丈夫で耐寒性が強く、植えっぱなしでも毎年、早春に咲いてくれるムスカリ。ブルー系の涼しげな色合いはどんな植物とも相性がよく、寄せ植えやガーデニングに重宝する秋植えの球根植物です。とはいえ、ムスカリを丈夫に育てるには、土作りや定植がとても大切です。ムスカリに適した土作りについて、NHK『趣味の園芸』の講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ムスカリを育てる前に知っておきたいこと
ムスカリは丈夫で耐寒性に強く育てやすい、初心者におすすめの秋植え球根植物です。日当たり、水はけのよい場所を選んで植えつければ、植えっぱなしでも毎年咲きます。
ムスカリの基本データ
学名:Muscari
科名:キジカクシ科(ヒヤシンス科、ユリ科に分類される場合も)
属名:ムスカリ属
原産地:地中海沿岸、南西アジア
和名:葡萄風信子(ブドウフウシンシ)
英名:Grape Hyacinth
開花期:3月~5月中旬
花色:ピンク、黄、白、紫、緑、複色
発芽適温:10℃
生育適温:−5~15℃
切り花の出回り時期:11~4月
花もち:10日前後
球根植物であるムスカリは、鉢植えや地植えはもちろん、水栽培でも楽しむことができます。
花色はブルー系が主流で、ピンクや白など。最近では、部分的に黄色が入った種類まで登場しています。ブドウの房のように咲く小さな花はベル形が一般的で、なかには筒状、羽毛状の花を咲かせるユニークな品種も存在します。
ムスカリを一躍有名にしたのは、オランダのキューケンホフ公園。大木の下に植えられた色とりどりのチューリップやスイセンの間に、青紫色のムスカリを川のように細長い区画に密植した、通称「ムスカリ・リバー」です。ブルーの絨毯のような美しさは、ムスカリの人気を高めました。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
植物が丈夫に育つための条件として、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた土が理想的です。ムスカリは特に、水はけのよい土を好む植物です。
土には、4つの大事な役割があります。
①植物を支える役割
②のびのびと根を伸長させる役割
③植物を順調に生育する役割
④開花させるまでの栄養分を植物に供給する役割
この4つの役割を果たすためには、土の中に適度な空気=酸素があることが重要です。根が常に水に浸かっている状態だと、根は窒息してしまい、「根腐れ」の原因にもなります。根の窒息を防ぐためには、空気を保ち、空気が通り抜ける空間を作る必要があります。根がしっかりと呼吸できるような状態を保ち、必要な栄養分を保っている土こそが、植物にとって理想的な「よい土」になります。この理想的な土の構造を、団粒構造といいます。
植物が育ちやすい「団粒構造」とは?
植物にとって理想的な団粒構造とは、小さな土の粒子が団子のように揃った状態を指します。この状態になると、粒子と粒子の間に根の呼吸に必要な空気の隙間ができるうえ、団粒の中や表面に養分を保つことができます。
団粒構造を作るために有効なのは、腐葉土や堆肥などの有機物です。この有機物が、土の中の有用な微生物の働きを活性化してくれます。また、誤って濃度の高すぎる肥料を施してしまったときにも、有機物が緩衝材としての役割を果たしてくれます。
団粒構造は、理想的な土の条件である通気性、排水性、保水性、保肥性をすべて満たし、植物の根を健やかに育ててくれるのです。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土にはさまざまな種類があり、植物の種類によって適した土は変わってきます。
初心者が鉢植えやプランターで育てる場合、数種類の用土がブレンドされている市販の培養土が便利です。用土を自分で混ぜて作る手間が省けるうえ、植物ごとの専用培養土が手に入ります。
一方、市販の培養土のなかには品質表示がなく、原料が分からないもの、品質に問題があるものも存在します。そこで自分でブレンドすることを踏まえ、用土の種類やそれぞれの特徴を知っておきましょう。
ここでは園芸店やホームセンターで市販されている、代表的な用土を紹介します。
【基本用土】
基本用土は鉢土のベースとなるもので、ブレンドの配合割合が大きい土。代表的なものは以下のとおりです。
黒土
有機質を多く含む、軟らかい土です。保水性に優れる一方で、通気性、排水性が悪いので、腐葉土などを混ぜて使用します。また、酸性なので、石灰類などで酸度を調整することが必要です。
赤玉土
赤土を乾燥させ、粒の大きさごとに分けた土です。通気性、排水性、保水性、保肥性に優れ、基本用土としてもっとも多く使用されています。鉢植えには、小粒か中粒を選びましょう。
鹿沼土
有機物をほとんど含まない酸性土です。通気性、保水性に優れ、水を含むと薄黄色が黄色に変わるため、水やりのタイミングがわかりやすいという利点があります。購入の際は、みじんの少ないものを選ぶのがポイントです。
【改良用土】
上記の基本用土に改良用土を混ぜることで、通気性、排水性、保水性、保肥性を調整することができます。改良用土には有機質と無機質があり、目的によって使い分けます。
腐葉土
改良用土の代表種で、広葉樹の落ち葉を腐熟させたものです。通気性、保水性、保肥性に優れ、土中の微生物を活性化してくれます。腐熟が未熟なものは、根を傷める原因にもなるため、しっかり完熟したものを選びましょう。マツなどの針葉樹の葉が入っているものは、油脂成分が多いため避けたほうが無難です。
ピートモス
