おいかわ・ようま/岩手県生まれ。大学で造園学を学んだ後、実家であるクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」に入り、生産、育種に携わる。近年では、「ナーセリー&ガーデン」というスタイルを目指し、クレマチスの生産、育種をはじめ、庭での実践にも取り組み「クレマチスのある庭いじり」を伝えることにも力を入れている。著書に『クレマチスの咲く庭づくり』(講談社)、『四季の庭を彩る はじめてのクレマチス』(家の光協会)。
及川洋磨 -「及川フラグリーン」-
おいかわ・ようま/岩手県生まれ。大学で造園学を学んだ後、実家であるクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」に入り、生産、育種に携わる。近年では、「ナーセリー&ガーデン」というスタイルを目指し、クレマチスの生産、育種をはじめ、庭での実践にも取り組み「クレマチスのある庭いじり」を伝えることにも力を入れている。著書に『クレマチスの咲く庭づくり』(講談社)、『四季の庭を彩る はじめてのクレマチス』(家の光協会)。
及川洋磨 -「及川フラグリーン」-の記事
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専門店
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪34 岩手「iisago nursery & garden(イーサゴ ナーセリー&ガーデン)」
ナーセリーが営むクレマチス専門店「iisago(イーサゴ)」 「iisago(イーサゴ)」は、岩手県花巻市東和町のクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」が営むクレマチスの専門店。新しいオリジナル品種からスタンダードな品種まで、ナーセリーがおすすめするクレマチスを中心に、クレマチスと相性のよい宿根草や低木類、ガーデンツールなどを販売しています。 店名「iisago(イーサゴ)」とは、地元の作家・宮沢賢治が小説の中で、盛岡のことを「モーリオ」と呼んでいることにならい、ここ砂子(いさご)集落の名を変化させてつけたもの。地元愛にあふれたユニークな名前です。 約200種類ものクレマチスの苗がずらりと並ぶショップは、かつて生産用だった温室を活用して約6年前にオープンしました。大小さまざまな苗は用途や生育タイプなどでグループ分けされており、陳列商品の上から下げられた看板に分かりやすく表記されています。「たくさんある中から選ぶことは難しいと思いますので、分からないときや迷ったときは、気軽に近くのスタッフに声をかけてくださいね」と、オーナーで育種家の及川洋磨さん。 新しいオリジナル品種を生み出すには、ものすごい手間と年月を費やすというクレマチスの育種。及川さんは「無理なくきちんと育つ苗を作りたい」という思いで育種に励み、毎年3品種を目標に作出しています。 シーズンには株いっぱいに花をつけているので、圧巻の風景が広がります。奔放に伸びる細いつるが隣同士で絡んでしまわないように、ひと株ひと株ていねいに誘引されている様子には驚きです。 ショップ内には構造物に多様なクレマチスを誘引した植栽サンプルがたくさん。2~3種類組み合わせたプロの技も見られ、成長のタイプや雰囲気が確認できます。 難しいと思われがちなクレマチス。「iisago(イーサゴ)」では、初心者の気持ちになって相手のレベルに合わせ、専門用語を使わずにシンプルに伝えることを心がけています。「よく書籍などのクレマチスの紹介で見られる、系統や剪定タイプなどの複雑さに尻込みしてしまう人が多いみたいですね。でもそんなに難しく考える必要はないんです。最も難しいと思われている冬の剪定なんかも、じつは簡単。元気な芽があるところの上でカットすればいいんです。本当は思っている以上に簡単に楽しめる植物なんですよ」と及川さん。 園路脇で最も目を引くのが、この楽しいディスプレイ。今咲いている花を一輪ずつ挿した小瓶に名札が添えられています。