いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-

いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-の記事
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。芝とハーブとバラがコラボする庭 愛知・寺田邸
僕が初めて寺田まりこさんにお会いしたのは、2017年の4月下旬。愛知県豊橋の内田さんが主催してくれた写真講座の時でした。その会は、バラが好きで、庭が好きで、写真も好きという皆さんが静岡や浜松、豊橋、名古屋周辺から集まり、午前中は僕の写真を見ながらのセミナーを行い、昼食を挟んで午後からは、4軒の庭を実際に巡りながらフラワーアレンジや寄せ植えを撮影したり、庭の撮影をするなど、とても盛りだくさんの楽しい一日となりました。 昼食の時間や移動中の話題は、もちろんきれいな庭の話になります。僕も例年秋に刊行される『New Roses』(産経メディックス発行)の秋号用に、バラの庭の撮影依頼を受けていたので、この時間を生かして、皆さんがご存じの美しい庭の情報は聞き逃すわけにはいきません。 以前から名古屋には、バラの苗を扱う専門会社である「花ごころ」さんがあり、この地域では「デルバール」や「河本バラ園」さんが作出したバラが人気になっていたのは知っていたので、きっと撮影にふさわしい庭があると確信を持ってお話を聞いていました。そんな楽しい会話の中で、何人かの方から寺田さんの庭をすすめていただきました。そして、ご本人からも「来ていただけたら嬉しいです」と了解をいただいたので、5月のバラの時期に伺いますと約束をしました。 5月21日。バラの撮影もピークを迎える頃、静岡から名古屋、そして岐阜の「花フェスタ記念公園」へと続く長い取材旅行が始まりました。21日の午後は浜松にあるオープンガーデンのすてきなバラの庭2軒を巡り、夜は豊橋に一泊。翌朝は早朝5時から黒田さんの庭の撮影です。この時に撮影した黒田さんの庭は、この連載の第1回「絵を描くように植栽する愛知・黒田邸」です。お天気にも恵まれ、黒田さんの庭の撮影を終え、一休みをした後に寺田さんの庭に向かいました。 豊橋から寺田さんのお宅までは約40分の一本道で、あっという間に到着です。駐車場に車を入れて寺田さんの案内で庭に向かうと、まず目に入ったのは、広い緑の芝生。その中ほどに、シンボリックな針葉樹と神谷造園さんがつくったドライストーンウォーリング。左に目を移すと、芝生を囲むコの字形のバラのエリアがあります。 薄いブルーに塗られたフェンスとトンネルには色鮮やかなバラが絡み咲き、足元にはネペタなどのさまざまな宿根草が咲く、まさに僕好みのガーデンがありました。広い庭を一周している間、いたるところで可愛い小花が咲き乱れ、アーチにはバラとクレマチスが生き生きと咲いています。あと僕に必要なのは、夕方のきれいな光だけでした。 夕方までまだ4時間くらいありそうなので、寺田さんには夕方にまた来ますと約束をして、以前訪問したことのあるお宅に行ってみることにしたのです。そちらのお宅も、デルバールのバラが壁面いっぱいに咲いていて『New Roses』に掲載してもらうには最適なガーデンでした。ドピーカンの天気を恨みながらも庭を見せていただき、近くの庭も紹介してもらったあと、再び寺田さんの庭に戻りました。 時刻は夕方の5時を少し過ぎて、斜めの光が当たりだした寺田さんの庭は、昼過ぎに見た庭とは全然違う表情を見せ始めています。先ほどは何気なく通り過ぎた小径が見違えるほど美しく輝き、今が盛りと咲き乱れるバラやクレマチスにレンズを向けては、ため息。 夢中でシャッターを切り続け、日が暮れるまでの貴重な時間を最大限生かして、広い庭のあちこちを歩き回って、7時過ぎに撮影を終了しました。 この日は、早朝には豊橋の黒田さん、そして夕方には寺田さんという、本当に美しい2つの庭の撮影を実現することができた、撮影人生においてなかなかない、とても幸せな一日でした。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。イギリス以上にイギリスを感じる庭 山梨・神谷邸
2012年5月、この年は秋刊行予定で後藤みどりさんの著作『美しいバラの庭づくり』の出版が決まっていたため、5月中旬以降は毎日のように山梨の甲府周辺にある可愛いバラの庭に伺って撮影をしていました。その日も、いつものように双葉にあるHさんの庭で朝5時から撮影を開始。レンガ仕立ての洋風のお宅の前が植栽スペースになっていて、いくつものパーゴラやフェンスにバラとクレマチスがセンスよく植えられた、とっても可愛い庭でした。僕もクレマチスが育つ庭が大好きだったので、レンズを変えたり、パーゴラの反対側からカメラを向けたりして、楽しく撮影をしていました。撮影も一段落という時にHさんから「長坂の神谷さんのお庭には行かれましたか? イギリスみたいな素敵なお庭ですから、きっと今井さんお好きだと思いますよ」と教えていただき、さらには、まだ朝の6時半だというのに神谷さんに電話までしてくれたのを思い出します。 神谷さんとお話しすると「庭の具合は、撮影にはまだ少し早そうだけれど、よかったらお越しください」と言っていただいたので、中央自動車道で長坂インターへ。神谷さんのお宅にたどり着くには、ナビだと難しいというアドバイスで、近くのホームセンターまで迎えにきていただいてから神谷邸に向かいました。途中、Hさんが話していた「イギリスみたいな素敵なお庭」ってどんな感じだろう? 八ヶ岳という地域でイメージすると、鬱蒼とした林の中のバラの庭かな? なんて考えながら、神谷さんの車の後について行きました。すると、目の前に突然、イギリスの田舎を思わせるおしゃれなガレージが現れました。 車を下りて神谷さんについて歩き、まだ工事中の門を抜けると、そこには驚くような光景が広がっていたのです。まず、足元の小径をふさぐほどに茂ったキャットミントの紫色。