かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志 -バラ育種家-
かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志 -バラ育種家-の記事
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育て方
四季咲きバラの夏剪定はタイミングが大事! 【コンパクトに生育する】バラ編
四季咲き性のバラの夏剪定とは バラの夏剪定とは、文字通り晩夏に行う剪定のこと。四季咲き性のバラは秋にも開花しますが、順調に生育した株は、品種によっては夏の終わりには樹高が高くなりすぎたり、株姿が乱れたりしている場合があり、8月下旬~9月上旬頃に夏剪定を行うことで、より美しい咲き姿に整えたり、開花を調整することができます。夏の剪定は日本だけで行われているもので、バラの生育期間が短い欧米では、さほど株が大きくなりすぎることもないので、この作業を行うことはありません。 四季咲き性のバラの夏剪定の目的は主に以下の3つです。 樹高が高すぎる株や株姿が乱れたものなどを、コンパクトにまとまりよく仕立て直すこと(今回のコンパクトなバラには、この目的は当てはまりません) 晩夏になると1株内で、花が咲き終わった枝や伸び始めた新芽など、枝ごとの生育ステージが異なります。これらを一度リセットし、株内での開花を揃えること バラ園などでは、秋のバラ祭りなどに合わせて、花の咲く時期をコントロールして、早咲きも遅咲きも一緒に咲かせること(バラ祭りを開催しない一般家庭には当てはまりにくい) ここで押さえておきたいポイントが、四季咲きのバラは夏剪定をしなくても秋バラを咲かせるということ。株姿を整えたり、咲く時期を揃えたりということを気にしなければ、夏剪定は、決して必須の作業ではありません。個人でバラを栽培している場合は特に、花が一斉に咲くよりも、時期をずらして少しずつ咲いてくれたほうがよい時もあります。 また、剪定は株にハサミを入れ、葉の数を減らしてしまうので、どうしてもバラに負担がかかります。切りすぎるくらいなら、剪定をしないほうがバラにとってはずっとプラス。特に、病害虫などの被害に遭って、葉の数を減らしているような調子の悪い株の場合は、夏剪定は大きなダメージになりかねません。自分の育てている品種や、株の状況、咲かせたい理想像に合わせて、夏剪定を行うかを決めましょう。 今回は、コンパクトに生育する四季咲きのブッシュ・ローズの夏剪定を解説します。樹高が高くなる四季咲きのブッシュローズの剪定方法は、『バラの夏剪定を解説【樹高が高くなる】四季咲きバラ編』をご覧ください。 コンパクトに生育するブッシュ・ローズの夏剪定 コンパクトに生育するバラの場合、夏剪定の主な目的は、株姿を軽く整え、株内での開花を揃えることです。ここでは‘禅’を例に、夏剪定の方法を解説します。 剪定前のワンポイント! 夏剪定をする際には、剪定の7~10日前に、追肥として速効性の肥料を施しておきましょう。肥料が不足していると、剪定をした後に順調に新芽が吹かず、バラが咲かないこともあります。肥料は袋に表示されている既定の量を与えます。ここでは、住友化学園芸の「マイローズばらの肥料」を使用しました。 剪定方法 コンパクトに生育する品種の場合は、樹高が高いバラのように低くする必要がないので、株姿を整えるように、全体の伸びた枝の先端を揃えて軽く切り詰めます。ここでむやみに深く切り詰めると、葉の枚数が減るため、結果としてバラは光合成の能力が低くなり、芽吹かなかったり花が咲かなくなってしまいます。切る量はなるべく最低限にとどめ、表面を揃えるだけにしましょう。 1つの株内でも、枝ごとに新芽やつぼみ、開花中などさまざまな状態の枝がありますが、リセットするために株姿を整えるように一律に切り揃えます。 コンパクトに生育する品種例 コンパクトに生育するバラの品種には、以下のような例があります。 ‘ホープス・アンド・ドリームズ’ サーモンとローズピンクが混ざった色で、数輪の房になって咲き、春から秋まで花つきがよい。耐病性にも優れ、初心者でも栽培しやすい。 ‘ラリッサ・バルコニア’ 淡いピンクのロゼット咲きで、数輪の房になって開花する。耐病性に優れ、初心者にも栽培しやすいが、夏の暑さにやや弱く、高温期に生育を停止する傾向がある。 ‘ロザリー・ラ・モリエール’ 淡い桃色の小輪花が、5~10輪ほど花束のように咲く。花付きがとてもよく、常にパラパラと花を咲かせている。耐病性にとても優れ、初心者でも栽培しやすい。 ‘ガーデン・オブ・ローゼズ’ アプリコット色のロゼット咲きで、数輪の房になって開花する。ティー系のよい香りがする。コンパクトな品種は早咲きが多い中、本品種は珍しく遅咲き。耐病性に優れ、初心者でも育てやすい。節間が短く、密な株に生育する。 ‘ブライダル・ピンク’ 整った形の淡いピンクの花で、数輪の房咲きになり、花もちがよい。ティー系のよい香りがある。古くより知られる花壇用の銘花。 ‘うらら’ ひときわ目立つショッキング・ピンクの花色。数輪の房になって開花し、春から秋まで花つきがよい。こんもりとした株に生育し、年数の経過とともにシュートが発生しなくなる。 ‘セント・オブ・ヨコハマ’ 淡いサーモン・ピンクのロゼット咲きで、ティー系の強い香りがある。数輪の房になって開花し、秋までよく咲く。耐病性が強く、初心者でも安心して栽培できる。
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樹木
バラ園を10倍楽しむ方法を専門家が伝授 多彩な魅力をもつバラを見に行こう!
バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント①色 まずは花色。じつは、バラは植物の中でも最も多彩なカラーを持つ植物の一つ。赤、ピンク、オレンジ、黄、白、紫、緑、黒といった単色はもちろん、いくつかの色が合わさったもの、咲き進むにつれ色が変化するものなど、まさしく「多彩」なのがバラの花色です。とりわけ、複数の野生種がまざり合ってできあがったバラの園芸品種は、本来野生のバラにはない色を持っています。この多彩さの秘密は、黄色のバラがカギを握っています。黄色のバラの登場により、バラはこれまでにないスピードで多彩なカラーを獲得。オレンジや薄紫、茶色、蛍光を発するような赤やピンク、バイカラー(2色)など魅惑的な色が誕生しました。 色とりどりのバラと草花が共演する5月の「横浜イングリッシュガーデン」。 また、バラの花言葉は色によって異なるのも面白い点です。ほとんどの色が「愛」や「美」に関連する言葉ですから、バラ園ほど愛の告白やプロポーズにふさわしい場所はありません。ただし、一つだけ注意していただきたいのは、黄色のバラの前。黄色のバラには平和や友情といったポジティブな花言葉の一方で、嫉妬、薄らぐ愛などという意味があります。 <バラの色別花言葉> さまざまな赤いバラがコレクションされた「横浜イングリッシュガーデン」のローズ&クレマチスガーデン。 赤いバラ/「情熱」「恋」「美」「あなたを愛しています」「強烈な恋」など、熱い胸の内を表すのにぴったりの色です。 ピンクのバラ/「可愛い人」「上品」「美しい少女」「しとやか」「幸福」など、どれも可憐な花から連想されるキーワードです。 白バラを中心に白色の草花を組み合わせた「横浜イングリッシュガーデン」のローズ&ペレニアルガーデン。 白いバラ/「純潔」「清純」「心からの尊敬」「相思相愛」「私はあなたにふさわしい」など、ウエディングブーケとしてもよく使われる白バラにふさわしいワードが並びます。 ‘つる ゴールデン・ボーダー’。 黄色のバラ/「友情」「献身」「平和」などポジティブなワードと、「嫉妬」「薄らぐ愛」など少し気をつけたいワードがあります。 ‘紫の園’とオルラヤ・グランディフローラ。 紫色のバラ/「誇り」「尊敬」「気品」。紫色のバラは青いバラを作ろうとする過程で生み出されたものも数多く、「ブルー」という名前を冠したものが少なくありません。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント②花形 剣弁高芯咲きの‘カーディナル’。 野生のバラは一重咲きの小輪ですが、改良されたバラの花型で注目すべきなのが剣弁高芯咲き。これは花弁の縁がツンと尖って、花の中央部分が高くなっている花型で、某有名デパートのモチーフにもなっています。じつはこの咲き方は、植物の中でもバラだけに存在する形といわれています。 ロゼット咲きの‘ザ・ピルグリム’。 一方、ロゼット咲きは花の中央部分が高くならず、比較的平たく花弁が放射状に並びます。オールドローズに多く、このようなオールドローズを彷彿とさせる花型をクラシック調と呼びます。ほかにもコロンとしたカップ咲き、また一重咲きや半八重咲きでも野生種にはないフリルがあったり花が大きかったりと、園芸品種は花形も変化に富んでいます。 ‘つる マチルダ’(中央)。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント③香り 意外かもしれませんが、花屋さんに並んでいる切り花と庭植えにされているバラでは品種が異なり、前者には香りがないものが多いのです。ですから、バラの香りはバラ園でしか堪能できません。そのうえ、香りも色や花形と同様、品種によって質や強さがじつにさまざま。香りのよい植物はラベンダーやクチナシ、キンモクセイなど多々ありますが、バラほど香りのバリエーションが豊かな植物は、ほかにはありません。 ‘コティオン’(左)、‘エンチャンテッド・イヴニング’(中央奥)。 フルーツのような香りやハチミツのような甘い香り、中にはドクダミのような香りなど、ちょっと癖のある香りもあります。一般に多くのバラの香りは、拡散性(空間に広がる性質)が低いので、満開前の七分咲きくらいの花に顔を近づけてかいでみてください。最初に吸い込んだ時の印象、その次に来る香り、そして息を吐いた後に残る残香。私はバラの香りをこのようにしていつも味わっています。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント④名前 ‘ジャスト・ジョーイ’。写真/河合伸志 品種にはそれぞれ誕生の秘話や、命名の由来などがあります。それらを知って一輪の花を眺めると、同じ花がまた違った印象になります。例えば‘ジャスト・ジョーイ’。作出者が奥さんの名前を付けようと思っていたら、「ジョーイ・ポウジー」は発音しにくいからということで、「ただの“ジョーイ”」にしましょうとなり、結果バラの名前は“ただのジョーイ”、つまり‘ジャスト・ジョーイ’になったそうです。“ただのジョーイ”は、その華やかでゴージャスな花姿が各国で人気となり、やがて世界バラ会連合選出の「栄誉の殿堂」入りを果たします。こんなことを知ると、ただ美しいという印象しかなかった‘ジャスト・ジョーイ’が、ちょっとファニーに見えてはきませんか? バラ園では品種名が掲示されているので、ぜひ花の名前をチェックし、気になるものがあったら由来を調べてみてはいかがでしょうか。 お気に入りの一輪を探してみてください 数十種のバラが頭上を覆う「横浜イングリッシュガーデン」のバラのトンネル。 こんなふうに、バラを観賞するポイントはいくつもあります。「バラの魅力は?」と聞かれた時に、答えは人それぞれのようですが、私は大きく分けて2つあると思っています。1つめは外面の魅力。花の色や形、香りなど、見て嗅いで分かる楽しみです。この外面の魅力に関して、ご紹介したようにバラはじつに多様なものを持っています。それは他の園芸植物には見られないほどの幅の広さで、それ故に千差万別の人の好みに対応できるのです。つまり、必ずあなた好みのバラに出会うことができるということです。このことは、バラを「人気の花ナンバー1」にしている大きな要因だと私は思っています。そしてもう1つの魅力は、名前や品種の背景にあるストーリーです。バラと人との関わりは古く、さまざまな伝説や逸話、人の物語もバラの魅力です。バラ園を歩けば、きっとお気に入りの一輪に出会うことができますよ。 多彩なバラが咲き競う横浜イングリッシュガーデンは今が盛り バラが最盛期を迎えている「横浜イングリッシュガーデン」。 バラの観賞のポイントを教えてくださったバラの専門家、河合伸志さんがスーパーバイザーを務める神奈川県横浜市の「横浜イングリッシュガーデン」には、約2,200品種 2,800株のバラがコレクションされ、5月上旬から、見頃を迎えています。 早咲き種は、4月中旬から開花がスタートし、次々と花開くバラがロマンチックな景色を作っています。現在、次々咲くバラの中から、見頃を迎え、ストーリーがある品種についてインスタグラムをはじめとしたSNSにて品種解説を添えた投稿も実施中。これらの花の品種解説も併せてチェックしながら、本物のバラが咲くガーデンへ出かけてみませんか? ●2024年5月26日(日)まで「ローズ・フェスティバル2024」を開催中の横浜イングリッシュガーデンの見どころをご紹介する記事も併せてご覧ください。
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育て方
バラを美しく咲かせる特別な仕立て方「ガーランド」の秘技をバラの専門家が大公開!
