おおもり・れいこ/筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。
大森玲子 -「びいなすふぁあむ」-

おおもり・れいこ/筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。
大森玲子 -「びいなすふぁあむ」-の記事
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育て方
クリスマスローズの株分け・植え替えの適期は?方法は?
秋は株の断捨離の最適期 夏の間、半休眠状態だったクリスマスローズ。夜温の低下に伴って、9月下旬頃から根が動き出します。生育適期となる10月以降は、一年で最も根の伸長が盛んになるので、かなり手荒に根を切ったり割ったりしても大丈夫。次の夏までの長い間に十分な根張りが確保でき、株は順調に回復できます。こうしたことから、寒さで生育が停滞するまでの秋のこの期間が、株分け・移植の最適期とされています。 写真のように、新根は新しい芽の付け根からどんどん伸びていきます。株の基部から新しい芽が分化し、その付け根のところから根が伸びる。こうして外へ外へと広がるように株は成長していきます。株の中心部では、芽も根も込み合って新しく出にくいうえ、ムレを生じやすいため、株が大きくなると真ん中がハゲたような状態になります。 株を分けることは、株を傷つけることなので、植物にとって負担にならないわけではありません。でも、株分けすることによって、活動しなくなった根や死んでしまった芽を取り除くことができ、若い部分が伸び伸びと成長できるようになる…いわば株の断捨離なのです。思い切って、大胆に株の若返りを図りましょう。 クリスマスローズの株分けの手順 掘り上げた株の土を落とし、どの辺りから自然に分かれそうか、いくつに分けられそうかを見極めます(小さく分けると数は増えますが、回復に時間がかかるので、3~5芽を目安に)。 葉が邪魔であれば、この時に切り落としてもよいでしょう。 芽の付け根より1㎝くらい下、芽と芽の間の分けられそうな部分にマイナスドライバーを差し込みます。 一気にグッと差し込んで、株の分かれ方を見ながら分割していきます。根の付いていない小さな芽がとれてしまわないように、間違ったら途中でも差す場所を変えて、無理なく分かれるところで分割していくことがポイントです。 芽が勢いよく伸び、根がしっかりついているものは、1芽だけに分割。分割のダメージが小さく、若返った分、元気のよい株になります。 こちらの写真くらいであれば許容範囲ですが、根の基部の下の方にある古根は、新根の伸長の妨げになるので、ドライバーを差し込んで外します。外した古根は、土に活けておくと新しい芽が吹いてくることも! 一度に何株も分割する際は、ウイルス病などの感染予防のため、株ごとにハサミやドライバーをバーナーなどで消毒することを忘れずに! 株分け後の植え付け方法 〈庭植えの場合〉 1.植え穴を掘り、元肥と堆肥や腐葉土などの有機物を入れて土と混ぜ合わせます。 2.根を広げ、元の深さくらいに埋め戻し、根と土を密着させるように、株元をしっかり押さえます。フカフカならば踏んでもいいでしょう。 3.さらにその上に土をかけて平らにし、たっぷりと水をかけます。 株元の水はけをよくして、降雨の跳ね上がりや水圧を和らげるため、バークチップなどを敷くのもGood! 〈鉢植えの場合〉 1.底土を入れ、なるべく根が広がるように株を置きます。 2.ドライバーや割りばしなどでつつきながら、隙間のないように土を入れます。 3.芽が少し隠れるくらいまで土を入れたら、株元の土をしっかり指で押さえて安定させ、最後にたっぷりと水をかけます。 夏の間に葉がなくなってしまったら… 「枯れてしまった!」とあきらめるのはまだ早い! まず鉢の土を出してみましょう。 半分は根がボロボロになって腐ってしまっていても、基部がかたくしっかりしていて、白い芽やあめ色でかたい生きた根がついていれば、再生できる可能性があります。