備前焼の魅力を伝える新プロジェクト「Bizen×Whichford」コラボイベント報告
日本の六古窯の一つである備前焼の産地、岡山県備前市で2018年10月に行われたイベント「セラミック・アート・ビゼンin閑谷」では、備前焼と花・庭・自然が融合する新しい試みが数々行われました。なかでも英国の園芸鉢工房「ウィッチフォードポタリー」代表、ジム・キーリングさんが来日し、直接レクチャーを受けられるワークショップも開催され、全国から多くの人が訪れました。今後の活動も期待される「備前アートプロジェクト」の模様をご紹介します。
目次
若い陶芸家が中心となり開催された初のイベント
全国的に秋晴れとなった2018年10月20・21日に岡山・備前市にある「特別史跡 旧閑谷(しずたに)学校」にて開催された「セラミック・アート・ビゼン閑谷(Ceramic Art Bizen in Shizutani)」。備前焼作家として国内外で活躍する新進気鋭の若手陶芸家、石田和也さん(32歳)が中心となり、備前焼を盛り上げたいと1年の準備期間を経て開催され、話題となったイベントです。
プロジェクトの中心となった石田さんは、備前焼人間国宝の伊勢崎淳氏に師事後、2011年に渡英し、デヴォンのKigbeare Studioで制作活動に従事。2012年には英国オックスフォード郊外のWhichford Potteryに就職し研鑽を積むという、国内にとどまらず垣根を超えて備前焼の魅力の可能性を探り続けている若き陶芸家です。
そんな彼が備前市と協力して、“どのように備前や備前焼を盛り上げていくか”を模索している過程で、ある試みを行ったことがこのイベント開催のきっかけになったといいます。それは、毎年秋に全国から多くの人が訪れる「備前まつり」についてロンドン芸術大学の生徒達と実施したリサーチでした。彼らに客観的に「備前」を捉えてもらったことで、備前焼を販売をすること以上に、その伝統や技、他にはない価値をあらゆる角度から“伝える”ことが大切であると石田さんは自覚したのです。
そこから、石田さんの思いに地域の方々をはじめ、旧閑谷学校関係者や、備前焼の現代作家、備前焼を応援するあらゆる分野の方々が協力し、「セラミック・アート・ビゼン閑谷」が開催された2日間、予想を超える約2,000人の来場者がありました。また、陶芸や寄せ植えのワークショップには約120人が参加。見て、触れて、体験して備前の魅力を再発見してもらえる機会となりました。
備前焼に触れる英国スタイルのティータイム
開催両日、完売の人気となったのが「備前焼×英国スタイルティータイム」。使う器はすべてプロジェクトリーダーである石田さんが焼いたもので、備前焼のトレーに8種の焼き菓子の中から気に入ったものを1つ選び、Bizen×Whichfordのマグカップで英国紅茶をいただくという、このアートイベント限定のティーコーナーが旧閑谷学校前の広場に出現。
雲ひとつない晴天の屋外には、日差しを遮る大きな白いパラソルも備えられ、自然の鳥のさえずりをBGMに、手作りのスコーンと香り高い紅茶をいただく。実際に備前の器を手に取り、使うことで肌触りや日常での使い方を知り、備前焼を身近に感じることができるおもてなしでした。
英国のアフタヌーンティーに欠かせないスコーンなどの焼き菓子は、全部で8種。写真左上は、オーソドックスなJersey Milk Scone、右上はサンギリスコーン、右下、ジンジャーケーキ、左下は、黒豆きな粉にドライイチジクの丸い模様をあしらったボタモチスコーン。
左上は一番人気だった、プロジェクトリーダーである石田さんの作品をイメージしたイシダスペシャルスコーン、右上は、英国のティータイムで定番の菓子ヴィクトリアサンドイッチ、右下はオーツケーキ、左下は、チェダーチーズでたすき模様を描いたヒダスキスコーン。
この手作りスコーンにも、実は備前焼を思わせる要素が隠されているのです。例えば、穴窯で焼かれるゆえに現れる備前焼の焼き色の特徴「ヒダスキ(緋襷)」や、黒~灰青の景色の変化「サンギリ(桟切)」、丸い模様が浮かぶ「ボタモチ(牡丹餅)」など。スコーンをいただきながら、備前焼の模様に興味を持ち、お茶の後、実物を見て「なるほどー」と理解できる仕掛けに、来場者もびっくり。
「備前焼×英国スタイルティータイム」は、兵庫県在住のフラワー&ティーコーディネーターの内田恭子さんを中心とした5名で開催。内田さんは、お花を飾りお茶をいただく英国スタイルの楽しさと、くつろぎを広める活動をしています。これまでイギリスでスコーン作りやお茶を学んだ経験を、備前でも伝えたいと、今回参加しました。写真左から、ロールケーキのお店「F.T.E」店長の木村正彦さん、田淵さん、牧野さん、橋本さん、COZY STYLE主宰の内田恭子さん、イギリス文化を日本に伝える新会社を立ち上げたブリティッシュ・プライドの新宅久起さん。
日英文化の融合Bizen×Whichford
今回、ガーデニングファンが特に注目したのが、英国の伝統園芸鉢工房「ウィッチフォードポタリー」と備前焼のコラボレーション企画です。まず1つめは、オリジナル作品の販売コーナー。ガーデニングの本場イギリスで、伝統的な技術とデザインのフラワーポットを作り続けている「ウィッチフォードポタリー」の鉢は、日本でも広く流通し、ガーデニングファンに愛用されていますが、ここでは、イギリスの素焼き製ではなく、備前焼で作られたオリジナルの鉢が購入できるとあり、他県からも多くの方が訪れました。