つるバラでつくるガーランドの魅力 「ガーランド(garland)」とは、古くは名誉や勝利の印として贈られる花輪や花かんむりを指し、古代ギリシャの彫刻や建築にも見られる格調高い装飾模様の一つです。現代では、花や葉、旗などのモチーフがリボン状に連なった飾りを「ガーランド」といい、ガーデン界では「花綱(はなづな)」とも呼ばれている、花を連なるように咲かせる立体的で優美なバラの仕立て方です。 日本でも各地に、この「ガーランド」を取り入れている観光ガーデンがありますが、最も新しく登場し注目されているのが、ここで解説する「中之条ガーデンズ」のガーランドです。 中之条ガーデンズにある2カ所のガーランド 「中之条ガーデンズ」では、2カ所でそれぞれ異なるガーランド仕立てを見ることができます。1カ所はバラに挟まれた小道、もう1カ所はバラに360度囲まれるサークル状のエリアです。 まるで花道のようなガーランド仕立ては、小道を歩きながらすぐそばに花々が咲く様子が楽しめて、無数のバラに囲まれた感覚を味わえます。2つ目は、空を見上げるほど高い位置に2連の輪が浮かび、360度バラに囲まれるという演出。このようにガーランドを設置する高さの違いによって、バラをいろんな角度から眺めることができます。 まずは、どんな構造になっているかをご紹介しましょう。1カ所目の「小道を歩きながら観賞するガーランド」は、支えになっている緑色の柱の高さは2m。高さ2mと1mの位置に各1本、合計2本のガーランドが、6本の柱の間に渡されています。 左右に2ガーランドが続く小道の幅は1.2m。人がすれ違える程度。これは、目の前に迫り咲く花を歩きながら眺められるうえ、豊かなバラの香りも楽しめるという、こだわりのデザインです。 もう1カ所は、見上げるほど高い位置に360度ぐるりとサークル状に仕立てられた2連のガーランドです。柱の高さは、3m。地上から3mと2mの位置に綱が張られていて、空にくっきり花のラインが浮かび上がります。満開時には花に囲まれた特別な空間になり、訪れる人は皆、感嘆の声を上げます。 ガーランド仕立てに向くバラの品種とは? つるバラをガーランドに仕立てる場合、まずは伸長力(つるが伸びる力)がある品種を選ぶことが大切です。一般にはランブラー・タイプと呼ばれるバラが該当しますが、このタイプであっても‘スーパー・エクセルサ’のような品種は伸長力が乏しく不向きです。 次に枝がしなやかな品種のほうが誘引しやすく、綱の形も崩れにくいです。ロサ・ヘレナなどは枝が硬く、思うような形状に曲がらなかったり、誘引作業中に枝が折れてしまうことがあります。またシュートが株元からも発生しやすい品種のほうが、年数を経過しても株元が寂しくなりにくいです。‘アルベリック・バルビエ’などは誘引を工夫しないと、数年後は株元に枝がない状態になってしまいます。 複数品種でつくる場合は、開花期が重なる品種で構成することも大切です。品種選びは、ある意味重要なテクニックです。 こうしたポイントを踏まえて、「中之条ガーデンズ」で選ばれている品種は、‘玉鬘(たまかずら)’や‘花小紋(はなこもん)’ ‘マニントン・マウブ・ランブラー’などです。 ●『河合伸志が選ぶガーランド仕立て向きの推奨品種10選』も近日公開予定です。お楽しみに! ガーランドの誘引テクニック ガーランドの誘引には、バラが休眠中に行うベーシックな「冬季誘引型」と、上級者向けの「夏季誘引型」の2タイプあります。それぞれの特徴とコツを、バラの専門家・河合伸志さんが詳しく解説します。 ベーシックな「冬季誘引型」で仕立てるガーランド 誘引の仕方は、基本的に他のつるバラと同様です。枝数が多い場合は、柱に誘引する枝と、綱に誘引する枝を分けます。柱に誘引する枝は螺旋を描くように巻き付け、綱に誘引する枝は柱に寄せた後にそのまま各所に配置し、綱に沿うようにとめていきます。柱に誘引する枝は、下記の点を注意すると、より美しく仕上がります。 小道の左右に設けたガーランドを真横から見てみましょう(上写真)。柱の根元付近から枝を上へ誘引し、柱を起点に左右に振り分けます。ここで意識して行うのが、根元付近をいかに柱に沿わせるかです。 柱の根元付近を見ると、伸び出た枝はなるべく柱に沿うように地際から引き寄せて柱にとめつけられています。ここが膨らんで太くならないようにすることで、柱がすらりと見えて美しく仕上がります。 柱に沿わせて上へ誘引した枝は、左右の綱へ誘引していきます。この時、綱が複数段ある場合は、上下のボリューム感が同等になるようにします。また、左右の柱から誘引する枝も同様にボリューム感を調整し、中央付近では多少重ねた状態で、枝を留めます。 柱と柱の間に渡したロープに沿って枝をとめつけます。 標高480mの冷涼な高地にある「中之条ガーデンズ」は、冬季の積雪は少ないものの、バラがダメージを受けるほど冷たい乾風が吹くため、未熟な若いシュートは春が来る前に枯れてしまいます。もしシュートが1本枯れてしまうと、綱を覆う枝が減って花数も少なくなります。そのため枝の選別は熟度を優先し、太くて立派なシュートであっても未熟なものは切り捨て、古枝であっても充実したものであれば優先的に残します。冬に耐える枝を見極めるという、プロの選別の目が、ガーランド仕立ての成功の鍵を握っています(関東地方以西の平地では、ここまでの真剣な選別をしなくても、冬季の枯れ込みは少ないです)。 冬季にガーランドに誘引した場合、もともとの枝の癖で綱が自然な印象にたわまなくなることがあります。このような場合は、綱が自然なカーブを描くように、仕上げに綱の中央付近を紐で下方に引っ張るようにレンガ(矢印)の重しを取り付け、綱のラインを矯正して完成です。 上級者向け「夏季誘引型」で仕立てるガーランド 花後にその時点で出ているシュートや未開花枝と主幹を残し、その他の株全体の枝を大きく切り詰めて整理します。その後、伸びてくるシュートや未開花枝はそのまま柱や綱に誘引していきます。誘引の仕方は冬季の場合と同じです。 冬季になったら、葉をむしって再度紐を結束し直します。この場合、枝の癖がロープのたわみに影響を与えることがないので、苦労して矯正しなくてすむというメリットがあります。 一方、花後に大きく切り詰めてから株を再生させるため、栽培技術が未熟な場合、十分に冬までに回復させることができず、翌年はボリュームダウンしてしまうことがあります。また切り詰めすぎでも同様のことが起こるので加減がとても難しく、どちらかというと、温暖な地域のバラ栽培、中・上級者向けの手法かもしれません。 バラのガーランドを見に行こう! シュートの良し悪しを見極めながら、手が凍えるほどの寒空のもと、開花の姿をイメージしながらガーデナーが一枝ずつ丁寧に誘引した「ガーランド」。中之条ガーデンズにあるガーランドは今、葉を茂らせ、たくさんのつぼみをつけて開花のシーズンに向けてスタンバイしています。 ぜひ、今年はオープンエアで安心して楽しめる花咲くガーデンへ出かけてみませんか? ご紹介の群馬県「中之条ガーデンズ」の美しいバラは、東京近郊のバラの最盛期が落ち着いた5月下旬から見頃を迎えます。
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ガーデン
「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!
河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力 群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園の植栽デザイン・管理指導は、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。 Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は? 「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが半減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口からは全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。 また、バラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルで準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では、最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。 Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください! じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。 Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないでほしい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか? 「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれ、より芳しいバラの香りが漂います。「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひとときが味わえることと思います。 ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話 「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けてきました。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとは異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。 Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と比べて、異なる点はありますか? 大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一に優先して選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種や、コレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラを楽しんでいただきたいと思います。 また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。 Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか? この景観を薬剤散布なしでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によって、かろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。 Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか? 標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によってはおおむね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとしては伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため夜露が発生しやすく、平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。 また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。 下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品種によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさなくてはならないほど旺盛に生育するものもあります。 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集 美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。さっそくチェックして、自宅のガーデンで実践してみましょう! Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください! 「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じなので、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝変わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。 色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。 Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、はじめの準備」のアドバイスは? 最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の早さ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知っておくことが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。 近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージに合った植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも1年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想からまず脱却することが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。 Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは? ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと自分の目で把握し、空間全体を摑むことが大切です。どこにポイントとなるものを置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。 次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てておくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形のものをバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など、見落としがないかの確認もしましょう。 Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。 ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。 Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか? 植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適宜実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、もしかしたらそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう! 平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候のもとで咲くため、平地よりもずっと色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。 バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひ、ゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。 また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか? ●7つの景色が楽しめる新ローズガーデン誕生!「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!
