ハート型が特徴的なアンスリウムは、1本だけでも熱帯植物らしい存在感があります。花びらのように見える部分は仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれるもので、よく見かける赤色のほかピンクや白、グリーン、紫などがあります。アンスリウムを元気に育てるための肥料の与え方とその注意点を、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
アンスリウムを育てる前に知っておきたいこと
ちょっとユニークな見た目のアンスリウム。赤や白の花びらのような仏炎苞は花芽を保護する葉の一種です。アンスリウムの花はとても小さく、仏炎苞から突き出した肉穂花序(にくすいかじょ)と呼ばれる軸のような部分に密集して咲きます。肉穂花序は、黄色から白〜緑へと色が変わっていきます。花よりも仏炎苞を観賞する観葉植物として楽しまれています。
アンスリウムの基本データ
学名:Anthurium
科名:サトイモ科
属名:アンスリウム属、ベニウチワ属
原産地: 熱帯アメリカ、西インド諸島
和名: 紅団扇(べにうちわ)
英名:Flamingo flower、Tail flower
開花期:5〜10月
花色:赤、ピンク、白、緑、紫、オレンジ ※仏炎苞の色
生育適温:18〜30℃(最低温度は10℃)
アンスリウムは本来、地面に根を下ろさずに、大きな樹木の上で育つ着生植物です。そのため、庭植えにすると根腐れを起こしやすく、日本では鉢植えで育てるのが一般的です。鉢植えされたアンスリウムはホームセンターなどで購入できます。色や大きさなど種類がありますので、好みのものを選ぶとよいでしょう。
アンスリウムには栄養を補うための肥料が必要です
植物は動物のように自分で動いて活動することができません。ひとつの場所にとどまってその土から水分を吸収し、光を浴びて光合成をし、酸素と炭水化物を作りながら生きています。人間でいうなら、水と光は植物にとって必要最小限の食事と同じです。しかし、水と光だけでは生きていけません。自分のからだを作るためにはそれ以外の養分も必要とします。その養分が肥料です。
アンスリウムは適切に肥料を与えることで、花つきをよくし、鮮やかな仏炎苞を楽しむことができます。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料にはどういうものがあるか
植物に与える肥料には、液体のものと固形のものがありますが、肥料の成分、効き方でもそれぞれの種類があります。
成分の違いでは有機質肥料と無機質肥料のふたつの種類があります。有機質肥料が動物や植物など自然のものから作った肥料であるのに対し、無機質肥料は化学的に作られたものです。それぞれの肥料をもう少しくわしく説明していきましょう。
有機質肥料
動植物由来のもので、動物のふんや骨粉、油かす、落ち葉や生ごみの堆肥などがあります。土の中の微生物が肥料を分解し、それが植物の根に吸収されていくため、肥料の効果が出るまでに時間がかかります。
無機質肥料
鉱物などを原料として化学的に合成した肥料で、化成肥料ともいいます。化成肥料は初心者でも扱いやすいですが、多くやりすぎると植物にダメージを与えることがあるので、容量や使用方法に注意が必要です。
効き方の違いでは、効き目がゆっくりと現れ持続効果の長い緩効性肥料や遅効性肥料と、効き目は早いけれど持続時間の短い速効性肥料とがあります。
緩効性肥料
遅効性肥料と呼ばれることもあります。成分がゆっくり浸透する肥料で、効き目が長く持続します。固形のものが多く、有機質肥料は緩効性タイプの肥料です。化成肥料にも錠剤や粒状の緩効性肥料があります。効き方はゆっくりですが、土の中に長く蓄積されるので、植物を植えつける時に入れる元肥(もとごえ)としてよく使われます。
速効性肥料
効き目のあらわれるのが早い肥料ですが、長持ちしません。液体のものが多く、栽培中に与える追肥(ついひ)として使うことが多くなります。液体肥料は、原液のまま使うものと薄めて使うものがありますので、使用方法に沿って使うことが重要です。
アンスリウムは、鉢植えで育てるのが一般的です。鉢植えのアンスリウムは肥料を吸収しやすいため、速効性のある肥料を頻繁に与えるよりも、数か月に1回緩効性のものを施すほうがおすすめです。
肥料の三大要素について
