かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志 -バラ育種家-

かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志 -バラ育種家-の記事
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育て方
バラの専門家が教える! バラにつく厄介な害虫・カイガラムシの対策
カイガラムシとは? カイガラムシには多数の種類があり、そのうちの数種がバラに被害を及ぼします。もっともよくみられるのが、バラシロカイガラムシという種類で、成虫は米粒以下の丸い貝殻状の姿をし、幼虫は細長い形をしています。幼虫は移動ができますが、成虫は移動できません。繁殖力が非常に強く、少しくらいなら大丈夫と思っていると、瞬く間に枝が真っ白になってしまいます。カイガラムシは雨の当たりにくい環境や、風通しの悪い場所では特に発生しやすく、ベランダでの栽培でしばしば問題になります。 カイガラムシは何もないところから突然自然発生することはありません。多くの場合、苗にくっついていてそれを持ち込んでしまったり、隣近所の株から移ってきます。分かりやすい害虫なので、苗購入時には害虫が発生していないかをよく確認することが大切です。 細長い白いツブツブがカイガラムシの幼虫。 成虫になると、薄く平べったい姿に変化。手足は退化し、動かなくなります。 カイガラムシの対策 バラのカイガラムシ対策は、冬の剪定時に行うのがオススメです。剪定後の株は、枝の量が一年で最も少なく、葉がないことは害虫を見付けやすくなり、また薬剤をスムーズにかけることもできます。剪定の方法については、『バラの専門家が教える! 鉢植えで育てるバラの剪定方法』をご覧ください。 <用意するもの> ・歯ブラシ(かため)・カイガラムシ退治用のスプレー・農薬用マスク・手袋 歯ブラシはかためのものを使います。古くなったものなどで十分です。ただし、金ブラシなどを使用すると、枝が傷ついてしまうことがあるので避けましょう。 まずは移動できない成虫を歯ブラシを使って枝から掻き落とします。落ちた成虫は移動できないためそのまま枯死してしまいます。カイガラムシがよく潜んでいる場所は、枝の股の部分や樹皮の下(樹皮は剥いでしまっても問題ない)、誘引紐やラベルの下などです。カイガラムシを1匹見つけたら、絶対にいろいろな箇所にいると思って徹底的に調べてください。株全体を注意深く観察し、見落としがないようにブラッシングしましょう。 カイガラムシをブラシで落としたら、カイガラムシ退治用スプレーを株全体にかけます。ここで使用したのは「カイガラムシエアゾール」。手軽に使えるジェット噴射でしっかりと噴霧でき、季節を選ばずに使用できます。「カイガラムシエアゾール」/住友化学園芸 https://www.sc-engei.co.jp/guide/detail/1426.html スプレーをする際には、薬剤を吸い込まないよう農薬用マスクをつけ、肌を露出しない服装で手袋をはめて作業します。枝の裏側など、かけ忘れがないように注意しながら、株全体にしっかり散布しましょう。 これでカイガラムシ対策は完了。カイガラムシはいつの間にか大発生していることがあるので、こまめに株の状態を確認し、見つけたら掻き落とすなど早めに対処をすることが大切です。 カイガラムシと人間の意外な関わり Photo/Pere Rubi/Shutterstock.com カイガラムシの一種にコチニールカイガラムシという種類がいるのですが、この名前、どこかで聞いたことがないでしょうか? コチニールカイガラムシなど一部のカイガラムシが持つ色素化合物を取り出したものが、コチニール色素。染料や食品添加物として使用される赤色の色素です。濃厚な赤色を染めるための染料として古くから重用され、現代でも天然の着色料として、かまぼこなどの食品や化粧品の色素として使用されています。 Photo/liliya Vantsura/Shutterstock.com 酸性ではオレンジ色、アルカリ性では赤紫色を発色するこの色素は、かつてはリキュール「カンパリ」の着色料としても使用されていました。 日常生活では厄介者扱いされているカイガラムシですが、実は人間にとってとても有用な生物でもあるのです。 併せて読みたい
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樹木
晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】
