神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。近著に『薔薇ごよみ365日 育てる、愛でる、語る』(誠文堂新光社)、『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)、『ときめく薔薇図鑑』(山と渓谷社)著、『バラの物語 いにしえから続く花の女王の運命』、『ちいさな手のひら事典 バラ』(グラフィック社)監修など。TBSテレビ「マツコの知らない世界」で「美しく優雅~バラの世界」を紹介。
元木はるみ -「日本ローズライフコーディネーター協会」代表-
神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。近著に『薔薇ごよみ365日 育てる、愛でる、語る』(誠文堂新光社)、『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)、『ときめく薔薇図鑑』(山と渓谷社)著、『バラの物語 いにしえから続く花の女王の運命』、『ちいさな手のひら事典 バラ』(グラフィック社)監修など。TBSテレビ「マツコの知らない世界」で「美しく優雅~バラの世界」を紹介。
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育て方
実録! バラがメインの庭づくり第12話 冬のバラ仕事第1弾~誘引・仮剪定
まずは、枝が徒長するバラたちの誘引をスタート 今年も12月に入り、だいぶ冬らしい寒さがやってきました。毎年この時期の四季咲き性のバラは、寒さに耐えながらも、まるで今年一年の名残りを惜しむかのように、長く花を茎に留めています。 しかし、12月頃から枝が伸長するバラ、特にクライミングローズやランブラーローズ、シュラブローズ、つる性のオールドローズや原種のバラたちは、誘引を始める時期でもあります。 私も、新居で初めて迎える冬のバラ仕事を頑張りつつ、今回は、その第1弾となる「誘引」と「仮剪定」の2つについてご説明します。 冬のバラ栽培お手入れ1 バラの誘引 バラの誘引とは 思い描く「バラの花咲く風景」を作るために、バラの枝を整理して、ワイヤーなどで、構造物や支柱、樹木に固定していく作業のことです。 誘引を行わないと、枝が暴れて、思い描く風景は実現できないことが多く、花数や花の大きさにも影響します。 頂芽優勢と誘引作業 多くの植物は、茎の先端にある頂芽の成長のほうが、側芽の成長よりも優先される「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」の性質を持っています。バラも同じで、枝が上に向いていると、その先端ばかりに花が咲いてしまいます。 枝が伸長するつる性のバラは、枝を横や斜めに誘引することで、たくさんの花芽をつけ、「バラの花咲く風景」を作ることができます。 誘引作業の時期 これからさらに寒くなり、気温の低い日が続くと、枝がしまって硬くなり、曲げると折れやすくなるなど、誘引しにくくなってきます。また、2月下旬や3月の新芽が動き始める時期に誘引をすると、頂芽優勢の性質から芽の向きがバラバラで、揃うまで時間がかかってしまうことも。逆に、気温が低くなる前に早く誘引作業を行うと、新芽が動いてしまい、その後の冷気によって傷んで駄目になってしまうことがあります。 ですので、地域差はありますが、誘引作業はおおむね12月中旬~1月下旬頃が適期となります。 誘引作業の実例 私が誘引作業で使用しているものは、直径1.6mmのワイヤー、ペンチ、剪定鋏です。 ワイヤーを利用する理由は、フェンスの隙間があまりないことと、枝に軽く巻いて、誘引したい方向に向けながら固定できるからです。 誘引作業実例1 隣地との境にあるフェンスに、今年5月に咲いた‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’(R)の様子。 その後、12月になると誘引前の枝が暴れてしまっています。 今年新しく発生した勢いのよいサイドシュートを残し、その先をカットしているところ。 他に、赤線部分の細く弱々しい小枝や、同じ所から2本発生している枝は、充実していないほうをカットします。 