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育て方
【台風対策】大切なバラを守る方法 晩夏〜秋は台風の襲来に注意!
台風によるバラへの被害 激しい雨だけでなく、強風が吹き荒れる台風の襲来は、バラに大きな被害をもたらします。バラはそもそもトゲがある植物のため、強風によって枝葉が激しく揺さぶられると、枝折れが生じるだけでなく、自らのトゲで自らを傷つけてしまいます。また最悪の場合は、根元から株が折れて枯死してしまうこともあります。特に順調に生育している株ほど強風の影響を受けやすいので、事前に台風対策をしっかり行っておくことが大切です。 何より大切なのは天候情報のキャッチ 台風対策をするにあたり、何より大切なことは早期に台風の情報をキャッチすること。台風が近づく直前になってから気づいても、台風対策は間に合いません。台風に限らず、長雨や高温・低温など、天候は何かと植物の生育に大きく影響を及ぼします。植物の栽培を始めたら、マメに天候の情報を得ることは、栽培上手への早道の一つです。また、慌てて買い物に行かなくても済むように、事前に台風対策に必要な資材を揃えておくことも大切です。 優先順位を決めて台風対策の作業を 台風によっては接近してくる速度がとても速く、対策を施す時間が十分にないこともあります。台風による風雨が強くなってからの作業は危険を伴うので、そのような場合は、残念ながらできる範囲で作業をとどめます。また、そのような場合に備え、普段より優先的に作業をする株を決めておくことも大切です。風の通り道(台風によって風向きが変わるので、事前によく確認すること)になる場所に植わっている株や、枝が長く伸びている株、弱々しく倒れそうな株などを優先します。それらの株であっても、病害などで葉がない丸坊主の株は、風の抵抗を受けにくいため、葉がフサフサある株を優先します。 3つのケースのバラの台風対策 ここでは ケース① ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズなど地植えで自立させている ケース② つるバラやシュラブ・ローズなど地植えで構造物に誘引している株 ケース③ 鉢植えのバラ 以上3つのケースのバラの台風対策をご紹介します。時間が限られている場合は、ケース①と②から優先的に作業を進め、順次対策を行うようにします。 ケース① 「ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズなど 地植えで自立させている株」の台風対策 準備するもの 防風ネット 強風から植物を守るためのネットで、寒冷紗や漁網などでも代替えが可能。ホームセンターなどで手に入ります。 太めの支柱 強風で折れないような直径20㎜程度の太めのもの。長さは打ち込んだ時にバラの樹高よりやや高くなるものが理想的ですが、長すぎるものは防風ネットを巻いた時に風の抵抗が大きくなり、倒されることもあります。長さ1.5~1.8m程でとどめたほうが安全です。 紐 麻紐など。強風の中でも切れないよう、直径2〜3㎜程度の、太くしっかりしたものを。防風ネットのとめ具は、ビニタイやワイヤーでも代替えが可能です。 レンガなどの重し ハンマー はさみなど紐やネットを切断するもの 作業手順 株の中心に支柱を立てる 株の中心にあたる場所に、支えとなる支柱を1本立てます。支柱を立てる際は、ハンマーを用いて地面にしっかりと深く打ち込む。 紐で株を縛る 手順1で立てた中央の支柱を基軸に、枝葉をまとめて絞り込むように紐をかけて株を結束します。1株につき、2~3段程度紐をかけ、十分に固定しましょう。 株の四隅に支柱を立てる 結束した株の四方を囲むように、支柱を4本立てます。支柱はハンマーを用いて手順1と同様にしっかりと地面に打ち込みます。 株の周囲に防風ネットを支柱に取り付ける 手順3で立てた周囲の4本の支柱に防風ネットを紐でとめつけ、株の周囲をぐるりと覆うようにネットを張ります。ネットが風で飛ぶと危険なので、1本の支柱で最低でも4~5カ所ほどとめ、風で飛ばされないようにします。株の上部はネットを張らずに空いたままの状態でも効果が得られます。2~3株をまとめて囲むことでも、効果は十分に得られます。 重しを用いて防風ネットを固定する 防風ネットが巻き上がらないよう、ネットの裾部分はレンガなどの重しを置きます。軽い重しは飛ばされる危険があるので気を付けましょう。 これで台風対策は完了です。台風の近づく速度が早く、全ての株に手順5までの対策ができない場合は、手順2までとどめ、広く浅くの方向に対策を変更します。手順2まで進めた状態でも一定の効果が得られます。 紐で結束したこの状態は、葉の蒸れや内部の葉の日照不足につながります。早めの対策が肝心とはいえ、何日もこの状態であることは好ましくありません。台風が来る1~2日前など直前に対策をし、通過後は速やかに外しましょう。事前の準備をする場合は、中心に支柱を立てる作業のみとします。ここまででも作業を終わらせておくと、他がスムーズに進みます。 ケース② 「つるバラやシュラブ・ローズなど地植えで構造物に誘引している株」の台風対策 ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズよりも枝が長く伸びるつるバラなどは、強風の影響をより受けやすく、株全体が大きいために周囲に防風ネットを張ることも困難です。台風が襲来する前に、風を受けにくいよう構造物に寄せるように仮誘引し、しっかりと紐で結束します。オベリスクなどでは、長く伸びた枝同士を上部で束ね、さらに支柱を立てておくとよりよいです。また、台風時の強風では、構造物ごと倒れてしまうこともあります。バラを誘引した構造物は、ぐらついていないか、地面にしっかりと固定されているかなどをあらかじめ確認し、必要に応じて補強しておきます。 ケース③ 「鉢植えバラ」の台風対策 鉢植えのバラの場合、最も確実な対策は、室内や物置などの風雨の影響がない(もしくは、少ない)場所に鉢を移動することです。室内に鉢植えを取り込む場合は、ナメクジを持ち込まないように注意しましょう。その際、あると非常に便利なのがブルーシートなどの敷物。受け皿などを用意するよりも簡単に取り込むことができ、周囲も汚れず、収納の際にはコンパクトに折りたたむことができます。ベランダなどで鉢植えを栽培している場合は、一枚準備しておくと便利です。マンションのベランダなどでは、階層が上がるほど風の影響を受けやすく、また鉢植えの落下事故にもつながりかねないため、可能な限り室内に取り込みましょう。 室内に取り込むスペースがない、時間がないなどで鉢の移動ができない場合は、鉢を倒して防風ネットをかけ、レンガなどの重しを用いてネットを固定しておきます。ネットは掛けたほうがよいですが、鉢を倒すだけでも風の害を軽減できます。あまり長い間倒したままにすると、光を求めて茎が曲がってしまうので、風が収まったら速やかに元に戻します。 台風が通過したら 各種の台風対策は、風が穏やかになったら早めに元の状態に戻しましょう。上記の通り、長時間の結束は蒸れや日照不足の、倒した状態は新芽の曲がりの原因になります。 海沿いの地域では、台風により巻きあげられた海水が葉に付着し塩害が発生することがあります。塩害を防ぐためには、雨がやんだ時点で株を真水で洗い流すことが有効です。しかし、多くの台風の場合、雨がやんだ時点でも強風が吹いており、作業には危険が伴います。決して無理をせず、できる範囲で行いましょう。 台風の風にあおられたバラの茎葉には細かな傷が多数でき、病気に侵されやすい状態になります。また害虫が強風で飛ばされてくることもあり、台風の通過後は一気に病害虫が広がることがあります。そもそも8月下旬~10月上旬は秋雨による病害の発生しやすい季節です。可能であれば台風の通過後には速やかに薬剤散布行い、病害虫を防除しましょう。 ●近年、地球温暖化に伴い、台風の勢力が従来よりも増しつつあります。本項の対策は今までの台風ではある程度有効ですが、今後襲来が想定されているスーパー台風や、沖縄など南方の島々に襲来する台風ではこれだけでは防ぎきれません。
