くろせ・さきこ/書籍『缶つま』(世界文化社)や雑誌、 TVなどで、手軽で美味しいレシピを提案。
黒瀬佐紀子 -フードスタイリスト-の記事
-
レシピ・料理
「ベジトラグ」で大収穫! 美味しい食べ方続々誕生の家庭菜園の楽しみ<秋>
ちっちゃくて可愛い! 初めてのミニキュウリ栽培 小さな苗とピンク色の種子を1つずつベジトラグに植えました。 ベジトラグの右側約半分のスペースに「ミニキュウリ」を植えたのは7月上旬のこと。栽培初心者の私の相談に乗ってくれている友人農家さんが、「ミニキュウリは、それほど背が高くならない品種で、つるを伸ばしたい方向にコントロールしたり枝垂れさせたりできる」と、勧めてくださった野菜です。植えた時期は、ちょうど酷い暑さが続いていた頃。果たしてこんな小さな種子から芽が出てちゃんと育つのか…不安と期待とともに、栽培はスタートしました。 ●ビーツとパクチーの栽培とレシピをご紹介している<夏編>はこちら。 5日ほど経った頃。ふとベジトラグを見ると双葉が出ているではありませんか! 苗を植えたほうは、つるがひょろりと伸びていました。こんなにも成長が早いことに、とてもびっくり。「ミニキュウリ」の育て方をいろいろ調べてみると、この後は次の2つの作業が必要と知りました。 つるを誘引するための支柱を立てること。日当たりと風通しをよくして成長を促すため、枝が混み合ったり葉が重ならないように整枝すること。 棒状やネット状、アーチ状など、支柱は形もサイズもさまざまありますが、ほかの野菜の妨げにならないよう、高さ75cm幅40cmほどのスチールワイヤーを2枚使って V字に立てることにしました。また整枝の作業は、下記の方法を参考に進めました。 株元から5節くらい(30cm高さ)までは、子づるや花は全てかき取る。6〜10節くらいまでは葉を1枚残して、そこから先に伸びた部分は摘み取る。11節くらいから上は子づるを2葉残して摘み取るのを基本に、混み合ったら整理してつるや葉を取り除いていく。ある程度の高さに成長したら、主枝の先端を摘み取って成長を止め、子づるや孫づるの発生を促し着花するようにする。 ミニキュウリの誘引・開花・着果 下から節の数を何度も数え、葉の枚数に気をつけながら枝を整えました。途中からは子づるなのか孫づるなのか分からなくなってしまったのですが…。とにかく混み合わないよう、葉が重ならないように摘み取っていきました。すると、花が次々に咲いて着果していくのです! 毎朝ベジトラグの様子を見るのが、さらに楽しみになりました。 つるを支柱にしっかり絡ませ支えにしながら、ぐんぐん上に伸びていきます。 植え付けて1カ月も経つと、支柱をゆうに超えて上に伸びた主枝。長く伸びた枝をぐいっと真横にねじ曲げて支柱に絡ませ、人生初の「誘引」を試みました。強引すぎたかな…なんていう心配をよそに、さらに成長は加速。無事、つるは曲げた方向に伸びていきました。こんなにも植物の生育は力強いのですね。 続く夏日に加え、西日が強く当たるベランダでは水分が足りるのか不安でしたが、ベジトラグはたっぷりとした土の量があって乾きにくいおかげでしょうか、朝晩の水やりだけで十分でした。 ミニキュウリの感動の収穫と調理 ハサミでつるを切ると手のひらにミニキュウリの重みがずっしりと。一つひとつ形が違って可愛らしい! 収穫したミニキュウリをさっそく半分に切ってみると、種子の部分が多くて水気が溢れ出てきました。一口かじると、う〜ん、とっても瑞々しい! 喉がすっきり、暑さもクールダウンする爽やかな味。季節の野菜は、その時期に身体が欲する要素を持っているなぁと実感しました。 昆布の塩気が全体に馴染んだら食べ頃です。 水分たっぷりの爽やかさを活かして、和え物を作ることに。味が絡まりやすいよう手で割って、種子のでこぼこ面を出すようにし、塩昆布と生赤唐辛子を刻んでざっくりと和え、仕上げにオリーブオイルを少しかけて香りを添えました。さっぱりしていて食べやすく水気が身体にしみわたるような一皿でした。 トウガラシの葉はアブラムシの大好物⁈ ベジトラグでの野菜栽培は順調なことばかりではありませんでした。4月に植え付けたトウガラシに、暑くなってきた5月中旬、アブラムシがついてしまったのです。ここはプロの話を聞かねばと、農家さんに相談。有機農産物やオーガニック栽培に使えるという油性の殺虫剤を薄めて噴霧して、手でも取れるところは取り除き…を繰り返す対処法を試してみました。がしかし、残念ながらアブラムシは増える一方で、新芽の柔らかい部分に密集するようになりました。 でも、隣に植えたケールとローズマリーには1匹も虫がつかないのがなんとも不思議です。7月に入ると、トウガラシの葉はガタガタに変形して色も黒ずんでしまいました。薬剤をかけるのもかわいそうになり、そのまま放っておくことに。しばらく時に任せていると、そこに…! なんと、救世主の2匹のテントウムシが出現! 瞬く間にアブラムシを一掃してくれました。右往左往した今までの私の苦労は何だったのか…。その後、葉の形もきれいにストレスなく育ち、花がたくさん咲くようになりました。一件落着。 7月下旬には着果し始め、10月中旬まで、次々とトウガラシが実をつけました。 植物が自身を守るために、トウガラシの実には辛味成分があるのかもしれません。着果してからは、アブラムシはもちろん他の害虫も一匹も寄せ付けず、株の成育は勢いを増していきました。 赤くなったトウガラシを少しずつ収穫し、9月にはいっぱいに! トウガラシは適切な日照のもと、熟すにつれ青から赤に着色するそうです。 