バラの中には野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。 ローズ・ヒップの残し方 ローズ・ヒップを楽しむ場合は、花後に花がらを切らずに残します。‘バレリーナ’や‘桜木’、‘伽羅奢’など返り咲き性や四季咲き性の品種の場合、花がら切りをしないとローズ・ヒップは楽しめますが、一番花以降の開花がしにくくなります。花を優先するのか、実を優先するかの決断が必要です(数を制限して残すという選択肢もあります)。また小さな株を大きくしたい場合などは、結実させてしまうと養分を実に奪われるため、株がなかなか大きくなりません。この場合も成長を優先するのかの検討が必要です。 ローズ・ヒップが美しい品種の多くは成育が旺盛で、成株になったものは肥料を控えたほうが株は暴れにくくなります。少量の施肥で栽培することは同時に結実の安定化や、実が腐りにくくなるなどにも繋がる傾向があります。 秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するのがオススメです。 横浜の秋を彩るローズ・ヒップ 6.ロサ・ルクスブルギー・ノルマリス 中国に自生する野生のバラで、日本の富士箱根地域に分布するサンショウバラの近縁種。サンショウバラと外見上で共通する点も多いが、株はサンショウバラよりも小さく、高さ1mほどの中小型で自立するシュラブ。一重咲きの花はサンショウバラよりも花色が濃く、紫色を含んだ桃色で大きくよく目立つ。開花は主に春だが、時にその他の季節に返り咲くこともある。ハリセンボンのようなトゲのある実は黄色から淡橙色に熟し、観賞価値が高い。黒星病はほとんど発生することがなく、病気に強く育てやすい。流通量は多い。本種の八重咲きの個体はイザヨイバラ(ロサ・ルクスブルギー)として知られるが、こちらは結実しにくい。 7. ‘メアリー・クイーン・オブ・スコット’ ハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)の品種で、やわらかな印象の葉、細くしなやかな枝ぶりなど野趣のある姿がとても魅力的。枝は弧を描くように伸長し、樹高1m以下の小ぶりなシュラブに成育する。花は淡めの桃色の小輪一重咲きで、主に一輪咲きだが、花つきがとてもよい。他のバラに先駆ける極早生品種。赤く色づくローズ・ヒップはぶらさがるように実り、小さなクラブ・アップルのような印象。ハイブリッド・スピノシッシマ系の品種は夏に黒く熟した実がなるものもあり、これらは秋までもたないが、本品種は着色がやや遅く秋にも実を楽しめる。黒星病にも耐性があり、初心者でも育てやすい。流通量がやや少ない。 8.‘エアシャー・スプレンデンス’(‘スプレンデンス’) ロサ・アルウェンシスの交配種エアシャー系の品種で、ミルラの香りのルーツと考えられているバラ。同名異品種が多いことからしばしば最初に系統系である「エアシャー」を付けて‘エアシャー・スプレンデンス’と呼ばれる。淡桃色の中小輪の花は外弁が濃い桃色に染まり、色のグラデーションが美しくとても魅力的。小さいながらも整ったカップ咲きで、一輪もしくは数輪の房で開花し、中程度のミルラの香りがある。実はオレンジ色に着色し、やや小さめ。枝は細くしなやかで、伸長力がとても旺盛で1年間に4m以上伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うことができる。樹勢は強いが、やや黒星病に弱いので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。流通量がやや少ない。 9. ロサ・グラウカ(ロサ・ルブリフォーリア) 赤みを帯びた美しいブルー・グレーの葉で知られるヨーロッパ産の野生種。花は小さく濃桃色の細弁の一重咲きで観賞価値はさほど高くはないが、たわわに実るローズ・ヒップは大変に魅力的で、ヨシノスズバラの名前で切り枝としても流通する。一季咲き。夏の高温多湿が苦手で、関東以西の平地ではやや脆弱な印象の成育だが、高冷地では立派な株になる。平均的な耐病性なので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。暑さの厳しい地域では西日を避けた場所などに植栽するとよい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・グラウカ。 10. ‘カルメネッタ’ ロサ・グラウカとハマナス(ロサ・ルゴーサ)の交配種で、全体の印象はロサ・グラウカによく似ている。葉は親同様に赤みを帯びたブルー・グレーだが、ロサ・グラウカに比べると葉色が淡く、花も一回り大きく、全体として雄々しくがっしりとした株姿になる。一季咲き。本品種は耐暑性もあり、関東以西の平地でも問題なく成育し、耐病性もロサ・グラウカよりも優れている。栽培性の点ではすべての点でロサ・グラウカを上回るが、その繊細さは失われている。株が大きくなってからは肥料を控えたほうが、株が暴れなくてよい。流通量はやや少ない。 春の花の季節の ‘カルメネッタ’。 ご紹介のローズ・ヒップの他にも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】』や『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。
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樹木
晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】
