つじ・こうじ/1976年、大阪生まれ。江戸の園芸文化から海外のワイルドフラワーまで幅広く精通する。NHK「趣味の園芸」にも講師として出演。書籍や雑誌の執筆・監修でも活躍。著書に『色別 身近な野の花山の花 ポケット図鑑―花色別777種』(栃の葉書房)など。
辻 幸治 -園芸家-
つじ・こうじ/1976年、大阪生まれ。江戸の園芸文化から海外のワイルドフラワーまで幅広く精通する。NHK「趣味の園芸」にも講師として出演。書籍や雑誌の執筆・監修でも活躍。著書に『色別 身近な野の花山の花 ポケット図鑑―花色別777種』(栃の葉書房)など。
辻 幸治 -園芸家-の記事
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育て方
植物に必要な光とは?【後編】超初心者向け講座7
植物が育つための光の加減 Anatolii Mikhailov/Shutterstock.com 前回『植物に必要な光とは?【前編】超初心者向け講座6』では、植物の見た目と適切な光環境には関係が深いことを説明しました。後編の今回は、それらを踏まえて、適切な光環境とは、またそれをどうやってつくり上げるのかを説明します。 適切な光の強さとは SusaZoom/Shutterstock.com では適切な光の強さとはどのくらいなのでしょうか? これも簡単なようで難しい問題なのですが ・その種類本来の健康的な色・形を示す。・成長や繁殖が阻害されない。 以上の2点が挙げられるでしょう。 具体的にいえば日焼けせず、徒長せず、色も冴えて、よく成長し株もふえ、花も咲く、ということになります。 しかし、あらかじめ適切な光の強さを知るのはなかなか難しいものがあります。名前が分かっているのならば、それを糸口にして図鑑を引くかインターネットで検索するのがよいのですが、日本で販売されている植物は名前があやしい場合が少なくないので、頼りにならないこともしばしばです。 ですから、ある程度見た目で判断できるようになっておく必要があります。前回「見た目で必要な光の強さを推測する」で説明したのはこのためです。 名前を糸口に調べて適切な光の強さがすぐに分かれば御の字ですし、そうでなければ姿形から推測して数日観察します。日に焼けるようであれば日陰に、徒長するようなら日なたに、問題なければそのままそこで育てればよいわけです。日焼けが心配な人は、明るい日陰(40〜50%遮光下)に置いて様子を見ます。 季節によって変化する光 実際の上での問題は一日の時間によって、また季節によって光が変化することです。朝・夕方は光が弱く、昼間は光が強く、夜は暗い。夏は日が長く天高くまで太陽が昇り、冬は日が短く太陽は低い位置をたどります。みなさんご存じでしょう。それだけではなく、落葉樹と常緑樹の下では条件が違うし、建物のどの方角に置いたかでも異なっています。 大変複雑で卒倒しそうですが、一つひとつの要素を分解して、その性質を理解すれば大変に力になるので頑張って覚えてください。 方角と光の関係 Alexander Limbach/Shutterstock.com 建物の方位に注意するのは占い師だけではありません。園芸家にとってもとても重要です。それは利用できる昼間の光の強さ・長さなどと関係が深いからです。 もちろん周囲に何もない畑の真ん中のような場所であれば、一日中日差しがあるのである意味では理想的な環境です。しかし実際は、東西南北ある建物のどこかの面で育てるわけです。 東側は最初に日差しが当たるので好ましい環境です。朝の気温が低いうちから日差しが当たり、気温が高くなり温度障害を起こしがちな午後には明るい日陰になっているので害を受けにくく、デリケートな植物には特によいものです。問題は隣にすぐ他の建物があると、ほとんど日が差さない暗い場所になってしまいます。 南側もよい環境です。長く日が差すので特に強い光を要求する植物や、温度も上がりやすいので高温を好む植物にも好適です。逆にいうとそういった環境を嫌う植物には向きません。温度変動が大きいのも問題になる場合もあります。 西側はまあまあよい環境ですが、種類を選ぶことになります。それは気温が上がったお昼以降にしか日が差さないので、高温に強い植物を選ぶ必要があるからです。その場の気象条件によっては南側と大差ない場合もありますが、デリケートな種類は避けたほうが無難でしょう。 北側はずっと日陰です。ダメな場所のように思われますが、一日中明るい日陰や日陰の場所を好む植物には好適で、特に北側が開けていると散乱光が入るので意外に明るいものです。もう一つ大事なことは、気温が上がりにくいので温度が安定しています。冬の間じっくり休眠させたい植物や少し暑さに弱い植物を夏越しさせるのに好適です。 落葉樹と常緑樹の下 rsooll/Shutterstock.com 落葉樹と常緑樹の違いは光環境に季節的な変化があるか、ないかの違いです。 落葉樹は晩秋〜冬〜早春にかけては日向で、春と秋は明るい日陰となり、夏は日陰です。常緑樹では基本的に一年中かなり暗い日陰となります。 これらは葉のあるサイクルの違いによって生じる変化ですが、その他にも木の下枝の高さ・上に茂っている枝の粗密によっても違ってきます。木の下枝の高さ(地面から一番近い枝のある位置)が低ければその下は暗く、枝の密度が高ければ暗く、枝がまばらであれば明るくなります。 こうした木の下の光の加減は剪定によって加減することができます。一般的には高木の剪定は「空が見える程度」に枝を間引いて透かすのがよいとされます。そうすると高木の下に何らかの植物を植えておける程度の明るさを確保できるからです。特に常緑樹の場合は、放置すると暗くなりすぎて何も育たないほどになるため、このような間引き剪定が重要になります。 もちろん木自体の見栄えの問題・仕立て方の都合もありますから、すべてに当てはまるわけではありません。全体的な様子を考えて、下に植える植物を合わせます。 もともと落葉樹林に生える植物には、冬と春は日なた・夏と秋は日陰がよいというものもあります。そうした植物は落葉樹の下は好適な環境ですし、木の下に植えない場合でも季節ごとに光の強さを調節してその環境を再現するとよいでしょう。 季節による太陽の高さの違い Emre Terim/Shutterstock.com 現代に暮らす私たちには少し遠い感覚になってしまった感がありますが、太陽の高さは季節によって異なります。これは特に室内やベランダで植物を育てる場合に重要です。 夏は太陽の位置が高いため、部屋やベランダの奥まで日光は差しません。しかし、冬は太陽の位置が低いため、部屋やベランダの奥まで日光が差し込みます。 そのため室内で育てていた直射日光に弱い植物が冬に日焼けを起こす、テラリウムに直射日光が当たって温度が急上昇して蒸し煮となる事故が発生します。 極めてわずかな変化であるため見逃しがちですが、時として大きな失敗の原因になるので注意を払いたいものです。 光の強さを調節するには ronstik/Shutterstock.com 光の強さは人工的に調節することができます。 樹木の下や建物の陰に移動するのも一つの方法ですが、光の入ってくる方向が限られ、能動的に調節しにくい欠点があります。そのため、そのような欠点のない寒冷紗や遮光フィルムなどの利用が推奨されます。 ただこれらを使えばよいというわけではなく、それぞれの特性を理解して使いこなす必要があります。 特殊な資材もありますが、そのようなものは家庭園芸では使う機会がありません。ホームセンターや一般向け通販で販売されている資材で十分に足ります。 それらを利用して、栽培する植物に最適な光環境に整えてください。 光を調整するのに便利な道具と資材の一覧 寒冷紗 A_M_Radul/Shutterstock.com 寒冷紗は光を遮る資材として、最も普及しています。すべての植物の栽培に好適です。形はすべて網状のもので腐らない合成素材でできています。網目の詰まり具合はさまざまですが、遮光率(日光をどの程度遮るか)は必ず記載がありますから、そこをよく確認して必要な遮光率が保証されているか、暗くなりすぎないかを確かめます。 色は白・黒・明るい灰色が一般的です。黒は光を吸収するので集熱の効果が期待され、白は光を反射するのである程度の遮熱効果もあります。遮熱効果を高めるためにアルミ蒸着させた銀色の寒冷紗もあります。 網ですから、副次的なものとしてある程度の防風の効果もあります。強風で飛ばされたりしないようにしっかりととめ、台風前には取り外すか巻いておくかします。 他に注意すべき点として、ハウスにかける場合は、外側にかけると冬に降雪があった場合に着雪を促す側面があります。