ベジトラグの高さがある分、トウガラシの株はベランダの手すりを遥かに超えて伸び、日光を十分に受けて、実は順調に赤色へ変化していきました。 トウガラシの実の色による味の違い、味わいに合わせた調理法 野菜を栽培していて一番の楽しみは、「成長過程のさまざまな段階で食べられる」ところ。トウガラシも青色、赤色を食べ比べてみました。 どちらも乾燥トウガラシにはないフレッシュな野菜感でいっぱい! 緑は爽やかな辛さ、赤い実は旨みがしっかりしています。日々の料理に生トウガラシを加えてみたら、どんな風味になるのでしょう。採れたての緑や赤のトウガラシでスパイシー料理を試す数日を過ごしてみました。 左上から時計回りに、ホタテとトマトのセビーチェ、豚しゃぶ、米麺のフォー、ラム肉のバジル炒め、野菜ピクルス、茄子と豚肉の辛味噌炒め。 緑色のトウガラシは、爽快な辛さがマリネなどの冷菜にぴったり。ホタテ、トマト、パプリカ、玉ねぎと青トウガラシのみじん切りを塩とカボス汁、オリーブオイルでマリネした「セビーチェ」を作ってみたところ、青トウガラシが後味にピリッと残って味を引き締めてくれました。 赤色のトウガラシは、しゃぶしゃぶやフォーに入れて加熱。すると、スープの中にじんわりと旨辛さが染み出しました。炒め物に使う時は、フライパンに油と共に先に入れて弱火にかけ、辛さと旨みを油に移すように使いました。 どれも辛いだけでない旨みがあって、病みつきの味! 赤トウガラシで唐辛子麹作りに挑戦! 一つの料理にトウガラシを入れるのは2本くらいが美味しい辛さの適量のようです。収穫量がとても多いので、赤トウガラシが消費しきれずにたまっていきました。乾燥させれば長く保存して使うことができるけれど、せっかくのフレッシュさを何とかキープするよい手立てはないかしら…。 生のまま発酵させて豆板醤のような辛味調味料はできないかと考えました。調べると、トウガラシと塩だけで発酵させることもできるようです。それなら、ここに麹を加えたら? 塩麹のような旨みと甘みもプラスされるかもしれない…とアイデアが浮かびました。塩麹の作り方を参考に、トウガラシを加えて作ってみることにしました。 唐辛子麹作りのチャレンジレシピ 材料/赤トウガラシ60g、米麹(乾燥)60g、水90g(60℃くらいに温める)、塩30g。 ヘタを取り除いた赤トウガラシをフードプロセッサーで細かく砕きます。温めた水を麹と混ぜてほぐした中に、砕いたトウガラシを加えてよく混ぜます。清潔な保存瓶に入れて発酵を待ちました。 左/作り立て。右/2週間後。 材料を混ぜて瓶に詰めた時は粒々感がありましたが、次第に全体がなじみ、2週間も経つと水分が少し浮き上がり、ドロっとした状態に。それを舐めてみると…辛い! うん、とても辛い! でも旨みもあるような。料理には、ほんのちょっぴり加えてみるのがよさそうです。シンプルな炒め物と、辛い肉味噌ディップを作ってみることにしました。 炒め物には、豚肉の下味に唐辛子麹を小さじ1ほど混ぜてみました。また肉味噌ディップは、油で唐辛子麹をニンニクやネギと共に炒めてから、肉を加えて炒め、豆板醤を使う要領で試してみました。少量で十分辛さが出るうえ、しっかりと旨みが加わりました! そしてこの唐辛子麹、日数が経つほど甘みが出てきてまろやかになっていくのです。今後も経過を見守るのが楽しみな調味料が出来上がりました。 成長が止まらない! バジルが元気な理由 春に植えたバジルは、隣のケールを覆い隠し、キュウリの支柱までも超えて伸びていきました。 こんなに元気に育つバジルを見るのは初めてです。昨年まではベランダに何鉢も植木鉢を直置きして育てていて、それなりに成長はしましたが、水やりは一日に何度もしないと葉がぐったりしてしまう苦労を思い出します。 ベジトラグの奥側の土量が多いエリアに植えたので、朝たっぷりの水をあげれば夏の暑い日も夕方までは十分に水分が保てました。また、ベジトラグの高さのおかげで、よく日に当たっていたのも成長が著しかった理由のようです。 4月に植えたバジルは、6月下旬には花が咲き始めました。 葉を摘んでサラダに入れたり、炒め物に使ったりしていたのですが、成長が早くて消費が追いつきません。こんなことも初めての経験です。早い段階から白い花が咲いてきたので、農家さんに相談すると「花が咲くと栄養が花に取られて葉が固くなるので、一度根元で切って枝を詰めたほうがよい」とのこと。 切ったところからまた葉が伸びてくるという言葉を信じて、ワサワサと茂った茎は刈り取りました。 自家製バジルの楽しみ方いろいろ 白い花が咲いたバジルは、見た目にもとてもきれいで、捨ててしまうのはもったいない!観賞用として花瓶に挿して部屋に飾れるのも、身近に育てている者ならではの楽しみ方ですね。 花瓶に入れて2日ほど経つとすぐに根が出てきて、力強い生命力に驚きました。このまま観察してみることに…。 1カ月ほど経つと花瓶に根がぎっしり張って、取り出してみると30cm以上はあるでしょうか。バジルがすくすく育つには、ベジトラグの土量と深さが重要なカギとなることをここでも実感しました。葉が茂り、花をつけ始めたら根元から切り詰めることを、10月までになんと3回も行いました。 美味しいバジルソースの作り方を模索 収穫したたくさんのバジルを一度に使い切るには、やはりペースト状にしてソースにするしかないのだろう…と、初めて収穫した頃はジェノベーゼソースを作り、小瓶に入れて冷蔵保存をしていました。 