バラのなかには野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。 ローズ・ヒップのバリエーション 小さなローズ・ヒップは野鳥の餌にもなり、バード・ウォッチングを楽しみたい方にもオススメできます。しかし、ハイブリッド・ルゴーサ系(ハマナスの交配種)やハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)のように一部の種類は夏前に色づき、秋までもたないものもあるので、秋に楽しみたい人はこれらの種類は避けたほうがよいでしょう。 秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するとよいです。 一言でローズ・ヒップといっても、種類によってその形や大きさはさまざまです。球状の丸いものがあれば、細長いもの、洋ナシのような形のものまであり、中には実の表面にハリセンボンのような多数のトゲがあるものも。大きさは、小さなものでは直径5㎜程度、大きなものでは3㎝を超えるものもあります。色彩は主にオレンジ色で、熟度によって黄色→オレンジ→赤色と変化するものや、黄色のままで終わるもの、最初から赤く色づくものなどもあります。 横浜の秋を彩るローズ・ヒップ 1. ロサ・フィリペス‘キフツゲート’ 英国のキフツゲート・コート・ガーデンに植栽されていることで著名なバラで、野生種のロサ・フィリペスの一個体。非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上伸びるので、植栽場所を選ぶ必要がある。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、伸びるに任せて立ち木などに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、とても大きな房になって開花する。一季咲き。遅咲きで、花にはスパイス香がある。 実はオレンジ色でやや垂れ下がるような雰囲気でたわわに実る。ロサ・ムリガニーと特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、ローズ・ヒップの美しさでは本品種の方が一歩勝っている。樹勢が強く暴れやすい品種なので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、初心者でも育てやすい。流通量は多い。 2. ロサ・ムリガニー 中国~ヒマラヤ原産の野生種で、非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上も伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、植栽場所は選ぶ必要がある。伸長力を活かして、立ち木などに自然のままに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、広く流通している個体は花弁の先がハート型をしていて愛らしい印象。遅咲きで、円錐状の大きな房になって開花し、花にはスパイス香がある。一季咲き。 実はオレンジ色で、たわわに実るが、‘キフツゲート’のように垂れ下がることはない。‘キフツゲート’と特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、花そのものは本品種の方が優れている。樹勢が強く暴れやすいので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、育てやすい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・ムリガニー。 3. アルバ・セミプレナ(ホワイト・ローズ・オブ・ヨーク) アルバ系のオールド・ローズの代表品種で、同じく広く知られている‘アルバ・マキシマ’の枝変わりとされる(本品種の方が花弁の枚数が少なく、半八重咲きになる)。やや小ぶりの中輪花にはダマスク系の強い香りがあり、純白色の花弁の中心に黄金色のしべが現れる様は清楚でとても美しい。一季咲き。葉はブルー・グレーを帯びた色で、枝にはトゲが少なく、しっかりと自立して高さ2.5mほどの直立性のシュラブに成育する。秋にはオレンジから赤色にローズ・ヒップが熟すが、多肥状態だと結実しにくくなり、実も腐りやすくなる。成株は肥料を控え気味にしたほうがよい。黒星病に強く、悪条件に耐え、半日陰でも栽培しやすい。流通量は多い。 4. カロカルパ ハイブリッド・ルゴーサ系の品種で、ハマナス(ロサ・ルゴーサ)と庚申バラ(ロサ・キネンシス)の交配種とされる。花は桃色の中輪花で、数輪から大きめの房で開花し、花にはスパイシーな香りがある。一季咲き。ハマナスの特徴を引き継ぎ枝は鋭いトゲが多く、直立に伸長して高さ2m程度の自立するシュラブに成育する。花首がうなだれるので、実はぶらさがったように実る。黒星病に強いが、ハダニには注意が必要。挿し木苗や深植えした接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。流通量はやや少ない。 5. ロサ・ルゴーサ‘アルバ’(白花ハマナス) 日本に自生するハマナス(ロサ・ルゴーサ)の白花の個体で、よく目立つ大きなローズ・ヒップを実らせ、果肉は食用にもなる。花は一重の大きな白花で、早咲き。濃厚なスパイス香があり、開花すると周囲に芳香が漂う。返り咲き。枝は細かなトゲが多く、葉は皺が多く、やや野暮ったい印象。高さ1.2mほどの自立したシュラブに成育し、挿し木苗や深植えた接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。