春の代名詞的な存在の花、チューリップ。昨今では、晩秋から春までが切り花チューリップの出回り時期です。旬を過ぎても、もっと長い間、チューリップを楽しみたいときは、ドライフラワーにして残すという方法があります。そんなドライフラワー の作り方と飾り方アイデアなどを、東京・原宿の花店『ザ・リトル・ショップ・オブ・フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)』の壱岐ゆかりさんに教えてもらいましょう。
目次
チューリップのドライフラワー作りは難しくありません!
春になると、花屋さんの店先をさまざまな色で彩るチューリップ。でも、花の出回る時期が限られているので、もっと長く楽しめたらいいのに…と思うことはありませんか? そんなとき、ドライフラワーにすれば、チューリップをずっと部屋に飾っておくことができます。
「そうはいっても、ふっくらとした卵形のみずみずしいチューリップを、ドライフラワーにすることなんかできるの? 作るのが難しいのではないかしら」と思うかもしれません。でも、大丈夫!「チューリップでドライフラワーを作るのは、まったく難しくないですよ」。チューリップのドライフラワーの作り方を教えてくださった、東京・原宿の花店『ザ・リトル・ショップ・オブ・フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)』の壱岐ゆかりさんはこう言います。「ただ、できあがったドライフラワーをあれこれアレンジしようとすると、すぐに花びらが落ちてしまいます。小花などと違って、誰でも花の形を知っているチューリップは、花びらが落ちて形が崩れるのは避けたいところ。その点に注意して、もっと気軽にドライフラワーを楽しんでください」。
それでは、花の選び方や、作ったドライフラワーの飾り方など、壱岐さんにチューリップのドライフラワーについて、いろいろと教えてもらいましょう。
チューリップには、どんな種類があるか知っておきましょう
晩秋から春まで出回るチューリップには、いろいろな咲き方があります。それぞれの特徴は比較的わかりやすいので、花屋さんで見かけたら、ぜひチェックしてみてください。どのタイプのチューリップも、ドライフラワーにすることができますよ。
ひと重咲き
花びら6枚の基本形。丸い花形が親しみやすい、もっともポピュラーな咲き方です。品種もさまざま。
八重咲き
おしべが花弁化して、花びらの枚数が増えたもの。開き切ると、シャクヤクのようで、存在感は格別です。
ユリ咲き
尖った細長い花びらが、外側に反るように開く姿がユリに似ています。茎が細く、しなやかな印象です。
パロット咲き
切れ込みの入る花びらが、オウム(parrot)の羽根に似ていることから。波打つ花びらがドラマティックです。
フリンジ咲き
花びらの先に、フリルのような細かい切れ込みが入るのが特徴です。ひと重のほか、八重もあります。
原種系
小さくて素朴です。さまざまな品種の親となった原種をはじめ、原種系の中からいくつかが切り花として流通。
クラウン咲き
比較的新しく出てきた咲き方。花びらの先がつぼむ、独特な花形が王冠に似ていることから、こう呼ばれます。
ドライフラワーに適している、チューリップの種類と選び方
基本的には、どんな色、形のチューリップでもドライフラワーにすることができます。ポイントは、花屋さんで買ってきたばかりの、新鮮な花をすぐにドライフラワーにすること。新鮮な花ほど、花びらのつけ根がしっかりしているので、形をキープしやすいからです。反対に、飾ってから日数が経ったものや花びらが反り返ってきたものは、避けたほうが無難です。花びらのつけ根がもろくなっているので、ドライフラワーにしたときに、花びらが取れやすくなってしまいます。
とはいえ、「生花として少し楽しんでからドライにするのがいいと思います」と壱岐さん。「生きている姿を愛でたあと、その短い命を惜しんでドライフラワーにする、というほうが、本来の意味で花を楽しむことになると思うからです」。1~2日ほど生花として花瓶に入れて楽しみ、そのあと、ドライフラワーにできたら、チューリップへの愛おしさも増しますね。
前の項で、チューリップの種類を紹介しました。そのなかでも、特にドライフラワーにおすすめなのが、下記のタイプです。
パロット咲きのチューリップ
生花
ドライフラワーにしたもの
パロット咲きは、オウムの羽根のように、花びらの縁に切れ込みが入るタイプです。波打ってかわいい花びらだけをドライフラワーにしてもきれいです。花が開くと、花びらが暴れるように広がるので、茎をつけたままドライフラワーにすると、動きを出すことができます。
白いチューリップ
生花
ドライフラワーにしたもの
どんな花も、ドライフラワーにすれば花色が褪せて、沈んだトーンになるものです。それがドライフラワーの魅力でもあります。ただ、白いチューリップは色褪せが少ないので、ドライフラワーにしたときに、比較的きれいに色が残ります。複数の花色を混ぜて束ねる場合など、白いチューリップをいくつか加えると明るさが加わり、ハイライト効果が生まれますよ。