Elena Kabenkina/Shutterstock.com 「ジェノベーゼ」とは、バジルに松の実・ニンニク・チーズ・オリーブオイルなどを加えてすり潰し、塩味でととのえたイタリア生まれの調味料。サラダや肉のソースとして使うのですが、塩味をしっかり決めているので、どんな食材と合わせても味が一緒で変化がなく、毎日使うものではありませんでした。冷蔵可能な約1週間はすぐに過ぎ…慌てて冷凍庫に移して眠らせてしまっていました。 何とか工夫できないものかと調べていると、塩とチーズを入れない「無塩のジェノベーゼソース」というものを見つけました。なるほど! 塩味をつけない分、料理のアレンジが広がりそうです。早速、私のバジルソースを改良することにしました。新レシピはこのような感じ。 無塩バジルソースの作り方 材料/バジルの葉60g、ピーナッツ30g、オリーブオイル100ml、ニンニク1/2片。 収穫したバジルは洗わずに、茎から葉を摘み取る。各材料と調理器具は冷やしておく。ミキサーにピーナッツ、ニンニク、半量のオリーブオイルを入れ、ペースト状にする。バジルの葉と残りのオリーブオイルを3回ほどに分けて加え、その都度ミキサーで撹拌する。 バジルは熱に弱く変色しやすいため、各材料や器具を冷やしておくといいようです。味に変化をつけるため、松の実の代わりにピーナッツを使用しました。 出来上がったバジルソースは、氷水で冷やしながら混ぜ、保存袋に空気を抜くように平たく入れて、薄い板状にして冷凍しました。 左/ポークソテーバジルソース、右/野菜とシーフードのバジル蒸し。 なんて便利なのでしょう! 保存袋から使う分だけ折って簡単に取り出して解凍しやすいうえ、チーズを後から加えたり加えなかったり、塩以外の塩分としても使うことができてアレンジの幅はグッと広がりました。 いろいろ試した中で一番のおすすめは、豚しゃぶ用の「たれ」。家族にも友人にも大好評だったバジルだれの作り方を初公開! バジルソースで豚しゃぶだれの作り方 (2〜3人分) 冷凍バジルソース60gを耐熱の器に入れて、電子レンジに軽くかけて解凍する。温めた豆乳30g、白しょうゆ大さじ1、削ったパルメザンチーズ5gを1に加えてよく混ぜる。 バジルの爽やかさに、しょうゆとチーズの旨みとコクが加わり、野菜がもりもりいただけました! 少しずつ収穫した野菜を一度に料理に使うには 上からバジル、ケール、ミニキュウリ、唐辛子。 ベジトラグの栽培では、一度に多収穫もありますが、少しずついろいろな野菜が採れることもあるので、料理の工夫が必要でした。 大きく分けて、そのまま生で食べたいものは和え物などの冷菜に、加熱することによってより美味しさが引き出せるものは炒め物に加えるのが使いやすいです。 ミニキュウリ2本は、ホウレンソウのしらす和えにプラスしてみることに。キュウリの食べ応えを残すように一口大の乱切りにして、塩を軽く絡め下味をつけました。キュウリに軽い塩味がついていたほうが、ホウレンソウなどほかの具材と馴染むのでおすすめです。 トウガラシ、バジル、ケールを加えた肉キノコ炒め。 炒め物では、それぞれの野菜の加熱時間によって加えていく順番がポイント。トウガラシは加熱することで旨みと辛さが出てくるので最初から、また油に辛味を移すため油と共に弱火で1分ほど炒めた後、肉や野菜を加えます。ケールが硬めの葉の場合は、水を少々入れて蓋をして蒸し煮するとよいでしょう。 バジルは全体を味付けした後、さっと加えて火を止めます。盛り付けた後に上に散らすくらいでも大丈夫。余熱で火が入って、見た目も香りも際立ちます。 冬のベジトラグ栽培に向けて 左から、紫小松菜、カーボロネロ、アレッタ。 秋もそろそろ終わり、ベジトラグも冬支度です。友人農家さんに相談し、次なる挑戦に決めたのは、紫小松菜、カーボロネロ、アレッタ。どれもアブラナ科の野菜だそうですが、馴染みがない! さてさて、どのように育ててどんな料理にしたら美味しいのでしょうか。わくわくの冬リポートもどうぞお楽しみに。 VegTrug特集ページはこちら
-
レシピ・料理
旬の野菜を「ベジトラグ」で収穫! 美味しさ引き出すおうちレシピ<夏>
歴然! ベジトラグと鉢では植物の育ちが違う ベジトラグをベランダに設置して、早いもので半年が経ちました。日々観察していて一番驚いたのは、野菜たちがとにかく元気によく育っていること! 鉢で育てていた頃のバジルやパクチーとは比べものにならない勢いで成長しているのです。その理由は、ベジトラグに土がたっぷり入っているから。植えるスペースが腰ほどの高い位置なのは、立ったままで作業がしやすいからだと思っていましたが、根を長く伸ばすことができる深さも利点なんですね。 「野菜栽培には、土、水、日光が必要。この3つがバランスよく十分であれば、よく育つ」と教えてくれた農家さんの言葉を思い出しました。 ●ベジトラグで野菜栽培を始めたスタート時のストーリーはこちら パクチーの成長過程とその調理法を模索 パクチーは私が大好きな食材の一つなので、よく目にとまるベジトラグの右奥に植えました。成長を見守っていたある日、茂った葉の間から糸のような葉をつけた茎がニョキッと伸びてきました。それは花芽のようです。調べてみると、それはいわゆる“薹(とう)が立った”状態。盛りが過ぎたことを表していて、どうやらこの後、株は花を咲かせて結実するのに集中する段階に入ったようです。確かに食べるのによさそうな柔らかな新しい葉は出てこなくなりました。人生初対面のパクチーの薹立ち、このまま観察を続けることにしました。 