雪の多い地域や稀な大雪の際にハウスが倒壊した事例がありますから、雪の多い地域では内張りにする、天気予報をチェックして大雪の予報がある場合は寒冷紗を外すなどの対策が必要です。 ラス・よしず BoxerX/Shutterstock.com 現在はほとんど使わなくなりつつありますが、少し昔まではラスとよしずは遮光手段として重要でした。ラスは木か竹の板材をスノコのように間隔を開けて作ったもので、これを温室の屋根や窓に固定して使いました。よしずも屋根のようにかけたり、側面を覆って使われました。 製品や作り方によりますが、遮光率は50〜70%程度。ばらつきが大きく、事前に試験するか、植物の様子を見て角度や位置の微妙な調節が必要です。 材料が豊富にあり自作の手間を厭わないならば、ラスは構造が簡単で技術的に作成容易、必要なくなれば廃棄しても環境負荷の低い資材として評価できるので、見直す価値はあるかもしれません。 反射シート kikk/Shutterstock.com 栽培場の地面や棚上に敷いて光を反射させるシート状の資材です。その性質上、色は白か銀色です。 差し込んだ光を地面で吸収させることなく乱反射させます。このため影がなくなり、全体に光が当たることで果実の色づき促進と植物の徒長や傾きが抑制されます。 光が地面に吸収されないので、結果として地温の抑制効果も期待されます。明るい光を嫌う害虫のアザミウマ類やコナジラミ類への忌避効果があり、地面に敷く場合は雑草の抑制も可能です。 家庭園芸では今一つ利用が多くないように思いますが、さまざまな防除手段を組み合わせないと駆除が困難なアザミウマ類やコナジラミ類への忌避効果は注目に値します。 電球・蛍光灯・LEDライト Magnetic Mcc/Shutterstock.com 植物の育成用として電球や蛍光灯の利用は意外に悪くありません。もちろん植物育成用に開発された製品ならば申し分ありません。製品によって光成分が異なり、説明書をきちんと読んでおくことが必要です。 電球は開発史が長いだけに驚異的な性能を持ち、強い光を放つものもあります。問題は電力消費が大きいので、たくさん使うと電気代がかかります。 蛍光灯は電球ほど電力消費量が大きくなく、光もほどほどです。室内向けの日陰性の植物ならば、これで十分間に合います。 電球と蛍光灯は光だけでなく熱を発するので、植物からある程度の距離を置いて設置する必要があります。また熱を発するために熱帯植物を保温するための熱源として利用できる場合もあります。 LEDライトは開発が新しい分、日進月歩で新しい製品が次々に生まれています。特筆すべきは消費電力と発熱量の少なさです。光については必要十分ですが、どのような植物を想定しているかで発せられる光の質がかなり違うので、製品の仕様をよく調べましょう。発熱量が少ないので植物に近づけることが可能で、狭い場所でたくさんの栽培が可能です。 どの製品でも有効な照射範囲の問題があり、真下が最も明るく、そこから離れるにつれ暗くなるので、草姿の歪みや徒長の原因になります。複数設置してムラをなくすほか、周囲を反射シートで囲って光を有効に使うと欠点を克服できます。 日射計 donskarpo/Shutterstock.com 植物を置いている場所の明るさがどの程度の明るさなのかを測る機械です。もちろん資材の説明書と電卓があれば理論値を求めるのは簡単なことですが、周辺の環境や資材の配置によって思ったよりも明るかったり暗かったりします。 趣味の範疇で行う場合は植物の反応を見て、あるいは感覚で捉えてもそれは楽しみの一つでしょうが、日射計を使えば簡単に適正な光の強さが得られているかが客観的に判断できます。 高価な機種である必要はまったくなく、家庭園芸用には2,000〜3,000円台の機種で十分です。
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育て方
植物に必要な光とは?【前編】超初心者向け講座6
葉の構造と植物の姿 Rattiya Thongdumhyu/Shutterstock.com 植物にとって光は必要不可欠です。これがなくてはすべての活動ができません。ですから基本的に植物はより強い光、より明るい光を求めて育ちます。植物の体のつくりや性質がそのようになっています。 とはいえ、燦々と降りしきる太陽の光をじかに受け取れるのは、競争に打ち勝ち大きな体を作りえた一部の植物だけです。ですからほとんどの植物はある程度は日陰に耐える性質を持つか、さもなければ日陰で十分に生きられるように進化しました。つまり強い光の下では生きられなくなってしまった種類も多いのです。ここに「種類によって適切な光の強さは違う」という原因があります。 すべての植物について細かく説明することは一生かけても不可能ですから、ここでは簡単に、大まかな傾向を述べておきます。 葉の構造と光への反応 Aldona Griskeviciene/Shutterstock.com 高校までに生物を学んだ人なら植物の内部構造について学んでいると思いますが、復習を兼ねて簡単に説明します。 葉の構造 Vecton/Shutterstock.com 植物の葉は普通薄い平面の器官で、多くの場合は表と裏があります。形は種類によってさまざまで、それぞれの植物が生きる環境で最も合理的な形をしています。中にはなくなってしまったり、痕跡程度しか残っていない種類もありますが。 葉は【表皮】【葉肉】【維管束】という3つの組織から構成されています。 Morphart Creation/Shutterstock.com 【表皮】は葉の表面をつくる皮膚のような組織です。一番上には「クチクラ層」、その次に「表皮」の本体部分があり、所々に「気孔」という空気を出し入れするための穴が空いています。種類によっては表皮組織から毛が伸びています。 クチクラ層ワックス状の物質の層で、水の蒸散を防ぎ、病原菌の侵入を物理的に阻止します。葉がツヤツヤしている植物はこの層が分厚いので、あまり葉を冒すような病気にかかりません。表皮細胞が数層に重なった組織で、細胞壁という保護組織が特に厚くできており、物理的に頑丈にできています。内と外を区分して体を護っています。しばしば毛を生やしたりきれいな色を帯びたりしており、強い光や乾燥を防いだり、毒を含んで動物から身を守ったり、ネバネバする物質を出して昆虫を防いだり、中には消化酵素を分泌して虫を消化する毛を生やすモウセンゴケのようなものまであります。気孔植物が生きるために必要な空気を出し入れするための穴です。ただの穴ではなくて、周囲の気温や湿度などに合わせて植物の体内が光合成をするのに最適になるように開閉する優れものです。表には少なく、裏側に多い傾向があります。 ramazangm/Shutterstock.com 【葉肉】はいうならば葉の存在意義そのものといってよい組織で、ここで光合成の大部分が行われます。表側の「柵状組織」と裏側の「海綿状組織」に分かれています。 柵状組織光合成をするために細胞が綺麗に縦方向に整然と並んでいる組織です。ここの細胞は光合成が行われる場である葉緑体の数が多くて、濃い緑色をしています。数も多いのでなおさら濃い色に見えるのです。海綿状組織一方、裏側にある海綿状組織はその名の通りスカスカで、隙間の多い構造になっています。この隙間は気孔に繋がっているので、取り込まれた二酸化炭素が葉の隅々に行き渡るようにできています。柵状組織と比べると葉緑体の数がやや少なめで、細胞の数も少ないので色が薄く見えます。 VectorMine/Shutterstock.com 【維管束】は水を運ぶ水道管の役割をする「導管」と養分やミネラルの受け渡しをする「篩管(しかん)」からなっています。多くの場合は裏側に出っ張っていて、葉を支える構造としても役立っています。もちろんこの維管束は葉の中だけでなく、茎を通じて根まで続いています。 導管水を通す管状の組織です。死んだ細胞からできていて、文字通り水が通るだけになっています。種類によっては葉の縁や先端まで続いて「水孔(すいこう)」という穴になっているものもあります。吸収した水が多すぎる場合はそこから出すわけです。雨上がりの日の朝露には、こうした水孔から排出された水も含まれているでしょう。篩管篩管の篩はふるいの意味です。栄養素とミネラルをバケツリレーの要領で運んでいると考えられています。導管と違って篩管の細胞は生きています。需要と供給に応じて植物の体内に栄養素とミネラルを配分するのは生きている細胞でないと無理だからです。そのやりとりを円滑にするために隣の細胞との壁にたくさんの穴が開いていて、それがふるいのように見えるので篩管というわけです。 その他に、種類によっては表皮組織と柵状組織の間に隙間を開け、光を乱反射させて弱める組織があることも。