湿地の水ゴケ類などが堆積し、泥炭化したものです。腐葉土に似た性質があるものの、微生物を活性化する力が弱いという難点があります。基本的に酸性ですが、石灰を加えて中性に調整した製品もあります。
堆肥
わらや落ち葉、枯れ草などを腐熟させたもので、通気性と排水性をよくする働きがあります。腐葉土よりも有機質の肥料分が含まれていて、花壇や畑の用土に最適です。
【調整用土】
バーミキュライト
蛭石(ひるいし)を高温処理し、膨張させたものです。通気性、保水性、保肥性に優れ、非常に軽いのが特徴です。粒子の細かい重い土との相性はよくないので、ピートモスやパーライトと一緒に鉢植えやハンギングバスケットに使います。
パーライト
真珠岩を細かく砕き、高温高圧処理した人工砂礫です。通気性、排水性に優れ、非常に軽いことが利点です。粒の大きさが各種あるほか、粒の丸いタイプと四角いタイプがあります。主に鉢植えに用います。
元気に育てるための、ムスカリの土作り
ムスカリは丈夫な植物ですが、より元気に育てるには水はけ、水もちのよい土壌を選ぶことが大切です。用土は市販の培養土をそのまま使うか、または赤玉土7、腐葉土3の割合で配合したものに、緩効性化成肥料を混ぜ込んでおきます。
また、ムスカリは、弱アルカリ性の土を好みます。事前に市販の土壌酸度測定液などを使い、植える場所の土のpH(水素イオン指数)を調べてみましょう。
土の酸度を弱アルカリ性に整えるには、苦土石灰を適量混ぜて、pH調整を行います。鉢植え、地植えともに調整が必要になります。
pHを1上げるために必要な苦土石灰の量は、鉢植えの場合は10ℓの用土に約10g、地植えの場合は1m²当たり約200g(深さ20cmまでの土壌に混ぜる場合)を目安にします。
ムスカリの、植え替えの時期と頻度
植物を鉢で育てたり、種から育てたりした場合は、植え替え作業(定植)が必要です。植物によっては根が枝分かれし、大きく育つため、定期的に植え替えを行います。
一方、ムスカリは球根から育てる植物で、3年ほどは植えっぱなしでも問題ありません。3年にいちど、球根を掘り返して分球し、このときに植え替えを行います。適した時期は、11月上旬~中旬です。
ムスカリの球根は、3年くらいは植えっぱなしでも大丈夫ですが、2年目以降は9月頃から葉が長く伸び始め、花が小さくなります。見栄えが悪くなるので、できれば球根は、毎年堀上げて分球して植えつけるのが理想的です。
土のほか、植え替え時に準備したいもの
ここでは、ムスカリを植え替えるときに必要なものをまとめました。事前に以下のものを用意しておきましょう。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするムスカリの球根
・肥料
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
・ラベル
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・ひと回り大きなサイズの鉢、またはプランター
・鉢底ネット
・鉢底石
ムスカリは乾燥に強く、過湿に弱い球根植物です。過湿により球根が腐ってしまうことがあるため、鉢は吸水性、通気性のあるものを選びます。
素焼き鉢は、表面が多孔質のため、通気性、吸水性、排水性に優れ、余分な水分が蒸発しやすく、水はけのよさを好む植物にはぴったりです。
古紙をリサイクルした紙製鉢は、通気性、排水性ともに素焼き鉢よりも優れているうえ、エコロジーの観点からも注目されている商品です。一方、耐用年数は1年~1年半と限られ、高温多湿の環境では劣化が早まります。
ほかにもホームセンターや園芸店には様々な鉢が出回っているので、育てる環境に合わせて比較検討してみましょう。
ムスカリの植え替え方法が知りたい
必要なものが揃ったら、植え替えを行います。実際、ムスカリをどのように植え替えるのか、手順を紹介します。
鉢植えの場合の手順
①鉢に鉢底ネット、鉢底石を入れておきます。
②培養土、もしくは赤玉土7:腐葉土3の割合で混ぜ込んだ新しい土を鉢に入れます。
③15㎝くらいの5号鉢に対し、5~7球の球根を並べて植えます。球根の頭部が3~4mm出るようにして植えると、葉が寒さによって短く硬くなり、コンパクトな草姿で花を咲かせることができます。
④植えつけ後は水をたっぷりと与え、日当たりのよい所に置き、葉がかたく小さく育つようにします。
地植えの場合の手順
①植えつける前に、土壌を弱アルカリ性にするため、pH調整を行います。20~30㎝ほど掘り起こした土に、苦土石灰を適量混ぜておきます。
②土の準備ができたら、深さ4~5㎝のところに10㎝ほど間隔をあけて植えつけていきます。このくらい密植したほうが、花が咲いたときの見栄えがよくなります。
③球根の上に2~3㎝ほど土をかぶせます。このとき、土を押さえつけないようにします。
④植えつけ後は水をたっぷりと与えましょう。
植え替えをするときの注意点を知っておきましょう
球根の上に土をかけるときは、ギュウギュウと力を入れて押しつけると、土中の空気が抜けてしまいます。球根が安定する程度に、そっとやさしく押さえましょう。
ムスカリは、耐寒温度が-10~―15℃と定植場所により多少異なりますが、非常に寒さに強い植物です。ただし、日当たりのよい場所での管理が必要。日光が少ないと茎がひょろ長くなり、花つきが悪くなります。花つきをよくするためにも、鉢植えの場合も日光にしっかり当てるようにしましょう。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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