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育て方
バラの大敵・黒星病の予防&対策をバラの専門家が解説
バラの大敵・黒星病 バラを栽培する人の多くが直面する、厄介なバラの病気が黒星病(くろほしびょう)。発生した葉には黒色の斑点が生じ、やがて黄変して落葉します。被害が進行すると次々に葉が落ち、やがて丸坊主になってしまいます。このような状態になると、光合成ができないため生育が著しく悪化してしまいます。また、生育期に養分をため込むことができなかった株は寒い冬を乗り越えられずに、最悪の場合は枯死してしまうことも。寒さの厳しい地域ほど枯死しやすいので、注意を要します。また、黒星病は感染力がとても強く、一つの株に発生することで、瞬く間に周囲の株にも拡大し、庭全体に大きな被害が出ることもあります。そのため、発生してしまった場合には、被害が広がらないうちに早めに対処することが重要です。バラは育て方が難しいと思われていますが、それはこの黒星病という致命的な病害が存在するからです。すなわち、この病害の発生を上手に防除することは、バラ栽培の成功の秘訣と言えます。 黒星病の発生しやすい時期は雨が多い季節 黒星病の原因は、カビの一種(糸状菌)。黒星病の原因菌は濡れた状態など多湿な環境で胞子が繁殖しやすく、被害が拡大していきます。そのため、雨の多い季節に被害が発生しやすいです。日本では梅雨の他に秋雨や台風などとバラの生育期に雨が多く、4~11月の東京の降水量はパリやロンドンの約3倍。この数値を見るだけでも分かるように、ヨーロッパよりも日本での栽培には苦労するのです。ちなみに、適切な管理をしていた株では、発生はつぼみが大きくなり始める4月中旬以降から発生し、一時ピークは開花期から梅雨頃になります。梅雨明け後の高温期は、暑さによって病害の進行はやや抑えられるものの、発生し続けます。気温が低下し始める秋からは再度発生しやすくなり、バラが休眠する12月まで続きます。 黒星病の早期発見は株内部のチェックを 上記のように、黒星病は一度発生するとあっという間に被害が拡大し、収束させるのに苦労します。早期発・早期対処を心がけましょう。一般に黒星病は株の内部の込み合った場所などから発生しやすく、また黒星病への耐性は品種間で大きく異なります。早期発見のコツは、耐病性が劣る品種の株内部をこまめに確認することです。バラを見る時に、人の目線は生育している新芽やつぼみに向かいがちです。意識的に枝や葉に隠れて見えない株内部を観察することが大切です。なお、発生が確認された場合はすみやかに対策に移ります。 黒星病の対策 黒星病が発生したらただちに対策をします。まずは罹病した葉(1枚の小葉に発生している場合でも5枚など複数枚をセットで)を葉柄から丁寧にむしり取ります。続いて罹病した葉に隣接した葉も同様にむしり取ります。一見して病斑が見られない葉でも多くの場合は既に感染していて、数日の間に発症することが多いです。病害を早期に抑え込むためにも、思い切って摘み取りましょう。また既に落葉してしまった葉も、丁寧に拾い集めます。発生の度合いが著しくほとんどの葉に病斑が見られる場合は、9月上旬までであれば思い切って丸坊主にしてリセットしてしまう方が、早期に病害を抑えられる場合もあります。この一連の作業はとても大切で、摘み取りをせずに下記の薬剤散布をしても、なかなか病害を完治することができません。 病葉の摘み取りなどが終わったら、次に殺菌剤を散布します。現在のところ病害を抑えるためには治療効果のある殺菌剤を散布する以外には、残念ながら有効な手段はありません。株数が少ない場合は、「マイローズスプレー」など治療効果がある市販のスプレー剤が便利です。株数が多い場合は、サプロール乳剤など市販の適応のある薬剤を薄めて散布します。黒星病は雨と密接に関係しているので、鉢植えの場合は雨の当たりにくい場所に移動することも対策になります。なお、一度の殺菌剤の散布で病害が抑えられないこともあり、そのような場合は病葉摘みを継続しながら1週間間隔を目安に、複数回散布を継続します。 このように、黒星病は一度発生してしまうと、完治させるには苦労します。そのため、発生しにくくするために予防散布を行う場合もあります。予防には「ベニカXファインスプレー」などのような予防効果のあるスプレー剤やオーソサイド水和剤(希釈して使用)などがあります。 品種選びも大切な黒星病対策 黒星病への耐性は品種間で大きく異なります。全く出ないモッコウバラのような品種から、‘チャールストン’や‘ブルー・ムーン’のような弱い品種までの差はとても大きく、黒星病で悩んでいる人はなるべく耐病性の強い品種を選ぶこともその対策の一つと言えます。なお、耐病性の品種の目安としてはADRの認証品種などが参考になります。 ●ADR品種についてはこちらの記事でご紹介しています 『【初めてのバラ選び】河合伸志さんに教わる世界で最も厳しいADR認証』 ただし、どんなに耐病性の強い品種を選んでも(モッコウバラ、キモッコウバラを除く)、日本の気候条件(関東地方以西の平地)では何もせずに被害を免れることは不可能で、完全な無農薬栽培の場合は最終的には発病・落葉することが多いです。 黒星病の具体的な対策手順 以下ではスプレー剤の散布による黒星病対策の事例を紹介します。 準備するもの ・薬剤(スプレー剤) *市販の薬剤を希釈して使用する場合には、薬剤、計量器(秤やスポイトなど)、カップ(希釈時に使用)、噴霧器などが必要になります。 ・マスク ・ゴム手袋 ・ゴミ袋など 黒星病対策 手順1 最初に黒星病の症状が出ている葉を、小葉ごと付け根から摘み取り捨てます。その際に摘み取った葉を放置すると、他の葉や株に感染が拡大する可能性があるため、必ずゴミ袋などに入れて集め処分します。すでに落ちてしまった葉も、丁寧に拾い集めます。4~9月上旬までであれば、罹病が著しい場合は、思いきって丸坊主になるように1枚残らず摘み取ってしまうのも一案です。 黒星病対策 手順2 マスクとゴム手袋を着用し、薬剤を株全体にまんべんなく散布します。葉表、葉裏の両方に散布をし、薬剤が軽くしたたり落ちる程度まで行います。散布の際には、薬剤に書かれている注意事項を確認してから使いましょう。 薬剤散布を行う際は、気温がなるべく低い朝夕の時間帯を選び、子どもやペット、近隣家庭などに影響がないよう配慮しましょう。なお上記の通り、一度の殺菌剤の散布で病害が抑えられないこともあり、そのような場合は病葉摘みを継続しながら1週間間隔を目安に、複数回散布を継続します。その際には、薬剤の総使用回数を遵守し、病原菌の薬剤耐性獲得を防ぐために、なるべく異なる作用で治療や予防の効果を示す薬剤をローテーション散布するようにします。 *薬剤の取り扱いの際には、目的に合った薬剤を選び、記載されている注意事項をよく読み、十分注意してください。