「いい花なのに売り場では気づかずスルーされることが多いんですが、一輪ずつ飾ると劇的に皆さんの見方が変わるんですよ。多くの人が楽しそうに眺めていくんです。すべての花の魅力を、その都度伝えたいですね」。 大学で学んだ造園知識を生かしたサンプルガーデン 1970年代に父の及川辰幸さんが植木生産を始め、その過程でクレマチスの品種を集めていた「及川フラグリーン」。幼いころから植物を身近で眺めていた及川さんは、生産よりも庭づくりのほうに興味があり、東京農大・大学院の造園学科に進学しました。 6年かけて国内外さまざまなスタイルの庭やランドスケープを学んだというだけあって、商品苗を並べるだけでなく、クレマチスを庭でどう生かすかを小さな植栽で素敵に提案。併せてクレマチスの庭におすすめの植物の苗を多数揃えています。 ハウス奥には、木々に囲まれたレクチャースペースが設けられています。ここではクレマチスの育て方などの講座や、さまざまなワークショップが行われています。 及川さんおすすめの培養土や肥料、フェンスなどの資材類も充実。男性や若者など、多くの人に楽しんでもらえるようにと、おしゃれなアイテムも揃えています。併設された傍らのコーヒースタンドから、深い香りが漂っています。 五感が喜び、クレマチスの育ち方が分かる サンプルガーデン ハウスを抜けると、ショップのサンプルガーデンが設けられています。ガーデンは3つのエリアで構成されていますが、もともとは及川さんの実験場を兼ねたプライベートガーデン。6年前に「庭でもクレマチスの楽しさを見てもらいたい」という思いで、一般公開に踏み切りました。 周囲に広がる田んぼを借景にした起伏に富むガーデンは、かつては赤松が混在する林。‘いぐね’と呼ばれる防風林でした。マツクイ虫などで赤松が枯れ始めたことをきっかけに雑木林に切り替えたのち、脇にある田んぼだった場所に盛り土をして造られました。 最初に広がるのは、オベリスクに絡むたくさんのクレマチスと宿根草が調和するメインガーデン。未発表のオリジナル品種とイチオシのクレマチス、ガーデンプランツが植わっています。ここでは明確な園路は作っていないので、足を踏み込める場所なら自由に歩くことができます。また、池にはメダカやドジョウ、ヤゴなどが棲みついているので、子どもたちも楽しめる空間となっています。 ガーデンにも、クレマチス同士や草花との合わせ方のヒントがたくさん。鳥のさえずりや花の香りなど自然を感じながら、美しいクレマチスが楽しめます。 メインガーデンの奥は、防風林いぐねと雑木林の混在したエリア。木漏れ日がきらめく風景は、まるでイギリスのウッドランドガーデンのよう。ここにもたくさんのクレマチスが植わりつつ、ユニークな仕掛けがあちこちに盛り込まれています。 林の中にもクレマチスを導入。自然の風景になじみやすいよう、悪目立ちしない繊細なオベリスクが用いられ、‘エトワール・バイオレット’など野趣感のある品種が植えられています。 倒木などをクレマチスを生かす素材として使ってしまうのも、自然が多いこの地で育ち庭づくりを学んだ及川さんだからこそ。思いもよらぬ驚きの仕立て方です。 曲がりくねる林の中の園路にはバークチップが敷かれており、やさしい歩き心地。雨の日でもぬかるむことがないのもポイントです。園路がカーブするところには大型のホスタが植えられて、印象的な風景になっています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー1 遊び心満載の演出 ショップ近辺の農家の納屋には、壊れた古道具がたくさん転がっているそうですが、及川さんはそれを譲り受け、庭で廃材と合わせながらユニークなオブジェとして活用しています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー2 クレマチス以外の植物たち 赤松やアカシデ、コナラなどが植わる林の中で、静かな存在感を放っている植物をご紹介します。樹木や宿根草は和・洋のスタイルにこだわらず、及川さんが植えたもの。 