頭上から覆いかぶさるニセアカシアの明るい緑の葉に挟まれた向こう側には、飾り窓のあるハチミツ色のコッツウォルドストーンの壁がありました。壁の前にはブルーのチェアーときれいに刈り込まれたトピアリーが2つ、対称に置かれています。右に曲がると足元にはライオンの像。その奥にチューダー調のお宅が現れ、これはイギリス以上にイギリスだ! と大感激。ハイテンションで撮影を開始しました。 コンサバトリーと塀に囲まれた中庭には、シンメトリーにデザインされた池と噴水があり、壁にはつるバラ。アイアンのゲートにはクレマチスのつぼみがいっぱいついています。家の前はノットガーデンで、家の裏手には小さな水辺と可愛い橋がありました。どの方向にレンズを向けても絵になってしまう、イギリス好きのカメラマンにとって最高の庭でした。 その日は、8時を過ぎ日差しが強くなってきたので、バラやクレマチスも開花にはまだ早いということもあって、後日また伺う約束をして撮影を終了しました。お茶をいただきながらお話を伺うと、神谷さんは以前、画家になるという夢があったそうで、今は絵を描くように庭づくりをしているということでした。ご自分のイメージを再現するために他人には頼まず、庭の構造物のほとんどを自作したというから驚きます。 これほど撮りがいのあるお庭を紹介してくれたHさんには本当に感謝しました。この年はこの後、早朝2回、夕方1回の合計3回に渡り撮影に伺って、自分でも納得のいく撮影ができました。この時の写真はガーデニング雑誌『BISES』のNo.80(2012年秋発刊)に掲載されました。 その撮影をきっかけにして、毎年のように神谷邸に伺い、早春のスイセンやチューリップ、秋の庭も撮らせていただいていましたが、今年2018年は「Garden Story」の連載が決まっていたので、久しぶりの本格的な撮影の約束をしました。神谷さんも撮影と掲載を快諾してくださり、そうして訪れた庭の完成度は、ここにご覧のように本当に素晴らしいものでした。 2018年5月27日。快晴の朝5時ちょっと前に到着すると、神谷さんはもう庭の掃除をすませて、僕の邪魔にならないようにと「終わったら教えてください」と言い残して家の中に入っていかれました。庭には僕1人。晴れた朝の美しい光が差す絵画のような庭を独り占めで撮影です。まずはじめは、朝の日差しが斜めに入り始めたノットガーデンの奥に三脚を構え、逆光気味に庭を眺めてみました。すると、芝と宿根草がキラキラと輝き出し、大好きなシチュエーションにもう興奮状態。幸せな時間を実感しながら、その後は少しずつ動く光を追いかけて、中庭のバラやノットガーデン、チューダー調のお宅などを撮影して、朝7時過ぎには撮影を終えました。 次の訪問日は、6月12日。前回5月の撮影が早朝だったので、この日は夕方に伺うことにしました。前回の撮影は本当に素晴らしいシチュエーションを撮ることができたので、今日はまだ咲いていなかった遅咲きのバラやクレマチスの撮影がメインかなぁと予想して庭へ向かいました。すると、宿根草が咲き進み、庭の様子が一変しているではないですか! 沈みゆく夕陽を浴びて輝き出す庭に立ち、再び興奮状態。夕陽が沈むまで庭を歩き回って、午後7時過ぎにようやく撮影を終了しました。 今回久しぶりに6年前の掲載誌『BISES』を見返して、何か物足りないものを感じました。あれほど自信満々で編集部に持って行ったあの写真は、確かにきれいに撮れてはいるけれど、撮影しているときの“あの感動”までは表現しきれていないと感じてしまったのです。今回ここでご紹介している写真の数々は、きっと6年前の写真よりいろいろなものが表現できたと思います。こんな素晴らしい撮影の機会を与えてくださった神谷さんに、改めて感謝します。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。フォトジェニックな庭 長野・熊井邸
2017年6月初旬、静岡の「クレマチスの丘」の撮影中に、スマートフォンにメッセージが入りました。送り主は、千葉の流山オープンガーデンに所属する橋本景子さん。「今、長野に来ていますが、熊井さんのお庭がすごくいいですよ! バラの勢いがすばらしいですから、是非行ってみてください」。このメッセージが熊井さんのお庭に伺うきっかけでした。6月初旬は、まだいろいろ撮影の約束が詰まっている時で、連絡を頂いたからすぐ翌日にという訳にはいかなかったのですが、それでも橋本さんが絶好のタイミングを知らせてくれた庭ですし、以前から信州に行く度に熊井さんのお名前はお聞きしていたので、どうにかスケジュールを調整して3日後に向かうことにしました。 クレマチスの丘の撮影を済ませた後、1泊2日の新潟「国営越後丘陵公園」のバラ園の撮影を夕方までして、その夜のうちに長野のホテルにまでたどり着きました。熊井さんには、「明日伺います」と連絡を入れて早々に就寝です。翌朝5時、少し前に起きてみると、天気はどんより曇り空で、時々小雨も降るという予報。ちょっと残念に思いながらも、とりあえず熊井さんの庭に向かうことにしました。 到着すると、駐車場の枕木にはびっしりと咲く‘マニントン・モーブ・ランブラー’が、小さな入り口を挟んで道沿いのフェンスには‘夢乙女’、‘アイスバーグ’、‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’、‘フランソワ・ジュランビル’……。僕の大好きなつるバラが、橋本さんが教えてくれた通り、ものすごい花数で咲いているではないですか! ‘マニントン・モーヴ・ランブラー’と‘夢乙女’の間にある小さな階段を上がると、今度は目の前にのれんのような仕立ての‘春霞(はるがすみ)’が。花ののれんを潜って奥に行くと、左手にはオールドローズの庭。右には2つの宿根草とオールドローズの庭があって、宿根草の花壇の中にペンキの落ちたアンティークタッチの脚立が立っていたり、古い農具が掛けてあったり。まるでイギリスの田舎にでも迷い込んだような気分でした。 空を見上げても日が射してくる様子はないのですが、こんな素敵な庭を前にして撮影せずに帰るというのも考えられず、とりあえず撮影を開始。