にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
二宮孝嗣 -造園芸家-
にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
二宮孝嗣 -造園芸家-の記事
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ストーリー
洋の東西を問わず庭好きな人は?【世界のガーデンを探る27】
世界で庭好きな国民は2国民!? いよいよ「世界のガーデンを探る」旅もこれで終着地となりました。これまで、メソポタミアから始まってヨーロッパからアセアニアまで連綿と続く西洋庭園の大きな流れである世界の西洋庭園の歴史を私なりに綴ってきましたが、いかがだったでしょうか? いわゆる教科書に載っているガーデン論とは違い、造園芸家である自身の経験と断片的な知識を駆使して、僕なりに解釈してお伝えしてきたつもりです。 世界で庭好きな国民といえば、西洋ではイギリス人、東洋では日本人、その2国民しか私には思い当たりません。例えばニュージーランドとかオーストラリアはどうなのかといいますと、どちらもイギリス人がつくった国です。では何故イギリス人と日本人だけなのでしょうか? 今までヨーロッパの庭の変遷を僕なりの視点で見てきましたが、大きな流れとして、西アジアのメソポタミアからイングリッシュガーデンまで、数千年の時間の中で富とともに現代まで移り変わってきた西洋庭園の形としてあげられるのは、フォーマルガーデンとコテージガーデンです。 一方では、日本の歴史とともに変遷してきた日本庭園、全く違う両極端な2つの庭を今回は比較してみようと思います。 イギリスと日本の両極端な2つの庭 まずはじめに、イギリスと日本の共通点と相違点について考えたいと思います。 共通点としては、2国とも島国であることです。そんなの当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、これは大変大きな意味があります。なぜかといえば、両国とも国境がなかったということです。地続きで隣の国と接していないことで、土地に対する不安感がないのです。それ故にイギリスでの個人の土地の所有に対する考え方は、フランスなどの大陸の国々とは全く違います。 イギリスも日本も土地は個人所有が当たり前ですが、ヨーロッパ大陸においては、土地の個人所有という感覚はなく、近代以前までは土地は領主のものであり、その庇護の下で領民は小作として暮らしていました。ヨーロッパ大陸では長く戦乱が続いていたので、朝、城門を出て周りの農地で仕事をし、夕方には安全な城門の中に帰るという暮らしでした。そこには個人所有の農地はなく、庭をつくる余地も余裕もありませんでした。 一方イギリスでは、ローマ帝国の支配以降、ドーバー海峡があったおかげで、ヨーロッパのように異民族が攻めてくるようなことはありませんでした。かのナポレオンやヒトラーでさえ、この海峡を渡ることはできませんでした。産業革命以降7つの海を支配し、世界中の富を集めたイギリスには、社会に大きな余裕ができたのです。そのゆとりがあってこそ、現代まで続く庭を楽しむ文化が生まれたのでしょう。 フランスで庭づくり文化が育たなかった理由 一方、植民地時代にフランスでも大きな富が流れ込んできました。フランスでは先ほど述べたように、個人の庭付き住宅に住むという感覚は乏しかったので、そのゆとりが絵画など芸術のほうに舵を切ったのではないでしょうか? 日本における庭の考え方 では、日本ではどうだったのでしょうか? ここから少し日本庭園のことについてお話ししましょう。 日本は世界で唯一、他民族からの支配が一度もなく日本人だけで国を維持、発展してきました。もっといえば、一つの民族、一つの言語。こんな国は世界中どこにもありません。そのおかげで、独自の文化が幾度となく花開きました。 飛鳥時代に仏教が伝来し、日本古来の神道に仏教、それに中国の道教の思想も加わって、自然崇拝をベースにした、他に類を見ない独自の文化が発展しました。その中で庭の文化も育まれていきました。特に禅思想とのコラボレーションには目を見張るものがあります。 極楽浄土は黄金の世界で、そこに阿弥陀如来の世界があります。極楽浄土(西方浄土)は川を渡った向こう岸(彼岸)にあります。ですから川(海)は大事な役割を持ち、現世(此岸)と彼岸の境目になります。それを象徴的に表現したものが枯山水ではないでしょうか。 あまりにも有名な枯山水ですが、ここは、自分の心と向き合う場所であり、本来心を落ち着けるためにすべてのものを取り去った形のはずです。しかし、現代風? に庭の外にはきれいな枝垂れ桜が植えられました。また、本来は塀の外には遠く借景の山並みが見られたはずですが、今は木々が大きく茂ってしまって、ほとんど見ることができません。 石と苔で表現されたこの庭を見ていると、あたかも遥か彼方の宇宙の構図を見ているような気がするのは僕だけでしょうか? 銀閣寺庭園に入る前のアプローチは、生け垣が高く周囲を遮り、真っ直ぐの道が先へ続きます。これは、汚れた俗世界から訪れた人が、この道を歩くことにより汚れを洗い去り、極楽浄土(銀閣寺)庭園へと導かれるという意味合いがあります。 もっとも完成された回遊式日本庭園の「桂離宮」は、まさに「シンプル イズ ベスト」。空や木々を映す水面と樹々。そこは、静かで落ち着いた空間です。 僕が大好きな、昭和の作庭家として著名な重森三玲さんによる庭です。手前の石の流れが奥の西方浄土へとつながっていきます。中程にある門は勅使門です。 いくつかの日本庭園を見ていただきましたが、このように極楽浄土は、時代や宗派によってその表現方法は異なります。しかし、庭はそこへのアプローチ(入り口)なのではないでしょうか? そして、心と国家の安寧を願う場所としての意味もあるはずです。 島根県安来市にある足立美術館の日本庭園で、海外の観光客に最も人気のある庭園の一つです。うまく周りの山を借景に使って、これ以上メンテナンスができないほどきれいに手入れがされています。しかし、この庭はあくまでも日本画の名作や陶芸など約1,500点を所蔵する美術館の周りにつくられたものなので、京都の庭のような思想的なバックグラウンドがありません。そこが少し日本人には物足りなく感じられる部分かもしれません。 庭を介したイギリスと日本の交流と発展 イギリスも日本も世界に誇れる独自の庭文化を展開してきましたが、近年は情報と人的交流が盛んになり、お互いのよいところを取り入れながら、さらなる発展をしています。 イギリスでは日本の自然をベースにした庭づくりを取り入れ、また、日本では今まであまり使われていなかった植物を取り入れ、きれいな花の咲く庭がつくられるようになってきました。 日本の歴史を鑑みると、新しい文化が入ってくると、常に日本流に噛み砕いて独自の展開を行ってきた気がします。庭もまた然り。近年イングリッシュガーデンがテレビや雑誌などで紹介され、またイギリスに旅行に行って本場の庭を見てくる人も増えたりしてガーデニングブームが起こりました。そしてガーデンデザイナーはもちろん、多くの一般の人々も日本風にアレンジしながら庭をつくるようになって今に至ります。まだまだ植物の使い方ではイギリスのようにはいきませんが、宿根草も多く使われるようになってきました。 上写真は、チェルシーフラワーショーの庭で以前も記事でご紹介しましたが、チェルシーフラワーショーで僕が植栽を担当し、ゴールドメダルをいただいた庭です。自然な風景を醸し出すように努力しました。 イギリスと日本、これからもお互い影響し合いながら、お互いの国でお互いのライフスタイルに合った庭がつくられていくことでしょう。 これまで連載記事「世界のガーデンを探る」を一部分でも読んでいただいた皆様に感謝、感謝で、僕の庭の歴史の話を締め括りたいと思います。またいつかどこかでお会いできればと思います。
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ストーリー
新大陸のガーデニングとは?【世界のガーデンを探る26】
新大陸に住み着いた人々 今までヨーロッパ、オセアニアと見てきた【世界の庭を探る】シリーズ記事もいよいよ終盤。今回は、新大陸(南北アメリカ大陸)に目を向けます。 人類は4万〜1万年ほど前、まだベーリング海峡が陸続きだった頃に、蒙古系の人々がユーラシア大陸から歩いて渡り、インディアンやインディオとなって新大陸に住み着きました。10世紀頃には船に乗ってバイキングがやってきましたが、住み着くことはありませんでした。 そして、いよいよクリストファー・コロンブスが1492年にヨーロッパからやってきて現在の新大陸を発見し、その後入植。などなど、いろいろあって今のアメリカ合衆国が1776年、カナダが1931年にイギリスから独立して現在に至ります。 イギリス人たちはまずは東海岸に住み着き、その後開拓者が新天地を求め、西へ西へとアメリカ大陸を移動し、19世紀のゴールドラッシュと相まって西海岸までたどり着きます。 カナダの名園「ブッチャート・ガーデン」 そんな時期、「ザ・ブッチャート・ガーデンズ(The Butchart Gardens)」の初代オーナーであるロバート・ブッチャートと妻のジェニーは、石灰岩を探しながらカナダ西海岸にたどり着きました。20世紀の初めに石灰岩を取り尽くしたブッチャート夫妻は、この採石場を庭園としてつくり変えようと考えました。しかしもともと石灰岩の採石場だったので、土が中性かアルカリ性で多くの植物は育つことができませんでした。そこで大量の土を周りの畑から運び込み、きれいな庭をつくりました。