腐った部分や黒変して折れた根を取り除き、雑草の根っこなどを取ってきれいにしてから植え付けます。水洗いや殺菌剤に漬けるなどの作業は、必要に応じて行ってください。 夏越し株の植え付け 春に夏越しのため軽く根鉢をくずしただけで仮植えしていた株は、思い切って根をしっかりほぐし、傷んだり腐ってしまった部分を取って、植えたい場所に植え付けます。 株分けのついでに… 秋の早い時期だとまだ区別がつきにくいのですが、11月頃になると、秋に新葉が出ない株や、充実した大きな葉が地面に倒れてきた株は、葉の付け根にぷっくりとした花芽ができています。冬になると生育は徐々に停滞していきますが、雑菌の繁殖も少なく、春からの根の伸びもあるので、株分けは十分できます。花芽の部分を鉢に上げ、日当たりのよい室内に置いておくと、外より一足早く花を楽しむことができますよ。 葉はいつ切るの? 夏までの間に働いてくれていた葉も、秋後半にはその役目を終えます。花芽に光を当てて開花を促すためには邪魔になるので切ったほうがいい。でも、寒風で芽が傷むのを防ぐには残したほうがいい。まだ緑が残っているので、冬の緑の少ない庭にクリスマスローズの葉があるだけでもうれしい…など、いろいろな考え方があると思います。春の開花期にはさすがに邪魔になりますが、正直なところ生育上大きな差にはならないので、古葉切りは必ずこの時期に行うべきということはありません。ご自身の好みに合わせてもよいと思います。 見事な大株に育って、毎年たくさんの花をつけて楽しませてくれるクリスマスローズ。株分け・植え替えは何年に一度は必ず、ということはなく、順調に株が育っているうちは特に心配はいりません。 ただ、株の真ん中がハゲてきたり、根詰まりのために花茎が伸びず、地際で花が咲いてしまったり、といったクリスマスローズからのSOSサインを見逃さないことが大切。適期にお手入れすれば、何度でも若返って、いつまでも美しい姿を楽しませてくれます。 併せて読みたい
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宿根草・多年草
クリスマスローズ 猛暑を乗り切る管理の心得
自生地の多くは夏カラッとした気候 主なクリスマスローズの原種が自生しているのは、ヨーロッパ、地中海沿岸を中心に、西は黒海沿岸地域。標高の高い所~低い所まで分布しているので気温の差はありますが、基本的には、緯度は日本の東北~北海道あたり。日射は極端に強くはなく、降水量は日本の半分くらいで、梅雨のような時期はなく、夏は温度は高くなっても湿度は高くありません。 このことを踏まえ、日本でのクリスマスローズの夏越しを考えると、日差しを和らげ、高温多湿にならないようにすること、特に生長点のある地面直下の基部の環境を、涼しくカラッとした状態に保つことが大切だといえます。 1.日差しを和らげる 植えつける場所は、大きな広葉樹の下の明るい日陰が理想とされています。しかし、必ずしもそんな環境の所に植えられるわけではないので、地植えの場合、なるべく午後の日差しが避けられる場所を選ぶか、暑い時期だけ日除けを立てるなど、適宜工夫します。鉢の場合は移動できるので、葉焼けを防ぐために、朝だけか午前中、日が当たるような場所に移動するか、ヨシズや遮光ネットなどで遮光します。 ただ、あまり日陰が強すぎたり、遮光期間が長すぎたりすると、株が軟弱になり、花芽の付きも悪くなってしまうので、天候に応じて調整します。 2.地温を下げる 気温は高くても基部の地温が低ければ、まず深刻なダメージにはなりません。地植えの場合は、春のうちに葉が十分展開していれば、葉自体が日除けになって地温の上昇を抑えてくれるので、特別な手立てはいりません。 鉢の場合は遮光下に置くこと。ベランダやコンクリートに直置きしてしまうと、輻射熱で長時間高温にさらされます。地面から離し、スノコや台などの上に置いて風通しをよくし、鉢の温度を早く下げるようにします。 3.地面を裸にしない 有機物の多い土、または頻繁に水やりをしていると、鉢土が消耗し、根が露出してしまうことがあります。必ず増し土をしてください。 