カメラマンが訪ねた感動の花の庭。イギリス以上にイギリスを感じる庭 山梨・神谷邸
これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第10回は、イギリス以上にイギリスを感じる! とうならせた、バラとクレマチス、宿根草が光をまとう山梨の個人邸、神谷卓郎さんの庭です。
2012年5月、この年は秋刊行予定で後藤みどりさんの著作『美しいバラの庭づくり』の出版が決まっていたため、5月中旬以降は毎日のように山梨の甲府周辺にある可愛いバラの庭に伺って撮影をしていました。その日も、いつものように双葉にあるHさんの庭で朝5時から撮影を開始。レンガ仕立ての洋風のお宅の前が植栽スペースになっていて、いくつものパーゴラやフェンスにバラとクレマチスがセンスよく植えられた、とっても可愛い庭でした。僕もクレマチスが育つ庭が大好きだったので、レンズを変えたり、パーゴラの反対側からカメラを向けたりして、楽しく撮影をしていました。撮影も一段落という時にHさんから「長坂の神谷さんのお庭には行かれましたか? イギリスみたいな素敵なお庭ですから、きっと今井さんお好きだと思いますよ」と教えていただき、さらには、まだ朝の6時半だというのに神谷さんに電話までしてくれたのを思い出します。
神谷さんとお話しすると「庭の具合は、撮影にはまだ少し早そうだけれど、よかったらお越しください」と言っていただいたので、中央自動車道で長坂インターへ。神谷さんのお宅にたどり着くには、ナビだと難しいというアドバイスで、近くのホームセンターまで迎えにきていただいてから神谷邸に向かいました。途中、Hさんが話していた「イギリスみたいな素敵なお庭」ってどんな感じだろう? 八ヶ岳という地域でイメージすると、鬱蒼とした林の中のバラの庭かな? なんて考えながら、神谷さんの車の後について行きました。すると、目の前に突然、イギリスの田舎を思わせるおしゃれなガレージが現れました。
車を下りて神谷さんについて歩き、まだ工事中の門を抜けると、そこには驚くような光景が広がっていたのです。まず、足元の小径をふさぐほどに茂ったキャットミントの紫色。頭上から覆いかぶさるニセアカシアの明るい緑の葉に挟まれた向こう側には、飾り窓のあるハチミツ色のコッツウォルドストーンの壁がありました。壁の前にはブルーのチェアーときれいに刈り込まれたトピアリーが2つ、対称に置かれています。右に曲がると足元にはライオンの像。その奥にチューダー調のお宅が現れ、これはイギリス以上にイギリスだ! と大感激。ハイテンションで撮影を開始しました。
コンサバトリーと塀に囲まれた中庭には、シンメトリーにデザインされた池と噴水があり、壁にはつるバラ。アイアンのゲートにはクレマチスのつぼみがいっぱいついています。家の前はノットガーデンで、家の裏手には小さな水辺と可愛い橋がありました。どの方向にレンズを向けても絵になってしまう、イギリス好きのカメラマンにとって最高の庭でした。
その日は、8時を過ぎ日差しが強くなってきたので、バラやクレマチスも開花にはまだ早いということもあって、後日また伺う約束をして撮影を終了しました。お茶をいただきながらお話を伺うと、神谷さんは以前、画家になるという夢があったそうで、今は絵を描くように庭づくりをしているということでした。ご自分のイメージを再現するために他人には頼まず、庭の構造物のほとんどを自作したというから驚きます。
これほど撮りがいのあるお庭を紹介してくれたHさんには本当に感謝しました。この年はこの後、早朝2回、夕方1回の合計3回に渡り撮影に伺って、自分でも納得のいく撮影ができました。この時の写真はガーデニング雑誌『BISES』のNo.80(2012年秋発刊)に掲載されました。
その撮影をきっかけにして、毎年のように神谷邸に伺い、早春のスイセンやチューリップ、秋の庭も撮らせていただいていましたが、今年2018年は「Garden Story」の連載が決まっていたので、久しぶりの本格的な撮影の約束をしました。神谷さんも撮影と掲載を快諾してくださり、そうして訪れた庭の完成度は、ここにご覧のように本当に素晴らしいものでした。
2018年5月27日。快晴の朝5時ちょっと前に到着すると、神谷さんはもう庭の掃除をすませて、僕の邪魔にならないようにと「終わったら教えてください」と言い残して家の中に入っていかれました。庭には僕1人。晴れた朝の美しい光が差す絵画のような庭を独り占めで撮影です。まずはじめは、朝の日差しが斜めに入り始めたノットガーデンの奥に三脚を構え、逆光気味に庭を眺めてみました。すると、芝と宿根草がキラキラと輝き出し、大好きなシチュエーションにもう興奮状態。幸せな時間を実感しながら、その後は少しずつ動く光を追いかけて、中庭のバラやノットガーデン、チューダー調のお宅などを撮影して、朝7時過ぎには撮影を終えました。
次の訪問日は、6月12日。前回5月の撮影が早朝だったので、この日は夕方に伺うことにしました。前回の撮影は本当に素晴らしいシチュエーションを撮ることができたので、今日はまだ咲いていなかった遅咲きのバラやクレマチスの撮影がメインかなぁと予想して庭へ向かいました。すると、宿根草が咲き進み、庭の様子が一変しているではないですか! 沈みゆく夕陽を浴びて輝き出す庭に立ち、再び興奮状態。夕陽が沈むまで庭を歩き回って、午後7時過ぎにようやく撮影を終了しました。
今回久しぶりに6年前の掲載誌『BISES』を見返して、何か物足りないものを感じました。あれほど自信満々で編集部に持って行ったあの写真は、確かにきれいに撮れてはいるけれど、撮影しているときの“あの感動”までは表現しきれていないと感じてしまったのです。今回ここでご紹介している写真の数々は、きっと6年前の写真よりいろいろなものが表現できたと思います。こんな素晴らしい撮影の機会を与えてくださった神谷さんに、改めて感謝します。
併せて読みたい
・カメラマンが訪ねた感動の花の庭。フォトジェニックな庭 長野・熊井邸
・カメラマンが訪ねた感動の花の庭。緑が美しい大人シックの庭 福島・小泉邸
・カメラマンが訪ねた感動の花の庭。絵を描くように植栽する愛知・黒田邸
Credit
写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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