春を代表する花のひとつ、アネモネ。春の間だけしか手に入らない花ですが、押し花に仕立てて残せば、もっと長い期間楽しむことができます。押し花というと、四つ葉のクローバーを本に挟んで…というイメージから、薄く平たい葉っぱしか向かないような印象がありますが、そんなことはありません。水分を吸着する専用のシートが開発されてから、アネモネのような立体的な花を含め、いろいろな花を押し花にすることができるようになりました。そんな押し花の多彩な世界を、東京・原宿の花店『ザ・リトル・ショップ・オブ・フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)』の壱岐ゆかりさんに教えてもらいましょう。
目次
美しい仕上がりに注目!アネモネの押し花
さまざまな花のなかでも、アネモネは押し花に向いている花です。花びらのように見える色つきの部分は、じつはガク。ここでは便宜上、花びらと呼びますが、この花びらが薄くて柔軟性があるため、花をそのまま押し花にしても形がきれいに残るのです。美しく残るのは形だけではありません。押し花にしたアネモネには透明感があり、花びらが重なったところは色が濃くなってグラデーションがつくので、とても美しく仕上がります。花の下についているレースみたいな葉も、厚みがないため、整った形で押し花にすることができます。自然の咲き姿そのままを残すことができるのが、アネモネの押し花の魅力です。
アネモネの押し花を作るときに準備するもの
押し花作りには必要なものは下記です。
・アネモネ
・押し花シート *厚紙と薄紙が数枚セットになったもの
・厚手のボード2枚 *厚みのある本でも可
・ピンセット
・ハサミ
押し花作りの便利グッズ「押し花シート」
押し花シートとは、乾燥剤などを染みこませた押し花専用の紙で、いまや押し花作りには欠かせないものです。水分を効率的に吸収してくれるため、花が茶色く変色することが少なく、元の花色を残したまま短期間で押し花を作ることができます。いろいろなタイプがありますが、壱岐さんがいつも使うのは、厚紙と薄紙が2枚1セットになっているタイプ。薄紙は完成までそのまま使用し、水分を吸収すると、べたついてくる厚紙だけを交換していきます。こうすると、薄紙で花の形をキープしたまま、厚紙で水分を吸収することができるので、形を崩さず花の水分を抜くことができるのです。押し花シートは、インターネットや量販店などで購入することができます。
板は、花に均一に圧力をかけてくれます
厚手のボードは、上下から押し花を挟んで圧力をかけ、平面状に乾燥させるためのものです。電話帳や辞書などの厚みのある本で代用することもできますが、おすすめはやはり板。板のほうがより均一に圧力がかかるので、まっすぐできれいな押し花を作ることができます。壱岐さんは、写真のように板の四隅に穴をあけてボルトを通したものを愛用しています。「こうすると、ボルトを締めることによって簡単に強い圧力をかけることができるので、重い本を積み重ねたり、どかしたりする手間がかかりません。水分が抜けていくと、徐々に花の厚みがなくなるので、少しずつボルトをきつく締めていくのが早くきれいに作るコツです」。同じような仕組みのものは、「押し花プレス器」などの名前で市販されています。ボルトの代わりに、太いゴムをボードの両端にはめて留めるのもいいでしょう。
繊細な花の扱いにはピンセットが便利
花は、どんなタイプでも乾燥すると、花びらなどが取れやすくなります。繊細な花の扱いには、ピンセットが必需品。ここでは、完成したガーベラの押し花を取り出すときに、ピンセットを使います。
じつは簡単です。アネモネの押し花の作り方
押し花とは、花や葉を平面状に乾燥させたものを指します。このため、花や葉に含まれる水分を抜きながら、圧力をかけて作る必要があります。以前はアイロンを使う方法もありましたが、花の色褪せがひどいのでおすすめできません。花色をきれいに残して作りたいなときは、以下のような方法で作るのがいいでしょう。
① 1枚のボードの上に、押し花シートの厚紙を敷き、その上に薄紙を重ねます。
② ①の上に、1本ずつ重ならないようにアネモネを置きます。このとき、花が開いた形で押し花にしたいときは、右の白い花のように必ず、花の表面を下に向けて置いてください。このほうが、裏面を下にするよりもきれいに平面状になります。左の青い花のように、葉の分量が多いときは少し整理しましょう。花だけを押し花にしたいときは、花首で茎をカットして、花の表面を下に向けて置きます。
③ アネモネの上に、押し花シートの薄紙、厚紙の順に重ねます。
④ ③の上に、さらにもう1枚のボードを重ねます。ボルト付きのボードの場合はここでボルトを締めます。ボルトがない場合は、上から重い本などの重しをのせるといいでしょう。③のあとに画用紙など厚手の紙を挟み、さらに押し花シートを重ねて、たくさんの押し花を、いちどに作ることも可能です。
⑤ できあがりまで約3週間~1か月。できあがった押し花は、ピンセットで花の根元をつかんでそっと取り出します。