降雨による水圧で地面が硬くなることや、土の跳ね上がりを防ぐためにも、できるだけ地表面が露出しないようにします。ラミウムやアジュガ、ヒメツルニチニチソウなどのグラウンドカバープランツを植えるのもよし、空いた場所に鉢植えなどを置いてみてもいいでしょう。葉っぱだけのクリスマスローズの空間がちょっと華やかになります。このほか、バークチップや落ち葉、なければ除草した雑草を敷いても効果があります。 4.株元がムレないように 枯れた花茎や古葉を切った残渣は、湿気を呼び、カビのもとになりますので除去します。株の周りの雑草や苔も、ムレの原因になるので取り除き、風通しをよくします。 5.水管理 クリスマスローズの場合、過湿を避けることを重点に鉢選びや鉢土づくりをするため、鉢そのものが水はけがよくなっているうえ、夏は葉からの蒸散や土からの蒸発も盛んになるので、さらに乾きやすくなります。夏越しがむずかしいのは、この水管理が一番の要因ともいえるでしょう。 この時期の良好な土の状態とは、乾湿の変動ができるだけ少ないこと、高温にさらされないこと、根の周りに水が行き渡り、吸水できる状態になっていることです。そのことを頭に置いて、日常の管理や鉢の状態をチェックしてみましょう。 ①上と下のバランス 地上部に対して土の量が少ないとか、水はけがよすぎると、当然乾きが早くなります。その場合は、土を崩さないように一回り大きい鉢に替えると、乾湿の変動が少なくなり、水やりの頻度も少なくなります。逆に、葉が少ないのに土が重く、量が多くなれば過湿になってしまいますので、灌水量を減らします。 ②タイミング 朝たっぷり水をやって、日中高温になると、鉢の中の水分は煮えるくらい高温になり、根を傷めてしまいます。夏の灌水は、基本的には鉢の温度を下げるつもりで夕方に。どうしてもやらなければいけない時は、早朝か、灌水後、涼しく日射の少ない所に移動して高温にならないようにします。 ③灌水後の鉢の中の状態 頻繁な灌水のため、鉢土の表面が水圧で固く締まってしまったり、一度すっかり乾かしてしまったりすると、鉢の真ん中まで水が浸透せず、水をやっても根が吸水できない状態に陥ることがあります。こうなると、ひどいときには地際が腐ってしまうか、脱水して枯死してしまいます。固くなった表面の土を崩し、鉢ごと水につけるか、たっぷり雨に当てるかして土の毛管をつなぎ、鉢全体に水がいきわたるようにしてあげましょう。 6.肥料は与えない 半休眠状態のこの時期、生育はほとんどせず、葉や根の伸長は止まっています。したがって肥料を与えても効かないばかりか、土に過剰に残った肥料分は病気の原因になります。秋に再び成長を始めるまで肥料は与えません。 7.困ったときは地植えに 地温を下げ、適した水分を保つことは、正直地植えのほうが楽です。旅行で長期間水やりができない、だんだん株の調子が悪くなってきた、そんなとき、もし地面があるなら、根を崩さないように鉢から抜いて、日陰に地植えしてしまうのも手です。生育が再開する秋になったら出直せばいいのです。 お彼岸を過ぎ、暑さの峠を越えて夜温が下がってくると、クリスマスローズは再び根を伸ばし始めます。さらに涼しくなる10月からは、株分けや植え替えの適期になります。それまでは、マイルドな環境づくりを心掛けて、暑い夏を乗り越えていきましょうね。 秘話 「クリスマスローズをふるさとの花に」 地元の小学校の裏の畑でクリスマスローズを栽培している縁もあって、鉢上げの際に出る小さな花芽を、毎年卒業生にプレゼントさせてもらっています。機会があるたびに、銀行や郵便局の植え込みにも植えさせてもらってきたので、春の訪れとともに、わが町ではクリスマスローズが咲いているのを、あちこちで見られるようになってきました。 うちのビニールハウスでクリスマスローズを販売するのが2月中旬。3月になると、近くにある国営公園のクリスマスローズが次々咲き始め、3月中~下旬に開催される「クリスマスローズまつり」には、多くの方が花を見に訪れます。地元の温泉の観光案内所やホタルの里の林床は、標高の高い所にあるおかげで、5月中旬までクリスマスローズを楽しむことができます。 