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樹木
【初めてのバラ選び】河合伸志さんに教わる世界で最も厳しいADR認証
初めてのバラ選び、迷ったら? 5〜6月は、バラの花が咲いている開花株の鉢苗が流通する時期です。赤やピンク、白、紫、黄色、茶色などのカラーバリエーションはもちろん、コロンとした可愛い花形やフリル状の艶やかな花姿など、バラの個性は多彩さを極める一方、初めてバラを選ぶ初心者さんは、何をどう選べばよいのか迷ってしまうものですが、バラ選びで困った時に役に立つのが「ADR(Allgemeine Deutsche Rosenneuheitenprüfung)」。 世界で最も厳しいバラの品種認証システム ADRとは、ドイツで作られたバラの品種認証システムで、その審査は世界で最も厳しいことで知られています。ドイツ全土11カ所で3年間、薬剤散布をせずに露地(屋外の地植え)で試験栽培をし、花の美しさ・連続開花性・耐寒性・耐病性などが一定の基準を満たした品種だけを「ADR」ローズとして認証されます。毎年、約50品種のバラが試験栽培に加わり、今まで多数の品種が試験され、2018年現在200品種強がADRローズとしての認証を得ています。ただし、過去にはさらに+179品種が認証されていましたが、それらは現在では取り消されています。ADRの一つの特徴は過去に認証された品種であっても、現在の基準に満たなくなったものは認証が取り下げられることです。 実際、取り消された品種の中にはこれまで初心者向けの代名詞的存在であった‘アンジェラ’や、殿堂入りに銘花である‘アイスバーグ’や‘エリナ’といった品種、‘スイート・メイディランド’など2000年以降に作出された比較的新しい品種も含まれています。しかし、認証を取り下げられたからといって、これらの品種の価値が失われたのかといえば、そんなことは全くなく、今でも魅力ある花であることには変わりありません。 つまり、それほどADRの審査基準は日々進化し、厳しくなっているということです。私が日本でのADRローズの生育を見る限り、2010年以降にADRの認証を得ている品種は、耐病性の点では相当に優れていて、初心者でも手軽に栽培できます。 ADRに認証されたバラにはカタログやラベルにそのマークが付けられています。花選びに迷ったら、ADRのマークのあるものを選ぶようにすると、栽培にあまり苦労することなくバラを育てることができます。 ・京成バラ園芸ネット通販 ADRオススメ24品種はこちら 病虫害に強く丈夫で育てやすいバラを目指して さて、ADRの審査基準が年々厳しくなっている理由は、ヨーロッパでの環境意識の高まりなどが背景にあります。環境に負荷をかけないよう、薬剤散布の必要がないバラを目指すことと、欧米の公園などでは日本のサツキのような感覚でバラを多数植栽するため、手間のかからないバラが求められていることがその理由です。というのも、バラには黒星病(くろほしびょう/黒点病と呼ぶ場合もある)やうどんこ病などの病気がつきものだからです。中でも黒星病は、葉に黒いシミのような斑点ができ、やがて黄変・落葉してしまうバラの代表的な病気で、落葉することでバラは光合成ができず、生育が著しく衰える原因になる深刻な病害です。 黒星病は雨が多い環境下で発生しやすく、日本では梅雨や秋雨などがバラの生育期と重なるため、この時期に黒星病にかかり落葉してしまうと、冬の寒さなどに耐えられずに枝が枯れ込み、株が衰退しやがて枯死してしまいます。黒星病などのバラの病害は基本的に薬剤で防除しますが、そうした作業を少しでも軽減するには、病気(特に黒星病)に強いバラを選ぶことが大事。その一つの指標になるのがADRなのです。ただし、ヨーロッパと比較してバラの生育期の雨量が約3倍の日本では特に黒星病の発生率がより高くなり、さらには日本の平地では耐暑性も求められるため、日本独自の審査システムができれば、育てやすいバラの評価は、さらに日本の気候に即した正確なものになるはずです。 ・具体的な予防や対策については、こちら『バラの大敵・黒星病の予防&対策の方法を解説』 ADR認証の魅力あふれるバラ さて、そんなADR受賞品種のなかで、特にオススメなのが‘メルヘン・ツァウバー’という品種です。これまで「病気に強いバラ」というと、いまいち花姿や香りの魅力に欠ける傾向にあったように思いますが、この花は病害虫に強くとても丈夫で、繰り返しよく咲くうえに、アプリコットピンクのグラデーションが繊細で、花姿もエレガント。ティー系の香りが程よく香り、日本人の好みに合いそうな、初心者の方にはぜひオススメしたいバラです。 強いバラを選んだうえで、基本的な育て方を知っていればバラは、ガーデニングの初心者にも十分育てられます。 バラ栽培の最新情報がギュッと1冊に! 2019年4月に発売された新書『バラ講座 剪定と手入れの12か月』(発行:NHK出版)では、バラを育てるのは初めての人はもちろん、もっとバラを上手に育ててみたい人にも役立つ知識が河合伸志さん監修のもと、たっぷりと掲載されています。上記でご紹介したADR受賞品種も登場していますよ。 ・ NHK出版『バラ講座 剪定と手入れの12か月』のお取り寄せはこちら 近年ますますバリエーションが豊かになったバラの花の魅力や、バラ栽培の際に知っておきたい用語集と道具、バラの12か月管理・作業カレンダーも網羅。バラ栽培で「今」すべきことを知り、読み進めながらお手入れしているうちに、自然と身につくように考えられたテキストです。 バラ栽培でまず大切なのは品種選び、と提唱する河合さんによる「丈夫なバラ」とは何か。その理由とともに、「初めて育てる初心者におすすめの丈夫なバラ」の項では、鉢植え、庭植え、誘引して楽しむなどの栽培シーン別に37品種が紹介されています。各品種は、黒星病とうどんこ病の耐性を5段階で評価しているうえ、ADR認証を受けている品種も登場。失敗しない品種選びが叶います。 この本で一番多くのページを割き、ていねいに紹介されているのが、“バラを育てる12か月”。2018-2019年にTV放送されたNHK「趣味の園芸」の1年間のバラの手入れの作業プロセスが、多数の写真と忠実なイラストとともに解説されています。 バラ栽培で「どうしたらいいか分からない!」という声が多い大事な作業「剪定」も、樹形や花の大きさ、仕立てたい形などを手掛かりに、自分の株はどれに該当し、いつ何をすべきかが解説されています。また、この書籍が手元にある人限定で、PCやスマホから河合さんが登場する剪定動画も見られるという嬉しい特典つき。 近年の夏の厳しい暑さが原因で現れる症状や対処法、台風対策、手入れの適期を逃した場合に行う駆け込み作業に至るまで網羅、ガーデニングを趣味とする人の立場に立った最新の栽培解説書『バラ講座 剪定と手入れの12か月』。 この一冊を手元に、バラ栽培に困ったときにいつでもアクセスしてお悩み&問題を解決、バラと暮らす一年を楽しみましょう! Credit 写真&文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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ガーデン&ショップ
世界バラ会連合会議で「横浜イングリッシュガーデン」が栄誉ある賞を受賞!