黒星病などにとても強く、全国で容易に栽培できるが、ハダニには注意が必要。流通量は多い。 ハイブリッド・ルゴーサ系の品種には本品種以外にも‘フラウ・ダグマー・ハストラップ’や‘スカブローサ’のようにローズ・ヒップの美しい品種が存在するが、いずれも真夏には着色してしまい、そのため秋までに腐ってしまうことが多い。秋にローズ・ヒップを楽しみたい場合は、二番花の実を残すとよい。 ハマナス(ロサ・ルゴーサ)は条件によってはアジサイの開花期には着色することもある。 6. ロサ・カニナ(ドッグ・ローズ) ローズ・ヒップ・ティーや接ぎ木用の台木に使用されるヨーロッパの野生種で、オレンジから赤色の実が鈴なりに実る。花はピンクの小輪一重咲きで、葉はマットな印象。一季咲き。シュートは弧を描くように伸長し、樹高2mを超える大型のシュラブに成育する。樹勢が強く暴れやすいので、栽培の際には肥料を控えたほうがよい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・カニナ。 ご紹介のローズ・ヒップのほかにも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】』や、『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。
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樹木
晩夏から秋のバラの楽しみ ガーデンで観賞する珍しいローズ・ヒップ
バラのなかには野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれます。特にナチュラル・ガーデンなどでは、その野趣のある姿が大いに活躍します。 私がガーデンを監修する神奈川の「横浜イングリッシュガーデン」では、30種を超すバラがローズ・ヒップを実らせますが、早いものでアジサイが咲く頃に、最盛期は10月上旬に色づき始めます。 ローズ・ヒップが実るバラをコレクションするのは、個人邸では限りがありますが、多種多様なバラを栽培する観光ガーデンでなら、実のつき方や株のボリュームなどと一緒にローズ・ヒップを観賞して楽しめます。また、市場では手に入りにくい品種のローズ・ヒップも見られますので、ぜひコスモスも咲くガーデンへ出かけてみてください。 ここでは、苗が入手しにくいローズ・ヒップをピックアップしてご紹介します。 横浜イングリッシュガーデンで観賞したいローズ・ヒップ5選 1.ロサ・ダブリカ(ヤマハマナシ) 日本に自生する野生種で、やや小ぶりの実が鈴なりについて人目を引く。実の色づき始める時期は比較的早いが、晩秋まで長期間楽しめる。花は桃色の中小輪の一重咲きで、早咲き性、一季咲き。シュートは直立に伸び、側枝はやや広がるように伸長し、高さ2m程度の自立したシュラブに成育する。ハダニにやや弱いが、黒星病に強く、初心者でも栽培しやすい。ローズ・ヒップがとても美しい品種だが、残念なことにほとんど流通していない。 春、花の季節のロサ・ダブリカ(ヤマハマナシ)。 2.ブルゴーニュ(ロサ・ペンデュリナ・ブルゴーニュ) ロサ・ペンデュリナの交配種で、しばしば‘ロサ・ペンデュリナ・ブルゴーニュ’とも呼ばれて流通する。特徴的な大きな細長い実が結実し、色の変わりゆく様も大変に魅力的。花は淡い桃色の中小輪一重咲き、一季咲き。シュートは弧を描くように伸長し、樹勢はやや強く、高さ1.5mほどのシュラブに成育する。黒星病にも強く、初心者でも育てやすい。流通量はやや少ない。 3. ドクター・ジャクソン イングリッシュ・ローズの一品種で、‘レッド・コート’の実生から誕生。スカーレットの中大輪一重咲きの花を多数咲かせ、華やかでよく目立つ。一季咲き。シュートは伸長力があり2.5m以上に伸び、株全体では高さ2m程度の大きめのシュラブに成育する。一般家庭では、つるバラとして扱うのに向いている。秋には洋ナシに似た形の大きめの実をぶら下げるようにつけ、存在感が強い。平均的な耐病性なので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。魅力的な品種だが、残念なことに流通量が少ない。 春、花の季節のドクター・ジャクソン。 4. シャロプシャ・ラス ‘コンスタンス・サプライ’、‘キャンティ’と共に、3つのファースト・イングリッシュ・ローズと呼ばれる。アルバ・グループの先祖となった品種で、ハイブリッド・ティー系の‘マダム・バタフライ’とアルバ系の‘マダム・ルグラ・ドゥ・サン・ジェルマン’の交配から誕生した。葉はアルバ系の性質を引き継ぎ、ブルー・グレーを帯びた色合い。花は淡い桃色を帯びた白色の大輪一重咲きで、花つきが非常によく、満開の時は見ごたえがある。一季咲き。トゲの少ない枝は比較的しなやかで、シュートは伸長2.5m程度で弧を描くように伸び、株全体では高さ2mほどの大ぶりのシュラブに成育する。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向く。秋には大きめの実を多数つけ、とても美しい。平均的な耐病性なので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。