ボリュームたっぷりの ロックガーデン サンプルガーデンの最も奥のエリアにあるのは、10年前に奥様の真由美さんと古い庭をリニューアルさせたロックガーデン。こちらはナチュラルなメインガーデンよりもダイナミックで、大人っぽい雰囲気です。 メインガーデンではクレマチスの育ち方を知ることができますが、こちらでは庭への取り込み方が分かります。真由美さんは、自然な空間づくりを得意とする造園設計会社で設計を担当していたこともある、この道の専門家。庭づくり&造園に精通する2人がつくっただけに、見応え抜群です。 こちらではオベリスクだけでなくトレリスなどを用いて、クレマチスの多様な表情を紹介しています。 及川さんおすすめの オリジナルクレマチス3種 及川さんが手がけた品種は今までに30種ありますが、なかでも特におすすめの3種をあげていただきました。 ‘流星’ インテグリフォリア系/開花期:5~10月/花径:8~11cm/草丈:1.5~2.5m 誘引しやすい半つる性。オベリスクやフェンスとの相性がよい。銀色にも見える花は、紫色の絵の具を吹きつけたような色合いで爽やか。 ‘タイニー・ポップ’ テキセンシス系/開花期:5~10月/花径:3~4cm/草丈:1~1.5m ポップで可愛いピンク色のベル形の花を、次々に咲かせながら成長する。枝の伸びはほどほどで、絡まりも弱いので扱いやすい。 ‘ルノカ’ ビチセラ系/開花期:5~10月/花径:6~9cm/草丈:2~3m 縁の爽やかな青紫色と、中心部の緑がかる白色とのコントラストが素晴らしい。ほどよい大きさの花をふわふわ舞うように咲かせ、軽やかな姿を見せる。初夏によく似合う。 ひたむきに美しい花を追求し、たくさんの人々に花の魅力を伝えることに心血を注ぐ及川さん。岩手の人々が敬愛する宮沢賢治の「農民芸術=労働すべてが芸術的行為である」の思想をそのまま体現しているようです。そんな及川さんが営む、自然なガーデンも楽しめるショップ「iisago(イーサゴ)」、ぜひ訪れてください。アクセスは、東北新幹線「新花巻駅」より車で約20分、JR釜石線「土沢駅」より車で約10分、釜石自動車道「東和IC」より車で約10分。
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宿根草・多年草
「知名度なくても素晴らしい!クレマチス5種」専門家が選ぶ珠玉の品種
クレマチス専門店が選ぶ 魅力的なクレマチス5種 及川フラグリーンは岩手県花巻市でクレマチスの生産を30年続けるクレマチスの専門店です。原種や在来種、新品種まで約400種を試作・販売しています。クレマチスには本当に多彩な品種があり、それだけ魅力に富んだ花なのですが、そもそも育てるのが難しいと思われてしまう傾向があるために、まずは肩の力を抜いてもらい、いつも簡単な育て方や人気品種の紹介からスタートします。メディアにクレマチスを掲載してもらう時も同様で、品種紹介の記事において基本的に求められるのは、やはり「人気」、「旬」、「ベスト・バイ」的なもので、いろいろと配慮しつつ選ばせていただいています。もちろん、育てやすいところからクレマチスの魅力を知ってもらえたらいいのですが、一方で、一般に紹介される花にあまり変動がなく、「うちの圃場にはこんなにほかにもたくさん素敵な花があるのになぁ」と、実に惜しい気持ちもありました。そこで、ここでは僕が実際に育ててみて、「いろいろ遊んでみると素晴らしいぞ!」「ぜひ知ってほしい!」と長年思ってきた個人的ベスト5を選びました。クレマチスの新鮮な魅力をお届けできたら幸いです。 芸術的な造形美をもつクレマチス 第5位 ブラチアータ Clematis brachiata 花期/7〜9月 花径/3〜4㎝ 丈/2~4m 剪定/強 アフリカ南部に自生する原種です。ずいぶん前から日本に入ってきていますが、普及は進んでいません。耐寒性はほどほどで、寒冷地での戸外越冬は難しく、関東以西の平地での戸外越冬は可能です。マイナス5℃前後まで耐えられそうです。夏に咲く花はかわいい小輪ながらも、中心部のしべが大きく華やかに広がり、そのバランスが造形的に美しいです。 