こうして英国と備前がつながるきっかけの一つが、2002年にウィッチフォードポタリーの代表、ジム・キーリングさんが備前へ足を運び、素朴で味わいのある備前焼に惹かれたことにあります。備前焼と園芸鉢は全く異なるジャンルでありながら、「無釉焼締め陶(むゆうやきしめとう)」の共通点から、2017年に初のBizen×Whichfordフラワーポットが誕生しました。
その後、ジムさん自らも備前での作品制作やワークショップに参加し、市民や地元アーティストとの交流も進み、2018年1月にはイギリスからウィッチフォードポタリーの職人たちが来日して、他県からも参加者が集まる初のワークショップも開催されています。
ガーデニングファンが駆けつけた陶芸体験
ウィッチフォードポタリーの石膏型などを使って、オリジナルの備前焼フラワーポットづくりができる「陶芸ワークショップ」5講座と「Bizen×Whichford を使った多肉植物の寄せ植え」1講座は、2カ月前から事前にSNSなどで参加者を募集しました。すると、北海道から宮崎まで約120人が応募、その8割以上が県外からの参加者で、2日間で計6回のワークショップは大盛況となりました。
ウィッチフォードポタリーの代表、ジム・キーリングさんと陶芸家の石田和也さんをはじめとする、陶芸のプロたちが直接指導をする約2時間の「陶芸ワークショップ」では、実際にウィッチフォードポタリーでも使われているモールド(模様の型)を使いながら、オリジナルの鉢を完成させていきます。中でも人気だったのは、ビオラやニワトリ模様。植物模様のスタンプや、転がして模様をつけるルーレット、細かな仕上げをする棒状の道具も用意されていました。
ワークショップの冒頭に、ジムさんは「備前焼と私たち工房の作品には、釉薬をかけないという共通点があります。それは、デコレーションのディテールが薄い膜で覆われず、はっきり模様が見えるという特性があります。備前焼もイングリッシュガーデンも、どちらも伝統がありますが、今回はその2つの伝統が土という素材を通してコラボレーションします。備前にはなかった、このような装飾道具を使うこともコラボレーションの一つで、新しいものが生まれることでしょう。この時間を通して、皆さんの備前の見え方もまた違ってくることでしょう。作品づくりを楽しんでください」と挨拶し、ワークショップはスタートしました。
ウィッチフォードポタリーでは、ろくろ成形後一日乾かしてちょうどよい固さになった作品にデコレーションをしていきます。このワークショップでも、同様の手順が踏めるようにと、参加者は事前にS、M、L、LL、3Lの中から作りたいサイズと数を申請。人数分の鉢を、ジムさんなど職人の手によってろくろを使い、3日間かけて用意されていました。
説明を30分聞いた後、まず、鉢のどの位置へどの模様をいくつつけるかを決め、思い思いに仕上げていきます。ポターさんによるお手本の作業工程を見て覚えたつもりでも、実際に自分の手を動かし、模様の型に土を詰め、鉢に押し付け、模様の縁をきれいにならしていく工程は、思ったようには進みません。
参加者はそれぞれに迷いながらも、集中して手を動かしていきます。ジムさんと石田さん、ポターさんは慌ただしく参加者一人ずつに気を配り、作業につまずいている人を手伝い、アドバイスしながら、アッという間の1時間半。鉢の仕上げにBizen×Whichfordのスタンプを押して、作業は終了時間を迎えました。
ウィッチフォードの鉢で特徴的な縁取りの装飾は、プロの手にゆだねて仕上げてもらうことができました。写真は、ウイッチフォードポタリーで大型鉢の責任者を任されている職人の、サイモン・ガーンさん。
1月に参加して「世界に一つしかないオリジナルのポットが作れるという貴重な体験をまたぜひ!」にと、再び参加した千葉在住の橋本景子さん。「前回と違うモールドを使ってみたかったことや、ポッターさんに再びお会いするのが楽しみでやって来ました。今回を振り返ってみると、時間的に余裕がなく、焦ったり失敗もありましたが、サイモンさんが手助けをしてくれたり、ジムさんが絵を描いてくれたりという幸せな時間もありました。仕上がりが本当に待ち遠しいです」。
2日間で作られた約140点もの作品は、その後、乾かされて2019年の早春に穴窯による焼成が行われます。穴窯は、なんと10日間火を絶やすことなく焼き続け、備前焼ならではの自然釉の景色や炎の表情が生まれるとのこと。参加者は、自分の作品の仕上がりを首を長くして待っているところです。
2日間に渡り行われた6つものワークショップを支えた皆さん。左から、Bizen×Whichfordを担当したガーデナーの田中美紀さん、ジム・キーリングさん、「セラミック・アート・ビゼンin閑谷」プロジェクトリーダーの石田和也さん、サイモン・ガーンさん、去年までWhichfordで2年間陶芸を学んだ経験がある鈴木麻莉さん、陶芸センター事務員の滝川美由紀さん。
日本の伝統と英国の伝統がコラボするという、ガーデニング界にも新しい風となったプロジェクト「セラミック・アート・ビゼン閑谷」。今後の展開が期待されます。
今後の活動やニュースは、以下で発信されます。要チェックです。
【フェイスブック】Bizen×Whichford https://www.facebook.com/bizenwhichford/
【ブログ】ウィッチフォードに恋をして https://wfpottery.exblog.jp
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Credit
写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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