やまざき・りょうこ/北海道で家族とともに裏の森へとけこむような花と緑のガーデンを作る。厳しい自然環境でたくましく育つ植物を丹念に観察しながら庭づくりを楽しみ、庭の実りを食卓やインテリアなど暮らしへ豊かに展開し、その様子を本誌で執筆。自身の暮らしを描いたやさしいタッチのイラストも人気。
山崎亮子の記事
-
みんなの庭
家族で育む北国の自然菜園の恵み
花も野菜も元気に茂る8月の庭より 我が家では、8月の上旬、庭ではバラの二番花が咲いています。が、美しいバラの姿もそっちのけで家族全員、夢中になっているのが畑です。上写真の小さなブーケは、ジャガイモの花と畑の雑草でつくったんですよ。只今、野菜が花盛りで、自然菜園のコーナーでは虫や野花が元気にしています。 写真左は清楚な花のジャガイモ。右、手のひらサイズの大きな黄色い花はズッキーニです。 さらには、左から順に、畑友達からいただいた「ささげ」。そしてキュウリ、実と同じ色の花が咲いたナスです。 雄花と雌花が別々のキュウリやズッキーニは、同時期に雌雄が咲かないと自然受粉がしにくいので、数株植えています。去年は4株育てましたが、多すぎたので今年は3株ずつに。少なかったもしれない、とドキドキしましたが、天気さえよければ、十分実りそう。 そんな我が家の自然菜園で活躍してくれるのが昆虫です。畑には「ハナバチ(マルハナバチやミツバチ)や蝶がやって来ますように!」と願って、花も植えています。昆虫がやって来ると刺されたりしないか心配ですか? 大丈夫ですよ。ハナバチは人が攻撃しない限りおとなしくて、モコモコの毛が覆う身体をフリフリ、せっせと受粉を手伝ってくれる姿が可愛くて、応援したくなります。 昆虫たちが活躍して実りも順調 園芸店やガーデンセンターに並ぶ野菜苗も、最近はいろいろな品種が増えましたね。苗屋さんでさんざん迷って、今年のナスはポピュラーな「くろべえ」にしました。紫の花がポトリと落ちたら、受粉が終わった合図です。 7月下旬に花が落ちたあと、ガクに埋もれて見えなかった小さな実はグングン育ち、8月上旬には立派なナスになりました(右写真の左側のナス)。品種名も親しみやすいので、「やあ、くろべえさん。今日も元気そうだねえ〜」と話しかけていましたよ。 ポトリ、ポトリ、と落ちる花を拾い上げれば、花びらも雄しべも同時にきれいに脱ぎ捨てた穴が真ん中にあります。命の仕組みに、しばし見入ってしまいます。 わたしの収穫ルール 畑の中央にそびえ立つパーゴラは、日に日に伸びる豆のつるで覆われて緑のドームになりそうな勢い。苗をもらってきた夫は「Hさんちでデッカくなってるのを見て、いいな〜と思ったんだよ」と嬉しそう。どうやら私には内緒で、Hさんが自家採取のタネから毎年育てているという苗をおねだりしていたようです。あらまあ! 一緒に絡ませているのは、イボなしキュウリの「フリーダム」。他にはピーマンの「京みどり」、ミニトマトの「べべ」、大葉やバジル。いろいろな野菜が次々と収穫を待っています。 我が家での収穫は「愛用のカゴに半分」がちょうどいい量です。「今日食べる分だけ収穫しよう。冷蔵庫で保存するよりも採れたてが一番!」とメニューを想像しながら収穫をしないと、ついつい目にとまった野菜を何でも採ってしまいます。 収穫カゴの右端で一本頭を持ち上げているのは、白キュウリの「ホワイティ25」。大量に購入する苗の中には、つい忘れてしまった種類も時にはありまして。実ってから「何だっけコレ?」となった白キュウリ。「天気が悪くて、モヤシに育っちゃった?」と大騒ぎ。「そういえば、苗を売ってくれた農家さんのハウスで名前の写メを撮ったよね…」と思い出し、正体を確認して一件落着というプチハプニングもありました。 