結実が始まるとその重さに茎が耐えられず、自然とベジトラグから枝垂れるようになりました。ちらほら咲き始めた白い花が満開になり、やがて先端には緑の小さい実をつけました。この実が熟して乾燥すると、あのスパイスとして売られているコリアンダーになるのです! 成長の観察を通して、食用の葉とスパイスの実が一つの植物として私の中でリアルに結びつくこの体験に感激! これが植物を育てる楽しさなのですね。 パクチーの花と若い実を食べる<トマトサラダ> これまで、花は料理のあしらいとして食べたことはありましたが、緑の若い実は食べたことがありません。毒性はないようなので味見してみると…プチッと割れてパクチーの香りが口の中に広がりました。うん、美味しい! この感触を味わえる料理として、花と実をそのままトマトと和えてシンプルなサラダにしました。パクチーの香りと食感がアクセントになって、見た目にも華やかな一皿です。 花が全て実に変わったところで収穫しました。さて、この実の独特な香りを料理に生かすにはどうしましょうか? パクチーの実を酢漬けにして香りや風味が移るか?<ピクルス> 酢漬けにしたらパクチーの香りと風味が染み出すのではないかとピクルスに入れてみました。作り方は、こんな感じ。 赤タマネギをくし切りに、コリンキーカボチャと大根を短冊状に切って、パクチーの実と一緒に瓶に詰める。 小鍋に酢、水、砂糖、塩を適量入れて沸かし、熱いまま①の瓶に入れたら一晩おく。 期待していたのですが、漬け汁にはパクチーの味や香りは移らず残念。やはり実が割れることで風味が広がるようです。ピクルスにしたパクチー自体は美味しいので、野菜と一緒に頂きました。残った漬け汁は、実と共にドレッシングに活用。 パクチーの実を塩漬けにして潰す<パクチー胡椒> 次なる挑戦は、実を潰して美味しさを引き出せるよう、柚子胡椒ならぬパクチー胡椒を考案。 柚子胡椒は、柚子の果皮、生の青唐辛子、塩をすり合わせて寝かせた調味料です。柚子胡椒の作り方を参考に、パクチーの実10gを塩5gに漬け、塩が溶けてなじんだタイミングで、青唐辛子3gを刻んでから、すり鉢ですり合わせました。 仕上がりは、香りいっぱい、唐辛子の辛味で引き締まってとても美味しい! この香りと辛味は淡白な鶏肉との相性がよさそうです。さらに発展させて、蒸し鶏にかけるタレを作ることにしました。 パクチー胡椒で彩る蒸し鶏のエスニックサラダ オクラとトマトがカラフルな、夏にぴったりな味わいのサラダに仕上がりました! 一つ気になったのは、潰した果皮が口に残る感じがあったこと。果皮が柔らかいうちに収穫するのも一案だなぁ……。そんなことを考えながら、小瓶に詰まった少量のパクチー胡椒がとても愛おしい調味料となり、大事に味わいました。 「パクチー胡椒で彩る蒸し鶏のエスニックサラダ」作り方 鶏ささみ200g、白ワイン大さじ2をフライパンに入れ、蓋をして火をつける。沸騰したらごく弱火にして3分、ささみを裏返して2分ほど加熱する。火を止めてしばらく蒸らす。 ①のフライパンに残った汁とパクチー胡椒、ナンプラー少々、オリーブオイルを混ぜてタレを作る。 器にトマト、茹でたオクラ、①のささみを盛り付け、②のタレをかける。 真っ赤な果肉のビーツ栽培に挑戦 ベジトラグに一番興味を持ったのは、深さ30cmの部分もあって、根菜も育てられるというところ。まさかベランダで根菜が育つだなんて考えてもみませんでした。必ずチャレンジするぞと選んだのは、スーパーではあまり見かけない赤紫色の果肉が美しい「ビーツ」。 ビーツは赤カブのように見えますが、ヒユ科フダンソウ属の根菜で、てんさい糖の原料となるテンサイ(甜菜)の仲間。アブラナ科のカブとは別物です。「ラフィノース」というオリゴ糖が含まれているので、ほんのりとした甘みがあり、腸内環境を整える効果が期待されます。またビーツの赤い色素には「ベタシアニン」という抗酸化作用を持つポリフェノールが多く含まれています。 ビーツを使った料理といえば、鮮やかな赤が特徴的なウクライナ発祥のボルシチではないでしょうか。ビーツをはじめとした野菜と肉を煮込んだスープで、ロシアやヨーロッパではポピュラーな料理です。またそれらの地域では、丸ごと加熱したビーツをパック詰めにしたものや瓶詰めなども売られていて、スライスしてサラダなどに入れて食べられています。近頃は日本でも注目されている野菜で、国内で栽培されたものやパック詰めのビーツも買うことができるようになりました。 ビーツ苗の植え付けから収穫まで 4月中旬に苗を入手して栽培を始めました。まだ葉だけの苗が、どんな風に見覚えのあるあのビーツの姿になるのだろうと観察を続けていると、赤い茎と葉は、上に伸びるというよりも放射状に茎が伸びて広がるように育ちました。可食部となる根は地面すれすれのところで肥大していきました。 こぶし大くらいになった7月上旬、栽培の相談に乗ってくれている友人農家さんから「そろそろ収穫したほうがよい」とのアドバイス。その段階で、広がった葉はベジトラグの半分もの場所を占めるようになっていました。 ついに抜く時がきた! と高まる期待に反して強い力は必要なく、スルスルと根の先の髭根まで切れずに抜けて、あっという間に収穫完了。ベジトラグの一番深さがあるエリアに植えていたので、髭根が真っ直ぐにストレスなく伸びることができたのかもしれませんね。 赤色が活きるビーツのマリネ さて、収穫したビーツ2個。ボルシチも大好きだけれど、しっかりと噛んで食べ応えがあるものにしたい……。