それが新大陸で最も有名な「ブッチャート・ガーデン」の始まりです。 「ブッチャート・ガーデン」は、サンクンガーデンやローズガーデン、イタリアン・ガーデン、ジャパニーズ・ガーデンなど、世界の庭デザインを再現した広大な場所で、今では年間100万人もの入園者が訪れる新大陸で最も有名な庭になりました。 メインエリアのサンクンガーデン この庭の特徴は、もともと採石場であったことから、石灰岩を掘り取ったあとにできた高低差のある土地であり、入り口から敷地に入っていくと、メインの場所となるサンクンガーデンを俯瞰しながら降りていくことができます。この庭で最もポピュラーなサンクンガーデンは、一年中色とりどりの花が咲き乱れて、訪れた皆さんの期待に応えるところです。 緩やかにカーブする散策路と曲線で区切られた花壇。花壇は盛り土され、訪れる人たちの間近で花が見えます。 石垣を積み上げた花壇に背が高くなるチューリップが植わっています。このように、高い位置に背の高い植物を植えることで、より花の稜線が強調されます。このガーデンの特徴的な見せ方ですね。 展望台へ上る階段の両サイドにも、花は絶えることがなく、歩くたびに変わる景色が楽しめます。 夜になるとライトアップされて、とても幻想的な雰囲気です。 カフェやお土産もののショップが入っているビジターセンターに囲まれたイタリアン・ガーデンも、季節の花で目を楽しませてくれます。 モスグリーン調の差し色がシックなビジターセンターと、優しい色のチューリップが素敵なコンビネーションを演出。とかくサンクンガーデンは原色系の色使いが多いので、このような優しい色合いだと日本人としてはホッとします。 ブッチャート・ガーデンの数々のエリアをご案内 「ブッチャート・ガーデン」の園路をどんどん降りていくと、一番奥まったところにダイナミックに噴き上がる噴水のある池にたどり着きます。ここは「ロスファウンテン」といい、ブッチャート夫妻の孫にあたるロス氏が、開園60周年を記念してつくったエリアです。 【世界のガーデンを探る旅2】でご紹介したイタリア「チボリ公園」の噴水を思い出させます。 こちらは、立体的にうまく構成されているローズガーデンです。ここでの配色は、赤いバラがアクセントとなり、手前の優しい色から奥へ向かってオレンジ系のバラを配置して、グラデーションの効果で、より広く見えるように考えられています。 この地域は、蒸し暑い日本と違って夏でも涼しいので、バラは初夏から秋までずっと咲き続けます。他の花も同様に、春から秋まで咲き続けてくれます。季節ごとに花を入れ替える必要がある日本から見ると、羨ましい気候です。 こちらは、ボウリング場(芝生で楽しむスポーツ)とテニスコートを改造してつくられたイタリアン・ガーデンです。ここでも土地の高低差をうまく利用して、訪れる人を飽きさせません。 芝生の緑やイチイの刈り込みをうまく配置して、手前の景色と遠くまで見渡せる景色の融合を楽しめます。 「ブッチャート・ガーデン」につくられたジャパニーズ・ガーデンは、横浜の庭師だった岸田伊三郎氏が関わった自然風な日本庭園です。日本の植物の中で、とりわけモミジは多く使われ、特に紅葉の季節はその美しさに多くの人が惹きつけられています。なぜなら、ヨーロッパなどでは紅葉といえば黄色なので、日本のように赤く紅葉する樹木は珍しく、モミジやマユミなどは好んで庭に植えられます。しかし、そのような日本の植物の多くは酸性土壌が好きなので、特に海外では植える場所に気をつけなければなりません。 魅力的な庭は他の地域の庭づくりの刺激になる ご紹介してきた「ブッチャート・ガーデン」の特徴は以下の3つです。 採石場の跡地だったことをうまく利用して、高低差のあるダイナミックな構成になっています。 自然にできた地形に沿ったゆるやかな動線は、訪れる人を優しい世界に導いてくれる。 テイストの変化に富んだ庭の演出で飽きない構成。最後にたどり着くフォーマルなイタリア式庭園と落ち着いた雰囲気のゲストハウスでは、おしゃれにアフタヌーンティーをいただきながら、イギリスのように庭を楽しむことができるのも魅力です。 年間100万人の来園者が訪れている事実が物語っているように、とても印象的な庭です。イギリスの「キフツゲイト・コート・ガーデン」も起伏がある土地につくられた庭ですが、「ブッチャート・ガーデン」にヒントを得たと聞いています。私が富山県の氷見につくった「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」も、オーナーである増井さんが、「ブッチャート・ガーデン」を見たことをきっかけに、依頼を受けて始まったものでした。 富山湾と立山連峰を見渡せる小高い丘にある「フォレストフローラル氷見あいやまガーデン」は、「ブッチャート・ガーデン」をイメージして、沈床庭園やフォーマルガーデン、水辺エリアなど変化に富んだガーデンとなっています。 一般公開されている個人オーナーの庭ですが、よく手入れされています。オーナーである増井さん親子の花が大好きという気持ちがよく伝わってきます。 カナダの大自然に生きる高山植物 せっかくカナダまで来たのですから、ちょっと足を伸ばしてロッキー山脈をご紹介しましょう。ここではダイナミックな地球の植物たちの姿を見ることができます。我々にとって、北アメリカは遠い彼方に思われるかもしれませんが、かつて北アメリカがユーラシア大陸と地続きだった時代に、植物たちは人類と同じように中国南部からユーラシア大陸を北へ北へと分布を広げ、一部は日本に渡ってきて現在の植生になりました。一方、ユーラシア大陸をさらに北へと分布を広げ、なんとロッキー山脈までたどり着きました。ですから、現在ロッキー山脈で見られる植物は、日本の高山植物とほぼ同じといってもいいくらいです。 こちらの写真では、日本の高原では馴染み深いヤナギランとモミが見えます。氷河の溶けた水をたたえる湖は、独特の淡い水色です。 中国南部を源とする東アジア系の植物は北へ北へと分布を広げて、一部は日本、もう一部はロシア、さらにロッキー山脈までたどり着いたものなので、日本でも馴染みの植物が多いのです。緯度が違うので当然とはいえ、日本の高山植物がそのまま平地で多く見られることには驚きです。 車で移動していると道端にはチョウノスケソウやオダマキ、クモマグサやコケモモ、イワウメなどを見ることができて、親しみを感じます。ぜひ機会があったら、「ブッチャート・ガーデン」見学の続きに、ロッキー山脈まで足を伸ばしてダイナミックな地球の歴史を感じてみてください。
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ストーリー
オーストラリアの庭【世界のガーデンを探る25】
南半球最大のフラワーショーを開催 今回で最終回となる連載「世界のガーデンを探る」のテーマは、オーストラリアのガーデンショーと庭です。 南半球オーストラリアで開催されるフラワーショーは、大陸南東部のビクトリア州の首都、メルボルンで毎年開催されています。会場は、ユネスコ世界遺産でもある王立展示館とカールトン庭園(Royal Exhibition Building and Carlton Gardens)です。メルボルンの中心地からゆるい坂を登ってすぐの場所にあり、とても立地条件がよく、フラワーショーの開催中は多くの人が訪れます。「メルボルン国際フラワー&ガーデンショー(ROYAL EXHIBITION BUILDING& CARLTON GARDENS)」の開催は毎年3月。2019年の開催は第24回を数えています。 前回書いたニュージーランドのエラズリーフラワーショーの開催がなくなってしまった現在、メルボルンフラワーショーは南半球では最大規模のフラワーショーとなっています。それがなんと来年2020年は25周年の記念大会(2020年3月25〜29日開催予定)ということで、歴代の「BEST IN SHOW」受賞ガーデンデザイナーの中から7名が招待選手として招かれます。私は、2008年に「セイセイ亭」でBEST IN SHOWとゴールドメダルをいただいたことから、海外から唯一の招待選手として現在声がかかっています。このフラワーショーは毎年いろいろなイベントの関係もあり、現地では秋にあたる3月に行われています。秋という季節柄、どうしても使える植物に制限がかかってしまいますが、テニスやゴルフ、F1オーストラリアグランプリなどのイベントが目白押しの季節であるという事情もあるそうです。 メルボルン国際フラワー&ガーデンショー このフラワーショーは公園の敷地内に「SHOW GARDEN部門」とその他の「小庭園部門」の庭がつくられます。フラワーアレンジなどは、王立展示館の建物の中で行われます。ちなみに南半球では、正午に太陽が北側を通過するので、北半球の日本に育った私は、すぐに方向がわからなくなってしまうのです。余談ですが、書店では南が地図の上方になっている世界地図も売っています。 それまで何度か審査員として参加していたのですが、2008年には「セイセイ亭」をつくり、私自身もコンテストへ参加。メルボルンで本格的な庭をつくったのはこの年が初めてとなりました。 海外で庭をつくるのに一番大変なのは、自分の庭に使ういろいろな材料を見つけることができるかどうかです。主催者としては和風庭園を期待していますので、我々にとって違和感の少ない材料を見つけに行かなくてはいけません。ですから、最初は現地の施工業者と一緒にガーデンセンターや資材屋に出向き、そこでいろいろな材料を探します。中でも一番難しいのが、庭石を見つけることです。多くの場合は、近くの石切り場に行って、そこに捨ててあるような石を利用します。 