はぎお・まさみ/ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。早稲田大学第一文学部卒。神奈川生まれ、2児の母。
萩尾昌美

はぎお・まさみ/ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。早稲田大学第一文学部卒。神奈川生まれ、2児の母。
萩尾昌美の記事
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アロマセラピー
パチュリの香りで瞑想を 【おうちでアロマテラピー】
深みがありエキゾチック パチュリ(別名パチョリ、学名Pogostemon cablin)はインドネシアやフィリピンを原産とする、シソ科の多年草。その精油は、インド、インドネシア、スリランカなどの熱帯の地域で産出されています。古くから風邪や腹痛の民間薬として使われ、また、その香りを虫が嫌うため、衣類の虫除けにも使われました。19世紀のインドでは、英国に送るカシミアショールの荷に、虫除けとして乾燥させたパチュリの葉を入れたといわれます。 パチュリ精油の抽出には、生の葉ではなく、摘んだ後に乾燥させたものが使われます。葉が乾燥し、発酵する段階で、独特の香り成分が生まれるためです。19世紀にパチュリがイギリスへ渡ると、乾燥させた葉がポプリの香りづけに用いられるようになりました。また、フランスでは精油が香水作りに用いられるようになり、現在でも、深みを与える香りとして、香水やオーデトワレのブレンドに重宝されています。1960年代には、パチュリの香りはヒッピーの間で人気となり、フラワー・ムーブメントを彩りました。 日本では藿香(かっこう)として 日本では、藿香(かっこう)の名でお香作りの原料として使われてきました。沈香や白檀のように、伝統的に使われてきたものなので、その香りをはっきり思い浮かべられなくても、実際に触れてみれば、きっと馴染みのあるものに感じることでしょう。 藿香(かっこう)というと、パチュリを原料とする「広藿香(産地の中国広東省に由来した名)」を指すのが一般的なようですが、他に、カワミドリを原料とする「土藿香」があります。カワミドリ(Agastache rugosa)は、日本や朝鮮半島、中国に自生する植物で、コリアン・ミントとも呼ばれ、四川料理や韓国料理では野菜として調理されます。パチュリとカワミドリはよく似ていて、歴史的にも混同されてきた経緯があります。 心を解き放つ香り パチュリの精油は1滴で十分香る力を持っています。しっとりとして、沈むような、深みのあるパチュリの香りからは、弦楽器の深い音や響きが感じられるようです。アロマテラピーでは、こんな風に香りを言葉で表現することも大切。香りを感じ、自分自身の言葉で香りのイメージを膨らませて、楽しんでみてください。 パチュリの香りには、抗うつ作用や鎮静作用があり、不安やストレスを和らげてくれます。緊張から解き放たれて、一息入れるようなイメージです。静脈やリンパの流れを促す作用もあるので、リラクゼーションに向いています。また、催淫効果も高く、フローラル系の精油と合わせれば、寝室の明るくて柔らかなムード作りに一役買ってくれます。ローズ、ジャスミン、イランイラン、ネロリなど、パチュリはどの花ともよく合います。 芳香浴レシピ パチュリ1滴+フランキンセンス3滴 6~8畳のディフューザー用のレシピです(フランキンセンスについては、こちらをご覧ください)。 これから訪れる秋の静けさに似合う、心をホッと落ち着かせてくれるブレンドで、瞑想にぴったりの香りです。パチュリとフランキンセンスのどちらにも鎮静作用があって、不安やストレスからの解放を後押ししてくれます。この香りを焚きながら、内面を見つめる時間を持ってみてください。このブレンドはまた、抗菌、抗ウイルス作用に優れるので、季節の変わり目の風邪の予防や症状の緩和にも役立ちます。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。 *精油は信頼できるアロマテラピー専門店で、実際に手に取り、購入しましょう。肌に合わない、気分が優れない、などと感じた時は使用を止め、医師にご相談ください。 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉・原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。・飲用しない。目に入れない。・火気に注意する。・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。
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ストーリー
【2023年 英国チェルシーフラワーショー】今年の話題&ショーガーデン部門の注目作品を紹介!
国王の戴冠をお祝い フローリストによる花のインスタレーション。Photo: RHS / Sarah Cuttle 毎年5月末に、ロンドンのチェルシー王立病院を会場に開かれる、チェルシーフラワーショー(以下チェルシー)。英国王立園芸協会(以下RHS、The Royal Horticultural Society)が主催するこの花の祭典は、イギリスの園芸ファンが楽しみにしている園芸界の一大イベントであり、社交の場でもあります。全英、そして海外からも、ガーデンデザイナー、フローリスト、施工会社、種苗会社、園芸物資会社と、園芸に携わるトップランナーたちが集います。 会場を訪れたチャールズ国王とカミラ王妃。Photo: RHS / Oliver Dixon 昨年はエリザベス女王の即位70年のお祝いで盛り上がった会場でしたが、9月に女王が逝去し、今年のチェルシー開催は、チャールズ国王の戴冠式後というタイミングでした。RHSが時事を反映して製作する特別展示ガーデン(フィーチャーガーデン)では、国王の戴冠を祝うと同時に、長年RHSのパトロンを務め、ほぼ毎年欠かさずにチェルシーを訪れたエリザベス女王を偲ぶ庭がつくられました。 チャールズ国王のブロンズ像が飾られた〈RHSガーデン・オブ・ロイヤル・リフレクション・アンド・セレブレーション〉。Photo: RHS / Tim Sandall 3方向が閉じられた静かな庭では、国王が好む青や紫の花や、エリザベス女王が好んだという白やピンクの花々が彩りを添えています。チャールズ国王とカミラ王妃も会場を訪れて、この庭をはじめ、数々の展示ガーデンを視察しました。 子どもたちがチェルシーに初参加 学童たちのピクニックに参加したキャサリン妃。RHS / Oliver Dixon 今年はチェルシー史上で初めて、子どもたちが会場に招かれました。RHSは〈RHSチェルシー・チルドレンズ・ピクニック〉と題し、ロンドン市内の10の小学校に通う学童、計100人を展示ガーデンでのピクニックに招待。次世代を担う子どもたちがガーデニングを通じて自然に親しむ、そのきっかけとなることを願っての企画です。サプライズでキャサリン妃も参加し、彼らとのお喋りや、その後の虫探しを楽しみました。 それでは、世界トップクラスのガーデンデザイナーが大きなサイズの展示ガーデンを設計、製作する〈ショーガーデン部門〉の注目作品を見ていきましょう。昨年から続く慈善プロジェクト〈プロジェクト・ギビング・バック〉のおかげで、今年も多くの慈善団体がチェルシーへの参加を果たしました。〈プロジェクト・ギビング・バック〉や展示ガーデンの審査方法についての詳細は、『【2022年 チェルシーフラワーショー】3年ぶりの5月開催! 今年の見どころ&ショーガーデン部門解説① 』をご覧ください。 金賞&ベストショーガーデン〈ホレイショーズ・ガーデン〉 デザイン:シャーロット・ハリス&ヒューゴ・バグ(ハリス・バグ・スタジオ)資金提供:ホレイショーズ・ガーデン、プロジェクト・ギビング・バック Photo: RHS / Neil Hepworth 金賞(ゴールドメダル)及び大賞となるベストショーガーデンを受賞したのは、〈ホレイショーズ・ガーデン〉。デザイナーのシャーロット・ハリスとヒューゴ・バグの2人は、2021年に続いてショーガーデン部門の金賞を受賞。今回は大賞に選ばれました。 受賞を喜ぶデザイナーのシャーロット・ハリス(中央)とヒューゴ・バグ(右)。Photo: RHS / Oliver Dixon 17歳の少年から始まった活動 〈ホレイショーズ・ガーデン〉とは、英国各地にある脊髄損傷を治療する専門病院に、入院患者が過ごすための庭を作ろうと活動する慈善団体です。2012年のソールズベリーを皮切りに、これまで英国各地にある6つの病院に、団体名と同じく〈ホレイショーズ・ガーデン〉と呼ばれる美しい庭の数々をつくってきました。チェルシーで発表されたこの庭は8番目となるもので、2024年にイングランド中部の町、シェフィールドにある病院、プリンセス・ロイヤル・スピナル・インジャリーズ・センターにつくられる庭の中心部分として、移設される予定です。 ハリスとバグによるデザイン画。©Harris Bugg Studio 〈ホレイショーズ・ガーデン〉の活動は、医師になることを志していた17歳の聡明な少年、ホレイショー・チャプルの発案がきっかけで始まりました。