毎年似たようなことをしている懲りない私たち。記録は欠かせませんね。 採れたて野菜が並ぶ食卓 手前、クリーム色のキュウリが「ホワイティ25」です。味はクセがなくて食べやすく、彩りに一役買いました。 一見すると緑一色の畑ですが、なくてはならない宝庫です。 畑を回って家に戻ってひと休みしていると、最近、料理に目覚めてくれた夫が、キュウリをささっと浅漬けにしてくれます。大葉と塩を加えただけのシンプル料理ですが、暑さに疲れた身体がサッパリする美味しさ。美味しいのは採れたて野菜だから? いえいえ、夫の腕があればこそ! よっ、料理上手! 「野菜が採れたてだからだよ」と笑う夫は、私の持ち上げぶりも可笑しいようです。「いつでもつくってあげるから」ですって。やったあ。 ちょっとばかり体調が万全とはいえない私を、さりげなく気遣う家族。それから、薬では補えない生きた栄養や、家を明るく彩る花で、心身ともに癒される毎日を運んでくれる畑が、私の元気の源です。 今日は雨降りで畑に出ていませんが、晩御飯は「ホワイティ25」と「フリーダム」の浅漬けと、残った野菜を入れた焼うどんにする予定です。1日分、と思いつつ収穫したけれど、こんな雨降りの日に残った野菜があるなんて嬉しい贅沢ですね。少量多品種の畑でぼちぼち収穫、が今のライフスタイルにベストマッチしています。 そろそろ台所に立つのにいい時間です。息子と2人で、いざいざ。 家族みんなのおしゃべりと笑顔が、今日も食卓に花開いています。
-
ガーデン
心が潤う庭の花を使った暮らしの遊び
花盛りを目前にした6月の庭で 前回の「私のガーデンストーリー」でご紹介した、芝地を囲むように野の花が咲く場所には、これまで赤いベンチが置かれていましたが、ちょっと飽きて、空色の庭イスと場所を入れ替えました。5月にはスイセンなどの春の球根花たちが育っていた庭も、一月で草丈はグングン伸びて、芝地の草抜きも埋もれるようにやっています。 これからバラが咲き、一番庭が輝く季節がやってくるはずでしたが、今年はとっても雨盛り。お願いだから、雨足の強さを半分にしてください! と天に願ったのですが、連日のようにバケツをひっくり返したように降りました。 咲き始めたばかりのシャクヤクは、昨日まで満開だったのに、一夜にしてボッキボキです。 大雨の後は花たちを救出 雨に打たれたシャクヤクたちを、サクサク切って家に連れて帰って来ました。この日のガーデンルームは紅色に染まり、この後、窓辺に吊るしてドライにし、クリスマスやしめ飾りに使おうと思います。 今年は、他の地域でもそうだったように、北海道もバラの生育のスピードが速くて、6月下旬には、今にも咲きそうにつぼみをたくさんつけました。去年ネズミに食べられて、弱り切っていたのが嘘のよう。 イングリッシュローズの‘メアリー・ローズ’と、‘ガートルード・ジェキル’は、一番花の開花が1週間から10日ほど早いイメージです。息子のバラも、咲きそうなつぼみが33個あると喜んでいました。ですが、今年は毛虫がいっぱい。食べられなければ、もっとあったそうです。 野ばらもご覧のありさま。うーん、捨て置けない! こんなとき、私はハサミで真っ二つに。「わあ、2匹が4匹に! 事件だっ」「もしも閻魔大王が毛虫だったら地獄行きだね〜」と夫は笑います。 でもね、笑っているうちに、夫のバラはつぼみをほとんど食べられ、この調子では、今年もほとんど咲かないでしょう。咲かないバラを見たら悲しむので、やっぱり代わりに毛虫を成敗してあげました。コッソリね。 バラの季節のメール文通で 「Garden Story」の編集部さんから、ポストカードが届いたので、お礼に写真のパフェを送りました。そしたら、「なんてかわいい! 