植物を育てるためにはさまざまな養分が必要ですが、なかでも欠かすことのできない三大要素は、「窒素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」です。そのため肥料にもこれらの栄養素が含まれたものが最適です。
肥料のラベルには、略号で三大栄養の配合割合が表示されています。たとえば、N-P-K=6-10-5と書かれていれば、窒素6%、リン酸10%、カリ5%がその肥料に含まれていることを表しています。100gの肥料であれば、窒素が6g、リン酸が10g、カリが5gということです。
窒素(N)
窒素は細胞の元となるタンパク質を作り、葉や茎を育て光合成をするのに欠かせない葉緑素を作る助けもします。窒素が足りなくなると、色が薄くなったり元気がなくなったり、与えすぎると葉だけが茂りすぎたり、茎が細くひょろりと伸びる徒長がおきます。
リン酸(P)
リン酸は植物に元気を与え、苗や根の成長を促し、花や実や種がよくできるように働きます。リン酸が不足すると、根が十分育たず生育が鈍くなり、下葉や茎の色が暗くなって落ちる葉が多くなります。
カリ(K)
カリはカリウムのことで、葉緑素の生育、特に根の発育を促し、茎や葉を元気にします。また植物の体内で水分がうまく行き渡るのを助け、浸透圧や酸性度を調整します。カリウムが足りなくなると、茎が弱くなり、下葉が痛みやすくなります。逆に与えすぎるとカルシウムなどが不足することがあります。
アンスリウムは花つきをよくすることで、美しい仏炎苞も楽しめます。花つきが悪かったり、葉の色がさえない時は、リン酸の割合が多めのものを選びましょう。
三大栄要素以外に植物に必要な栄養は?
三大栄要素は植物にとってなくてはならない必須の養分ですが、それ以外にも、カルシウム、マグネシウムなども植物の成長に必要です。一般に植物を育てる土は弱酸性がよいとされていますが、日本の土は酸性に傾きやすいため土壌改良が必要です。その際によく使われるのが市販の「苦土石灰」で、これにはカルシウムとマグネシウムがミックスされています。
またごく微量でも必要となるものには、銅、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素、塩素などがあります。こういった要素は、単品で与えるよりも、市販の肥料の中に含まれているものとして覚えておけばよいと思います。
肥料を与え始める、時期とタイミング
肥料の与え方には、植物を庭に植えつける時や鉢の植え替え時に与える「元肥(もとごえ)」と、栽培中に与える「追肥(ついひ)」があります。
元肥は土全体に肥料を混ぜ込む場合と、苗を植える穴に適量埋め込む場合があります。アンスリウムの元肥は、土全体に混ぜ込むように与えます。元肥の肥料には、効き目がゆっくりで効果が長続きする緩効性肥料や遅効性肥料を用います。ただし、鉢植えの場合は、市販の培養土に肥料が混ぜ込まれているものもあるため、その場合は元肥は必要ありません。
元肥は効果が持続するといっても、時間が経てば土の中の栄養分は薄れてきます。特に鉢植えの場合は、水やりの際に養分も流れますので追肥が欠かせません。アンスリウムの追肥は、固形状の化成肥料を土の上に置く「置き肥(おきごえ)」がおすすめです。
アンスリウムへの肥料の与え方が知りたい
元肥は、アンスリウムの鉢の植え替えの時に施します。緩効性の固形肥料を土に混ぜ込んで、植え替えましょう。肥料が含まれた培養土を使う場合は、元肥は必要ありません。
生育期の5〜10月は、固形の緩効性肥料を規定量だけ置き肥します。生育期以外の肥料は必要ありません。
アンスリウムに肥料を与えるときの注意点は?
アンスリウムの追肥には置き肥がおすすめですが、置き肥をする時は、肥料が植物に直接触れないように注意しましょう。肥料は土の上に置き、水やりの時には肥料にも水がかかるようにします。水に少しずつ成分が溶け出すことで、ゆっくり効いてきます。
肥料をあげすぎると「肥料やけ」が起きます
アンスリウムは肥料を与えすぎてしまうと肥料やけを起こしてしまいます。肥料やけとは、過剰な肥料のせいで根の機能が弱まり、栄養を吸収できないようにしてしまうことです。栄養が吸収できないのですから、ひどくなればそのまま枯れてしまいます。葉の色が黒っぽくなってきたり、全体がしおれたようになってきたりしたら、肥料やけの可能性があります。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・ブライズヘッド
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