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2019年の台風で被害を受け、クラウドファンディングなどの復旧支援プロジェクトにより見事に復活した千葉県佐倉市「佐倉草ぶえの丘バラ園」は、立体的なつるバラの演出や希少な品種がコレクションされている貴重なバラ園です。前身の「ローズガーデン・アルバ」を訪れてから約20年になるという写真家でエッセイストの松本路子さんが、今年の5月、「佐倉草ぶえの丘バラ園」を再び訪問。これまでのバラ園の歩みを振り返りながら、バラの咲き誇る様子を美しい写真とともにレポートします。

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復活したバラ園

佐倉草ぶえの丘バラ園

今年5月、数年ぶりに千葉県佐倉市の「佐倉草ぶえの丘バラ園」を訪れた。アーチやパーゴラ、スクリーンなどの立体的なつるバラの設えが充実し、バラの香りに包まれながらの散策は、以前にもまして、至福の時間をもたらしてくれた。

佐倉草ぶえの丘バラ園
オールドローズガーデン入り口付近のアーチとつるバラのスクリーン。

2019年9月、台風15号で壊滅的な被害を受けたバラ園が、クラウドファンディングなどの復旧支援プロジェクトを経て、見事に復活した様子は聞き及んでいたが、その後もコロナ禍ですっかりご無沙汰してしまった。今回、あらためて野生のバラやオールドローズを中心とするバラ園の景観に魅せられた。また、このバラ園の前身ともいえる「ローズガーデン・アルバ」を訪ねた時のことを思い起こしていた。

ローズガーデン・アルバ

佐倉草ぶえの丘バラ園
オールドローズガーデンの芝生を背景にした景観。パーゴラのバラ‘フランソワ・ジュランビル’と、デルフィニウムの紫が鮮やかなコントラストを描き出す。

友人に誘われて、佐倉市の「ローズガーデン・アルバ」を訪ねたのは、2003年頃だった。畑の中に忽然と現れたバラ園のユニークな佇まいと、初めて見るバラの種類が多かったことが記憶に残っている。園内の道具小屋の手前のアーチに咲くつるバラ‘シティ・オブ・ヨーク’に惹かれ、帰ってから早速苗を求めた。以来、わが家では鉢植えながら、このバラが7mほど枝を伸ばしている。

佐倉草ぶえの丘バラ園
バラ園入り口付近の鈴木省三(すずきせいぞう)コーナー。日本の風土に合ったバラの探求に生涯を捧げ、「バラの父」と評される鈴木省三作出のバラが集められている。

「ローズガーデン・アルバ」はNPO法人バラ文化研究所により、野生バラやオールドローズの収集・保存・研究を目的としてつくられた。わが国の「バラの父」と称される育種家・研究者の鈴木省三(1913-2000)のコレクションが母体となっている。

「佐倉草ぶえの丘バラ園」開園

「ローズガーデン・アルバ」は2004年に閉じられ、その後、現在の場所で新たに「佐倉草ぶえの丘バラ園」として開園された。佐倉市の公共施設の中にあり、バラ園の管理、運営はNPO法人バラ文化研究所に委託されている。面積は13,000㎡と広く、現在1,250種、2,500株のバラを見ることができる。

佐倉草ぶえの丘バラ園
‘オールド・ブラッシュ’が咲き誇る 中国のバラコーナー。

園内は15のエリアに分けられ、鈴木省三コーナー、植物画家ルドゥーテが描いたバラを集めたルドゥーテコーナー、歴史コーナー、ヨーロッパ、中国、日本それぞれの野生バラコーナー、香りのコーナーなど、テーマ別に植栽されている。

「とどろきばらえん」のこと

佐倉草ぶえの丘バラ園
上/バラに囲まれた鈴木省三夫妻の像。下/左から順に‘万葉’ ‘乾杯’ ‘天の川’。

鈴木省三コーナーでは、彼が生み出した「天の川」「万葉」「乾杯」「ひなまつり」など、日本語の名前がつけられたバラを見ることができる。「とどろき」というバラを見つけ、鈴木省三が1937年に24歳で開いたという「とどろきばらえん」に思いを馳せた。

バラ‘とどろき’
バラ‘とどろき’。鈴木省三は世田谷区奥沢に「とどろきばらえん」を開き、のちに京成バラ園芸(株)の研究所所長を務め、生涯で約120種類のバラを作出した。

かつて私の父がバラの話になると、いつもなつかしそうに語ったのが、「とどろきばらえん」のことだった。第二次世界大戦後すぐのことで、若かった父がバラを育てるようになったきっかけの場所だという。父の語り口が鮮やかだったので、私は自分が訪れたことのあるバラ園のような気がしている。

鈴木省三コーナー入口
鈴木省三コーナー入り口。

ルドゥーテコーナー

ルドゥーテの『バラ図譜』に登場するバラ
左/ロサ・ガリカ・オフィキナーリス。右/‘スレイターズ・クリムズン・チャイナ’。ルドゥーテの描いた『バラ図譜』に登場するバラたち。