ホイルで包んでオーブン焼きもきっと美味しいはずだけど、それには1時間近くかかるし、ボイルする場合も長時間かかるので、どうしても魅力的な赤色が抜け出てしまうという過去の経験を思い出しながら、最適なレシピに思いを巡らせました。できるだけ短時間で栄養素も逃さない方法としてたどり着いたのは、角切りにして素揚げしてマリネ! よし、採れたてのうちに作ってみましょう。 「ビーツのマリネ」作り方 ビーツの皮は、土が食い込んで取り除けない箇所だけむき、一口大に切る。ニンジン1/3本も同様に一口大に切る。 フライパンに多めの油を入れ、①を中火で上下返しながら素揚げする。楊枝で刺してみて火が通ったものから順に取り出す。 保存容器に②、スライスしたタマネギ1/2個、ワインビネガー大さじ3、砂糖大さじ1、塩小さじ1/2、コショウ少々を入れて全体を混ぜる。そして半日以上おく。 少しおいて全体がなじんでくると、酢とビーツの甘みがまとまるようです。調理後のビーツは、固めに加熱したカブのような食感で、育てた達成感と共にじっくり味わうことができました。 後日、ビーツマリネをアレンジ。レタスと半熟卵と盛り合わせてビーツサラダに、またポークソテーに付け合わせたら抜群の相性でした! 夏の収穫後、空いたスペースに何を植える? ベジトラグの右奥と手前に育っていたパクチーとルッコラなどのリーフ類、中央部のビーツがなくなって、空いたところには、秋以降に収穫できる「ミニキュウリ」を植えることにしました。キュウリ栽培というと、広いスペースが必要で手入れが大変なイメージがあるけれど、果たして栽培初心者の私の手に負えるのだろうか。そんな私の心配を察した友人農家さん曰く、「ミニキュウリは、それほど背が高くならない品種で、つるを伸ばしたい方向にコントロールしたり枝垂れさせたりできる」と教えてくれました。 これまでは買ってくるものと思い込んでいた野菜が、ベランダで日々姿を変えて立派に育っていく、そのたくましい姿に励まされたり、様子が気になってついついベランダに出てしまう「ベジトラグ」のある暮らし。まだまだ手探りの栽培が続きそうですが、収穫した貴重な野菜たちを美味しくいただくレシピ考案チャレンジは始まったばかり。また次のシーズンもお楽しみに!
-
ベランダガーデニング
16種類の野菜&ハーブをベランダで! フードスタイリストが提案する「ベジトラグ」栽培&収穫レシピ
ジェノベーゼソースが何瓶も作れたのがベランダ栽培にハマるきっかけ 「ベランダ栽培にハマッたきっかけは、バジル。鉢植えで初めて育てた時に、わさわさ茂って最終的にバジルペーストが何瓶も作れたんです。ビギナーズラック! 摘み立てのバジルで作ったソースって、驚くくらい香りがいいんですよ。味も濃いし、色もすごく鮮やかで食卓にも映えるし、すっかり家庭菜園にハマッてしまいました」 そのときは複数の鉢植えにバジルを1株ずつ植えて育てていましたが、もっといろいろな野菜にチャレンジしてみたくなった黒瀬さん。とはいえ、マンションのベランダに置ける鉢の数も限られていますし、バジルのようにうまく育つかどうかという不安もありました。 ガーデニング初心者さんこそおすすめの脚付きプランター「ベジトラグ」 「そこでガーデニング好きの友人に相談したところ、すすめられたのがベジトラグという大型の木製プランターです。ベランダで野菜を育てるなら、鉢植えをいくつも並べるよりベジトラグを使うといいよと。土の容量が大きく深いので、バジルだけでなく根菜などいろんな種類が一緒に育てられるし、水切れもしにくく管理も楽だよとアドバイスされて。調べてみたら、ベジトラグっていろんな種類があるんですよね。中でもグレイッシュなカラーのベジトラグに一目惚れしちゃいました。ベランダに置いたらおしゃれな空間にもなりそうだなぁとか、生活が変わりそうだなぁと、どんどん興味が湧きました」 鉢植えからベジトラグにステップアップ! 野菜栽培を始める手順 「ベジトラグ検索のついでに、ベランダガーデニングのための商品はどんなものがあるのかと検索してみたら、ウッドデッキパネルとか、室外機を隠しながら収納までできちゃう屋外用の家具とか、ベランダ専用のいろんな製品が世の中にはあるんだと知って、この機会にベランダをプチリフォームすることにしました」 そうして、ベジトラグ導入と同時に、床材や家具も一新して、休日には手すりの汚れを落としてすっきりしたタイミングで、ベジトラグ一式が到着。 電動ドライバーを用意して、説明書の通り組み立てること2時間。 「久しぶりの大工仕事、ちょっと苦労した分、仕上がったときは達成感がありました。夫婦での共同作業も、いい思い出です」と黒瀬さん。 栽培のプロがおすすめする16種のおしゃれ野菜&ハーブ さて、次は何を植えるのかが肝心。これまで仕事柄、生産農家から野菜を取り寄せたり、農場に通ったりして長年親しくしている野菜農家さんにアドバイスをもらうことにしました。 「ベランダの状況とベジトラグで育てたいということを伝えたら、限られたスペースでも栽培できて、食べがいがあって姿もユニークなおすすめの野菜の苗をセレクトして送ってくれたんです。そこに私が用意したハーブの苗をいくつか加えて、栽培をスタートしました」 そうして4月中旬に植え付けたのは、以下16種類。 サニーレタス、アカカラシナ、ルッコラ、スイスチャード、パクチー、イタリアンパセリ、バジル、ケール、ナスタチウム、スペアミント、モヒートミント、レモンタイム、コモンタイム、ローズマリー、ビーツ、トウガラシ。 