多彩な品種があるクレマチスは「育てやすさ」「人気品種」「新品種」などが選ぶ基準になりがちですが、ここではあえて、そんな一般基準を全く気にせず、完全に個人的なベスト5をご紹介。「全然知られていないし、特に人気もないけど、このクレマチスは絶対面白いっ!」と、クレマチス愛を炸裂させて選んでくれたのは、クレマチスの生産を30年続ける及川フラグリーンの及川洋磨さん。他ではなかなかお目にかかれない面白いセレクトですよ。
目次
クレマチス専門店が選ぶ
魅力的なクレマチス5種
及川フラグリーンは岩手県花巻市でクレマチスの生産を30年続けるクレマチスの専門店です。原種や在来種、新品種まで約400種を試作・販売しています。クレマチスには本当に多彩な品種があり、それだけ魅力に富んだ花なのですが、そもそも育てるのが難しいと思われてしまう傾向があるために、まずは肩の力を抜いてもらい、いつも簡単な育て方や人気品種の紹介からスタートします。メディアにクレマチスを掲載してもらう時も同様で、品種紹介の記事において基本的に求められるのは、やはり「人気」、「旬」、「ベスト・バイ」的なもので、いろいろと配慮しつつ選ばせていただいています。もちろん、育てやすいところからクレマチスの魅力を知ってもらえたらいいのですが、一方で、一般に紹介される花にあまり変動がなく、「うちの圃場にはこんなにほかにもたくさん素敵な花があるのになぁ」と、実に惜しい気持ちもありました。そこで、ここでは僕が実際に育ててみて、「いろいろ遊んでみると素晴らしいぞ!」「ぜひ知ってほしい!」と長年思ってきた個人的ベスト5を選びました。クレマチスの新鮮な魅力をお届けできたら幸いです。
芸術的な造形美をもつクレマチス
第5位 ブラチアータ
Clematis brachiata
花期/7〜9月 花径/3〜4㎝ 丈/2~4m 剪定/強
アフリカ南部に自生する原種です。ずいぶん前から日本に入ってきていますが、普及は進んでいません。耐寒性はほどほどで、寒冷地での戸外越冬は難しく、関東以西の平地での戸外越冬は可能です。マイナス5℃前後まで耐えられそうです。夏に咲く花はかわいい小輪ながらも、中心部のしべが大きく華やかに広がり、そのバランスが造形的に美しいです。
花色は黄緑がかる白色で、淡い色合いの小さめの葉とのバランスが絶妙。ナチュラルな雰囲気を醸し出し、トーンを抑えめにしたい植栽に向きます。そして、少し甘い香りがするのも特徴。園芸店や植物園などでもあまり花を見る機会がない原種で、一見地味なので、カタログなどの写真だけでは目にとまらないのかもしれませんが、うつむくベル形のつぼみがパッと開いた時の驚きは、特筆すべき魅力です。この原種が庭で堂々と育っている姿に会えることを期待しています。
大人系で魅力満載のクレマチス
第4位 ‘ナイト・ベール’
Clematis ‘Night Veil’
花期/5〜10月 花径/8〜11㎝ 丈/2〜3m 剪定/強めでも弱めでもOK
多花性で四季咲き性が強いフロリダ系(ただし性質がやや弱い)と、多花性で強健のビチセラ系(枝の伸びが旺盛)との交配で生み出された品種です。両者の性質が実によいバランスで引き出され、「多花性」「四季咲き性」「強健」「低めから開花する」など、魅力の多い品種です。
花色は深く濃いシックな紫で、中心部がほんのり白く抜ける色合いは、落ち着いた趣のある雰囲気。紫の花心とのバランスも絶妙です。レンガやウッドフェンスなど洋風素材との相性は特によいと感じます。庭に大人っぽい雰囲気をプラスしたい方に、ぜひ試してもらいたい品種です。
バイプレイヤー的クレマチス
第3位 ‘スター・オブ・インディア’
Clematis ‘Star of India’
花期/5〜10月 花径/10〜13㎝ 丈/2〜3m 剪定/強
1900年頃に作出された品種で、歴史ある名花です。英国王立園芸協会のガーデンメリット賞も受賞し、その性質は保証されています。とにかく強くて、育てやすい。枝の伸びがよく、フェンスやアーチなどへの仕立てに向きます。イギリスの庭でよく使われているのがうなずけるハイスペックなクレマチスです。
花色は落ち着いた赤紫に、一段濃い紫の筋が中央に入ります。花形は丸弁の星形、まさに品種名の通り。おそらく、赤でもなく紫でもない中間的な花色に物足りなさを感じるのか、人気はいま一つ。ですが、すべての植物がスター的な存在であると、喧嘩してしまいます。馴染みやすい色味の名脇役、ぜひ取り入れてほしいです。
上品な癒し系クレマチス
第2位 ‘愛州城’
Clematis ‘Aisujyo’
花期/5〜10月 花径/12〜15㎝ 丈/1.5〜2.5m 剪定/弱
「クレマチスでベタな白色の大輪、どこにでもあるよね」とは言わせません。白花の大輪ではありますが、その咲き姿は蓮の花のように上品です。花形はふくよかな丸みを帯び、優しいオーラが全開の癒し系です。混じり気のない澄んだ白色は、黄色の花心とのコンビネーションがよく、形と相まって完成されています。
さらには性質も強く、大輪系にありがちな“急に立ち枯れる”こともなく、育てやすいです。直射日光が当たる場所より、やや半日陰のほうがその気品を感じることができます。一般の住宅の庭では、やや半日陰のデッドスペースが意外と多いと思うので、ぜひこの上品なクレマチス‘愛州城’をたくさん咲かせて、庭に明るさをプラスしてください。
野性味と華やかさを併せ持つクレマチス
第1位 ‘ルブラ’
Clematis ‘Rubra’
花期/5〜10月 花径/5〜7㎝ 丈/2〜3m 剪定/強
1600年頃の文献にも、これと似た種が登場しており、かなり古くからあるクレマチスと思われます。ビチセラ系の原種ビチセラからの選抜と考えられています。花は、ベルベット質の濃く深い赤色ですが、花の基部や弁端に白色〜緑色が混じることがあります。しっかりと開かないねじれのある花を、下向きから、やや横向きに咲かせます。ツンと尖ったつぼみもアクセントになります。
赤色という、いかにも園芸品種的な色合いながら、不思議とその咲き姿に原種から受け継いだ野生味を感じ、ナチュラルな植栽の中で、違和感なくワンポイントとして加えられます。ナチュラルな植栽というと、白や淡い青などをメインで使うことが多いようですが、その中にこんな刺激を加えると、一歩先を行く風景がつくれるのではないかと思います。
Credit
写真&文 / 及川洋磨 - 「及川フラグリーン」 -
おいかわ・ようま/岩手県生まれ。大学で造園学を学んだ後、実家であるクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」に入り、生産、育種に携わる。近年では、「ナーセリー&ガーデン」というスタイルを目指し、クレマチスの生産、育種をはじめ、庭での実践にも取り組み「クレマチスのある庭いじり」を伝えることにも力を入れている。著書に『クレマチスの咲く庭づくり』(講談社)、『四季の庭を彩る はじめてのクレマチス』(家の光協会)。
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