カメラマンが訪ねた感動の花の庭。魔法の光に包まれる山梨・塚原邸

これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第5回は山梨の個人邸です。

今回ご紹介するのは、山梨県山中湖、標高1,000mにある塚原文隆、美智子ご夫妻のお庭です。冬はマイナス20℃を超えることもある厳しい気候の地域ですが、そのぶん夏はすべての花も草も木々もいっせいに輝き出すのです。特に、晴れた日の早朝と夕方は魔法の光に包まれ、夢心地になれる僕の大好きなガーデンです。

塚原さんご夫妻は、東京・八王子にお住まいだった時期があり、その頃の庭は、早春には木々の間に大株のクリスマスローズが咲き、球根類や季節ごとの草花が咲き乱れるジャングルのようだったといいます。それでも、植えたくても植えられない植物がたくさんあり、「もっと広い庭で大好きな草木を思う存分育ててみたい」「以前の庭では植えられなかったユキヤナギ、アジサイなどの低灌木や、ありとあらゆる花の咲く草花を植物園のように植えて、たくさんの人に見てもらいたい」と思うようになって、20年前にこの山中湖の土地を手に入れました。

山中湖に庭を持ったお二人は、しばらくの間は週末ガーデナーで、平日仕事が終わると毎日のようにガーデンセンターを巡り、金曜日の夕方になると車にいっぱいの花苗を積み込んで山に通っては、せっせと植え込みをしていたといいます。今では信じられない話ですが、名前も知らないまま、つるバラの‘ニュー・ドーン’と‘アイスバーグ’も植えていたそうです。当時はとにかく、いつの季節も庭に花が咲いていてほしいからと、春には球根やプリムローズなど、夏はベルガモットやフロックス(オイランソウ)、秋にはシュウメイギクやシュウカイドウ……。見たことがない珍しい草花は何でも買っていました。

本格的にバラにのめり込んだきっかけは、‘メアリー・ローズ’をはじめとするイングリッシュローズとの出会いでした。こんなに美しいバラの世界があるんだと知り、夢中になって「コマツガーデン」の教室に通って勉強もし、今日のバラと宿根草の庭をつくり上げたのでした。

2006年からは「山中湖チャリティーオープンガーデン」にも参加して、塚原さんの庭は、ますます輝きを増していきます。僕が初めて塚原さんご夫妻にお会いしたのは何年前のことか。もう思い出せないくらい以前のことです。埼玉の有名なバラのお宅で写真講座をさせていただいたことがあるのですが、参加者だった塚原夫妻は講座終了後に名刺をくださったのです。その時は、塚原夫妻の庭に何回も撮影に伺うことになるとは想像もしていませんでした。

その数年後、雑誌でオープンガーデンの記事の連載をしていたことから、関連する情報を各方面からもらっていました。ある年、何人かの知り合いが口を揃えて「山中湖のオープンガーデンがきれいらしいよ」「山中湖のオープンガーデンに行ってきたけど素晴らしかった」と言うので、そのオープンガーデンに行こうかと思っていたら、塚原夫妻を思い出しました。早速電話をすると、驚いたように「うちでよろしければ」と控えめなお返事。最後は「来ていただけたら嬉しいです」と快諾いただいたので、撮影日の約束をして電話を切りました。

約束の日、初めて伺った塚原さんの庭は、バラにクレマチス、ゲラニウム、アストランティアなどさまざまな草花が咲き乱れ、あちこちに草丈2mはあろうかというジギタリスまで咲いていました。信じられないような素敵な庭で、撮影が終わった頃には僕はすっかり塚原夫妻のお庭のファンになっていました。それ以来、つき合いのある雑誌で企画を立てては何度も伺いました。

ここでご紹介している多くの写真は、2016年に知人のAさんに声をかけてもらい、塚原さんの庭で写真講座をした日に撮影しました。この日はAさんとその仲間たちが、一人一品美味しい物を持ち寄るガーデンパーティーのような会で、前回、前々回とバラの育種家である河合伸志さんが招かれてバラの勉強会をしたといいます。河合さんの後とはちょっと敷居が高いなとも思いましたが、塚原邸の撮影ポイントも分かっていたことや、集まるメンバーも知った方たちだったので、お引き受けしました。

当日、午前中に庭を見渡せる素敵なリビングでスライドを見ながらお話をし、その後庭で撮影の実習です。撮影ポイントに三脚を立てて一人ずつファインダーを覗いてもらい、よいイメージを持ってもらった後に、実際の撮影に移りました。この手順は撮影の方法が分かりやすいと評判がよいので、僕の十八番になっていますが、この日はあいにく曇りだったため、僕の好みの光ではなかったのが残念でした。

撮影実習が終わると、お待ちかねのランチタイム。おしゃれなテーブルの上には乗り切らないほどの美味しそうな料理が並んで、ビュッフェスタイルのパーティーの始まりです。集まった皆さんは、お庭大好きな方ばかりだったので、話題は当然庭のこと。「今年はあの庭がよかった」とか「悪かった」とか、あっという間に時間は過ぎました。

皆さんが帰り、僕もそろそろ失礼しようかと機材の片付けをしながら庭に目をやると、雲の切れ間から一筋の光が差し込んできました。待ちに待った塚原さんの庭の魔法の時間の始まりです。さっきまでの喧噪が嘘のように静まり返った庭で、僕一人。目の前にはさまざまな宿根草が、ちょっとオレンジがかった優しい光に美しく浮かび上がっています。後はもう日が沈むまで、自分一人の幸せな時間をゆっくりと楽しみながらシャッターを切り続けるだけでした。
Credit
写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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