限られたスペースを効率的に使う野菜レイアウト ベジトラグのスペースを効率的に作業しやすく使うために、苗の配置を吟味。ポイントは2つ。 ①草丈…草丈の高いものは基本的に後ろのほうが作業がしやすいです。 ②収穫期間の長さ…常緑でずっと残るか、収穫したらスペースが空くかという条件ごとに、ある程度スペースを分類しておくと、栽培計画が立てやすいです。 収穫期間が短いサニーレタスやアカカラシナ、ルッコラは手前右側に集合させて、収穫が終わったら、その空いたスペースで次の野菜を育てられるように配置しました。一年中茂ったままで成長がゆっくりなローズマリーやタイムは左端に集め、背が高くなるトウガラシやケールは中央奥にと、生育の具合に合わせて配置をしました。 そうして植え付けて1カ月経たないうちに、わさわさとベジトラグの中は混み合いはじめて、5月上旬には早くも収穫の時期を迎えました。 「野菜を植え付けてからは、毎日のお天気がこれまで以上に気になって。ちょっと日差しが強い日があったり、風が強い日もあって、大丈夫かなぁと心配になることもありましたが、毎朝カーテンをあけてベジトラグの様子を見るのが楽しみになっていました。水をやる以外、何もしなくても育つだなんて、びっくりです。こんなに野菜栽培が楽しいなら、もっと早く始めればよかった」 地面がない場所でも手軽に家庭菜園ができるベジトラグ 野菜栽培やガーデニングの経験がない初心者でも野菜が丈夫に育つのは、イギリスで開発された木製プランター「ベジトラグ」に秘密があるから。一番の特徴は、植える容器部分が地面より高い位置にあることです。手入れがしやすかったり、植え付けたものがすくすく育つなど、野菜をはじめとした植物を栽培するのに優れた形状になっている人気急上昇中のガーデニングアイテム。このベジトラグの優れた点は、7つあります。 利点1:庭があるなしにかかわらず、狭い場所やベランダでも栽培場所が確保できる 利点2:深さがあるので、ハーブや葉物野菜に限らず、根菜類も育てられる 利点3:地面より高い位置にあるので、立ったまま手入れができてラク 利点4:プランター部分が地面に接地しないので、風通しがよく、育ちがいい 利点5:高さがあるので、ナメクジやダンゴムシなど、‘地を這う系’の虫被害にあいにくい 利点6:壁際などで日が当たりにくいような場所でも、プランターが高い位置にあることで日当たりがよくなる 利点7:木製で、見た目がナチュラル VegTrug特集ページはこちら 強すぎる日差しや風を和らげるコツは不織布カバー ベジトラグで推奨する置き場所は、日当たりと風通しがいい場所ですが、都内マンションの黒瀬さん宅のベランダは、南西向きで西日が強い場所です。風通しがよく西日がきついという条件で、マンションの高層階などではこのように日当たりがよすぎることがネックになることがあります。そこで黒瀬さんは、野菜農家さんが苗と一緒に同封してくれた不織布を上からかけ、葉焼けや強風から苗を守りました。そのかいあって、スクスク順調に野菜が育ちました。 植え付けたばかりで完全に根付いていない成長初期は、特にベランダでは吹き付ける風が苗にストレスを与えます。また、春先は寒の戻りがあったり、急激に暑くなる日も。でも適度に風を通して蒸れることがなく、優しく日差しを和らげる不織布をかけたことで、葉が傷むこともなく順調に成長しました。不織布は、ずっとつけっぱなしにせず、採りどきの葉がないか、水が切れていないか、虫がいないかチェックする意味でも、ときどき外すとよいでしょう。 ながーく収穫し続ける採取のコツと保存方法 ミントやタイムのように茎が伸びて本数が増えていくハーブや野菜は、茎の下方の節で切ると、残った節から新しい芽が伸びて、また次の収穫ができます。レタスなどの葉物野菜は、外側の葉から1枚ずつ剥がして、中心が残るようにすると長く収穫できます。 5〜6月に毎日採取できる葉物野菜。葉の色や形が違ういくつかの種類を一つの容器の中で育てて、味わいの違いを楽しめるセレクションです。 収穫したら、調理するまで冷水に入れておくとシャキッとします。もし、たくさん採れたけれど連日同じメニューではちょっと、というときや、採りどきの葉があるけれど、1品作るほどの量がないときは、冷蔵庫で保存しておけばOK。保存方法は、根元付近を水に濡らしたキッチンペーパーでふんわり包み、ビニール袋などに入れて冷蔵庫の野菜室へ。食べ頃になった葉が傷む前に冷蔵保存すれば、無駄になりません。 ベジトラグの野菜を毎日美味しく! 簡単レシピ 日頃、手軽で美味しいレシピを提案しているフードスタイリストの黒瀬さんによる、ベジトラグで収穫した野菜の簡単レシピをご紹介します。料理の決め手は、何といっても“フレッシュ採れたて野菜”の味を引き出すこと。 「自分で育ててみると、一枚一枚よく味わって食べたくなって。葉物野菜がこんなにそれぞれ味が違うんだと、感動したんです。これまでも食べていたはずなのに、自家製野菜は愛おしくて美味しいんです。なので、野菜やハーブの味が引き立つように、調味料は旨味を引き出す程度に使うレシピです」 夏のドリンク「カンパリミントソーダ」 グラスに薄く切ったライムや缶詰の伊予柑、シロップ、カンパリを順に入れ、ミントを数枚入れたら炭酸を注いで出来上がり。酸味とミントのハーモニーが美味しい手軽なカクテルです。夏は氷も入れて、食前酒としてどうぞ。 季節のフルーツが映える「モッツァレラサラダ」 ① モッツァレラチーズとイチゴなど旬の果物をボールに入れ、塩、コショウ、ビネガー、オリーブオイルを適量加えて混ぜ合わせ、馴染ませておきます。