今年のインスタ映え写真♪第一位に決定です」なんて、お返事が届きましたよ。 このパフェの正体、実はイングリッシュローズの‘クロッカス・ローズ’。咲きたては、まるでソフトクリームみたいだと思って。サクランボを飾って、庭のジューンベリーを並べたら、庭に訪ねてきた友だちも、ワッと盛り上がった大笑いのウェルカムフラワーのでき上がり。 食べ物でイタズラしてごめんなさい。でも、サクランボは美味しくいただきますから、無駄にはしていませんよ。うふふ。バラは、おしゃべりの間中、一緒に過ごすテーブルフラワーです。 バラも一斉に咲き始めて、庭にいたいのは山々ですが、これから数日留守にするというとき。花がらが葉にベトベトついてしまうのが嫌なので、一斉にカットしました。ただでさえ雨でグチョグチョの花を見るのはたまらないので、今年は特に、家中花まみれでした。 花と遊ぶのは楽しいです。バラのフルーティーな香りを嗅ぐと、嫌なことは全部吹き飛びます。自分で世話したバラだから、なおさらです。 花瓶に挿すには短い花首の場合は、花の根元に画鋲で穴をあけて、ワイヤーを通して小枝に吊って、香りを楽しむモビールにします。 フレッシュで香りが漂う頃もいいし、次第に落ち着いた色に変化していくモビールも大好き。 この地で庭と暮らして12年。庭に興味のなかった夫が「野ばらの『桜』が咲いたよ、きれいだよ」と寝込んでいた私に知らせてくれました。私も見に行きたいと思い、身体を上げて歩くうち、気持ちが晴れていきます。 好きな場所で、好きなものを、家族と分かち合って暮らせること。 なによりの贅沢で、今の私の生きる力です。 今年は、小さなアジサイの苗も買いました。日陰になりつつある我が家の庭で、いつまでも無理なく庭とつき合いたいと思っています。 庭話は楽しいので、ついつい長くなりました。
-
ストーリー
緑の陽だまり“芝地”を楽しむ
我が家の庭へようこそ 我が家は、若木や古木の生い茂る森のほとりにポツンと建っています。初めて訪れた人は「ここに本当に家があるのだろうか」と少々不安になりながら先へ進み、日だまりにホッと車のスピードを落とすと、木立に紛れた我が家を見つけるといいます。 今日は、我が家と森をつなぐ大切な空間、芝地にまつわるあれこれをお話しします。 敷地に足を踏み入れれば、木立に囲まれた小さなサンクチュアリが芝地です。木立が時刻とともに影を自在に落としながら、日時計のようにゆったり時を告げていきます。森との境や陽だまりには、野の花が揺れています。 私が思う芝生と芝地 越して来た時、ここは乱開発の跡地でした。取り残された巨木が、砂利まみれの赤土に囲まれて立っているほかは何もありませんでした。私が最初に願ったのは「ここに野原を」そして「里山を」ですから、イギリスなどに見る美しい緑のじゅうたんのような芝生をイメージしたことはありません。 幼い日に花かんむりを編んだ、草刈りの手の入った空き地や公園が私の理想です。美しい緑のじゅうたんを理想とする芝生とは目指すところが違うので、ここではあえて「芝地」と呼ばせてください。 今、芝地は念願叶って小さな草花がいっぱいです。西洋芝の間には、スミレやヘビイチゴやクローバーなどの小さな植物が混在しています。刈り込むことで雑草が大きく成長するチャンスを失い、地際に生えるものばかりになっていきます。とはいえ芝地を囲む花壇のコーナーは、大型の野花で溢れていますから、時には芝地に向かないタネが入り込みます。 大きく目につく葉物や、真っ黄色のタンポポなど、茎が草刈り機に絡まるものは早春のうちに手作業で抜き取ります。とはいえ、雑草抜きは大仕事ですよね。根が張っていたり、混み合っていれば難易度アップ。けれどもいくら雑草といっても、茎や葉がなければ弱って、周りの宿根草に負けてしまいます。 