また、花びらが薄いチューリップよりは、やや厚みのあるチューリップのほうが、きれいなドライフラワーになります。薄い花びらのチューリップは、乾燥が進むとチリチリになってしまうことがあるからです。
チューリップのドライフラワーの作り方は、ふたつあります
ドライフラワーの作り方には、大きく分けて、ハンギング法、シリカゲル法、ドライ・イン・ウォーター法の3つがあります。このうち、ドライ・イン・ウォーター法は、花に水分を多く含むガーベラには向きません。花の形が崩れる原因になるからです。また、ひと昔前には電子レンジを使う方法もありました。生きている花を電子レンジにかける、という行為に抵抗を感じる方が多いだけでなく、作っている途中で嫌な臭いがしたり、花の形が崩れたりしやすいので、こちらの方法も避けたほうがいいでしょう
そこで今回は、チューリップに向いているハンギング法とシリカゲル法、このふたつの方法について手順を紹介します。
簡単にチューリップをドライフラワーにする「ハンギング法」
花を束ね、下に向けて吊すだけ、という、もっとも一般的なドライフラワーの作り方です。簡単で手間がかからず、できあがったドライフラワーをそのまま飾ればいいので、初心者向きといえます。ただし、外気に触れながら乾燥させるので、あとで説明するシリカゲル法と比べると、どうしても色褪せの度合いは大きくなります。その褪せた花色こそがドライフラワーの魅力でもあるので、ドライフラワーらしさを好む人には、いちばんおすすめの方法です。
ハンギング法で必要なもの
・チューリップ
・輪ゴム
・麻紐 *吊すために使うので、紐でもリボンでも可
・ハサミ
ハンギング法のコツと注意点
チューリップは、乾燥すると茎から水分が抜けてしまい、茎が細くなります。そのため、チューリップをハンギングするときは、最初に輪ゴムで茎を束ねておきます。このとき、輪ゴムは、できるだけきつく掛けるほうがいいでしょう。茎が細くなって輪ゴムがゆるむと、途中で花が落ちてしまうことがあるからです
花を束ねるときは、やや花顔をずらしながら重ねるのが、ハンギング法でのドライフラワー作りのコツです。花同士が重なっていると風通しが悪くなり、乾燥までに時間がかかります。さらにいうと、ドライフラワーになったあとの花は、束ねたものをほどいていけ直すと、花びらが落ちやすくなるのです。せっかくきれいにできたチューリップのドライフラワーが、いけている間にボロボロになるのはショック! 束ねて吊すハンギング法の場合、吊したものをそのままの形で飾るほうが、形崩れの危険性がありません。飾ったときにきれいに見えるよう、束ねるときから花顔が重ならないようにするのがベストです。
また、ハンギング法の場合、チューリップの葉ははずしたほうがいいでしょう。大きな葉がついたままだと乾燥が進みづらくなるうえ、ハンギング法でドライフラワーにした葉は茶色くなりやすいからです。茶色く変色した葉も美しいと思えるのであれば、葉を残し、自然な花姿を楽しんでください。
ハンギング法の手順
①チューリップの茎を束ねて、根元を輪ゴムで留めます。できるだけきつく掛けましょう。束ねた形のまま飾ることを考えて、なるべく花が重ならないように、この時点で花の向きや重なりを調整してください。
②輪ゴムの上から麻紐をきつく巻きつけます。干すときに結びつけられるよう、紐の端は長めに残してカットしておきましょう。
③湿気が少なくて直射日光が当たらない、風通しのいいところに②を吊します。外気に当てると花が傷むので、室内のほうがいいでしょう。乾燥の度合いは好みにもよりますが、花びらから水分が抜けて、カラカラになったらできあがりです。
チューリップの色をきれいに残す「シリカゲル法」
クッキーや海苔の乾燥剤として、よく目にするシリカゲル。水分を吸着するシリカゲルの働きを利用してドライフラワーを作るのが、この方法です。シリカゲルを使う方法は、乾燥させている間、花が外気に触れないため、退色を防ぐことができます。したがって、花の色をきれいに残すことができるのです。
シリカゲルはドライフラワー専用のものがありますが、粉末状のものであれば、お菓子用でも問題ありません。一方、ドライフラワー作りに向かないのは、粒状のもの。粒だと、花と花の間など、細かいところまでシリカゲルが入らないからです。シリカゲルは、100円ショップやインターネット、資材店などで購入することができます。
シリカゲル法で必要なもの
・チューリップ
・シリカゲル *パウダー状のもの
・瓶 *密封できる蓋つきのものを、花の大きさに合わせて用意。タッパーでも可
・ハサミ
・ピンセット
シリカゲル法のコツと注意点
花を瓶に入れてしばらくすると、「もうできているかな?」と、中の状態を確認したくなるものですが、完全に水分が抜けるまで、瓶の蓋を開けるのはやめましょう。乾燥させている途中で、花が空気に触れると、色が悪くなってしまいます。作る時期や保管場所の湿度にもよりますが、余裕をもって3週間~1か月、できあがりをじっと待ってください。