白っぽい御影石が見つかればベストなのですが、多くの場合は火成岩なので、国によっては白っぽい石が全く見つからない場合もあります。オランダで庭をつくった時は、御影石が見つからなかったので、南ドイツの砕石場まで石灰岩系の石を買いに行きました。イギリスの場合は、ウェールズに鉄錆のついたよい石が見つかりましたが、ニュージーランドでは火山国にもかかわらず、気に入った材料を見つけることができませんでした。 海外でのショーガーデンをつくる時の苦労 ショーガーデンをつくる際、植物確保の前に、庭の骨格となる石材調達の目処をつけ、続けて砂利を探します。メルボルンの資材屋へ行った時の様子をご紹介しましょう。 いろいろな色と大きさが違うウッドチップ、何種類もバリエーションがあって驚きました。 メルボルンでは、上写真の資材屋で思いがけず「苔むした御影の平板」を売っていましたので、その場で即決し、使うことにしました。 白っぽい石材を見つける次に大変なのが、「さび砂利」を見つけることです。海外では日本のような御影のさび砂利を見つけることは不可能でしたので、メルボルンでは白い砂利と黒い砂利を混ぜてさび砂利の雰囲気を再現しました。 ショーガーデンづくりの現場 会場となるカールトン庭園では、芝生を傷めてはいけないので養生シートを敷いてから、その上に植栽土を入れました。写真のように、こんな可愛いトラックで土を運んできてくれました。陽気なドライバーだったのでこちらも嬉しくなったのを思い出します。 地面は、搬入したての土のため柔らかく、大きな石が落ち着かずに苦労しました。 オーストラリアをはじめ、海外では石の扱い方が違うのですべて私がやらなくてはいけません。ただ、欧米人は恐ろしく力持ちなので、重機が去った後でもある程度の石は動かすことができました。 待合の壁材には、思った砂が見つからなかったので、モルタルにインスタントコーヒーを一瓶混ぜて、砂壁っぽい色合いにしました。そのため、審査の日まで待合にはいい香りが漂っていました。 こうした苦労を経ながらも、皆さんの協力のおかげで満足のいく庭が完成しました。 いただいたベストガーデンのトロフィーには、毎年受賞者の名前が刻み込まれます。これは持ち回りなので1年経つと主催者側に返還して、代わりに小さなトロフィーを翌年いただきました。 2008年に受賞した「セイセイ亭」の庭は、メルボルンの中心地に林立する高層ビル群を借景として、現地の植物を混ぜながらモミジなどを植栽しました。 私が海外で庭をつくる際、できるだけ現地の素材を使うことを心がけています。多くの場合、現地に入る時は、日本から黒いシュロ縄だけを持参しています。それ以外の材料はすべて現地調達です。道具はハサミとノコギリ、特に竹引きノコギリだけは必ず持っていきます。日本とは勝手が違い、いろいろ困難なことやハプニングもありますが、それを現地の材料で工夫しながら庭を完成させていくのはとても楽しいことです。2020年のメルボルン国際フラワー&ガーデンショーでは、どんな庭を披露できるか。今からワクワクしています。 オーストラリアの個人邸のガーデン メルボルンは面積の4分の1を公園が占め、ガーデンシティーと呼ばれています。オーストラリアの中でも四季がある街で、オープンガーデンもガーデニングもとても盛んな場所です。住宅は、古き良き時代であるビクトリア調の飾りがついた落ち着いた雰囲気のクラシカルな個人宅も多く、写真のように独特なベージュ色のフェンスには赤い色の花がよく似合っていました。 こちらのお宅はレンガ色の古い石材が外観を包み、落ち着いた雰囲気です。庭に植わっている白と赤い花はバラのスタンダード仕立てで、その後ろのピンクの花はブーゲンビレア。手前の公道に植わる街路樹は、日本産の八重桜‘関山’です。 こちらもブーゲンビレアにオレンジ色のバラ、それに紫のツルハナナス(ヤマホロシ)が組み合わされていました。日本から見ると斬新な植物合わせですが、ほとんど霜が降りない地域であるメルボルンでは普通に見られる組み合わせです。これにさらにアブチロンやハイビスカスまでが混ざり咲く様子を見かけることもあるので、理解しがたい? のですが、これがメルボルンならではの植栽なのでしょう。 郊外のワイナリーなどの植栽 ブドウ畑のそばにバラがコンパニオンプランツとして植えてありました。これは、ダニやアブラムシが発見しやすいバラがあることで見つけやすくなるという効果を狙っています。 原産地らしくユーカリやトベラの仲間が多く植えられています。さまざまなベンケイソウやグレーのオーナメンタルグラス。それにギョリュウバイやグレビレア、メラルーカ、ブラシの木など乾燥に強そうな現地産の樹木が使われています。 きれいに手入れされたボーダー花壇では、赤や白のバラをアクセントカラーに、手前にはオレンジ花の大根草の仲間。それにセージやサルビアが混植されていました。奥の樹木はユーカリです。 フォーマルガーデンもとてもきれいに手入れされていました。白い花は南アフリカ原産のアガパンサスです。メルボルンでは、アガパンサスはとても元気で、街中でも庭でも一番多く見かける植物の一つです。刈り込みに使われている樹種は、手前はジュニパー、奥のスタンダード仕立てはピットスポルムの一種です。 忙しない日本と違って、なんとも優雅な時が流れるオーストラリア。気候は乾燥気味で、日本ほど緑が豊かではありませんが、メルボルンフラワーショウや街中の個人邸の植栽を見ていると、メルボルンの人たちが心豊かな時間を植物たちと過ごしているように私には見えました。国や時代が違っても、花や緑は人の暮らしのそばに寄り添っていて欲しいものです。
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ガーデン&ショップ
ニュージーランドの庭文化【世界のガーデンを探る24】
ニュージーランドのガーデニング ニュージーランド(NZ)という国は、10世紀ごろ海洋民族のマウリの人たちがカヌーに乗って住み着いたのが始まりでした。その後イギリス人が大航海時代に上陸して、1804年にマウリの人たちとワイタンギ条約を締結し、正式にイギリスに併合されて、「ニュージーランド」と呼ばれるようになりました。 そうしてイギリス連邦に組み込まれ、1907年にイギリス連邦内の自治領となり、独立国家となりました。ご存じのように、ニュージーランドは北島と南島があり、北島に100万都市のオークランドがあります。かつてここでは「エラズリーフラワーショー」が毎年開催されていました。その後、1994年より、開催地は庭好きな人が多く住んでいる南島のクライストチャーチに移りましたが、2015年にショーの開催はストップし、その後も残念ながら開かれていません。花好きの人たちが多く住んでいても、クライストチャーチの町が大規模なフラワーショーを支えきれなくなったのは、経済的な理由によるのかもしれません。 ニュージーランドの北島にはアイルランドから多くの人が渡ってきて、この国のいろいろな仕組みを作ったのですが、彼らはイギリス人ほど庭好きではありませんでした。庭好きなイギリス人の多くは、南島のクライストチャーチに住み着いたのです。かつては、個人庭園や町、それに商店なども参加してガーデンコンテストが開かれていました。 まずは、かつては世界3大フラワーショーの一つに数えられていたエラズリーフラワーショーをご紹介してから、ガーデンコンテストの受賞庭園やクライストチャーチ近郊の個人庭園をご紹介しましょう。 世界3大フラワーショーだったエラズリーフラワーショー エラズリーフラワーショーは、もともと北島のオークランド郊外にある競馬場の「エラズリー」で開かれていたことから付けられた名称ですが、その後手狭になり、オークランド郊外の植物園で開かれるようになりました。僕も毎年審査員として10年近く参加しました。 もともとはオークランドのライオンズクラブがチャリティー(寄付金集め)目的で始めたもので、会場整備や運営に当たっていました。近年は先ほど書いたように、南島のクライストチャーチに移りましたが、残念ながら今は行われていません。 会場には、ガーデン関連のショップやフラワーアレンジの展示、ガーデン倶楽部による植物の提案、地元の食やワインなどが集まるマーキーまであり、イギリスのチェルシーフラワーショーほどの緊張感はなく、おおらかな雰囲気でした。2009年の開催時は、ニュージーランド固有の植物を取り入れながら、キッチンガーデンやデッキ空間がある庭など、19のコンテストガーデンがつくられました。審査は、RHS(英国王立園芸協会)に所属するイギリス人ガーデナーをはじめとする27人の専門家によって行われる国際的なコンテストでした。 ニュージーランドの植物事情 ガーデンデザインの提案には、毎年必ずといっていいほど、アウトドアキッチンをテーマにしたものがいくつかありました。雨が少ないニュージーランドでは日常的に外での食事も楽しめるので、一般家庭の庭でも、このようにキッチンを備えたテラスのあるデザインを見かけます。 ニュージーランドにはもともと花のきれいな植物はほとんどなくて、ほぼすべての庭の植物は、多くはイギリスから持ち込まれたものです。なぜ花のきれいな植物が少ないかというと、ニュージーランドはもともとジーランディアというほとんど海に沈んでしまった大陸の一部で、おそらく昆虫が地球上に現れる前にゴンドワナ大陸から離れてしまったのではないかと考えられています。その結果、きれいな花に虫を集める虫媒花が現れず、現在も風媒花が主流なのだと僕は思います。昆虫がいないということはイギリスから持ち込まれた植物を食べる害虫がいないということで、ニュージーランドではほとんど消毒する必要がないのです。バラなどは、これほどきれいなのかと思うくらい素晴らしい花が咲きます。 