まだ咲いているのに抜くの? 春の庭で迷う“切りどき・抜きどき”の見極め方
春の庭では、パンジーやビオラ、クリスマスローズなど、まだきれいに咲いている花を前に「もう抜くべき? まだ楽しめる?」と迷うことがあります。けれど、次に咲くバラや初夏の草花を健やかに育て、美しい景色をつなぐには、花の“切りどき・抜きどき”を見極めることが大切。惜しい気持ちに折り合いをつけながら庭を次の季節へつなぐコツと、抜いた花をブーケとしてもう一度楽しむアイデアをガーデニストの面谷ひとみさんにお伺いしました。
目次
春の庭は、「植える」だけでなく「抜く」「切る」季節でもある

春の庭は、毎日見ていても飽きることがありません。昨日まで固かったつぼみがふくらみ、今朝には咲いている。葉がぐんと伸び、花が思いがけない場所で光を受けている。たった2週間で地面の茶色は緑に覆い隠され、庭に出るたびに景色が変わっていきます。

この季節は植えどきの植物も多く、気持ちはどうしても“足す”ほうに向かいがちです。でもじつは、それと同じくらい、「切りどき」「抜きどき」を見極めることが大事な季節。

たとえば、パンジーやビオラ。春になると本当によく咲いて、毎日花がらを摘んでも、また翌日にはたっぷり花がらが出ます。株はどんどん上にも横にも広がって、寄せ植えの鉢は少しずつ形が崩れ、気づけばぎゅうぎゅうになっていることも少なくありません。咲いている姿はかわいいだけに、手を入れるべきか迷ってしまいます。

でも、それは花が元気な証拠でもあるので、咲いているのを見ると、なかなか手を入れられません。まだこんなに咲いているのに、もう抜くのはもったいないんじゃないか。そう思ってつい残してしまいたくなります。
パンジー、ビオラ、クリスマスローズ…惜しい頃が作業の適期

けれど、そのパンジーやビオラが、これから咲くバラや初夏からの宿根草のそばでいつまでも勢いを伸ばしていると、風通しが悪くなったり、光を遮ってしまったりして、ほかの植物の生育に影響することがあります。だから、株姿が乱れてきたな、広がりすぎてきたなと思ったら、まだ咲いていても、この後の季節を彩る植物を優先させて、思い切って抜きます。春の庭を次の季節へつなぐためには、それが必要な仕事なのです。

抜いてみても、晩秋に植えたアリウムの球根やデルフィニウム、ジギタリスなどの宿根草、ポピーがグングン大きくなってきているので、それほど寂しい印象にはなりません。むしろ、混み合っていた場所に空気が通り、庭の奥行きが戻って、次に咲く花の居場所がきちんと現れてきます。花はただ長く咲いていればいいというものではなくて、その時々の庭全体の流れの中で、引き際もまた大切なのだと感じます。

一旦そうやって冬から咲いていた花を整理し、花壇の手前に隙間があいていれば、初夏を彩るフロックスなどの一年草や、細身で他の花を邪魔しないリシマキア・アトロプルプレア‘ボジョレー’などを植え足します。この季節には園芸店にこれから最盛期を迎える花がたくさん出ているので、庭が寂しくなるという心配はありません。

特にクリスマスローズは、まだ見られる、もう少し庭においておきたい、そう思える時期でも、花色が褪せ切る前に花茎を切らないと、休眠前に株は種子を作ることに体力を使ってしまいます。そうすると夏越しにも影響が出やすくなるので、遅くともこの頃には切る必要があります。庭を始めたばかりの頃は、咲いているものを切るなんてかわいそう、と思っていましたが、今は来年の花のために必要なことなのだと分かるようになりました。
まだ見ていたい花を、もう一度楽しむガーデンブーケ

それでもやはり、「まだ見ていたいな」と思う花を切ったり抜いたりするのは、毎年悩ましいものです。庭をやっている人なら、きっとこの気持ちは分かっていただけるのではないでしょうか。せっかく咲いているのに、と思うと忍びない。けれど、そのままにしておくことが必ずしも庭のためにはならない。春の庭仕事には、そんな小さな葛藤がいつもあります。
悩める私の気持ちをやわらかく受け止めてくれるのが、庭の花で作るガーデンブーケです。