わがふるさとは、2~5月の3カ月間、どこよりも長くクリスマスローズが楽しめる町。 学校を卒業してこの町を離れていくかもしれない子どもたちが、大人になっていつかどこかの街角でクリスマスローズを見かけたときに、ふっと、ふるさとが胸によみがえってくるような…そんな花になってくれたら素敵だなと、密かに思っているのです。 Credit 写真/文責 大森玲子 筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。 結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。 ◆びいなすふぁあむ 〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34 TEL 0224-84-4911 http://venusfarm.blog.jp/
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宿根草・多年草
クリスマスローズ 花を楽しんだ後、今からやっておきたいこと
翌年も開花を楽しむために 開花によってかなり体力を消耗したクリスマスローズは、これから新しい根や葉を伸ばし、盛んに生育することで回復し、さらに来年の開花に向けて株を充実させエネルギーを蓄えていきます。一年で一番生育が盛んなこの時期の管理で大切なことは、株の消耗を極力抑えることと、養水分を十分供給して大きな葉を育て、株を大きくすること。そして、その後の高温による障害や病気などのダメージを受けやすい夏を、いかにカラッと涼しく越せる環境をつくれるか、です。 株の消耗を抑え、旺盛に生育させる 1.移植は極力避ける 出たばかりの根を傷めてしまう上、吸水が途切れてしまいます。新葉はまだ柔らかく脱水しやすいので、この時期の植え替えはNG! どうしてもという時は、根を崩さないように。 2.葉を傷めない これから最も活躍する花の後に出る葉。出たばかりのうちは柔らかいので、春の強風で傷つけないよう、葉がかたくなるまでの間は、風除けなどで保護します。 3.タネをつけすぎない 開花・結実は株にとってかなり負担の大きいものです。タネを採りたいときは数を決めて、無駄に結実させないよう、早めに花の真ん中にある子房を取り除いておきます。 4.病害株の除去 株の力が衰えてくる開花の後半あたりから、ウイルス病やべと病、ブラックデスといった病気を発症するものも出てきます。残念ですが薬剤での治療はできないので、見つけたら速やかに処分し、他の株への感染を防ぎます。 5.十分な水分供給 気温の上昇と展葉に伴って、葉からの水分の蒸散が一気に盛んになり、水の必要量も多くなります。水が不足すると葉の伸びが滞り、葉が小さくなってしまうので、特に鉢の場合は水切れしないよう気を付けます。 ここで注意したいのは、ただ水をかけているだけでなく、ちゃんと根が水を吸えている状態かどうか。一度乾かしてしまったり、表面の土が固く締まっていたりすると、灌水しても水が鉢全体にいきわたらず、鉢の中は乾いてしまっていることがあります。その際には、表面の土を崩して柔らかくしたり、あまりにも乾いてしまっていたら、一度鉢ごと水につけてたっぷり吸水させたりといった手立てが必要です。 6.タイミングよく施肥する 葉を大きく育てるには、展葉し生長する期間に肥料が効くこと。ゆっくり長く効いてくれる有機質肥料や緩効性の化学肥料を、葉が出る少し前に与えます。夏に肥料分がたくさん土に残っていると、腐れや病気の原因になるので、タイミングが遅れないように。鉢の場合は早めに施肥して、葉色が淡いようなら液肥を与え、葉がかたくなった6月以降は肥料は与えないようにします。 7.花茎の除去 葉が開き活動を始めるまでの間、光合成をして株を支えてきた花茎も、そろそろ役割は終わり。タネを採るのでなければ、早めに取り除きます。そのままでも自然に枯れますが、根元から切除して株元の風通しをよくします。そのほうが来年の花芽分化を促進するともいわれます。 