オープンガーデンのガーデンコンテスト クライストチャーチでは、ガーデンコンテストを毎年開催しています。カテゴリーは3つあります。1つ目は1軒の庭単位でエントリーする「個人庭園部門」、2つ目は、「法人部門」で、例えば商店や会社の周りの植栽などでエントリーします。そして3つ目は、上の写真のように住宅地の一角(10軒程度の集合地域)ごとの、地域ぐるみでエントリーする「住宅地部門」で、他国のカテゴリーではあまり例のないことです。こういうコンテストを実施できるということは、みんなで町全体をきれいにしようという意識がある文化度の高さの表れかもしれません。 個人邸で育てられている植物についてお話ししましょう。この地域は空気が乾燥しているので、球根ベゴニアやダリア、それにバラもきれいな花を次々に咲かせてくれます。日本と違って蒸し暑い夏がないクライストチャーチは、ダリアや球根ベゴニア、フクシアなどが、初夏から秋まで、病気や害虫に悩むことなく咲き続けてくれます。バラも夏に休むことはなく、初夏から秋まで見事な花を楽しむことができます。ただ日本人にとっては、ちょっと赤花が強烈に見える気がしますが、いかがでしょうか? 暮らしの中で楽しむ個人邸のガーデン 住宅の庭では、日本でもお馴染みのニューサイランやフトモモ科のギョリュウバイ、ユッカ、それにトベラの仲間やヘゴの仲間の木性シダなどが使われています。近年、ニュージーランドでは、もともと土地にあった植生を回復させようと、高速道路や公園の緑地には多くのニュージーランド原産の植物が使われるようになりました。 私が訪ねた個人邸では、窓が大きく外の庭の緑が暮らしの一部になっていました。いつもそばに自分が生まれ育った地域の植物が育ち、眺めることができるのは、穏やかな暮らしの支えになっているのかもしれません。 クライストチャーチ郊外の有名な庭 イギリスと比べてガーデニングの歴史が浅いながらも、ニュージーランドにも、名園と呼ばれる場所がいくつかあります。その中の代表的な庭園が、クライストチャーチ郊外にある「オヒナタヒ庭園(Ohinatahi garden)」です。海を望む崖の上につくられた庭で、とてもよく手入れがされています。地形をうまく利用したイタリア風な庭づくりで、オーナーが男性だからかもしれませんが、緑の芝生を中心に落ち着いた雰囲気を醸し出しています。 もう一つご紹介するのは、クライストチャーチ郊外の「トロズ・ガーデン(Trotts Garden)」です。オーナー曰く、世界一のノットガーデンです。奥に見える建物は古い教会。ここでは時々結婚式もとりおこなわれているそうです。この規模のノットガーデンをつくろうと思ったこと自体にも感心しますが、維持管理を考えただけでも気が遠くなります。 ニュージーランドの公共の庭 クライストチャーチの町の真ん中にある川沿いの公園「MONA VALE」。 「MONA VALE」の中心付近には、バラ園もあります。どの地域も、ニュージーランドにあるバラ園は本当に、花はきれいに咲き揃い、手入れも行き届いて気持ちのよい場所になっています。川沿いにある個人の庭も公園の一部になっていることがあります。 フォーマルな高級住宅でもそれぞれに庭が設けられているので、散歩をしていると次々と現れるガーデンシーンに出合うことができ、目を楽しませてくれます。本当にクライストチャーチは“ガーデンシティー”の名に恥じないレベルで、町を挙げての取り組みがなされていて、完全に脱帽です。 次回はオーストラリアの庭と、メルボルンフラワーアンドガーデンショーの話をしたいと思います。
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海外の庭
英国のフラワーショーに見る現代の植栽デザイン【世界のガーデンを探る23】
100年以上の歴史ある花と緑と庭の祭典 これまでは、西洋の庭デザインの変化をたどりながら、国ごとにスタイルが異なる花の植え方をご紹介してきましたが、今回はイギリスのフラワーショーについてご紹介します。 ●これまでの連載記事はこちら フラワーショーといえば、イギリスで毎年開かれるチェルシーフラワーショー(RHS Chelsea Flower Show)があまりにも有名です。100年以上の歴史を持ち、世界中のガーデンデザイナーが目指すコンテストの一つがチェルシーフラワーショーです。園芸文化の普及と発展を目的としたフラワーショーなので、庭だけでなく、さまざまな植物の新品種や希少な植物の紹介の場所にもなっています。 上写真は、僕がイギリス人の友達と一緒につくった「ホンダティーガーデン」で、日本人初のゴールドメダルをいただいた庭です。チェルシーフラワーショーは王立園芸協会主催のフラワーショーなので、一般公開になる前日の午後、ロイヤルビジット(王室の訪問)があり、女王陛下も毎年お見えになります。 ショーガーデンをつくる時 デザイナーが心がけることとは ある意味、世界中のフラワーショーのお手本になっているチェルシーフラワーショーは、審査から一般公開を含めて1週間しか開かれません。植物をふんだんに使って作り込まれて、お金も非常にかかっている庭が、たった1週間で取り壊されてしまうことは、もったいないと思われるかもしれませんが、デザイナーの立場からすると、来場者に一番いい状態の庭を見ていただくには、やはり1週間が限界です。それ以上時間が経つと、多くの花が傷んだり散ったりして、最高の状態で見ていただくことができなくなってしまうからです。 デザイナーとしては最高の状態で審査を受けたいのですが、その日に花を満開に咲かせるのは並大抵の苦労ではありません。 ショーガーデンに使われる植物の選び方 例えば、アイリスの仲間は存在感があるのですが、一日花なので、なかなか花の開花をピンポイントで合わせることが難しい植物です。ですから、一般公開の間も楽しんでいただけるように、花期の長い植物を組み合わせる必要があります。もちろん会場前の花の手入れは毎日、怠ることはできません。 フラワーショーの庭は、細かな制限が設けられているわけではないので、デザイナーの自由な発想のもとに楽しくつくることができます。上の写真のように、常緑の植物を多く使うと落ち着いた雰囲気になり、庭が短期間で乱れることはない反面、華やかさが欠けてしまいます。 黄花の植物の中でもバーバスカムの黄花は、主張が強くなく花期が長いので、ショーガーデンにおいて常連の一つです。多くの花を使いすぎると、まとまりのない配色になり、テーマが見えにくくなってしまいます。 落ち着いた花色でまとまった庭をよく見てみると、チェルシーフラワーショーで定番となっている植物たちが取り入れられています。この中でも、手前に咲いている八重咲きのオダマキは珍しい花色で、奥の紫ミツバの白花がポピーのオレンジ色を中和させて、軽やかな雰囲気が生まれています。 フラワーショーの参加条件 では、こうした特別なショーのガーデンはどういった経緯を経て完成へと向かうのでしょうか。まず、チェルシーフラワーショーの人気のデザイナーは、フラワーショーが終わるとすぐに翌年のデザインを始めます。特に「ショーガーデン」と呼ばれる大庭園部門では、最低でも1,000万円以上のお金が必要なので、来年に向けて早くスポンサーを探さなくてはいけないという大仕事がまずあります。R.H.S.(王立園芸協会)に出品するには、以下の条件を満たさなくてはいけません。 実績のあるデザイナーであること(過去に受賞歴などがあること) 実績のある施工業者がついていること 資金が十分であること 資材や植物の調達計画がしっかりしていること いいデザインであることは必須条件 多くのデザイナーは、まず小庭園部門での受賞実績を経て、大庭園部門への参加にステップアップしますが、僕の場合は、1995年にイギリスで手がけた個人庭園が「B.A.L.I.(英国造園協会)」の年間のグッドデザイン賞をいただいたことが実績となり、初回からショーガーデンをつくることができました。 ガーデンをつくるための石材の調達 イギリスでの庭づくりの苦労としては、まず、日本では当たり前の材料でも、同じものはなかなか見つけることができないということがあります。例えば、イギリスは火山国ではないので、きれいな御影石(花崗岩)を手に入れることが難しかったことを思い出します。また、ゴロタ石などはウェールズ地方に行って、氷河期のモレーンの石を使いました。また、イギリスのモルタル用の砂は赤いので、白いモルタルをつくることも苦労した点です。 ガーデンをつくるための植物の調達 イギリスにある樹木は、アジア起源だったり、過去に日本から持ち込まれたものも多いので、調達するのにさほど苦労はしません。しかし、樹形は左右対称に育てられていることがほとんどのため、いつもナーセリーの圃場の隅で、いじけた形(自然樹形)の樹木を探すことになります。 草花は、日本のように酸性土壌で育つようなものは少ないので、結構苦労しますが、我々の感性に合ったもので東アジア的なものを探します。ショーガーデンで大活躍するのは、ギボウシやイカリ草です。他にもいろいろ揃えなくてはいけないので、あちこちのナーセリーを回ってガーデンをつくる前年の秋までに苗の予約をします。 手配する植物の量は、全部使われることはなくても2〜3割ほど余分に注文しておきます。また会場がとても狭いので、配送の日は時間まで指定して搬入してもらうのですが、どの庭も大抵一緒の時期に運び込まれるため、会場内で大渋滞がどうしても起こってしまいます。それでも日本のように大声が飛び交うようなことは滅多にないのがイギリス。こうした全体のマネージングや他の庭との人間関係などをスマートに行うことも、いい庭をつくるためにはとても大事な条件です。 フラワーショー開催の風景 チェルシーフラワーショーの会場では、地面に庭をつくるショーガーデンのほか、巨大テントの中で多数のナーセリーが最新品種や定番品種を発表します。こちらは、デルフィニウムと球根ベゴニア専門店のディスプレイ。クレマチスにバラ、球根花、ダリアなど、これでもかという色と量に圧倒されてしまいます。 チェルシーフラワーショーが開催された後、例年7月に開かれるハンプトンコートフラワーショーは、チェルシーに比べると、もっと自由な発想でデザインされた庭が多いようです。 イギリスのフラワーショーの審査のポイント テーマ性がしっかりしていること 全体の調和がとれていること 植物と構造物の組み合わせがうまく調和がとれていること しっかりした施工と最高品質の植物が使われていること 人を驚かすような斬新なデザイン性があること などが大事なチェックポイントになっています。こうしたショーガーデンが毎年開催されることで、新しい庭デザインの発想が生まれたり、新品種が注目されたりと、イギリスではガーデニングが文化として定着し、未来のガーデンへと引き継がれていくのだと思います。 では、次回はイギリス以外のフラワーショーについてお話ししたいと思います。