2011年、ソールズベリーにある脊髄損傷を治療する専門病院でボランティアをしていたホレイショーは、長期間の入院を余儀なくされ、ベッドに寝たまま、もしくは、車いすに乗ったまま、ずっと室内で過ごす患者たちが、もっと戸外に出て過ごせるようになるといいのではないかと考えます。 そして、ガーデンをつくることを発案。医師である両親に背中を押され、患者にアンケートを取るなどして、どんな庭がよいかという調査を始めました。しかし、そこに悲劇が起こります。ホレイショ―はスヴァールバル諸島での冒険旅の野営中にシロクマに襲われ、その若い命を突然絶たれてしまうのです。 ホレイショ―の死を悼んだ家族や友人、地元の人々は、患者のためのガーデンをつくるという彼の願いを実現しようとチャリティを設立し、資金集めを始めます。活動は広がりを見せ、その翌年、有名ガーデンデザイナー、クリーヴ・ウェストが設計した美しい庭が、見事に完成したのでした。その後、団体は英国内にある脊髄損傷治療を専門とする11の病院すべてに庭をつくることを目標に、活動を続けています。 美しい庭の持つ癒やしの力 落ち着けるガーデンルーム(奥)も設置。Photo: RHS / Neil Hepworth これまでにつくられた庭は、いずれもチェルシーでの金賞受賞経験のあるような有名デザイナーにより設計されたもので、どれも美しく、よく考えられた庭となっています。ホレイショーズ・ガーデンで求められるデザインの基本は「1年中美しい場所であること」。ホレイショーの母で、団体の理事長を務めるオリビア・チャプル博士は、そう言います。脊髄損傷の患者の中には、事故などによって突然の体の変化に直面した後、そのまま半年や1年にわたる長期入院を余儀なくされる人も多いとのこと。心を癒やす美しいガーデン環境は、患者が困難な時期を乗り越える支えとなり、また、ガーデンセラピーやアート活動など、回復のためのアクティビティを行う場にも使われます。庭の美しさに誘われて、それまでガーデニングやアートに縁のなかった人も、アクティビティに参加するようになるそうです。 石積みのケルンがアクセントに。Photo: RHS / Neil Hepworth チェルシーで展示されたこの庭は、ベッドに寝たままの患者や、車いすに乗った患者が使うことを基本に、例えば、小道から植栽に車輪が入り込まないよう、花壇に沿って低い仕切りを立ち上げるなど、デザインに細かい配慮がされています。優しい色合いの植栽は、風にゆらゆらと揺れるような軽さの感じられるもので、視線は低めに設定。ベッドに寝た状態でも、美しい花景色を楽しめるよう計算されています。3つある石積みのケルンには、特に花の少ない冬場に、庭にリズムと構造をもたらす役割があります。庭の奥には、ひとり静かな時を持てるガーデンルームもあって、ベッドのまま入って、屋根の丸い天窓から木々の緑を眺めることもできます。 静かに水が流れ落ちる水盤。Photo: RHS / Neil Hepworth 製鋼業の町、シェフィールドは、特にナイフやフォークなどのカトラリーを作る産業で知られていますが、水盤はそれにちなみ、カトラリーの型押しがされたユニークなタイルが並ぶデザインです。水盤の水は、車いすやベッドの上からも触れることができ、水音とともに、五感を刺激する仕組みの一つとなっています。 チェルシーの展示ガーデンで、車いすのアクセスに配慮したデザインは初めてとのこと。このようなユニバーサルデザインは、公共性の高い庭での新たな基準となりそうです。 金賞〈ナーチャー・ランドスケープス・ガーデン〉 デザイン:サラ・プライス資金提供:ナーチャー・ランドスケープス 美しい色合いのベアデッドアイリスが咲く。Photo: RHS / Sarah Cuttle 今回、同業のデザイナーたちやメディアの大きな注目を集めたのは、独特な美的センスを持つサラ・プライスが手掛けたこの庭です。柔らかな色合いのベアデッドアイリス(ジャーマンアイリス)を中心とした、抑えた色調のカラーパレットと、スペースに余白のある植栽。水彩画のように美しく、リラックスした雰囲気の庭は、インパクトのある「濃いめ」の展示ガーデンを見慣れた専門家たちの目に、新鮮に映りました。 セドリック・モリスとアイリス サラ・プライスによるデザイン画。©Sarah Price 庭のモチーフとなっているのは、画家セドリック・モリス(1889-1982)の絵画と、彼が作出したベアデッドアイリスです。モリスは20世紀半ばに活躍した画家で、同様に、ベアデッドアイリスの優れた育種家、そして、海外に植物採集にも出向く熱心な園芸家としても知られました。1940年、モリスはパートナーのレット=ヘインズとともにサフォーク州にある16世紀の田舎家ベントン・エンドに私設の美術学校を開き、そこにガーデンを作って、育てた草花をよく描きました。1940年代から50年代にかけて、彼は毎年1,000株ほどのベアデッドアイリスを育てて品種開発に励み、そして、最終的に〈ベントン〉の名が入ったアイリスの品種を90も生み出したといわれます。 モリスの生み出したアイリスの詳細は、時の流れの中で長らく失われていましたが、2015年のチェルシーで、綿密な調査の結果特定された20種ほどが紹介されました。失われたアイリスの発掘調査を行ったのは、名園シシングハースト・カースルで2004年までヘッドガーデナーを務めたサラ・クック。シシングハーストの主、ヴィタ・サックヴィル=ウェストはモリスの友人で、シシングハーストの庭にはモリスの手で生み出された数々のアイリスが残されていました。サラ・クックはそれらに魅了され、各所の園芸資料に当たって品種の特定に尽くしたのです。 画家の審美眼から生み出されたこれらのアイリスは、非常に美しい色と姿を持っています。デザイナーのサラ・プライスも、2015年のチェルシーでモリスのアイリスに魅了された一人で、今回のガーデンデザインのアイデアを長年温めていたそうです。現在、〈ベントン〉の名を持つアイリスは、栽培や普及に協力したノーフォーク州のハワード・ナーセリーのほか、モリスの薫陶を受けた故ベス・チャトーのナーセリーでも入手することができます。 独特で魅力あふれる色づかい デザイン画が忠実に再現されている庭。Photo: RHS / Sarah Cuttle サラ・プライスは、2012年、ロンドン・オリンピック・パーク内のガーデンデザインに共同で携わったほか、ウェールズのホレイショーズ・ガーデンなど、公共の庭のデザイン経験も豊富なデザイナー。チェルシーでは、2012年、2018年にショーガーデン部門の金賞を受賞し、ガーデン・コラムニストとしても活躍しています。幼い頃から園芸に親しんでいましたが、大学では美術を学び、その後にガーデナー、そして、ガーデンデザイナーへの道に進みました。 美術の素養があるためか、彼女の植栽プランは、よく、絵画のようといわれます。プライスは今回、この庭のカラーパレットに、モリスの絵画に描かれていた、くすんだピンクやイエロー、ブルーを取り入れました。花や葉の色、壁や鉢の色に、プラムやモーヴ、オリーブイエロー、クリーミーブラウンというニュアンスカラーを使って、全体の色調を統一しています。庭のカラーパレットとして、全体的にくすんだ色合いというのはあまり目にしないもの。抑えた色調ながら、リッチでミステリアスでもあり、今までにないその色づかいは多くの人を惹きつけました。 植木鉢もリサイクル素材で作られたもの。Photo: RHS / Sarah Cuttle プライスは植栽に関しても独特なアプローチを見せており、植物の形を楽しむために、スペースに余白を残すことを意識しています。チェルシーの展示ガーデンは、一般に植物がみっしり植わっている印象を受けますが、この庭では、一つひとつの植物がよく見え、その姿を楽しめるようになっています。 資金提供を行ったナーチャー・ランドスケープス社は、景観メンテナンスを手掛ける、サステナビリティ(持続可能な庭づくり)への意識が高い会社です。この庭では、壁やテーブルの建材など、すべてリサイクルの素材を利用。園芸におけるサステナビリティは、ますます求められる基準となっているようです。 金賞〈ア・レター・フロム・ア・ミリオン・イヤーズ・パスト〉 デザイン:ファン・ジヘ資金提供:ホバン・カルチュラル・ファンデーション/MUUM Ltd. いくつもの巨岩を組んで作られた山の景色。Photo: RHS / Neil Hepworth もう一つ、多くの注目を集めたのが、韓国人のガーデンデザイナー、ファン・ジヘの手掛けた庭です。韓国で最大の山岳型国立公園、智異山(ちりさん)は、約5,000種の野生の動植物が生息する、韓国の母なる山として知られています。この庭は、智異山の東側に太古からある、薬草の自生地を表現しています。智異山は過去の台風により大きな被害を受け、多くの植物が絶滅しそうになったり、消えてしまったりしましたが、しかし、10年にわたる復興プロジェクトによって、すべてがよみがえったとのこと。智異山自体に植物の種がしっかりと蓄えられていたために、リワイルディング(再野生化)が成功したと考えられています。 ファンによるデザイン画。©Jihae Hwang ファン・ジヘは、ガーデンデザイナーであると同時に、環境芸術家(エンバイロンメンタル・アーティスト)でもあり、美術を学んだ後に、彫刻、インスタレーション、環境アートの分野で活動してきました。ガーデン製作もコンセプチュアル・アートの視点から取り組むのを好むそうで、彼女のガーデン作品には芸術性やメッセージ性が感じられます。