数十年から百年に一度しか開花しないといわれている珍しい性質を持ったリュウゼツランの仲間が、2018年に神奈川県で開花して話題となりました。そのアガベ・ベネズエラと「滝の白糸」2種類を自宅で育てて開花させた神奈川のベテランガーデナー、遠藤昭さんに開花までのストーリーを教えていただきます。新聞とテレビ、合計6社ものメディア取材も受けた注目のアガベとは。栽培エピソードも併せてご紹介します。

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珍しいアガベ・ベネズエラが開花するまで

アガベ・ベネズエラの開花
アガベ・ベネズエラの花が咲いた!

アガベ・ベネズエラ(学名:Agave desmettiana Smooth Agave、Dwarf Century Plant)を数年前に知人から2株いただいて鉢で育ててきたが、その内の一株が2018年11月に奇跡の開花を遂げた。このアガベは、知人宅で既に10年以上は経っていたという。

アガベ・ベネズエラ
Photo/Taweesak Sriwannawit/Shutterstock.com

アガベ・ベネズエラは、テキーラの原料としても有名なリューゼツランの仲間だ。日本でよく見られるアオノリュウゼツランの開花は、全国で比較的多く報告されてきたが、このアガベ・ベネズエラの開花例は、国内ではネットで検索する限り過去数件の報告で、極めて珍しいと思われる。

家庭でも育てやすい小型のアガベ

リュウゼツランの仲間
リュウゼツランの仲間には、いろいろなサイズや葉の特徴がある。Photo/Lamax/Shutterstock.com

リュウゼツランは、1世紀に一度咲く花として、“センチュリー・フラワー”とか“センチュリー・プランツ”とも呼ばれるが、このアガベ・ベネズエラは、“ドアフ・センチュリー・プランツ”と呼ばれている。ドアフ(Dwarf)とは、小人という意味だ。アオノリュウゼツランの花茎は5mにも達するが、アガベ・ベネズエラの花茎は2m程度と小型。それだけに、近くで観察できるので面白い。

3年前の株の様子

3年前には同じ大きさの株だったが、一方の株はその後変化を遂げることになる。

傷んだアガベ

その一鉢は2018年の冬に屋外に出しっ放しにしてしまい、寒さで傷んでしまった。3月20日の写真だ。なんとも痛々しい惨めな姿だ。その後、この株は夏になっても緑の葉を出すことはなかった。もう枯れたものと諦めかけていて処分しようかと思ったほどだ。

アガベのつぼみ

ところが9月に入って、葉の中心から長い葉が出てきたと思ったら、さらにニョキニョキ伸びてきた。それはつぼみだった。

花茎が長〜く伸びるリュウゼツランの開花まで

長く伸び始めたアガベの花茎

約10日が過ぎ、さらに伸びた。まさかの奇跡の開花が見られるのか⁉︎  冬に凍って枯れそうになり、春にも夏にも新しい葉を見せなかったアガベだが、自分の運命を知り、子孫を残そうと命がけの開花をしようとしているのだ。リュウゼツランの仲間は、開花後には枯れる。

アガベを移動

我が家で奇跡的につぼみを持ったアガベ・ベネズエラを、ただ家に置いておいても夫婦で見るだけだろう。それではもったいないので、緑化相談員として勤務している「川崎市緑化センター」の温室に寄付するために運ぶことにした。さて、まずは車に収まるのか?

車に乗せたアガベ

車内にぎりぎり収まった。

アガベのつぼみ

植物園なら、開花した時に大勢の人々に楽しんでもらえることだろう。その後、温室で花茎はすくすく育った。2mほどに伸び、花らしき姿も見られるようになった。

開花間近のアガベ

このアガベのように花茎が高く伸びるのは、花や実が動物などに食べられるのを防ぎ、種子を遠くに飛ばすためともいわれている。ツンツンの放物線状の葉は、砂漠の少ない雨や夜露を中心に集めるためだ。また、四方八方に広がる尖った葉は、動物から身を守るためといわれる。

アガベ・ベネズエラの開花

そして、2018年11月25日にとうとう花が開いた。写真は11月29日。

せっかくの開花なので、12月2日に市役所を経由してメディアにニュースリリースを配信した。さあ、これからが大変! 予想以上の反響があったのだ。

メディアに続々紹介されて多くの人を驚かせた

アガベの開花ニュース
読売新聞の掲載紙面。

12月8日には、このアガベ・ベネズエラの開花が読売新聞と地域紙に掲載され、問い合わせの電話がジャンジャン鳴った。同時に毎日、緑化センターへ大勢の人が見学に来られて、その対応に追われた。来園者には時間が許す限り自ら説明をしていたら、「珍しいものを見せていただき、ありがとう!」と言ってくださったのだ。我が家で咲いても誰も見ないが、こうして大勢の方々を笑顔にしたのだから、家から運んで本当によかったとつくづく思った。

アガベの開花ニュース
CATVイッツコムテレビで放映されたインタビュー画面。

12月11日の夕方には、神奈川テレビとCATVイッツコムテレビの2社が取り上げてくださり、一日で3社ものメディア取材対応に追われた。そして、12月12日には神奈川新聞と東京新聞にも掲載された。