しかし、きれいに咲いているバラの前に立ってレンズを向ける度に、「ここにきれいな光が射していたらな〜」という思いが増すばかり。結局、この日の撮影は熊井さんの庭の記録写真ということにして、「来年は絶対によく晴れた日の早朝に伺いますから」と言って、その日は帰ることにしました。 後日、自宅に戻ってPCに整理した写真を改めて見てみると、バラのコンデションもよいし、仕立ても可愛らしい庭だし、来年は完璧に撮影して、このGarden Storyの連載に登場していただこうと心に決めました。 今年も6月に入り、「クレマチスの丘」、「イングリッシュガーデン ローザンベリー多和田」と撮影が続き、いよいよ熊井さんの庭の撮影です。今回は天気予報も晴れ、5時少し前には到着。そーっと車を止めて、まずは‘マニントン・モーヴ・ランブラー’のもとへ。昇りかけた朝陽が斜めから優しく当たって、庭はキラキラと輝き出し、最高に幸せな気分で撮影開始です。 フェンスのつるバラは今年もきれいに咲き揃い、間から顔を出すクレマチスも本当に可愛い。熊井さんのバラとクレマチスの趣味は、完全に僕の趣味と一致するな〜なんて思いながら、太陽の位置を確認しつつ、裏のオールドローズの庭に行ったり、表のフェンスに戻ったり。1時間半くらい幸せな撮影をして、熊井さんが「もう終わりますか?」とコーヒーを淹れてくださったところで、日差しも強くなってきたことだしと、撮影は無事終了しました。 この原稿を書くにあたって、熊井さんにいくつかの質問をさせていただきました。「長野の良い点と悪い点は?」については、「良い点は12月の終わりに降った雪が根雪になり、冬の庭は真っ白な世界。ガーデニングは何もできません。だからこそ春になって雪が解けて、お庭に出られる喜びが大きいんです」と。雪国の方は、皆さん同じことをおっしゃるんだな〜なんて思いながら回答の続きを読むと、「悪い点は思いつきません」とのこと。雪国でバラの庭をつくることは、暖地の何倍も大変なんだろうと想像していたので、「思いつかない」という熊井さんの長野愛の深さに、ちょっと感動しました。 「優しい色合いで繊細な感じがするからオールドローズが好き」と言う熊井さん。今後はグラス類を増やしていきたいそうです。信州にはそうした宿根草やグラスの素敵なお手本になる庭も沢山あるので、熊井さんの庭もますます素敵に進化していくのだろうなと思います。また2〜3年後の晴れた日の早朝に、撮影に伺いたいと思いました。
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みんなの庭
緑が美しい大人シックの庭 福島・小泉邸【カメラマンが訪ねた感動の花の庭】
緑が美しい!大人でシックな庭を訪ねて 今回紹介するのは、前回ご紹介した大須賀由美子さんのお友達である、小泉真由美さんの、とっても緑の美しい、大人でシックな庭です。僕が最初に福島県郡山市にある小泉さんの庭に伺ったのは2005年のことでした。この年は、『バラ大百科』(上田善弘・河合伸志監修/NHK出版刊)という本格的な図鑑の制作に関わっていたため、僕もとても忙しい年だったと記憶しています。 その時の撮影スケジュールといえば、5月はじめに「広島バラ園」の撮影から始まり、福山の次は岡山へとバラの庭を次々と撮影し、翌週には東京周辺の撮影を済ませたら、6月に北関東や長野、仙台と撮影は続きました。 当時、仙台のオープンガーデンはきれいな庭がたくさんあることで話題になっていたので、僕も何度も撮影に伺って、何軒も素敵な庭を撮影させていただきました。撮影の間にお世話になった「オープンガーデンみやぎ」の代表の大森さんから、郡山にも素敵なお庭がありますよ、と紹介していただいたのが、今回の小泉さんの庭でした。 植物と調和するフェンスなどの構造物はご主人のDIY 小泉さんの庭は、あの頃よく撮影に訪れたバラを中心にした庭とは少し違っていて、ジギタリスやホスタが美しい、宿根草が植わり、イングリッシュローズなど何種類ものバラがバランスよく入っている、落ち着いた印象のデザインでした。フェンスやパーゴラなどの構造物は、すべてご主人のお手製というのも魅力的でした。 庭に入ってすぐの左側にある花壇の白いバラと、すっと立った何本もの白いジギタリスのコラボレーションがあまりにも美しかったので、何度もアングルを変えながら夢中で撮影したことを今でも覚えています。 訪れるたびにグレードアップする庭 あれからもう13年が経ちますが、これまでも取材で何回も伺っています。小泉さんの庭は、訪れる度にどこかが変わっていて、少しずつ小泉さんらしい庭になっていっているような気がしていました。 小泉さんは庭づくりを始めた頃、東北にもオープンガーデンがあることを知って、「オープンガーデンみやぎ」に入会していたことがあるそうです。「オープンガーデンみやぎ」の皆さんの、バラと草花の素敵な庭を見せていただいて感動した小泉さんは、一番多い時には200品種のバラを育てていたそうです。 僕が初めてお邪魔した時も、たくさんのバラと色鮮やかな草花が咲く、明るく元気な印象の庭だったと思います。それから少しずつバラを減らして、葉のきれいな植物を増やしていき、何年もかけて現在の形にたどり着いたという訳です。 庭の撮影に伺い、一通り撮り終わると、いつも美味しいお茶にお菓子のしばしのティータイムになりますが、そんな時も小泉さんの口からは「どこか気になる所はありませんか?」とか「オススメのガーデンがあったら教えてください」と、話題に上るのは、庭のことばかりでした。 緑の中に引き立つクレマチスの美しさ 何年か前、僕がクレマチスの取材で忙しい頃に「クレマチスもきれいですよね」と言ったことがありましたが、今は小泉さんの庭のあちこちで、どの花も撮影したくなってしまうくらい可愛いクレマチスが咲いています。 理想は、草花も家族もホッとできる居心地のよい庭 この原稿を書くにあたって、小泉さんにいくつか質問をさせていただきましたが、「好きなガーデンは?」という質問には、「イギリスのベス・チャトー・ガーデンが計算されているのを感じさせないから好きです」というお答えでした。さらに「理想の庭は?」と質問してみると、「季節を感じつつ、草花がお互いを引き立てあって調和する庭。草花も家族もホッとできる居心地のよい庭」と小泉さん。 ガーデニングのベテランである方の目指すところは、やっぱり居心地のよい庭なのですね。そして、小泉さんの目指す、その居心地のよい庭づくりは、まだまだ続くとのことでした。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。大人可愛く進化した静岡・大須賀邸