2011年にチェルシーのアルチザン部門(小さい庭部門)初出場で金賞と部門の大賞を、2012年も金賞と会長賞を受賞しており、今回は11年ぶりのチェルシー挑戦でした。 小さな岩も使って山の景色を表現。Photo: RHS / Neil Hepworth 今回、ファンは、総量200トンを超えるという巨岩の数々を配置して山を形作り、岩の間に幾筋もの小川の流れを作りました。もともと何もない平らな場所にたった3週間で作り上げられた、自然豊かな韓国の「山」の出現に、多くの人が驚きました。 大きな岩は小さな植物を守り、複雑な生態系の土台となるもので、小川は生き物たちの命を支えるものです。ファンは、巨岩で悠久の時の流れを表現し、巨岩とその割れ目に花咲く小さな植物を、人間に送られた「1億年前の過去からの手紙」と捉えて、庭のタイトルにしました。そのデザインの根底には、自然と人間の健やかな共生への願いがあります。 薬草を乾燥させるための塔。RHS / Neil Hepworth 植栽には、韓国に自生する、薬用、食用となる植物が選ばれています。昔からさまざまな薬として使われてきた植物ばかりで、中には環境の変化に敏感な、希少な高山植物もあります。山のふもとにあるのは、目を引く高さ5mの塔。山で採れる薬草を乾燥させるために伝統的に使われる吹き抜けの塔で、石や藁を混ぜた土を使って壁を作るという、昔ながらの手法で建てられています。 ファンは、古くから続く智異山の自然と人間の営みを表現しながら、心に響く美しい世界を作り上げました。
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アロマセラピー
めざせ、二の腕やせ! ジュニパーベリーのスリミングオイル【おうちでアロマテラピー】
魔除けの樹 ジュニパー(Juniper) ジュニパーベリーは、ジュニパー(Juniperus communis、ユニペルス・コンムニス、和名セイヨウネズ)の実のことをいいます。ジュニパーはヒノキ科、ビャクシン属の常緑針葉樹で、北ヨーロッパ、北アメリカ、アジア、北アフリカと広範囲にわたって自生し、変種や亜種の多い植物です。ジュニパーの類はコニファーの一種として庭づくりにも多用され、西洋では多くの園芸品種が生み出されています。 ジュニパーは、ヨーロッパの歴史の中で、悪い物から守る魔除けの樹、とされてきました。 新約聖書『マタイによる福音書』では、イエス・キリストの生誕後、養父ヨセフは天使のお告げを受けて、幼子の殺害を企むヘロデ王の手から逃れるため、聖母マリアと幼子イエスを連れてエジプトに向かいます。このエジプトへの逃避は、キリスト教美術でよく取り上げられるモチーフで、さまざまな画家がさまざまな解釈で絵に表していますが、こんな逸話も残されています。追手の兵士が差し迫った際、聖母マリアはジュニパーの若木を見つけ、その枝の下にとっさに幼子イエスを隠したことで難を逃れた、というものです。 もっとも、この植物はじつはエニシダの仲間だったという説もあるのですが、中世ヨーロッパの人々は、針葉樹らしい清らかな香りもあってか、ジュニパーには人々を守る魔除けの力があると考えていました。魔女除けに戸口に枝を飾ったり、魔除けや疫病除けとして、ハーブを床にまき散らすストローイングに使ったり、また、枝を燃やして、場の空気を清めたりもしました。 日本では西日本に、近縁種のネズ(Juniperus rigida、ユニペルス・リギダ)が自生しています。ジュニパー同様に固く鋭い葉が、ネズミ除けに役立ったことから「ネズミサシ(鼠刺)」と名付けられ、そこから省略して「ネズ」と呼ばれるようになりました。庭木や生け垣に使われるほか、盆栽の世界では「杜松(としょう)」の名で仕立てられ、人気があります。また、漢方では、ネズの実は「杜松子(としょうし)」として、利尿薬に使われています。 ジンを風味づけるジュニパーベリー ジュニパーはイチョウのような雌雄異株で、雄花と雌花が別々の個体に咲き、風の働きによって受粉します。その実は、ジュニパーベリー(juniper berry)と呼ばれていますが、針葉樹のジュニパーは裸子植物なので、実際は、松かさと同様の球果(cone、コーン)となります(松かさは果皮が乾燥して木質化した「乾果」で、ジュニパーベリーは果皮が多肉で汁液に富む「液果」)。ベリーと呼ばれていても、ラズベリーやブルーベリーのような、ベリー(berry)類とは根本的に異なります。 ジュニパーベリーの白い粉がかかったような緑色の実は、ゆっくりと、2年ほどかけて黒く熟していきます。 ジュニパーベリーは中世のオランダを発祥とするお酒、ジンを風味づけるスパイスとして使われてきました。いま世界的に、さまざまなハーブや果皮、スパイスなどで風味をつけた、クラフトジンの人気が高まっていますが、ジュニパーベリーはジンをジンたらしめる、必須のスパイスとして欠かせないものです。 ジュニパーベリーは伝統的な薬草療法として、つぶしてお茶にして飲まれますが、利尿を促し、尿路感染症の緩和や、腎臓の働きを高めるとされています(但し、腎臓疾患のある方、妊娠中の方のご使用はお避けください)。また、健胃作用がありますが、ジンも同様に、胃腸によいお酒とされています。 スパイスとして料理にも 日本ではあまり馴染みがありませんが、ジュニパーベリーはスパイスとして、ローズマリーやローリエのように肉料理の臭み消しに利用され、特に、臭いの強いラムや、シカ肉、ウサギ肉などのジビエ料理で用いられます。また、ドイツでは郷土料理のザワークラウトの風味づけに使われます。日本でも手に入るスパイスなので、牛の煮込みなどに使ってみてはいかがでしょうか。 浄化を促す精油 ジュニパーベリーの精油のキーワードは「浄化」。身体を温め、循環を促して、余分な水分や老廃物を排出するデトックス作用があり、身体がすっきりするイメージです。むくみ解消や、夏の冷房から来る冷えの緩和に適した精油です。 精神的にも、心を刺激して、後ろ向きの感情や気のよどみを取り除き、気持ちを切り替えるのに役立ち、自律神経を整えます。 ジュニパーベリーの精油は、果実(球果)から水蒸気蒸留法により抽出したものです。「ジュニパー」の名で販売されている場合もあり、中には、材料に葉や小枝が含まれているものもあります。材料を確認し、分かりづらい場合は信頼できるお店で相談してから購入しましょう。 どちらの精油も、腎臓疾患のある方と妊娠中の方はご使用にならないでください。また、長期間のご使用はお避けください。 ジュニパーベリーのスリミングオイル 作り方 【材料】 ホホバオイル(クリア・精製したもの) 50ml 精油: グレープフルーツ(フロクマリンフリー)4滴 ジュニパーベリー 2滴 ゼラニウム 2滴 真正ラベンダー 2滴 【道具】 ビーカー、ガラス棒、遮光びん(50ml用) 【作り方】 ホホバオイルをビーカーに注ぎ、そこにそれぞれの精油を足していきます。精油によって粘り気が異なるので、1滴ずつ落とすようにしましょう。 精油を入れたら、ガラス棒でくるくるとよく混ぜます。混ざったら、遮光びんに移して完成です。 びんのフタをオイル用のポンプにつけ替えると使い勝手がよくなります。内容とつくった日付を書いたラベルを貼り、日の当たらない場所に保管します。長期の使用を避け、早めに使い切りましょう。 夏らしい華やかさの中に、爽やかなジュニパーベリーがほのかに香る、フローラル系の香りです。ジュニパーベリーやグレープフルーツが代謝を促し、オイルで優しくなで上げるだけでも、身体が温まるのを感じると思います。 【オイルマッサージの方法】 最初に、手のひらにオイルを少量とって温め、両首筋から鎖骨の溝に向かって、2~3回優しくなでおろします。この後、腕、脚、お腹と、単独で、もしくは、慣れたら組み合わせてマッサージをしてみましょう。 〈腕〉 オイルを足して温めながら腕全体になじませ、手の先から二の腕に向かって、てのひら全体を密着させるようにして、なで上げます。気になる部分は、老廃物を出し、脂肪を燃焼させることをイメージして、少し圧をかけながらもみほぐしてみましょう。最後は、脇の下に流すように。 〈足〉 オイルを足して温めながら足全体になじませ、両方のてのひら全体を使って、足を両側から包み込み、足先からなで上げます。気になるところは、てのひら全体でもんでみましょう。この時、膝の裏や、足の付け根に流し込むようにマッサージすると、むくみや疲れが取れやすくなります。 〈お腹〉 お腹周りも、 手のひら全体を意識して、「の」の字を書くようにオイルをよくなじませてから、気になるところをもんでみましょう。 終わったら、余分なオイルは優しく拭き取ります。オイルマッサージは、どの部分も、心地よいと感じる程度の圧で行います。強い力は必要ありません。特に、お腹周りや内ももは皮膚もデリケートなので、様子を見ながら少しずつならします。マッサージの前後には、白湯など、水分を十分に取りましょう。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。 *精油は信頼できるアロマテラピー専門店で、実際に手に取り、購入しましょう。肌に合わない、気分が優れない、などと感じた時は使用を止め、医師にご相談ください。 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。 Photo/1)Melica/ 2)Martin Fowler /3)Dionisvera /4) Bernd Schmidt /5)Michelle Lee Photography /6)Marina Onokhina /7)Antimon /8)Michelle Lee Photography /9)Melica /10)Madeleine Steinbach/Shutterstock.com