2018年は世界バラ会連合発足50周年の記念の年 1968年にイギリス、ロンドンにて発足し、今年で50周年を迎えたバラ愛好家たちの世界的組織「世界バラ会連合(The World Federation of Rose Societies ※以下WFRS)」は、バラに関する知識や情報交換などを目的として、会議や展示会を行い、3年に一度、バラの歴史が長い国・都市で「世界バラ会連合会議(World Rose Convention)」を開催し、「バラの栄誉の殿堂」や「優秀庭園賞」などの賞の付与なども行っています。発足50周年となる2018年は、6月28日~7月4日にデンマーク・コペンハーゲンを開催地として大会が行われました。 大会で注目される権威ある賞「バラの栄誉の殿堂(Rose Hall of Fame)」 大会で授与される注目の賞の一つである「バラの栄誉の殿堂」は、世界中のどの環境でも育てやすいことや、誰が見ても美しい品種であること、多くの国で長く愛されていることなどが審査基準となり、第1回の‘ピース’をはじめ、‘アイスバーグ’や‘ニュー・ドーン’、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’など、日本でも人気がある品種が多数選ばれています。 2018年に「バラの栄誉の殿堂」に選ばれたのは、2000年にアメリカのラドラー氏によって作出された‘ノック・アウト’です。バラにとってダメージとなる黒星病やうどんこ病に強い抵抗力があり、地域によっては無農薬栽培で育てることができるほど耐病性に優れています。また、春から晩秋まで咲き続けるブッシュローズ(木立性)で、バラには珍しく花がら摘み以外のメンテナンスが少なくてよいので、バラ栽培の初心者だけでなく、公共空間の景観をつくるバラとしても活用されています。 優れた庭園に贈られる「優秀庭園賞」 大会で授与される「優秀庭園賞」は、数あるローズガーデンの中から、歴史的、教育的、景観的な各視点により特に優れた庭園に贈られるもので、庭園としての美しさに加え、メンテナンスの質がよいことや、学術的に価値がある品種を栽培しているなどの総合的な評価により選ばれます。 「優秀庭園賞」の表彰は、1998年からスタートし、2018年開催のコペンハーゲン大会までで世界各地の64カ所の庭園が受賞。日本では、岐阜県「花フェスタ記念公園」、広島県「福山市バラ園」、大阪府「靭(うつぼ)公園」、東京都「神代植物公園ばら園」、千葉県「京成バラ園」、千葉県「佐倉草ぶえの丘バラ園」、静岡県「アカオハーブ&ローズガーデン」の7つの庭園が受賞してきました。 日本で8つめの「優秀庭園賞」は神奈川「横浜イングリッシュガーデン」 日本ばら会から推奨を受けたWFRSのケルビン・トリンパー会長とヘルガ・ブリシェ元会長は、2017年11月に横浜イングリッシュガーデンを視察訪問しました。その際、ケルビン会長からあがった評価点は以下の項目でした。 6,600m² と小さな庭園であるが、バラだけでなく数多くの花木や宿根草、一年草などが組み合わされた美しいデザインである。 オールドローズ、つるバラ、シュラブ、各種の四季咲き性のバラや野生種のコレクションは、1,800品種を超え、どれも良好な生育をしていて、管理水準が非常に高い。 自国品種の保護の観点からも、その中に500種以上の日本のバラのコレクションが含まれていることは、とても素晴らしい。 品種プレートは正確に表示されていて、来園者にも分かりやすくなっている。 季節のテーマに合ったプログラムや子ども向けの教育プログラムを運営している。 これらの評価により見事受賞となった神奈川「横浜イングリッシュガーデン」から、2012年よりスーパーバイザーとしてガーデンデザイン、植栽管理を行っている河合伸志さんが、デンマーク、コペンハーゲンへ駆けつけ、第18回「世界バラ連合」、「優秀庭園賞」授与式に出席しました。 これまで「優秀庭園賞」を受賞してきた世界各地の庭園に、「横浜イングリッシュガーデン」が仲間入り。WFRSのホームページ内「Award of Garden Excellence」でも紹介されています。 この度見事受賞となった「横浜イングリッシュガーデン」では、先にご紹介した「バラの栄誉の殿堂」入りのバラも多数見ることができます。 横浜イングリッシュガーデンの一年を追った『横浜イングリッシュガーデンの四季【花巡り・ガーデン案内 〜神奈川〜】』の記事もご覧ください。
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樹木
晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】
バラの中には野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。 ローズ・ヒップの残し方 ローズ・ヒップを楽しむ場合は、花後に花がらを切らずに残します。‘バレリーナ’や‘桜木’、‘伽羅奢’など返り咲き性や四季咲き性の品種の場合、花がら切りをしないとローズ・ヒップは楽しめますが、一番花以降の開花がしにくくなります。花を優先するのか、実を優先するかの決断が必要です(数を制限して残すという選択肢もあります)。また小さな株を大きくしたい場合などは、結実させてしまうと養分を実に奪われるため、株がなかなか大きくなりません。この場合も成長を優先するのかの検討が必要です。 ローズ・ヒップが美しい品種の多くは成育が旺盛で、成株になったものは肥料を控えたほうが株は暴れにくくなります。少量の施肥で栽培することは同時に結実の安定化や、実が腐りにくくなるなどにも繋がる傾向があります。 秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するのがオススメです。 横浜の秋を彩るローズ・ヒップ 6.ロサ・ルクスブルギー・ノルマリス 中国に自生する野生のバラで、日本の富士箱根地域に分布するサンショウバラの近縁種。サンショウバラと外見上で共通する点も多いが、株はサンショウバラよりも小さく、高さ1mほどの中小型で自立するシュラブ。一重咲きの花はサンショウバラよりも花色が濃く、紫色を含んだ桃色で大きくよく目立つ。開花は主に春だが、時にその他の季節に返り咲くこともある。ハリセンボンのようなトゲのある実は黄色から淡橙色に熟し、観賞価値が高い。黒星病はほとんど発生することがなく、病気に強く育てやすい。流通量は多い。本種の八重咲きの個体はイザヨイバラ(ロサ・ルクスブルギー)として知られるが、こちらは結実しにくい。 7. ‘メアリー・クイーン・オブ・スコット’ ハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)の品種で、やわらかな印象の葉、細くしなやかな枝ぶりなど野趣のある姿がとても魅力的。枝は弧を描くように伸長し、樹高1m以下の小ぶりなシュラブに成育する。花は淡めの桃色の小輪一重咲きで、主に一輪咲きだが、花つきがとてもよい。他のバラに先駆ける極早生品種。赤く色づくローズ・ヒップはぶらさがるように実り、小さなクラブ・アップルのような印象。ハイブリッド・スピノシッシマ系の品種は夏に黒く熟した実がなるものもあり、これらは秋までもたないが、本品種は着色がやや遅く秋にも実を楽しめる。黒星病にも耐性があり、初心者でも育てやすい。流通量がやや少ない。 8.‘エアシャー・スプレンデンス’(‘スプレンデンス’) ロサ・アルウェンシスの交配種エアシャー系の品種で、ミルラの香りのルーツと考えられているバラ。同名異品種が多いことからしばしば最初に系統系である「エアシャー」を付けて‘エアシャー・スプレンデンス’と呼ばれる。淡桃色の中小輪の花は外弁が濃い桃色に染まり、色のグラデーションが美しくとても魅力的。小さいながらも整ったカップ咲きで、一輪もしくは数輪の房で開花し、中程度のミルラの香りがある。実はオレンジ色に着色し、やや小さめ。枝は細くしなやかで、伸長力がとても旺盛で1年間に4m以上伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うことができる。樹勢は強いが、やや黒星病に弱いので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。流通量がやや少ない。 9. ロサ・グラウカ(ロサ・ルブリフォーリア) 赤みを帯びた美しいブルー・グレーの葉で知られるヨーロッパ産の野生種。花は小さく濃桃色の細弁の一重咲きで観賞価値はさほど高くはないが、たわわに実るローズ・ヒップは大変に魅力的で、ヨシノスズバラの名前で切り枝としても流通する。一季咲き。