【小さな庭の春物語】心ときめく多年草と宿根草たちの競演

春は、たくさんの草花が咲き継ぐ華やかな季節。小さな庭でガーデニングを楽しむ神奈川県横浜市在住の前田満見さんも、草花の美しい競演を日々楽しんでいます。今回は、一目惚れして庭に迎えた球根花や憧れの風景を再現したいと育てている種類など、春に咲く丈夫で育てやすいお気に入りの多年草(宿根草)について、育て方のコツとともに教えていただきます。
目次
春の歓びに満ちた春咲き球根花
バイモユリ(バイモ)

毎年、3月下旬から咲き始めるバイモユリ。スッと伸びた細い花茎と淡い黄緑の釣鐘型の楚々とした花が大好きです。葉っぱと花が同色系なので一見地味に見えますが、顔を近づけて見ると花びらの内側に洒落た褐色の網目模様が。更に、細い葉の先がくるんと巻きひげ状になって支え合って何とも愛らしい。どこか和の風情を感じるのは、そんな奥ゆかしさかもしれませんね。

また、花もちもよく見た目より花茎がしっかりしているので、切り花にも最適。清楚な美しさが引き立つ簡素な一輪挿しがよく似合います。
庭に植えっぱなしで育つバイモユリですが、高温多湿に弱いため、半日陰や落葉樹の株元にパーライトや鹿沼土を用いた水はけのよい土で植えています。
スイセン‘タリア’

多品種のスイセンの中で一番好きな‘タリア’。イングリッシュガーデンを紹介する洋書で初めてこの花を目にした時、あまりの美しさに目が釘付けになりました。緩やかに波打つ透き通るような純白の花弁と副花冠、雫咲きの花姿がこのうえなく上品で、どの角度から見てもエレガント。例えるなら、誰もが憧れる「白い貴婦人」でしょうか。きっと、そんな’タリア’に魅了されて庭に迎えたガーデナーの方も大勢いるはずです。
年に一度の「白い貴婦人」との再会は、ことのほか心が躍ります。

シラー・カンパニュラータ(スパニッシュブルーベル )

イギリスのブルーベルの森に憧れて、シンボルツリーのヤマボウシの株元に10球ほど植えた薄紫色と白色のシラー・カンパニュラータ。ベル型の可憐な花は、イングリッシュブルーベルとは見た目が若干違いますが、花数も多く性質も強健です。球根を植えてから20年近くなりますが、植えっぱなしで随分増えました。

薄紫色は、よく見ると同系色のストライプ模様が爽やかで何ともお洒落。白色は、薄紫色より楚々としてイングリッシュブルーベルの風情によく似ています。
ヤマボウシの木漏れ日の下、春風に戯れる数多の小花は、待ちわびた春の訪れを奏でる鐘のよう。“チリンチリン”と小さな庭に響き渡ります。

また、花期が長く5月上旬まで楽しめますが、花後は、葉っぱが放射状に広がって場所を取るので、黄色くなり始めたら早めにカットして株元をスッキリさせます。こうすると風通しがよくなり、周りの植物にも好都合。何より球根の腐敗防止になります。
チューリップ

毎年、晩秋に球根を植え込むチュリップは、地植えと鉢植えで楽しみます。地植えには、遅咲きの‘クイーンオブナイト’や‘カフェノアール’のブラックチューリップを。ビロードのような光沢とシックな色が大好きで、もう何年も定番になっています。後に咲き始めるジャーマンアイリスとの競演は、春の庭のハイライト。一段と艶やかな花姿に目を奪われます。

そして、鉢植えは、毎年異なる品種をビオラと寄せ植えしてカラーハーモニーを楽しみます。苗と球根を仕込んで4カ月余り、鉢から溢れんばかりのビオラとすくすくとふっくら愛らしいチューリップは、まるで花束のよう。庭の景色はもちろん、私の心まで春色に染めてくれます。