残っている葉や花を取り除くと枝がよく見えるようになり、残す枝とカットする枝の判断がしやすくなります。また、古い葉に付いた病害虫を新芽にうつさないためにも、葉はきれいに取り除きます。 冬に葉を取り去り整枝されたバラは、今まで通りの光合成ができなくなり、休眠します。この冬の休眠期間には、土を掘ったりして多少根を傷つけても大丈夫なので、元肥の施肥や植え替えなど、ほかの時期にはできない作業が可能となります。 誘引作業実例2 コンサバトリー前の細めのアーチに誘引した‘フランソワ・ジュランビル’(R)。 誘引作業実例3 オベリスクに誘引した、まだ小さな株の‘クリスティアーナ’(Cl)。 誘引作業実例4 庭を囲む鋳物のフェンスに誘引したツクシイバラ(Sp)。 誘引と剪定でバラが咲く景色を作ろう 自分自身が思い描く「バラの花咲く風景」に沿って、これからも誘引作業を進めていきます。以下は、2020年春の「バラの花咲く風景」の一コマです。 愛らしさと洗練を併せ持つ可憐な花が鈴なりに咲いて、新居の庭で初めて迎えた春を優しく飾ってくれました。 しなやかに枝垂れる枝先に咲くピンクの房咲きのバラ。少しラベンダーがかる優しい色が、白いフェンスに映えて。 25年以上、毎年冬に誘引し、春になるとたわわに咲いた姿を見せてくれましたが、残念ながら地域の区画整理のために、これが最後の開花でした。 冬のバラ栽培お手入れ2 バラの仮剪定作業 仮剪定とは ここまでご紹介したつる性のバラ以外も、特に地植えのバラたちは、12月になると枝が伸長し、樹形が乱れてきている頃かと思います。これから冬の元肥を与えますが、余分な枝に栄養分が取られないためにも、枝先を軽く剪定します。これは、本剪定前の浅めの剪定ですので、「仮剪定」と呼んで区別しています。さらには不要な枝、つまり枯れた枝や内側に向かって伸びたふところ枝、細く弱々しい枝、古い枝、害虫の被害にあった枝などを取り除く整枝も行います。 *ただし、まだ小さな株、鉢植えにしてコンパクトに育てている株などは、仮剪定は行わず、本剪定のみで大丈夫です。 *くれぐれも枝を短くしすぎないよう、切りすぎに注意します。 本剪定との違い 本剪定とは、2月下旬~3月上旬頃に行う「冬の強剪定」のことで、春の樹形や花の位置、花数に大きく影響する大切な剪定です。一年を通して最も枝を深くカットするもので、株を若返らせ、リセットできる剪定でもあります。本剪定は、充実した枝や芽の上で切ることがポイントです。その充実した枝や芽の準備のためにも、仮剪定や元肥、水分が大切になります。 仮剪定作業の時期 冬の元肥と本剪定をする前に行いますので、地域差はありますが、12月中旬~1月上旬頃が適期となります。私は、毎年、四季咲き性のバラをお正月頃まで楽しみ、花が終わった株から順次、仮剪定をしていきます。 仮剪定作業の実例 四季咲き性の鉢植えのバラは、花が咲き終わり、玄関先で冬の落葉が始まって枝も乱れています。 枝先を軽く切り、枝葉を整えました。 何かと慌ただしい師走ですが、毎日少しずつでも、バラとの時間を楽しんでください。誘引作業や仮剪定作業は、綺麗に決まると、とても気持ちのよいものです。最初はうまくできなくても、実際に自分自身で行う経験がとても大切です。 来春の「バラの花咲く風景」の準備は、もう始まっています。 来年はどうなるか、今からとても楽しみです。
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実録! バラがメインの庭づくり第11話 晩秋に咲くバラで「クリスタライズドローズ」作り