ビネガーは、シェリー酒ビネガーを使うと味がマイルドになります。 ② ベジトラグで育ったアカカラシナやルッコラ、イタリアンパセリなどを皿に敷き詰めます。 ③ 野菜の上に①のマリネを乗せます。 ④ 仕上げに、ピリッとした味が美味しいナスタチウムの花びらを彩りよく散らしたら完成! 緑に引き立つ、イチゴとナスタチウムが目にも美味しい一品です。葉の味の違いを感じながらいただきましょう。イチゴの代わりに、プラムやオレンジなどでも味に変化がついておすすめです。 ハーブが香る「サーモンマリネ」 ボールにスライスした玉ねぎを入れ、ざく切りしたタイムと塩、コショウ、砂糖、ビネガーを混ぜてマリネを作ります。皿にマリネとサーモンを交互に盛り付けて、仕上げにタイムをトッピングしたら出来上がり! 短時間で作れるのに、食卓が華やぐ一品です。少量しか使わないタイムやローズマリーなどのハーブは、ベジトラグの片隅で育てておくと、すぐ使えて便利。 鮮やか「ケールの蒸し焼き」ウインナー添え ① 葉に厚みがあるケールや茎葉がしっかりしたスイスチャードは、火を通すことで柔らかくなり、旨みが引き出せるので、フライパンで蒸し焼きするのがおすすめです。一緒にマッシュルームやミニトマトを入れて、野菜から出る水分や旨みを生かします。 ② 少し水を加えて蓋をします。 ③ 数分経って、全体に火が通った頃合いを見て蓋をあけます。 ④ 塩、コショウをふり、味を整えて出来上がり! ソーセージを添えて食べ応えのある一品に。ケールとスイスチャードは、焼くと火が通る前に焦げてしまいますが、蒸し焼きにすると全体に短時間で火が通ります。また角が取れてマイルドな味に仕上がり、食べやすくなります。 「自分で育てた野菜や料理レシピをSNSに投稿するのも楽しい、思いがけない暮らしを手に入れました。夕方のベランダには、暗くなったら自動で点灯するランタン型のライトを吊して、夕暮れどきも絵になる空間に。ベジトラグから枝垂れているオレンジ色の花はナスタチウムで、私が育ててみたかった野菜の一つです。次々咲く花は、花瓶に活けて楽しんでいます。マンションに暮らしながら、自分で育てた花を飾って楽しんだり、季節の野菜やハーブを摘んで料理するような暮らしができるなんて、思ってもみませんでした。次は何を育てようかなって、夢がふくらみます!」 庭がなくても、ちょっとしたスペースやベランダで、一年中、野菜づくりやハーブ栽培が実現するベジトラグ。さあ、ベジトラグでガーデニングを始めませんか?
-
レシピ・料理
キャンドルでお月見リラックス 秋の味覚とアートに触れるお茶会
第一部 秋の旬を味わう食の楽しみ 会場は、東京都台東区の谷中・千駄木地域にほど近い場所に建つ、築100年以上といわれる木造2階建てのこぢんまりした町家。漆黒の柱と漆喰の壁を生かしてリノベーションされたギャラリー1階では、あちこちでキャンドルの炎が揺れています。着席して、まずは秋の食をいただき、おなかをあたためます。 キャンドルのそばに用意された箱を開けると、秋の味覚がギュッと詰まっていました。どれからいただこうか迷ってしまう、彩りも豊かな折詰弁当。このイベントのために、フードスタイリストの黒瀬佐紀子さんが「秋の味覚」をテーマに用意しました。 【お品書き】 ・いわし醤油煮缶詰のタルトキッシュ ・鯛の昆布締め レッドマスタード 菊花和え ・卯の花サラダ 生ハム添え ・ぶどう白和え ・紅葉麩の信田巻き ・かぼちゃの紅いマリネ ・衣かつぎ 神楽南蛮味噌だれ ・めかじきのスパイス焼き ・満月チーズ煎餅 ・ビーツのピクルス ・おきつねごはん 青穂紫蘇漬け ・秋鮭真丈椀 ・豚肉ロールの麹焼き 小松菜のかんずり和え ビーツ焼き 菊の酢の物が添えられた昆布締めの鯛や、ぶどうの白和え、白い肌の衣かつぎ、月を模した小エビ添えのチーズ煎餅、菊の花びらが躍る秋鮭真丈椀……。旬の食材を少しずついただける、料理家さんのおもてなしの心を一品一品に感じる折詰弁当でした。 20cm四方のお弁当箱に季節の旬の食材をここまで凝縮させることができるんだ、と感心しながら、一つずつの素材を確認しつつ味わう、貴重な機会。一通りいただいたあと、食後のティータイムへと、会場を2階へ移します。 ギシギシときしむ懐かしい音を聞きながら、狭い階段を一歩ずつ上がります。 第二部 満月のキャンドルが灯る和空間で茶道体験 2階へ上がったゲストを驚かせたのは、和空間にたくさん灯っているキャンドルの灯り。畳の上に点々と置かれた満月を思わせるキャンドルが各々の席を示しています。 意外性のある空間に少し緊張しながら着席すると、まず運ばれてきたのがお団子状の和菓子。懐紙に一つ取り、口に入れると、じんわり甘さが広がる優しい味。お菓子も黒瀬さん手製のオリジナルで、中に醤(ひしお)が入った芋餡でした。甘さとしょっぱさが同居する意外な組み合わせに感心しながら、お抹茶を待ちます。 畳の間とつながる板の間の奥には、お茶の用意がされ、キャンドルの灯りの効果で室内がとても広く感じられます。お茶のたしなみもあるフードスタイリストの黒瀬さんが、お客様一人ひとりにお茶を点ててくれました。 それぞれのお客様の前に運ばれてきたお椀の柄の違いも楽しみながら、お抹茶を口に運びました。温かく苦味があるお抹茶は、スッとのどごしもよく、気持ちをホッとさせてくれました。先ほどまで満たされていたおなかも落ち着き、食後のお茶の時間をゆっくりと過ごします。 