このサイトへの連載企画が決まった時、僕の頭の中には何人かのグリーンフィンガーさんのお顔が浮かびました。その中の一人が、今回ご紹介する大須賀さんです。2008年5月の晴れた日の早朝、素敵なバラの庭があるとのことで、有島薫先生のご紹介でNHK出版の『趣味の園芸』の編集者さんと大須賀さんのお宅を訪ねました。 大須賀さんの庭へ入った瞬間、同行の編集者さんと僕は言葉を失い、ただニコニコしながら歩き回って、やっと交わした言葉は「素敵なお庭ですね」。何種類ものオールドローズやイングリッシュローズが見事に咲き、足元にはさまざまな宿根草が育ち、バラの花の間からはクレマチスが顔を見せるという、まるで絵のような庭でした。 僕は可愛いバラを見つけてはシャッターを切り、編集者さんはせっせとメモをとりながら何時間も取材は続き、日が高くなった頃、ようやく終了となりました。その時の取材が『趣味の園芸』編集長の目に留まったのか、その後も冬の庭作業まで含めて2、3度撮影&取材に伺いました。そうして翌年の5月号では、異例の10ページの大特集が組まれることになったのです。 この庭は、初めは和風で、野の花のような山野草を植えて楽しんでいたといいます。そんな大須賀さんがバラの庭に目覚めたのは20年前。ガーデニング雑誌や書籍に影響を受けて、とにかくオールドローズが欲しくて、日本橋三越本店屋上のガーデンショップ「チェルシーガーデン」まで出かけて行き、「オールドローズなら何でもいいのですが、何かありますか?」と、1本だけ残っていた‘シャポー・ドゥ・ナポレオン’を買って帰ったのが、ファーストローズだったといいます。 大須賀さんがお店に行った時は、あいにく有島先生はお留守でしたが、スタッフの方にいろいろ質問をしたそうです。あまりに熱心だったため、「詳しい者がイギリスに出張中で留守にしているので、帰国しましたら連絡をさせます」と言われ、後日、有島先生から連絡があったのをきっかけに、有島先生は大須賀さんにとっての師匠となったのです。「あまりに一生懸命で放っておけなかった」と有島先生は当時を振り返ります。 そうして最初の撮影から10年が経ちました。その間も何度かバラの季節にお電話をしたのですが、「今井さん遅い! 静岡はもうバラは終わりよ。もっと早く来て」と、いつもの明るい声で?られてしまいます。多分大須賀さんは、ベストを過ぎた庭は僕には見せたくないのかもしれないし、僕も一番きれいな時に行かなきゃと思っていたので、「すみません、また来年こそ伺います!」と言って電話を切りました。 この連載企画でぜひご紹介したいと思っていたので、2018年の今年は、少し早めに連絡をしました。すると大須賀さんは、いつもの明るい声で「ちょうどいいですよ。お待ちしてます」と快諾してくれました。大須賀さんがちょうどいいと招いてくれた庭は、きっと素敵なんだろうなどと期待しながら、午後3時に到着。まだ日差しの強い庭に入ると、そこは10年前と同じく、声を失う美しさでした。でも、以前と違うのは、優しい色合いの可愛い雰囲気から、大人っぽいおしゃれな色合わせの庭に変わっていたことでした。 1人でせっせと庭を歩き回り、「きれいだな」とつい何度もつぶやきながら、撮影スポットを見つけては太陽の位置を確認。撮影ポジションに三脚を立ててカメラをセットしたら、ベンチで光がよくなるのを待ちます。午後4時過ぎから少し曇ってきた空も、5時になるとさっと日が差し込んできて、いよいよ撮影開始です。 大須賀邸は、家をコの字に囲むように東西に細長く庭をつくっています。小道を進みながら日が差し込む方向を見て、撮影ポイントを決定。いい光になるのを待ちながら撮影を進めました。 まず西側の園路を挟んだ花壇(C)を、南に背を向けてカメラを構えます。左サイドからの夕方の光が、バラや宿根草を輝かせ、庭に息吹を与えます。 次に、隣のブルーのゲートをバックにしたレンガの園路(D)を、ここも言葉もない美しさで大満足です。東西に長い庭は、逆光になる時間帯なので、またベンチに座って光の感じが変わるのを待ちながら撮影を続けていると、ようやく撮影ポイントのAやBがある場所もいい感じの光になってきました。 逆光に輝くカラーリーフのコンテナ(B)を撮影して、最後はつるバラの‘レイニー・ブルー’のアーチ(A)を、ハレーション(光線が強く、白くぼやけて不鮮明になること)に気をつけながら撮影して、すっかり大人可愛く進化した、大須賀邸の庭の10年ぶりの撮影は終了しました。 撮影の後、ずいぶん庭の雰囲気が変わったと感想を伝えると、「これからもきっと、何かに心打たれてマイブームがやってくると思います。そのマイブームの積み重ねで、庭が少しでも自分にとって居心地のよい場所に成長してくれたらいいな」と、庭についての思いを教えてくれました。大須賀さんの言葉に共感です。
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。茨城「つくばローズガーデン」