これは何のためにあるのかまだよく分かっていないのですが、日陰の植物に多い傾向があることから「たまに入ってくる強い日差しから身を守るためのものではないか」という推測がなされています。 需要と供給のジレンマ lightofchairat/Shutterstock.com 植物は光合成のために葉で水と二酸化炭素を消費します。ですから理屈の上では大きい葉であればあるほど、光合成の効率はよくなるはずです。しかし実際には葉の大きさや形はさまざまです。目的が同じなら同じ形になってよいはずなのに、どうして違っているのでしょうか? 葉の形については現在でも研究が続いている分野なのですが、種類ごとの葉の形を決めている大きな要素に『水の供給』があります。 極めて単純なことですが、効率よく光合成をするには光の強さもさることながら水が絶えず供給される必要があります。しかしながら、土の中の水分には限りがあり、さらに水を運ぶ導管の能力にも限界があり、そもそも根が一度に吸収できる水の量にも限りがあるわけです。 つまり需要に供給が追いつかないことがあるのです。暑い季節になると、元気よく育っている植物で土には水があるのにお昼頃に葉が萎れているのを見ることがあります。そして夕方近くになると元に戻ってしゃんとしている。これはそうした現象で、水が足りないわけではないのです。 maxstockphoto/Shutterstock.com 植物は空気に含まれる二酸化炭素も光合成で消費します。現代の地球の大気は植物の要求からすると二酸化炭素が薄いので、彼らからするとちょっと厳しい時代です。 二酸化炭素を周辺から吸えば当然周囲からは少なくなりますから、空気が緩やかに流れて交換される必要があります。一枚の大きい葉ならば効率はよいのですが、自分自身で風を遮ってしまうので効率が低下してしまいます。さりとて風が強いと、大きな葉では煽られて折れてしまい効率低下どころの話ではありません。 Dewin ' Indew/Shutterstock.com そのため風の圧力をうまく流し、周辺の空気の交換がされやすい形になっているのです。例えばヤシの木の葉が細かなパーツに分かれているのもそのためです。大きな葉が風に煽られても問題ないようにあのような形になっています。実際に同じヤシの仲間でも風の弱い森の中に生える種類には切れ目のない大きな葉を広げる種が存在します。 風が弱い場所というのは、しばしば日陰で暗い場所です。熱帯のジャングルの中などはまさにそういう場所で、暗くて、湿度が高くて、風のあまりない環境に適応した植物がたくさんあります。 こういう場所では風が吹いて空気が交換されないので二酸化炭素の吸収がしやすいように表皮が薄く、クチクラ層もあまり無い植物がしばしば見られます。乾燥から身を守る術が必要ないので、そのような葉でも大丈夫なのです。また厚い柵状組織も不要なので葉がより薄くなります。 見た目で必要な光の強さを推測する rattiya lamrod/Shutterstock.com 長々と説明してきましたが、これは「植物の見た目は、要求する生存条件と密接に関連している」のを理解していただくためです。 EllSan/Shutterstock.com 例えば白い毛の生えた葉が一年中きれいなジャコバエア・マリチマ(シロタエギク) Jacobaea maritima は、もともと地中海地方の海岸近くに生える植物です。強い光・乾燥・強い風・塩分、そういったものから身を守るために白い毛を全身に生やしてやり過ごしているわけです。 葉に白っぽい模様が入るサトイモ科のアグラオネマやディフェンバキアの仲間は熱帯雨林の中が故郷です。そのような場所で効率よく生きるために葉が薄く、しかしたまに入ってくる強い光から身を守るために光を反射する組織を持っているので、そこが白や銀色に見える模様になっています。 例外はありますが、植物の姿や葉の形などを確かめながら植物図鑑を参照してみてください。より理解が深まります。 私の経験上は次のようになります。 葉が厚く、白くなるほど白粉を帯びて、葉が硬く(曲げられない)、葉の幅が細い植物があれば、だいたい日当たりを好むと思ってよいでしょう。 逆に葉が薄く、緑色で、毛はなく、質も柔らかく、葉の幅が広い植物があれば日陰を好む可能性が高いといえます。 もちろん例外や相反する形質が同居するような場合もありますが、総合的に見てどちらが多いかと考えてください。話が複雑になるので詳しく書きませんでしたが、一般論として斑入りの植物は普通のものより強い日差しに弱いと考えてください。
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育て方
鉢栽培での水やりで適切な水の量とは? 超初心者向け講座5
水やりは量も大切 amenic181/Shutterstock.com 前回『水やりのタイミングとは? 超初心者向け講座4』では、水やりのタイミングについて解説しました。しかしタイミングが合っていても、量がぜんぜん足りない、あるいは多すぎるようでは意味がないわけです。では、 ・適切な水の量とはどのようなものでしょうか?・どうすれば適切な水の量を与えられるのでしょうか? 上記2点をテーマにして説明します。また併せて、水やりのミスで傷んだ場合の手当てについても説明します。 適切な水の量とは itor/Shutterstock.com 適切な水の量(灌水量)とはどのようなものでしょうか? 世の中の植物にはロクに雨が降らない砂漠に生えるサボテンもあれば、一生を水中で過ごす水草もあります。植物の水をめぐる環境は非常に違いが大きいのです。 それに応じて植物は姿形と性質を変え、生き延びて生活の場を広げてきました。その結果として、必要とする水の量は植物の種類ごとに違ってきたのです。 ですから、すべての植物に共通する適切な水の量というものはありません。 さらに非常に細かな違いをいえば、種類ごとに、同じ種類でも場所ごとに、もっといえば同じ種類で同じ場所でもどのような目的で育てるかによっても「適切な水の量」は違ってくるのです。 このように書くと大変難しいように感じ、挫けそうになりますが、まずは簡単に「元気に生きて育ってもらう!」のを目標にした水やりを覚えましょう。健全に育ってこそ他のやり方があるからです。 水の適量「一般的な植物」の場合 design56/Shutterstock.com ほとんどの草花・花木・樹木・野菜は、鉢の表面の土が乾いたら「底から流れ出るまでたっぷり与える」のが適切な量です。 これは5〜6号鉢(直径・深さ共に15〜18cmほどの大きさ)で、およそ600ml前後、料理用の計量カップ(200ml)でいうと3杯ぐらいになります。 水の適量「熱帯植物(観葉植物)」の場合 designs by JH/Shutterstock.com これも一般的な植物と基本は同じなのですが、葉が大ぶりな種類が多い分だけ根も多く、鉢が大きいので、1回当たりに与える水の量は増えるでしょう。 大切なのはチマチマと回数を多く量は少なく与えるのではなく、しっかりと基本の水やりをすることです。そうしなければ鉢が大きいだけあって、主要な根がある深い部分はカラカラに乾燥し、表面だけ湿っている、という状態になって水やりとしての効果がありません。 水の適量「多肉植物/サボテン」の場合 somemeans/Shutterstock.com 種類ごとの差が大きいのですが、普通に販売されている「夏型(気温の高い夏に成長する)」の種類なら普通の草花並みの水やりでよく育ちます。一方で冬の休眠中は完全に水を切るものと、月に1〜2回は鉢の中ほどまで染み渡る程度の少量を与えるものとがあります。 さらに、リトープスやコノフィツムなどの球型メセン類は過剰な水で腐りやすいため、成長期の秋と春でも「鉢全体に水が染み渡る程度」の少量の水やりとします。しかも前回書いた通り、7〜10日に1回程度です。これらは休眠中に完全に水を切るとかえって日干しになるものもあるので、月に1回霧吹きで霧をかけるか、表土が湿る程度に水を与えます。 サボテンについては夏型の多肉植物同様ですが、これもまた種類によって差が大きいものです。普通に販売されている種類は神経質になる必要がないものばかりですが、最近人気の変わった形の種類には過剰な水分に弱いものがあるため、注意が必要です。 なお「多肉植物/サボテン」についてはできれば専門の栽培書を買って、水やりについてきちんと調べるのがよろしいです。 水の適量「水草・湿った場所に生える植物」の場合 Mazur Travel/Shutterstock.com これは単純で、常に湿った状態を保っておく必要があります。スイレンやハスであれば一定量の水位を保たねばなりません。 湿った場所を好む植物は、受け皿に水を張って、その中に鉢を置いて水をいつも溜めておきます。