以前、この庭を一緒に作ってくれているガーデンデザイナーの安酸友昭さんが、私が生けた花を見て、「面谷さん、ちゃんとプロのところへブーケを習いに行ったほうがいいがん。そしたらもうちょっと素敵に生けられるんじゃない?」とアドバイスをくれたことがありました。そのまったく正直なアドバイスをきっかけに、私は5〜6年前から東京・神楽坂の「ジャルダン・ノスタルジック」さんにブーケづくりのレッスンに通っています。まるで庭の花を摘んできたような自然な雰囲気と、優しく丁寧な青江先生のご指導が大好きなお花屋さんです。

庭の花を美しく束ねるための「スパイラル」という技術

そこで教わったのが、スパイラルという束ね方です。花を一本ずつ、同じ方向に斜めに重ねながら束ねていくと、茎がきれいにらせんを描きます。この形ができていると、ガラスの花瓶に入れたときに、花の部分だけでなく、水の中に見える茎先まで含めて全体が美しく見えるのです。花だけきれいでも、ガラスの中で茎がばらばらに絡んでいると、どこか落ち着きません。ブーケは花だけでなく、茎まで含めて完成された姿なのだと知りました。

庭の花は、お花屋さんの切り花のように、長さも太さもきれいに揃っているわけではありません。枝も曲がっていたり、細かったり。一つひとつが自由で、その不揃いさこそが庭の花の魅力です。だから大きく豪華なブーケにはならなくても、庭摘みのブーケには、どこか素朴で、庭の空気ごと束ねたような愛らしさがあります。

庭では合わせない色が、ブーケだと映える

何よりうれしいのは、さっきまで「抜きどきかな」「切りどきかな」と思っていた花が、ほかの花や葉ものと合わせてブーケにすると、また新しい魅力を見せてくれることです。庭植えや寄せ植えでは合わせないような色も、ブーケにすると驚くほど似合うことがあります。庭の中では脇役の花が、手の中に集めると急にきらきらと輝いて見える。そんな瞬間に、花の意外な表情を発見します。

庭はもともと、自分の好きな色合わせや雰囲気で植えているので、適当に摘んできてもなんだか可愛いブーケになるものです。上の写真も庭の手入れをしながら集めた花々。左からラベンダー、ニゲラの葉、ラナンキュラス・ラックス、パンジー、ビオラ、イベリス、ティアレア、ガーベラ、アネモネ、アークトチス。庭でもそうであるように、リーフはブーケづくりでも欠かせない名脇役です。ニゲラのふわふわの葉はグラつく花を抑えたり、オリーブの葉は額縁のようにブーケを整えてくれたり。一回りすれば簡単に花材が集まる庭は、大きな宝箱のようでもあります。

とはいえ、私は一番きれいに咲いている花を切ることができないのです。最高の状態の花を切れば、それはそれは見事なブーケが作れるでしょう。それがわかっていても、ここを切ったら、この庭の風景が変わってしまう、と思うと、なかなかハサミを入れられません。一番いい花を切ったことがあるのは、二人の娘の結婚式のときだけ。一度はバラを、もう一度はクリスマスローズを庭から切って、ブーケにしました。あのときは惜しいというより、その日のために庭の花を手渡せることが、ただただうれしかった。

普段はそこまで思い切れなくても、よく咲いてくれるパンジーやビオラ、ラナンキュラス・ラックスを少しずつ摘むだけで、十分に可愛いブーケができます。雨でしなだれてしまったチューリップも、花束にして飾ればいいと思うと、残念な出来事だけで終わりません。そうして束ねた花を、家の中やクリニックに飾ると、みんなとても喜んでくれます。「きれいね」と言ってもらえるのは、庭づくりをしている者にとって本当にうれしいことです。
咲くときから終わるときまで、花を楽しみ尽くしたい

私にとって庭づくりの醍醐味は、花が咲くその瞬間だけにあるのではありません。芽吹き、育ち、咲いて、やがて終わりへ向かう、そのすべての時間を味わえること。そして、庭で役目を終えようとする花を、ブーケとしてもう一度楽しめること。咲く時から終わる時まで、花をたっぷり楽しみ尽くす。それが、庭づくりの喜びであり、花の命への感謝なのだと思っています。

Credit
話 / 面谷ひとみ - ガーデニスト -

おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
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まとめ・写真 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
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