かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志

かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
河合伸志の記事
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園芸用品
バラを育てる植木鉢の素材は何がベスト?専門家が解説!
ライフスタイルで選ぶバラ栽培用の鉢の素材 バラの栽培には、プラスチック鉢やテラコッタなどの素焼き鉢が一般的に用いられますが、それぞれメリットとデメリットがあるので、自分のライフスタイルなどに合わせて鉢の種類を選択します。 バラ栽培で素焼き鉢がよい点、悪い点 Photo/joloei/Shutterstock.com 素焼き鉢は鉢の側面からも水が抜けるため、通気性がよく根にとっては適した環境ですが、この利点は乾きやすいという欠点でもあり、外出が多い方などは水切れによって株を傷めてしまうことがあります。また割れやすかったり、重いなどで、鉢が大きくなると植え替えの際に扱いにくいというデメリットがありますが、デザイン性に優れ、演出効果が高い点ではプラスチック鉢よりはるかに優れています。 バラ栽培でプラスチック鉢がよい点、悪い点 一方、プラスチック鉢は水もちがよく、外出しがちの方でも水切れの心配が少ない反面、過湿には注意が必要です。重量が軽いため持ち運びにも便利ですが、風などで鉢が転倒しやすく、時に割れることもあります。また、デザイン性では素焼き鉢よりも劣ります。プラスチック鉢の中でもスリット鉢と呼ばれる側面に切れ込みが入ったものは、通常の仕様よりも排水性に優れますが、そこから土がこぼれやすいので要注意です。 バラを育てるために適した鉢の大きさとは Photo/stanga/Shutterstock.com 四季咲き中輪もしくは大輪のバラでは、鉢サイズは最低でも6号、できれば7〜8号鉢が理想的です。6号鉢で栽培をスタートした場合、半年後には7号以上に鉢増しをしないと順調に生育しません。鉢の号数は1号3㎝が基本で、6号ならば直径18㎝前後となりますが、メーカーによって多少の差があります。 バラを育てる素焼き鉢の水もちを改善するアイデア 素焼き鉢を使いたいものの水切れは困るという場合は、あらかじめシート状に切断したビニールを鉢の内側に入れると、見た目は素焼き鉢のままプラスチック鉢の水もちを確保できます。写真のように使用済みの用土の袋などを利用するのも一案です。 大きな穴には鉢底網を入れる 底面に大きな穴がある場合は、穴からの用土流出を防ぐために鉢底網を入れます。右写真の上のような銅製の鉢底網を使用すると、ナメクジ避けに効果があります。なお、多数の小さな穴があいているプラスチック鉢やスリット鉢では鉢底網は必要ありません。
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育て方
晩秋から初冬はバラの鉢替えシーズン!専門家が解説する5つの手順
バラの鉢替えとは 鉢植えのバラは、そのままの用土で何年も栽培し続けると、さまざまな要因で成育が悪くなります。特に化成肥料を多用している場合などは、有機肥料単独の場合と比べて用土の劣化が早く、バラが順調に生育しなくなります。この成育不良を解消するために、根鉢を崩して新しい用土で植え付ける作業を「鉢替え」といいます。 鉢替えの間隔は8号鉢以上の大鉢では2~3年に1回でも構いませんすが、それ以下の鉢の場合は可能な限り1年に1回行います。鉢替えの際には根が切断されますが、春の成育開始時期までに十分に根が再生するためにも、作業時期は年内が理想的です(関東以西の平地の場合)。 鉢替えは雑草と縁を切るチャンス! 植え付け後1年間を経過したバラの鉢植えの表土を見ると、雑草が生えていることもあります。カタバミやカラスノエンドウ、セイタカアワダチソウなどの雑草は鉢植えのままでは抜き取りにくく、また表土には雑草の種子も落ちていることがあります。鉢替えの際に丁寧に表土を崩すことで、これらを除去することが可能です。 植え替えに用意するものは7つ 鉢替えをする苗(品種:北斗)と用土、元肥、鉢底石、バケツ、熊手、土入れ、鋏を用意したら、植え替えスタート! 1 咲いている花や新芽がある場合は切り取る 鉢替えを行うと、必ず根が切断され一時的に植物の吸水能力が低下します。そのため水を多く必要とする新芽や花などが株に残っていると、脱水症状を起こす危険性があります。これらの部分はあらかじめ切り落としておくと、安全に作業を行えます。枝に残っている堅く成熟した葉は脱水症状を起こす可能性が低く、むしろ根の再生を助けるので、今回のような部分的に根鉢を崩す鉢替えの場合は、そのまま作業を行うことが多いです(根鉢をすべて崩すなど根を大きく切断する場合は、成熟した葉も落としたほうが安全です)。 2 固まった根をほぐす 鉢から抜いた根鉢は、鉢底まで根がしっかり回っています。固まった根をほぐし、同じ鉢に再び植え込むために、古い土を落として新しい用土が入るスペースを確保します。 まずは熊手などで表層をよく崩して、カタバミなどの抜きにくい雑草や雑草の種子などを用土ごと取り除きます。次に株をぐるぐる回しながら、サイドや底の根の塊を崩すようにかきとっていきます。この時、根が切れますが、構わずに進めましょう。写真右くらいの状態まで根が崩れたら終了です。鉢替え前の根鉢の3~5割程度崩しても問題はありません。 3 新しい用土の準備 バラ専用用土に元肥を混ぜて植え込み用土を準備します。今回は、天然素材をブレンドし、有効菌も豊富な培養土『バイオゴールドの土』に、天然有機肥料の『クラシック元肥』をブレンドしました(両資材ともに販売元:タクト)。 4 鉢底石を敷いてから用土を入れる 元々植えていた鉢に再び植えるので、バラの株を取り出したら一度鉢を水洗いします。見た目もきれいになり、雑草の種子なども洗い流されます。 排水性を高めるために底が見えなくなる程度、鉢底石(軽石やパーライト、大粒の硬質赤玉土など)を入れ、先に準備した用土を根鉢の大きさに合わせて入れます。 枝の広がりのバランスがよいように鉢の中央に苗をすえたら、株を押さえながら周囲に用土を入れていきます。ある程度土が入ったら、根と根の間に土が入るように、割り箸や棒などで軽く用土をつつきます。同じ鉢に植え込む場合は、根の間に土が入りにくいので、しっかりと行います。ウォーター・スペース(灌水の際に水が溜められる)を残すため、鉢の縁から3〜5cmほど下まで土を入れたら完了です。 5 水をたっぷりやって完了! 活力剤を入れた水をたっぷり与えます(鉢底から水が流れ出るまで)。鉢替えなどで根を傷めた場合、活力剤『バイオゴールドバイタル』(販売元:タクト)などを薄めて与えると、その後の回復がスムーズに進みます。 株の状況にもよりますが、一連の写真の作業は約10分程度で終わります。ぜひ、鉢替えの時期を逃さずに、バラを健やかに育てましょう。