そう、何と言ってもチューリップは春の象徴。植え替えの手間も長らく待つ時間も、花開けば一瞬でその全てが歓びに変わります。
ジャーマンアイリス

優美な佇まいと花色の多さから「虹の花」と呼ばれているジャーマンアイリス 。調べてみると、何と100年以上も品種改良され続けている園芸品種の代表格だそうです。そういえば、アイリスは16~18世紀の西洋の静物画に数多く描かれているほか、後の印象派の画家たちも好んで描いていますね。なかでも、かの有名なVincent van Goghの「lrises」は、わたしがこの花を好きになったきっかけと言っても過言ではありません。

紫と群青を混ぜたような波打つ花びらも青灰色の幅広い葉も、見慣れたアヤメやハナショウブとはどこか異なり、何と美麗なこと。庭にも是非、こんな色のジャーマンアイリスを植えたいと思いました。かれこれ20年前のことです。
その当時は、今より流通が少なく残念ながらGoghの「Irises」と同じ色を手に入れることができませんでしたが、代わりに紫色と、スモーキーピンクとバーガンディーのバイカラーの品種を1株ずつヤマモミジの株元に植えました。確か、1~2年は花が咲かずガッカリしましたが、3年目の春にようやく念願の花を見た時の感動は、今も忘れられません。

あれから早や20年。年々増えて大株に育ったジャーマンアイリスは、毎春うっとりするような芳香を纏った優美な花を咲かせ、あの時と同じ感動を与えてくれます。
また、ジャーマンアイリスも、有難いことに植えっぱなしで手間いらず。日当たりとミリオン(珪酸白土)を混ぜた水はけのよいアルカリ性の土に高植えさえすれば、水やりも肥料も不要です。先端から咲き終わった花をこまめにカットすると、二番花、三番花、四番花と長く愛でることができます。更に、青灰色の端正な美しい葉もこの花の魅力の一つ。花後も見栄えのよいカラーリーフとして庭の景観にとても重宝しています。

じつは、ここ数年であまりに増えてしまったため、花友さんや実家にも株分けしています。「一年目で立派な花が咲いたよ!」と、驚きと感動の声を聞く度に嬉しくて…。どうやら、私の周りにもジャーマンアイリスに魅せられた仲間が着々と広がっているようです。
育てやすい春の多年草(宿根草)
西洋オダマキ

春の多年草といえば、何といっても西洋オダマキ。なかでも、八重咲きのバロー系は大好きな品種です。とにかく花色が豊富でこぼれ種でよく増える強健種。‘ブルーバロー’、‘ピンクバロー’、‘ブラックバロー’、‘ノラバロー’と、さまざまな花色を植えています。その魅力は、こちらまで背筋が伸びるような凛とした花姿。真っ直ぐ伸びた花茎の先にやや俯き加減に咲く八重咲きの花も、コロンとした雫形のつぼみもどこか品があります。更に、株元で茂る青みがかった美しい葉とのバランスも絶妙。草丈45cmとやや高いものの前方に植えても邪魔にならず、花姿がより際立ちます。

また、一昨年の秋に出会った、ちょっと珍しいオダマキ‘カスティールブルーソワレ’もお気に入り。淡いラベンダーブルーの透明感ある色合いとダブルペチコートの可愛らしい花がお洒落で、混植しているオダマキ‘ブルーバロー’とフロックス‘ムーディブルー’とも好相性。ラベンダーブルー&パープルのグラデーションが爽やかで落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

そして、もう何年もこぼれ種と種播きで咲き継いでいる‘ピンクランタン’も大好きな品種です。淡いピンクとレモンイエローのパステルカラー小花が、春風にチラチラと揺れる様子を目にするだけで、ふわっと心が明るくなります。
その側では、シラー・カンパニュラータが寄り添うように咲き誇り、「ベル」と「ランタン」の心躍る賑やかな競演も春の楽しみの一つです。

これらのオダマキは、全てこぼれ種と種まきで増やせる強健種ですが、蒸れと暑さが苦手なので、鹿沼土多めの水はけのよい土と、真夏の日差しを遮る木陰に植えています。また、肥料過多もうどんこ病の原因になるそうなので程々に。
フロックス‘ムーディブルー’