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アロマセラピー
プチグレンの爽やかフレグランス&デオドラントスプレー【おうちでアロマテラピー】
「小さな青い粒」プチグレン プチグレンは、ミカン科の常緑樹、ビターオレンジ(Citrus aurantium、別名ダイダイ)の葉と小枝から、水蒸気蒸留法で抽出された精油のことをいいます。 「プチグレン(Petitgrain)」には、フランス語で、「小さい(petit)」「果実の粒(grain)」という意味があります。その昔、もともとは、熟す前の小さな青い実を材料としていたため、この名がついたとされますが、現在のプチグレンの精油は、一般的に葉と小枝を材料とします。その名の通り、未熟な青い実を思わせる、フレッシュで、少し青臭い香りが特徴。他の柑橘系の葉や小枝を材料とする精油もプチグレンと呼ばれることがありますが、ビターオレンジのものが主流です。精油の主な産地には、フランス、チュニジア、パラグアイなどがあります。 3種の精油が採れるビターオレンジの木 ビターオレンジとは、お正月のお飾りに使われる「橙(だいだい)」のこと。橙という和名は、冬に熟した実をそのままにしておいても、数年は木から落ちないことから、「代々(だいだい=橙)続く」という、おめでたい意味合いで名付けられたといわれ、それ故、正月の縁起物に使われます。橙色の実は、木につけたままにしておくと、春から夏に再び緑色に戻るという性質があります。一度熟した果実がまた青い実に戻るとは、ちょっと不思議な感じがしますね。果実は酸味と苦味が強いため、生食には好まれませんが、マーマレードの材料に使われたり、香りのよい果汁がポン酢に利用されたりします。 アロマテラピーの観点からすると、ビターオレンジはじつに有用な果樹で、花、果皮、葉から抽出される3種類の精油は、どれも重宝されています。真っ白な花から水蒸気蒸留法で抽出される精油、ネロリは、甘さの中に苦さのある繊細な花の香りがします。傷ついた心を癒してくれる香りで、ネロリの精油は香水の原料としてもよく用いられます。 ・おうちでアロマテラピー ちょっとぜいたく、ネロリのしあわせボディオイル 一方、熟した果実の皮から圧搾法で抽出される精油は、オレンジ・ビター(ビターオレンジ)と呼ばれます。オレンジの精油には主に2種類あり、食用とされるオレンジ・スイート(Citrus sinensis)の香りには、果実そのままの爽やかな甘さがありますが、オレンジ・ビターの香りには、甘夏や八朔のように、少し苦味が感じられます。いずれのオレンジも、気持ちを明るくしてくれる香りで、ビターのほうが芳香成分の種類が多く、より複雑な香りとなっています。 ・おうちでアロマテラピー オレンジ・スイートのリラックス・ブレンド そして、緑の葉や小枝から採れるのが、プチグレンの精油です。プチグレンは、初めは青臭い香りが目立ちますが、時間が経つにつれ、ネロリの花の香りや、オレンジ・ビターの柑橘の香り、それから、樹木系のウッディな香りも感じられます。初めの青臭い香りが苦手という方もいるかもしれませんが、ブレンドの調和を図ってくれるプチグレンは、香水やオーデコロン作りには欠かせない存在。柑橘系などの軽い香りから、樹木系の重い香りまで、さまざまな香りをつなげ、全体を引き締めるという、素晴らしい役割を果たしてくれます。男性にも好まれる、ユニセックスな香りです。 花の精油ネロリは大変高価なものですが、プチグレンは比較的安価に求められます。プチグレンは、数種の柑橘精油とブレンドすることで、ネロリの代用として使うことができます。 メンタルにも肌にもよいプチグレン プチグレンの芳香成分には、ラベンダーに代表される、鎮静、抗不安、抗菌、抗炎症などの作用のある成分が多く含まれています。知名度は低いかもしれませんが、さまざまな有用な作用の期待できる精油なので、ラベンダーのように常備しておくとよいでしょう。 抗不安作用や抗うつ作用など、精神面によいとされる香りで、ラベンダーと同じように、落ち着きたい時や気分を明るくしたい時に使うのもオススメです。また、副交感神経を優位にするので、ストレスからくる耳鳴りや不整脈を緩和します。ネロリ同様にスキンケアにも向きます。 プチグレンの爽やかデオドラントスプレー 作り方 【材料】 無水エタノール 10ml 精製水 40ml 精油 プチグレン 4滴 レモン(ベルガプテンフリー、もしくは、FCF、フロクマリンフリーのもの)5滴 ゼラニウム 3滴 真正ラベンダー 3滴 【道具】 ビーカー(50ml用)、ガラス棒、スプレー瓶(50ml用)、ラベルシール *アロマテラピーで使用する瓶は、青、茶、緑色などのガラス製のものがオススメです。遮光性があり、アルコール耐性のあるものを選びましょう。アロマテラピー専門店での購入が安心です。 【作り方】 ビーカーに無水エタノール10mlを注ぐ。 ビーカーに精油を分量通りにそれぞれ垂らし(精油のしずくが自然と落ちるのを待つ)、ガラス棒でよく混ぜる。 精製水40mlを加え、ガラス棒でよく混ぜる。 スプレー瓶に移し、フタをする。ラベルシールにレシピ名、日付、総量(ml)、精油名などを書いて貼る(ビーカーに精油が残る場合は、ごく少量の無水エタノールを入れて溶かしてもよい)。 スプレーする前にはボトルをよく振って、1カ月を目安に使い切ります。足や脇などの局所はしっかりと、ボディには軽くまとわせるイメージで使ってみてください。最初は柑橘を感じさせる爽やかさがあり、少し時間が経つとフレグランスソープのような香りがしてきます。つける人によって印象の変わる香りかもしれません。爽やかで自然な香りなので、女性だけでなく男性や、体臭が気になってくる思春期のティーンズにもお使いいただけるでしょう。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他の記事はこちらからどうぞ。 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。
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草原で眠る気分 カモミールとラベンダーの安眠ピロースプレー【おうちでアロマテラピー】
「大地のりんご」ローマンカモミール ローマンカモミール(Chamaemelum nobile、別名Anthemis nobilis、和名ローマカミツレ) は、西ヨーロッパや北アフリカを原産とする、草丈15~30cmのキク科の宿根草で、初夏から夏にかけて花を咲かせます。花だけでなく葉も甘いりんごのような香りを持ち、よく香ることから、古代ギリシャ人は「大地のりんご(カマイメロン)」と呼びました。 花のない時期は地面に低く這い、踏まれても強いので、イギリスのガーデンではグラウンドカバーとして小径に植えられたり、香りを楽しむために、石製や木製のベンチの座面にクッションのように植え付けられたりします。芝草の代わりとしても使われ、その目的にふさわしい‘トレニーグ’という花のつかない品種もあります。カモミールの花言葉には「逆境における力」などがありますが、踏みつけられても耐えられる力強さから生まれた言葉なのでしょう。 ローマンカモミールは「植物の医者」とも呼ばれてきました。香りに虫よけの効果があるためか、果樹や野菜の近くに植えておくと植物を元気に保ってくれ、コンパニオンプランツとして有用です。 お茶で有名 ジャーマンカモミール 一方のジャーマンカモミール(Matricaria recutita、別名Matricaria chamomilla)は、ヨーロッパやアジアを原産とする、草丈30~60cmの一年草です。春から初夏に開花し、こぼれダネでまた生えてきます。 ローマン種とジャーマン種は同じキク科で、似たような姿をしていますが、異なる属に属する異なる植物です。ローマン種が低く這い広がる宿根草で、花も葉も香るのに対して、ジャーマン種は縦に伸びる一年草で、香るのは花だけ。また、ローマン種の花が500円玉サイズで中央の黄色い部分が比較的平たいのに対し、ジャーマン種の花は1円玉サイズと小さく、黄色い部分が山型に盛り上がって空洞になり、白い花びらは次第に反り返ります。長い歴史の中で、どちらも薬草として同じような使われ方をしてきたため、よく混同され、どちらが「本物の」カモミールかというのは議論があるようですが、イギリスでは、ローマンカモミールが「本物の」カモミールと考えられています。 しかし、ローマン種は苦みがあるため、カモミールティーとして一般的に広く飲まれているのはジャーマンカモミールです(イギリスではローマン種のお茶も飲まれているとか)。どちらのお茶もリラックス効果のある鎮静作用や、消化促進作用に優れ、民間薬として家庭でよく飲まれてきました。 