「スリー・バーツ・ハウス」と呼ばれるこの住まいは、メルボルンの建築事務所アーキテクツEATのディレクター、アルバート・モー氏のデザインです。モー氏は人と自然、住まいと庭を一つに結ぶ独創的なアイデアと斬新なデザインで、今、高い評価を得ているオーストラリアの建築家です。

人間が生み出したテクノロジーによって培われてきた気密性、断熱性に優れた閉じられた住まいから、風や光など、自然の恵みに向かって大きく開かれた、新しい住まいへ。本当の意味で人が心地よいと感じる住まいは、人と自然がもっと豊かに対話できて、みんながもっと笑顔に、そしてもっと健康になれる場所です。
大きく開いて庭に出れば、子どもたちの生き生きとした笑い声が弾みます。やさしい季節の風と共に、リラックスした時間が住まいの中に流れ込み、大人たちは穏やかなくつろぎに満たされます。
「こんな家に住みたい」という視点から、「こんな庭のある家に住みたい」という発想へ。今回ご紹介する「オーストラリアの庭と住まい」を見ていると、そこに私達が求めるこれからの新しいスタイルが見つかるような気がします。
家と庭を大胆に繋ぎ、開放感を演出

一部の既存の建物を活かしながら、大幅な拡張工事によって、ガラスの壁を持つ「ランタン」、レンガの壁の「ブリックハウス」そして、中間に挟まった「コートヤード(中庭)」の3つの部分から構成される魅力あふれる住まいを完成させました。その特徴は何と言っても内外の空間を大胆につないだ開放感溢れるデザイン。
庭と住まいを一つに結んだ、光と風と一緒に暮らす住まいです。
心地よい風が吹き抜ける



一方はコートヤードに、もう一方は裏庭に向かって大きく開く開口部を持つ「ブリックハウス」は、新たに増築された空間です。家族がくつろぎ、時にはお客さまをもてなす場所、出来る限りフラットに仕上げられた床と天井の間を、心地よい風が吹き抜けます。
「中庭は人間で言えば肺のような存在です。それは住まいが呼吸するためになくてはならないものだから」とアルバートは語ります。
柔らかな光に包まれる



「ランタン」は、既存の2階建ての建物をベースに改築したもので、ベットルームや水回りがあります。コートヤードに面した壁や外壁の一部には、新たに二重構造の巨大なガラスパネルが設置されました。階段にも水まわりにも、柔らかで明るい光が届きます。夜になれば、ガラス越しに光が漏れ、建物は文字通り「ランタン」のように美しく光ります。
施工現場にて

かつて、まだ施工中だった「スリー・パーツ・ハウス」を訪ねた時、ちょうど施工に立ち会っていたアルバートが、こう語ってくれました。
「私はこの住まいの設計のヒントを、日本の建築の伝統的なスタイルや文化から得ました。例えばそのひとつが桂離宮です」と。中庭から光と風を建物の奥に導くこと、そして自由に動かせるスクリーンや引き戸を駆使して、内外の空間を自在に仕切り、時には大きく開け放って自然と一体化すること。
それはまさに日本建築の伝統的な手法であり、自然とひとつになることを求める日本の文化です。それが遠いオーストラリアの建築家の手で、見事に受け継がれていました。
やがて大きな木陰が

この住まいのガーデンのデザインを担当したのは、オーストラリアを代表する世界的なランドスケープデザイナーでありガーデンデザイナーのジム・フォガティ氏です。ジムはこの住まいのシンボルツリーとしてイチョウの木を選びました。
中庭に、そして建物の北側にも(オーストラリアは北から日が差します)イチョウを植えました。イチョウは、夏は葉を茂らせて木陰をつくり、冬は葉を落として日差しを住まいの奥へと導きます。そしてみずみずしい若葉で、秋には澄んだ青空に映える鮮やかな黄色の葉で、人の目を楽しませてくれるでしょう。今はまだ小さなイチョウですが、家族とともに成長していきます。
中庭は5番目の部屋

「中庭やガーデンでおもてなしをするのは、オーストラリアの文化です」とアルバートは語ります。友人を招いてパーティをしたり、ティータイムを楽しんだり。同時にランドスケープ(庭の景観)をインテリアに持ち込み、室内にいながら、外の光や風を感じ、自然を楽しむことができる特等席です。
「中庭のある家は暮らしやすいですね。中庭はリビング、ダイニング、キッチン、ベッドルームに続く5番目の部屋として使うことができるから」とアルバート。
それがオーストラリアの人々の豊かな暮らしのスタイルになっています。
夜の灯りも素敵


窓の外を暗い闇の中に沈み込ませてしまったら、せっかくの美しい外部空間は視界から消え、価値が失われてしまいます。しかし、そこに一灯の灯りが灯されたら、美しい印影をまとった魅力的な空間が産まれます。
ほのかな灯りでくつろぐ夜の庭―そこは自然と静かに対話する場所になり、やがて星空が語りかけてきます。
Architectural design:Albert Mo アルバート・モー/Architects EAT
Garden design:Jim Fogarty ジム・フォガティー
Photographer:James Coombe,Earl Carter,Kenji Hotta
引用元:『HomeGarden&EXTERIOR vol.1』より
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