歴史的な品種だが、流通量が少ない。 春、花の季節のシャロプシャ・ラス。 5.ベイシーズ・ソーンレス(コマンダー・ジレット) ロサ・カロリナ系の品種で、その名の通り枝にトゲがない。枝葉はやや繊細な印象で、シュートは弓状に弧を描くように伸長し、高さ1mほどのシュラブに生育する。花は桃色の中小輪の一重咲きで、大きめの房になって開花する。オレンジ色のローズ・ヒップはよく目立ち、鈴なりにぶら下がるようにつく。黒星病耐性がとても強く、初心者でも栽培しやすい。非常に優れた品種であるが、流通量がやや少ない。 ご紹介のローズ・ヒップのほかにも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】』や『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】』も併せてご覧ください。
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樹木
バラの咲き方「クラシック」タイプの花形の魅力【バラの専門家が解説】
花びらが豪華に重なるクラシック・タイプのバラ 90年代以降広く認知されるようになり、現在の主流となっている花形です。花弁の枚数は20~80枚程度まで差がありますが、概して整形タイプより花弁の枚数が多いのが特徴です。株に力があると同様に花弁の枚数が増える傾向がありますが、品種によっては開ききれなかったり、奇形になってしまうものもあります。一枚の花弁の形や花弁の幅は一重咲きと同様にさまざまで、浅く波を打ったような華やかな印象のものも存在します。これらの花形は整形タイプと異なり、ある程度開いた状態で最も鑑賞価値が高くなります。 花を横から見た時に平たく、外側の花弁ほど大きく、中心に近づくほど小さくなりながら整然と配列している咲き方を、ロゼット咲きといいます。ロゼット咲きの中でも花心が数個に割れているものを、クォーター・ロゼット咲きと呼び、中心に緑色になるものをグリーン・アイ、中心付近を花弁が抱えるようになるものをボタン・アイなどと呼びます。ロゼット咲きの花には、咲き始めはカップ咲きに近く、開くにつれてロゼット咲きに変化するものもあり、気温が低い条件ではよりカップに近い花形になる傾向があります。 代表的なクラシック・タイプのバラ ‘イエロー・ボタン’ 典型的なロゼット咲きの品種。 ‘イエロー・ボタン’は、花径8㎝ほどの四季~返り咲き性。最初の黄色系のイングリッシュ・ローズで、1975年にイギリスで発表されたシュラブ系の品種。 カップ咲き 花を横から見た時にティー・カップのような形をしているものを、カップ咲きといいます。カップの浅いものをシャロー・カップ咲き、深いものをディープ・カップ咲き、花弁の枚数が比較的少なく中心部に花心が覗くものをオープン・カップ咲きなどと、さらに細かく分けることもあります。カップ咲きの花で、外側の花弁が後方に反り返る場合、これらを「カップ&ソーサー」などと表現することもあります。気温が低い時ほどカップが深くなるようになり、ディープ・カップ咲きのものなどはほとんど球状に近い花形になることもあります。 ‘セント・オブ・ヨコハマ’ 花心が複数に割れるクォーター・ロゼット咲き。香りが強く、耐病性に優れ、まとまりのよいコンパクトな株に成育する。2017年に日本で発表されたフロリバンダ系の品種。 ‘ミセス・ドリーン・パイク’ ロゼット咲きで花心に花弁が抱えるようなボタン・アイが現れ、かつ中心に緑色のグリーン・アイも現れる。四季咲き性で、花には強い香りがある。1993年にイギリスで発表されたハイブリッド・ルゴサ系の品種。この系統の品種としては葉が繊細で美しく、成育も穏やかな品種。 ‘アンブリッジ・ローズ’ カップ咲きで、アニスの強い香りを持つ。花径9㎝ほどで四季咲き性。イングリッシュ・ローズの一品種で、1990年にイギリスで発表された。分類上はシュラブ系だが、生育はほぼブッシュローズ。 ‘フランシス・ブレイズ’ 典型的なシャロー・カップ咲きの品種。花弁は厚く硬く、強いアニスの香りがある。四季~返り咲きで、1997年にフランスで発表された大型のシュラブ系の品種。 ‘チャールズ・レニ・マッキントッシュ’ 抱えるようなディープ・カップ咲き。四季咲き性で、株がコンパクトで、花つきがよい。ミルラ系の中香で好き嫌いが分かれる香り。1988年にイギリスで発表されたシュラブ系の品種。 ‘スカイラーク’ 抱えるような花弁の隙間から黄金色のしべが覗くオープン・カップ咲き。花つきがよく、香りもよい。四季~返り咲きのシュラブ系で、2007年に発表されたイギリスの品種。 ‘シャーロット・オースチン’ 外弁が反り返った典型的な「カップ&ソーサー」の花形。ティー系のよい香りがあり、花つきがよい返り咲き性。1933年にイギリスで発表されたシュラブ系の品種。 花形には、「クラシック」のほかに、「一重」や「八重」、「整形」「その他」があります。それぞれの魅力的な花形から、好きなバラを見つけて、ぜひ身近で育ててください。 併せて読みたい ・バラの魅力を探ろう! 花の大きさ5タイプを比較 ・バラの花形を知りたい!「整形」咲きタイプのバラをご紹介 ・進化がとまらない!多彩なバラの花形から個性的な8種をご紹介 Credit 写真&文責/河合伸志 千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。 写真/3and garden