夏なら1日でなくなってしまうので、毎日水を補給する必要があります。 スイレンやハスは沈めてある鉢か泥の表面から深さ10cmもあれば十分です。あまり水が深すぎると水温が上がらず、特にハスは夏の暑さが必要なので生育に支障が出ます。そのため面倒臭くても、あまり深い容器に入れないでください。 水の与え方と時間帯 Irene_A/Shutterstock.com 意外と大事なのに、なぜか解説がほとんどなく、それゆえに初心者が失敗しがちなのが水の与え方です。 初めての方は「上から水をかければいいんじゃないの」とばかりに上から水をかけて、もろもろの失敗をきたします。もちろん上から水をかけても問題ない植物が大多数ですし、場合によってはそれが必要です。 しかし現代は、昔と違って取り扱いに少しばかりの慎重さが求められるような植物さえ量産されて安価に市場に出回るようになりました。その結果、腐ったり、表面の白粉が落ちてまだら模様になったりなど、上からザブザブ水をかけるとちょっと問題のある植物も含まれるわけです。以下に基本的な水の与え方を列記します。 水の与え方「根元に注ぐ」 lieber/Shutterstock.com ほとんどすべての植物で、この方法にすれば大きな問題はありません。最大の利点は確実に根に水が届くことです。上から水をかけていると、葉などに邪魔されて根元に水が流れていない、あるいは流れてはいても量が足りない、ということが少なくないからです。 水の与え方「夜に与える」 BigTunaOnline/Shutterstock.com 近頃インテリアとして人気のティランジアや蘭などの着生植物(木や岩の上にくっついて育つ植物)は夜に水を吸いやすくなる性質を持つものがあります。これらの種類では昼間に水を与えても効果的ではなく、傷んでしまうものすらあります。 これらの植物には夕方から夜間に、根を含めた株全体を湿らせるように水を与えると、十分に水を吸ってよい状態となります。 水の与え方「朝に与える」 Benoit Bruchez/Shutterstock.com 冬など気温の低い季節には夕方や夜間に水を与えると凍ってしまい、鉢が割れる・植物が凍害を受けるといった被害が生じる場合があります。 そのため寒い季節には朝のうちに水を与えて、夜には余分な水が残らないようにします。 水の与え方「水の温度」 science photo/Shutterstock.com 熱帯植物は低温に弱いものですが、それは水の温度でも同じです。特に根は葉や茎のように保護組織を持たないので、なおさら弱いのです。 そこで、冬など水温が低い季節には水を汲み置きし、室温と同程度にしておくか、お湯を加えてかき混ぜて20℃前後に調節します。特に高温を要求し水温を25〜30℃にする必要のある種類もあります。 熱帯植物は冷たい水をそのまま与えてはダメだと覚えておいてください。 水の与え方「上から水をかける場合」 Nattapol_Sritongcom/Shutterstock.com これは主に汚れや埃を洗い流す目的で行います。葉の表面は意外に汚れやすく、見た目が悪いばかりでなく、葉の裏にある気孔(空気を出し入れする穴)の働きを妨げるので植物の健康にもよくありません。 そこで、丸洗いするつもりで葉の表も裏もシャワーや散水機を使って洗い流してください。当たり前ですが屋外か浴室でやらないと大惨事になります。なお、汚れを取るといっても高圧洗浄機や洗剤などを使う必要はありません。 自然乾燥でかまいませんが、早く元の位置に戻したい場合は乾いた布やキッチンペーパーを使って拭き取ります。 水の与え方「上から水をかけてはいけない植物」 asharkyu/Shutterstock.com 上から水をかけるのがそもそもの失敗の元、というデリケートな植物もあります。これらは乾燥地帯の植物と高山植物です。 多肉植物には白粉や白い点、あるいは白い毛に覆われている種類があり、これが水をかぶると流れ落ちたり、カビたりして、植物の見た目が大変汚らしくなります。そうでなくてもカビなどに弱いので、濡れると感染の機会を増やすことになるのです。多肉植物は中がゼリーのような組織でできているので、感染するとあっという間に腐ります。 同様に西オーストラリアや南アフリカ・カリフォルニア・地中海地域の少雨地帯原産の植物も濡れると腐りやすくなるので、上からザブザブ水をかけるのはすすめられません。 高山植物は暑さに弱いため、上から水をかけられると根元などの湿り気が残りやすい部分が腐りやすくなるため、根元から少し離れた鉢の縁に沿って水を与えます。 水切れの際の手当て Jonathan Klassen/Shutterstock.com 水を切らして葉が垂れている・巻いている・チリチリになってしまった……。水切れは誰しもが一度は経験することです。思いがけない事故もあるので完全にゼロにすることはできません。 まずは触ると落ちる葉があれば振るって落とします。茎の皮を少し剥いでみて、緑色をして生気があるようなら助かる可能性がまだあります。中には全く水切れに耐えられない植物もあるので100%確実に、とはいえませんが、試す価値はあるという状態です。 同様に枯れ込んだ枝があれば取り除きます。不恰好になっても生きている部分や葉があれば、それは取らないでください。その後、水を与えて透明なビニール袋をかけて包みます。湿度を保って蒸散を抑えるためです。 受け皿に水を溜めてはいけません。水切れは根にもダメージが及んでおり、傷んだ根は過剰な水分に非常に弱くなっているからです。 その状態で明るい日陰(数値で表すならば50%カットぐらいの柔らかい光)に置きます。熱帯植物であれば生育適温にしてください。 1週間で茎に張りが戻り、生気を回復してきたらまずは一安心です。その後は葉が展開してきたら袋に穴を開け、1週間ほどかけて少しずつ穴を増やすか広げるかして、外気に慣らします。その後は種類に応じた適切な手入れを続けてください。 1カ月以上経ってなんの動きもないようなら、おそらくその植物は枯れています。枯れてしまった場合でも、失敗の原因を追求することは次の成功につながります。例えば忙しくて水をやれなかったのが原因なら、自動潅水機を導入するなど手の打ちようがあるからです。 水が過剰になった場合の手当て Stanislav71/Shutterstock.com 実は水切れよりもこちらの方が重症になりやすく、なおかつ打てる手が少ないという意味では難しいものです。 「多肉植物/サボテン」の場合は、まず助かりません。異変に気づいた時にはたいてい全身に腐敗が蔓延しているので、健康そうな部分を切って挿し木しても助けられないことが多いのです。 他の植物の場合はまず鉢から抜き、ボロ切れか古新聞紙で根鉢を包んで、砂を入れた植木鉢の上に載せます。倒れないように紐か何かで縛って支えてください。地上部は葉や枝をいくらか切り捨てて、負担を軽くしてあげます。それらがすんで1〜3日経って土が乾いてきたら、土を洗い流し、根の状態をチェックして傷んだ部分を切り捨てて、消毒します。切り口が大きい場合はそういう所に塗るための消毒薬がありますし、ない場合は硫黄か炭の粉末を塗ります。 その後、清潔な新しい用土を使って植え直します。鉢の大きさは小さくなるはずです。 もし挿し木が容易な種類であれば、株として助けるのは諦めて、挿し木で仕立て直すという方法もあります。しかし腐敗が内部組織に及んでいる場合があり、通常の挿し木よりも成功率が低くなりがちなのは覚悟してください。 いずれにしても「根の腐敗+感染症」を引き起こしているために確実に助けられるものではなく、基本的にかなり厳しい状況だと考えてください。
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育て方
鉢栽培での水やりのタイミングとは? 超初心者向け講座4
