球根花が春を呼ぶ! スノードロップと早春の可愛い球根花
早春から春は、秋に植えた球根花が次々開花する嬉しい季節。スノードロップの開花から始まり、フリチラリア、クロッカス、キバナセツブンソウ、ヒヤシンスなど、順番に開花リレーをする早春の球根花。日本と同じようにドイツでも育てられている早春の球根花と咲かせ方アイデアを、ドイツ出身のエルフリーデ・フジ=ツェルナーさんがご紹介します。
目次
冬の終わりを告げるスノードロップ
長く厳しいドイツの冬。その終わりがもうすぐだと知らせてくれるのは、毎年スノードロップです。
美しい純白で、ともすれば壊れそうなほど繊細なスノードロップの花。葉はグレーがかった優しい緑色をしています。ガーデンでは、ツゲの生け垣の前や木の下などの明るい日陰によく植えられていますね。スノードロップは植えっぱなしでも年々広がり、常緑のツゲの緑と白い花の、美しいコントラストを描きます。春が来る前にもスノードロップの花が咲くように、季節に応じてさまざまな風景を見せてくれるので、たとえまだ寒さの残る日であっても、暖かい部屋を出てガーデンを散策しない、なんて理由がありません。
紫色が鮮やかなクロッカスと
黄色の絨毯をつくるキバナセツブンソウ
スノードロップと同じ頃に、クロッカスも姿を現します。クロッカスは、自然の野原をイメージさせるように、芝生エリアに植えるのが一般的。ハッとするほど鮮やかな紫色の花は、毎年の楽しみです。残念ながら、クロッカスはしおれるのがとても早く、長もちはしません。花瓶に活けることも難しいので、この短い間しか楽しめない景色です。ただ、切り花ではなく球根ごとなら水栽培も可能で、花瓶などに入れて室内でも楽しむことができます。
スノードロップやクロッカスとほぼ同じ頃、または少しだけ早く咲くのが、輝くような黄色が愛らしいキバナセツブンソウ(エランティス)。残念なことに、我が家のガーデンではキバナセツブンソウをうまく育てられたことはありませんが、以前働いていたガーデンでは、一面に咲き広がるキバナセツブンソウが、黄色のカーペットをつくるエリアがありました。草丈は低い花ですが、たくさん育てることで、圧巻の花景色をつくることができます。冬から早春にかけては、木々や茂みも葉を落としてしまう頃ですが、輝くような色彩のキバナセツブンソウは季節の主役に。花が終わった後には葉が少しの期間残りますが、そのあとにはすっかり姿を消してしまい、再び姿が見られるのは1年後です。
冬から早春を彩るいろいろな花
これらの花のほかにも、早春はいろいろな球根花が咲き始める時期です。例えば原種のシクラメンであるシクラメン・コウムや、ミニアイリスが咲くのもこの季節。黄色のスイセンと、ブルーのチオノドクサやシラーは、花壇やコンテナで組み合わせれば相性抜群ですし、青のムスカリは白のスノードロップとの組み合わせがオススメです。このように、2月のガーデンや寄せ植えの色彩は、白、青、黄色がメイン。3、4月に入ると、チューリップやヒヤシンスが咲き始めることで、カラーバリエーションはぐっと幅広くなります。
このように、春のガーデンを代表するさまざまな球根花ですが、それは販売者にとっても同じこと。以前、アメリカの大きなナーセリーで働いていたときは、春の主要な商品といえば球根でした。ムスカリやチューリップなどの球根は、まだずいぶん早いうちからお店に並べないといけないため、ガーデナーや生産者によって花期を管理されています。球根を数週間ほど大きな冷蔵庫などの寒い場所に置き、その後温室などに移すことで、希望のタイミングで咲かせることができ、販売時期を伸ばすことができるのです。
さて、私の勤務先にあった「冷蔵庫」は、たくさんの棚がある大きなもので、職場でもかなりスペースを取っていました。種々の球根は晩秋にポットに植えられて、この冷蔵庫に移され、注文が入ると温室に移動して開花時期を調整してからお客さまの元に届けられていたのですが、寒い中で重いポットを移動するのは、本当に重労働。毎年、球根の販売時期が終わりを迎えるのが、最もほっとする瞬間でした。4月頃になると、ヒヤシンスやチューリップ、スイセンなど、売れ残った球根を、トラックの荷台に入れたまま道で売ることもあり、季節の終わりを実感したものです。