2020年秋咲きバラの開花 今年初旬、引っ越し準備を進めて新居の庭にバラを移植し、初めて迎えた秋。我が家の秋バラは、例年よりだいぶ遅れて咲き出しました。公共のバラ園でも、今年は遅く開花したところが多かったようです。 その原因は、10月の低温。9月の剪定を例年通りに行ったところ、10月になり気温の低い日が続いたために、つぼみはできていても開花までに時間がかかってしまったのです。 秋のバラは品種にもよりますが、9月に剪定し、花が見頃を迎えるまで約50日かかるといわれています。例年でしたら、9月1日に剪定すれば、10月20日前後が見頃となるところ、今年は10月末が見頃となり、11月に入ってもたくさん花を咲かせています。 剪定を早めに行った場合は、例年と同じ時期に見頃を迎えたようですが、自然が相手なので、見頃が前後するのは仕方ないのかと思います。 すでに晩秋となってしまいましたが、私の庭のバラたちはまだ咲き続けています。 今回は、初めて迎えた新しい庭での晩秋に咲くバラと、暮らしの中での楽しみ方として、バラの花弁で作る「クリスタライズドローズ」もご紹介します。 今年の秋バラの様子をご紹介します 写真は、秋の七草の一つ、フジバカマを背景に、‘ローズ・ポンパドール’(S)(2009年 仏 デルバール作出)と‘ザ・ダークレディ’(S)(1991年 英 D.オースチン作出)に、庭の草花を組み合わせたアレンジメントのある風景です。 気品のあるダイヤモンドリリー(ネリネ)と‘スーヴニール・ドゥ・ラ・メゾン’(B)(1843年 仏 ベルーゼ作出)が寄り添い咲きました。 春に咲き、秋にも返り咲いたピンクのリナリア・パープレア‘キャノンJウェント’。 リナリア・パープレアのそばには、‘ザ・ダークレディ’(S)が真紅の花を咲かせて、調和を見せています。 今年の2月に以前の庭から移植したものの、春にあまり元気がなかったバラが、晩秋になって元気に復活してくれました。 その中の一つ、切れ込みのある優しい色合いの大きな花弁の花をふっさりと咲かせ、濃厚なフルーティー香を漂わせる‘ソフィー・ロシャス’(Cl)(2019年 仏 デルバール作出)。 特徴のある美しい花を、来年にはたくさん咲かせたいと思います。 ‘ゴールデン・セレブレーション’(S)(1992年 英 D.オースチン作出)も、大きな株だったため、新しい庭に移植した時は元気がなく、春には花が一つも見られませんでしたが、晩秋になって、秋の青空に美しく映える姿を見せてくれました。 春~晩秋にかけて元気に咲き続けたバラたち マリー・アントワネットが愛した離宮プチ・トリアノンの名を冠したフロリバンダの‘プチ・トリアノン’(2006年 仏 メイアン作出)は、四季を通して、表情を少し変えながらも、優しいピンクの美しい花を咲かせてくれました。 花もちに優れる和バラの‘雅(みやび)’(HT)(2014年 日 Rose Farm keiji 作出)は、一つ花が終わると、次の花がまた長く楽しめるという、とても観賞期間の長いバラです。写真は、色が褪せても、花形を美しく保ったままの秋の姿です。 無農薬で栽培していても、つやのある元気な葉を落とさず、春~晩秋にかけて次々と丸いピンクのつぼみを上げて愛らしい花を咲かせたフロリバンダの‘ラリッサ・バルコニア’(2014年 独 コルデス作出)。コンパクトな樹形で、花壇の最前列で元気な姿を見せてくれました。 「クリスタライズドローズ」の作り方 晩秋になると、バラの花の中にいる害虫、スリップスもだいぶ減り、空気が乾燥しやすくなりますので、植物をドライにするには最適な時期です。 この時期、よく作るのは、花弁を利用した砂糖菓子「クリスタライズドローズ」です。 今回使用する花弁は、ダマスク香に、ティーの香りが混ざるイングリッシュローズの‘プリンセス・アレキサンドラ・オブ・ケント’(2007年 英 D.オースチン作出)です。 火を通して作るローズジャムや、生でそのままいただく場合は、ダマスク香で柔らかい花弁が美味しくておすすめです。でも「クリスタライズドローズ」は、ダマスク香以外のバラでも、また多少、花弁が硬めであっても美味しくいただくことができます。作る際も、うねりがあったり、反り返ったりする柔らかい花弁より、多少硬めでも形が整った花弁のほうが作りやすいと感じます(*花弁は、無農薬で栽培したバラ、または、食べても安全な方法で育てられたものに限ります)。 <材料> 軽く水洗いして、水気を取った花弁(1輪分)と、卵白(1個分)にレモン汁小さじ1を混ぜたもの。そしてグラニュー糖を用意。 フォークや指を使って、花弁にレモン汁を混ぜた卵白を薄く塗ります。 そして、グラニュー糖を表裏に付けます(グラニュー糖が乾燥剤の役目となりますので、均一に付くようにします)。 平らなお皿にクッキングシートを敷き、間隔を離して並べます。