フラワーショーで見比べる植栽デザインのワザ【世界のガーデンを探る22】

世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第22回。今回は、少し視点を変えて、ガーデンショーにおけるショーガーデンの植栽についてご紹介。イギリスのフラワーショーを舞台に、ショーガーデンならではの植栽のポイントや、実際のガーデンにも生かせるアイデアについて解説していただきます。
目次
フラワーショー特有の植栽とは
これまで、イタリアやフランスなど、各国で実際につくられた歴史ある庭の特徴や植栽方法について話してきました。今回は視点を変えて、現代のフラワーショーにおける植物の植え方について解説したいと思います。この記事では、実際に僕が参加したチェルシーフラワーショーと、ハンプトンコートフラワーショーで見たショーガーデンを中心にご紹介します。

フラワーショーでの花の使い方は、全くといっていいほど制限がなく自由なので、植物材料、配置、配色、組み合わせなど、デザイナーの理想とする空間をつくり上げることができます。とはいえ、あくまでも常識の範囲内です。例えば、サボテンとミズバショウを一緒に植えるというようなことは、審査の段階でマイナスになることが十分考えられるので、あくまでも植物を扱う者としての知識と経験によって組み合わせを考えることになります。ただ、チェルシーフラワーショーなどが開催されるイギリスと日本では気象条件がかなり異なるため、イギリスでの庭づくりは、イギリスにおいての常識の範囲内で行うことになります。例えば、陽射しの柔らかなイギリスでは、ギボウシやアオキなどは日向でも日焼けすることはないので、日向の植物として扱えます。
以下に、ガーデンショーでディスプレイされた、いくつかの庭を取り上げます。
ガーデンショーでの植栽例
非現実的なベッドのあるデザイン

ハンプトンコートパレスフラワーショーで制作された、2006年のガーデンです。赤を基調にしたフォーマルスタイルの庭で、植物は、手前からヒューケラ、ゲラニウム、ヘメロカリス、リアトリス、バラ、アスチルベなどが、天蓋付きのベッドへと視線を導いています。実生活ではあり得ない空間をつくり出していますが、そこはフラワーショー。自由なデザインが許されています。芝や明るい緑色の葉が補色関係になって、きれいに赤を引き立てています。
紫を基調にしたシックな庭

オープンなオフィスのイメージでしょうか。コンテンポラリーな椅子とあいまって、ちょっと狭い感じもしますが、モダンで素敵な空間ですね。この植栽は、僕も手伝ってデザイナーと一緒に制作を楽しみました。ルピナスや真っ白なジギタリスで縦の動きを強調しつつ、ヒューケラ、セージ、エリンジウムなどでカーペットをつくりました。個人的にはとても気に入った庭ですが、女性の方にはちょっと渋すぎるかもしれませんね。
白いウォールに囲われたガーデン

同じ紫の庭でも、こちらは白のウォールを取り巻くように、いろいろな花が植えられています。ストエカス系のラベンダーを中心に、オダマキやユウゼンギク、ニコチアナなどが植えられ、それに斑入りの植物をうまく混ぜて、優しい雰囲気の植栽になっています。ここでも前回解説した、ガートルード・ジーキル女史のパッチ状にグループで植える手法が生きています。ただ、中心のベンチの存在感が、今ひとつ薄いようです。例えば、優しい紫とかオレンジとか、何かアクセントになるカラーに椅子を着色しても印象がずいぶん変わると想像できます。
明るく開放的な空間づくり

これは先ほどのガーデンとは対照的に、明るくて色とりどりの花で彩られた開放的な空間です。赤いダリアやセンニチコウ、ルドベキア、黄花のヘメロカリス、それにユリやデージーの白が混じり、そこにオーナメンタルグラスや三尺バーベナを加えて、さらにボリュームと深みを演出しています。構造物は、明るい木造を基調に、濃いこげ茶色の椅子と真四角な白いポットをシンメトリーに配置し、葉が枝垂れるアガパンサスがカジュアルな雰囲気を出しています。
アイキャッチを効果的に使った庭

いかにも男性デザイナーのつくった庭、という雰囲気のガーデンです。手前にリズミカルに丸い花を咲かせるアリウムを植え、その白い花と淡いブルーのアイリスが、見る人を庭の中に招き入れています。中央の円い池を囲むように多くのシルバーリーフの植物を混ぜ合わせ、その間に明るいオレンジのポピーが咲いて視線を自然に中へと誘っています。奥のほうにはアーティチョークや白花のアイリス、それらを引き立たせるためのバックドロップとしてベニシダレモミジを植えています。抑えた色の木の塀に緑と白のピジョンハウスらしきものと、レンガのステップが落ち着いた雰囲気をつくっています。もしオレンジのポピーを手前に持ってきていたら、その鮮やかさゆえに視線がそこに集中してしまい、庭全体が薄っぺらになっていたことでしょう。アイキャッチの植物は、あくまでも少なめに、奥のほうに配置することが大事です。
イギリスで馴染みがない植物にも挑戦した庭