今から10年ほど前に雑誌の企画で「オープンガーデンつくば」さんに取材に伺った際、何人かの方から「オープンガーデンのグループではないですけど、元市長の藤澤さんがつくった、なかなか立派なバラ園がありますよ」と教えていただいたことがありました。その時はそのまま忘れてしまっていましたが、オープンガーデンの取材も終わり、お世話になった方にお礼の電話をしている時に「来年は藤澤さんのお庭にぜひ行かれたらいいですよ」と改めて薦めていただいたことがお付き合いの始まりでした。 とはいっても、元市長さんに電話をするのは気後れして、大きな白いお屋敷にハイブリッドティーだらけのバラ園という勝手なイメージも邪魔をして、なかなか電話をできずにいました。しばらくどうしたものかと考えた末、やっと電話をかけてみると、藤澤さんはとてもていねいな優しい口調の方で、「写真に撮っていただけるような庭かどうか分かりませんが、それでもよかったらお越しください」と言ってくださいました。 最初の電話から半年が過ぎ、いよいよ再びバラのシーズンが始まり、藤沢さんのバラ園の撮影当日、どんな庭だろうと思いながら伺ってみると、目の前に現れたその庭は無数のバラが咲き乱れる、僕の勝手な想像とはまったく違う夢のような庭でした。 中央の緑の芝生のスペースを囲むように、左側にはツゲのヘッジに囲まれたオールドローズのエリア、その向こう側には大小さまざまなパーゴラが立ち並ぶイングリッシュローズのエリア。さらに奥には、フレンチブルーに塗られたトンネルに、フレンチローズが咲き乱れています。またまた奥のフェンスには、満開のつるバラ。右側のヘッジの中はミニバラのスタンダードとイングリッシュローズが咲き乱れ、見渡す限りすべてのバラが今が盛りと5月の優しい光の中で美しく咲いています。 バラ園の入り口で藤澤さんに挨拶をすませ、早速中へ。午後3時半の少し傾きかけた太陽の位置を確認して、撮影ポイントを探しながら歩き回ると、つるバラのアーチの下をくぐるときも、イングリッシュローズのパーゴラの脇を通るときも、さまざまな心地よいバラの香りに包まれます。きれいに咲いた花を見つけては、まず顔を近づけて香りを嗅いでから数枚のシャッターを切り、心の中で「ありがとう」とつぶやいてから次の花へ。そんな幸せな気分で過ごした日暮れまでの3時間でした。 藤澤さんは市長を務めている頃、つくば市にバラ園があるといいなと考えていたそうですが実現することはなく、ならば自宅の前の畑をバラ園に変えようと行動したそうです。バラ園をつくると決めた藤澤さんは、毎日のようにガーデニング誌『BISES』やDVDの『オードリー・ヘプバーンの庭園紀行』を見ながら構想を練り、馬ふん堆肥やウッドチップを使った土づくりから、パーゴラやアーチの製作、2,500株に及ぶバラの植え付けまで、1人ですべてをやってしまったというから驚きます。 バラの選定は千葉県のバラ園「草ぶえの丘」に通って、すっかり気に入ったオールドローズでと決めていましたが、知り合いからの意見もあり、ちょうどその頃流行りだしたイングリッシュローズを主流にしたそうです。それから13年間、毎年毎年4トンの馬ふん堆肥を入れ、米ぬかやカニ殻を自分流にブレンドした有機肥料を使いながらバラ園を育ててきた藤澤さん。 「バラを育てるのは難しいです。剪定も毎年悩みながらやっています。うまくいった年もあるし、うまくいかなかった年もあります。だからうまくいったら嬉しいし、うまくいかなかったら悔しいです。だからまた頑張れる。何といっても、きれいに咲いた時にお客様が喜んでくれるのが一番嬉しいです」と、いつもの笑顔で教えてくれました。 このバラ園での一番の思い出は、2014年に藤澤さんの発案で、福島県にあった「双葉ばら園」の写真展を開催できたことです。きっかけは、3.11の東日本大震災で被災された「双葉ばら園」の園主、岡田勝秀さんの仮住まいがご近所だったこと。岡田さんがときどき藤澤さんのバラ園にも来てくださることもあって、岡田さんへのエールの気持ちも込めた写真展企画でした。2013年発行の『BISES』No.87で双葉ばら園の特集を掲載していただいた八木編集長にも写真展への協力をお願いしたところ、快く引き受けていただき、「一瞬で幻となった双葉ばら園の43年間の記憶」という特集タイトルを写真展でも使わせていただきました。また、心のこもった挨拶文までいただいたのは、僕だけでなく藤澤さんにも岡田さんにも、本当に忘れられない思い出です。 先日、この記事を執筆することをお伝えするために藤澤さんを訪ねました。「原稿は今井さんにお任せしますよ。今年はつぼみがたくさんつきましたから楽しみです」と、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれました。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。魔法の光に包まれる山梨・塚原邸
今回ご紹介するのは、山梨県山中湖、標高1,000mにある塚原文隆、美智子ご夫妻のお庭です。冬はマイナス20℃を超えることもある厳しい気候の地域ですが、そのぶん夏はすべての花も草も木々もいっせいに輝き出すのです。特に、晴れた日の早朝と夕方は魔法の光に包まれ、夢心地になれる僕の大好きなガーデンです。 塚原さんご夫妻は、東京・八王子にお住まいだった時期があり、その頃の庭は、早春には木々の間に大株のクリスマスローズが咲き、球根類や季節ごとの草花が咲き乱れるジャングルのようだったといいます。それでも、植えたくても植えられない植物がたくさんあり、「もっと広い庭で大好きな草木を思う存分育ててみたい」「以前の庭では植えられなかったユキヤナギ、アジサイなどの低灌木や、ありとあらゆる花の咲く草花を植物園のように植えて、たくさんの人に見てもらいたい」と思うようになって、20年前にこの山中湖の土地を手に入れました。 山中湖に庭を持ったお二人は、しばらくの間は週末ガーデナーで、平日仕事が終わると毎日のようにガーデンセンターを巡り、金曜日の夕方になると車にいっぱいの花苗を積み込んで山に通っては、せっせと植え込みをしていたといいます。今では信じられない話ですが、名前も知らないまま、つるバラの‘ニュー・ドーン’と‘アイスバーグ’も植えていたそうです。当時はとにかく、いつの季節も庭に花が咲いていてほしいからと、春には球根やプリムローズなど、夏はベルガモットやフロックス(オイランソウ)、秋にはシュウメイギクやシュウカイドウ……。見たことがない珍しい草花は何でも買っていました。 本格的にバラにのめり込んだきっかけは、‘メアリー・ローズ’をはじめとするイングリッシュローズとの出会いでした。