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育て方
専門家が解説! 秋冬にやっておきたいバラの大苗の植え付け【鉢植え編】
購入した大苗を確認しましょう 晩秋から早春にガーデンセンターや通信販売などで購入できるバラの大苗には、大きく分けて3タイプあります。(詳しくは『よいバラ苗を選ぼう!初心者でもチャレンジしやすいバラの大苗をご紹介』を参照)。鉢に植え込まれた大苗(右)は春の開花までこのまま育てることができますが、裸苗(左)やロング・ポット苗(中央)は、植えつけ作業が必要です。 【全苗共通】植え付け前の準備 株元のテープを外す 株元を見ると、テープが巻かれていることがあります(接ぎ木の仕方によってはない場合もある)。これは、接ぎ木(ノイバラの台木に園芸品種を接合する増殖方法)の際に固定するために巻いたテープなので、大苗まで生育すれば、もう必要ありません。テープが巻かれたままだと株に食い込んでしまうこともあるので、残っている場合は写真右のように外します(自然分解性のテープの場合は放置しても問題ありません)。 【裸苗】の植え付け前の準備 用土に植え込まれていない裸苗は、時に苗が乾燥気味になっていることがあります。特に輸送時間を要する輸入苗はその傾向が強く、また同時に植物検疫に対応するために輸入苗は根を強く洗浄しているため、国産苗に比べると根が傷んでいることがあります。その状態から回復させるために、植え付け前に活力剤を30〜60分程度吸水させます。この作業によって植え付け後の活着が良好になり、特に輸入苗は劇的にその効果が現れます。 ここでは活力剤として『バイオゴールドバイタル』(発売元:タクト)を使用しました。なお使用した後の活力剤は、植え込み後の水やりに再利用しましょう。 【ロング・ポット苗】の植え付け準備 ロング・ポット苗は植えつける際に、仮植えの用土を無理のない範囲で落とします。白い根がびっしりと張り、土を落とすと根が切れる場合は無理せずにそのまま植え込みます。水を張ったバケツなどに根鉢を入れて軽くゆすると、ピートモスなどは落ちることもあります。なお裸苗と同様に活力剤を吸水させると活着がよりよくなります(写真の事例では、根が伸び始めであったため、周囲のピートモスが自然にポロポロと落ちました)。 【裸苗とロング・ポット苗】植え付けの5つの手順 植え付けるバラの苗(品種:ラディアント・パフューム)、用土、元肥、鉢(7号)、土入れ、割り箸などの棒を揃えたら、植え込みスタートです。 1 鉢底石を入れる 排水性を高めるために底が見えなくなる程度、鉢底石を入れます。鉢底石は軽石やパーライト、硬質赤玉土(大粒)などを用います。多数の小さな穴があいているプラスチック鉢やスリット鉢では鉢底網は必要ありません。 2 植え込み用土の準備 バラ専用用土に元肥を混ぜて、植え込み用土を準備します(輸入苗は国産苗に比べて根が傷んでいることが多いので、植え付けの際はなるべく肥料分の少ない用土を用い、元肥を入れないほうが活着はよくなります)。 今回は、天然素材をブレンドし、有効菌も豊富な培養土『バイオゴールドの土』に、天然有機肥料の『クラシック元肥』をブレンドしました。(両資材ともに販売元:タクト) 3 苗を据える 枝の広がりのバランスがよいように鉢の中央に苗を据えたら(根が長い場合は切らずに巻き込むように入れます)、株を押さえながら2で準備した用土を周囲に入れていきます。 4 土を詰める ある程度土が入ったら、根と根の間にも土が入るように軽く割り箸や棒などで用土をつつきます。ウォーター・スペース(灌水の際に水が溜められる)を残すため、鉢の縁から3〜5cmほど下まで土を入れたら完了です。 5 水やり 活力剤を入れた水をたっぷり与えます(鉢底から水が流れ出るまで)。 植え付け後の置き場所 関東以西の平地では、植えつけが終わったら寒風にさらされない陽だまりになる場所(建物の南面など)に鉢を置きます。寒冷地では、苗や土が凍結しない程度の場所で越冬させます。風除室や玄関、納屋など最低温度が0〜5℃程度を維持できる場所が適しており、リビングのような暖かい場所は避けます。 バラの株元が寂しいならば、草花を一緒に植えることも可能です。ミントやススキなど、バラよりも旺盛に生育する植物は適しませんが、ビオラやアリッサム、宿根ネメシアなどの草花や、ヒューケラやワイヤープランツ、ヘデラなどのリーフ類など、バラとの生育のバランスを取りやすいものは可能です。バラの季節まで美しい状態を維持できる植物であれば、開花期には草花との混植風の鉢を楽しめます。また、下草が植えてあることで水のやり忘れの防止にも役立ちます。
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宿根草・多年草
バラに似合う草花選び4つのポイント&おすすめ28種
バラに似合う草花選びの大切なポイントは4つ バラが咲くナチュラルな庭を目指す場合、一緒に咲かせる草花を選ぶときの基本的なポイントは4つあるとバラの専門家、河合伸志さんが解説してくれました。では、大切な4つのポイントをご紹介しましょう。 バラの草花選びポイント1 1つめは、バラと合わせるのであれば、バラの好む環境で生育できる植物を選ぶこと(これは絶対にはずしてはいけないポイントです)。肥料分の少ない土地や日陰地、湿地などを好む植物は、バラが栽培できない場所で上手に活用しましょう。 バラの草花選びポイント2 2つめは、バラと喧嘩しない花を選ぶこと。例えば開花期が重なる大輪のシャクヤクや大輪のダリアなどは、バラと主役を奪い合ってしまうのでNGです(小輪など控えめなバラと組み合わせるのであればこれらもOKです)。 バラの草花選びポイント3 3つめは、草花をバラの脇役としたいのならば、バラと開花期が重なるものを選びます。例えば、アグロステンマやヤグルマギクなどの一年草やサルビア・ネモローサ‘カラドンナ’などの宿根草がオススメです。主張のあまり強くない小花や線の細い穂状花はバラに違和感なく合わせられます。 バラの草花選びポイント4 4つめは、可能であればバラの花が終わっても長期間楽しめるカラーリーフや長期咲きの宿根草を選ぶことです。