アネモネの押し花を作る際のコツと注意点
2枚重ねで使う押し花シートのうち、水分を吸う厚紙は、2日に1回(冬季は3日に1回でも可)は取り替えましょう。シートの吸水力には限界があるので、水分を吸ってベタベタになったシートをそのままにしておくと、乾燥が進まなくなったり、水分がしみ出したりしてしまいます。制作途中の押し花は、直射日光があたらず、湿気の少ない場所に置いてください。
茎つきの押し花を作るときは、作る前にしばらく花を水からあげておきましょう。水分が抜けて、花の根元がしなやかになったところで作ると失敗しません。水がしっかり花まで行き渡り、茎がピンとしているものを使うと、花を下向きにしてプレスしたときに花の根元で茎が折れやすくなってしまいます。
アネモネは花びらが薄いので、わりと早く押し花になるのですが、色が劣化しやすいところがあります。保存には注意しましょう。
押し花は家にあるグッズでも制作できます
便利なグッズが増えた近年では、押し花作りは前述した押し花シートなどを使って作るのが一般的です。そのほうが、早くきれいにできるからです。便利グッズをまったく使わずに、お試しでアネモネの押し花を作ってみたい、という場合には、重ねた新聞紙や厚手の本を使って作ることもできます。
本を使う場合は、なるべく大きくて分厚いものを選びましょう。本を開いてティッシュを重ねて敷き、アネモネを置いて、さらにティッシュを重ねます。本を閉じたら上から何冊か重い本を重ね、しばらく置いておきます。このときも、時間が経つにつれ、花の水分が抜けていくので、ティッシュは何回か取り替えたほうがいいでしょう。
アネモネの押し花を、美しいまま保管する方法
押し花の保管は、外気に触れさせないようにすることが大切です。押し花にとっての大敵は、酸素、湿気、直射日光。これらは花の退色の原因になります。できあがったアネモネの押し花は、押し花シートに入れたまま、画用紙や新聞紙で上下を挟み、両端を太いゴムで留めておきましょう。その後、湿気の少ない風通しのいい場所にある棚などで保管してください。押し花が複数ある場合は、前述のように画用紙で挟んだ上で重ねて保管しても構いません。
インターネットなどでは、専用の押し花保管袋なども市販されています。湿気や酸素による劣化を防ぐための乾燥剤や脱酸素剤などもあり、保管はもちろん、額などに入れて飾る際に使うことができるので、活用してみましょう。
アネモネの押し花を簡単アレンジ! かわいい飾り方アイデア
アネモネの押し花を作ったら、ぜひ、いろいろな用途に使ってみましょう。押し花は保存がきくので、贈り物にも最適です。いろいろな花の押し花と組み合わせてもいいのですが、アネモネ自体に色や形のおもしろさがあるので、その魅力がシンプルに伝わる使い方をすると格好よく見えます。長く楽しむなら、酸素や湿気に触れにくくなる、フレームに入れて飾るのがいちばんです。
その1 アネモネの花1輪のフレームアレンジ
押し花にしたアネモネ1輪を、シンプルにフレームに入れました。濃い紫色の造形的な花芯、紫色~白のグラデーションになった花びら、薄紙のような葉っぱと、花の細部までじっくりと眺めることができます。フレームは、ナチュラルなテイストのほうが押し花と好相性。植物標本みたいで、おしゃれに仕上がります。
その2 アネモネのグリーティングフラワー
押し花のアネモネを、カード代わりにプレゼントに添えてみませんか。アネモネの押し花をカードに貼るのもいいけれど、こんなふうに茎つきのままの押し花アネモネをラッピングするなんて粋ですね。素敵に見せるポイントは、リボンと同じ色の花を選ぶこと。手間と時間をかけて作った押し花から、相手を大切に想うあなたの気持ちが伝わります。
その3 カラフルなアネモネのお花畑アレンジ
さまざまな色と大きさをしたアネモネの茎つき押し花を、フレームのなかにたくさん並べました。葉っぱをつけた自然な咲き姿で、茎先をすべて茶色いウッドフレームの下辺に揃えてみたら、庭にたくさんのアネモネが咲いているみたい! 壁に飾るとアネモネのお花畑に迷い込んだような気分になれます。
Credit
壱岐ゆかり
『ザ・リトル・ショップ・オブ・フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)』主宰。
インテリアショップやファッションプレスなどを経て、2010年に週末だけのフラワーショップを東京・代々木上原にオープン。2013年に東京・原宿に移転。花をもっと日常的に楽しんでもらいたいというコンセプトから、日々のちょっとした花贈りをはじめ、展示会やパーティの装花、結婚式の装飾・演出まで、花をプロダクトと捉えたアレンジなどを独自のスタイルで展開している。
http://www.thelittleshopofflowers.jp/
https://www.instagram.com/thelittleshopofflowers/
撮影・村瀬雅和 構成と文・高梨奈々
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