ですから、庭鋏が地面にめり込むのでは? というくらい深く当てて切れば、せっせと掘らなくても撃退できる雑草も多いのです。でも、スギナ(ツクシ)のように根を張り巡らせて栄養をとっているものは、上だけ一部切ったくらいでは、すぐまた生えてくるので気をつけてくださいね。 我が家の芝地管理の基準 野の花が混じる、のどかな芝地の管理のコツは“メリハリ”です。大きく育てたい草花と、短く刈り込む草。その差がはっきりするほど、庭デザインの意図が明白になります。その“意図”がガーデニングファンでなくても容易に読み取れるなら、芝が引き立てるフラワーゾーンに囲まれたガーデンになるのです。一番大切なのは、こまめな芝刈り。その点では、芝生と変わらないですね。 我が家のヘッドガーデナーである私が、管理より大事にしているのは、庭が家族それぞれの「自分の居場所」であることです。自分が触れもしない場所は、自宅であっても他の誰かのプライベートスペースになってしまいます。 そんなわけで、芝刈りは夫や息子が担当となっているのですが、庭デザインに興味がない彼らは、「ベンチの下が面倒だった」とか「湿っていて草刈り機が進みにくいから適当に伸びた所だけ刈っといたよ」なんてサボリは日常的。あとから写真をよく見れば、刈りムラも目につき「いい加減なことしてるなぁ」ですって。私も「あらら」と思いますが、彼らもリラックスできる庭が一番。 これまでも、そしてこれからも。家族それぞれの思いやペースを大切に、自然の共有との中で庭空間を楽しんでいこうと思います。 雑草抜きと一緒につくるテーブルフラワー 本日の私のターゲットは、こちらのヒメジョオン。根が切れるくらいに深く切りました。早春の草花はまだ柔らかく、掘るよりずっと楽チン。ただしハサミは傷みやすいので、こうした雑用と花用を使い分けるために、2つのハサミを用意するのがオススメです。 さて、ザクザク切ったヒメジョオンは、どんどんカゴへ。雑草を切りながら、庭の花も思いつきでチョンと切ってカゴへ。 ただの雑草抜きではつまらない重労働ですが、まだ緑の少ない時期の貴重なグリーンは、小瓶を並べたカゴに庭の小花とザックリ合わせて活ける…。暮らしに生かす楽しみも忘れないのが我が家流です。 気がつくと、もはや雑草抜きが花摘みに変わり、愛らしい花カゴが完成しました。この日の花カゴの主役は、スイセン‘サー・ウィンストン・チャーチル’や、去年、水栽培したあと地植えにした小ぶりのピンクのヒヤシンス、プルモナリアです。 春咲いた球根類を来年も咲かせたいなら、葉を残すことが大切です。球根を太らせる栄養は葉から吸収されるので、できるかぎり完全に枯れるまで葉は切り取らないようにします。ヒメジョオンを抜き取って退治するのとは反対の作業ですね。カゴの花を引き立てるグリーンの役目はヒメジョオンに頑張ってもらって、球根には来年の開花に向けて光合成を頑張ってもらいましょう。 家に帰ると、一度カゴから花を出して小瓶を並べます。ジャムの空き瓶、薬の空き瓶、瓶ではありませんがプリンカップも。小ぶりで水が入れば、容器は何でも構いません。 まずは、ヒメジョオンの葉を小瓶にギッシリと詰めていきます。この詰まった葉が、花どめになります。最後に葉の中に埋もれるように花を挿していきます。水の入った瓶の位置が分かりにくいので、「水に花茎が浸かっているか」だけ気をつけて。 仕上げにパンジーも加えて、庭の花たちが集合した花カゴができ上がりました。さあ、庭の花を囲んでの夕ご飯、今夜は何をつくりましょうか。 こんな風に過ごす私のガーデニングは、どこからどこまでが庭仕事で、家事で、子育てで、犬の散歩か。まったく区別なく、すべてが庭を中心に回っているのです。