こちらもチェルシーフラワーショーに登場した2004年のショーガーデンです。池の向こうには、オープンテラスのようなウッドデッキ風の渡橋があり、その先には素敵な赤いチェンバー(部屋)がチラリと見えています。
手前の植栽はマルチステム(株立ち)のサルスベリを中心に、最近イギリスでもかろうじて越冬できるようになった木性シダ。海老茶色のグラウンドカバーは、銅葉のシソとニューサイランで、その間に赤いヘメロカリスとオレンジ花のマリーゴールド、アリウムやリアトリス。そしてもっと奥にはバショウの大きな葉が見えています。イギリスでは馴染みの少ない植物ばかりで、ちょっとエキゾチックな雰囲気が漂っています。我々日本人にとっては、それほど珍しい植物ではないのですが、チェルシーでは新しい植栽だと思います。
こうした新しい植物や使い方のアイデアを来訪者に見ていただくことにより、そのアイデアを持ち帰って自分の庭に生かしてもらえるよう啓蒙することも、フラワーショーの大事な役割の一つです。
二宮式植栽法で手掛けたガーデン

写真の庭は、イギリスの友人であるジュリアン・ダール氏がデザインした「チェルシーホスピタルガーデン」です。2005年のチェルシーフラワーショーで初めて三冠に輝いた庭として有名になりました。三冠とは、ベストガーデン、ゴールドメダル、そして人気投票で一番のピープルズチョイスに選ばれた庭のことをいいます。この庭の植栽は、すべて僕が担当しました。
写真右は、庭の中にある小さな池の周りで、自然を感じさせる植栽を再現しました。もちろん、ここはショーの期間のために制作するので、「ナチュラル」を再現する努力とテクニックが必要です。日本風(二宮式)とでもいうか、自然な雰囲気を出すように心がけたことを思い出します。

写真左は、まるでおとぎ国のような茅葺きのコテージの植栽です。デルフィニウムのはっきりとした直線とつるバラの幹の曲線。そこにオレンジ色の2色咲きのオダマキと足元のピンクのフウロソウが全体にうまく溶け込んでいます。手前のバケツは手動式の消化ポンプです。これも、この庭が1950年頃のイギリスの田舎の風景であることを感じさせるコーディネイトです。
また写真右は、日本のクリンソウです。赤い花の奥に少し黄色のクリンソウを入れたことで、ずっと奥行き感が出せました。ここは一度他の植え方をしていたのですが、しっくりこなかったので、急遽、翌朝すべて植え替えたという、自分にとっても印象深いシーンです。

植栽を担当した「ヨークシャーガーデン」もゴールドメダルを受賞した庭です。デザイナーのジュリアン(Julian Dowle)氏の図面には、植栽は具体的にあまり書かれていませんでしたので、集められた植物材料を見ながら、自然風の植栽風景をつくることを意識しながら、即興で配置と配色を決めていきました。このような自然風な混植植栽は当時のイギリスでは新鮮だったのか、何人かのデザイナーから翌年の植栽のオファーがありました。

「ヨークシャーガーデン」の水辺の植栽です。黄色い花はプリムラやラナンキュラス、ピンクはシレネ、それにブルーのワスレナグサを入れました。このような植栽をしてしまうと、手直しに庭に入ることもままなりませんので、ゆっくり後ずさりしながら完成させていきます。ピンクのシレネはとても使いやすく、固くなりがちな植栽を優しく混ぜ合わせてくれますので、個人的にはとても好きな植物です。
チェルシーフラワーショーの思い出

海外のフラワーショーでは賞金のようなものはなく、写真のような賞状を一枚いただくことができる名誉賞です。また、チェルシーフラワーショーのゴールドメダルは、日本語では金賞と訳しますが、1位を表すのではなく、「いい庭」を意味し、多くの場合、審査の結果で複数の庭が受賞します。ただし、ベストガーデンは一つだけ。受賞する庭がない年もあるようです。

フラワーショーでは、審査時にベストな状態に持っていかなくてはならないので、開花時期の調整はもちろん、健全な材料を使うことが大事です。多くの花が数日の命ですので、海外のフラワーショーの開催期間も長くて1週間程度です。期間が長くなると花が終わってしまったり、変色してしまうため、デザイナーの意図していた配色ではなくなってしまいます。日本ではせっかくつくったのだからと、もう少し長く展示されることが多いのですが、デザイナー側から考えると、自分が思い描いた植物の配置や配色は1週間が限度だと思います。ちなみにチェルシーフラワーショーの大庭園部門では、最低でも数百万から1千万円、多くの庭は2千万円ぐらいの予算が必要となりますので、簡単に参加するという訳にはいきません。

チェルシーフラワーショーでは毎年審査が行われ、審査結果が発表される前に、ロイヤル・ビジットといって王室の方々やエリザベス女王陛下がお見えになります。写真の後方に写っているのは、僕が初めて1995年にチェルシーでつくった「ホンダティーガーデン」です。メインの大庭園部門で、日本人として初めてゴールドメダルを受賞した思い出の庭です。その後も女王陛下とは幾度か庭の話をさせていただきました。英語には日本語のような敬語がないので、普通に両国の庭のことや僕がつくった庭のことなどをお話しすることができました。
Credit
文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -

にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
- リンク
記事をシェアする
新着記事
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園 【1月の様子】
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…
-
宿根草・多年草
豪華に咲く!人気の宿根草「ラナンキュラス・ラックス」2025年おすすめ品種ベスト5選PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…
-
アレンジ
【春の花】ヒヤシンスはスッと垂直に活けるのがおすすめ! スクエアガラスのベースにスタイリッシュにアレ…
春の訪れを感じさせてくれる花といえば、チューリップやヒヤシンス(ヒアシンス)などの球根花! 本格的な春の到来はまだ少し先の話でも、フラワーショップには一足先にカラフルな春の花が並んでいます。明るいブル…