花色は黄緑がかる白色で、淡い色合いの小さめの葉とのバランスが絶妙。ナチュラルな雰囲気を醸し出し、トーンを抑えめにしたい植栽に向きます。そして、少し甘い香りがするのも特徴。園芸店や植物園などでもあまり花を見る機会がない原種で、一見地味なので、カタログなどの写真だけでは目にとまらないのかもしれませんが、うつむくベル形のつぼみがパッと開いた時の驚きは、特筆すべき魅力です。この原種が庭で堂々と育っている姿に会えることを期待しています。 大人系で魅力満載のクレマチス 第4位 ‘ナイト・ベール’ Clematis ‘Night Veil’ 花期/5〜10月 花径/8〜11㎝ 丈/2〜3m 剪定/強めでも弱めでもOK 多花性で四季咲き性が強いフロリダ系(ただし性質がやや弱い)と、多花性で強健のビチセラ系(枝の伸びが旺盛)との交配で生み出された品種です。両者の性質が実によいバランスで引き出され、「多花性」「四季咲き性」「強健」「低めから開花する」など、魅力の多い品種です。 花色は深く濃いシックな紫で、中心部がほんのり白く抜ける色合いは、落ち着いた趣のある雰囲気。紫の花心とのバランスも絶妙です。レンガやウッドフェンスなど洋風素材との相性は特によいと感じます。庭に大人っぽい雰囲気をプラスしたい方に、ぜひ試してもらいたい品種です。 バイプレイヤー的クレマチス 第3位 ‘スター・オブ・インディア’ Clematis ‘Star of India’ 花期/5〜10月 花径/10〜13㎝ 丈/2〜3m 剪定/強 1900年頃に作出された品種で、歴史ある名花です。英国王立園芸協会のガーデンメリット賞も受賞し、その性質は保証されています。とにかく強くて、育てやすい。枝の伸びがよく、フェンスやアーチなどへの仕立てに向きます。イギリスの庭でよく使われているのがうなずけるハイスペックなクレマチスです。 花色は落ち着いた赤紫に、一段濃い紫の筋が中央に入ります。花形は丸弁の星形、まさに品種名の通り。おそらく、赤でもなく紫でもない中間的な花色に物足りなさを感じるのか、人気はいま一つ。ですが、すべての植物がスター的な存在であると、喧嘩してしまいます。馴染みやすい色味の名脇役、ぜひ取り入れてほしいです。 上品な癒し系クレマチス 第2位 ‘愛州城’ Clematis ‘Aisujyo’ 花期/5〜10月 花径/12〜15㎝ 丈/1.5〜2.5m 剪定/弱 「クレマチスでベタな白色の大輪、どこにでもあるよね」とは言わせません。白花の大輪ではありますが、その咲き姿は蓮の花のように上品です。花形はふくよかな丸みを帯び、優しいオーラが全開の癒し系です。混じり気のない澄んだ白色は、黄色の花心とのコンビネーションがよく、形と相まって完成されています。 さらには性質も強く、大輪系にありがちな“急に立ち枯れる”こともなく、育てやすいです。直射日光が当たる場所より、やや半日陰のほうがその気品を感じることができます。一般の住宅の庭では、やや半日陰のデッドスペースが意外と多いと思うので、ぜひこの上品なクレマチス‘愛州城’をたくさん咲かせて、庭に明るさをプラスしてください。 野性味と華やかさを併せ持つクレマチス 第1位 ‘ルブラ’ Clematis ‘Rubra’ 花期/5〜10月 花径/5〜7㎝ 丈/2〜3m 剪定/強 1600年頃の文献にも、これと似た種が登場しており、かなり古くからあるクレマチスと思われます。ビチセラ系の原種ビチセラからの選抜と考えられています。花は、ベルベット質の濃く深い赤色ですが、花の基部や弁端に白色〜緑色が混じることがあります。しっかりと開かないねじれのある花を、下向きから、やや横向きに咲かせます。ツンと尖ったつぼみもアクセントになります。 赤色という、いかにも園芸品種的な色合いながら、不思議とその咲き姿に原種から受け継いだ野生味を感じ、ナチュラルな植栽の中で、違和感なくワンポイントとして加えられます。ナチュラルな植栽というと、白や淡い青などをメインで使うことが多いようですが、その中にこんな刺激を加えると、一歩先を行く風景がつくれるのではないかと思います。