小学生のころ、アサガオを育てたことがある方も多いのでは…? 夏休みに「今日は咲くかな?」と早起きしたり、ラジオ体操の行き帰りに見ていたり。夏の朝の涼やかな景色が目に浮かびます。鉢や花壇でそのまま観賞するのもいいですが、せっかくなら、はかない花の命を、切り花でも愛でてみませんか。東京・六本木の花店『プランツ トータル デザイン フォルム』の田中光洋さんが、思いがけないアサガオの、新鮮な表情を見せてくれました。
目次
知っておきたい! アサガオのこと
アレンジを紹介する前に、アサガオのこと、もっと知りたくはありません? 朝にしか咲かない不思議なしくみとか、日本人とはいつからのお付き合いなのかしら、とか。ねっ、涼しそうな顔をして、魅惑に満ちた花なんですよ。そうそう、茎から切るときのコツも覚えてくださいね。
なぜ、朝にしか咲かないの?
アサガオって、朝の光を感じて咲く、と思っていませんでしたか? じつは、不正解! アサガオには、体内時計のような機能があって、前日の夕方に暗くなったことを感知し、それから約10時間後に花開くんですって。命の営みって、すごいですよね。
江戸時代には大ブームが2度も!
アサガオを鉢物で楽しむ光景って、当たり前と思っているかもしれないけれど、江戸時代に花開いた園芸ブームの流れを脈々と受け継いでいるんです。身分の高い人だけでなく、庶民にも広まり、さらには地方へも波及しました。広い庭のない日本人の知恵だったんですね。
アサガオに話を戻すと、はじめてブームが起こったのは、1804~1830年の文化・文政期。写真なんてまだない時代だから、美しい彩色で描いた図譜まで刊行されていたほど。ブームに乗じて、もちろん、珍しい色や形のアサガオが次々と誕生したようです。次にブームとなったのが、1848~1860年代の嘉永・安政期。ペリー来航など、政情不安定なときだったにもかかわらず、アサガオのブームは真っ只中。この時代には、葉や花など、変わったものが珍重されたようです。
江戸時代から現代へとエッセンスが受け継がれた、朝顔を3つ紹介しましょう。
黄蜻蛉立田葉紅切咲
花は幅の広い切咲。葉の裂片がやや細まり、紅葉の葉のように5裂することから、江戸時代の紅葉の名所である龍田川にちなんで名づけられたよう。
黄桔梗渦葉水色桔梗八重
桔梗渦の花は、花びらが丸くなる渦咲きに対し、花びらの尖った桔梗咲という意味のようです。
青斑入糸柳葉茶覆輪細切采咲
花びらが細く切れた花は、武将がもつ采配の形に見立てて、采咲(さいざき)と呼ばれるそう。葉も細く乱れた糸柳葉をしています。
アサガオはいつから日本で咲いているの?
私たちの暮らしになじんでいるアサガオは、日本固有の花でしょうか…? 答えは、どうやら違うみたい。中国から約1200年前の奈良時代に薬草として渡来したといわれています。花を牽牛(けんご)と呼び、下剤に用いられた種子を牽牛子(けんごし)と呼んでいたそうです。それが、いつからか、アサガオと呼ばれるようになり、夏の風物詩として定着したのです。
茎から花を切り、あしらうときのポイント
いけばなの世界では、アサガオは古くから好まれてきた花です。本来なら、咲いたときの姿を想像してつぼみを選び、蔓の動きを生かすように掛け花や吊り花としていけ、器のなかで咲かせるそう。なぜなら、花びらがあまりにも繊細で、少しの風でも傷ついてしまうから。とはいっても、もっと気軽に、今朝咲いた花を飾りたいですよね。ならば、そっと風に当てないよう、鉢ごと運んで蔓をそっとほどき、水切りしましょう。器に挿したあとも、もうひとケア。霧吹きでたっぷりと水をあげてくださいね。
アサガオのこと、こんなに知ったら、早くアレンジをみたくなりますよね。庭やベランダに咲いた、今朝のアサガオをあしらって、とっておきの朝時間を過ごしてみませんか。
アサガオを、素敵に飾りたい!