英国の絵本作家、ビアトリクス・ポターの児童書『ピーターラビットのおはなし』でも、マグレガーさんの畑に忍び込んでたくさんの野菜を盗み食いし、それが見つかって命からがら逃げ帰ったピーターに、お母さんがカモミールのお茶を飲ませる場面があります。緊張や不安の気持ちを落ち着かせ、消化不良を改善するのに、カモミールはまさにぴったりのハーブティーです。 *注意:キク科やブタクサのアレルギーのある方、また、妊娠中の方は、飲用を避けてください。 ローマンカモミールの精油でリラックス 花から抽出されるローマンカモミールの精油は、鎮静作用のあるエステル類が多いのが特徴です。精神的なショックやストレスを感じている気持ちを静めるほか、不眠や不安を和らげ、自律神経のバランスを整えて、落ち着いて眠るのを助けてくれます。 また、花粉症やアレルギー性鼻炎の緩和や、スキンケアではアトピー性皮膚炎の緩和を促し、肩こりや筋肉痛を鎮めるのにも役立ちます。 精油の主な産地はイギリス、イタリア、フランス、ハンガリー。1滴で驚くほどよく香るので、ブレンドの際には注意が必要です。1~5mlの少量での購入がよいでしょう。 *注意:ローマンカモミールは子どもから高齢者まで安心して使える精油ですが、キク科やブタクサのアレルギーのある方、また、妊娠中の方は、使用を避けてください。 真っ青なジャーマンカモミールの精油 一方、ジャーマンカモミールの精油には、抗炎症作用、抗ヒスタミン作用に優れるカマズレンという成分が多く含まれます。この成分が水蒸気蒸留法によって抽出される際に青くなるため、精油は青いインクのように真っ青になります。胃腸の不調や消化不良、月経痛など、お腹の不調を整えるのに役立ち、また、皮膚炎やアレルギーなど、肌のかゆみや炎症を緩和する働きもあります。 精油の主な産地は、イギリス、エジプト、ドイツ、ハンガリー。こちらも1滴でよく香ります。ただ、個性的な特徴のある香りは、他の精油とのブレンドがなかなか難しいかもしれません。上級者向けの精油といえるでしょう。 *注意:ローマンカモミール同様、キク科やブタクサのアレルギーのある方、また、妊娠中の方は、使用を避けてください。 草原で眠りにつく ピロースプレー ローマンカモミールを中心に、ピロースプレーを作ってみましょう。晴れた日のお花畑を軽やかに歩いていくようなイメージの香りです。 【材料】 無水エタノール 10ml 精製水 40ml 精油 ローマンカモミール 1滴 ラベンダー 5滴 ベルガモット(ベルガプテンフリーのもの)2滴 ゼラニウム 2滴 *注意: ベルガプテンフリー(もしくはFCF、フロクマリンフリー)とは、光毒性のあるベルガプテンという成分を除去してあることをいいます。 このレシピはピロースプレー用です。寝具に使って安心な配合ですが、肌には直接つけないでください。 キク科、ブタクサのアレルギーをお持ちの方、妊娠中の方は使用を避けてください。 【道具】 ビーカー、ガラス棒、スプレー瓶(50ml用)、ラベルシール *アロマテラピーで使用する瓶は、青、茶、緑色などのガラス製の瓶がオススメです。遮光性があり、アルコール耐性のあるものを選びましょう。アロマテラピー専門店での購入が安心です。 【作り方】 ビーカーに無水エタノール10mlを注ぐ。 ビーカーに精油を分量通りにそれぞれ垂らし(精油のしずくが自然と落ちるのを待つ)、ガラス棒でよく混ぜる。 精製水40mlを加え、ガラス棒でよく混ぜる。 スプレー瓶に移し、フタをする。ラベルシールにレシピ名、日付、総量(ml)、精油名などを書いて貼る(ビーカーに精油が残る場合は、ごく少量の無水エタノールを入れて溶かしてもよい)。 * スプレーする前にはボトルをよく振り、1カ月を目安に使い切る。 お休み前に、寝具やベッドルームの空間にスプレーしてみてください。草原のような、軽やかな花の香りに包まれて、ほっとした気持ちで眠りにつけますように。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。
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アロマセラピー
秋の夜をしっとり過ごす フランキンセンス&ラベンダーの芳香浴【おうちでアロマテラピー】
砂漠に生える生命の木 フランキンセンス フランキンセンスは、アフリカ北東部から中東のアラビア半島南部、インド北部にかけての乾燥した山岳地帯に分布する、ムクロジ目カンラン科ボスウェリア属(Boswellia)の低木で、オリバナム、乳香、とも呼ばれます。木の表面を傷つけると染み出てくる乳白色の樹脂は、空気に触れるとしずく状に固まりますが、樹木同様に乳香と呼ばれるこの樹脂は、古くから香として焚かれ、また、薬剤や香水の原料として使われてきました。 最高級の乳香を産出するといわれる、オマーン南部のドファール地域は、紀元前から乳香貿易で栄えた土地として知られます。当時の都市や港、交易路の遺跡や、フランキンセンスの群生地は、「乳香の土地」として、ユネスコの世界文化遺産に登録されており、歴史的価値のある場所となっています。 古くから珍重された乳香 日本ではあまりなじみのない乳香ですが、アフリカや中東、欧州では、古代エジプトをはじめ、古い時代からさまざまな宗教の儀式で焚かれた記録が残されています。聖書では、イエス・キリストの聖誕に際し駆けつけた東方の三博士が、乳香(フランキンセンス)、没薬(ミルラ)、黄金を捧げたとされており、乳香が当時、黄金と並ぶほどに貴重で、神聖なものであったことが分かります。キリスト教では、現在でも儀式の際に使われることがあります。神に捧げる祈りの香りとして、乳香は人々の生活の中でずっと親しまれてきました。 オマーンのフランキンセンスの産地では、今も乳香を焚いて来客を迎えるそうです。空気を清浄にし、平穏を促し、虫よけにもなるという香り。日本のお香にも通じるものがありますね。 心身を落ち着かせる香り アロマテラピーでは、フランキンセンスの樹脂から水蒸気蒸留法で抽出された精油を使います。現在の精油の主な産地には、ソマリア、エチオピア、オマーンがありますが、その土地によって生える品種が異なるため、同じ「フランキンセンス」の名でも、香り成分や効能が微妙に異なってきます。日本で一般的に流通している精油は、ソマリア産の品種(Boswellia carterii)が多いようです。 フランキンセンスの精油には鎮静作用があり、不安を感じる時やパニック気味の時に用いると、心を落ち着かせてくれます。 また、抗菌、抗ウイルス作用があり、気管支炎や風邪の予防や緩和に役立ちます。深い呼吸を促して、咳のひどい時など、呼吸器の働きを整えてくれます。肌に用いれば、傷の回復を早め、皮膚の乾燥やアンチエイジングに役立ちます。 芳香浴レシピ:フランキンセンス3滴+真正ラベンダー2滴+ゼラニウム1滴 6~8畳のディフューザー用のレシピです。(真正ラベンダーについてはこちら、ゼラニウムについてはこちらをご覧ください)。 秋の夜の美しい月明かりを浴びながら、心の内を静かに見つめてみる。そんなあなただけの大切なひとときに寄り添ってくれる香りです。透明感のある落ち着いた香りに包まれて、ゆったりリラックス。思い思いに、素敵な秋をお楽しみください。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。 Photo/1) jakkapan / 2) Maros Markovic / 3) vvoe /4) JurateBuiviene / 5) Madeleine Steinbach / 6) jakkapan / Shutterstock.com
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ストーリー
【2022年 英国チェルシーフラワーショー】モリスデザインの庭も登場! 本場ガーデニングの粋を集めたショーガーデン部門解説②
金賞〈ザ・モリス&Co. ガーデン〉 資金提供:モリス&Co. デザイン:ルース・ウィルモット 19世紀イギリスのアーツ&クラフツ運動を率いた、思想家で詩人のウィリアム・モリス。彼はまた「モダンデザインの父」とも呼ばれ、草花や動物をモチーフとした壁紙やファブリックの優れたデザインを数多く残しました。それらのデザインは100年以上経った現代においても人気で、今もインテリア商品の販売が続けられています。この庭は、それらの商品を扱う会社「モリス&Co.」がスポンサーとなり、ナチュラルで心地のよいガーデンを得意とするデザイナー、ルース・ウィルモットが設計したもの。ルースは同社の資料室係と共に歴史的資料を調べ上げ、モリスの代表的なデザイン2種をはじめ、彼のデザインエッセンスを庭に盛り込みました。 庭でまず目を引くのは、赤茶色の金属パネルを用いた現代的なパビリオン(東屋のような建物)。よく見ると、このパネルには風にそよぐヤナギ葉の模様が浮かんでいます。これは、モリスの最も知られたデザインである〈ウィロー・バウ〉のパターンで、職人によりレーザー加工で切り出されたもの。赤茶色はモリスが好んだという色で、モリスのヤナギ柄は、緑の中で影絵のように浮かび上がり、庭の一部となっています。 パビリオンの中には、軽やかな白木のソファとテーブルのセットが置かれています。その座面やクッション、ラグなどのファブリックは、もちろんモリスデザイン。〈ウィロー・バウ〉柄のクッションもあって、リンクコーディネイトしているのがおしゃれです。