夏越しのための環境づくり 地表面の直下に生長点のあるクリスマスローズは、この部分が高温多湿になりやすい日本の梅雨~夏の気候が大の苦手。だからといって、高温にならない暗い日陰では、花芽の形成に必要な日射が足りず、葉ばかりで花がつきにくくなってしまいます。高い木の根元のような明るい日陰で、地温が上がらず、余計な水分がたまらず、涼しい風が株元を通り抜けるような環境が理想ですが、条件がそろう場所はどこにでもあるわけではありません。工夫して、足りない条件を補うようにします。 1.鉢の場合 数にもよりますが、時期や天気によって理想に近い条件の場所に移動したり、資材を使ったりして鉢を置く環境を改善します。コンクリートに直置きすると、底の水が抜けない上、真夏は輻射熱で長時間高温にさらされます。鉢は花台やスノコの上に置き、日射が強い時は遮光資材をかけるとか日陰に移動する、雨が続くときは軒下に移すとか雨よけビニールをかけるなど、与えられた条件を考えて知恵を絞ってみてください。 2.庭植えの場合 基本的には、水はけがよいところ、西日が避けられるところに植えれば、あとは雑草との戦い。雑草の勢いの強い時期なので、株元が蒸れたり、草に覆われて葉が腐れたりしないように。ただ条件によって、日当たりがよすぎて地温が上がるところは、盛夏に草をまめに取りすぎないとかバークチップを敷くなど、地面をむき出しにしない工夫も臨機応変に。 気軽に採種・育苗にチャレンジ 花の真ん中が豆のサヤのように膨らんで、触ると中にかたいものが。これがタネです。はじめのうちは白い色ですが、成熟してくると黒~茶褐色になり、自然とこのサヤが開いてタネがこぼれてきます。 タネから育てると、同じものが二つとない…といわれるクリスマスローズ。どんな花が咲くか楽しみに、花好きの方へのプレゼント用に、苗を育ててみるのも楽しいですよ。 1.タネを採る タネが中にできている花に、お茶のパックなどの袋をかけておき、タネがサヤからこぼれたら、袋を外します。タネは乾かさないように、そのまま株元やポットに採り播きするか、茶袋に入れてタネが重ならないようにして土に埋めて貯蔵しておき、秋に少し根が出始めた頃、ポットなどに播きます。 株元に双葉を広げているのは、昨年のこぼれダネが発芽したものです。これを根が傷まないようにそっと掘り上げ、育苗箱に並べて移植します。育苗箱のほうがポットより土量が多い分、水やりが楽。夏の間日陰に置いて、秋に大きくなったものをポット上げするか、地床に植えます。さらに大きくなったらお庭に、プレゼントに。手をかけた分愛着が湧きますし、お財布にもやさしいですよ。 手入れをした結果が出るのは来年の春。「先が長いなぁ」ではなく、「花が咲くまで、ずっとワクワクしていられる」と、待つ時間の幸せに思いを転じましょう。クリスマスローズさん、今年も素敵なお花を楽しませてくれてありがとう。来年また会いましょうね。 Credit 写真/文責 大森玲子 筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。 結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。 ◆びいなすふぁあむ 〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34 TEL 0224-84-4911 http://venusfarm.blog.jp/
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宿根草・多年草
進化し続ける! 楽しさ広がるクリスマスローズの世界
