気持ちがポジティブに変化! オフィス向け「園芸セラピープログラム」を実施

Hawk777/Shutterstock.com
皆さんは仕事でストレスを感じていますか? どんなにやりがいのある仕事でも、どんなに人間関係が良好と思っていても、知らず知らずのうちに人はストレスをためてしまっているもの…。そんな現代人のストレス緩和を目指し、この度、園芸学部を有する千葉大学が、企業における「園芸セラピープログラム」を実施しました。3カ月にわたって行われた同プログラムの内容や、実施後の効果などについて、千葉大学園芸学研究科・岩崎寛准教授の言葉とともにご紹介します。
目次
園芸セラピーとは…視覚だけでなく「五感で感じられる」プログラムでストレスケア
厚生労働省が実施した「平成29年労働安全衛生調査(実態調査)」(※)によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスになっていると感じる事柄がある労働者の割合は58.3%でした。
半数以上の人が何かしら「強いストレス」を感じていて、企業にもストレスチェックが義務化された現代、オフィスにおけるストレス対策が急務となっています。
そんな中、千葉大学園芸学研究科では、岩崎寛准教授を中心に、学生の研究の一環として、「勤務者のストレスケアを目的としたオフィス向け園芸セラピープログラム」を実施しました。
「園芸セラピー」とは、花や緑、自然とのかかわりを通して、人を癒やす取り組み。抑うつや緊張不安などの心理的項目の改善や、ストレスホルモンの軽減といった心身への効果が検証されている療法です。

この「園芸セラピー」を企業に取り入れ、社会問題となっているオフィスにおけるストレスやメンタルダメージの改善・予防の可能性を探る、というのが今回の研究の目的です。
「従来は緑を活用したストレス緩和としてオフィス緑化を進めてきましたが、維持管理や、オフィスの規模、レンタルオフィスなどの問題で、なかなか緑化ができない企業も多く見られます。
さらに、園芸療法という視点からは、オフィス緑化の“視覚的効果”だけではなく、園芸プログラムとして植物をより“五感で感じる”ことが有用だと考えました。そこで、オフィスに園芸セラピープログラムをデリバリーするという発想に至ったのです」(岩崎准教授)
※労働者調査:調査客体数 17,630 有効回答数 9,697 有効回答率 55.0%
簡単で楽しい! 「園芸セラピープログラム」の内容と期待される効果

今回、園芸セラピープログラムを実践する企業の一つに選ばれたのが、ガーデン・エクステリア関連のさまざな商材を開発・販売する株式会社タカショーの東京支店。月に一度のプログラムを3カ月間行い、約20名の従業員が参加しました。
各プログラムの所要時間は、前後のアンケート記入時間を含めて30分ほど。3回にわたり、「豆ハンガー」、「ハーバリウム」、「ハーブ石鹸」の3つの作品作りを行いました。
「いずれも、屋内で実施できる内容を選定しました。豆ハンガーは、普段スーパーでは見ないような珍しい豆を10種類以上用意することで、植物自体に興味を持っていただき、また豆の触り心地を楽しんだり、指先を使うという目的もあって選びました。
ハーバリウムは、今流行のアイテムなので、若い人にも関心を持っていただけるかな…と。作品は机の上に飾っておけば、会話のきっかけにもなると考えました。
そしてハーブ石鹸は、ハーブの香りを楽しめること、さらには石鹸素地をこねることでストレス発散にもなること、でき上がった物が普段使いとして利用できるという理由で選びました」(岩崎准教授)
なお、参加者は、作品作りの前後に、「印象評価(VAS)」と「感情評価(POMS)」という2種類のアンケートに回答します。その時の自分の気持ちを直感的にとらえ、当てはまるレベルにチェックを入れていくものです。
「印象評価(VAS)」では、アナログスケールを用いて、心理状態を主観的に表現させることで、プログラム実施による心理的効果を主観的に測ることができます。

一方、「感情評価(POMS)」からは、抑うつ、落ち込み、敵意、疲労 といったネガティブな感情、および活気といったポジティブな感情の状態が測定できます。

「勤務者の方々が、実際に植物に触れることで、落ち着いたり、リフレッシュすることを体感していただき、普段の生活の中にも取り入れたり、プログラムを通して、普段接することが少ない他部署の人たちとのコミュニケーションにも繋がれば、との期待を込めてプログラムを実施しました」(岩崎准教授)
「園芸セラピープログラム」実施レポート
タカショー東京支店にて行われた「園芸セラピープログラム」の様子をご紹介しましょう。
一回のプログラムの参加者は5〜6名。同じ内容が1日に3回にわたって行われました。
第1回目:豆ハンガー作り

