いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-

いまい・ひではる/開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
今井秀治 -バラ写真家-の記事
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。茨城「つくばローズガーデン」
今から10年ほど前に雑誌の企画で「オープンガーデンつくば」さんに取材に伺った際、何人かの方から「オープンガーデンのグループではないですけど、元市長の藤澤さんがつくった、なかなか立派なバラ園がありますよ」と教えていただいたことがありました。その時はそのまま忘れてしまっていましたが、オープンガーデンの取材も終わり、お世話になった方にお礼の電話をしている時に「来年は藤澤さんのお庭にぜひ行かれたらいいですよ」と改めて薦めていただいたことがお付き合いの始まりでした。 とはいっても、元市長さんに電話をするのは気後れして、大きな白いお屋敷にハイブリッドティーだらけのバラ園という勝手なイメージも邪魔をして、なかなか電話をできずにいました。しばらくどうしたものかと考えた末、やっと電話をかけてみると、藤澤さんはとてもていねいな優しい口調の方で、「写真に撮っていただけるような庭かどうか分かりませんが、それでもよかったらお越しください」と言ってくださいました。 最初の電話から半年が過ぎ、いよいよ再びバラのシーズンが始まり、藤沢さんのバラ園の撮影当日、どんな庭だろうと思いながら伺ってみると、目の前に現れたその庭は無数のバラが咲き乱れる、僕の勝手な想像とはまったく違う夢のような庭でした。 中央の緑の芝生のスペースを囲むように、左側にはツゲのヘッジに囲まれたオールドローズのエリア、その向こう側には大小さまざまなパーゴラが立ち並ぶイングリッシュローズのエリア。さらに奥には、フレンチブルーに塗られたトンネルに、フレンチローズが咲き乱れています。またまた奥のフェンスには、満開のつるバラ。右側のヘッジの中はミニバラのスタンダードとイングリッシュローズが咲き乱れ、見渡す限りすべてのバラが今が盛りと5月の優しい光の中で美しく咲いています。 バラ園の入り口で藤澤さんに挨拶をすませ、早速中へ。午後3時半の少し傾きかけた太陽の位置を確認して、撮影ポイントを探しながら歩き回ると、つるバラのアーチの下をくぐるときも、イングリッシュローズのパーゴラの脇を通るときも、さまざまな心地よいバラの香りに包まれます。きれいに咲いた花を見つけては、まず顔を近づけて香りを嗅いでから数枚のシャッターを切り、心の中で「ありがとう」とつぶやいてから次の花へ。そんな幸せな気分で過ごした日暮れまでの3時間でした。 藤澤さんは市長を務めている頃、つくば市にバラ園があるといいなと考えていたそうですが実現することはなく、ならば自宅の前の畑をバラ園に変えようと行動したそうです。バラ園をつくると決めた藤澤さんは、毎日のようにガーデニング誌『BISES』やDVDの『オードリー・ヘプバーンの庭園紀行』を見ながら構想を練り、馬ふん堆肥やウッドチップを使った土づくりから、パーゴラやアーチの製作、2,500株に及ぶバラの植え付けまで、1人ですべてをやってしまったというから驚きます。 バラの選定は千葉県のバラ園「草ぶえの丘」に通って、すっかり気に入ったオールドローズでと決めていましたが、知り合いからの意見もあり、ちょうどその頃流行りだしたイングリッシュローズを主流にしたそうです。それから13年間、毎年毎年4トンの馬ふん堆肥を入れ、米ぬかやカニ殻を自分流にブレンドした有機肥料を使いながらバラ園を育ててきた藤澤さん。 「バラを育てるのは難しいです。剪定も毎年悩みながらやっています。うまくいった年もあるし、うまくいかなかった年もあります。だからうまくいったら嬉しいし、うまくいかなかったら悔しいです。だからまた頑張れる。何といっても、きれいに咲いた時にお客様が喜んでくれるのが一番嬉しいです」と、いつもの笑顔で教えてくれました。 このバラ園での一番の思い出は、2014年に藤澤さんの発案で、福島県にあった「双葉ばら園」の写真展を開催できたことです。