例えば、アメリカテマリシモツケ‘ディアボロ’は晩秋まで銅葉が茂り、背景となって華やかなバラの色を引き立て、さらに最後に紅葉で楽しませてくれます。日本の野草、アラリア(ウド)‘サン・キング’やシュキンハギの明るいライムグリーンの葉も株元を明るくしてくれてオススメです。長期咲きの植物としては、バラの足元で4月中旬から11月まで咲き続けるエリゲロン・カルビンスキアヌスや宿根バーベナ、バラの開花期から11月まで咲くゲラニウム‘アズール・ラッシュ’などは、バラに彩りを添えるだけでなく、バラの開花期の合間も埋めてくれて大変に重宝します。 派手になりがちな赤系のバラと優しいパステルカラーのバラが混ざり咲き、庭全体が調和して見えるのは、カラーリーフや小花が咲く下草が間をつないでいるおかげです。写真右側のシックな銅葉は、スモーク・ツリー(ケムリノキ)。その奥にある明るい黄緑色の葉を茂らせているのは、シュキンハギ。手前右側のグラスの穂(ラグラス・オバタス)は庭に優しさをプラスしています。 暖色系の花が咲く下草 左から、シレネ‘ピンクピルエット’(宿根草/草丈30〜50㎝)、アグロステンマ(一年草/草丈80〜100㎝)、シレネ・ディオイカ(宿根草/草丈約30〜50㎝)、カレンジュラ‘ブロンズ・ビューティ’(一年草/草丈約30㎝)、シレネ・ディオイカ(宿根草/草丈約30〜50㎝) 寒色系の花が咲く草花 左から、サルビア・ファリナセア(一年草扱い(暖地では宿根する)/草丈約30〜40㎝)、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’ (宿根草/草丈約30〜50㎝)、リナム(ペレニアル・フラックス)‘ブルー・ドレス’(宿根草(暖地では一年草扱い)/草丈約30〜50㎝)、ヤグルマギク‘ダブル・ブルー’(一年草/草丈約60〜80㎝)、ラベンダー‘エイボンビュー’ (低木/樹高約20〜50㎝)、カンパニュラ・メジウム‘チャイム・パープル’(一年草/草丈約60〜80㎝)、リナリア・プルプレア(宿根リナリア)(宿根草/草丈約50㎝) ダークなトーンの草花 左から、セリンセ・マヨール(一年草/草丈約30〜50㎝)、ヤグルマギク‘ブラック・ボール’ (一年草/草丈約60〜80㎝)、アメリカテマリシモツケ‘ディアボロ’ (中低木/樹高約100〜200㎝)、ペンステモン‘ハスカー・レッド・ストレイン’ (宿根草/草丈40〜50㎝)、ニシキシダ‘アースラズ・レッド’(宿根草/草丈約20~30㎝)、セイヨウニワトコ‘ブラック・レース’ (中木/樹高約150〜300㎝) 明るいトーンの下草 左から、エリゲロン・カルビンスキアヌス(宿根草/草丈約15㎝)、アグロステンマ・ギダゴ‘オーシャン・パール’ (一年草/草丈約80〜100㎝)、シロタエギク(ダスティー・ミラー)(宿根草/草丈約20~40cm)、ミヤコワスレ(白花)(宿根草/草丈約20〜30㎝)、ニゲラ(一年草/草丈約20〜40㎝)、ツリー・ジャーマンダー(低木/樹高約30〜80㎝)、ラグラス・オバタス(一年草/草丈70㎝)、ヒナゲシ‘ブライダル・シルク’(一年草/草丈約70〜100㎝)、ギボウシ‘ハルシオン’(宿根草/草丈約30〜40㎝)、右上はアラリア(ウド)‘サン・キング’ (宿根草/草丈約30〜60㎝)
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樹木
「秋バラ」は今が見頃! バラ園に美しく咲く秋バラの特徴&魅力をバラの専門家が解説
春とは違った魅力をまとう「秋バラ」 「横浜イングリッシュガーデン」に咲く秋バラ。写真/桜野良充 夏が終わり、秋風が吹く頃から咲き始めるバラを、総称して「秋バラ」と呼びます。各地のバラ園などでは、今、秋バラが次々と咲いて見頃を迎えています(秋バラの見頃は、地域やバラ園の管理方針によって異なります。関東地方以西の平地では、おおむね10月中旬~11月中旬が最も美しい花を咲かせます)。バラの種類には、初夏に一度開花する「一季咲き」と、春以降も不規則に繰り返して咲く「返り咲き」や規則的に開花する「四季咲き」がありますが、秋にも再び花が咲くのは、「四季咲き」の品種が中心です。そして、一斉に美しく咲くように、夏剪定を行いながら、株を健全に育てているからこそ、美しい秋バラの風景を楽しむことができるのです。 「横浜イングリッシュガーデン」に咲く秋バラ(品種は‘禅’)。写真/桜野良充 春に比べると、秋は花数が少なくなる品種もありますが、春とは違った魅力をまとっているのも秋バラの特徴です。日毎に気温が下がっていくことで花がゆっくりと開くので、春よりも観賞期間が長くなります。また、秋になると昼夜の気温差があるため、多くの品種は春の花よりも、色が濃く咲きます。そして、開花するまでに多くの時間を要する分、花弁が十分に成長し、カップ咲きなどはより深いカップになって、全体がふっくらした印象になるのも秋バラの特徴です。 左は春、右は秋に開花した ‘真宙(まそら)’。樹高約1.5mの半直立性。写真/河合伸志 例えば、上写真のバラは、右も左も同じ ‘真宙(まそら)’という品種です。細くしなやかな枝の先に、アプリコット色の整ったカップ咲きの花をうつむいて咲かせ、花にはフルーティーな強い香りがあります。秋はよりピンク色に傾き、香りも濃厚に。このように、春の花と比較して違いや魅力を知ることができるのも、秋ならではの楽しみです。 秋バラを咲かせるためには品種選びが大切 今年、「横浜イングリッシュガーデン」で開花した早咲きの秋バラ。写真左から時計回りに、‘テス・オブ・ザ・ダーヴァービルズ’、‘メルヘンツァウバー’、‘ドリーム・ウィーバー’、‘スキャボロー・フェアー’、‘ウィリアム・シェークスピア2000’、‘ホリデー・アイランド・ピオニー’、‘ザ・ポエッツ・ワイフ’。写真/3and garden 秋バラを美しく咲かせるには、初夏の開花後からの管理がポイントになります。しばしば起こりうることですが、病害虫により葉を落としてしまった場合、バラは光合成ができなくなるため株の力がなくなり、秋バラが咲かなくなってしまいます。生育期に雨が多く病害が発生しやすい日本では、最高の秋バラを咲かせることはプロにとっても決して容易なことではなく、見事な秋バラを咲かせているバラ園は、数多くのバラ園の中でもほんの一握りといっていいかもしれません。 「横浜イングリッシュガーデン」に咲く秋バラ(品種は‘禅’)。写真/桜野良充 上記のようなことだと、初心者には秋バラを咲かせることは難しいようにも思えますが、近年は病害に悩まされにくい耐病性の強い品種が登場しているので、以前に比べると秋バラのハードルはだいぶ下がっています。