植物を育てる時に大事な「水やり」 Rawpixel.com/Shutterstock.com 植物を育てるうえで一番多いミスは何か?と聞かれれば、私は迷うことなく「水やり!」と答えるでしょう。俗に「水やり3年」などといいます。しかし実際のところ、私は園芸歴30年近くなっても水やりは難しいと感じます。ましてや初心者の方が失敗するのも無理はなく、そこを責めるのは酷であります。 対象とする植物によって水の失敗の内容は違っていても、全然失敗したことがない! という人はたぶんいないでしょう。 では水やりはいつ、どのくらい与えればよいのでしょうか? 「水やりについて考える」前編は「水を与えるタイミング」について説明します。 植物にとって水とは何か? LedyX/Shutterstock.com 植物にとって水は生命システムを維持するのに不可欠な物質です。エネルギー固定(光合成)のために必須のものであり、体を支えるためにも使っています。ですから植物は水がないと文字通り生きていくことができません。 ●詳しくは『植物が必要とする4つのものって何? 超初心者向け講座1』をご覧ください。 水を与えるタイミング FabrikaSimf/Shutterstock.com 植物に水をいつ与えたらよいのか分からずに、毎日水やりしていたら腐らせてしまった……。その逆でまだ大丈夫と思っていたら乾ききって日干しになった……。という経験をお持ちの方はいらっしゃると思います。適切な水やりのタイミングを掴むのはじつはプロでも悩みます。ですから初心者にいきなり理解しましょう! というのは無茶な注文です。 とはいえ、いずれは水をやらねば日干しになるだけです。そこで、これから説明する一般論を基本として覚えていただき、これに状況を加味して加減を考えいけば飲み込みが早いと思います。 水やりの一般論【一般的な植物の場合】 Elena Zajchikova/Shutterstock.com ほとんどの草花・花木・樹木・野菜を鉢で育てている場合は「土の表面が乾いたら」が水を与えるタイミングの一つの目安になります。 水やりの一般論【熱帯植物(観葉植物)】 AustralianCamera/Shutterstock.com 土の表面が乾いたら、萎れていない限りもう1日待ってから水を与えます。ただし夏なら毎日与えても大丈夫です。冬は表面の土が乾いてから2〜3日待ってから与えます。 水やりの一般論【多肉植物/サボテン】 ABO PHOTOGRAPHY/Shutterstock.com 種類による差がすごく大きいグループなのですが、基本的に表面の土が乾いたら3〜4日待ってからの水やりで十分です。7〜10日に1回程度でも大丈夫です。 一般的に成長期間中は基本の通りに与えれば、普通に販売されているような種類なら過剰ということはないでしょう。ただし、メセン類などは過剰な水分にひどく弱いので成長期でも月に3回ぐらい、休眠期なら月に1〜2回霧を拭くか、湿る程度に月に1回少量の水を与える程度で十分です。 近年人気のコーデックスと呼ばれるものの中でも、大きな葉を持ち成長が比較的早いアデニウムやヤトロファは熱帯植物並みの水管理をします。これらは冬に5℃以上の温度が保てないなら逆に水を与えずに乾燥させます。 水やりの一般論【水草・湿った場所に生える植物】 Moolkum/Shutterstock.com 何をいわんやという感じではありますが、これらは決して乾燥させてはいけません。水がなくなった時が終わりです。毎日水を与えて湿った状態を保ちます。夏は受け皿に水を溜めて、その中に鉢を入れておきます。 水やりのタイミングに与える影響の強い要素 1.気象 24Novembers/Shutterstock.com 晴天・風が強い・空気が乾燥している・気温が高い、といった要素は土の乾燥を促します。その逆は湿った状態を持続させます。室内では風は弱いのですが、気温が高めで空気も乾燥しているので乾きやすいといえます。 2.1鉢当たりの植物の量 Hajjar.Photography/Shutterstock.com たくさんの植物が植わっていれば水を多く吸いますから、乾きやすくなります。株数は少なくとも鉢の大きさに対して葉の量の多い植物・大きい植物が植わっていれば、同様の結果となります。 3.鉢の材質・大きさ Picsfive/Shutterstock.com プラスチック鉢・ビニールポットは水を通さないので乾きにくくなります。逆に素焼きやテラコッタの植木鉢は吸取り紙のように土の水を吸うので湿りすぎになりにくい反面、とても乾きやすくなります。また大きい鉢は乾きにくく、小さい鉢は乾きやすくなります。 4.土の質・種類 Srisuddee Nuttapol/Shutterstock.com 砂系の土やパーライト・軽石が使われた土は乾きやすく、ピートモスや重い粘土質の土は乾きにくいものです。また、粒が大きく粗い土は水を保ちにくく、逆に細かな土や肉眼では粒の大きさが認識できない粘土のような土は水を保つ力が大きくなります。 水やりのタイミングは状況把握から Galina Grebenyuk/Shutterstock.com 植物の種類とそれを取り巻く諸要素を勘案して、水やりのタイミングを計ってください。 例えば同じ植物を同じ量だけ植えてあっても 例1)晴れ・風が強い・小さめの鉢・テラコッタ鉢・パーライトを加えて乾きやすくした土例2)雨・風が弱い・大きめの鉢・プラスチック鉢・草花用の重い土 この2つを見比べたら、土の乾き加減が違うわけです。例1は乾きやすいため毎日水をあげてもよいでしょうし、例2なら、その日は水をあげなくてもよいでしょう。
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育て方
植え替えはなぜ必要? 【後編】超初心者向け講座3
根の環境を改善する解決方法「植え替え」とは ddisq/Shutterstock.com 前回もお話しした通り、植え替えは鉢栽培では必要不可欠な作業。その主な目的は、植え替えによって土を新しく入れ替え、あるいは鉢を大きくすることです。これによってミネラルを補給し、根が成長する場所を確保し、老廃物や有害な微生物を捨て去ります。また同時に根の健康チェックをお行い、絡み合っている根をほぐしたり、悪いところは切り捨てます。 このようにすることで、土の劣化や根の障害を取り除きます。この一連の手入れが「植え替え」なのです。植物の地上部に手入れが必要なように、普段は見えない地下の部分も手入れが必要なのです。 知っておきたい! 植え替え10の用語 園芸の本を読むと、広い意味での植え替えを示すいくつかの用語・関係する用語が説明も無いまま使われていて、戸惑う方も多いのではないでしょうか。 ここでは代表的ないくつかの用語を示して説明しておきます。 【移植】いしょく植物を現在植えてある場所・鉢などから掘り上げて移すことです。健全に成長するよう適切に扱うことを意味に含むので、雑に引っこ抜いて雑に根を埋めただけの場合は、移植とは呼びません。【鉢上げ】はちあげタネ播き・挿し木をした苗床から、個別の植木鉢に移植することです。【鉢増し】はちまし植えてある現在の鉢より大きい鉢に移植することです。【定植】ていしょく苗床や養成用の鉢から、ずっと植えておく場所、あるいは最終的な仕上がりサイズの鉢に植えることです。【根鉢】ねばち根と一体化した土の塊です。鉢植えなら鉢の形のまま抜けます。【植え傷み】うえいたみ移植や植え替え作業時のの傷、または養生の不足でダメージを受けることです。【ルーピング】鉢植えの植物の根が鉢の底で円を描くように伸びていること。ほぐすと根はスプリング状になっていて機能を十分に発揮できません。【剪根】せんこん根の剪定です。不要な根を除去し、新しい根を発生させて活力ある状態にすること。植物の生育向上を狙い、鉢植えの場合には鉢の大きさのコントロールのために行います。【鉢底石】はちぞこいし水が底に溜まるのを防ぎ、水はけがよくなる…とされていますが、効果のほどは不明。小さい鉢の場合は逆効果という説もあります。筆者は効果を感じないので入れない派です。【鉢底網】はちぞこあみ日本製の植木鉢は水はけをよくするために底の穴が大きく、土がこぼれてしまうので、それを防ぎつつ水はけを確保するために鉢底網が使われます。腐らない素材の網であればなんでもよく、網戸用のものでも構いません。 植え替えに必要な道具 alexkich/Shutterstock.com ★印は絶対に必要なもの、☆は、あれば便利だけれど必須ではないものです。 【植木鉢】★地面に植えるなら要りませんが、鉢植えにするなら必要です。【用土】★地面に植える場合でも鉢植えでも、適切な用土が必要です。植物の性質や目的に応じて使い分けます。【鉢底網】☆鉢植えにする場合、大きめの鉢なら必要です。【鉢底石】☆あってもなくてもいいので、入れたい方は用意してください。【移植ゴテ】★作業効率がよくなります。一体成形のステンレス製が、丈夫で錆びず洗いやすいので最もよろしい。【土入れ】☆あってもなくても構いませんが、あまり手を汚したくない方は買ってください。移植ゴテがあれば、それで足りるので必要ありません。【棒】★根鉢をほぐしたり、用土を押して詰めたりと意外に重要。使わなくなった竹製の割り箸や菜箸などがよいでしょう。【ピンセット】☆役目は棒と同様ですから、どちらか片方あればよいです。【支柱/紐】☆植えた後の植物を固定するためのもの。植物に添えたり、鉢に縛り付けて根付くまで固定します。【シート】☆地面や机に敷いて作業するためのものです。室内で作業するなら必須。外であっても後片付けが格段に楽になります。