高齢者だけじゃない! だれにでも優しいユニバ―サルデザインの庭づくり

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厚生労働省が発表した資料によると、2018年の日本人の平均寿命は、男性が81.25歳、女性が87.32歳。1980年は、男性73.35歳、女性78.76歳であったことから、約38年間で男女共に約8年長生きしていることになります。これからの住まいは、エクステリアも含めて、健常者や障害者、高齢者ともに使いやすい「ユニバーサルデザイン」が大切になってきます。さて、ユニバーサルデザインとは? イラストを混ぜながら、ユニバーサルデザインについて具体的に解説しましょう。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
段差をなくしたり、手すりを設けたり、身体障害者や高齢者の生活上の支障となるものを取り除く施策のことを「バリアフリー」といいます。
一方、ユニバーサルデザインとは、障害の有無や文化、言語、国籍、年齢、性別、人種などにかかわらず、より多くの人々が利用しやすいように、製品やサービス、環境をデザインする考え方です。
バリアフリーは、身体障害者のために使いやすくすることを目的にしています。ユニバーサルデザインは、身体害者も健常者も共に使いやすいことがポイント。
当然のことですが、人は誰でも年を取り、身体の機能は衰えるものです。親と同居している家庭では、自分より先にまず親の身体的衰えに直面し、何かしらの対策が必ず必要になります。
現在、あなた自身は何も困っていなくても、今のうちから知識や情報を探っておくことをおすすめします。
障害の有無にかかわらず便利なユニバーサルデザイン
それでは、ユニバーサルデザインの具体例を詳しく解説していきましょう。
1. 階段のデザイン

アプローチや玄関ポーチに階段があるところは、目の不自由な方や高齢者にとっては気をつけたいところです。そこで、階段の段先に色の濃いタイルを使用し、目に入りやすくします。さらに、踏面(ふみづら)は摩擦係数の高い材料を使用して、滑りにくくします。
2. 車いす

車いすは、身体の機能障害により、歩行困難な方の移動に使用する福祉器具です。車いすのサイズは微妙な違いはありますが、図のように、幅は62cm程度です。通路幅は最低でも90cmとし、動きやすいようにしましょう。また、補助する人が車いすの脇に立つことも考えて、移動できる通路幅は余裕を見て、120cm(1.2m)以上を確保できるのが理想です。
3. スロープ

車いすで移動するスロープの通路幅は、90cm以上です。人とのすれ違いを考慮すると120cm(1.2m)以上が必要です。

■スロープ表示の考え方
一般に、車いすでの移動のスロープの勾配は1/12~1/15といわれています。これは、約8.3~6.7%の勾配になります。
では、スロープの勾配は、分数やパーセントで表していますが、どういう意味で解釈すればいいのでしょうか?
「スロープの勾配=高低差÷距離」で表します。
例えば、高低差が50cmで、距離が300cmのスロープだったら、
分数の場合は、高低差50cm÷距離300cm=50÷300=勾配1/6
パーセントの場合は、高低差50cm÷距離300cm=0.16666…なので四捨五入して、16.7%で表します。
参考までに、国土交通省ではスロープの勾配は、屋内は1/12(8.3%)、屋外は、1/15(6.7%)を基準とし、それ以外のスロープについては手すりを設置することが定められています。
4. 段差のあるスロープや階段

段差のあるスロープや階段は、車いすでの移動は難しい部分です。階段の蹴上(けあげ)が10cm以内であれば、補助する人がつくことで車いすを移動することができます。これはフットレストの高さが10cm以上だからです。
■作業台

立ち上がりのあるプランターは、いすに座ったまま作業ができる。
イラストのように、立ち上がりのあるプランターもあります。これを、「レイズドベッド」といいます。
いすや車いすに座ったままでも、机のように足が入る空間があるため、ガーデニング作業がしやすいのが特徴です。いろいろなデザインがあるので、エクステリアメーカーのカタログなどで調べてみましょう。
■駐車場

車いす利用者が駐車場を使う場合を考えてみましょう。図のように、車いすに乗ったままで、車に移動できる通路幅は1.2m以上です。また、ステーションワゴンの車幅は1.8m程度なので、全体の幅は余裕を見て、3.5mが必要になります。
■昇降機