ルドゥーテは、ナポレオン皇妃ジョゼフィーヌの命を受け、彼女の居城マルメゾンのバラを描いたほか、当時のバラのほとんどを網羅した『バラ図譜』3巻を出版したことで知られる。このコーナーには、ロサ・ガリカ・オフィキナーリスや‘スレイターズ・クリムズン・チャイナ’など、『バラ図譜』に登場する野生バラやオールドローズが植えられている。

中国のバラ

チャイナローズ
中国のバラコーナー。ヨーロッパに渡り、バラの品種改良に大きく貢献した、チャイナローズを植栽している。

中国のバラが東インド会社を経由してヨーロッパに渡り、四季咲きのバラや、真紅色のバラを生み出すもととなったことは、バラの歴史の中でも特筆すべきことだろう。中国のバラコーナーでひときわ目についたのが、‘オールド・ブラッシュ’。18世紀、最初にヨーロッパにもたらされた4種類のバラのうちの一つで、それまでヨーロッパに無かった四季咲きのバラの誕生に貢献している。

‘オールド・ブラッシュ’
‘オールド・ブラッシュ’。中国原産のバラで、庚申バラの一種として知られる。

日本のバラ

‘ツクシイバラ’
ツクシイバラ。日本の野生バラの一つで、ノイバラの変種とされる。ツクシは九州を意味し、九州を中心に自生。熊本県球磨川河岸では数千本の群生が見られる。

日本にはハマナスやノイバラなど、十数種の野生のバラが自生している。2012年に『日本のバラ』(淡交社刊)を出版した時、「佐倉草ぶえの丘バラ園」でいくつかのバラを撮影させてもらった。熊本県の球磨川河岸などに自生するツクシイバラ、本州や北海道の高山でしか見られないカラフトイバラなど、稀少なバラを見ることができる。

NPO法人バラ文化研究所の協力で、江戸時代に作られた植物図鑑『本草図譜』から、当時描かれたバラの図を写真に収めたことも忘れがたい。

ホワイト&ピンクコーナー

佐倉草ぶえの丘バラ園
オールドローズガーデンのホワイト&ピンクコーナー。

オールドローズにもっとも多く見られるのが、白色とローズ色のバラ。同じ白やローズでも、色は微妙に異なるので、この2色のグラデーションが幻想的な情景を生み出している。東屋を覆うように咲く‘ホワイト・ミセス・フライト’がとりわけ見事だ。

‘ホワイト・ミセス・フライト’
‘ホワイト・ミセス・フライト’。1916年にT.ロックフォード、1923年にオランダのコスター&ゾネンによって発見されたオールドローズ。

「インドの夢」と「サンタ・マリアの谷」

佐倉草ぶえの丘バラ園
「インドの夢」と名付けられたコーナーに咲くバラ。

比較的新しくできた2つのエリア。「インドの夢」では、インドの亜熱帯地域に自生するロサ・クリノフィラを使い、亜熱帯地方でも丈夫に育つようにと改良された苗が植栽されている。世界的に温暖化が進む中で、これから暑さに強いバラは、より必要とされるだろう。

佐倉草ぶえの丘バラ園
「サンタ・マリアの谷」。

「サンタ・マリアの谷」は、北イタリア、サンタ・マリアのバラ研究家、ヘルガ・ブリッシェから贈られたバラが植栽されている。バラ園の入り口付近から、谷を下りる形で散策できるエリア。

つるバラとコンパニオンプランツの設え

佐倉草ぶえの丘バラ園
左/‘ボビー・ジェームス’や、右/‘トレジャー・トロープ’が枝を広げる、オールドローズガーデン。

バラの歴史や分類を辿る楽しみもさることながら、回廊式の小道を歩くと、さまざまに展開するバラの設えが眼福で、次第に気持ちが弾んでくる。‘ボビー・ジェームス’ ‘トレジャー・トロープ’などのバラが巨大な姿を見せるオールドローズガーデンや、いたるところのパーゴラやスクリーンに見られるつるバラが特に秀逸。‘ニューポート・フェアリー’のようにパーゴラの屋根とスクリーンに連なり、こぼれんばかりに咲く花もある。

佐倉草ぶえの丘バラ園
歴史コーナーのスクリーンとパーゴラに絡む‘ニューポート・フェアリー’。

景観を際立たせているのが、宿根草をはじめとする、一年草や球根植物など、さまざまなコンパニオンプランツ。ジギタリス、デルフィニウム、オルレア、カモミールなど、淡い色の花や葉がバラの株元にそよぐさまは、風薫る野原を連想させ、心地よい空間を生み出している。

佐倉草ぶえの丘バラ園
ジギタリスやオルレアなどが、優しげな色でバラに寄り添っている。
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