夏の高温多湿が苦手で、関東以西の平地ではやや脆弱な印象の成育だが、高冷地では立派な株になる。平均的な耐病性なので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。暑さの厳しい地域では西日を避けた場所などに植栽するとよい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・グラウカ。 10. ‘カルメネッタ’ ロサ・グラウカとハマナス(ロサ・ルゴーサ)の交配種で、全体の印象はロサ・グラウカによく似ている。葉は親同様に赤みを帯びたブルー・グレーだが、ロサ・グラウカに比べると葉色が淡く、花も一回り大きく、全体として雄々しくがっしりとした株姿になる。一季咲き。本品種は耐暑性もあり、関東以西の平地でも問題なく成育し、耐病性もロサ・グラウカよりも優れている。栽培性の点ではすべての点でロサ・グラウカを上回るが、その繊細さは失われている。株が大きくなってからは肥料を控えたほうが、株が暴れなくてよい。流通量はやや少ない。 春の花の季節の ‘カルメネッタ’。 ご紹介のローズ・ヒップの他にも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】』や『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。
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樹木
晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】
バラのなかには野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。 ローズ・ヒップのバリエーション 小さなローズ・ヒップは野鳥の餌にもなり、バード・ウォッチングを楽しみたい方にもオススメできます。しかし、ハイブリッド・ルゴーサ系(ハマナスの交配種)やハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)のように一部の種類は夏前に色づき、秋までもたないものもあるので、秋に楽しみたい人はこれらの種類は避けたほうがよいでしょう。 秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するとよいです。 一言でローズ・ヒップといっても、種類によってその形や大きさはさまざまです。球状の丸いものがあれば、細長いもの、洋ナシのような形のものまであり、中には実の表面にハリセンボンのような多数のトゲがあるものも。大きさは、小さなものでは直径5㎜程度、大きなものでは3㎝を超えるものもあります。色彩は主にオレンジ色で、熟度によって黄色→オレンジ→赤色と変化するものや、黄色のままで終わるもの、最初から赤く色づくものなどもあります。 横浜の秋を彩るローズ・ヒップ 1. ロサ・フィリペス‘キフツゲート’ 英国のキフツゲート・コート・ガーデンに植栽されていることで著名なバラで、野生種のロサ・フィリペスの一個体。非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上伸びるので、植栽場所を選ぶ必要がある。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、伸びるに任せて立ち木などに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、とても大きな房になって開花する。一季咲き。遅咲きで、花にはスパイス香がある。 実はオレンジ色でやや垂れ下がるような雰囲気でたわわに実る。ロサ・ムリガニーと特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、ローズ・ヒップの美しさでは本品種の方が一歩勝っている。樹勢が強く暴れやすい品種なので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、初心者でも育てやすい。流通量は多い。 2. ロサ・ムリガニー 中国~ヒマラヤ原産の野生種で、非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上も伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、植栽場所は選ぶ必要がある。伸長力を活かして、立ち木などに自然のままに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、広く流通している個体は花弁の先がハート型をしていて愛らしい印象。遅咲きで、円錐状の大きな房になって開花し、花にはスパイス香がある。一季咲き。 実はオレンジ色で、たわわに実るが、‘キフツゲート’のように垂れ下がることはない。‘キフツゲート’と特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、花そのものは本品種の方が優れている。樹勢が強く暴れやすいので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、育てやすい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・ムリガニー。 3. アルバ・セミプレナ(ホワイト・ローズ・オブ・ヨーク) アルバ系のオールド・ローズの代表品種で、同じく広く知られている‘アルバ・マキシマ’の枝変わりとされる(本品種の方が花弁の枚数が少なく、半八重咲きになる)。やや小ぶりの中輪花にはダマスク系の強い香りがあり、純白色の花弁の中心に黄金色のしべが現れる様は清楚でとても美しい。一季咲き。葉はブルー・グレーを帯びた色で、枝にはトゲが少なく、しっかりと自立して高さ2.5mほどの直立性のシュラブに成育する。秋にはオレンジから赤色にローズ・ヒップが熟すが、多肥状態だと結実しにくくなり、実も腐りやすくなる。成株は肥料を控え気味にしたほうがよい。黒星病に強く、悪条件に耐え、半日陰でも栽培しやすい。流通量は多い。 4. カロカルパ ハイブリッド・ルゴーサ系の品種で、ハマナス(ロサ・ルゴーサ)と庚申バラ(ロサ・キネンシス)の交配種とされる。花は桃色の中輪花で、数輪から大きめの房で開花し、花にはスパイシーな香りがある。一季咲き。ハマナスの特徴を引き継ぎ枝は鋭いトゲが多く、直立に伸長して高さ2m程度の自立するシュラブに成育する。花首がうなだれるので、実はぶらさがったように実る。黒星病に強いが、ハダニには注意が必要。挿し木苗や深植えした接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。流通量はやや少ない。 5. ロサ・ルゴーサ‘アルバ’(白花ハマナス) 日本に自生するハマナス(ロサ・ルゴーサ)の白花の個体で、よく目立つ大きなローズ・ヒップを実らせ、果肉は食用にもなる。花は一重の大きな白花で、早咲き。濃厚なスパイス香があり、開花すると周囲に芳香が漂う。返り咲き。枝は細かなトゲが多く、葉は皺が多く、やや野暮ったい印象。高さ1.2mほどの自立したシュラブに成育し、挿し木苗や深植えた接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。黒星病などにとても強く、全国で容易に栽培できるが、ハダニには注意が必要。流通量は多い。 ハイブリッド・ルゴーサ系の品種には本品種以外にも‘フラウ・ダグマー・ハストラップ’や‘スカブローサ’のようにローズ・ヒップの美しい品種が存在するが、いずれも真夏には着色してしまい、そのため秋までに腐ってしまうことが多い。秋にローズ・ヒップを楽しみたい場合は、二番花の実を残すとよい。 ハマナス(ロサ・ルゴーサ)は条件によってはアジサイの開花期には着色することもある。 6. ロサ・カニナ(ドッグ・ローズ) ローズ・ヒップ・ティーや接ぎ木用の台木に使用されるヨーロッパの野生種で、オレンジから赤色の実が鈴なりに実る。花はピンクの小輪一重咲きで、葉はマットな印象。一季咲き。シュートは弧を描くように伸長し、樹高2mを超える大型のシュラブに成育する。樹勢が強く暴れやすいので、栽培の際には肥料を控えたほうがよい。流通量は多い。 春の花の季節のロサ・カニナ。 ご紹介のローズ・ヒップのほかにも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】』や、『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。