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ガーデニング
【花壇づくり講座】造園家が実践する「混植法」と差し色のコツ
日本庭園における花の存在 連載記事【世界のガーデンを探る】では、フランス式やイギリス式など、歴史的な見地から花の植え方を見てきました。それでは、日本の庭はどうでしょうか? 歴史的な庭の中でも、花がきれいな庭はどこでしょうか? 日本庭園の最高傑作といわれる桂離宮や修学院離宮の庭では、花は主役ではないようです。 とはいえ、最近の京都は、やはり花のある風景が必要なようで、龍安寺でも庭の外側に枝垂れ桜が植えられて、京都の観光ポスターにもなっています。本来、お寺の庭には季節感あふれる花々はそぐわない存在なのでした。 心を落ち着かせて自分と向き合う場所である庭に、心浮き立つ花々が咲き乱れていては、心も乱れてしまうのでしょう。しかし、本来お釈迦様がいらっしゃる場所にはさまざまな花が咲き乱れているはずで、エデンの園もしかり、洋の東西を問わず、やはり天国は花でいっぱいなのでしょう。 植栽の基本は「自然であること」 僕の植栽の基本は、あくまでも「自然であること」です。この写真のように人為的ではない美しい水芭蕉のメドウがお手本です。 ここからは、僕が手がけた花壇のいくつかを見ながら、心がけたことやコツをご紹介しましょう。まずは、葉牡丹を使った早春の花壇植栽です。シロタエギクや斑入りのブルーデージーなどを混植しています。葉牡丹は夏の終わりにタネを播けば、春になっても花が立ち上がらず、葉物として春花壇に使うことができます。 自己主張が強い黄花や赤花の使い方 気をつけなくてはいけない色が黄色です。黄色はなかなか他の色と馴染まずに、自己主張が強いので、場合によっては花壇の中で浮いてしまうことがあります。写真は、スイセンの黄色が周りの色を圧倒してしまった植栽例です。さらには、赤いキンギョソウが周囲を囲み、せっかく植えてある紫色のルピナスが沈んでしまっています。 球根ベゴニアの中に鮮やかなゼラニウムの花が混じり合っています。このような時も、手前から淡い色を使い、一番奥に赤を入れると、色のグラデーションが、うまく視線を中に誘い込んで実際よりも奥行きを感じさせてくれます。そして、あくまでも自己主張の強い黄色は控えめに入れましょう。 写真は、梅雨から初夏の花壇です。桃色の花はアジサイ‘コンペイトウ’、赤やオレンジはハゲイトウ、その中に白いネコノヒゲの花穂が混じって、花壇に厚みを持たせています。アジサイは花市場にはほぼ周年出回っている植物になってしまいましたが、やはり本来の時期である梅雨から初夏に使うようにしたいものです。 赤はあまり多く入れすぎると他の花がかすんでしまいますので、必要最小限にしたほうがより効果的です。赤やオレンジでも、特に色素的に光り輝くペラルゴニジン系(オレンジ色の植物性色素)の赤は、花壇の中でも他の色を押しのけて前に出てきてしまうので、多く使いすぎないように注意しています。 色のアクセントを上手に使う 少し高い位置に真っ白なアジサイのアナベルが手毬状に花を咲かせ、すぐ下で、ヒペリカムのオレンジ色の丸い実が手前の紫のアンゲロニカと上手く調和しています。 花壇を少し引いて見てみましょう。手前のベアグラスの後ろには渋い色のハゲイトウを入れ、奥に真っ赤なハゲイトウを数株入れることにより、目線を花壇の最深部まで引き込んでいます。ここで、手前に赤を入れてしまうと視線がそこで止まってしまい、奥行きを感じさせなくなりますので気をつけましょう。 淡いピンクを基調にしたアジサイの混植花壇です。高い位置、低い位置とひな壇状になった花壇を、上はブルーのアジサイを中心に、下はピンクのアジサイが点々と植わって隠し味的な存在になっています。さらに、赤から白までカラフルにクレオメを混ぜて植えてあります。クレオメを使うときは、できるだけ日当たりのよいところに植えましょう。 この庭は僕が設計・施工してつくったものですが、残念ながら今はありません。場所は名古屋のテレビ塔のすぐ下で、商店街の発展のためにつくられたアダプトガーデンの植栽です。市民ボランティアの人たちと年5回花の植え替えをしました。ここは予算が限られていましたので、このように葉物や低木を多く使い庭園風につくると、毎回の花などの材料代が少なくて済みます。縁取りのベアグラスは、春に思い切って丸坊主に刈り込めば、一年中きれいな葉を鑑賞することができます。 神戸にある230戸ほどの集合住宅の中庭につくったフォーマルなサンクンガーデン(沈床式庭園)です。僕がつくってから約15年経っていますが、年に5回、ここにお住まいのガーデニングクラブの方たちと一緒に花の植え替え管理を行っています。この時は、花壇の中に入れた赤のキンギョソウが全体のアクセントになりました。 観葉植物を使ったトロピカルな庭です。観葉植物を使うときは日差しを和らげないと、すぐに葉が焼けてしまいますので、屋外での栽培に使うことは難しいものです。ご紹介の写真は、温室内での植栽例になります。 トロピカルな植栽のアイキャッチには、斑入りのドラセナを高い位置に。赤葉のコルディリネの尖った葉がアクセントとなって、植栽に迫力を出しています。さらに下草には、桃色のブーゲンビレアの花を組み合わせ、チラチラと優しい色が混ざりあって、重くならないようにしています。 カフェコーナーの窓スペースに設けた植栽です。ここでは、淡い春色をテーマにまとめました。一重のストック、サクラソウ、ワスレナグサ、ノースポールなどに、葉ものの斑入りブルーデージー、ラムズイヤー、レースラベンダーなどが混植してあります。 植物の組み合わせは、色合わせだけでなく、季節や環境にも配慮して行います。テクニックもいりますが、主張の強い色と優しく混ざり合う色を意識して選ぶと失敗が防げますので、ご紹介の事例が花壇づくりの参考になればと思います。 併せて読みたい ・失敗しない花壇づくりの仕切り方とデザイン例6つ ・夏の花を咲かせよう! 花壇・庭・鉢で育てたい夏に咲く草花22種【一年草編】 ・ガーデニング初心者さん必見! 初めての本格的な「バラの花壇」づくり[完全保存版]
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ガーデン&ショップ
フラワーショーで見比べる植栽デザインのワザ【世界のガーデンを探る22】
フラワーショー特有の植栽とは これまで、イタリアやフランスなど、各国で実際につくられた歴史ある庭の特徴や植栽方法について話してきました。今回は視点を変えて、現代のフラワーショーにおける植物の植え方について解説したいと思います。この記事では、実際に僕が参加したチェルシーフラワーショーと、ハンプトンコートフラワーショーで見たショーガーデンを中心にご紹介します。 フラワーショーでの花の使い方は、全くといっていいほど制限がなく自由なので、植物材料、配置、配色、組み合わせなど、デザイナーの理想とする空間をつくり上げることができます。とはいえ、あくまでも常識の範囲内です。例えば、サボテンとミズバショウを一緒に植えるというようなことは、審査の段階でマイナスになることが十分考えられるので、あくまでも植物を扱う者としての知識と経験によって組み合わせを考えることになります。ただ、チェルシーフラワーショーなどが開催されるイギリスと日本では気象条件がかなり異なるため、イギリスでの庭づくりは、イギリスにおいての常識の範囲内で行うことになります。例えば、陽射しの柔らかなイギリスでは、ギボウシやアオキなどは日向でも日焼けすることはないので、日向の植物として扱えます。 以下に、ガーデンショーでディスプレイされた、いくつかの庭を取り上げます。 ガーデンショーでの植栽例 非現実的なベッドのあるデザイン ハンプトンコートパレスフラワーショーで制作された、2006年のガーデンです。赤を基調にしたフォーマルスタイルの庭で、植物は、手前からヒューケラ、ゲラニウム、ヘメロカリス、リアトリス、バラ、アスチルベなどが、天蓋付きのベッドへと視線を導いています。実生活ではあり得ない空間をつくり出していますが、そこはフラワーショー。自由なデザインが許されています。芝や明るい緑色の葉が補色関係になって、きれいに赤を引き立てています。 紫を基調にしたシックな庭 オープンなオフィスのイメージでしょうか。コンテンポラリーな椅子とあいまって、ちょっと狭い感じもしますが、モダンで素敵な空間ですね。