朝の食卓で。たった今咲いた一輪を愛でる
摘みたての新鮮なアサガオを朝の食卓に取り入れて。新しい1日の始まりを、涼花「朝顔」とともに悦びましょう。素敵な日になりそうな予感がしませんか。
みずみずしい果物とともに
大皿に盛った、ブドウや洋ナシなどに、さりげなくアサガオの花と葉と蔓を絡めて。けだるい朝の食卓が、それだけでふわっと柔らかくなりますよ。
ひんやりと涼しげな、花のグラス
ゴクゴクと飲み干したくなるほどの清涼感! なみなみと水を注いだグラスに、一輪と一葉を浮かべて。寝苦しかった昨晩の暑さが吹き飛ぶよう。
白いアサガオを浮き花で愛でる
水を張ったガラス器に、ふわり浮かせて。純白の花びらが、離れたり、引き寄せられたり…。傷つきやすい花びらも、浮き花にすれば長く楽しめます。
アサガオの姿を生かして、和のあしらいに
朝の訪れとともにパアッと開き、潔く閉じる花。1輪でも鮮烈な印象を残し、記憶に刻みたくなる花は、引き算の美学が息づく、和のあしらいがよく似合います。
器の片側に寄せ、余韻を響かせて
透き通るような青白磁の器に水を張り、中輪の朝顔2輪と蔓を挿して。花留めは、白い小石。水面に映る清らかな姿は、朝影と名づけましょうか。
特別な存在だから、一輪挿しに
まさに「この1輪、この美しき蔓の流れ」という理想の姿と巡り合えた喜びを、細身の青竹に。楚々とした開き具合のアサガオが雄弁に物語ります。
わっ、花火! 1輪で広がる、感動
花火のように瞬く1輪。誰もが見た瞬間、あっと驚くでしょう。変わり咲きが多彩にあるのもアサガオの魅力。浮き上がるように茎を長めに挿しています。
アサガオの野趣をそのまま勢いよく
茶色く色づき、夏焼けしたような葉さえも美しく。錆びた風情の籠に、蔓を絡ませて咲く、普段着のアサガオをいけてみました。どこか懐かしい景色です。
伸びやかに。アサガオで描く、さまざまな夏景色
器に迎え入れると、急に格の高さを感じさせる不思議な存在です。けれど、気おくれすることなく、日常の雑器やお気に入りの花瓶にいけて、夏のさまざまな景色を味わいませんか。
花も流れる、蔓の表情も絵になる
熱帯アメリカ生まれの空色アサガオ。塀などに絡まり、咲いている姿を、すらりとした脚長のフロートグラスにあしらいました。美しい命の躍動ときらめきを感じましょう。
土の匂いが似合う、夏の庭のアサガオ
幼き日の記憶のなかのアサガオ。上へ上へと蔓を伸ばし、花を咲かせる素朴さは、なぜか土の匂いを連想させて。3種類の豆を土に見立てて敷き、ニガウリの花と共演させました。
はかなくモダンで、愛おしい夏の花畑
無数の花びらを抱えるダリアと、ひと重咲きのアサガオ。咲き姿はこんなに違うのに、色のトーンを揃えたら、ほら、共鳴しあって! 違うからこそ引き立て合う、花のマジックです。
Credit
田中光洋
『プランツ トータル デザイン フォルム』主宰。
ドッグトリマーから転身し、花店でのアルバイトを経て、東京・西麻布でショップオーナーを務める。現在はフリーで活躍中。大人が楽しめる花のインテリア空間を提案している。和テイスト薫る独自のスタイルが好評で、ギフトやウエディングのほか、ディスプレイやスペースデザインも手掛ける。盆栽とフラワーアレンジを融合させた山野草盆栽は、その四季を通じた草選びやコーディネイトになごみ感があると、ファンが多い。
撮影・落合里美 構成と文・山本裕美
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