アガベの開花ニュース
TBSテレビの取材風景。

そして、とうとう16日には全国区のTBSテレビのサンデーモーニングでも取り上げられることになった。メディアは連鎖反応を起こす。これで、報道は7社。この各社の報道のお陰で、来園者は増えるばかりで、嬉しい悲鳴! 大変な人出だった。

アガベの開花ニュース
神奈川新聞の掲載紙面。
アガベの開花ニュース
東京新聞の掲載紙面。

これらの報道がきっかけで緑化センターへ足を運んでくださった方々は、100年に一度の花を見るという貴重な機会に恵まれて、喜んでいただけた。これは植物園勤務の者にとっても最高の喜びだ。また、来園者の方々への説明の中に交えた「100年に一度の花に巡り合えたことは、とても幸せな瞬間です。もしかすると、花の前で願いを唱えると叶うかもしれませんよ」という冗談に、多くの方がアガベの前で手を合わせ、拝んでいた姿も印象的だった。

我が家のアガベ‘滝の白糸’も奇跡の開花!

アガベ・シジゲラ

さて我が家には、もう一株のアガベがあるが、その株にも奇跡の開花ストーリーがある。それは、同じアガベの‘滝の白糸’(Agave schidigera)だ。

アガベ「滝の白糸」の開花

20年ほど前、父の日にカミサンから贈られた苗だ。僕がツンツンした剣葉の植物が好きなことを知っていて、ちょっと高価だったけれどと買ってきてくれたのだ。そして、あれから20年ほど経過して、長年かけて夫婦の愛が開花(?)したのか、3年前に花をつけたのだ。

アガベ「滝の白糸」のつぼみ 

その変異は、2015年6月末に突然起きた。なんとアガベ‘滝の白糸’から突然、ニョキニョキとまっすぐ生えてきたのはつぼみだった。朝には1m近くになっていた。

アガベ「滝の白糸」の開花

生まれてこのかた、見たことのない花である。「どんな花だろうか?」「リュウゼツランみたいに咲くのだろうか?」と気になってしまった。今どきならwebで画像検索すれば一発で花の写真が見つかるかもしれないが、それでは毎朝の楽しみが減ってしまう。現物が咲くまで、じっと我慢をしたのだ。

アガベ「滝の白糸」=Agave schidigerの開花

そして、ついにアガベ‘滝の白糸’=Agave schidigeraの開花の時がやって来た! それは7月15日。変異から待ちに待って1カ月半が過ぎていた。最初、花弁かと思った黄色いものは雄しべだった。

アガベ「滝の白糸」の花

花そのものは地味だが、長年育てて、生まれて初めて見る花に感動!

開花したので、Googleで「アガベ 滝の白糸 花」で画像検索したが、何故かヒットしない。「Agave schidigera flower」でもヒットしなかった。もしかすると、これはとても珍しい開花かもしれない。

アガベ「滝の白糸」の花後

花後がどうなるのかも関心事だが、2週間後には上写真のように、長い花穂の先端だけ花が咲いた状態になった。

アガベ「滝の白糸」

ところで、この「滝の白糸」と呼ばれる所以は、葉の縁に現れるクリクリとした「白糸」だ。これがなんとも可愛い。

アガベ「滝の白糸」の開花後

感動の開花から3年が経過した。その後、成長は止まり、枯れかけてはいるが、まだ青い葉が残っている。

アガベのある庭景色

この3年間で、我が家の庭は、数十年に一度しか咲かないアガベが2種類もつぼみを持ち開花したのだ。我が家の庭には、アガベを咲かせる魔法のパワーがあるのかもしれない。いや、単にアガベが仲間を早く咲かせて子孫を残そうとさせてしまうような過酷な環境なだけかもしれない。

アガベなどリュウゼツランの増やし方

アガベの子株

ところで、開花後に枯れてしまうリュウゼツランの仲間は、どうやって子孫を残すかという質問が多い。アガベ・ベネズエラも‘滝の白糸’も、株の周りに子株がたくさん生えてくるのだ。その株を切り取って植え付ければ、どんどん増える。

耐寒性があるアガベ‘滝の白糸’

耐寒性のあるアガベ‘滝の白糸’

また、耐寒性に関して、アガベ・ベネズエラは氷点下で凍ると葉が霜げてしまうが、‘滝の白糸’は耐寒性がある。幾度も雪を被ったが、傷むことなく元気だ。

アガベ‘滝の白糸’と、アガベ・ベネズエラの花

 

最近、人気が出てきているアガベだが、一生に一度しかお目にかかれないアガベの花が、我が家で2種類も咲いたことは驚きだ。まぁ長年、園芸にのめり込んだお陰だったのかもしれない。そう、継続は力なり!

遠藤昭さんの掲載紙面

このアガベの開花をきっかけに、神奈川新聞の記者さんが、僕の経歴に興味を持ってくれた。2018年の年末、12月29日には「人」覧で僕を紹介。社会貢献と言ってもらえたのが嬉しく、励みになった。これからも引き続き、ガーデニングで社会貢献を頑張っていこうと新しい年に思いを強くしている。

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Credit

写真&文/遠藤 昭
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。現在は、川崎市緑化センター緑化相談員を担当しながら、コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施。園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。

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