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樹木
進化がとまらない!多彩なバラの花形から個性的な8種をご紹介
個性的なバラの花形8種 バラには大きく分けて、①一重咲きと半八重咲きタイプ ②整形タイプ ③クラシック・タイプの3タイプがありますが、これら以外にもさまざまな花形があります。多彩なバラの花形のなかから「ポンポン咲き」や「波状弁咲き」、「シャクヤク咲き」など、個性的な8種の花形を品種の写真とともにご紹介します。 ポンポン咲き 花弁が強く反り返り、花一輪を横から見た時にボール状の丸い形になるものを、通常ポンポン咲きと呼びます。ほとんどの品種は小輪ですが、中には‘玉藻’のように中輪のものもあります。 波状弁咲き 花弁が強く波打つ花形です。波状弁を丸弁や剣弁と同列に捉えれば本来は整形咲きの一部とすべきですが、開いていく過程のみならず開いてからも十分に観賞価値が高いこと、整形咲きとは異なる人気動向があることから、ここではあえて別扱いとしました。この花形は‘エンジェル・フェイス’や‘ロココ’など以前から存在し、それなりに定評もありましたが、‘ニュー・ウェーブ’の登場以降日本では急速に人気が高まり、さまざまな波状弁の品種が作出されています。 シャクヤク咲き(ピオニー咲き) 基本はクラシック・タイプの花形ですが、これとはやや趣を異にし、シャクヤクを思わせる花形です。外側は概ねカップ状ですが、内側には大小さまざまな形状の花びらが不規則に配し、時に切れ込みも入ります。品種数はさほど多くなく、代表品種としては‘イヴ・ピアジェ’があります。 ラッフル咲き オランダのインタープランツ社によって作出されたラッフル・ローズという一連の品種などに見られる花形で、花弁に深い切れ込みが入るのが大きな特徴です。ここでは類似した花形も含め、このようなタイプをラッフル咲きとしました。ラッフル・ローズの一枚ずつの花弁は、漢字の「山」の字のような形をしています。国内でも‘ファンシー・ラッフル’など数品種が発売されており、中でも‘ファイヤーワークス・ラッフル’は特異な花形をしています。 これとは別に ‘クチュール・ローズ・チリア’や‘ポルカ’のように同様に切れ込みが入る品種が国内外にありますが、いずれも花弁の切れ込みはラッフル・ローズとはやや異なっています。なお、すべてのラッフル咲きの品種は低温下での開花の時にこの特徴が現れ、日本国内では春の一番花のみになります。 ダリア咲き 半八重咲きの1つとしても捉えられますが、かなり細いさじ状の花弁で、弁先はハート型に切れ込みます。花弁数はさほど多くなく、花弁は反り返り、全体としてはダリアやマリーゴールドの花形を思わせます。現時点で‘アール・ヌーヴォー’と‘アール・デコ’の2品種しか存在しません。この特異な花形をここではダリア咲きとしました。 逆剣弁咲き 通常の剣弁は花弁の端が外側に折れ曲がりますが、内側に折れ曲がるものも少数ですが存在します。‘ルビー・セレブレーション’や‘オレンジ・メイアンディナ’などがその代表です。全体的には平咲きのようになる傾向があります。 ダイヤモンド型 花が完全に開ききらずに、あるステージで止まる咲き方。‘グリーン・ダイヤモンド’や‘レッド・カスケード’など数品種が存在します。 特殊咲き 整形タイプの1つとしても捉えられますが、半剣弁平咲きでありながら、花心はクォーター・ロゼット咲きのように複雑に割れ、整形タイプとクラシック・タイプの特徴を併せ持ちます。‘ラテ・アート’や‘パルファン・ダムール’など類似したタイプの品種がいくつかあります。主に日本人の育種家が個性を追求した結果、誕生した花といえます。表現の難しい花のため、ここでは特殊咲きとしました。 花形には、「その他」のほかに、「一重」や「八重」、「整形」、「クラシック」があります。それぞれの魅力的な花形から、好きなバラを見つけて、ぜひ身近で育ててください。 Credit 写真&文責/河合伸志 千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。 写真/3and garden
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バラの花形を知りたい!「整形」咲きタイプのバラをご紹介
世界各国で長い間改良を重ね、園芸植物としては類稀なる進化を遂げたバラは、実に様々な花形が存在します。しかし大別すると ①一重咲きと半八重咲きタイプ ②整形タイプ ③クラシック・タイプ ④その他のタイプ の4つに大別でき、それぞれがまたいくつかの花形に分けることができます。バラの花形は、気温や成育常態によって変化することもあり、一般には健全な成育状態にある春の一番花の花形を基準に判定します。 整形タイプ 一般に「バラらしい」と広く認知されている花形です。花弁の枚数は20~50枚程度まで差が大きく、株に力があると花弁の枚数が増える傾向があります。1枚の花弁の形や花弁の幅は一重咲きと同様に様々で、浅く波を打ったような華やかな印象のものも存在します。花弁の縁が外側に反転しないものを丸弁といい、縁が反転して鋭く尖ったような形を剣弁、また両者の中間を半剣弁といいます。 