こんなに美しいバラの世界があるんだと知り、夢中になって「コマツガーデン」の教室に通って勉強もし、今日のバラと宿根草の庭をつくり上げたのでした。 2006年からは「山中湖チャリティーオープンガーデン」にも参加して、塚原さんの庭は、ますます輝きを増していきます。僕が初めて塚原さんご夫妻にお会いしたのは何年前のことか。もう思い出せないくらい以前のことです。埼玉の有名なバラのお宅で写真講座をさせていただいたことがあるのですが、参加者だった塚原夫妻は講座終了後に名刺をくださったのです。その時は、塚原夫妻の庭に何回も撮影に伺うことになるとは想像もしていませんでした。 その数年後、雑誌でオープンガーデンの記事の連載をしていたことから、関連する情報を各方面からもらっていました。ある年、何人かの知り合いが口を揃えて「山中湖のオープンガーデンがきれいらしいよ」「山中湖のオープンガーデンに行ってきたけど素晴らしかった」と言うので、そのオープンガーデンに行こうかと思っていたら、塚原夫妻を思い出しました。早速電話をすると、驚いたように「うちでよろしければ」と控えめなお返事。最後は「来ていただけたら嬉しいです」と快諾いただいたので、撮影日の約束をして電話を切りました。 約束の日、初めて伺った塚原さんの庭は、バラにクレマチス、ゲラニウム、アストランティアなどさまざまな草花が咲き乱れ、あちこちに草丈2mはあろうかというジギタリスまで咲いていました。信じられないような素敵な庭で、撮影が終わった頃には僕はすっかり塚原夫妻のお庭のファンになっていました。それ以来、つき合いのある雑誌で企画を立てては何度も伺いました。 ここでご紹介している多くの写真は、2016年に知人のAさんに声をかけてもらい、塚原さんの庭で写真講座をした日に撮影しました。この日はAさんとその仲間たちが、一人一品美味しい物を持ち寄るガーデンパーティーのような会で、前回、前々回とバラの育種家である河合伸志さんが招かれてバラの勉強会をしたといいます。河合さんの後とはちょっと敷居が高いなとも思いましたが、塚原邸の撮影ポイントも分かっていたことや、集まるメンバーも知った方たちだったので、お引き受けしました。 当日、午前中に庭を見渡せる素敵なリビングでスライドを見ながらお話をし、その後庭で撮影の実習です。撮影ポイントに三脚を立てて一人ずつファインダーを覗いてもらい、よいイメージを持ってもらった後に、実際の撮影に移りました。この手順は撮影の方法が分かりやすいと評判がよいので、僕の十八番になっていますが、この日はあいにく曇りだったため、僕の好みの光ではなかったのが残念でした。 撮影実習が終わると、お待ちかねのランチタイム。おしゃれなテーブルの上には乗り切らないほどの美味しそうな料理が並んで、ビュッフェスタイルのパーティーの始まりです。集まった皆さんは、お庭大好きな方ばかりだったので、話題は当然庭のこと。「今年はあの庭がよかった」とか「悪かった」とか、あっという間に時間は過ぎました。 皆さんが帰り、僕もそろそろ失礼しようかと機材の片付けをしながら庭に目をやると、雲の切れ間から一筋の光が差し込んできました。待ちに待った塚原さんの庭の魔法の時間の始まりです。さっきまでの喧噪が嘘のように静まり返った庭で、僕一人。目の前にはさまざまな宿根草が、ちょっとオレンジがかった優しい光に美しく浮かび上がっています。後はもう日が沈むまで、自分一人の幸せな時間をゆっくりと楽しみながらシャッターを切り続けるだけでした。
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みんなの庭
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。小輪のバラが道ゆく人を笑顔にする東京・水谷邸
「バラの村田晴夫さんの本を作ることになったので、撮影は今井さんにお願いしたいと思っています」と、お世話になっている編集者さんから連絡をいただいたのは、今から二十数年も前のことになります。1996年に出版された『バラの園を夢見て』を見て、「こんなきれいなバラがあったんだ」「バラで庭がつくれるんだ」と感動し、一度こんな撮影をしてみたいなと思っていた僕にとって、村田さんの庭の撮影は夢のようなお話で、嬉しくてすぐに快諾したのを覚えています。 撮影は、寒い冬の誘引と剪定から始まりました。村田さんがじっと腕組みをして考えごとを始めると、しばらく作業は中断。待ち時間は本当に寒かったのですが、剪定と誘引が終わった壁は、バラの枝で描かれた線画のように美しく、これが村田さんの世界なんだなとつくづく思いました。 春になると「モッコウバラは誰々さんの庭」、「小輪のつるバラは誰々さんの庭」というふうに、村田さんから撮影リストを受け取って、横浜や東京の杉並、三鷹、埼玉など、車で走り回る本当に楽しい日々でした。村田さんのお客様は、皆さんとてもバラに詳しく、撮影が終わると、お茶とお菓子をいただきながら、楽しいバラ談義が始まります。「Aさんのお庭はもう行ったの?」「素敵なお庭だからすぐに行きなさい」など、何も知らないで走り回っている僕がよほど頼りなく映ったのか、皆さんとても一生懸命にいろいろなことを教えてくれました。そんな会話の中で、必ずオススメの家として名前があがった数人のうちの1人が水谷園子さんでした。 「皆さんが素敵とおっしゃる水谷さんの庭は、いったいどんな風に素敵なんだろう」。ずっとそんなことを思いながら運転していて、教わった道の角を曲がった途端、目の前に本当に素敵なバラのお宅が出現しました。 立派な枕木とレンガでつくられたガレージと門扉には数種類の小輪のバラが咲き乱れ、足元には小花が咲いている、まるで絵のような風景でした。さっそく車をとめてチャイムを鳴らすと、小柄でおしゃれな水谷さんが笑顔で迎えてくれました。庭の中はダークブラウンの落ち着いた印象で、フェンスには白いナニワイバラ、足元には白や青の小花が咲いていて、どこを切り取っても絵になってしまう、まさにフォトジェニックな庭でした。 