きっかけは、3.11の東日本大震災で被災された「双葉ばら園」の園主、岡田勝秀さんの仮住まいがご近所だったこと。岡田さんがときどき藤澤さんのバラ園にも来てくださることもあって、岡田さんへのエールの気持ちも込めた写真展企画でした。2013年発行の『BISES』No.87で双葉ばら園の特集を掲載していただいた八木編集長にも写真展への協力をお願いしたところ、快く引き受けていただき、「一瞬で幻となった双葉ばら園の43年間の記憶」という特集タイトルを写真展でも使わせていただきました。また、心のこもった挨拶文までいただいたのは、僕だけでなく藤澤さんにも岡田さんにも、本当に忘れられない思い出です。 先日、この記事を執筆することをお伝えするために藤澤さんを訪ねました。「原稿は今井さんにお任せしますよ。今年はつぼみがたくさんつきましたから楽しみです」と、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれました。
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ガーデン&ショップ
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。滋賀「English Gardenローザンベリー多和田」のパンジービオラフェスティバル
「English Garden ローザンベリー多和田」で開かれた「パンジービオラフェスティバル」 「English Garden ローザンベリー多和田」は、オーナーの大澤恵理子さんが、細部にまでこだわってガーデンをつくってこられました。大澤さんもイギリスがお好きのようで、私のようなイギリス好きのカメラマンにとっては、たまらないガーデンです。そんな素敵なガーデンを会場にして、日本各地から育種家さんの可愛いビオラが集められ、撮影ができるという夢のようなイベント「パンジービオラフェスティバル」が開催されるというのですから、ワクワクして出かけたのはご想像の通りです。 ビオラが好きになった20年前の記憶 元々僕は白や青、薄いピンクの小花みたいな花が好きだったので、ビオラは好きな花でした。そのビオラが大好きになったのは20数年くらい前、千葉県富里市の沖縄出身のご夫婦がなさっている「七栄グリーン」と言うお店との出会いがきっかけでした。七栄グリーンは、とってもセンスの良いカラーリーフを使った寄せ植えとハンギングで有名なお店で、僕も機会があるごとにうかがって撮影をしていました。そんな七栄グリーンの寄せ植えに欠かせない花がビオラでした。 その当時は、まだ“育種家さんのビオラ”のような個性的な品種はなかったのですが、七栄グリーンさんは大手の種苗会社のカタログの中からきれいなビオラをセレクトして、棚の上にはいつもかわいいビオラがたくさん並んでいて、僕もそんなビオラを使ってよく寄せ植えをつくっていました。 その後七栄グリーンさんは沖縄に帰られお店はクローズしてしまったのですが、最近はホームセンターなどでも見元さんや他の方々が生み出したかわいいビオラが手に入るようになったので、寄せ植えは今でも時々つくっています。 育種家さんのビオラとの出会い 僕が最初に育種家さんのビオラに出会ったのは、雑誌の取材で訪れた北海道札幌市にある「国営滝野すずらん丘陵公園」で、梅木あゆみさんが主催するイベントでした。その以前にもいろいろな方から「宮崎の育種家さんのビオラが素晴らしいよ」と、話は聞いていたので、是非拝見したいと思っていました。実際に見る育種家さんによるビオラは、色も形も大きさも想像以上にバラエティに富んでいて素晴らしく、興奮しながら撮影したのを覚えています。 その後は大阪の園芸店「Kanekyu金久」さんに取材に行ったり、神奈川県横浜市の笈川さんのハウスにお邪魔していろんなビオラを見てきました。知り合いのガーデンラバーさん達は、もうとっくに宮崎にまで行っていたりして、「今度一緒に宮崎に行きませんか?」と誘われてしまうほど育種家さんのビオラは、僕にとってしっかり撮影してみたい憧れの花になってしまいました。 