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クリスマスローズは寒さには強い半面、ムシムシ、ジトジトする暑さが大の苦手。高温多湿になる日本の夏。さらにここ数年は猛暑が続き、クリスマスローズにとって一番厳しい季節です。この時期、株にダメージを与えないことが、その後の生育や来年の開花に大きく影響します。夏の管理の勘どころ、一つひとつチェックしていきましょう。

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自生地の多くは夏カラッとした気候

主なクリスマスローズの原種が自生しているのは、ヨーロッパ、地中海沿岸を中心に、西は黒海沿岸地域。標高の高い所~低い所まで分布しているので気温の差はありますが、基本的には、緯度は日本の東北~北海道あたり。日射は極端に強くはなく、降水量は日本の半分くらいで、梅雨のような時期はなく、夏は温度は高くなっても湿度は高くありません。

このことを踏まえ、日本でのクリスマスローズの夏越しを考えると、日差しを和らげ、高温多湿にならないようにすること、特に生長点のある地面直下の基部の環境を、涼しくカラッとした状態に保つことが大切だといえます。

日当たりのいい草地の中にあるH.アトロルーベンスの自生地。
H.デュメトラムが自生しているのは、日陰の林縁部。

1.日差しを和らげる

植えつける場所は、大きな広葉樹の下の明るい日陰が理想とされています。しかし、必ずしもそんな環境の所に植えられるわけではないので、地植えの場合、なるべく午後の日差しが避けられる場所を選ぶか、暑い時期だけ日除けを立てるなど、適宜工夫します。鉢の場合は移動できるので、葉焼けを防ぐために、朝だけか午前中、日が当たるような場所に移動するか、ヨシズや遮光ネットなどで遮光します。

ただ、あまり日陰が強すぎたり、遮光期間が長すぎたりすると、株が軟弱になり、花芽の付きも悪くなってしまうので、天候に応じて調整します。

2.地温を下げる

気温は高くても基部の地温が低ければ、まず深刻なダメージにはなりません。地植えの場合は、春のうちに葉が十分展開していれば、葉自体が日除けになって地温の上昇を抑えてくれるので、特別な手立てはいりません。

鉢の場合は遮光下に置くこと。ベランダやコンクリートに直置きしてしまうと、輻射熱で長時間高温にさらされます。地面から離し、スノコや台などの上に置いて風通しをよくし、鉢の温度を早く下げるようにします。

3.地面を裸にしない

有機物の多い土、または頻繁に水やりをしていると、鉢土が消耗し、根が露出してしまうことがあります。必ず増し土をしてください。

降雨による水圧で地面が硬くなることや、土の跳ね上がりを防ぐためにも、できるだけ地表面が露出しないようにします。ラミウムやアジュガ、ヒメツルニチニチソウなどのグラウンドカバープランツを植えるのもよし、空いた場所に鉢植えなどを置いてみてもいいでしょう。葉っぱだけのクリスマスローズの空間がちょっと華やかになります。このほか、バークチップや落ち葉、なければ除草した雑草を敷いても効果があります。

グラウンドカバーにシルバーリーフのラミウム。
空いているスペースにペンステモンの仲間の置き鉢。

4.株元がムレないように

枯れた花茎や古葉を切った残渣は、湿気を呼び、カビのもとになりますので除去します。株の周りの雑草や苔も、ムレの原因になるので取り除き、風通しをよくします。

5.水管理

クリスマスローズの場合、過湿を避けることを重点に鉢選びや鉢土づくりをするため、鉢そのものが水はけがよくなっているうえ、夏は葉からの蒸散や土からの蒸発も盛んになるので、さらに乾きやすくなります。夏越しがむずかしいのは、この水管理が一番の要因ともいえるでしょう。

この時期の良好な土の状態とは、乾湿の変動ができるだけ少ないこと、高温にさらされないこと、根の周りに水が行き渡り、吸水できる状態になっていることです。そのことを頭に置いて、日常の管理や鉢の状態をチェックしてみましょう。

①上と下のバランス

地上部に対して土の量が少ないとか、水はけがよすぎると、当然乾きが早くなります。その場合は、土を崩さないように一回り大きい鉢に替えると、乾湿の変動が少なくなり、水やりの頻度も少なくなります。逆に、葉が少ないのに土が重く、量が多くなれば過湿になってしまいますので、灌水量を減らします。

②タイミング

朝たっぷり水をやって、日中高温になると、鉢の中の水分は煮えるくらい高温になり、根を傷めてしまいます。夏の灌水は、基本的には鉢の温度を下げるつもりで夕方に。どうしてもやらなければいけない時は、早朝か、灌水後、涼しく日射の少ない所に移動して高温にならないようにします。

③灌水後の鉢の中の状態

頻繁な灌水のため、鉢土の表面が水圧で固く締まってしまったり、一度すっかり乾かしてしまったりすると、鉢の真ん中まで水が浸透せず、水をやっても根が吸水できない状態に陥ることがあります。こうなると、ひどいときには地際が腐ってしまうか、脱水して枯死してしまいます。固くなった表面の土を崩し、鉢ごと水につけるか、たっぷり雨に当てるかして土の毛管をつなぎ、鉢全体に水がいきわたるようにしてあげましょう。

6.肥料は与えない

半休眠状態のこの時期、生育はほとんどせず、葉や根の伸長は止まっています。したがって肥料を与えても効かないばかりか、土に過剰に残った肥料分は病気の原因になります。秋に再び成長を始めるまで肥料は与えません。

7.困ったときは地植えに

地温を下げ、適した水分を保つことは、正直地植えのほうが楽です。旅行で長期間水やりができない、だんだん株の調子が悪くなってきた、そんなとき、もし地面があるなら、根を崩さないように鉢から抜いて、日陰に地植えしてしまうのも手です。生育が再開する秋になったら出直せばいいのです。

お彼岸を過ぎ、暑さの峠を越えて夜温が下がってくると、クリスマスローズは再び根を伸ばし始めます。さらに涼しくなる10月からは、株分けや植え替えの適期になります。それまでは、マイルドな環境づくりを心掛けて、暑い夏を乗り越えていきましょうね。

秘話 「クリスマスローズをふるさとの花に」

地元の小学校の裏の畑でクリスマスローズを栽培している縁もあって、鉢上げの際に出る小さな花芽を、毎年卒業生にプレゼントさせてもらっています。機会があるたびに、銀行や郵便局の植え込みにも植えさせてもらってきたので、春の訪れとともに、わが町ではクリスマスローズが咲いているのを、あちこちで見られるようになってきました。

昨年は銀行前に。
地元の偉人、支倉常長の墓のそばには20年前に。

うちのビニールハウスでクリスマスローズを販売するのが2月中旬。3月になると、近くにある国営公園のクリスマスローズが次々咲き始め、3月中~下旬に開催される「クリスマスローズまつり」には、多くの方が花を見に訪れます。地元の温泉の観光案内所やホタルの里の林床は、標高の高い所にあるおかげで、5月中旬までクリスマスローズを楽しむことができます。

公園内のクリスマスローズの大株。

わがふるさとは、2~5月の3カ月間、どこよりも長くクリスマスローズが楽しめる町。

学校を卒業してこの町を離れていくかもしれない子どもたちが、大人になっていつかどこかの街角でクリスマスローズを見かけたときに、ふっと、ふるさとが胸によみがえってくるような…そんな花になってくれたら素敵だなと、密かに思っているのです。

Credit

写真/文責 大森玲子
筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。
結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。

◆びいなすふぁあむ
〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34
TEL 0224-84-4911
http://venusfarm.blog.jp/

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