また、花を横から見たときに三角形のように中心が高いものを高芯咲き、平らなものを平咲きといいます。通常はこれら2つを組み合わせて「剣弁高芯咲き」、「丸弁平咲き」などと表現します。 いずれの花も開いていく姿が美しい点は、次に紹介するクラシック・スタイルと大きく異なる特徴です。花弁数が少ない品種で満開になって露芯した状態になると、一般には見頃を過ぎた花とされます。 整形タイプの中でも剣弁高芯咲きはかつて最高の花形とされ、特にイギリスや日本で高く評価されていました。今では当時のような人気はありませんが、凛とした姿で花弁が1枚1枚開いていく様子は、ある意味「美の極み」と言え他の園芸植物では見ることのできない花型です。 代表的な整形タイプのバラ 花形には、「整形」のほかに、「一重」や「八重」、「クラシック」「その他」があります。それぞれの魅力的な花形から、好きなバラを見つけて、ぜひ身近に育ててください。 Credit 写真&文責/河合伸志 千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。 写真/3and garden
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バラの魅力を探ろう! 花の大きさ5タイプを比較
バラの花径は大きく分けて5タイプ バラの花の花径には、これが同じ植物かと思うほど大きな差があります。また、同じ品種であっても生育状況や気温によっても大きさは変化し、全般には生育状況がよい株ほど、気温が冷涼なほど花は大きくなる傾向があります。しばしば春に買ったバラの花が夏になると小さくなってしまうことがありますが、これは夏の高い気温が原因で肥料不足等ではありません。 タイプ1 巨大輪 春の一番花の花径が概ね12~15cmを超えるようなものを、概ね巨大輪としています。株の生育状況が良好で、冷涼な気候などの条件が重なると、大きい場合は20cmを越えることもあります。巨大輪の品種は一枝に一輪の花を咲かせ、全般に株当たりの花数は少ない傾向がありますが、中には‘ホワイト・マスターピース’や‘正雪’のように花数が多く、房になって咲く品種もあります。ただしこれらの品種は側蕾の花は小さくなる傾向があり、側蕾を多数咲かせると中心の花も小さくなってしまうこともあります。思い切り大きな花を咲かせたい場合は、つぼみが小さいうちに側蕾の数を制限するとよいでしょう。 巨大輪品種をローズ・ガーデンで主役にしてしまうと、咲いている時は見事でも花数が少ないのですぐに寂しくなってしまいます。どちらかというと、アクセントとして使う方が効果的かもしれません。 ‘スーザン・ハンプシャー’ 半剣弁、高芯咲きの花が完全に開くと、両手の平ほど大きな花。巨大輪品種はつぼみのうちから大きく、開くとインパクトがあり、庭では抜群の存在感を発揮します。写真の‘スーザン・ハンプシャー’は、花径約15㎝の四季咲き性。1972年にフランスで発表されたハイブリッド・ティ系の品種で、香り高い。 タイプ2 大輪 春の一番花の花径が概ね9~12cm程度のものを、大輪としています。巨大輪と同様に株の生育状況が良好で、冷涼な気候などの条件が重なると、花は大きくなります。大輪の品種の多くは一枝に一輪の花を咲かせますが、中には‘マヌウ・メイアン’や‘オフィーリア’のように花数が多く、数輪の房になって咲く品種もあります。ただしこれらの品種でも側蕾の花は小さくなる傾向があり、側蕾を多数咲かせると中心の花も小さくなってしまうこともあります。大きな花を楽しみたい場合は、巨大輪と同様につぼみが小さいうちに側蕾の数を制限するとよいでしょう。 多数の花が咲くローズ・ガーデンのでも、大輪品種は存在感があり人目を引く存在です。花数は中輪や小輪品種ほど多くないので、準主役程度で使うのがオススメです。 ‘ラ・フランス’ 写真のバラは大輪の花を咲かせる ‘ラ・フランス’。花径約12㎝の四季咲き性。1867年にフランスで発表された世界初のハイブリッド・ティ系の品種で、この品種がモダン・ローズとオールド・ローズの分岐点になっている。ダマスク系の濃厚な香りも魅力的で、悪条件に耐えて生き残る。 タイプ3 中輪 春の一番花の花径が概ね5~10cm程度のものを、中輪としています。他と同様に株の生育状況が良好で、冷涼な気候などの条件が重なると、花は大きくなります。中輪の品種の多くは一枝に複数輪の花を咲かせ、房の大きなものでは10輪を超えるような大房で開花しますが、中には‘ショッキング・ブルー’や‘ショコラ’のように房咲きになりにくい品種もあります。前者に比べると後者の品種は房にならないため花数が少ないようにも思えますが、花枝の数が前者よりも多いため、結果的には同程度の数の花を楽しめます。 中輪系の品種は花数が多い分だけ長く楽しめることから、ローズ・ガーデンでは主役として活躍します。 ‘イングリッド’ 花径10cmほどの鮮やかな色彩の花を数輪の房で咲かせる。花つきがよく、年間を通して繰り返し開花し、多数の花を楽しめる。コンパクトでまとまりのよい株に成育するミニ・フローラ系。2005年にカナダで発表された品種。 タイプ4 小輪 春の一番花の花径が概ね2~6cm程度のものを、小輪としています。他と同様に株の生育状況が良好で、冷涼な気候などの条件が重なると、花は大きくなります。