水谷さんは園芸好きだったお父様の影響で、子どもの頃から花が好きだったという筋金入りのグリーンフィンガーです。基本的には山野草が好きだそうで、白やブルー、黄色やピンクの花が咲いていても、決して派手な印象がなかったのは、そのあたりからきているのでしょう。クリスマスローズはレンテンローズと呼ばれていた頃から育てていて、ベゴニアでつき合いがあった「花郷園」の野口さんがクリスマスローズ協会を立ち上げた時は1年目から参加、地元、三鷹市の緑化ボランティアもしています。また、オープンガーデン歴も21年、宮崎の育種家さんのビオラも10年前から取り寄せてオープンガーデンの時に来訪者に販売していたそうです(今は東京でも買えるようになったので販売はしていません)。 そんな水谷さんが、バラの村田さんに初めて会ったのは、神代寺植物公園で村田さんご自身で苗の販売をなさっていた時のことだといいます。販売コーナーには、‘リトル・アーチスト’のスタンダード仕立てが並んでいて、当時写真でしか見たことがなかったスタンダード仕立てが買えることに感動し、また、そのスタンダード仕立てをつくった村田さんにすっかり魅了されてしまったのです。水谷さんは、村田さんが教室を開いた時も一期生として参加。その時の一期生のみなさんのお庭は、その後の撮影で何度もお邪魔させていただきました。 こうして、村田さんの本や雑誌の撮影をきっかけに訪ねるようになった皆さんのお庭は、どこをとっても素敵で、僕が今こうしてバラのカメラマンとしてあるのも、この頃の経験がとても大きいと感じています。村田さんは5年前に亡くなられましたが、今でもこの頃の皆さんにお会いすると村田さんの思い出話ばかりになってしまうのは、それだけ村田さんが愛されていたからなのでしょう。水谷さんは村田さんのことを「バラの精」と呼んでいたそうで、今でも毎年クラシックバレエの公演で[薔薇の精]という演目を見に行っては村田さんを偲んでいるそうです。 水谷さんの庭には、その後も、バラ、クリスマスローズ、寄せ植えの撮影と毎年のようにお邪魔していますが、いつ伺っても、どこを切り取ってもおしゃれです。可愛らしい花が好きな水谷さんのセンスが生きる丹精された庭。これからも素敵な庭づくりを続けてほしいと願っています。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。長年通ったアンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン【閉園】
「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」は、今から16年前の2002年4月に日本初の本格的イングリッシュガーデンとして群馬県太田市にオープンしました。 僕の家からは車で約3時間、決して近いという距離ではないのですが,この18年間で一番多く撮影に訪れたガーデンは、間違いなくこの「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」だと思います。 アンディ・マクルーラとウィリアム・ウルフの2人のイギリス人によってデザインされたこの庭は、イギリスのガーデンのエッセンスが随所にちりばめられていて、春、夏、秋、冬、どの季節も期待を裏切らない、僕にとってかけがえのないガーデンです。そして、多くのことを勉強させていただきました。 初めてこのガーデンを訪れたのは、おそらく2002年の5月だったと記憶しています。大型ホームセンターの「ジョイフル本田」新田店に付随した施設として、なんと群馬県にイングリッシュガーデンがオープンしたという噂を聞きつけました。当時イギリスのガーデニング関連の本を2冊手がけたカメラマンとしては、どんなガーデンなのか、この目で見ない訳にはいかないぞ! と、さっそく車を走らせたのを思い出します。 東北自動車道の館林I.Cを下りてから約1時間。とにかく遠い、というのが第一印象でした。しかし、いざ着いてみると、そこはまさにイギリスのガーデンにしか見えないではないですか。アンティーク調のレンガとアイアンの大きなゲート、その奥にはきれいに刈り込まれたツゲのヘッジと噴水……。長い時間をかけて駆けつけた甲斐がありました。 三脚をかついで小走りにガーデンに入り、夢中で撮影を始めました。ガーデン内は、白を基調にしたホワイトガーデンやサンクンガーデンにデザイナーのお子さんの名がついた2本の小径など、20のテーマに沿って一つずつ部屋のようにデザインされています。一つのガーデンを撮っては次へ、また次へと撮影はとてもシンプルに進みました。それはなぜなら、正しい立ち位置を理解して、まっすぐに立てば、自然と美しいガーデンフォトになってしまうという、カメラマンにとって夢のようなガーデンだったからです。 当時はイングリッシュガーデンが流行りだして、宿根草のボーダー花壇をキーワードにした特集が園芸関連誌をにぎわせていました。しかし日本では、イギリスの雑誌のような美しいガーデンにある宿根草の写真がなかなか撮れないことが悩みで、常にいい撮影ができる庭を探していたのです。 そんな僕にとって、「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」は最高の庭で、今まで憧れていたボーダー花壇の中には、美しく咲く宿根草が撮り放題! それどころか、撮影した花の品種名が分からなければ、イギリス仕込みのガーデナーさんが丁寧に教えてくれるし、さらに分からない時は調べてから連絡までしてくれるという、まさに天国のようなガーデンでした。 翌年からは毎年必ず足を運び、宿根草に限らず、バラやクレマチスなど、いろいろなガーデンシーンを撮影させていただきました。今の基本的な撮影スタイルは、このガーデンから学んだような気がします。 その後、2代目ヘッドガーデナーの福森さん、3代目ヘッドガーデナーの太田さんには、さらにお世話になりました。早春には、スノードロップやクロッカスなどの小球根の可愛らしさを見せてもらったり、冬にはイギリスの雑誌でよく登場していた凍った庭の撮影をするために、寒い真冬の早朝、裏のゲートを開けてもらったりもしました。