パンジーやビオラに引けを取らないほど豊かな花色が揃い、真冬の花壇や鉢植えを明るくしてくれるプリムラ。厳しい寒さにも強く、冬を超え、春まで愛らしい花を咲かせます。そんなプリムラを生き生きと元気いっぱいに育てるために、肥料は欠かせません。プリムラに適した肥料、その与え方や時期をきちんと把握しておきましょう。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
プリムラを育てる前に知っておきたいこと
秋から春にかけて、色とりどりの愛らしい花を咲かせるプリムラ。プリムラは桜の花を思わせる山野草、サクラソウの仲間で、別名「セイヨウサクラソウ」とも呼ばれています。プリムラは耐寒性に優れ、初心者でも比較的育てやすい花です。
プリムラの基本データ
学名:Primula
科名:サクラソウ科
属名:サクラソウ属
原産地:欧州からアジアにかけた広範囲
和名:桜草(サクラソウ、またはセイヨウサクラソウ)
英名:Primrose
開花期:11~4月※品種により若干異なる
花色:赤、ピンク、白、黄、オレンジ、青、紫、複色
発芽適温:15~20℃
生育適温:15~20℃
プリムラ(Primula)の語源は「primus」。この言葉には「最初」という意味があります。厳しい冬を乗り越えて、早春にほかの植物よりも早く開花することから、この名前がついたといわれています。英名ではプリムローズ(primrose)と呼ばれます。
現在、日本で栽培されているプリムラの主な品種は、園芸品種で、ヨーロッパ原種をもとにした「ジュリアン」と「ポリアンサ」、アジア原産の「マラコイデス」、「シネンシス」、「オブコニカ」の5種類です。
プリムラには栄養を補うための肥料が必要です
プリムラに限らず、庭や鉢植えで植物を育てるためには、肥料は必要です。
植物が生きていくために必要なものは、光、水、そして栄養。自然界では、落ち葉や枯れた植物、昆虫の死骸などが微生物の働きなどによって分解され、栄養になります。一方、庭や鉢植えの土ではその栄養が十分ではないため、肥料で人工的に補う必要があるのです。
植物を育てるのに必要な栄養素のなかでも、“肥料三大要素”と呼ばれるのが「チッ素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」です。
「チッ素(N)」は葉や茎を大きく育て、「リン酸(P)」は花つきをよくし、「カリ(K)」は根の発達を促進し、葉や茎を丈夫にする働きがあります。植物を元気に育てたいとき、私たちはこの三大要素を与える必要があります。
三大要素の次に、植物が必要とするのが“中量要素”と呼ばれる「カルシウム」、「マグネシウム」、「イオウ」です。ただし、「カルシウム」や「マグネシウム」は土に含まれているため、基本的に不足することはありません。ほかにも、ヒトのビタミン類に当たる“微量要素”が「鉄」、「銅」、「亜鉛」など7種類になります。
特定の成分だけを施した場合、植物は正常に育ちません。人間の食事のバランスと同様に、バランスの取れた肥料が大切です。これらを適した時期にバランスよく与えることで、植物は健全にすくすくと育つことができます。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料には目的や用途によって、さまざまな種類があります。大別すると、化学的に合成して作られる「化学肥料(無機質肥料)」、自然の動植物素材などを発酵させる「有機質肥料」のふたつがあります。化学肥料には即効性があり、有機質肥料はゆっくりじっくり効くという特徴があります。
肥料の種類と特性を知っておけば、プリムラにどんな肥料が必要か、自分で判断することができます。ここでは、プリムラを庭や鉢植えで育てる際に使用する、化学肥料の種類について、説明します。
緩効性肥料
徐々に効果が出て持続するタイプの肥料です。肥料の表面が樹脂などでコーティングされたもの、錠剤形や球状で成分が溶け出す量をコントロールしているものなどがあります。固形のものが多く、元肥(※1)としてよく使われます。