このパビリオンは、庭でひと休みするための東屋というよりも、大変美しく設えられた「屋外リビング」という印象です。 庭のモチーフに使われているもう一つのデザインは、1862年にモリスが初めて描いた壁紙〈トレリス(格子垣)〉です。1859年、モリスは自宅兼工房として建てたレッド・ハウスに引っ越した際、好みの壁紙が見つからず、自らデザインしました。 〈トレリス〉の図柄は、格子状に直角に交わるトレリスに半八重のつるバラが伝い、小鳥が止まる、というものですが、このイメージが、庭では直角に交わる小径に反映されています。デザイン画を見ると、ヨークストーンの敷石を使った小径が、格子状に伸びているのがよく分かります。また、ガーデンの中央の木には半八重のつるバラが伝い、〈トレリス〉の世界がさりげなく再現されています。 庭の植栽もモリスにちなんだ内容となっていて、草花は、彼のデザインに描かれているものや、彼の時代のコテージガーデンにあったものをチョイス。花々の色合いも、モリスの好んだ赤茶色やアプリコット色を中心に、ブルーや白をアクセントに効かせています。木々はデザインモチーフとなったヤナギやセイヨウサンザシが、灌木は、野鳥の餌や棲み処となるものが選ばれています。モリスのデザインでは、植物とともによく小鳥が描かれているからです。 庭の中央には、ヤナギ柄のパネルで装飾された美しい水路があって、水の流れを楽しめるようになっています。モリスは水を好んだといわれ、彼の暮らした家は、常にテムズ川沿いにありました。水路は手作業で焼かれたタイルで組まれており、小径はヨークストーンの敷石が伝統的な手法で敷かれています。この庭は、モリス好みの草花と、彼の愛した手仕事の美が詰まった、完璧なモリススタイルの庭といえるでしょう。 金賞〈ザ・マインド・ガーデン〉 資金提供:マインド、プロジェクト・ギビング・バック デザイン:アンディ・スタージョン 庭に散らばるように立つ弓なりの白い塀が、庭全体をアート作品のように見せている、ザ・マインド・ガーデン。スポンサーの〈マインド〉は、メンタルヘルス(心の健康)の問題に直面する人々を支える慈善団体です。国民の1/4が心の健康に問題を抱えているというイギリス。この庭は、人と人が繋がって困難な状況を変えていくための場所として、また、訪れた人が自分らしくいられて心を開ける場所として、デザインされました。 デザイナーは、チェルシーの金賞受賞が今回で9回目となるアンディ・スタージョン。世界的に活躍する実力派です。アンディは、自然の持つ癒やしの力を感じられる、気持ちの明るくなるような庭を思い描きました。 庭は盛り土のように中央が高くなった形状で、その中央部にシラカバの森があり、周辺部に下るにつれ、草花の咲くメドウ(野原)へと変化します。この庭の大きな特徴である弓なりの白い塀は、手のひらに載せた花びらを放って地面に散らし、その花びらの渦が広がるイメージで、斜度のある庭に配置されています。白い塀は、空間や小径の仕切りの役割を果たすほか、植栽を引き立てる背景やフレームとなり、また、ちらちらと揺れるシラカバの葉影を映すスクリーンにもなります。 白い塀に導かれて歩く小径は、上るにつれて次第に狭まっていき、突然、ベンチの置かれたオープンスペースに通じます。これは、小さな驚きで心を刺激する仕掛けです。白い塀自体にも触覚を刺激する役割が与えられていて、砂と石灰と貝殻を合わせたものを塗った、わざとザラザラにした仕上げになっています。そして、ベンチの置かれた2つのオープンスペースでは、水の落ちる仕掛けも。静かな水音を聞きながら、思いを巡らしたり、会話を楽しんだりできるようになっています。 中央部のシラカバの森は、デザイナーのアンディが幼い頃に幸せな時間を過ごした森をイメージしています。背の低いシダや、白や青の花々の中に、背の高いセリ科のヨロイグサの白花が顔を出し、デスカンプシアの軽やかな草穂が躍る、静かな癒やしの空間です。周辺部のより開けた空間となるメドウでは、花々はもっとカラフル。楽しく、リラックスした印象の植栽です。この庭は英国内の〈マインド〉の施設に移され、セラピーの場として使われる予定ですが、きっと多くの人に愛される場所となることでしょう。 銀賞&BBC/RHSピープルズ・チョイス・アワード大賞 〈ザ・ペレニアル・ガーデン “ウィズ・ラブ”〉 資金提供:ペレニアル―ヘルピング・ピープル・イン・ホーティカルチャー デザイン:リチャード・マイアーズ 普遍的な美しさが感じられるこの庭は、クラシカルで洗練されたデザインを得意とするガーデンデザイナー、リチャード・マイアーズの手によるものです。経験豊富なデザイナーですが、チェルシーのショーガーデン部門は初挑戦。RHS(英国王立園芸協会)による審査は惜しくも銀賞でしたが、会場とインターネットの一般による人気投票〈BBC/RHSピープルズ・チョイス・アワード〉でショーガーデン部門の大賞を受賞しました。 スポンサーは〈ペレニアル〉という慈善団体。植物の栽培者、ガーデナー、デザイナーといった、園芸に関わるすべての人々に対して、さまざまな支援を行う団体です。この庭には、デザイナーと〈ペレニアル〉による「庭は愛の贈り物である」という想いが込められています。庭は、庭をつくり慈しむ人々に、また、庭を訪ねる人々に喜びを与える愛にあふれた贈り物である、というメッセージです。 緑中心の穏やかな色調の庭には、落ち着いた、エレガントな雰囲気が漂います。中央に伸びる水路を中心とした線対称のデザインで、左右にはパラソルのように仕立てられたセイヨウサンザシが4本ずつ並び、その足元には、ドーム形のトピアリーが繰り返し置かれて、水路の両脇を飾っています。セイヨウシデの生け垣が庭をシェルターのように囲い、安心感を与えます。 植栽は生け垣やトピアリーの緑が中心ですが、足元では、柔らかな白と落ち着いたプラム色の、ルピナスやアリウム、ジギタリス、バラ、アイリスといった花々が咲いて、優しさが加味されています。生け垣やトピアリーなど、ガーデナーたちの円熟した技が随所に発揮されたこの美しい庭で、人々はそぞろ歩いたり、腰かけておしゃべりしたりしてみたいと感じて、一票を投じたのかもしれません。 この庭で目を引くのは、高さを与える役割を持つ、セイヨウサンザシ(Crataegus monogyna)の木々です(実際の庭ではパラソルのような形に仕立てられていますが、デザイン画を見ると、本来はパーゴラや藤棚のようなイメージで、より広い日陰を作ろうとしていたのかもしれません)。 今回のチェルシーでは、イギリスに自生するこのセイヨウサンザシを用いた庭が複数あり、注目されました。仕立てやすいうえに渇水に強く、大抵の土壌でよく育つという、近年ますます厳しくなる気象条件に耐えうる丈夫な低木で、また、春の花はミツバチに好まれ、秋の実は野鳥に好まれるという、野生生物を助ける役割も果たしてくれます。時代のニーズにぴったりの樹木として、今後活用されることでしょう。 以上、それぞれに特徴のある3つの展示ガーデンをご紹介しました。どのような庭にするかを明確にイメージし、そのイメージを形にするデザインは、構造(建造物)と植栽のいずれもが重要。建築的なアプローチをする英国のガーデンづくりは奥が深いですね。
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ストーリー
【2022年 英国チェルシーフラワーショー】3年ぶりの5月開催! 今年の見どころ&ショーガーデン部門解説①
賑わいを見せた3年ぶりの春のチェルシー 英国王立園芸協会(以下RHS、The Royal Horticultural Society)が主催するチェルシーフラワーショー(以下チェルシー)は、イギリスの園芸ファンが待ち望む、園芸界の一大イベント。ロンドンのチェルシー王立病院を会場に、毎年5月末に開かれます。2020年に起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、それに伴うロックダウンにより、2020年はオンライン開催、2021年は異例の9月開催となりましたが、この春は例年通りに開催され、かつての輝きを取り戻しました。 会場には、RHS総裁でもあるエリザベス女王もピンクのコートドレスでお出ましに。今年は女王の在位70年を祝う〈プラチナ・ジュビリー〉のイベントが続きますが、チェルシーの会場にも、女王がお好きだというスズランの鉢植えを70個飾ったディスプレイが設置されるなど、お祝いムードにあふれました。 会場で最も注目を集めるのは、展示ガーデンの数々です。RHSが時流を反映して製作する特別展示ガーデン(フィーチャーガーデン)では、今年は〈BBCスタジオ・アワー・グリーン・プラネット&RHSビー・ガーデン〉と題して、生息数の減少が危惧されているミツバチを助けるガーデンがつくられました。デザインは、BBC(英国放送協会)の人気ガーデン番組〈ガーデナーズ・ワールド〉でおなじみのデザイナー、ジョー・スウィフト。ミツバチやマルハナバチが好む草花ばかりを集めた植栽で、巣箱や水場も工夫された、ハチも人も嬉しい庭です。 チェルシーはガーデンデザインにおける最高峰の舞台であり、そこで見られるガーデンデザインは、服飾の世界におけるファッションショーのように、時代の流れを反映しています。今年は去年の流れを汲んで、ミツバチの保護や環境保全、サステナビリティ(持続可能性)といった視点のあるデザインが見られました。 