【軍手】☆どうしてもひどく手が汚れますから、あると便利です。肌の弱い方は必ずお使いください。 植え替えの適期はいつ? 『植えてある植物が成長を始める直前』が植え替えの最適期です。植え替えはどうしても根が傷むので、その間にダメージを受けて植え傷みしてしまいます。しかし、植え替えをして、その後に成長が始まればすぐに回復を始めますから、植え傷みを最小限、あるいはほぼ無しにできます。 植物の成長に合わせる Irantzu Arbaizagoitia/Shutterstock.com 多くの植物の成長は春か秋に始まりますから、植え替えの適期は春の少し前である冬の終わり頃か早春、あるいは夏の終わり頃から秋の初めになります。 熱帯植物のように根の成長にある程度の高い温度が必要な植物は、気温が十分に上がった5月下旬〜7月に行います。もちろん温室などがあって一年中温度を高く保てるならばいつでもよく、植物の状態に合わせて行います。 季節とは関係なく植え替える場合 Stanislav71/Shutterstock.com 季節とは関係なしに植え替える場合もあります。水を与えても萎れている、肥料を与えて2週間以上過ぎても葉の色に改善が見られない、または、新しい葉が小さくなっていく、などの症状がある場合は、根に重大な障害がある可能性が高いです。このような場合は直ちに抜いて根のチェックをおこない、障害が認められたら植え替えます。 根が枯れたり腐っている部分を切り捨て、必要であれば水洗いや消毒をして新しい清潔な用土を使って植えます。もちろん適期に行うより好結果とはなりづらいのですが、すでに悪い状態になっているのだし、根の障害を放置すればより悪い結果を招く(枯れる)ので、あえて行うわけです。 根のリフレッシュ Stanislav71/Shutterstock.com 根は先端のほうに水やミネラルを吸収する組織があり、その後ろは体を支える建物の基礎のような役割(支持組織)となっています。支持組織とはいっても生きていますから、年月が経てば支持組織ばかりになって、生かしておくコストが多大な負荷になります。 また鉢植えでは空間が限られているので、根がぶつかり合い、水やミネラルを奪い合う形となってしまいます。これは非常に非効率的です。植え替えでは、長すぎる根や込み合った根を切り捨てたり整理して、吸収組織の多い活力ある根をつくるのを目的とします。 長い根を切り詰める Robert Przybysz/Shutterstock.com 植え替えで根鉢を崩したりすると、長い根がビローンと垂れ下がるのが観察できます。あるいは底の方でルーピングした根があったりもします。このような場合は、根を元の長さの半分か1/3ほど残して切り詰め、ルーピングしている根があれば、その部分を切り捨てます。 特にそのようなことはなくても、根鉢全体に根が張って硬くなっている場合は、根鉢の底から1/4〜1/3を鋏やナイフ、包丁などで切り捨てます。同様に側面も崩してほぐしておきます。 このようにすることで古い根は整理され、再生した根が支障なく新しい土に馴染み、成長できるようになるのです。 根の扱いで気をつける点 Evgeniy Zhukov/Shutterstock.com 注意しなければならないのは、根に触られるのを嫌がる植物があることです。そのような植物は、根詰まりになる前に鉢増し・定植して、根を切ったり傷めたりしないように注意が必要です。具体的には、鉢から抜いたらいじらず触らず、右から左に鉢増しするか移植します。それすら嫌がる植物は、最初から植えたい場所にタネを播く(直播き/じかまき)か、そこに挿し木をします。 根に触られるのを嫌がる植物の例 Riccardo Arata/Shutterstock.com なかなかその見極めは難しいのですが、ゴボウやニンジンのような真っ直ぐに伸びる根(直根/ちょっこん)がある植物、あるいはカキの木のように、もろい少数の根があるだけの植物、それとムラサキ科とマメ科の植物は、一般的に移植を嫌います。 また、老木は再生能力が衰えていることと、その大きさに見合った根が出るのに時間がかかるため、経験を積んだ専門家でも十分な準備期間(数年間)がなければ失敗してしまいます。 他にも、春咲きの植物には早春に根をいじると成長が悪くなったり、芽が出てこないことが稀にあります。春咲きの植物は、できれば秋のうちに植え付けておくのが安全だといえます。 植え替え作業が終わったら Gyuszko-Photo/Shutterstock.com 最後にジョウロで静かに水を与えて土を落ち着かせたら、一連の作業は終了です。多肉植物やサボテンのような腐りやすい植物は、根が出てくる7〜10日後に水を与えます。 慣れるまでは手間取ったり、しくじったりしますが、それはどんな名人でも辿っている道ですから気にしないでください。やっているうちに数をこなして慣れていくものです。
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育て方
植え替えはなぜ必要? 【前編】超初心者向け講座2
植物で一番大切な部分はどこでしょう? ananas/Shutterstock.com 例外も多いのですが、『根』である場合が多いでしょう。 『根こそぎにする』『根絶やしにする』といった慣用句があるのも、根が残っていればなんとか再生してくるものという感覚があるからでしょうし、仏教に似た教義を持つインドの宗教・ジャイナ教が、徹底した殺生を禁じる戒律のため植物の根を食べるのを禁じているのも、やはり似たような背景でしょう。 それぐらい、根は大事なのです。 植物の根に関わる作業「植え替え」は、とても重要な内容なので、前編と後編に渡ってじっくり解説します。前編のテーマは、『植え替えされていない土の中では何が起きているのか?』です。 植えたままではどうなる? 4つの理由 1. 無くなる土の中の栄養分 Petrychenko Anton/Shutterstock.com 根は植物の吸収器官で、生きるのに必要な水やミネラルを周囲から探して吸収します。「吸収する」ということは、つまり根の周辺からは必要な物質は無くなっていくということです。ですから根は常に、水やミネラルを求めて成長しながら前進しています。これは、その植物が枯れる時まで止まりません。 ということは、鉢植えなどの土の量が限られている場合は、いずれ必要な水もミネラルも尽きてしまうわけです。水は簡単に補給できますが、ミネラルはそうはいきません。水を与える度に、わずかですが無駄に流れ出てしまうし、肥料で補給できるミネラルはごく一部に過ぎません。いつの日か、土の中にある植物に必須な栄養素であるミネラルが無くなるのは避けられないのです。 2. 根の成長により居場所が無くなる Stephen Farhall/Shutterstock.com 根は植物の一生を通じて成長しますから、年月が経てば経つほど大きく、長くなります。地植えならば植物の根を妨げるものはあまりありませんが、鉢植えでは限られた空間しかないので、やがて中は成長した根でいっぱいになってしまいます。「根詰まり」という状態です。 そうなると水や空気の入るスペースまで埋め尽くし、さらに根はお互いにミネラルと水分を奪い合って十分な量を吸収できなくなります。また植物の組織の中で根だけは呼吸のみしていますが、その呼吸に必要な酸素も足りなくなるので、根が枯れていき、その根に支えられていた地上部も合わせて枯れていくのです。 3. 溜まってゆく老廃物と増える有害な微生物 WillemijnB/Shutterstock.com 植物の種類にもよりますが、多くの植物は根からさまざまな化学物質を出してミネラルを吸収しやすくしたり、周辺の邪魔者(他の植物の根など)を攻撃したりしています。 このような物質は土の中に溜まっていって、植物自身が暮らすのに不都合な状況になっていきます。ときには攻撃に使っていた物質に自分が毒されてしまう場合すらあります。 また、土の中にはさまざまな微生物が数知れぬほど棲んでいますが、年月が経つうちに次第に偏って、植えてある植物を害する病原菌といわれるようなものが増えていきます。 4. それ以前の問題 Ekaterina Podzigoun/Shutterstock.com 土の劣化や植物自身の成長の結果のほか、厄介なことに、まず買ってきた時に植わっている土の問題があります。 現代の日本の花生産の技術レベルは高く、生産設備も整っています。そのため、一般家庭など消費者の栽培環境との差が大きくなってしまっているのです。 生産農家は生業ですから、なるべく手間をかけずに、なるべく早く高品質なものに育てて売ろうとします。その結果として、用土に家庭園芸で使うには水もちが良すぎるものが使われていることもあります。これをそのままにすると、根腐れなど重大な支障につながる場合があります。 Valentyn Volkov/Shutterstock.com また狭い面積でなるべくたくさん育てるために、小さめの鉢で育てます。そのため根詰まりしやすい点もあります。これらを放置すると、たちまちのうちに根は悪い環境に囲まれる結果となるのです。 鉢の中の根が成長する過程で起きる事象を解説しました。これを受けて、次回は具体的な植え替えの方法についてご説明します。