自宅から5時間かけて「ローザンベリー多和田」へ そんな憧れのビオラが「ローザンベリー多和田」さんに勢揃いすると聞いたら、行かないわけにはいきません。4月4日、当日の天気を確認していざ出発です。自宅の千葉からローザンベリー多和田のある米原までは450kmおよそ5時間のドライブです。暗いうちに出発したので、お昼前には無事到着。SNSのショートメールでガーデナーのヒデさんに連絡してゲートへ向かうと、4日は休園日とのことで園内はガラーンとしていました。これは、ビオラ独り占めで撮影ができる! 素晴らしい機会となりました。 ローザンベリーと言えばアンティークレンガの塀とメタセコイアのロングウォークが有名ですが、その塀の前には分かりやすく、育種家さんごとにテーブルが置かれていました。アイアンのフェンスの前には、大きなハンギングやテラコッタがいくつも、いくつも並べられていています。 カメラマンとしては、育種家さんごとに全部の花をカメラに収めたいし、大作のハンギングやテーブルの上のグルーピングの写真も撮りたい。撮っても撮っても終わらない大変な一日になってしまいましたが、どの花も可愛く、どのハンギングも素敵だったので、不思議と疲れは感じない充実感いっぱいの幸せな一日になりました。 ○2018年のビオラフェアー パンジービオラフェスティバル は、3月17日(土)~4月15日(日)の開催です。詳しくはホームページ(http://www.rb-tawada.com)でご確認ください。 ○この記事でご紹介してきたすべての写真は、すべて「English Garden ローザンベリー多和田」で今井秀治さんが撮影したものです。 Information English Garden ローザンベリー多和田 所在地:滋賀県米原市多和田605-10 TEL:0749-54-2323 http://www.rb-tawada.com アクセス:名神高速道路 一宮ICより約40分 JR米原駅よりタクシーで約15分 オープン期間:火曜休(祝日の場合は営業) ※冬季休園あり 2018年は3月17日(土)からの営業(オープン期間はHPにてご確認ください) 営業時間:10:00〜17:00(レストランは11:00〜15:00) ※冬季(12〜3月)は10:00〜16:00の営業 入園料:大人(中学生以上)800円、小人(4歳以上)400円、3歳以下無料 ※団体は15名以上、割引あり Credit 写真&文/今井秀治 バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。絵を描くように植栽する愛知・黒田邸
カメラマンの視点でバラの庭をご案内 愛知県豊橋市の黒田和重さんがつくる庭は、数々のガーデン雑誌でも紹介されてきた花好きの人たちにとっては有名な場所です。これまで10年もの間、その成熟していく様子を毎年見続けてきた、僕にとっても思い入れのある庭の一つです。 初めて黒田さんの庭を訪ねたのは、2007年2月の終わりのこと。とてもお世話になっていた豊橋にある花屋さんに「今井さん好みの最高に素敵なお庭があるから」と紹介されたのがきっかけでした。店での取材を終えて、さっそく車で10分ほどの場所にあるその庭を訪ねてみました。すると、庭主の黒田さんともお会いすることができ、聞くところによるとイギリスのコテージガーデンが好きで庭づくりを始めたといいます。いくつかのエリアに区切られた回遊式の、まるでイギリスの庭を移築してきたかと錯覚させられるほど素敵なデザインでした。 イギリスのガーデン雑誌をお手本に庭づくり 当時は大のバラブームで、つるバラの庭や、流行のイングリッシュローズをコレクションした庭などはたくさん見てきましたが、訪れた黒田さんの庭はほかとは違う魅力がありました。まるで、以前イギリスに行った時に巡った庭を思わせるような、しっかりとデザインされた庭でした。 きっと何度もイギリスに行かれたのだろうと思いながら、施主の黒田さんに僕のイギリスでの庭巡りについて話していたのですが、「私は一度もイギリスには行ったことがないんですよ。ひたすらイギリスのガーデン雑誌を見て勉強しました」と言うんですから、本当に驚きました。 