古くから、人々の心をとらえて離さない魅力を持った花、バラ。その歴史は古く、流行によってさまざまな花色や花形、性質を持ったバラが生まれてきました。それでは、“今”流行中、または流行しそうなバラはどんな花でしょう? 京阪園芸の小山内さんに、今オススメのバラを10種ご紹介していただきます。

変遷をたどるバラの流行

古く紀元前から人々に愛されてきた花、バラ。古代エジプトの女王、クレオパトラなど、数々の歴史上の人物をも魅了してきた花です。この遥か昔のバラは、現在のバラとは違い、花びらが少なくひらひらとした姿がほとんどを占めていました。

この当時、バラに一番求められていたのは「香り」で、都市近隣で香りのあるバラを栽培されるほど愛されていたようです。近年、バラの香りは、女性ホルモンによく似た構造を持っていることが知られていますが、バラの香りを嗅ぐと、女性特有の不調を改善すると言われています。そのため、遥か昔よりバラの香りに惹きつけられたのも、多くが女性だったといわれています。

ナポレオンの妻、ジョゼフィーヌもバラに魅了された女性の一人です。さまざまな国からたくさんのバラを取り寄せ、イギリスとフランスが敵対していた時でも、敵国だったイギリスから危険を冒してまでバラを手に入れたといわれています。ジョゼフィーヌの生きた時代は、四季咲きバラもたくさん西洋にもたらされるようになった時代で、以降、交配により四季咲き性のもった多種多様なバラが誕生してゆきました。「マルメゾン宮殿」の宮廷画家、ルドゥーテが著したバラ図譜には、当時宮殿に集められたバラが明確に描かれており、今なおバラ愛好家の人々に愛される花姿を称えています。

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時代が下り、1900年前後からバラは豪華に咲く、大輪の四季咲きバラ(ハイブリッド・ティ・ローズ)が世界中で主流になってゆきます。そして第二次世界大戦以降になると、切花用バラの生産・需要の高まりとともに、更なる美観として花弁の先が尖る美しいバラ「剣弁咲き」の流行が始まりました。

第二次世界大戦後、日本でも経済の復興とともにハイブリッドティーローズが盛んにつくられるようになり、高度経済成長期には、花首がしっかりと太く、大輪で、見るだけで元気が出るような色合い。そして花持ちが良く、いかにもバラらしいバラが人気を博しました。とりわけ「剣弁咲き」の赤いバラの流行は長く、平成の世になるまで続くこととなります。

この時代になると、ルドゥーテが描いたような、ふわふわとした花姿のやさしい色合いのバラなどは、ほとんど見向きもされることはありませんでした。

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平成になり、しばらくして日本にバブルの崩壊とともに景気が低迷するようになると、人々の機運も変わり、情熱的で主張の強いバラは、次第に好まれなくなっていきました。代わって求められ始めたのが「オールドローズ」。今までの流行の真逆をいくような、花弁が丸く、ピンクや白などやさしげな色合いが基調で、香りがあり、枝も細めというルドゥーテのバラ図譜で描かれた貴族に愛されたバラでした。

そこから数年して、イングリッシュローズが英国ブームとともに人々の話題を集めることとなります。イングリッシュローズはオールドローズの花形をしていながら、四季咲き性の品種が多く、また花も大きく、やさしい花色ながらバリエーションがあり、そしてオールドローズより丈夫なことが人々の心を惹きつけてゆきました。ちょうど同じ頃に大流行し、バラブームの火付け役となったバラには、白にほんのりピンクが差す大輪咲きの‘ピエール・ドゥ・ロンサール’があり、豪華さもある優しげな印象のつるバラです。

そして現在、多くの人に求められているのが「五感で楽しめる」バラです。かつてのように遠くから眺めるだけでなく、思わず近寄って、間近で眺めたくなるような繊細で愛らしい色合い、時間とともに花色が移ろうなど、「生」が感じられ、なにより香りのよいバラが、今人気の特徴です。近くに寄って、触れば触るほど、その魅力が分かり愛されるようなバラです。そして、手を掛けなくても育ち、つぎつぎに咲かせてくれる丈夫さも重要なポイントです。

バラはこれからも人々に愛されて進化してゆく植物。きっと理想のバラにも出会える時がくるとおもいます。

流行のポイントを押さえたオススメ品種

いま流行しているバラの特徴は主に以下の5つ。

・香りがよいバラ
・中間色の柔らかい色合いのバラ
・咲き進むにつれて色が移ろったり、2色になったりと、刻々と変化が感じられるバラ
・栽培しやすく丈夫なバラ
・四季咲き

これらのポイントを押さえた人気品種や、今後流行しそうなオススメ品種をご紹介します。

最強のピンク系大輪品種
‘ビバリー’

ピンク系の大輪品種の中で、最強をうたわれているバラが、この‘ビバリー’。現代でも最も強いバラの一つで、無農薬でも十分に栽培でき、剪定をしてもしなくても10㎝ほどの大輪花が咲くほど丈夫で栽培しやすいバラです。たとえ病気になったとしても、病気で葉が落ちるよりも新たな葉を出すほうが速いほど強健です。四季咲きで、年4回大きな花を楽しむことができます。ドイツ・コルデス社作出。

草花にも合わせやすい藤色のバラ
‘ノヴァーリス’