用意されていたのは、小豆、大豆をはじめ、とら豆、紅絞り豆、鞍掛豆(くらかけまめ)、パンダ豆、緑豆(りょくとう)など、普段は目にしないような珍しい色や模様の豆18種類。

透明なチューブに、綿、アイスランドモス、好きな豆を交互に好みの配分で入れていき、最後に円にして紐をつけて完成です。

とても簡単にできるのですが、色や量の配分など、センスが問われます。参加者は、互いの出来具合を探り合いながら、作品作りに励んでいました。

第2回目:ハーバリウム作り

第2回目は、昨今人気のハーバリウム作り。用意されていたのは、メインとなるラベンダーとケイトウ科のシャロン。そして差し色やアクセントとして使うカスミ草、アイスランドモス、小花のドライフラワーです。

仕上がりのデザインを考えながら、素材をピンセットで丁寧にボトルに入れていきます。

最後にオイルを入れ、フタをして完成。
オイルを入れた後はやり直しができないので、その前に、どのような順番で、どう配置するかが重要です。思った位置に花が収まってくれないなど、皆さん試行錯誤しながらも、それぞれに個性が出る作品に仕上がっていました。

第3回目:ハーブ石鹸作り

最終日はハーブ石鹸作り。用意されていたのは、ローズマリー、ラベンダー、ミントの3種類のハーブと石鹸素地、精油やはちみつ。ハーブは、千葉大学のキャンパスで採取された新鮮なもので、この中から、好きなハーブ1種類を選びます。

ハーブを手でちぎってカップに入れ、熱湯を注ぎ、熱や香りが漏れないように手でフタをしてしばらく置きます。

茶こしでこして、抽出液をビニール袋にとったら、石鹸素地を加えてよくもみます。なめらかになったら、練り込み用のハーブをちぎり、精油とはちみつとともに加えます。

再びよくもんで、よく混ざり合ったら、ビニールから出して、手で好きな形に整え、穴をあけて麻ひもを通して完成。
成形する際に石鹸成分が手についたので、そのまま手を洗ってみたところ、肌がしっとりスベスベに! よい香りに包まれて、笑顔いっぱいでプログラムは終了しました。
石鹸は、この後2週間ほど乾燥させてから使い始めするのがベストだそうです。

実施前後の違いは…? 効果を検証
プログラム実施中、参加者の間では会話がはずみ、笑い声もあがり、互いの作品にコメントし合うなど、終始和気あいあいとした雰囲気に。たったの30分でも、プログラム終了後には、皆さん達成感を味わったようなすっきりとした表情が見られました。
実際の数値的な結果はどうだったのでしょう…。

前述したとおり、参加者は、プログラム前後に2種類のアンケートに回答しましたが、このうち、第2回目のハーバリウム作り実施時の「印象評価(VAS)」の結果を見せていただきました。

「気分」「ストレス」「集中力」「疲労感」の4項目ともに、園芸プログラム実施後の線が実施前と比べて「最良の感覚」に大きく近づいているのが分かります。
「この結果から、実施前にはネガティブだった感情が、実施後にポジティブに変化したということがいえます」(岩崎准教授)
「園芸セラピープログラム」でストレス予防効果に期待
ストレスチェックの実施は、50人以上の従業員がいる職場で義務化されていますが、実際にストレスがあった場合に、産業医に相談するという対策がメインで、なかなか事前に予防する手段までは取り入れられていない企業が多いのではないでしょうか。
「ストレスの“予防”という発想から、このような園芸セラピープログラムの導入は、今後、社員のメンタルヘルス対策として重要になると思います。また、このような施策を導入することで、企業としての健全性のアピールにもなるかと思っています」(岩崎准教授)
職場にいながら、少しの間でも仕事から離れ、自然と触れ合い、人と笑い合ったりすることの癒やし効果は計り知れません。
今回のプログラムは、大学の研究の一環として行われましたが、今後こういったストレス解消、メンタルヘルスの不調予防につながる施策を取り入れる企業は増えていくのではないでしょうか。
Credit

取材協力/岩崎 寛(いわさき ゆたか)
千葉大学園芸学研究科環境健康学領域長、博士(農学)。京都市出身。(一社)ガーデンセラピー協会理事、日本緑化工学会理事、園芸療法学会理事・学会認定登録園芸療法士。
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