また、球根ではありませんが、早春の頃に長く咲いてくれる花は、クリスマスローズです。クリスマスローズは気温の低い中でも咲き、花期も長く楽しめる上に、白からほとんど黒に近い紫まで、花色もさまざま。模様のバリエーションも豊富で、ほとんどのガーデナーの庭やバルコニーで栽培されていたほど。日本のガーデナーにも人気が高いのもうなずけます。クリスマスローズは、半日陰での栽培がオススメです。
早春のシンボル スノードロップの楽しみ方
数ある早春の球根花の中でも、まだ寒さや雪の残る頃からいち早く花を咲かせるスノードロップは、ドイツ人にとっては春の先駆け。ちなみに、スノードロップはドイツ語でSCHNEEGLÖCKCHENと呼びます。 SCHNEEはSnow、つまり雪を表し、 GLÖCKCHENは鈴を意味します。同じ花でも、各国で少しずつ名前が違うのも面白いですね。
ガーデンで育てるのはもちろんですが、コンテナガーデンで楽しむガーデナーも多く見かけます。また、スノードロップの球根をクレーポットに入れて表面をグリーンモスで覆い、涼しい場所に置いておけば、室内やバルコニーなどで育てるのも簡単。スノードロップの球根を入れた器の周りを、樹皮のきれいなサクラの枝で覆ってフラワーアレンジメントのように仕立てても素敵です。リースの中に球根を入れ込んでワイヤーで固定し、エントランスなどに掛ければ、意外性のある季節のアレンジにもなりますよ。ナチュラルな茶色の枝ものは、清楚な白いスノードロップと組み合わせると相性抜群なので、ぜひ試してみてくださいね。
スノードロップの思い出
私は個人的に、この花にとても思い入れがあります。スノードロップは、母のつくっていたガーデンの中では一年で最初に咲き始める花で、よく母が花を摘んでは飾っていました。花瓶に活けても長もちし、どんな花やリーフを合わせても素敵なアレンジになりますが、我が家ではよく小枝と一緒に活けたものです。
母が最期の数週間を病院で迎えたのは、この寒い季節のこと。私にできることは、美しく愛らしいスノードロップの花を摘み、病室に飾ることだけでした。彼女はスノードロップが本当に好きでしたし、白い花は母のガーデンの空気を病室にも運んでくれました。母が二度と目を開けることがなくなったときにも、その手には父が贈ったスノードロップの小さな花束がありました。
お葬式の時には、私や娘とともに、花が大好きな友人や、家族ぐるみで古くから付き合いのあったそのお母さまが手伝ってくれて、教会に飾る長いヤナギの枝を使ったユニークなナチュラルアレンジメントを作りました。ヤナギの枝には、母のスノードロップのコケ玉と、家族みんなで折ったカラフルな折り鶴とが飾り付けられ、一緒に冬の空気の中で踊っていました。アレンジメントは本当に大きく、160cm以上の長さがあったので、叔父が大きなワンボックスカーで運搬したことを覚えています。
今、母の育てていたスノードロップは墓地に植えられています。ちょうど今頃は白い花を咲かせていることでしょう。残念ながら日本にいる私はその姿を目にすることはできませんが、私が植えたものなので、どんな景色か想像することはできます。
スノードロップと、母にまつわる鮮烈な思い出は、私にとってはとても大切なもの。少し切ない記憶にもつながりますが、冷たい雪の中でも咲く、スノードロップの可憐でも力強い姿は、大きな悲しみをほんの少し和らげてくれます。草花は、悲しみを乗り越えたり、心を癒やし、リラックスするのに大きな助けとなります。ガーデナーの皆さんは、そんな草花の力をよくご存じのことと思います。
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Credit
ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/Friedrich Strauss/Stockfood
取材/3and garden
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