この植栽は、僕も手伝ってデザイナーと一緒に制作を楽しみました。ルピナスや真っ白なジギタリスで縦の動きを強調しつつ、ヒューケラ、セージ、エリンジウムなどでカーペットをつくりました。個人的にはとても気に入った庭ですが、女性の方にはちょっと渋すぎるかもしれませんね。 白いウォールに囲われたガーデン 同じ紫の庭でも、こちらは白のウォールを取り巻くように、いろいろな花が植えられています。ストエカス系のラベンダーを中心に、オダマキやユウゼンギク、ニコチアナなどが植えられ、それに斑入りの植物をうまく混ぜて、優しい雰囲気の植栽になっています。ここでも前回解説した、ガートルード・ジーキル女史のパッチ状にグループで植える手法が生きています。ただ、中心のベンチの存在感が、今ひとつ薄いようです。例えば、優しい紫とかオレンジとか、何かアクセントになるカラーに椅子を着色しても印象がずいぶん変わると想像できます。 明るく開放的な空間づくり これは先ほどのガーデンとは対照的に、明るくて色とりどりの花で彩られた開放的な空間です。赤いダリアやセンニチコウ、ルドベキア、黄花のヘメロカリス、それにユリやデージーの白が混じり、そこにオーナメンタルグラスや三尺バーベナを加えて、さらにボリュームと深みを演出しています。構造物は、明るい木造を基調に、濃いこげ茶色の椅子と真四角な白いポットをシンメトリーに配置し、葉が枝垂れるアガパンサスがカジュアルな雰囲気を出しています。 アイキャッチを効果的に使った庭 いかにも男性デザイナーのつくった庭、という雰囲気のガーデンです。手前にリズミカルに丸い花を咲かせるアリウムを植え、その白い花と淡いブルーのアイリスが、見る人を庭の中に招き入れています。中央の円い池を囲むように多くのシルバーリーフの植物を混ぜ合わせ、その間に明るいオレンジのポピーが咲いて視線を自然に中へと誘っています。奥のほうにはアーティチョークや白花のアイリス、それらを引き立たせるためのバックドロップとしてベニシダレモミジを植えています。抑えた色の木の塀に緑と白のピジョンハウスらしきものと、レンガのステップが落ち着いた雰囲気をつくっています。もしオレンジのポピーを手前に持ってきていたら、その鮮やかさゆえに視線がそこに集中してしまい、庭全体が薄っぺらになっていたことでしょう。アイキャッチの植物は、あくまでも少なめに、奥のほうに配置することが大事です。 イギリスで馴染みがない植物にも挑戦した庭 こちらもチェルシーフラワーショーに登場した2004年のショーガーデンです。池の向こうには、オープンテラスのようなウッドデッキ風の渡橋があり、その先には素敵な赤いチェンバー(部屋)がチラリと見えています。 手前の植栽はマルチステム(株立ち)のサルスベリを中心に、最近イギリスでもかろうじて越冬できるようになった木性シダ。海老茶色のグラウンドカバーは、銅葉のシソとニューサイランで、その間に赤いヘメロカリスとオレンジ花のマリーゴールド、アリウムやリアトリス。そしてもっと奥にはバショウの大きな葉が見えています。イギリスでは馴染みの少ない植物ばかりで、ちょっとエキゾチックな雰囲気が漂っています。我々日本人にとっては、それほど珍しい植物ではないのですが、チェルシーでは新しい植栽だと思います。 こうした新しい植物や使い方のアイデアを来訪者に見ていただくことにより、そのアイデアを持ち帰って自分の庭に生かしてもらえるよう啓蒙することも、フラワーショーの大事な役割の一つです。 二宮式植栽法で手掛けたガーデン 写真の庭は、イギリスの友人であるジュリアン・ダール氏がデザインした「チェルシーホスピタルガーデン」です。2005年のチェルシーフラワーショーで初めて三冠に輝いた庭として有名になりました。三冠とは、ベストガーデン、ゴールドメダル、そして人気投票で一番のピープルズチョイスに選ばれた庭のことをいいます。この庭の植栽は、すべて僕が担当しました。 写真右は、庭の中にある小さな池の周りで、自然を感じさせる植栽を再現しました。もちろん、ここはショーの期間のために制作するので、「ナチュラル」を再現する努力とテクニックが必要です。日本風(二宮式)とでもいうか、自然な雰囲気を出すように心がけたことを思い出します。 写真左は、まるでおとぎ国のような茅葺きのコテージの植栽です。デルフィニウムのはっきりとした直線とつるバラの幹の曲線。そこにオレンジ色の2色咲きのオダマキと足元のピンクのフウロソウが全体にうまく溶け込んでいます。手前のバケツは手動式の消化ポンプです。これも、この庭が1950年頃のイギリスの田舎の風景であることを感じさせるコーディネイトです。 また写真右は、日本のクリンソウです。赤い花の奥に少し黄色のクリンソウを入れたことで、ずっと奥行き感が出せました。ここは一度他の植え方をしていたのですが、しっくりこなかったので、急遽、翌朝すべて植え替えたという、自分にとっても印象深いシーンです。 植栽を担当した「ヨークシャーガーデン」もゴールドメダルを受賞した庭です。デザイナーのジュリアン(Julian Dowle)氏の図面には、植栽は具体的にあまり書かれていませんでしたので、集められた植物材料を見ながら、自然風の植栽風景をつくることを意識しながら、即興で配置と配色を決めていきました。このような自然風な混植植栽は当時のイギリスでは新鮮だったのか、何人かのデザイナーから翌年の植栽のオファーがありました。 「ヨークシャーガーデン」の水辺の植栽です。黄色い花はプリムラやラナンキュラス、ピンクはシレネ、それにブルーのワスレナグサを入れました。このような植栽をしてしまうと、手直しに庭に入ることもままなりませんので、ゆっくり後ずさりしながら完成させていきます。ピンクのシレネはとても使いやすく、固くなりがちな植栽を優しく混ぜ合わせてくれますので、個人的にはとても好きな植物です。 チェルシーフラワーショーの思い出 海外のフラワーショーでは賞金のようなものはなく、写真のような賞状を一枚いただくことができる名誉賞です。また、チェルシーフラワーショーのゴールドメダルは、日本語では金賞と訳しますが、1位を表すのではなく、「いい庭」を意味し、多くの場合、審査の結果で複数の庭が受賞します。ただし、ベストガーデンは一つだけ。受賞する庭がない年もあるようです。 フラワーショーでは、審査時にベストな状態に持っていかなくてはならないので、開花時期の調整はもちろん、健全な材料を使うことが大事です。多くの花が数日の命ですので、海外のフラワーショーの開催期間も長くて1週間程度です。期間が長くなると花が終わってしまったり、変色してしまうため、デザイナーの意図していた配色ではなくなってしまいます。日本ではせっかくつくったのだからと、もう少し長く展示されることが多いのですが、デザイナー側から考えると、自分が思い描いた植物の配置や配色は1週間が限度だと思います。ちなみにチェルシーフラワーショーの大庭園部門では、最低でも数百万から1千万円、多くの庭は2千万円ぐらいの予算が必要となりますので、簡単に参加するという訳にはいきません。 チェルシーフラワーショーでは毎年審査が行われ、審査結果が発表される前に、ロイヤル・ビジットといって王室の方々やエリザベス女王陛下がお見えになります。写真の後方に写っているのは、僕が初めて1995年にチェルシーでつくった「ホンダティーガーデン」です。メインの大庭園部門で、日本人として初めてゴールドメダルを受賞した思い出の庭です。その後も女王陛下とは幾度か庭の話をさせていただきました。英語には日本語のような敬語がないので、普通に両国の庭のことや僕がつくった庭のことなどをお話しすることができました。
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ガーデン
イギリス式花の植え方【世界のガーデンを探る21】
イギリスの庭&花壇デザインのスタイルの源流とは 前回までは、イタリアやフランスなど、ヨーロッパ大陸の花の植え方を比較して解説してきましたが、今回は、ドーバー海峡を渡ったイギリスにおける花の植え方の話です。 イギリスの花の植え方に関して、圧倒的な影響力を今に与えているのは、以前に解説した、ガートルード・ジーキル(Gertrude Jekyll)女史です。彼女の植え方の特徴である「いろいろな植物を小さな区画ごとに植えていく手法」は、そのまま現代のイギリス庭園に取り入れられています。それは個人庭のみならず、チェルシーフラワーショーのようなショーガーデンの分野にまで色濃く影響しています。 イギリス式の宿根草ボーダーとは 写真は典型的なイギリス式の宿根草ボーダーの植栽です。植物を冬の寒い北風(ゲール)から守るために、2〜2.5mほどの高さのレンガのウォールで囲んだ空間に、ウォールの高さとほぼ同じ幅の植栽帯を設け、そこに3〜5列ほどの宿根草がパッチ状(品種ごとに数株集めてパッチワークのように配置すること)に植えられています。ジーキル女史は、自著の中で「ボーダーの幅とウォールの高さは同じがよい」と言っています。確かにウォールが高いと圧迫感があり、ボーダーの幅が広いと締まりがなく見えるような感じがします。 また彼女が始めたパッチ状の植物の植え方は、イギリスの多くの庭園のボーダー植栽に普遍的に見ることができます。多くは幅1〜2m、奥行0.5〜1mに、1種類の宿根草や低木などが植えられ、ボーダーの手前から草丈0.2〜0.5mのグラウンドカバー植物が、次に草丈0.3〜1.5m程度の宿根草が2〜3種類植えられ、そして一番奥のウォールに沿って、草丈1.2〜1.8m程度の宿根草や低木類が植えられていることが多いです。庭の一番奥には、視線を集めるアイストップとして、イギリス独特の色に塗られた規格外サイズの大きなベンチが置かれ、敷地全体の奥行きと安定感を演出しています。