。ただし、押し花のナチュラルな風合いは消えてしまいます。
その1 無地の便箋のワンポイントに
花の便箋を手作りしてみませんか。宮﨑さんのおすすめは、小さな押し花を貼ったもの。クリスマスローズは意外と1輪が大きいので、小さめの花を選びます。花びらだけ、小さな葉だけでも、素敵なワンポイントになりますよ。自然の色や形の押し花が、言葉で伝えきれないことまで、語ってくれるでしょう。
①押し花、便箋、両面テープ、ハサミを用意します。
②押し花のクリスマスローズを便箋に置き、位置を確認してから両面テープで貼ります。
その2 クリスマスローズのフレームアート
フォトフレームにリネンの布を挟んでいます。写真のリネンの色は、コーヒーで茶色く染めたもの。アンティークな雰囲気が、クリスマスローズと好相性ですね。押し花は木工用接着材で貼り付けています。表面にカバーをかけないことで、ぐっとナチュラルな雰囲気に。
その3 いろいろな品種を一堂に集めて
いくつも窓がある、フォトフレームに押し花を飾ってみませんか。今年出会ったクリスマスローズが、思い出に残せます。ひと株ごとに微妙に色や形が異なる、クリスマスローズの押し花コレクションが楽しめますね。
その4 ガラス板に挟んで、インテリアに
クリスマスローズの押し花を、ガラス板に挟んでみるのも一案です。傷んだり、汚れたりすることなく、クリスマスローズのナチュラルな雰囲気を長く楽しむことができます。
Credit
宮﨑慎子
『セラヴィ(C′est la vie.)』オーナー。
花屋店長を経て単身渡仏。花の経験を積み、2009年千葉・船橋にアトリエ兼ショップをオープン。元温室だった店内には、植物との暮らしを感じさせる独特な世界が広がる。自ら畑で育てた植物を使い、花のある暮らしを提案する一方、種類にとらわれることなく植物全般を使って、イベント装飾、ブライダル、ガーデンデザインや植栽など、植物に関わる空間プロデュースを手掛け、高評を得ている。
https://www.n-cestlavie.info/
構成と撮影と文・瀧下昌代
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