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育て方
植物が必要とする4つのものって何? 超初心者向け講座1
植物の生命維持に必要なものは4つ MilaLiu/Shutterstock.com 植物は生物です。置物ではありません。生物と置物は一字違いですが大違いです。片や命あるもの、もう片方は命の無いものです。 植物は生物なので、生命を維持するために必要なものがあります。それは、次の4つです。 水光空気ミネラル 幸いなことに、どれもだいたいタダか、安価に用意できます。なぜ必要なのかを一つずつご説明しましょう。 1. 水 CK Foto/Shutterstock.com 水が必要ない生物は、今のところ地球上では知られていません。ものすごく少なくても生きていける生物は存在しますが、0(ゼロ)、まったく無しで生きていけるのは、近・現代的な生物学が始まって以来、280年あまり経った今でも見つかっていません。それぐらい水は生物にとって欠かせないものです。 植物にとって、水には2つの働きがあります。 A:生命を維持するためのシステムを働かせる溶媒 B:エネルギーを得るための素材 Aはすべての生物に共通のものです。生物を構成する細胞は、すべて水に溶けた物質をやり取りして生命を維持しています。動物でも植物でも人間でも、また一番原始的な細菌でも同じです。生命維持に必要なものが液体の水に溶けているから、生命を維持できるのです。 Bは植物の最大の特徴でもある性質で、光エネルギーを使って水を構成している酸素と水素に分解します。そして分解でできたエネルギーを使いまわして他の必要な物質を作ります。これが【光合成】というものです。ですから、水が無いと始まりません。 La Gorda/shutterstock.com 砂漠に生きる植物がごく限られるのも水が少ないせいですし、南極に植物がほぼ無いのも、大量の水はあっても、雪や氷の形なので利用できないからです。 2. 光 Quality Stock Arts/Shutterstock.com エネルギーを自分で作る生物はいません。エネルギーの出所を辿ってゆくと必ず太陽か地球に行き着きます。太陽の発する光や熱、あるいは地球の発する熱が出所です。圧倒的大多数は、太陽の発する光に由来するエネルギーが大部分です。私たちが目にする生物は、まずそうだと思って間違いありません。 植物は光を受け止めて、緑色のもとである葉緑素の入った細胞内の器官・葉緑体で水を光によって分解しますが、まず光が無いとこれが動きません。要は、電気製品を動かす電気みたいなものと思っておけばよいでしょう。 Sakurra/Shutterstock.com 必要な電力が無いと電気製品は十分に動かないように、光が不十分だと植物は生きていけません。植物は光エネルギーの大部分を水の分解に使うのですが、他の反応にも光を使う・光によって反応が効率よく進むものがあります。 必要な光の強さは植物の種類によって異なり、真夏の直射日光が好きな植物もあれば、わずかな光で生きていける植物もあります。 3. 空気 Vibrant Image Studio/Shutterstock.com 空気、すなわち地球の大気です。さまざまな気体成分が含まれていますが、植物にとって重要なのは、二酸化炭素と酸素です。 植物は空気の中の二酸化炭素を吸って葉緑体で分解し、さまざまな糖質を作ります。これを素材にエネルギー物質(でん粉)として溜め込んだり(イモやイネの食べる部分はこうして溜め込まれたでん粉です)、身体の材料(いわゆる植物繊維など)にしますが、その素材の大元をたどれば、空気に含まれる二酸化炭素です。 Orange Deer studio/Shutterstock.com ですから空気の中から二酸化炭素が無くなると、植物は生きてゆけません。逆にたくさんあると、盛んに光合成をおこなって成長します。 また、植物も呼吸、すなわち動物と同じように、酸素を吸ってブドウ糖を分解し、水と二酸化炭素に変えてエネルギーを得ています。昼間は光合成によって生じる酸素を使って自己完結しているのですが、夜など光が無くなると光合成できないので、呼吸だけになり、酸素を消費します。 TairA/Shutterstock.com 部屋の換気は人間の健康維持に必要ですが、締め切られた部屋では昼間は二酸化炭素の濃度が下がってゆき、同様に夜は酸素濃度が下がってゆくので、植物にとっても適度な換気と新鮮な空気は必要なのです。 4.ミネラル J. Helgason/shutterstock.com 植物は光を使って水と二酸化炭素から糖質を作れますから、いうならば光と水と二酸化炭素がご飯です。 ですが、人間がご飯だけでは生きていけないように、植物も光と水と二酸化炭素だけでは生きてはいけますが成長も繁殖もできません。そのうち老化もするので、これだけではジリ貧です。 kirpmun/Shutterstock.com 植物が健康に生きてゆくためには、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に含まれる炭素C・水素H・酸素O以外にも14種類のミネラルが必要です。 それは、チッ素N・リン酸P・カリウムK・カルシウムCa・マグネシウムMg・硫黄S・鉄Fe・銅Cu・マンガンMn・亜鉛Zn・モリブデンMo・ホウ素B・塩素Cl・ニッケルNiです。 wk1003mike/Shutterstock.com これらが土に適量含まれているので、植物は健全に生きてゆけるのです。 しかし、それらの中でも、チッ素・リン酸・カリウム・カルシウム・マグネシウムは大量に必要で、自然界にある分だけでは足りません。そこで、肥料として与えます。 これらのミネラルはどういった働きをしているかというと、体をつくるタンパク質の原材料になったり、新陳代謝などの体の働きを整えたり、エネルギーの働きに関わるものなど、さまざまです。とても複雑なので、今でも完全には分かっていません。 Number One/Shutterstock.com これらが足りない環境に長年(何万年〜何十万年も)暮らさざるを得なかった植物の中には、食虫植物のように虫を食べたり、アリに巣穴を提供して共生している奇妙奇天烈な形に進化したものもあります。 そのような植物は虫をエネルギー源にしているのではなく、土が無い、あるいは土にミネラルが極端に少ないので、それを補うために虫を捕まえたり、アリに運んできてもらうのです。 植物が必要とする4つのもの【まとめ】 水が必要な理由: 生命システムを動かすのに必要不可欠エネルギー源にする 光が必要な理由: そもそも光エネルギーで生命システムを動かしているので、無いと生きていけない 空気が必要な理由: 空気の中の二酸化炭素がご飯のもと。二酸化炭素が無いとエネルギーを貯蔵もできず、成長もできない ミネラルが必要な理由: 植物の身体の材料であり、身体の働きを整えたり、エネルギーを働かせたりするのに必要不可欠 きわめて大雑把ですが、まずは植物に必要なものと原理を頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
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家庭菜園
ガーデニングでハーブを育てる!初心者にも簡単な種類&育て方の注意点