このようにベンチを置くことで、訪れる人を庭の一番奥まで誘う効果があります。 壁に向かってさまざまな植物がきれいなエレベーション(高低差)を作っています。一見、無秩序に混植されているようにも見えますが、以前ご紹介したフランスの花壇(写真下)ほどの混植ではなく、各種類がグループになるように植えられています。 イギリスの花壇では、葉の色やテクスチャーもとても大事にされていて、例えば、シルバーリーフのアーテイチョークやノコギリソウなどが、花の咲いていない時期でも存在感を発揮しています。さらには赤系のヒューケラ、スカビオーサ、エゾミソハギやブッドレア、ピンク花のゼラニウム、カンパニュラやカクトラノオやシモツケソウ、それにセージなどが植えられています。ちょっと茂りすぎているようにも感じられますが、ノコギリソウの黄花が引き締め役をうまく演じています。 イギリスの公園の花壇植栽 では、いくつかのイギリスのガーデンから花壇植栽の例を見ていきましょう。まずは「ハンプトンコート」の花壇です。こちらは、淡い黄花のマーガレットが一面に植わり、その間にカンナの赤い縞模様の葉が点々と飛び出て、白のマリーゴールドが花壇をぐるりと取り囲んでいます。イギリスの花壇のつくりかたは、前回ご紹介したフランスとはまったく違うテイストです。 淡いオレンジ色のルドベキアが全面に植えられ、花壇の中央付近にフランスでも使われていた銅葉のヒマが丈高くアクセントになっています。そして、その周囲を斑入りのセージが縁取っています。日本の花壇植栽に似ている部分もありますが、フランスの植え方に比べると、イギリスの花壇は立体感があります。 「ボーダー花壇」のバリエーション イギリスで時々見られる「赤のボーダー花壇」です。赤花が咲く植物と、赤系の葉が茂る植物を混ぜ合わせて植えています。中ほどの赤い葉はニューサイランです。その奥に銅葉のコルディリネ・オーストラリス‘アトロプルプレア’がポツンと立っています。赤い花は手前からバラ、ダリア、ヘメロカリスなどです。 ここでも、ヒューケラ、数種類のダリア、クロコスミア、奥にはカンナの赤い葉も見え隠れしています。そして、薄黄色のヘメロカリスが全体を引き締めています。黄色の単色は、自己主張が強すぎて、なかなかうまく他の植物の花の色と混じりにくいものですが、写真でご覧のように、淡い黄色ならば他の植物ともうまく調和します。 宿根草や低木の前に、主に一年草が植え込まれているボーダー花壇です。ここでもやはりジーキル女史の手法に則り、パッチワーク状にさまざまな植物が植えられています。園路と花壇の間に、きれいに生え揃った帯状の芝生の緑があることで、バラバラになってしまいそうな多様な花の彩りを引き締めています。 個性的なガーデンデザインとしてあまりにも有名な「シシング・ハースト」のホワイトガーデンです。アーティチョーク、シャスターデージー、フロックスなど、銀葉やホワイトリーフ、白い花が咲く植物だけが集められています。これらの多くの植物が、日本では馴染みの少ない背の高くなる宿根草や低木類で構成されています。 グリーンの鞠のような丸い花を咲かせるアナベルと、細長い花穂を丈高く伸ばすクガイソウ(ベロニカ)の仲間。丸と線を組み合わせるという、見事なまでのコンビネーション。 夏のボーダー花壇の様子です。写真のように、どの植物も生き生きと茂っている様子からも、この土地と気候に合った植物の選択ができる知識と経験、それに加えて愛情までも伝わってくるボーダー花壇です。エゴポディウム、ゲラニウム、スカビオサ、そのほかいろいろな灌木や宿根草などが所狭しと植えられています。ボーダーのボリュームに対して園路の芝生の幅が十分でないため、印象が少し重く感じられますが、この庭らしい雰囲気を醸し出しています。 オーナメントグラスを上手に取り入れた植栽例です。とかくオーナメントグラスを使うと「草原」のようになりがちですが、このガーデンではその印象がありません。それは、赤みがかったグラスの穂に対して、株元に植えている植物も赤系を取り入れているため。奥に見えるイチイのトピアリーが、見事なまでにきっちり刈り込まれていることから、訪れた人にステップを上がってさらに先のエリアへ向かいたいという期待感を持たせてくれます。 このようにイギリスの花壇植栽は、フランスやイタリアとは大きく異なっています。ジーキル女史登場以降、フランスから受け継いだフォーマルな庭園様式をイギリス人らしくアレンジし、一つの文化として創造したことは、イギリス人の高い文化意識の表れではないでしょうか? 次回は「チェルシーフラワーショウ」を中心に、現代のイギリス式植栽方法をご紹介したいと思います。 併せて読みたい ・英国の名園巡り メッセル家の愛した四季の庭「ナイマンズ」 ・英国の名園巡り、プランツマンの情熱が生んだ名園「ヒドコート」 ・ガーデナー憧れの地「シシングハースト・カースル・ガーデン」誕生の物語
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海外の庭
世界の庭に見る、花の植え方の違いと各国の特徴【世界のガーデンを探る20】
各国の特徴が現れるガーデン植栽 前回まではヨーロッパの庭の遍歴を見てきました。メソポタミアからイスラムの庭、イタリアルネッサンスからフランスの貴族の庭、そしてドーバー海峡を渡ってイギリスのブルジョアジーの庭まで、主に庭のスタイルが中心でした。今回は少し視点を変えて、植物の使い方を中心に歴史を探ってみましょう。 イスラムの庭 ・スペイン「アルハンブラ宮殿」【世界のガーデンを探る旅1】 イタリアルネッサンスの庭 ・イタリア「チボリ公園」【世界のガーデンを探る旅2】 ・イタリア「ボッロメオ宮殿」【世界のガーデンを探る旅3】 ・これぞイタリアの色づかい「ヴィラ・ターラント」【世界のガーデンを探る旅4】 ・イタリア式庭園の特徴が凝縮された「ヴィラ・カルロッタ」【世界のガーデンを探る旅5】 フランス貴族の庭 ・フランス「ヴェルサイユ宮殿」デザイン編【世界のガーデンを探る旅6】 ・フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】 ・フランス「リュクサンブール宮殿」の花壇【世界のガーデンを探る旅8】 イギリスのブルジョワジーの庭 ・イギリス「ハンプトン・コート宮殿」の庭【世界のガーデンを探る旅11】 ・イギリス「ペンズハースト・プレイス・アンド・ガーデンズ」の庭【世界のガーデンを探る旅12】 ・イギリスに現存する歴史あるイタリア式庭園【世界のガーデンを探る旅13】 ・イギリス発祥の庭デザイン「ノットガーデン」【世界のガーデンを探る旅14】 ・イングリッシュガーデン以前の17世紀の庭デザイン【世界のガーデンを探る旅15】 ・プラントハンターの時代の庭【世界のガーデンを探る旅16】 ・イングランド式庭園の初期の最高傑作「ローシャム・パーク」【世界のガーデンを探る旅17】 ・世界遺産にも登録された時代の中心地「ブレナム宮殿」【世界のガーデンを探る18】 ・現在のイングリッシュガーデンのイメージを作った庭「ヘスタークーム」【世界のガーデンを探る19】 上に挙げた4枚の写真は、現代の各国それぞれの特徴的な庭の写真です。庭がつくられた当時は、地球も今よりはもっと寒かっただろうし、植えられていた植物もこんなに派手ではなかったろうと思います。現在植えられている植物は、品種改良された園芸品種がほとんど。また、それぞれの庭のガーデナーが自分の好みにアレンジしているかもしれません。そのような時代による変遷も考えながら、植栽に注目して庭の歴史を感じ、つくられた当時の庭の植栽に思いをはせてみるのもまた面白いものです。 それでは、各国のガーデンと植栽を見ていきましょう。今回はスペイン、イタリア、そしてフランスの庭に見る、各国の植栽の特徴をご紹介します。 <スペイン> 水を主役に構成されたアラブの庭 アルハンブラ宮殿ができた時代は、もちろんプラントハンターが世界中にいろいろな植物を求めて世界の隅々まで出かけていった時代よりもはるかに前だったので、つくられた当時の庭は、おそらく今よりももっと地味だったのでしょう。もともとアルハンブラ宮殿の庭の主役は、植物よりも水のように感じられます。それは、遠く西アジアの乾燥地帯から乾燥した北アフリカを経由して、この地にやってきたイスラムの人たちの、豊かな水への憧れが強く表れているのではないでしょうか。 右から大きく枝垂れているのはブーゲンビレア、噴水の両側に植えられているのはバラです。 この庭では豊かな緑と水とのコントラストが見事に強調されていますが、植栽面ではこれといった特徴は見受けられません。基本は地中海性の乾燥した気候に合ったコニファーや常緑低木類がいまだに多く使われていて、ある程度は当時の姿をしのばせてくれています。 <イタリア> 世界の富が集まったイタリアルネッサンスの庭 イタリアの庭は、写真でも見られるようにはっきりとした色使いが特徴です。 特にイタリアンレッドとも呼ばれるビビッドな赤が印象的です。サルビアやケイトウ、ゼラニウムの赤が目を引きますが、もちろんこの庭ができた時代には新大陸からの花々はまだヨーロッパには紹介されていませんでした。したがって、つくられた当時にどのような花が植わっていたのかはとても興味深いものの、今はそれを知るすべもありません。 湖と空の青をバックに、ベゴニアとスタンダード仕立ての白バラがセレブな雰囲気を醸し出しています。 個人の住宅のベランダにも、プランターからあふれんばかりのペチュニアが咲き誇っています。これほど立派なハンギングは、他ではなかなか見ることができません。