そう、秋バラを咲かせるための品種選びのコツは、耐病性の強い品種を選ぶことです。写真では印象が異なることがあるので、秋に咲いている姿を各地のバラ園で確認し、実際の花を見て選ぶのがおすすめです。以下からは、「横浜イングリッシュガーデン」で秋によく咲く品種や、春とは違った魅力がある花をセレクトしてご紹介します。 秋でも花つきがよい品種 7種 サザン・ホープSouthern Hope 淡いサーモン・ピンクのやや波状弁の平咲きで、花付き・花もちがとてもよく、初夏から秋にかけて次々開花し、年間を通して花数が多いです。株はコンパクトで、花壇や鉢植えに最適な品種です。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/未定 作出国/日本樹高約1m 木立ち性 アイスバーグIceberg 白の丸弁平咲きで、花付きと花もちがとてもよい品種です。晩秋になるとうっすらと淡いピンクを帯びて、より一層魅力的な花になります。軽いティーの香りがあります。適切な管理をすれば、夏から秋も春と変わらない花数が楽しめます。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/1953年 作出国/ドイツ樹高約1.2m 木立ち性 ブラッシング・アイスバーグBlushing Iceberg ‘アイスバーグ’の花色が異なる枝変わり種。白地に淡いピンクが絣状に入るハンド・ペイント・タイプの色彩で、季節によってピンクの濃淡が変化、秋はくっきりと絣模様が現れます。 丸弁平咲きで、軽いティーの香りがあります。花もち・花付きがよく、春~秋まで花数が変化しません。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/2012年 作出国/日本樹高約1.2m 木立ち性 ニュー・ウェーヴNew Wave 薄紫色からライラック色の波状弁の平咲きで、優雅に波打つ花弁が魅力的です。初夏から秋まで花付きがよく、強いブルー・ローズの香りがあります。やや細い枝をたわませながら花が咲きます。 四季咲き HT 花径/約10cm作出年/2000年 作出国/日本樹高約1.2m 半直立性 カーディナルKardinal やや桃色を含む鮮明な緋赤色の剣弁高芯咲き。早咲きで、開花サイクルが短く、初夏から秋まで花付きがとてもよい品種です。切り花品種として一世を風靡した品種ですが、ガーデン・ローズとしてもとても優秀です。株はコンパクトで、花壇や鉢植えに最適です。 四季咲き HT 花径/約10cm作出年/1985年 作出国/ドイツ樹高約1m 半直立性 スカボロー・フェアScarborough Fair 淡いピンクの中小輪の浅いカップ咲きで、秋はカップの深みが増し、コロコロとした印象になります。花付きがとてもよく、成株では常に花がどこかで咲いています。中程度のティーの香りがあります。完全な四季咲き性で、枝は細くてよく分枝し、しなやかで、こんもりとしたコンパクトな株に生育します。花壇や鉢植えに最適な品種で、耐病性にも優れます。 四季咲き S 花径/約6cm作出年/2003年 作出国/イギリス樹高約1m 木立ち性 ボレロBolero 淡ピンクを帯びた白のカップ咲きからロゼット咲きです。秋はより一層花弁にピンクの色が乗ります。花付きがよく、初夏以降も繰り返し咲きます。花もちも比較的よく、フルーティーな強い香りがあります。株はコンパクトで、花壇や鉢植えに最適な品種です。耐病性に優れています。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/2004年 作出国/フランス樹高約1m 木立ち性 春よりも秋に魅力的な花を咲かせる品種 7種 禅Zen 茶色で外弁に紫色のボカシが入る花は、秋は茶色一色に近くなります。早咲きで、開花サイクルが短い品種です。花付きがよく、花もちも比較的よいほうです。香りは中程度のティー系。株はコンパクトにまとまりよく生育し、花壇や鉢植えに適しています。 四季咲き F 花径/約8cm作出年/2005年 作出国/日本樹高約1m 半直立性 アイズ・フォー・ユーEyes for You ライラック色の花弁に赤桃色のブロッチが入ります。秋のような気温が低い時期はブロッチが濃く大きく入り、ベースの花色も濃くなります。花付きがよく、スパイス系の中程度から強めの香りがあります。株はコンパクトにまとまりよく生育し、花壇や鉢植えに最適です。耐病性にも優れています。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/2009年 作出国/イギリス樹高約0.8m 半横張り性 ベルベティ・トワイライトVelvety Twilight 波状弁の花は、春はロゼット咲きですが、秋はカップ咲きになります。濃赤紫の花色は気温が低い時ほど黒味が増します。中大輪の花で、花付きは中程度。花には、ダマスク系の強い香りがあります。株はコンパクトでまとまりよく生育します。 四季咲き F 花径/7〜8cm作出年/2010年 作出国/日本樹高約1m 半直立性 クー・ドゥ・クールCoup de Coeur 紫がかったニュアンスのある淡桃色の花弁に、赤紫のブロッチが入り、秋は花色が濃くなります。早咲きで、開花サイクルが短く、花付きがとてもよい品種です。株はコンパクトで、まとまりよく生育し、花壇や鉢に最適です。美しいうえに耐病性がとても強いです。 四季咲き F 花径/約7cm作出年/2020年 作出国/日本樹高約1m 木立ち性 アール・ヌーヴォーArt Nouveau 赤い花弁に黄色の筋が入る個性的な色彩は、スティブル・ストライプと呼ばれています。中小輪の花で、高温期は小さいものの秋の花は見応えのあるサイズになります。花付きがよく、比較的コンパクトな株になります。 四季咲き F 花径/約5cm作出年/2009年 作出国/イギリス樹高約1m 半直立性 アルチーナAlcina 花色は深みのある黒赤色で、秋はより一層濃くなります。弁先が尖った半剣弁咲きで、独特な花形です。花付きがよく、ダマスク系の強い香りがあります。枝が細くしなやかで、うつむきかげんに咲き、ティー・ローズの印象です。 四季咲き HT 花径/約8cm作出年/2019年 作出国/日本樹高約1m 木立ち性 アルパイン・サンセットAlpine Sunset ボリュームのある大輪花で、アプリコットやピンク、黄色が複雑に混ざり合う魅力的な花色です。春は波状弁の平咲きですが、秋は抱えるような印象になり、ふっくらとした花形になります。