また、大きな瓶を使えば、茎や葉をつけたまま、チューリップを丸ごと1輪のドライフラワーにすることも可能です。ただし、大きな容器と大量のシリカゲル、瓶を置くスペースが必要になるので、そうした点を考慮した上でトライしてみましょう。
シリカゲル法の手順
①瓶にシリカゲルを敷きます。目安としては、花を入れたとき、花が瓶の中央に来るくらいの深さにしてください。
②茎を下にして、①のシリカゲルに花底を少し埋めるようにチューリップを入れます。このとき、大きな瓶を使い、複数の花を一緒に入れても構いません。花同士がくっつかないように、1輪1輪を離して、それぞれの四方がシリカゲルで埋まるようにするのが、ポイントです。
③花の上や周りに、シリカゲルをやさしくかけていきます。いちどにどっとシリカゲルが花にかかると、形が崩れてしまうので注意しましょう。
④花が見えなくなるまで、まんべんなくシリカゲルをかけます。蓋をきっちり閉めて、日の当たらない、湿気の少ない場所に約3週間~1か月置けば、できあがりです。
⑤ドライフラワーになったチューリップは壊れやすいもの。できあがったチューリップを取り出すときは、新聞紙などの上に、瓶から少しシリカゲルを移します。花が半分以上見えたら、ピンセットで花の根元をやさしくつまんで取り出しましょう。
チューリップのドライフラワーをより楽しむために…
ドライフラワーは非常に繊細なので、作ったあとにアレンジするのは難しいものです。特にチューリップのように形が特徴的な花は、1枚花びらが落ちただけで残念な気分になります。もちろん、チューリップを1本ずつドライフラワーにしていけば、アレンジも可能ではありますが、スペースが必要なうえ、手間がかかります。そこで、アレンジしたいときにおすすめなのが、最初から飾るときのデザインをイメージし、合わせたいサブ花材と一緒に組んで吊るす、ハンギング法。これなら、完成したものをそのまま器に入れるだけでOKなので、花落ちの心配が少なくなります。
どんな作り方をしても、ドライフラワーは完成したあとも少しずつ乾燥が進み、徐々に色が褪せていきます。飾っておけばホコリもつきますし、花びらが落ちやすいため、あまり手をかけることができません。季節に関係なく長く楽しめるのがドライフラワーの魅力であっても、やはりワンシーズンごとに花を替えるのがベストです。チューリップのように季節を代表する花は、春の間だけ飾っておき、夏が来たら夏の花をドライフラワーにして飾りましょう。ドライフラワーにできない花は少ないので、生花をアレンジして楽しんだらドライフラワーにする、を繰り返していけば、無理なく無駄なく花を長く楽しめますよ。
チューリップのドライフラワーを使った、簡単アレンジ
ドライフラワーを作ったら、部屋に飾ってみましょう。完成したものをあれこれいじると、花の形が崩れやすいので、シンプルにいけるのが基本です。
その1 色とりどりチューリップのスワッグ
さまざまな色のチューリップを束ねてドライフラワーにしたものを、そのまま壁に下げてスワッグにしました。茎を長く残し、葉もつけたままドライフラワーにしているので、ナチュラルな印象です。チューリップを束ねるときは、花の位置が重ならないよう気をつけて。吊す向きによって表情が変わるのも魅力です。
その2 チューリップとミモザで春のピッチャー
チューリップに、同じ春の花、ミモザのドライフラワーを組み合わせました。束ねてドライフラワーにしたチューリップを、バラバラにしていけ直すのは避けたいので、束のなかから数本だけ長く引き出します。高低差を出すことで動きをつけているのがポイント。チューリップには黄色の品種も加えたので、ミモザの束を添えるだけで全体の色みがまとまって見えます。
その3 チューリップの花びらでポプリ風に
注意していたのに、花がバラバラに崩れてしまった! そんなときもご安心を。こんなふうに、花びらだけをかわいい小皿に盛ってみるのも素敵です。チューリップの花を丸ごとドライフラワーにしたものを、いくつかアクセントとして加えるのもいいですね。香りのいいハーブを混ぜたり、アロマオイルで香りをつけたりすると、よりポプリらしく。
Credit
壱岐ゆかり
『ザ・リトル・ショップ・オブ・フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)』主宰。
インテリアショップやファッションプレスなどを経て、2010年に週末だけのフラワーショップを東京・代々木上原にオープン。2013年に東京・原宿に移転。花をもっと日常的に楽しんでもらいたいというコンセプトから、日々のちょっとした花贈りをはじめ、展示会やパーティの装花、結婚式の装飾・演出まで、花をプロダクトと捉えたアレンジなどを独自のスタイルで展開している。
http://www.thelittleshopofflowers.jp/
https://www.instagram.com/thelittleshopofflowers/
撮影・村瀬雅和 構成と文・高梨奈々
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