藤色系のバラの中でも、最も強い品種として挙げるならこの‘ノヴァーリス’。藤色のバラは、白やピンクのバラだけでなく、赤いバラや宿根草などとの相性もよく、ガーデンでは最も使いやすい便利な花色。かつての藤色品種は、他の花色に比べてやや性質が弱く、葉がすぐに落ちてしまうものが多かったのですが、‘ノヴァーリス’は病気にも寒さにも強い栽培しやすいバラ。太平洋側などの極端な暑さにも耐えますので秋も豪華に咲きます。冷涼なドイツ生まれなので、涼しい地域では一株植えて損はない品種です。

シャクヤクにも似た花姿
‘ホリデー・アイランド・ピオニー’

最近のバラの流行傾向に見られるのが、バラだけが持つビジュアルというより、他の植物にも似た花姿で咲かせる中性系のバラが人気であること。シャクヤクやラナンキュラスに似たバラなどが次々に登場しています。この‘ホリデー・アイランド・ピオニー’もシャクヤクのような雰囲気のバラ。今後流行しそうなバラの一つです。香りがよく、白地にピンクがのるふわふわとした豪華な花を、あふれるように咲かせます。

珍しい緑系の花を咲かせる
‘わかな’

切り花では、ブライダルの際に需要が高い緑系のバラ。ですが、ガーデンで育つものはあまりありません。この‘わかな’は、その珍しい緑系の品種で、中心に向かって白く、外側が緑色の大輪のバラです。他に類のない爽やかな色合いで、ガーデンでも切り花としても楽しめます。珍しい色合いなので、バラを初めて買う人よりも、既にバラを育てていて、新しい品種を育ててみたいガーデナーにとって人気が高く、ロングヒットを続けています。

ひらひらとした花弁が特徴の
‘シェエラザード’

花弁がひらひらと切れ込み、まるでカーネーションのような花姿を持つバラ。トゲが少なく、年4回、一枝に房になって咲き、香りが非常にフルーティーなのが特徴。ややドワーフでコンパクトに育ち、眺めやすい高さでよく咲いてくれます。鉢でも育てやすく、地植えの際には手前に植えると、鮮やかなフォーカルポイントとなります。

秀逸な香りを持つ美しいバラ
‘薫乃’

10年ほど前に登場したバラですが、現在に至るまで人気の高いバラです。つぼみはクリーム色で、咲くにつれてアプリコットのふんわりとした色合いになり、そしてすっと薄まって終わりを迎える柔らかな印象のバラです。名前からも想像がつく通り、顔を近づけると、とても上品な香りが漂います。文字を見るだけでも花のストーリーが浮かんできそうなのも人気の秘密でしょう。触れば触るほど魅力が分かるようなバラです。

まさに‘香り飾る,華やかな香りバラ
‘かおりかざり’

温暖な地域では、まだ敬遠されがちな色がオレンジ系ですが、近しいながらアンズ色の色彩を持つバラはとても人気があります。この‘かおりかざり’も優しいアプリコットピンクの流行のある花ですが、人気の秘密は何といってもその香りの芳醇さ。花を飾るというよりも、まるで香りを飾っているかのようなことから、この名がつけられました。花を実際に見たことがなくても、自然とイメージが膨らむ名前で、多くの人に手に取られる人気品種です。

カーネーション咲きの藤色のバラ
‘リベルラ’

まるでカーネーションのように波打つ花弁を持ち、代表的なバラの香り「ダマスク」とは異なる、マスカットのような香り。ライラック色の美しい色合いが房になって咲かせます。名前の「リベルラ」は青トンボのこと。藤色のバラは青に見立てられて名付けられることが多く、このバラもブルーの羽を持つ遠く異国のトンボになぞらえて名付けられました。

黄色のバラで香りがよい
‘れもん’

2017年に作出された新品種‘れもん’。レモンを思わせるような爽やかな黄色のカップ咲きのバラで、どこかフリージアに似た香りを漂わせます。黄色いバラで香りがあるものは少ないのですが、その中で ‘れもん’は、親の性質をよく引き継いでいるため、黄色では珍しく香りがあります。年4回咲かせる注目の品種です。

シックな茶系のバラ
‘マロン’

優しく個性的な色合いが目を引く茶色系のバラです。一見やや地味な感じがするも、この色が入ると、差し色として互いが引き立ちます。茶色系は他の国では評価されにくい花色ですが、日本では人気が高いバラ。 ‘マロン’は、弱さが改善された品種で、春から秋深まるまでシックな色の花を咲かせてくれます。

ノスタルジックな印象のバラ
‘はいから’

クリムゾンレッドの花を咲かせる‘はいから’。同じ赤でも、スカーレットなどの鮮明な赤ではなく、ダークな色彩が大人っぽく、とても人気の高いバラです。咲き咲き終わる頃には黒っぽい色彩へと移り変わります。花径8㎝くらいのディープカップ咲き。コンパクトに生育し、濃厚なダマスク系の香りを持ち、株が充実してくると房咲きになる、育て甲斐のあるバラです。

Credit

写真&解説/小山内健
大阪の総合園芸会社「京阪園芸」に所属し、「バラと遊ぼう」を合言葉に初心者にもわかりやすいアドバイスでバラファンを増やしている。バラの育種や品種保存を行う傍ら、テレビ出演や講演会・講習会、執筆などバラに関わって28年。オールドローズから近年の海外作出バラなど、あらゆるバラに精通している。2017年には20年ぶりに自身が育種した新品種を発表する。
「京阪園芸」 https://keihan-engei.com/

文/3and garden