グレートパビリオンと呼ばれる大テントの中では、バラならバラ、ダリアならダリアと、特定の植物を専門的に扱い、定評のある種苗会社各社が、自社の植物を使って美しいディスプレイを作り上げ、新しい園芸品種の発表を行います。チェルシーは、園芸やガーデニングに関する新しい情報にあふれる場なのです。 パンデミック後の新しい取り組み 今年のチェルシーでは、新しく〈プロジェクト・ギビング・バック〉というチャリティの仕組みが導入されました。これは、簡単にいうと、チャリティを応援するチャリティ。パンデミックにより経営困難に陥った慈善団体を支援したいと考えた、2人の篤志家が始めた慈善プロジェクトです。 チェルシーは英国において注目度の高い、テレビ放映も行われるイベント。そこに慈善団体が自らの理念を伝える展示ガーデンをつくれば、世間に対して大きな宣伝となります。展示ガーデンの製作には莫大な費用がかかりますが、それを全額負担して、慈善団体には支持や寄付を集める機会を、そしてガーデンデザイナーにはチェルシー挑戦のチャンスを与えようという、なんとも太っ腹な慈善プロジェクト、それが、この〈プロジェクト・ギビング・バック〉です。ガーデン大国、そしてチャリティ大国である英国ならではの、驚きの発想ですね。 ただし、実際にチェルシーに参加してガーデンをつくれるかどうかは、RHSによって通常通り行われる選考審査の結果次第となります。このプロジェクトは2024年までの期間限定で行われますが、今年は、同プロジェクトの支援を受けた12の慈善団体による展示ガーデンが、無事選考審査を通り、製作されました。 展示ガーデンの審査方法 展示ガーデンは、いくつかのカテゴリーに分かれて審査されます。世界屈指のガーデンデザイナーが大きなサイズの庭を設計し、3週間の工期で作り上げる〈ショーガーデン部門〉に、癒やしの場としての個人の小さな庭を想定した〈サンクチュアリガーデン部門〉、都会の限られたバルコニー空間をデザインする〈バルコニーガーデン部門〉に、鉢植えを駆使した〈コンテナガーデン部門〉。それから今年は、前述の〈プロジェクト・ギビング・バック〉と連動して、構造物よりも植物の使い方に注目した〈オール・アバウト・プランツ部門〉が新設されました。 これらの展示ガーデンは、8名からなる審査員団により、RHS独自の基準に則って審査され、金、銀、銅などに評価されます。ガーデンデザイナーは一般に、RHSの主催するほかのフラワーショーで、小さなサイズの展示ガーデンに挑戦することから始め、より有名なフラワーショーの、より大きなサイズの展示ガーデンづくりへとステップアップしていきます。そして、その最高の舞台がチェルシー。ここで金賞(ゴールドメダル)を得ること、そして各部門での大賞(ベスト・イン・ショー)を受賞することは、園芸に携わる人々にとって大変な栄誉です。 審査員は、園芸、ガーデニング、ガーデンデザインにおける知識や技術を持つ専門家で構成されています。展示ガーデンにどのような目的や機能があり、軸となる植物は何で、特徴は何か。審査員たちは庭の概要を前もって書面で伝えられていますが、そういった設計の意図が実現されているかどうかも審査のポイントで、庭がどんなに美しく仕上がっていても、設計意図にそぐわない場合は減点対象となります。このほかに、意欲(独自性)、全体的な印象、デザイン、建造物、植栽の観点からも審査が行われます。 チェルシーでは、審査員団の審査とは別に、ショーの様子を放映するBBCと共同で、会場とインターネットによる一般人気投票〈ピープルズ・チョイス〉も行われます。RHSの審査員の判断と、一般の人気は必ずしも一致しないのが面白いところ。それでは、今回注目された〈ショーガーデン部門〉の受賞作品を見ていきましょう。 金賞&ベストショーガーデン〈ア・リワイルディング・ブリテン・ランドスケープ〉 資金提供:リワイルディング・ブリテン、プロジェクト・ギビング・バック デザイン:ルル・アークハート&アダム・ハント 金賞、及び、大賞となるベストショーガーデンを受賞したのは、〈ア・リワイルディング・ブリテン・ランドスケープ〉。前述の〈プロジェクト・ギビング・バック〉によって参加した慈善団体〈リワイルディング・ブリテン〉がスポンサーのガーデンです。 木々や草花の茂る、このナチュラルなガーデンは、じつは、イングランド南西部にあるビーバーの棲む川辺の景色を再構築したものです。「リワイルディング(rewilding)」とは、「再野生化」を意味する言葉で、人によって開発された場所を自然な状態に戻したり、絶滅の危機に瀕した、その生態系にとって重要な役割を果たす生き物を再び野に放つことによって、生態系を回復させたりすることをいいます。英国では、環境保全の一手段として、さまざまな再野生化の動きが各地で進められていますが、慈善団体〈リワイルディング・ブリテン〉は、人間が少し手助けすれば、自然は自ら治癒する力を持っているという考えのもと、再野生化を推し進めようと活動しています。 このガーデンは、一度は絶滅してしまったビーバーが戻ったことで「再野生化」され、生態系が回復した、実在する風景をモチーフにしています。 英国ではかつて、国内の川辺に野生のヨーロッパビーバーが生息していましたが、肉や毛皮、海狸香(かいりこう、ビーバーの持つ香嚢から得られる香料)のための乱獲で、400年前に絶滅してしまいました。しかし、2013年、デボン州東部のオットー川で1組のビーバー一家の姿が確認されます。どこからやってきたのかはっきりせず、害獣として駆除されそうになったビーバーですが、そこから5年の生態観察調査が行われた結果、ビーバーがじつは、豊かな生態系を作り出すカギとなる、生態系の回復に役立つ生き物であると判明します。国はビーバーを駆除しない方針を打ち出し、現在、オットー川には15組のビーバー家族が棲みつき、近隣エリアの国立公園でもビーバーが再導入されました。 この展示ガーデンという小さなスペースの中に、ビーバーが作り上げた川辺の景色が、見事に再構築されています。セイヨウサンザシ、ハシバミ、カエデの生える林のはずれを流れる小川は、自然の土木技師と呼ばれるビーバーが木の枝を積み上げて作ったダムを経て、湿地帯の草地へと流れ込みます。 ダムは、土やゴミをろ過して水をきれいにし、魚や昆虫が棲みやすい環境を作ります。魚や昆虫の数が増えれば、それらを餌とする野鳥も増えます。ダムはまた、水の流れを緩やかにして湿地帯の草原を作り出し、ミズハタネズミやカワウソに棲み処を与えます。そうやって、生物多様性はどんどん豊かになっていくのです。 展示ガーデンのダムを形作る木の枝は、実際にビーバーがかじり取って積んだものが使われています。ガーデナーは、ビーバーの気持ちになってダムを組んだそう。草原の植栽には、ビーバーの棲むイングランド南西部に自生するワイルドフラワーやグラス類が使われています。 ビーバーの棲み処のあるダムの脇には、人間が身を隠しながらビーバーを観察できる小屋があり、そこには、湿地帯の上に渡された簡素な木道を通って行くことができます。この木道は、サマセット州の湿地帯で遺物として発見された、新石器時代の木道の構造を取り入れたもの。遥か昔に発案された素朴な形状が、ナチュラルな風景に馴染んでいます。 ガーデンデザイナーのルル・アークハートとアダム・ハントは、初出場で金賞を獲得し、さらに、大賞を受賞するという快挙を果たしました。ビーバーのような生態系のカギとなる生き物を導入することで「再野生化」が行われ、生物多様性にあふれた、驚くほど豊かな景観が生まれることを、このガーデンは教えてくれます。 金賞&最優秀建設賞:〈メディテ・スマートプリー “ビルディング・ザ・フューチャー”〉 デザイン:サラ・エベリー 資金提供:メディテ・スマートプリー社 ナチュラルなビーバーの庭とは対照的に、インパクトのある、いかにもショーガーデン! といったダイナミックな景観で注目を集めたのが、こちらの庭。森のはずれをイメージした緑主体のガーデンで、アプローチに鉄鋼のようなオブジェが置かれ、その先の中央部には、上から3本の細い滝が流れる大きな岩場がどーんと据えられています。 設計を担ったのは、チェルシーで金賞を何度も受賞しているベテランデザイナーのサラ・エベリー。この岩場は、イングランド南西部、コーンウォール州北部の海岸線で見られる断崖にインスピレーションを得てデザインされましたが、よく見ると、立てた状態のMDF(中密度繊維板。繊維状にした木材を接着剤と合わせ、熱や圧力で固めた合板)を何枚も重ね合わせて、立体的な造形にしていることが分かります。 このガーデンの隠れた主役は、じつは、このメディテ・スマートプリー社のMDF。この庭は、汎用性があり、健康的な建材であるこの合板を使いこなすことで、未来のサステナブルな景観と建築を表現しています。 MDFは一般に湿気に弱いなどの弱点がありますが、同社のMDFは軽量で耐久性が高く、屋外の使用にも長年耐えられるというもの。地上での使用は50年、地下での使用は25年という、長期の製品保証があります。間伐材から作られ、二酸化炭素の排出も抑えられるこのMDFは、コンクリートやプラスチック、金属に代わる、サステナブルな建材として、注目を集めています。 ガーデンに植わる樹木には、カバノキやシナノキ、マツの類など、メディテ・スマートプリー社が原料の木材を得ている、アイルランドの森に自生する種類が使われています。滝の落ちる池の周りには、湿気を好む珍しい植物の数々や、英国の森のはずれに自生するキンポウゲやプリムラ、シャクといった植物が植えられて、青々とした景色を作ります。一方、岩場の中は「グロット」(庭園につくられる装飾的な洞窟)として空洞になっていて、ベンチに座って休むことができます。 ガーデンデザインにおいて、サステナブルという点をますます重要に感じるという、デザイナーのサラ。ガーデンづくりは、植物も資材も、よりサステナブルなものが求められています。 チェルシーフラワーショーの世界、いかがでしたか。続編もお読みください。