広がる花のバリエーション 今年はどんな新しい花に会えるだろう? そんな期待で幕を開けた今シーズン。専門店や池袋サンシャインシティで行われた『クリスマスローズの世界展』では、今まで見たことのないような花の数々に、ため息の連続でした。 一般の方には分かりにくいクリスマスローズの花事情を整理しながら、ここ数年の新花作出の流れを解説してみます。 1.鮮やかに輝くような花色のオーレア系 『ゴールド』と呼ばれる金色に近い透明感のある黄色い花を交配親に使うことによって、キラキラ輝くように鮮やかで退色しにくい花色のものが続々と生み出されています。 これらは“オーレア系”と呼ばれ、新花が次々作出されて注目を集めています。 2.完成度の高まった小輪多花系 花の小さな原種から庭向きの大きな花へと育成されてきた海外のクリスマスローズを、日本では逆に小さくして花付きのよいものへと改良が重ねられてきました。 はじめのうちは花の種類も少なく、庭に植えると大きくなってしまうものや、多花というほど花数がなく、従来のものをサイズダウンしただけのような印象でした。その後、花立ちのいいものや花のバリエーションも増え、明るく可愛らしいクリスマスローズのラインナップとして、定着してきています。 また、雪割草などと並ぶ、繊細な和のテイストの花の出現で、山野草愛好家の中に新たなファンが生まれています。 3.八重咲きの進化 今や園芸店に並ぶ大半は八重咲き。そんな中で新しい花を生み出すエネルギーは、多弁化や弁の形の変化による、クリスマスローズとは思えないような花を出現させています。 4.表情豊かなセミダブル かつては、花の真ん中にある蜜腺部分(ネクタリー)が、しばらくすると落ちてしまい、観賞価値がなくなると敬遠されてきたセミダブル(アネモネ咲き)。花弁の模様やネクタリーの色・形との組み合わせで表情がいっそう豊かに。 5.個性的な色・模様 スポット・ピコティー・ベインなど定番の模様だけでなく、絞りやぼかし、パステルのような差し色、覆輪や先端の色抜けなど、いくつかの模様の組み合わせで、より多彩なニュアンスに。 6.さまざまな原種を用いた原種系ハイブリッド 小輪化を狙ったH.デュメトラム、ベインの模様の導入にH.トルカータス、香りをのせるためH.オドルス、H.リグリクス、透明感のある薄いピンクのH.チベタヌス……。 それぞれの原種が持つ特性とガーデンハイブリッドの持つ丈夫さや花のバリエーションを融合して新花を生み出す手法は、まだ使われてこなかった原種や原種の八重咲きにも。野草的な趣と整った可愛い花が生まれています。 7.開花前から楽しめるカラーリーフ 木立性の原種H.リビダスやH.フェチダス、H.アグチフォリウスの葉の色や形の変異に着目した選抜と、これに丈夫さを加えた育種で、クリスマスローズの全く新しい用途を切り拓いたカラーリーフ。ヒューケラなど他のカラーリーフにはないニュアンス、花のシーズン前から寄せ植えなどに使えば、開花までの変化も長く楽しめるのが魅力です。 生かす感性を磨いて素敵に楽しんで お店に並ぶ豊富な種類のクリスマスローズ。珍しい花のコレクションも楽しいものですが、長く付き合える花なので、その花選びから、より深くセンスよく楽しむための着眼点やアイデアをご紹介します。ぜひ参考になさってください。 1.花の裏側の顔!? うつむいて咲くクリスマスローズ。案外ずっと目にするのは花の裏側。正面から見た顔ばかりでなく、裏側から見た印象も大事にしたいですね。庭で大株になった時も想像しながら、花選びや植え付けを。 2.葉・花茎とのコントラスト 同じような花でも、花以外の部分の違いで印象も変わってきます。銅葉、烏葉と呼ばれる黒い葉、原種に見られる糸葉や幾何学的な形の葉は、プラスαの楽しみ。また花茎の茶色いものは和の雰囲気。そんなところにも着目してみると楽しいですよ。 3.草姿 二番花、三番花と咲き進むうちに首が伸びて草姿が乱れてしまうのは、ちょっと残念。花の付き方、咲き方、花茎の伸び方など、株全体のバランス、立ち姿の美しさも楽しみたいですね。 4.つぼみから始まる花の楽しみ 気温の低い時期の開花なので、長期間、ゆっくり楽しめるのもこの花のよさ。まだ凍てつく土から葉に大事に包まれてつぼみが顔を出し、寒さの中にも春を感じて立ち上がり、固いつぼみが次第にほどけていく。満開のクリスマスローズが春風に揺れる頃まで、年に一度、約3ヶ月のドラマです。 5.テイストを変えて“使える”クリスマスローズ 花の豊富なバリエーション。