初訪問は寒風が吹く2月でしたので、バラが咲き乱れる5月の庭を想像しながら初対面とは思えない黒田さんとの楽しい庭談義の時間を過ごして、5月に撮影に来る約束をして帰りました。 バラの最盛期に訪れた輝く庭 そして同じ年の5月中旬。期待に胸を膨らませて訪れた黒田さんの庭は、まさに想像以上! ちょっと大げさに言うと、本当にここが日本なの? と思わせるほど見事な景色でした。きれいに刈り込まれたツゲのヘッジ、庭を取り囲む塀にはさまざまなバラとクレマチスが咲き乱れています。 当時いろいろな園芸雑誌の企画で、バラとクレマチスの組み合わせが注目されていましたが、実際にはなかなか成功させている庭がなくて取材に苦労していた頃です。そんななか、この庭ではごく当たり前に、しかもとてもセンスよくバラとクレマチス、ジギタリスやデルフィニウムまでが美しく調和して咲き誇っていました。黒田さんのセンスと植物をちゃんと育てられる力には本当に脱帽です。夢中で時間も忘れてシャッターを切り続けた幸せな時間を、今も思い出します。 よりよいバラの庭を目指して年々グレードアップ それから毎年5月になると、一番気になるのが黒田さんの庭です。黒田さんはいつも「自分の庭がどうしたらもっとよくなるか」ばかり考えている方です。お会いした時はいつも「よいバラがあったら教えて」とか「新しいバラでうちに入れたらよいバラは何か?」とか、庭の話題が尽きません。 2013年に伺った時も、バラのコンディションやボリュームともに完璧。ボーダー花壇にいたっては、イキシア・ビリディフローラという翡翠色の球根まで入っていて、これ以上ない完璧な庭になっていました。さすがに黒田さんの庭も完成だなと思っていたら、翌年には美しかったボーダー花壇をつくり直し、生け垣だった場所は、神谷造園さんのコッツウォルドストーンの塀につくり替えられていました。黒田さんの庭に完成という言葉はないようです。 バラが咲き乱れる感動の光景の数々 2017年も5月22日、朝5時少し前に駐車場に車を止めると、もう掃除をすませた黒田さんがいつもの笑顔で出迎えてくれました。まだ5時前のボーッとした光の中、挨拶もそこそこに黒田さんの後ろについて庭の入り口に行ってみると、今年もまた一段と素晴らしい光景が目の前に広がりました。‘ランブリング・レクター’の花綱はまさに圧巻! 隣にはアルバローズの名花‘マダム・ルグラ・ドゥ・サンジェルマン’、奥には‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’が家の塀を覆い尽くしていました。3品種の白バラと青のキャットミント、ピンクの小花、そして青々と茂る緑の芝生……。息を呑むほどの美しさで、まるで一枚の絵画のようです。 朝の光を浴びて‘ランブリング・レクター’が輝き出すまで、まだ少し時間がありそうなので、三脚にカメラをセットして庭の中へ入っていきました。これまで何度も通った馴染みの光景だけれど、よく手入れされた朝の庭は本当に気持ちがよいものです。深呼吸をしながら、「キッチン前の窓辺のベンチとホスタ」、「フェンスに掛かっているピンクのオールドローズ」という風に頭の中で1枚ずつシャッターを切りながら歩いていきます。 いい光を探してシャッターを切る そうこうしているうちに、東の空からパーッと朝の光が差し込んできました。急いでカメラに戻ってみると、柔らかな朝日が‘ランブリング・レクター’の左上から当たり始めていたので、何枚かシャッターを切ってひと安心。 もう一度庭に戻り、今日撮れそうなカットをまた探しながら、きれいに光が当たってきたコーナーでは撮影をして、光の感じが変わったらまた最初の入り口に戻ってもう一度シャッターを切ります。朝はほんの数分で全然違う光景になってしまうので、ここぞというチャンスには、いつもシャッターは5分おきくらいに数回は切るようにしています。 僕の撮影を実際に見たことがある人から「今井さんは同じ所を、何回も何回も走り回っている」とよく言われます。そう、庭の撮影には微妙な光のニュアンスを見極める目が必要だと常々思うのです。光が強くなってくる7時過ぎには撮影を終了させて、ようやく黒田さんが入れてくれた香り豊かなコーヒーを飲みながら、しばし庭談義。こうして、今年もいい光を捉える幸せな撮影時間を過ごすことができました。