強いフルーティーな香りがあります。半直立性のコンパクトな株で、夏の暑さに弱く、やや育てにくい品種です。 四季咲き HT 花径/約14cm作出年/1973年 作出国/イギリス樹高約1m 木立ち性 多彩な秋バラが咲き競う「横浜イングリッシュガーデン」 秋バラの魅力を教えてくださったバラの専門家、河合伸志さんがスーパーバイザーを務める神奈川県横浜市の「横浜イングリッシュガーデン」には、約2,200品種 2,800株のバラがコレクションされ、毎年、秋バラが美しく咲くと人気のお出かけスポットです。 「横浜イングリッシュガーデン」の秋のガーデンの様子(2022年10月)。 早咲き種は、10月中旬から咲き始め、次々と花開くバラやコスモス、グラス類、コリウスのカラーリーフが秋の景色を彩っています。現在、美しく咲く秋バラの品種についてインスタグラムなどのSNSにて品種解説を添えた投稿も実施中。これらの花の品種解説も併せてチェックしながら、本物の秋バラが咲くガーデンへ出かけてみませんか? 「横浜イングリッシュガーデン」に咲く秋バラとコスモス。写真/桜野良充
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育て方
四季咲きバラの夏剪定のタイミング到来! 【樹高が高くなる】四季咲きバラ編
四季咲き性のバラの夏剪定とは バラ(薔薇)の夏剪定とは、文字通り晩夏に行う剪定のこと。四季咲き性のバラは秋にも開花しますが、順調に生育した株は、品種によっては夏の終わりには樹高が高くなりすぎたり、株姿が乱れたりしている場合があり、8月下旬~9月上旬頃に夏剪定を行うことで、より美しい咲き姿に整えたり、開花を調整することができます。夏の剪定は日本だけで行われているもので、バラの生育期間が短い欧米では、さほど株が大きくなりすぎることもないので、この作業を行うことはありません。 四季咲き性のバラの夏剪定の目的は主に以下の3つです。 樹高が高すぎる株や株姿が乱れたものなどを、コンパクトにまとまりよく仕立て直すこと 晩夏になると、1株内で、花が咲き終わった枝や伸び始めた新芽など、枝ごとの生育ステージが異なります。これらを一度リセットし、株内での開花を揃えること バラ園などでは、秋のバラ祭りなどに合わせて、花の咲く時期をコントロールして、早咲きも遅咲きも一緒に咲かせること(バラ祭りを開催しない一般家庭には当てはまりにくい) ここで押さえておきたいポイントが、四季咲きのバラは夏剪定をしなくても秋バラを咲かせるということ。株姿を整えたり、咲く時期を揃えたりということを気にしなければ、夏剪定は、決して必須の作業ではありません。個人でバラを栽培している場合は特に、花が一斉に咲くよりも、時期をずらして少しずつ咲いてくれたほうがよい時もあります。 また、剪定は株にハサミを入れ、葉の数を減らしてしまうので、どうしてもバラに負担がかかります。切りすぎるくらいなら、剪定をしないほうがバラにとってはずっとプラス。特に、病害虫などの被害に遭って、葉の数を減らしているような調子の悪い株の場合は、夏剪定は大きなダメージになりかねません。自分の育てている品種や、株の状況、咲かせたい理想像に合わせて、夏剪定を行うかを決めましょう。 夏剪定によって花期をある程度コントロールできるのは、気温によって開花時期が決まる完全な四季咲き性のブッシュ・ローズ(木立性バラ)です。シュラブ・ローズ(半つる性のバラ)にも四季咲きとされているものがありますが、気温以外の日長などの要因にも左右されやすく、開花時期を思うようにコントロールするのは難しいといえます。また一部のシュラブ・ローズは、そもそも秋に咲かないものもあるので、秋バラを咲かせる目的での夏剪定は必要ありません。 今回は、樹高が高くなる、高性種で四季咲きのブッシュ・ローズを剪定する方法を解説します。 コンパクトに生育する四季咲きのブッシュ・ローズの剪定方法は、『 四季咲きバラの夏剪定を解説 コンパクトに生育するバラ編』で解説します。 樹高が高くなるブッシュ・ローズ(木立ち性バラ)の夏剪定 背が高くなる高性品種のバラの場合、夏剪定の主な目的は2つ。夏の間に伸びた枝を切って生育をコンパクトに抑え、花を観賞しやすい位置で咲かせるためと、株内での開花を揃えるためです。 ここでは ‘パパ・メイアン’を例に、背が高くなるバラの夏剪定の方法を解説します。 夏剪定前のワンポイント! 夏剪定をする際には、剪定の7~10日前に、追肥として速効性の肥料を施しておきましょう。肥料が不足していると、剪定をした後に順調に新芽が吹かず、結果として花が咲かないこともあります。肥料は袋に表示されている既定の量を与えます。ここでは、住友化学園芸の「マイローズばらの肥料」を使用しました。 バラの夏剪定の方法 まず、剪定するバラの枝を確認し、剪定する位置を確認します。順調に生育したバラの場合、一番花、二番花、三番花…と、繰り返し花を咲かせていて、晩夏には概ね三番花(3段目)が咲き終わった状態から4段目の芽が伸び始めた状態になっています。 樹高が高いバラの切る位置は、2段目、つまり二番花をつけた枝の真ん中から上部を基本とします。しかし、バラの生育状況に応じて剪定位置を調整する必要があり、黒星病などの病害で下葉が少ないようであれば、葉を多く残すために2段目より上方で切るようにします。樹高が高いバラは、より強く枝を切ることで高さを低くできるため、ついつい切り過ぎてしまいがちですが、そうすることによって葉の枚数が減ると、株は光合成の能力が落ちるため、結果として剪定後に芽吹かなかったり花が咲かなくなってしまうことがあります。剪定可能な下限は、2段目の真ん中だと考えてください。なお、高い場所から見下ろしてバラを観賞したいなど特殊な事例の場合は、3~4段目で切った方が株へのダメージが少なく、その後の花も多く楽しむことができます。 樹高が高くなりやすいバラ、品種例 ここで剪定を行った‘パパ・メイアン’のほかにも、よく枝が伸長し、樹高が高くなりやすいブッシュ・ローズがあります。以下に背が高くなりやすい品種の例を紹介します。 ‘スイート・アフトン’ 淡い桃色の丸弁高芯咲き品種。フルーティーな香りがあり、花つきがよい。極めて背が高い品種の一つで、夏剪定をしても秋には樹高2m近くにまで生育する。 ‘アストリット・グレーフィン・フォン・ハルデンベルグ’ 深い赤紫色の花はロゼット咲きで、ボリュームのある花姿。ダマスク系の強い香りがある。ややシュラブの性質を持ち合わせているのか、秋には樹高が2m近くにまでなる。 ‘ザ・マッカートニー・ローズ’ 歌手のポール・マッカートニー氏に捧げられたバラで、ローズピンクの花弁が半剣弁平咲きになり、花つきがよい。黒星病に強く、初心者でも育てやすい品種だが、株は大ぶりで強い横張りのため、夏剪定で株姿を整えるとよい。 ‘クリスチャン・ディオール’ 老舗ブランドの名を冠したバラで、かつての赤バラの代表品種。長く伸びた花茎の先に、明るい赤色の花を咲かせる。花弁数が多く、ボリュームのある花姿の剣弁高芯咲き。夏剪定で強く切り過ぎると、力を失いよい花が咲かないことがある。 ‘クイーン・エリザベス’ 丸弁のピンク色の中輪花を多数咲かせる。殿堂入りをした銘花で、性質は強健で、悪条件にも耐えて生き残る。初心者でも育てやすく、各所で手入れをあまりされていない状態でも生き残っている。 ‘ブルー・ムーン’ 美しいラベンダー色で、強いブルー・ローズの香りがある。枝はトゲが少なく高く伸びる。もともと芽吹きが悪い性質があり、さらに黒星病で葉を落としやすいので、夏剪定をする場合は葉数を維持するように、慎重に作業をしたほうがよい。 高性種のバラを栽培している場合、必要に応じて夏剪定を行うことで、樹高を抑えて株姿を整え、背が高くなりすぎるのを防ぐことができます。株の状態に合わせて夏剪定を取り入れましょう。
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育て方
四季咲きバラの夏剪定はタイミングが大事! 【コンパクトに生育する】バラ編
四季咲き性のバラの夏剪定とは バラの夏剪定とは、文字通り晩夏に行う剪定のこと。四季咲き性のバラは秋にも開花しますが、順調に生育した株は、品種によっては夏の終わりには樹高が高くなりすぎたり、株姿が乱れたりしている場合があり、8月下旬~9月上旬頃に夏剪定を行うことで、より美しい咲き姿に整えたり、開花を調整することができます。夏の剪定は日本だけで行われているもので、バラの生育期間が短い欧米では、さほど株が大きくなりすぎることもないので、この作業を行うことはありません。 四季咲き性のバラの夏剪定の目的は主に以下の3つです。 樹高が高すぎる株や株姿が乱れたものなどを、コンパクトにまとまりよく仕立て直すこと(今回のコンパクトなバラには、この目的は当てはまりません) 晩夏になると1株内で、花が咲き終わった枝や伸び始めた新芽など、枝ごとの生育ステージが異なります。これらを一度リセットし、株内での開花を揃えること バラ園などでは、秋のバラ祭りなどに合わせて、花の咲く時期をコントロールして、早咲きも遅咲きも一緒に咲かせること(バラ祭りを開催しない一般家庭には当てはまりにくい) ここで押さえておきたいポイントが、四季咲きのバラは夏剪定をしなくても秋バラを咲かせるということ。株姿を整えたり、咲く時期を揃えたりということを気にしなければ、夏剪定は、決して必須の作業ではありません。個人でバラを栽培している場合は特に、花が一斉に咲くよりも、時期をずらして少しずつ咲いてくれたほうがよい時もあります。 また、剪定は株にハサミを入れ、葉の数を減らしてしまうので、どうしてもバラに負担がかかります。切りすぎるくらいなら、剪定をしないほうがバラにとってはずっとプラス。特に、病害虫などの被害に遭って、葉の数を減らしているような調子の悪い株の場合は、夏剪定は大きなダメージになりかねません。自分の育てている品種や、株の状況、咲かせたい理想像に合わせて、夏剪定を行うかを決めましょう。 今回は、コンパクトに生育する四季咲きのブッシュ・ローズの夏剪定を解説します。樹高が高くなる四季咲きのブッシュローズの剪定方法は、『バラの夏剪定を解説【樹高が高くなる】四季咲きバラ編』をご覧ください。 コンパクトに生育するブッシュ・ローズの夏剪定 コンパクトに生育するバラの場合、夏剪定の主な目的は、株姿を軽く整え、株内での開花を揃えることです。ここでは‘禅’を例に、夏剪定の方法を解説します。 剪定前のワンポイント! 夏剪定をする際には、剪定の7~10日前に、追肥として速効性の肥料を施しておきましょう。肥料が不足していると、剪定をした後に順調に新芽が吹かず、バラが咲かないこともあります。肥料は袋に表示されている既定の量を与えます。ここでは、住友化学園芸の「マイローズばらの肥料」を使用しました。 剪定方法 コンパクトに生育する品種の場合は、樹高が高いバラのように低くする必要がないので、株姿を整えるように、全体の伸びた枝の先端を揃えて軽く切り詰めます。ここでむやみに深く切り詰めると、葉の枚数が減るため、結果としてバラは光合成の能力が低くなり、芽吹かなかったり花が咲かなくなってしまいます。切る量はなるべく最低限にとどめ、表面を揃えるだけにしましょう。 1つの株内でも、枝ごとに新芽やつぼみ、開花中などさまざまな状態の枝がありますが、リセットするために株姿を整えるように一律に切り揃えます。 コンパクトに生育する品種例 コンパクトに生育するバラの品種には、以下のような例があります。 ‘ホープス・アンド・ドリームズ’ サーモンとローズピンクが混ざった色で、数輪の房になって咲き、春から秋まで花つきがよい。耐病性にも優れ、初心者でも栽培しやすい。 ‘ラリッサ・バルコニア’ 淡いピンクのロゼット咲きで、数輪の房になって開花する。耐病性に優れ、初心者にも栽培しやすいが、夏の暑さにやや弱く、高温期に生育を停止する傾向がある。 ‘ロザリー・ラ・モリエール’ 淡い桃色の小輪花が、5~10輪ほど花束のように咲く。花付きがとてもよく、常にパラパラと花を咲かせている。耐病性にとても優れ、初心者でも栽培しやすい。 ‘ガーデン・オブ・ローゼズ’ アプリコット色のロゼット咲きで、数輪の房になって開花する。ティー系のよい香りがする。コンパクトな品種は早咲きが多い中、本品種は珍しく遅咲き。耐病性に優れ、初心者でも育てやすい。節間が短く、密な株に生育する。 ‘ブライダル・ピンク’ 整った形の淡いピンクの花で、数輪の房咲きになり、花もちがよい。ティー系のよい香りがある。古くより知られる花壇用の銘花。 ‘うらら’ ひときわ目立つショッキング・ピンクの花色。数輪の房になって開花し、春から秋まで花つきがよい。こんもりとした株に生育し、年数の経過とともにシュートが発生しなくなる。 ‘セント・オブ・ヨコハマ’ 淡いサーモン・ピンクのロゼット咲きで、ティー系の強い香りがある。数輪の房になって開花し、秋までよく咲く。耐病性が強く、初心者でも安心して栽培できる。
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樹木
バラ園を10倍楽しむ方法を専門家が伝授 多彩な魅力をもつバラを見に行こう!
バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント① 色 まずは花色。じつは、バラは植物の中でも最も多彩なカラーを持つ植物の一つ。赤、ピンク、オレンジ、黄、白、紫、緑、黒といった単色はもちろん、いくつかの色が合わさったもの、咲き進むにつれ色が変化するものなど、まさしく「多彩」なのがバラの花色です。とりわけ、複数の野生種がまざり合ってできあがったバラの園芸品種は、本来野生のバラにはない色を持っています。この多彩さの秘密は、黄色のバラがカギを握っています。黄色のバラの登場により、バラはこれまでにないスピードで多彩なカラーを獲得。オレンジや薄紫、茶色、蛍光を発するような赤やピンク、バイカラー(2色)など魅惑的な色が誕生しました。 また、バラの花言葉は色によって異なるのも面白い点です。ほとんどの色が「愛」や「美」に関連する言葉ですから、バラ園ほど愛の告白やプロポーズにふさわしい場所はありません。ただし、一つだけ注意していただきたいのは、黄色のバラの前。黄色のバラには平和や友情といったポジティブな花言葉の一方で、嫉妬、薄らぐ愛などという意味があります。 <バラの色別花言葉> 赤いバラ/「情熱」「恋」「美」「あなたを愛しています」「強烈な恋」など、熱い胸の内を表すのにぴったりの色です。 ピンクのバラ/「可愛い人」「上品」「美しい少女」「しとやか」「幸福」など、どれも可憐な花から連想されるキーワードです。 白いバラ/「純潔」「清純」「心からの尊敬」「相思相愛」「私はあなたにふさわしい」など、ウエディングブーケとしてもよく使われる白バラにふさわしいワードが並びます。 黄色のバラ/「友情」「献身」「平和」などポジティブなワードと、「嫉妬」「薄らぐ愛」など少し気をつけたいワードがあります。 紫色のバラ/「誇り」「尊敬」「気品」。紫色のバラは青いバラを作ろうとする過程で生み出されたものも数多く、「ブルー」という名前を冠したものが少なくありません。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント② 花形 野生のバラは一重咲きの小輪ですが、改良されたバラの花型で注目すべきなのが剣弁高芯咲き。これは花弁の縁がツンと尖って、花の中央部分が高くなっている花型で、某有名デパートのモチーフにもなっています。じつはこの咲き方は、植物の中でもバラだけに存在する形といわれています。 一方、ロゼット咲きは花の中央部分が高くならず、比較的平たく花弁が放射状に並びます。オールドローズに多く、このようなオールドローズを彷彿とさせる花型をクラシック調と呼びます。ほかにもコロンとしたカップ咲き、また一重咲きや半八重咲きでも野生種にはないフリルがあったり花が大きかったりと、園芸品種は花形も変化に富んでいます。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント③ 香り 意外かもしれませんが、花屋さんに並んでいる切り花と庭植えにされているバラでは品種が異なり、前者には香りがないものが多いのです。ですから、バラの香りはバラ園でしか堪能できません。そのうえ、香りも色や花形と同様、品種によって質や強さがじつにさまざま。香りのよい植物はラベンダーやクチナシ、キンモクセイなど多々ありますが、バラほど香りのバリエーションが豊かな植物は、ほかにはありません。 フルーツのような香りやハチミツのような甘い香り、中にはドクダミのような香りなど、ちょっと癖のある香りもあります。一般に多くのバラの香りは、拡散性(空間に広がる性質)が低いので、満開前の七分咲きくらいの花に顔を近づけてかいでみてください。最初に吸い込んだ時の印象、その次に来る香り、そして息を吐いた後に残る残香。私はバラの香りをこのようにしていつも味わっています。 バラがもっとおもしろくなる観賞ポイント④ 名前 品種にはそれぞれ誕生の秘話や、命名の由来などがあります。それらを知って一輪の花を眺めると、同じ花がまた違った印象になります。例えば‘ジャスト・ジョーイ’。作出者が奥さんの名前を付けようと思っていたら、「ジョーイ・ポウジー」は発音しにくいからということで、「ただの“ジョーイ”」にしましょうとなり、結果バラの名前は“ただのジョーイ”、つまり‘ジャスト・ジョーイ’になったそうです。“ただのジョーイ”は、その華やかでゴージャスな花姿が各国で人気となり、やがて世界バラ会連合選出の「栄誉の殿堂」入りを果たします。こんなことを知ると、ただ美しいという印象しかなかった‘ジャスト・ジョーイ’が、ちょっとファニーに見えてはきませんか? バラ園では品種名が掲示されているので、ぜひ花の名前をチェックし、気になるものがあったら由来を調べてみてはいかがでしょうか。 お気に入りの一輪を探してみてください こんなふうに、バラを観賞するポイントはいくつもあります。「バラの魅力は?」と聞かれた時に、答えは人それぞれのようですが、私は大きく分けて2つあると思っています。1つめは外面の魅力。花の色や形、香りなど、見て嗅いで分かる楽しみです。この外面の魅力に関して、ご紹介したようにバラはじつに多様なものを持っています。それは他の園芸植物には見られないほどの幅の広さで、それ故に千差万別の人の好みに対応できるのです。つまり、必ずあなた好みのバラに出会うことができるということです。このことは、バラを「人気の花ナンバー1」にしている大きな要因だと私は思っています。そしてもう1つの魅力は、名前や品種の背景にあるストーリーです。バラと人との関わりは古く、さまざまな伝説や逸話、人の物語もバラの魅力です。バラ園を歩けば、きっとお気に入りの一輪に出会うことができますよ。 多彩なバラが咲き競う横浜イングリッシュガーデンは今が盛り バラの観賞のポイントを教えてくださったバラの専門家、河合伸志さんがスーパーバイザーを務める神奈川県横浜市の「横浜イングリッシュガーデン」には、約2,200品種 2,800株のバラがコレクションされ、今、見頃を迎えています。 早咲き種は、4月中旬から開花がスタートし、次々と花開くバラがロマンチックな景色を作っています。現在、次々咲くバラの中から、見頃を迎え、ストーリーがある品種についてインスタグラムをはじめとしたSNSにて品種解説を添えた投稿も実施中。これらの花の品種解説も併せてチェックしながら、本物のバラが咲くガーデンへ出かけてみませんか? ●2022年5月29日(日)まで「ローズ・フェスティバル2022」を開催中の横浜イングリッシュガーデンの見どころをご紹介する記事も併せてご覧ください。 『バラの花言葉は愛と美!デートにもおすすめの「横浜イングリッシュガーデン」』
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育て方
バラを美しく咲かせる特別な仕立て方「ガーランド」の秘技をバラの専門家が大公開!