キャンドルだけのほのかな明るさに目が慣れてくると、浮かび上がる草花の影に目をやったりして、非日常の空間にゆっくりと時間が流れます。 和空間に浮かぶ「1/fゆらぎ」の炎でリラックス お茶の席に多数灯されたまん丸の灯りは、キャンドル作家の小坂井順子さんの手によるもので、まるで満月が闇夜に浮かんでいるような幻想的な空間に。 ちょうど手のひらで包める大きさの丸い球体のキャンドルフォルダーは、「満月ランタン」。熱に溶けにくいハードタイプのキャンドルを丸く形作り、中に市販の透明カップ入りのロウソクを入れることで満月の灯りが浮かび上がります。 小坂井さんによれば、ワックスにもいろんな素材があり、自然素材である蜜蝋は燃焼が速く、キャンドルの基本素材となるパラフィンワックスは、石油系のもので加工がしやすいという利点があるそうです。「ロウを溶かして芯を通すのが基本的なキャンドル作りですが、例えば、パラフィンと同じ石油系で融点が高いワックスと柔らかいワックスをブレンドしながら、溶けていく温度や時間を調整していったりして、それぞれの作品が生まれるんですよ」と、小坂井さんの作品作りのストーリーを教えていただきました。 不規則に揺れる炎を見ているだけで、なんだか心が穏やかになってリラックスできますが、これは川のせせらぎやそよ風など、自然から感じる心地よさと同じ「1/fゆらぎ」の効果によるもの。また、キャンドルが燃焼することで発生する二酸化炭素と水による微かな水蒸気でマイナスイオンも発生し、室内の空気が対流することも、リラックスできる空間づくりに役立っているようです。 お茶のあとは、小坂井さんの作品が生まれた経緯や人との出会いなど、キャンドルワークについて教えていただき、アートにも触れる時間となりました。 この約2時間のイベントは、旬の美味しいものを時間をかけて味わう大切さや、和空間でのプチ茶道体験、そして炎の癒し効果やアート作品に触れるなど、あらゆる角度の和のリラックス効果を再認識する時間となりました。 併せて読みたい ・インテリアに透明感のあるオシャレなDIYキャンドル。ボタニカルキャンドルの作り方 ・バラの季節に英国スタイルのガーデンパーティーでおもてなし ・桜の季節をよろこぶ「紅い器で愉しむ春茶会」
-
暮らし
桜の季節をよろこぶ「紅い器で愉しむ春茶会」
食と器を愛でるイベント 北海道・札幌を拠点に作陶を続けている高橋里美さんの作品は、平皿や茶碗、酒器やマグカップ、花器など、日々の生活で出番が多いアイテムを中心に、使い勝手のいい形とサイズ感で人気があります。特に、磁器には珍しい紅色を基調とした作品が特徴です。 「この深い紅色の八角のお皿に一目惚れして、数年前購入したのが高橋さんとの出会いでした」というのは、フードスタイリストの黒瀬佐紀子さん。今回、東京での作品展を開催するにあたり、高橋さんの作品を身近に感じてもらえる機会になればと、フードスタイリストの黒瀬佐紀子さんによる食を組み合わせたイベントが行われました。 高橋さんの作品は、札幌にあるご自宅のアトリエで生まれます。制作の工程は、成形後、素焼きに7時間、その後釉薬を施し、窯で10時間焼いて、冷ますために2日ほど要します。鮮やかな紅色を出すのは、赤色釉の銅(辰砂/しんしゃ)で、焼く前の色は、なんとエメラルドグリーン。窯内の酸素の状況によって赤の濃度が変わり、時には桜のようなピンク色になるそう。「陶芸は、土物からスタートしましたが、ガラス質が色に染まる磁器づくりに気持ちが動いたことをきっかけに、今のスタイルに。紅は色出しが難しいといわれていますが、自分が思う色に到達するまでの研究も楽しいです」と高橋さん。 この会に参加した女性たちは、食事をしながら高橋さんの作品に実際に触れ、持ちやすいサイズ感や湯切れのよい注ぎ口、また料理を引き立てる色に驚かされる機会となりました。 紅い器と春の味が競演する食事会 「紅い器で愉しむ春茶会」は、ほんのり桜の香りが移った桜茶からスタート。まず一品目は、まるで桜餅のような「桜餅風、中華おこわ」。桜色から濃い紅へとグラデーションに色づいた八角の器に料理が引き立ち、食欲をそそります。 春をイメージした前菜は、左から卵とかぶの葉のひと口寿司、菜の花のサーモン巻き、炙りイカとプチヴェールのスモークオイル和え、野沢菜とクリームチーズの玉子巻き、筍とパプリカとわさび菜の肉巻きピーナッツソース添え、ポテトサラダに紫のカリフラワーの酢漬け乗せと、いくつもの春の味を堪能できる一皿。 続けて、ウォータークレソンと筍が彩る海老しんじょ、六角の赤い器にドライトマト味噌漬けの鳥焼きにスイスチャードを添えて。パースニップ、タルティーボ、ニンジン、などを塩こしょう、オリーブオイルでローストした野菜盛り。食事のしめには、アマランサスの新芽と菜花の緑、ラディッシュの赤が引き立つ春のちらし寿司。旬の野菜がカラフルで目にも楽しい春の味の創作コース料理です。 これまで聞きなれない野菜の名前の登場に驚きながら、素材一つひとつをしっかり味わう2時間でした。 フードスタイリストを仕事にしながら、数々の器に触れてきた黒瀬さん。高橋さんの器を使った感想は? 「最初は、こんなに鮮やかな赤色は難しいなと思いましたが、どんな料理も、盛りつけてみると不思議と引き立つんです。紅といっても、見る光線によって、奥に黒や紫、青を感じる飽きのこない赤で。なんといっても、料理が美味しく映える器との出会いは嬉しいですね」 旬の料理が引き立つ食器や味覚を探して、春到来の喜びを目でも舌でも、ぜひ味わいましょう。