毎年個性的な花が作出され、その多彩な花の世界が人気のクリスマスローズ。一度植えれば案外手間もかからず、見事な大株になって、毎年早春の訪れを真っ先に教えてくれる……。庭植えのクリスマスローズは、鉢植えとはまた違った楽しみを与えてくれます。たくさんの種類が出回るこの時期、お気に入りの株と出逢って、庭植えするまで楽しみながら本格的な春を待つ。今知っておきたい知識とアイデアについて、宮城県で長年クリスマスローズの栽培に携わっている「びいなす ふぁあむ」の大森玲子さんが紹介します。
一年中で一番、たくさんの種類のクリスマスローズに出回る2月。今年はどんなお花と出逢えるかと、心躍らせている方も多いはず。クリスマスローズは、メリクロン(人工培養)のもの以外は、花や株の性質・状態において個体差の大きい植物です。花を見極める目を磨いて、いい株を手に入れること。また、お庭に植えたい頃には、もう園芸店にはほとんどクリスマスローズは置いてないことから、入手した株をいい状態でキープしてあげることが、この時期のメイン・ミッションです。ここではそのための基礎知識とアイデアを紹介します。
花選びの心得
種類と特徴を覚えましょう
たくさんの種類があるように見えますが、大きく三つに分けてみると分かりやすいと思います。
1.交配種(ガーデン・ハイブリッド)
お店に並んでいるクリスマスローズのほとんどは、この「交配種」です。品種名のないものが多く、花の色・形(シングル・セミダブル・ダブル・多弁)・模様(ピコティ、ベイン、フラッシュetc.)などの特徴を組み合わせて呼んでいます。
それでも最近は、交配種の中でも特に個性ある系統のものに、名前が付けられることも多くなってきました。
2.原種
20種類余りに分類されている原種は、ヨーロッパ~地中海沿岸~バルカン半島~黒海沿岸、一部は中国まで広く分布し、それぞれ生息する場所に適応した形態や生態を持っています。これらは、有茎種(茎が立ち上がって葉を開いた頂部に花を咲かせる)と無茎種(根茎から直接花や葉が立ち上がる)とに分けられます。希少性と野性味の強さ、香りのあるもの、斑入りや糸葉などマニアの心をくすぐる要素も楽しみの一つとなっています。
3.原種系交配種
原種の持つ野趣と交配種の丈夫さを併せ持ったこのタイプは、一般の交配種並みに育てやすく、庭植えにも向いています。
見る目を養いましょう
1.楽しみ方に合った花選び
珍しい花をコレクションしたい。庭に植えて大株にしたい。寄せ植えに使いたいetc.
自分の好みに合った花を選ぶのが一番ですが、衝動買いしてしまって、同じようなものを何度も買ってしまったことはありませんか?特に、お庭で長く楽しみたい方は、庭の雰囲気、まわりの植物との配置や配色を考えて、ターゲットを絞っておくと、きっとピッタリのお花に出逢えますよ。
「鉢で買った時と庭で咲いた花の色が違う」そんな声を耳にすることがあります。これは、温室で咲かせた場合に比べ、寒さに当たりながら開花する庭植えのものは緑の色が濃く出る傾向にあるためです。淡い色のもの、アプリコット系はそのことを頭に入れておくといいですね。
2.しっかりした健全な株を選ぶ
花の顔の良し悪しに、つい気を取られがちですが、購入の際は株全体を見て判断しましょう。
- 病害はないか?
株元にカビや水浸状の褐変がないか?花や葉の黒変、葉の縮れ・モザイク模様はウイルス病などシリアスな病気の場合がありますので、まず最初にチェックします。ただ、付いている古葉が退色したり枯れたりしていても、自然なものなら問題ありません。 - 力のある株
葉や花茎が太くしっかり、伸び伸びしていること。充実した花がしっかり咲いていること。株元で花が咲いてしまったり(根腐れ・根詰まり)、節間が間伸びしていたり(軟弱徒長)しているものは、回復に時間がかかります。 - 遺伝的な形質を見極める
細い葉がたくさん出ている(葉勝りで花付が悪いことも)、花弁や咲き方に乱れがある(次の代に引き継がれやすい性質)、雄しべの先端にある葯が小さく退化したもの(花粉に力がない)、株元に脇芽がない(この後成長しないかしばらく休む)など。納得した上で購入するならいいですが、交配したい、種を取りたいという方は特に気を付けて。 - なるべくフレッシュなものを
咲き進んだものは、花色も分からなくなってしまいます。また、お店の中の高温と弱日照にさらされ、春から活躍する花の後に出る新葉が傷んでしまうと、大きなダメージですので、できれば展葉前に購入しましょう。
春まで花を元気に保つコツ
何も手を加えず、買ってきた鉢のまま楽しむのもいいですが、ひと手間加えれば管理も楽ちん。楽しみながら、株もいい状態を保って春を迎えることができます。
1.なるべく低い温度で管理
せっかくのお花を長く楽しむためには、急激な環境変化で株を傷めないことと、光は十分当てながらなるべく低温でゆっくり生育させ、軟弱にしないことが大事です。凍らなければ、日中は屋外に出して、夜だけ取り込む。暖房のない明るい室内の窓際などに置くなど、工夫してみてください。
2.過湿に注意
葉からの水分の蒸散が少ないので、新葉が開く前の水のやりすぎは禁物。水やりは、むしろ花が少し首を下げるくらいのタイミングで。鉢の表面の水抜けが悪い時は、株元が腐る原因になるので、この部分の土を水はけのいいものにします。
3.種を無駄につけさせない
種をつけさせてしまうと、かなりエネルギーを消耗します。なるべく株を弱らせずに、花を楽しみたい。そんなときは、花の真ん中にある雌しべの元、子房を取ってあげます。花茎は新葉が開いた後、見苦しくなったら元から取り除きます。
4.土量を増やして手間を省く
土の量を増やせば、水やりの頻度も下がり、肥料切れもしにくくなります。温度や水分も安定し、新しい根の活動を促し、環境の変化にも対応しやすくなります。鉢に根が回っているときは軽くほぐして(秋には再度しっかり根をほぐして植え付けるのを忘れずに)。
二回りくらい大きい鉢に植え替えます。一年草や小球根を空いた株元に活けて、ゆったりとした寄せ植えにして楽しめます。
さあ! 週末は展示会やガーデンセンターのイベントも目白押し。素敵なクリスマスローズに出逢いに行きましょう!
『希望の花・家族の花「クリスマスローズ」のナーセリーを訪ねて ~宮城県川崎町 びいなすふぁあむ~』の記事も併せてご覧ください。
Credit
写真&文 大森玲子
筑波大学農林学類卒業後、千葉県で農業改良普及員として勤務。
結婚後、夫と共に自然と共にある暮らし・環境に負荷の少ない農業を志し、『びいなすふぁあむ』を始める。当時はほとんど知られていなかったクリスマスローズの有機無農薬、露地栽培という独自方法での生産に取り組む。近年は“花の季節感、野にある姿の美しさを”伝えるべく、原点に返って、庭で楽しむクリスマスローズの普及に力を注いでいる。
◆びいなすふぁあむ
宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁34
TEL 0224-84-4911
http://venusfarm.blog.jp/
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