きっと丹精込めて管理されているのだと思います。抜けるような青空を背景にした原色系の色合いは、いかにもイタリア人好みです。 街の中も、とってもオシャレな雰囲気です。 <フランス> いまだにモネの色合いが色濃く残る配色 フランスには今でも印象派、特に植物が大好きだったモネの影響が色濃く残っています。 ヴェルサイユ宮殿の花壇。デルフィニウムのブルーが効果的に全体を引き締めています。その中に小型の赤のダリアを入れて、はっきりした組み合わせになっています。 フランスの花の植え方の特徴は、いくつもの異なる種類の植物を混ぜ合わせることです。いろいろな植物を組み合わせることにより、優しい色合いを作り出しています。 重厚なヴェルサイユ宮殿を背景に、少し高すぎるツゲヘッジ(生け垣)の中には、白のマーガレットやクレオメ、セージ、ルドベキア、ガウラなどが混植されています。 広々としたフランス式毛氈花壇。 イタリアでは見られなかった、優しいパステル調の組み合わせです。 イタリアでも使われていた赤と黄色の組み合わせでも、フランス人の手にかかると落ち着いた色になってしまいます。 このような混植花壇は他の国では見たことがありません。フランス恐るべし! ただただ感心するばかりです。 花壇では混ぜ合わせるのにとても難しい、自己主張の強いマリーゴールドも、オレンジと薄黄色を混ぜ合わせることで優しい色合いになっています。中心に背の高いブルーのサルビアを入れることにより、立体的な植栽にもなっています。そして1ピッチごとに銅葉のヒマ‘ニュージーランドパープル’を入れてボリュームをつくっています。 優しくカーブする園路に合わせ、背丈の低い花壇が両側につくられています。ここではピンクのペチュニアを中心に、オレンジのジニアや濃緋色のコリウス、ヘリオトロープなどを混ぜ合わせることで、浮いてしまいそうなピンクのペチュニアとの素敵なコンビネーションをつくっています。 写真では分かりにくいかもしれませんが、ランダムに混色されているように見える花壇も、数メートルごとのピッチで植えられています。どのようにして植物の組み合わせを決定し、植え方を決めるのかは分かりませんが、そのムダもなく他では見ることのできない混植方法には、ただ驚くばかりです。このようにさまざまな花色やテクスチャーの違う植物を混ぜ合わせることで、独特な印象派の雰囲気をつくっていると感じるのは僕だけではないはずです。 今回は、イスラムからイタリア、そしてフランスと、ヨーロッパ諸国の花や植物の植え方を見てきました。次回はイングリッシュガーデンの本場イギリス。ジーキル女史からチェルシーフラワーショウまでの現代の花の植え方と、僕の植え方について話をしていきたいと思います。
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ガーデン
現在のイングリッシュガーデンのイメージを作った庭「ヘスタークーム」【世界のガーデンを探る19】
いかにも“イングリッシュガーデン”らしい庭 ヘスタークーム(Hester Combe Gardens) ロンドンから西へひた走りに走り、ウェールズの手前、ブリストルから少し南西に下ったサマセット州に、今回ご紹介するヘスタークームはあります。この庭はおそらく、数あるイギリスの庭の中でも、日本人の持つイングリッシュガーデンのイメージに最も合っている庭のように思います。まとまりもよく、大きさ的にも色合い的にも、いかにも我々が持っているガーデンのイメージに当てはまるイギリス庭園です。 現在のガーデニングに大きな影響を与えた ガートルード・ジーキルのコテージガーデン 前回ご紹介したように、18〜19世紀のイギリス式風景庭園は、多くの富裕層の屋敷につくられ、その権力の象徴的存在でした。しかし、18世紀中頃から19世紀にかけて始まった産業革命によって、富の主役が貴族や王室の手からブルジョアジー(中産階級)へと移っていきます。それに伴い、庭の形態も広大な敷地のピクチャレスクな庭から、見える範囲にまとめられたガーデニスクな庭へと移り変わり、植栽に使われる植物にも変化が生じます。プラントハンターたちによって世界中から集められた珍しい植物ではなく、世界中からのアトラクティブな植物を含めイギリス本来の土地にあった宿根草が使われるようになったのです。 このような時代を背景にして、現れるべくして登場するのがガートルード・ジーキル女史(Gertrude Jekyll)です。彼女はもともと美術工芸家だったのですが、目が不自由になってきたこともあって、大好きだったガーデニングの世界へと入ってきました。 彼女の持っていた植物への知識と思い入れ、それと芸術家としての配色と組み合わせが、建築家のラッチェンス(Edwin Lutyens)と融合したことで、素晴らしい庭の数々を後世の我々に残してくれました。それまでのランドスケープ的な男性的で広大な風景式庭園から、ジーキル女史の出現によって、花咲くコテージガーデンが誕生したのです。 土地の傾斜をうまく利用したテラスガーデン、その向こうにこぢんまりとした屋敷があります。何人かのオーナーを経て、今はサマセット州の消防本部になっているため、庭の管理も消防署がやっているとのことです。この庭も、ジーキル女史とラッチェンスが出現する前には風景式庭園でしたが、オーナーが変わり、20世紀初めに2人によって今のような素敵な庭がつくられたのです。 そもそも、この庭の歴史は9世紀ごろから始まります。ワーレス一族が管理するようになった14世紀頃に庭の原形ができ、18世紀には15ヘクタールにも及ぶ広大な風景式庭園がつくられました。その後オーナーが変わり、1904年からラッチェンスとジーキルによって、この庭は改めてつくり直されました。第二次世界大戦の頃には、荒れて廃墟同然になってしまったのですが、1997年から復興プロジェクトが始まり、ジーキル女史の書いた図面をもとに、現在はほぼ当時のままに再現されています。 フォーマルな雰囲気漂う 色彩にあふれたメインガーデン ヘスタークームのメインガーデンでは、石で作られたパーゴラにより、庭の向こうに広がる田園風景に繋がる景色をクローズさせながら、まとまった空間を作り出しています。これはラッチェンスの得意な手法の一つです。メインガーデンでは、園路を十文字に配するのではなく対角線状に配することにより、メソポタミアから連綿と受け継がれてきたフォーマルガーデンのスタイルをラッチェンス風に見事にアレンジさせ、そこにジーキル女史の花が咲き乱れる世界最高のコンビネーションを作り出しています。 この庭では、嬉しいことに、今も当時のままに再現された植栽を見ることができます。修景バラの向こうには、はっきりした青紫のデルフィニウムやオレンジのヒューケラが。その間をラベンダーがつなぎ、2つの色彩を優しくミックスさせています。遠くに見える薄い黄色の大きな花はバーバスカムの塊、その横のもっこりとした赤い色は日本のベニシダレモミジです。 庭の随所に散りばめられたジーキル女史の植栽センスと ラッチェンスのハードランドスケープ メインガーデンへと続く階段。もともとあった傾斜にストーンウォールでうまく変化をつけながら、ガーデンへ降りていくように設計されています。ゆったりとした石の階段には、エリゲロン(源平小菊)がぎっしり生えています。また、ジーキル女史のお気に入りのシルバーリーフプランツや淡い色彩で、彼女らしい雰囲気を作り出しています。 石垣に埋もれるようにベンチを置くことで、落ち着いたスペースができています。このベンチに座っていると、庭に溶け込んでしまいそうに感じられます。 さまざまなサイズの平石を組み合わせて、とかく単調で堅くなりがちなペイビング(舗装)のテイストを和らげると同時に、エリゲロンで石の断面を優しく隠しています。石材の小端積みにも所々隙間を空けて、植物の入るスペースを作っています。 階段脇の樽のポットも、全ての段に置かず、途中が抜けていることで、重々しさをなくして開放感が感じられます。手前の両脇にはシダが植えられていて、エリゲロンとうまく調和しています。 庭の奥の壁泉から続くのは、これぞ2人で共作したからこその見せ場ともいえる立体的な水の流れです。角ばった石にうまく立体的に植物を絡ませて、一つながりの素晴らしい空間を作り出しています。純白の花を多く使い、周りの宿根草ボーダーとのコンビネーションも絶妙です。ジーキル女史は芝の遠路とボーダーの幅、それと植物の高さにはかなりこだわりを持っていました。 オランジェリーの前に広がる花壇の植栽は、シルバーリーフを多く使ったジーキル女史らしいカラースキーム(配色)です。少し前までは、ここでしかジーキル女史の植栽が見られなかったのですが、最近は彼女が手がけた多くの庭が、残された植栽図によって、当時のように復元されてきたことは嬉しい限りです。 彼女の植栽方法が、今のイングリッシュガーデンのほぼ全てに強い影響を及ぼしていることは、疑う余地のないところです。このヘスタークームのガーデンでは、そんな彼女のセンスと色彩感覚が存分に発揮されています。 現代につながるイングリッシュコテージガーデンの基礎を作ったジーキル女史とラッチェンス、2人の最高傑作ともいえる「ヘスタークーム」いかがでしたでしょうか? 次回は、今まで見てきた花の植え方や庭のスタイルについて、イタリア、フランス、イギリス、そして日本と比較してみたいと思います。 併せて読みたい ・イングランド式庭園の初期の最高傑作「ローシャム・パーク」【世界のガーデンを探る旅17】 ・英国「シシングハースト・カースル・ガーデン」色彩豊かなローズガーデン&サウスコテージガーデン ・美しき家と庭 英国モリス・デザインの世界を体感する「スタンデン・ハウス・アンド・ガーデン」