小輪の品種は一枝に複数輪の花を咲かせ、房の大きなものでは20輪を超えるような大房で開花します。大房のものは房がブドウのように円錐状のものと、中心の花と側蕾の高さが揃うスプレー状のものがあります。 中輪系と同様に花数が多く長く楽しめることから、ローズ・ガーデンでは主役として活躍します。 ‘風花火’ (かぜはなび) 花径3㎝前後の小ぶりな花。数輪から円錐状の大房で多数の花を咲かせる。四季咲き性のシュラブ系の品種で、こんもりとした株に成育。1980年代に日本の大手メーカーで育種・選抜されたと考えられ、長年生産者の圃場で細々と残っていたものを、筆者が発見・命名し世に送り出した。 タイプ5 極小輪 春の一番花の花径が概ね2cm以下のものを、極小輪としています。他と同様に株の生育状況が良好で、冷涼な気候などの条件が重なると、花は大きくなります。極小輪の品種は一枝に複数輪の花を咲かせ、房の大きなものでは20輪を超えるような円錐状の大房で開花します。極小輪の品種はミニチュア系(ミニバラ)に分類されるものが多く、株は特に小型のものが多いため、鉢植えで栽培されることが多いです。一部のつる性やシュラブ樹形のものはガーデンでの地植えでも楽しむことができます。 ‘ロイヤル・エンブレム’ 写真の‘ロイヤル・エンブレム’は、花径2㎝ほどで、キクの紋章を思わせる花型から命名された。一季咲き性で、枝は細く葉も細かく小さい。2001年に日本で発表されたクライミング・ミニチュア系。 いかがでしたか?バラにはたくさんの種類があって、知れば知るほど魅力がある花です。ぜひ記事を参考にして、自分好みのバラを見つけてください。 Credit アドバイス/河合伸志 千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。 写真&文/3and garden 撮影協力/横浜イングリッシュガーデン
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バラの花形を知りたい!「一重」と「八重」咲きのバラをご紹介
世界各国で長い間改良を重ね、園芸植物としては類稀なる進化を遂げたバラは、実にさまざまな花形が存在します。しかし大別すると、①一重咲きと半八重咲きタイプ、②整形タイプ、③クラシック・タイプ、④その他のタイプの4つに大別でき、それぞれがまたいくつかの花形に分けることができます。バラの花形は、気温や成育状態によって変化することもあるので、一般には健全な成育状態にある春の一番花の花型を基準に判定します。 一重咲きと半八重咲きタイプ 一重咲きは野生のバラが持つ本来の花型で、通常5枚の花弁を持ちます(一部にはロサ・セリケア・プテラカンタのように4枚のものも存在します)。一重咲きの園芸品種では、株に力があると花弁の枚数が8枚程度まで増えたり、貝殻状の不完全な小さな花弁が発生することもあります。 またそもそも基本が7~8枚の品種もあり、人によってはそれらを準一重咲き(セミ・シングル咲き)などと言うこともあります。一重咲きよりも花弁の数が多く、8~20枚程度の枚数を持つものを、半八重咲き(セミ・ダブル咲き)といいます。株に力があると一重咲きと同様に花弁の枚数が増えたり、貝殻状の不完全な小さな花弁が発生することもあります。 いずれの咲き方も1枚の花弁の形は先が丸くスムーズなものから先が尖ったもの、花弁一枚がハート型になっているものまでさまざまで、花弁の幅も広いものや狭いものなどの差もあります。 また改良が進んだものでは、浅く波を打ったような華やかな印象のものも存在します。一重咲きは通常は花弁の縁が外側に反転しない丸弁ですが、中にはやや反転して尖った印象のものもあります。高温期になると全般に花弁が反転して剣のように尖り、花全体としては星型になることもあります。 代表的な一重や八重のバラをご紹介しましょう ロサ・グラウカを片親にした野生種通しの種間雑種で、親譲りの美しい葉を持つ。青みのある葉に清楚な花を咲かせ、やや耐暑性が弱いが耐寒性に優れる。1996年カナダで作出されたシュラブ系の品種。 野生のバラの趣を残したような素朴な雰囲気の花で、小ぶりの花が多数開花する。花径5㎝の四季咲き性で、耐病性に優れる。1994年日本で発表されたフロリバンダ系の品種。 花弁が剣弁になって星のような印象の一重咲き。一輪もしくは少数の房になって開花し、次々と開花する。学術的に貴重なプリミティブなチャイナ系の品種で、1820年以前の作出と考えられる。 一重咲きの品種の中でもひときわ華やかな印象。紫色のしべと花弁の対比が美しく、花にはスパイス系の芳香がある。1925年イギリスで作出されたハイブリッド・ティ系の古品種。 写真の‘ベティー・ブープ’は、クリームの花びらにくっきりと赤い覆輪が入る個性的な色合い。花付きがとてもよく、花保ちも優れている。耐病性に優れた品種。花径7㎝ほどで、1999年にアメリカで発表されたフロリバンダ系の品種。 花形には、「一重」や「八重」のほかに、「整形」「クラシック」「その他」があります。それぞれの魅力的な花形から、好きなバラを見つけて、ぜひ身近に育ててください。 Credit アドバイス/河合伸志 千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。 写真&文/3and garden