サイズは大粒と小粒があり、プリムラには主に土に混ぜ込める小粒のものを使います。肥料の効果は数か月から数年と幅広く、必要に応じて使い分けましょう。
速効性肥料
前述の緩効性肥料より速効性に優れ、追肥(※2)として使うことが多い肥料です。液体のものが多く、水で薄めて使用するもの、そのまま使用するものがあります。水で薄めるタイプは、生育ステージなどによって濃度を変えられる利点があります。速効性はあるものの、効果は1週間から10日ほどでなくなるので、定期的に与える必要があります。また、水やりの際の水に加え、水と一緒に肥料を与えるという方法もあります。そのまま使用するタイプは、薄める手間が省けるため手軽で便利ですが、鉢数が多い場合はすぐになくなってしまうのが難点です。
※覚えておきたい液体肥料の薄め方
水で薄めるタイプの液体肥料は、決められた量を正確に守ることが大切です。ピペットと計量カップ(購入時に付属していることもあります)、目盛り付きのバケツを用意しましょう。少量の場合は、バケツの代わりによく洗った牛乳パックやペットボトルを代用すると便利です。肥料は一般的に、500倍、1000倍、2000倍に薄めます。
目安としては水1ℓに対し、必要な肥料は、500倍なら2㏄、1000倍なら1㏄、2000倍なら0.5㏄となります。
注意しておきたいのは、肥料の作り置きは禁物だということです。水で薄めた状態で長期間放置しておくと、成分が変質したり菌が繁殖したりする恐れがあります。その都度、必要な量を作るようにしましょう。
このほか、葉から養分を吸収させるための、葉面散布用のスプレータイプの肥料があります。葉色が悪い、根が弱って肥料を正常に吸収できないといった場合に使います。また、鉢やプランターに直接差し込むスティックタイプの肥料もあります。肥料と殺虫剤を混合し、いちどでふたつの効果が得られる薬剤入り肥料は、アブラムシなどの被害が発生したときに使用します。
※1「元肥(もとごえ)」苗や株を植え替えたり植えつけたりする時に施す肥料です。効き目が緩やかな緩効性肥料を使います。
※2「追肥(ついひ)」植物の生育にともない不足した栄養分を補うために施す肥料です。種まきや植え付け後に施します。
肥料の与え方は、時期やタイミングで異なります
プリムラは品種によって、その育て方、肥料の与え方が異なります。代表的な5種類のうち、「ジュリアン」と「ポリアンサ」は同じ方法で、「マラコイデス」、「シネンシス」は若干異なります。「オブコニカ」はほぼ、「マラコイデス」に準じます。
この項では、春夏秋冬の季節ごとの肥料の与え方、濃度、タイミングを紹介します。鉢植えか庭植えかによって、与える量や肥料の種類が異なるので注意しましょう。
「ジュリアン」「ポリアンサ」
春(4~6月)
鉢植えの場合、葉の色が薄くなってきたら、規定濃度の2倍に薄めた液体肥料、または規定量の半分程度の緩効性肥料を施します。庭植えの場合は、規定量の半分程度の緩効性肥料を株の周りにパラパラとまきます。
ただし、6月中旬または下旬の梅雨の時期からは、肥料を施さないでください。
夏(7~8月)
この時期、肥料はストップします。
秋(9月)
9月下旬から10月上旬(ヒガンバナが開花する期間)は株分けの時期です。株分けをした鉢植えは、植え替えの際に、元肥として緩効性肥料を施します。苗の株元に、チッ素分の多い液体肥料、または緩効性肥料を与えます。
冬(10~3月)
鉢植えの場合、葉の色が薄くなったり、花の数が少なくなったりしたら、規定濃度の液体肥料、または適量の緩効性肥料を施します。庭植えは、適量の緩効性肥料を株の周りにパラパラとまきましょう。
「マラコイデス」「オブコニカ」
春(4~6月)
鉢植え、庭植えともに、肥料を与える必要はありません。
夏(7~8月)
この時期も引き続き、肥料はストップします。
秋(9月)