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アロマセラピー
レモンとゼラニウムの春先取りブレンド【おうちでアロマテラピー】
生命力あふれる果樹 レモン レモン(Citrus limon)はインド北部を原産とする、ミカン科の常緑樹です。起源は古く、ヨーロッパへは中世に十字軍が持ち帰って、伝わりました。レモンは四季を通じて実をつけ、1本の木から100~150個の実が採れるという、生命力にあふれた植物で、大木になれば1,000個の実が採れることもあるといいます。 日本で流通する食用のレモンは米国産とチリ産で占められますが、果皮から抽出される精油は、イタリアのシチリア産のものが特に香り高いことで知られています。レモンは、頭をすっきりさせたい時にぴったりの香り。仕事や勉強の際に集中力を高めてくれ、また、考えが煮詰まった時にはリフレッシュしてくれます。それから、血流やリンパの流れをよくし、胃腸の働きを高めて消化を助ける作用もあります。 また、爽快なレモンの香りは殺菌作用にも優れています。レモンの精油を焚いて、寒い時期に溜まりがちの、室内の悪い空気をリフレッシュするのもよいでしょう。白血球の活動を活発にして免疫力を上げる作用もあるので、風邪の時に焚くのもオススメです。 背中を後押ししてくれるゼラニウム ゼラニウム(Pelargonium graveolens)は、『クリスマス・ブレンド』の記事でもご紹介しましたが、心と体のバランスを整える働きがあります。寒い冬はどうしても室内にこもりがちになりますが、これから春に向けて前向きな気持ちになりたいもの。ゼラニウムは心身を安定させ、人生を楽しく過ごすお手伝いをしてくれる精油です。バラに似たゼラニウムの香りを焚いて、美しく、瑞々しい春を迎えましょう。 芳香浴レシピ:レモン3滴+ゼラニウム1滴+真正ラベンダー1滴 6~8畳のディフューザー用のレシピです。 さわやかなレモンの香りの中に、ゼラニウムの花の芳しさや、万能精油である真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)のハーバルな香りが漂います。春物の薄手のドレスのような、軽やかな香りを楽しんでくださいね。一日の始めに、心身のスイッチを入れる香りとしてぴったりなので、ぜひ午前中に使ってみてください。 レモンやオレンジなど柑橘系の精油は酸化が早いため、冷暗所に保管して、開封後3カ月以内に使い切るようにしましょう。 また、圧搾法で抽出された柑橘系の精油を、皮膚につけてから日光に当たると、炎症や湿疹、しみが発生することがあります。これは、精油に含まれるフロクマリン類の成分が紫外線と反応して起こるもので、光毒性といいます。今回の芳香浴では気にすることはありませんが、柑橘系の精油をオイルマッサージなど、肌につけて使う場合は注意が必要です。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちら 『オレンジ・スイートのリラックス・ブレンド』 『ゼラニウムのクリスマス・ブレンド』 『ティートリーとユーカリの風邪対策ブレンド』 『イランイランとラベンダーのハートフルブレンド』 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。 Photo/1) MNStudio/2) arxichtu4ki/3) aniana/4) Africa Studio/Shutterstock.com
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アロマセラピー
イランイランとラベンダーのハートフルブレンド【おうちでアロマテラピー】
陶酔するような甘い花の香り イランイラン タガログ語で「花の中の花」を意味するイランイラン(Cananga odorata)。その精油の香りは「甘い花の香り」そのものといえるでしょう。ランにも似た、南国のエキゾチックな雰囲気を感じさせる濃厚な香りで、女の子が憧れる甘い香水を思わせる香りでもあります。 イランイランの香りには、精神的な緊張をやわらげて心を解き放ち、リラックスさせる作用があります。芳醇な花の香りが、多忙な日常を離れて、非日常のリゾートに連れて行ってくれるかのようで、幸福感や優しい気持ちを引き出します。 ホルモンの調整作用もあり、月経前症候群や月経痛、更年期の症状緩和に役立つほか、皮脂バランスを整える作用があるので、ヘアケア、スキンケアにも使われます。 イランイランは個性のある香りなので、初めて扱う場合は、精油販売店のテスターで香りを確かめてみてください。また、高濃度で使うと頭痛や吐き気を感じることがあるので要注意。1滴で十分に楽しむことのできる精油です。 守備範囲の広いピカイチアロマ 真正ラベンダー 青紫の小花を咲かせるラベンダーは、日本でもおなじみのハーブ。南仏のプロヴァンスが有名な産地ですが、世界各地で栽培されています。西洋ではハーブティーや料理、香水やポプリと、さまざまな用途で古くから使われてきました。ラベンダーの名は「洗う」を意味するラテン語からつけられたといわれますが、清潔感のある清々しい香りから連想されたのかもしれませんね。 ラベンダーの精油には、今回使用する真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)のほかに、スパイクラベンダー(Lavandula latifolia)やラバンジン(Lavandula hybrid、真正ラベンダーとスパイクラベンダーの交配種)があります。同じラベンダーの仲間でも香りや注意事項が異なるため、精油の学名を確かめてから購入するようにしましょう。 真正ラベンダーの爽やかな甘い香りには、心を静めて落ち着かせる、鎮静作用があります。また、頭痛や月経痛、肩こり、筋肉痛など、いろいろな体の痛みを和らげる鎮痛作用にも優れています。その他、抗菌、抗真菌、抗感染、抗炎症と、守備範囲の広いさまざまな作用があり、やけどや日焼け、切り傷といった、日常的なトラブルの処置に役立ちます。 芳香浴レシピ:イランイラン1滴+真正ラベンダー2滴+オレンジ・スイート3滴 6~8畳のディフューザー用のレシピです。 イランイランの陶酔するような香りに包まれて、パートナーと一緒に癒される「大人の香り」です。ゆったりと過ごせる、予定のない休日の午後や、まったり過ごしたい夜に焚いてみてください。爽やかさもある香りなので、男性にも受け入れられやすいでしょう。 また、女らしさを大切にしたい一人の夜にもどうぞ。甘い香りに身をゆだねて、心を解き放ってみましょう。 *イランイランとラベンダーは、どちらも血圧を下げる作用があるので、低血圧の方は、体調の異変を感じたらすぐに使用を中止するなど、十分ご注意ください。また、車の運転の前には使用を控えてください。 *『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちら 『オレンジ・スイートのリラックス・ブレンド』 『ゼラニウムのクリスマス・ブレンド』 『ティートリーとユーカリの風邪対策ブレンド』 *精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。 〈精油を使用する際の注意〉 ・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。 ・飲用しない。目に入れない。 ・火気に注意する。 ・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。 ・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。 ・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。 〈精油の保管・保存について〉 ・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。 ・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。 ・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。 ・香りに異変を感じたら使わない。 〈精油の品質について〉 ・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。 Photo/ 1)krungchingpixs/2)Umaporn Tepumong/3)dadalia/4)Svetlanamiku/Shutterstock.com