つるバラでつくるガーランドの魅力 「ガーランド(garland)」とは、古くは名誉や勝利の印として贈られる花輪や花かんむりを指し、古代ギリシャの彫刻や建築にも見られる格調高い装飾模様の一つです。現代では、花や葉、旗などのモチーフがリボン状に連なった飾りを「ガーランド」といい、ガーデン界では「花綱(はなづな)」とも呼ばれている、花を連なるように咲かせる立体的で優美なバラの仕立て方です。 日本でも各地に、この「ガーランド」を取り入れている観光ガーデンがありますが、最も新しく登場し注目されているのが、ここで解説する「中之条ガーデンズ」のガーランドです。 中之条ガーデンズにある2カ所のガーランド 「中之条ガーデンズ」では、2カ所でそれぞれ異なるガーランド仕立てを見ることができます。1カ所はバラに挟まれた小道、もう1カ所はバラに360度囲まれるサークル状のエリアです。 まるで花道のようなガーランド仕立ては、小道を歩きながらすぐそばに花々が咲く様子が楽しめて、無数のバラに囲まれた感覚を味わえます。2つ目は、空を見上げるほど高い位置に2連の輪が浮かび、360度バラに囲まれるという演出。このようにガーランドを設置する高さの違いによって、バラをいろんな角度から眺めることができます。 まずは、どんな構造になっているかをご紹介しましょう。1カ所目の「小道を歩きながら観賞するガーランド」は、支えになっている緑色の柱の高さは2m。高さ2mと1mの位置に各1本、合計2本のガーランドが、6本の柱の間に渡されています。 左右に2ガーランドが続く小道の幅は1.2m。人がすれ違える程度。これは、目の前に迫り咲く花を歩きながら眺められるうえ、豊かなバラの香りも楽しめるという、こだわりのデザインです。 もう1カ所は、見上げるほど高い位置に360度ぐるりとサークル状に仕立てられた2連のガーランドです。柱の高さは、3m。地上から3mと2mの位置に綱が張られていて、空にくっきり花のラインが浮かび上がります。満開時には花に囲まれた特別な空間になり、訪れる人は皆、感嘆の声を上げます。 ガーランド仕立てに向くバラの品種とは? つるバラをガーランドに仕立てる場合、まずは伸長力(つるが伸びる力)がある品種を選ぶことが大切です。一般にはランブラー・タイプと呼ばれるバラが該当しますが、このタイプであっても‘スーパー・エクセルサ’のような品種は伸長力が乏しく不向きです。 次に枝がしなやかな品種のほうが誘引しやすく、綱の形も崩れにくいです。ロサ・ヘレナなどは枝が硬く、思うような形状に曲がらなかったり、誘引作業中に枝が折れてしまうことがあります。またシュートが株元からも発生しやすい品種のほうが、年数を経過しても株元が寂しくなりにくいです。‘アルベリック・バルビエ’などは誘引を工夫しないと、数年後は株元に枝がない状態になってしまいます。 複数品種でつくる場合は、開花期が重なる品種で構成することも大切です。品種選びは、ある意味重要なテクニックです。 こうしたポイントを踏まえて、「中之条ガーデンズ」で選ばれている品種は、‘玉鬘(たまかずら)’や‘花小紋(はなこもん)’ ‘マニントン・マウブ・ランブラー’などです。 ●『河合伸志が選ぶガーランド仕立て向きの推奨品種10選』も近日公開予定です。お楽しみに! ガーランドの誘引テクニック ガーランドの誘引には、バラが休眠中に行うベーシックな「冬季誘引型」と、上級者向けの「夏季誘引型」の2タイプあります。それぞれの特徴とコツを、バラの専門家・河合伸志さんが詳しく解説します。 ベーシックな「冬季誘引型」で仕立てるガーランド 誘引の仕方は、基本的に他のつるバラと同様です。枝数が多い場合は、柱に誘引する枝と、綱に誘引する枝を分けます。柱に誘引する枝は螺旋を描くように巻き付け、綱に誘引する枝は柱に寄せた後にそのまま各所に配置し、綱に沿うようにとめていきます。柱に誘引する枝は、下記の点を注意すると、より美しく仕上がります。 小道の左右に設けたガーランドを真横から見てみましょう(上写真)。柱の根元付近から枝を上へ誘引し、柱を起点に左右に振り分けます。ここで意識して行うのが、根元付近をいかに柱に沿わせるかです。 柱の根元付近を見ると、伸び出た枝はなるべく柱に沿うように地際から引き寄せて柱にとめつけられています。ここが膨らんで太くならないようにすることで、柱がすらりと見えて美しく仕上がります。 柱に沿わせて上へ誘引した枝は、左右の綱へ誘引していきます。この時、綱が複数段ある場合は、上下のボリューム感が同等になるようにします。また、左右の柱から誘引する枝も同様にボリューム感を調整し、中央付近では多少重ねた状態で、枝を留めます。 柱と柱の間に渡したロープに沿って枝をとめつけます。 標高480mの冷涼な高地にある「中之条ガーデンズ」は、冬季の積雪は少ないものの、バラがダメージを受けるほど冷たい乾風が吹くため、未熟な若いシュートは春が来る前に枯れてしまいます。もしシュートが1本枯れてしまうと、綱を覆う枝が減って花数も少なくなります。そのため枝の選別は熟度を優先し、太くて立派なシュートであっても未熟なものは切り捨て、古枝であっても充実したものであれば優先的に残します。冬に耐える枝を見極めるという、プロの選別の目が、ガーランド仕立ての成功の鍵を握っています(関東地方以西の平地では、ここまでの真剣な選別をしなくても、冬季の枯れ込みは少ないです)。 冬季にガーランドに誘引した場合、もともとの枝の癖で綱が自然な印象にたわまなくなることがあります。このような場合は、綱が自然なカーブを描くように、仕上げに綱の中央付近を紐で下方に引っ張るようにレンガ(矢印)の重しを取り付け、綱のラインを矯正して完成です。 上級者向け「夏季誘引型」で仕立てるガーランド 花後にその時点で出ているシュートや未開花枝と主幹を残し、その他の株全体の枝を大きく切り詰めて整理します。その後、伸びてくるシュートや未開花枝はそのまま柱や綱に誘引していきます。誘引の仕方は冬季の場合と同じです。 冬季になったら、葉をむしって再度紐を結束し直します。この場合、枝の癖がロープのたわみに影響を与えることがないので、苦労して矯正しなくてすむというメリットがあります。 一方、花後に大きく切り詰めてから株を再生させるため、栽培技術が未熟な場合、十分に冬までに回復させることができず、翌年はボリュームダウンしてしまうことがあります。また切り詰めすぎでも同様のことが起こるので加減がとても難しく、どちらかというと、温暖な地域のバラ栽培、中・上級者向けの手法かもしれません。 バラのガーランドを見に行こう! シュートの良し悪しを見極めながら、手が凍えるほどの寒空のもと、開花の姿をイメージしながらガーデナーが一枝ずつ丁寧に誘引した「ガーランド」。中之条ガーデンズにあるガーランドは今、葉を茂らせ、たくさんのつぼみをつけて開花のシーズンに向けてスタンバイしています。 ぜひ、今年はオープンエアで安心して楽しめる花咲くガーデンへ出かけてみませんか? ご紹介の群馬県「中之条ガーデンズ」の美しいバラは、東京近郊のバラの最盛期が落ち着いた5月下旬から見頃を迎えます。
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ガーデン&ショップ
「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!
河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力 群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園の植栽デザイン・管理指導は、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。 Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は? 「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが半減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口からは全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。 また、バラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルで準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では、最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。 Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください! じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。 Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないでほしい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか? 「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれ、より芳しいバラの香りが漂います。「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひとときが味わえることと思います。 ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話 「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けてきました。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとは異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。 Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と比べて、異なる点はありますか? 大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一に優先して選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種や、コレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラを楽しんでいただきたいと思います。 また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。 Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか? この景観を薬剤散布なしでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によって、かろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。 Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか? 標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によってはおおむね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとしては伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため夜露が発生しやすく、平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。 また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。 下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品種によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさなくてはならないほど旺盛に生育するものもあります。 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集 美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。さっそくチェックして、自宅のガーデンで実践してみましょう! Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください! 「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じなので、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝変わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。 色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。 Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、はじめの準備」のアドバイスは? 最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の早さ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知っておくことが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。 近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージに合った植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも1年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想からまず脱却することが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。 Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは? ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと自分の目で把握し、空間全体を摑むことが大切です。どこにポイントとなるものを置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。 次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てておくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形のものをバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など、見落としがないかの確認もしましょう。 Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。 ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。 Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか? 植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適宜実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、もしかしたらそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう! 平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候のもとで咲くため、平地よりもずっと色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。 バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひ、ゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。 また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか? ●7つの景色が楽しめる新ローズガーデン誕生!「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!