暮らしの中のいろんな場面に合わせて楽しんでみましょう。 ・シックな色合いと原種系のシンプルな花は、アンティークなシーンにぴったり。 ・ビビッドな色の花との寄せ植えにも応える存在感。 ・花の乏しい和の庭もクリスマスローズちょい足しで華やかに。 ・小物と飾って 寄せ鉢でスモールガーデン風。 6.シングル咲き再考 クリスマスローズに求めるもの 豪華な八重咲き、きらびやかなオーレア系……。華やかな新しい花に目を奪われる一方で、シングル咲きの清楚な美しさがかえって新鮮に感じられたりもします。庭に植栽する際、和風はもちろん、メリハリをつける意味でも、シンプルなシングル咲きを組み合わせると、落ち着いて爽やかな印象になります。一つひとつの花も、光の当たり方や咲き進みながらの表情の変化は、シンプルな花ほど豊かだなと感じます。 これからもたくさんの新しい花が生み出されていくクリスマスローズ。新しさや珍しさだけでなく、生かすセンスやテクニック、花と共に綴っていく季節の物語を楽しむ感性も進化させていきたいですね。 Credit 写真/文責 大森玲子 筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。 結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。 ◆びいなすふぁあむ 〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34 TEL 0224-84-4911 http://venusfarm.blog.jp/
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宿根草・多年草
シーズン到来! クリスマスローズ いい花と出逢う目と生かす手と
一年中で一番、たくさんの種類のクリスマスローズに出回る2月。今年はどんなお花と出逢えるかと、心躍らせている方も多いはず。クリスマスローズは、メリクロン(人工培養)のもの以外は、花や株の性質・状態において個体差の大きい植物です。花を見極める目を磨いて、いい株を手に入れること。また、お庭に植えたい頃には、もう園芸店にはほとんどクリスマスローズは置いてないことから、入手した株をいい状態でキープしてあげることが、この時期のメイン・ミッションです。ここではそのための基礎知識とアイデアを紹介します。 花選びの心得 種類と特徴を覚えましょう たくさんの種類があるように見えますが、大きく三つに分けてみると分かりやすいと思います。 1.交配種(ガーデン・ハイブリッド) お店に並んでいるクリスマスローズのほとんどは、この「交配種」です。品種名のないものが多く、花の色・形(シングル・セミダブル・ダブル・多弁)・模様(ピコティ、ベイン、フラッシュetc.)などの特徴を組み合わせて呼んでいます。 それでも最近は、交配種の中でも特に個性ある系統のものに、名前が付けられることも多くなってきました。 2.原種 20種類余りに分類されている原種は、ヨーロッパ~地中海沿岸~バルカン半島~黒海沿岸、一部は中国まで広く分布し、それぞれ生息する場所に適応した形態や生態を持っています。これらは、有茎種(茎が立ち上がって葉を開いた頂部に花を咲かせる)と無茎種(根茎から直接花や葉が立ち上がる)とに分けられます。希少性と野性味の強さ、香りのあるもの、斑入りや糸葉などマニアの心をくすぐる要素も楽しみの一つとなっています。 3.原種系交配種 原種の持つ野趣と交配種の丈夫さを併せ持ったこのタイプは、一般の交配種並みに育てやすく、庭植えにも向いています。 見る目を養いましょう 1.楽しみ方に合った花選び 珍しい花をコレクションしたい。庭に植えて大株にしたい。寄せ植えに使いたいetc. 自分の好みに合った花を選ぶのが一番ですが、衝動買いしてしまって、同じようなものを何度も買ってしまったことはありませんか?特に、お庭で長く楽しみたい方は、庭の雰囲気、まわりの植物との配置や配色を考えて、ターゲットを絞っておくと、きっとピッタリのお花に出逢えますよ。 