春の花木の美しさや、秋の紅葉したガーデンの美しさまで、日本にいながらイギリスの庭を撮影しているかのような、さまざまな経験を重ね、学ばせてもらいました。 Information アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン 2002年4月に開園して以来多くの来園者があった「アンディ&ウィリアムスボタニックガーデン」(群馬県太田市、ジョイフル本田新田店に併設)は、2020年12月20日(日)に閉園いたしました。 掲載の記事は、2018年2月5日公開のものです。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。滋賀「English Gardenローザンベリー多和田」のパンジービオラフェスティバル
「English Garden ローザンベリー多和田」で開かれた「パンジービオラフェスティバル」 「English Garden ローザンベリー多和田」は、オーナーの大澤恵理子さんが、細部にまでこだわってガーデンをつくってこられました。大澤さんもイギリスがお好きのようで、私のようなイギリス好きのカメラマンにとっては、たまらないガーデンです。そんな素敵なガーデンを会場にして、日本各地から育種家さんの可愛いビオラが集められ、撮影ができるという夢のようなイベント「パンジービオラフェスティバル」が開催されるというのですから、ワクワクして出かけたのはご想像の通りです。 ビオラが好きになった20年前の記憶 元々僕は白や青、薄いピンクの小花みたいな花が好きだったので、ビオラは好きな花でした。そのビオラが大好きになったのは20数年くらい前、千葉県富里市の沖縄出身のご夫婦がなさっている「七栄グリーン」と言うお店との出会いがきっかけでした。七栄グリーンは、とってもセンスの良いカラーリーフを使った寄せ植えとハンギングで有名なお店で、僕も機会があるごとにうかがって撮影をしていました。そんな七栄グリーンの寄せ植えに欠かせない花がビオラでした。 その当時は、まだ“育種家さんのビオラ”のような個性的な品種はなかったのですが、七栄グリーンさんは大手の種苗会社のカタログの中からきれいなビオラをセレクトして、棚の上にはいつもかわいいビオラがたくさん並んでいて、僕もそんなビオラを使ってよく寄せ植えをつくっていました。 その後七栄グリーンさんは沖縄に帰られお店はクローズしてしまったのですが、最近はホームセンターなどでも見元さんや他の方々が生み出したかわいいビオラが手に入るようになったので、寄せ植えは今でも時々つくっています。 育種家さんのビオラとの出会い 僕が最初に育種家さんのビオラに出会ったのは、雑誌の取材で訪れた北海道札幌市にある「国営滝野すずらん丘陵公園」で、梅木あゆみさんが主催するイベントでした。その以前にもいろいろな方から「宮崎の育種家さんのビオラが素晴らしいよ」と、話は聞いていたので、是非拝見したいと思っていました。実際に見る育種家さんによるビオラは、色も形も大きさも想像以上にバラエティに富んでいて素晴らしく、興奮しながら撮影したのを覚えています。 その後は大阪の園芸店「Kanekyu金久」さんに取材に行ったり、神奈川県横浜市の笈川さんのハウスにお邪魔していろんなビオラを見てきました。知り合いのガーデンラバーさん達は、もうとっくに宮崎にまで行っていたりして、「今度一緒に宮崎に行きませんか?」と誘われてしまうほど育種家さんのビオラは、僕にとってしっかり撮影してみたい憧れの花になってしまいました。 自宅から5時間かけて「ローザンベリー多和田」へ そんな憧れのビオラが「ローザンベリー多和田」さんに勢揃いすると聞いたら、行かないわけにはいきません。4月4日、当日の天気を確認していざ出発です。自宅の千葉からローザンベリー多和田のある米原までは450kmおよそ5時間のドライブです。暗いうちに出発したので、お昼前には無事到着。SNSのショートメールでガーデナーのヒデさんに連絡してゲートへ向かうと、4日は休園日とのことで園内はガラーンとしていました。これは、ビオラ独り占めで撮影ができる! 素晴らしい機会となりました。 ローザンベリーと言えばアンティークレンガの塀とメタセコイアのロングウォークが有名ですが、その塀の前には分かりやすく、育種家さんごとにテーブルが置かれていました。アイアンのフェンスの前には、大きなハンギングやテラコッタがいくつも、いくつも並べられていています。 カメラマンとしては、育種家さんごとに全部の花をカメラに収めたいし、大作のハンギングやテーブルの上のグルーピングの写真も撮りたい。撮っても撮っても終わらない大変な一日になってしまいましたが、どの花も可愛く、どのハンギングも素敵だったので、不思議と疲れは感じない充実感いっぱいの幸せな一日になりました。 ○2018年のビオラフェアー パンジービオラフェスティバル は、3月17日(土)~4月15日(日)の開催です。詳しくはホームページ(http://www.rb-tawada.com)でご確認ください。 ○この記事でご紹介してきたすべての写真は、すべて「English Garden ローザンベリー多和田」で今井秀治さんが撮影したものです。 Information English Garden ローザンベリー多和田 所在地:滋賀県米原市多和田605-10 TEL:0749-54-2323 http://www.rb-tawada.com アクセス:名神高速道路 一宮ICより約40分 JR米原駅よりタクシーで約15分 オープン期間:火曜休(祝日の場合は営業) ※冬季休園あり 2018年は3月17日(土)からの営業(オープン期間はHPにてご確認ください) 営業時間:10:00〜17:00(レストランは11:00〜15:00) ※冬季(12〜3月)は10:00〜16:00の営業 入園料:大人(中学生以上)800円、小人(4歳以上)400円、3歳以下無料 ※団体は15名以上、割引あり