9月中下旬(ヒガンバナが咲き始める頃)は種まきの時期です。種まきをした場合は、芽が出て双葉が開き始めたら、2000倍くらいに薄めた液体肥料を与えます。
秋(10月)
鉢植えの場合、1週間に1回、規定濃度の2倍に薄めた液体肥料を施しましょう。
冬(11~3月)
鉢植えの場合、葉の色が薄くなったり、花の数が少なくなったりしたら、規定濃度の液体肥料、または適量の緩効性肥料を施します。庭植えは、適量の緩効性肥料を株の周りにパラパラとまきましょう。
「シネンシス」
春(4~6月)
5月下旬までは、葉の色が薄くなったら、鉢植えは規定濃度の液体肥料、または適量の緩効性肥料、庭植えは適量の緩効性肥料を与えます。6月以降は、いずれも肥料をストップします。夏本番までに土壌の肥料分を減らすことが、上手な夏越しのポイントになります。
夏(7~9月)
7月、8月は肥料を与えません。9月に入ってヒガンバナが咲き始めるころ、鉢植えは規定濃度の液体肥料、または適量の緩効性肥料、庭植えは適量の緩効性肥料を与えます。
秋から冬(10~12月)
鉢植えの場合、葉の色が薄くなったり、花の数が少なくなったりしたら、規定濃度の液体肥料、または適量の緩効性肥料を施します。庭植えの場合は、適量の緩効性肥料を施します。
冬(1~3月)
鉢植えの場合、葉の色が薄くなったり、花の数が少なくなったりしたら、規定濃度の液体肥料、もしくは適量の緩効性肥料を施します。庭植えの場合は、適量の緩効性肥料を施します。
プリムラに肥料を与えるときの注意点は?
肥料のあげすぎはNG!
化学肥料をいちどに大量に使うと、かえって土壌が劣化してしまいます。土壌中の微生物が食糧としていた有機物が減ってしまうためです。土壌の微生物は有機物が豊富にあることによって増え、微生物が活発に活動することで、柔らかく上質な土壌ができるのです。化学肥料を多量に施用すると、有害な硝酸体窒素が蓄積され、土壌の微生物が減ってしまう場合もあります。
与え過ぎるよりは、少々不足しているほうが、健全な株の状態を保てます。化学肥料は少しずつこまめに、必ず適量を使うようにしましょう。
肥料は株元から少し離して
株元近くに肥料を与えると、株が枯れてしまうことがあります。これは地上部に近いところにある根の細胞が濃度の高い肥料成分によって破壊され、根が栄養と水分を吸収できなくなってしまうためです。このことを「肥料やけ」と呼びます。
一方、株元から少し離れたところに肥料を施すと、深いところにある根に濃度の薄くなった肥料成分がゆっくりと届きます。従って、肥料やけを起こす心配がなくなります。肥料は株元から少し離れたところに施すよう心がけましょう。
万が一、肥料やけを起こした場合は、対策として、土壌の養分を洗い流すように、鉢穴から流れ出るくらい、たっぷりの水やりをしましょう。その後、しばらくは肥料を施さずに水だけで管理し、根や新芽が伸び始めたのを確認してから、改めて肥料を与えるようにしてください。
肥料の管理と選び方
肥料は基本的に劣化しにくく、特に使用期限はありません。水に溶けることで分解、変性するように設計されているので、そのままでは変化しないというのが理由です。化学肥料はもちろん、有機質肥料も同様に劣化しません。
ただし、保存状態が悪いと変質してしまう可能性があります。湿気や水分に触れることで分解、変性が起こり、有機質肥料はカビが生えてしまうことも。日光などの強い光により、劣化や変質が起こる場合もあります。
このため、肥料は直射日光が当たらない冷暗所で保管し、開封後はきちんと密閉しておく必要があります。また、開封後はなるべく早く、使い切るのがベストです。購入の際は、製品に記された製造年月日をチェックし、あまりにも古い製品は避けるようにしましょう。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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