「鉢で買った時と庭で咲いた花の色が違う」そんな声を耳にすることがあります。これは、温室で咲かせた場合に比べ、寒さに当たりながら開花する庭植えのものは緑の色が濃く出る傾向にあるためです。淡い色のもの、アプリコット系はそのことを頭に入れておくといいですね。 2.しっかりした健全な株を選ぶ 花の顔の良し悪しに、つい気を取られがちですが、購入の際は株全体を見て判断しましょう。 病害はないか? 株元にカビや水浸状の褐変がないか?花や葉の黒変、葉の縮れ・モザイク模様はウイルス病などシリアスな病気の場合がありますので、まず最初にチェックします。ただ、付いている古葉が退色したり枯れたりしていても、自然なものなら問題ありません。 力のある株 葉や花茎が太くしっかり、伸び伸びしていること。充実した花がしっかり咲いていること。株元で花が咲いてしまったり(根腐れ・根詰まり)、節間が間伸びしていたり(軟弱徒長)しているものは、回復に時間がかかります。 遺伝的な形質を見極める 細い葉がたくさん出ている(葉勝りで花付が悪いことも)、花弁や咲き方に乱れがある(次の代に引き継がれやすい性質)、雄しべの先端にある葯が小さく退化したもの(花粉に力がない)、株元に脇芽がない(この後成長しないかしばらく休む)など。納得した上で購入するならいいですが、交配したい、種を取りたいという方は特に気を付けて。 なるべくフレッシュなものを 咲き進んだものは、花色も分からなくなってしまいます。また、お店の中の高温と弱日照にさらされ、春から活躍する花の後に出る新葉が傷んでしまうと、大きなダメージですので、できれば展葉前に購入しましょう。 春まで花を元気に保つコツ 何も手を加えず、買ってきた鉢のまま楽しむのもいいですが、ひと手間加えれば管理も楽ちん。楽しみながら、株もいい状態を保って春を迎えることができます。 1.なるべく低い温度で管理 せっかくのお花を長く楽しむためには、急激な環境変化で株を傷めないことと、光は十分当てながらなるべく低温でゆっくり生育させ、軟弱にしないことが大事です。凍らなければ、日中は屋外に出して、夜だけ取り込む。暖房のない明るい室内の窓際などに置くなど、工夫してみてください。 2.過湿に注意 葉からの水分の蒸散が少ないので、新葉が開く前の水のやりすぎは禁物。水やりは、むしろ花が少し首を下げるくらいのタイミングで。鉢の表面の水抜けが悪い時は、株元が腐る原因になるので、この部分の土を水はけのいいものにします。 3.種を無駄につけさせない 種をつけさせてしまうと、かなりエネルギーを消耗します。なるべく株を弱らせずに、花を楽しみたい。そんなときは、花の真ん中にある雌しべの元、子房を取ってあげます。花茎は新葉が開いた後、見苦しくなったら元から取り除きます。 4.土量を増やして手間を省く 土の量を増やせば、水やりの頻度も下がり、肥料切れもしにくくなります。温度や水分も安定し、新しい根の活動を促し、環境の変化にも対応しやすくなります。鉢に根が回っているときは軽くほぐして(秋には再度しっかり根をほぐして植え付けるのを忘れずに)。 二回りくらい大きい鉢に植え替えます。一年草や小球根を空いた株元に活けて、ゆったりとした寄せ植えにして楽しめます。 さあ! 週末は展示会やガーデンセンターのイベントも目白押し。素敵なクリスマスローズに出逢いに行きましょう! 『希望の花・家族の花「クリスマスローズ」のナーセリーを訪ねて ~宮城県川崎町 びいなすふぁあむ~』の記事も併せてご覧ください。 Credit 写真&文 大森玲子 筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。 結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。 ◆びいなすふぁあむ 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34 TEL 0224-84-4911 http://venusfarm.blog.jp/ 2月末~4月上旬まで「お花見カフェ」開催中!