便利で簡単に育つキッチンハーブの育て方のポイント キッチンハーブは料理への使用頻度が高く、鉢植えで栽培可能です。 いずれの種類も特記がない限り日向で育てています。 土は普通の草花用の培養土でOKです。 今回ご紹介のものは葉を使う種類なので、肥料はIB窒素肥料など窒素を中心に含んだものを使用しています。 厄介な病害虫の防除ですが、家庭で育てる量なら防虫網を被せておけば無益な殺生をしないで済みますし、無農薬で手間がかかりません。 3号ポット(直径9cm)で、いずれも1苗98〜300円程度です。 タネは一袋100〜200円程度です。鉢植えで育てる場合、一袋全量は多すぎるので、数回に分けて複数の鉢に播くか、友達と分けて使いましょう。 ハーブを育てるのに必要なもの ハーブ苗 植木鉢 栽培するハーブによって成長が異なるので、適した大きさを選びましょう。以下、それぞれのハーブの紹介文に記載してあります。 草花用の培養土 窒素肥料(IB窒素肥料など) 防虫網 その他、ジョウロ、園芸用手袋 *苗を含めた経費概算(上記を全て購入する場合)/約2,500円〜 *全てホームセンターや園芸店で入手できます。 おすすめの初心者用ハーブ5種 日向で味が濃くなる「パセリ」 <Data> 科・属/セリ科・オランダミツバ属 学名/Petroselinum crispum 草丈/20〜30cm 栽培適期(収穫期)/一年中(地域によっては4〜10月) 植え込み株数目安/7号鉢(直径21cm)に2株 飾ってよし・刻んでかけてよし・煮込み系の料理によしの万能選手です。洋食系の料理ならパセリを入れるだけで風味がよくなります。日本では飾りに使われた後は生ゴミにされてしまいがちなパセリですが、栄養価も高く大変もったいないです。 葉っぱがチリチリしたカーリーパセリ(日本で普通に売っているパセリがこれ)と、イタリアンパセリと呼ばれるセリのような姿のものと2種ありますが、収穫量の多いカーリーパセリが見た目も面白くてオススメです。 <育て方のポイント> タネを播いても育ちますが、お店でポット苗を買ってきて植えたほうが早いです。移植を嫌う傾向があるので、鉢は少し大きめを選びます。7号鉢(直径21cm)で2ポットぐらいがちょうどよいでしょう。 パセリは水切れにやや弱いので、表土が乾いていたらしっかり水を与えます。少し日除けをしなさいと書いてある本が多いのですが、日当たりのよいほうが味も濃く香りも強くなります。少しかたくなりますが、気にするほどではないと思います。 害虫はキアゲハ。育ててみるのも楽しいかもです。パセリは丸坊主になりますけど。 2. 苗は八百屋で買うべし「小ネギ」 <Data> 科・属/ネギ科・ネギ属 学名/Allium fistulosum 草丈/30〜40cm 栽培適期(収穫期)/一年中(地域によっては4〜10月) 植え込み株数目安/長さ1mの横長プランターに3束ほど パック入りの味噌汁でもインスタントラーメンでも自家栽培の小ネギを刻んで入れるだけで格段に美味しくなります。利用範囲の広さから、小ネギは和風・アジア系ハーブの中で最重要クラスだとみて間違いないでしょう。成長が速く、一年中収穫できる点でもコスパは最高です。 <育て方のポイント> 苗ですが、八百屋さんで売っている100円くらいの根付き小ネギを使います。根元を少し長め(7cmくらい)に残しておき、プランターに植えます。ホームセンターでも苗を売っていますが、取扱期間が限られる上に数が多すぎるので、一年中確実に置いてあって量がほどほどの八百屋で入手するほうが便利です。根深ネギは土寄せなどの手間がかかるので、家庭で栽培するより八百屋でプロの完成品を買ったほうが手軽で安いです。 我が家はしょっちゅう何かしらの料理でネギを使いますが、長さ1mくらいのプランターに3束分くらいのネギを植えておけば、ローテーションで収穫してちょうどよい塩梅です。年に一度、春か秋に植え替えます。 害虫としてネギコガがいます。小さい上に葉の中に入るので気づきにくいのですが、せっせと収穫するせいか、被害は大きくなりません。 初夏から晩秋まで毎日摘める「バジル」 <Data> 科・属/シソ科・メボウキ属 学名/Ocimum basilicum 草丈/40〜60cm 栽培適期(収穫期)/7〜10月 植え込み株数目安/10号(直径30cm)〜12号(直径36cm)の鉢に3株ぐらい パンにチーズと挟んでよし、ピザにのせてよし、サラダに混ぜてよし、ジェノベーゼソースにしてよしと、これも洋食系には使い勝手のよいハーブです。 夏の間、他のハーブ類が暑さでお疲れ気味でも、アジアの熱帯原産のバジルは元気。ものすごくよく育つので、毎日のように摘んでも大丈夫です。 <育て方のポイント> いろいろな栽培品種がありますが、私が育てているのは普通のスイートバジルです。成長に必要な温度が高めなので、慌てて植える必要はありません。6月に入って、梅雨明けしてからでも十分です。 買ってきた苗はポット内に5〜6本入っていると思うので、1〜2本を残して他は根元から切ります。残すのは一番大きい株です。 切った株は使っても構いませんが、切り口をカッターナイフで少し(3〜5ミリ)切り戻してコップに挿して日向に置きます。そうすれば1週間後ぐらいには根が出て新しい苗になります。これは3号(直径9cm)のビニールポットに植えて水を与え、すぐに日向に置きます。遅くとも3日後には根付いています。 バジルは成長がとても速いので、10号(直径30cm)〜12号(直径36cm)の鉢に3株ぐらいにします。ちょっと面倒ですが、私は7号鉢に3本植えてから2週間後を目安に10号鉢にそっくり植え替えています。根を鉢内にくまなく行き渡らせるためです。 成長が速い分、水も肥料も多めに要ります。葉が黄色っぽいと思ったら、肥料切れですから補給してください。 秋が近づいて成長が止まったら株ごと収穫します。花や若い穂も使えますから捨てないでください。 害虫はオンブバッタ以外経験したことはありません。 明るい日陰を好む「ミツバ」 <Data> 科・属/セリ科・ミツバ属 学名/Cryptotaenia canadensis subsp. japonica 草丈/20〜40cm 栽培適期(収穫期)/3〜7月 植え込み株数目安/7〜8号(直径24cmくらい)の鉢にタネ播き お吸い物は欲しいが面倒くさい時や、香味のよい和風の野菜が欲しい時にミツバがあればなんとでもなります。お椀に昆布だしと刻んだミツバとお麩を入れて熱湯を注げばサマになります。 私はミツバを育てているというか、今住んでいる家に生えていたのを維持している感じです。庭の花木や宿根草の根元など、そこかしこに生えてくるものを適宜間引いてちょうど良い量にしています。 <育て方のポイント> ミツバはもともと森林内の少し湿った場所に生えている植物なので、明るい日陰で、いつもある程度湿っている場所でよく育ちます。そのため北向きの庭てホトトギスなどと一緒によく育っています。見栄えを考えるならムラサキミツバ(f. atropurpurea) のほうがよいかもしれません。海外ではシェードガーデン素材として普及しているぐらいですから。 パセリ同様に移植を嫌うので、鉢にタネを直播きします。パセリよりやや大きく育ちますが、葉の数は少ないので、7〜8号鉢(直径24cmくらい)でよいでしょう。間引きながら4〜5株にします。いっぺんに収穫するより、使う時に使う分だけ採ったほうがいいと思います。 害虫にはパセリ同様、キアゲハが来ます。 必ず鉢植えで育てよう! 「ミント」 <Data> 科・属/シソ科・ハッカ属 学名/Mentha spp. 草丈/30〜100cm 栽培適期(収穫期)/3〜11月 植え込み株数目安/5号(直径15cm)〜7号(直径21cm)の鉢に1株 夏にはサッパリとしたミント水を作ります。また、若い枝葉を一つかみ摘んで、たっぷりの砂糖と一緒に熱湯を注いで作るモロッコ風のミントティーもいいものです。 <育て方のポイント> 種類はいろいろありますが、実用を重んじるならスペアミント系とアップルミント系の栽培品種がオススメです。 ミント類は『生物兵器』といわれるぐらいの爆発的な繁殖力がありますから、これを地面に植えるのは自殺行為です。確実に地獄を見ます。経験者が言うのですから間違いありません。ミント類は必ず鉢植えにしてください。下がコンクリートかアスファルト舗装の場所でない限り、鉢を直置きするのは地植えと同じことになりますから注意してください。 さりとて小さな鉢では使うほどの量が収穫できないし、もともと水辺の湿った草地に生える植物ですから、すぐに水切れして枯らす不首尾となります。ミントを植えるなら、せめて5〜7号鉢に植えてください。 成長が旺盛なので、毎年早春に植え替えをします。地下茎は長いのですが、鉢に収まるように切ったり折ったり曲げたりしても問題ありません。 水切れだけはまったく耐えられないので、夏は受け皿に水を溜めてその中に置いておきます。水は一日で無くなるので、朝夕の補給を忘れずに。 害虫はオンブバッタやコナガなど。成長が旺盛なので、被害がひどければ根元から刈り取り再生させたほうが早いし、それができるのがミント類のよいところです。 Photo/1)Stock Rocket/ 2) Sentelia/ 3) GoodMood Photo/ 4) Polina Prokofieva/ 5) Iva Vagnerova/ 6) samatcha Benjakanjana/ 7) karinrin/Shutterstock.com