昇降機は、人や物をカゴ状の容器に乗せて、建物の階層間をエレベーターのように縦方向に運搬する機械です。道路から玄関までの高低差がある場合は、住まう人の年齢が若いときは、アプローチ階段脇をプランターにして、シンボルツリーなどを植えてアプローチにうるおいを持たせます。時が過ぎ、高齢になって足が不自由になったときは、プランターの場所に、昇降機を設置することで、車いすに乗ったまま、玄関前まで移動することができるようになります。
※参考文献:「高齢者と家族のためのユニバーサルエクステリア」広葉書林
著者:(株)草樹舎 須長一繁氏
だれにも優しいエクステリアとガーデンデザイン
エクステリアやガーデンに、ユニバーサルデザインを取り入れた例をご紹介します。高齢者が住みやすい提案です。

①テラスやウッドデッキから室内に入る車いすのスロープ
車いすの移動で苦労するのは、階段などの段差がある通路です。補助する人が付き添っていても、車いすに乗ったままでの移動はできません。そこで、段差のある玄関ポーチから玄関に入らず、庭のテラスやウッドデッキから入ります。もちろん、ウッドデッキやテラスは1階のリビングなどの室内と同じ高さにする必要があります。図面やイラストのように、一般に地面から住宅の1階フロアまでの高さは50~60cmあるので、8mのスロープでは、1/16~1/13.3(6.25~7.5%)のゆるい勾配のスロープになります。
②タイル帯で距離感を分かりやすく
スロープの舗装面は滑りにくいザラザラした仕上げにし、等間隔にタイル帯を入れることで、目で距離を感じることができ、あせることなく、移動も確実に安心して行えます。

③車いすに座ったままでガーデニング
植物は、タネをまき、芽が出て、花が咲くまでの生長を見守りながら育てていくことで、心身も安らぎ、元気に生きていく楽しみができます。身体に不自由があったり、不安を抱えている人にとって、植物の生命力はなおさら力になってくれるでしょう。誰でもガーデニングが楽しめるように、いすや車いすに座ったままで作業ができるプランターを、テラスやウッドデッキに設置しましょう。
④ウッドデッキやスロープで気をつけること
a. ウッドデッキでの車いすの移動は、落下しないようにフェンスを付けることが大切です。図面のように、塀際までウッドデッキにすれば、フェンスを取り付ける必要はありません。
b. スロープでは草目地などでも車いすのタイヤがはまってしまったり、動きにくくなってしまいます。床面の凹凸は極力なくすことをおすすめします。一方、スロープや通路の両脇にあるプランターは、レンガ1枚の高さでもよいので立ち上がりをつけ、タイヤのストッパーになるようにしましょう。
c. 車いすで移動する視線は、立って移動する視線よりも不安や怖い思いをすることがあります。洗濯物やハンギングの鉢物を吊る高さは、車いすに座った人の目の高さを避けるよう配慮が必要です。トレリスにツル植物を這わせれば、ハンギングのように、塀や壁から飛び出すことがないので、見栄えもよく安心ですね。
⑤ガーデンファニチャーは折りたたみ式で
ウッドデッキやテラスに置くテーブルやいすなどのガーデンファニチャーは、サイズにもよりますが、意外と場所をとるものです。車いすの移動がしやすいように、使わないときは折りたたんで、ウッドデッキ下に収納するとよいでしょう。

ユニバーサルデザインは、身体障害者も健常者も共に使いやすいデザインです。
障害の有無にかかわらず、今後最も増加する高齢者のためにも、玄関ポーチやアプローチの階段、車いすのためのスロープなど、エクステリアやガーデンに、ユニバーサルデザインを取り入れましょう。そして、おじいちゃんや、おばあちゃん、家族全員で過ごしやすい生活ができるように、リフォームしていきましょう。
Credit

文&イラスト/松下高弘(まつしたたかひろ)
長野県飯田市生まれ。元東京デザイン専門学校講師。株式会社タカショー発行の『エクステリア&ガーデンテキストブック』監修。ガーデンセラピーコーディネーター1級所持。建築・エクステリアの企画事務所「エムデザインファクトリー」を主宰し、手描きパース・イラスト・CG・模型等のプレゼンテーションや大手ハウスメーカー社員研修、エクステリア業の研修講師およびセミナープロデュースを行う。
著書には、『エクステリアの色とデザイン(グリーン情報)』、『住宅エクステリアのパース・スケッチ・プレゼンが上達する本(彰国社)』など。新刊『気持ちをつかむ住宅インテリアパース(彰国社)』、好評につき絶賛発売中!!