ラベンダーブルーの花弁に赤紫色の目が入るフロックス‘ムーディブルー’は、広がるように生育する這性のフロックス。花色のコントラストが新鮮で、個性的でありながら他の花を邪魔しないふんわりと優しげな小花は、主役にも脇役になれます。

また、花期が長いのも嬉しいところ。春はブラックチューリップや西洋オダマキ、初夏には、高性のジキタリスやリナリアの株元をふんわり彩ります。
耐寒性に優れているので冬越ししますが、どうやらここ数年の暑さがちょっと苦手なよう。できるだけ通気性を保てるように、花後の切り戻しと秋の株分けが欠かせません。
アジュガとタツナミソウ

耐暑性と耐寒性はもちろん、どんな悪条件の場所でも逞しく育つアジュガとタツナミソウは、グラウンドカバーの救世主。砂利を敷いた駐車場の奥を一部、土壌改良して花壇に作り替えていますが、半日陰で乾燥しがちなこの場所でも驚くほど繁殖して、花壇の縁取りやグラウンドカバーにもなりました。
ポピュラーなアジュガですが、春は、青紫色の小花が幾重にも重なり花茎も長いので、グラウンドカバーとはいえ存在感抜群。艶感のある美しい銅葉とのコンビネーションが、シックな雰囲気を醸し出しています。また、花後もカラーリーフとして春から初冬まで楽しめるうえ、一度根づけば、繁殖を株分けでコントロールする以外ほぼ手間入らず。まさに、コスパ最強です。

花好きの友人から株分けしてもらったタツナミソウは、アジュガに比べると小さくて一見やや見劣りしますが、間近で見る花は、「タツナミソウ(立浪草)」の名の通り、打ち寄せる浪のよう。清らでどこか儚げな風情に心が洗われます。その見た目とは裏腹に、驚くほど生育旺盛。花後に切り戻しておくと秋にも開花し、こぼれ種であちこち姿を表します。もちろんそのままにしておくこともありますが、移植したり友人に株分けします。
丈夫で可憐な山野草

長年、何となく敷居が高くて手が出せなかった山野草。
ですが、3年前の春に、帰省の折に訪れた高知県立牧野植物園で販売していたバイカオウレンに心惹かれ、庭に迎えて以来、今ではすっかり山野草の虜です。

ご存じの通り、バイカオウレンは敬愛する牧野富太郎先生が最も愛する花であり、子供の頃から大好きな牧野植物園のシンボル。私にとってちょっと特別な花です。とはいえ、庭に山野草を植えるのはこの時が初めてだったので、北東の庭の一部を山野草用に土壌改良することから始めました。1年目は、ちゃんと根付いてくれるかドキドキしましたが、翌春も無事に花が咲きどれほど嬉しかったことか。

その時、初めて山野草を育てる自信が持てたような気がします。それからは、園芸店に行っても先ずは山野草コーナーに。目に止まった可憐な花が一つ、また一つと庭に増えていきました。

春の山野草は、2月下旬に咲き始めるバイカオウレンに始まり、ユキザサ、イカリソウ、斑入りチゴユリ、オサバグサ、八重咲き一輪草。そして、わが家では山野草扱いのオンファロデス‘スターリーアイズ’と庭に自生しているタチツボスミレ。どの花も極小ながらそれぞれが個性的で、園芸種にはない野趣溢れる愛らしさ。

見れば見るほど魅せられて、しゃがんだままその場から暫く動けなくなります。また、花だけでなく葉の色も形状もじつにさまざま。庭に植えて初めて山野草の葉の美しさに気づきました。

もともとは、野山に自生している山野草。生育環境さえ整えば、意外と自然に育つ手のかからない有難い植物かもしれません。
いよいよ春本番。再び巡ってきた春の多年草(宿根草)との再会に心が躍ります。
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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