そして、風通しのよい室内か冷蔵庫に入れて、5日~1週間ほど。パリっと乾燥したら完成です。 なお、室内だと雨天が続く場合は乾燥するまでもう少し時間がかかります。 その後保存する場合は、乾燥剤を入れた密封容器に。約3カ月以内で、香りが残っているうちに食べきりましょう。 冬に花が見られなくなっても、「クリスタライズドローズ」を手作りしておけば、バラの香りや味わいを楽しむことができます。 来月12月は、つるバラの誘引など、来春に向けての準備の始まりの時期となります。 今年一年間のバラや庭を振り返って、残念ながら思うように咲いてくれなかったバラ、春と秋の宿根草との組み合わせでうまくいったことや、いかなかったことなど、今から情報を整理して、新たな一年のプランニングに役立てましょう。 バラを育てることや庭づくりは、失敗から学ぶことが多く、その経験を生かしながら進めていくものです。うまくいかなかったとしても落ち込む必要はなく、楽しみながら続けていくことが大切です。 新しく迎えるバラたちの植栽場所や鉢、用土や肥料、資材なども、今のうちに準備しておきましょう。
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実録! バラがメインの庭づくり第10話~秋バラ開花~秋に咲くティーローズに魅せられて
私の庭に咲く秋バラ「ティーローズ」 10月になり、楽しみな秋バラの開花シーズンに入りました。 秋に咲くバラは、花色が冴え、花もちもよく、春に比べるとボリュームや花数は少ないとはいえ、秋ならではの静寂な空気の中に佇む凛とした姿に、魅力を感じる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。 今回は、私も庭で育てている秋にいっそう美しく見える「ティーローズ」の魅力を、古い文献とともに、ご紹介させていただきたいと思います。 まずティーローズとは、中国からヨーロッパに渡った‘ヒュームズ・ブラッシュ・ティー・センティッド・チャイナ’、もしくは、つる性の‘パークス・イエロー・ティー・センティッド・チャイナ’をもとに、新しく誕生したバラのことで、その品種群を「ティー系統」といいます。 上記の2品種は、花から紅茶の香りを感じることからティーローズと呼ばれ、その香りと剣弁となる花弁の性質を、大輪で白い5弁の剣弁花を咲かせるロサ・ギガンティアから引き継いでいるといわれています。 ‘ヒュームズ・ブラッシュ・ティー・センティッド・チャイナ’は、1808~1809年にかけて、イギリス在住のエイブラハム・ヒューム(1749-1838)が、東インド会社を通して広東の育苗商から入手し、イギリスに持ち帰ったといわれています。 ‘パークス・イエロー・ティー・センティッド・チャイナ’は、1823年、英国王立園芸協会からキク類とバラ類の調査のために中国へ派遣されたジョン・ダンパー・パークス(1792-1866)が、広東省の育苗商から入手し、英国王立園芸協会に送ったといわれています。花色が淡黄色の大輪で芳香のあるこのバラが、後に「パークス・イエロー・ティー・ センティッド・チャイナ」と呼ばれ、クリームから黄色系のティーローズの祖となりました。 150年以上前の欧米人をも魅了したティーローズの‘サフラノ’ 秋も春も、他のバラよりひと足先に開花し、しなやかな枝先に、剣弁のセミダブルの中輪の花を咲かせます。うっすらとピンクを乗せた光沢のある黄色い花弁は、ソフトなクリーム色へと退色し、優しく控えめな印象です。 ティーローズ特有の、枝を斜め横に伸ばす性質で、我が家では‘サフラノ’を鉢植えで育てています。 ‘サフラノ’と‘アンナ・オリビエ’は、どちらも大好きなバラですが、花瓶に挿してみると、枝が斜め横向きですので、いつもとても活けにくいと感じます。 ですが、細い枝にうつむき加減に咲く花や細長いつぼみ、華奢な雰囲気がどことなく古風で優し気なイメージと重なり、とても魅力的です。 ‘サフラノ’は、明治時代に日本国内で「西王母(せいおうぼ)」と和名が付けられ流通していました。西王母とは、中国古代の仙女のこと。不老不死の薬をもつ神仙で、世界最高位の仙女ともいわれています。 現代のお花屋さんでは、ティーローズの切り花や、ティーローズを使用したアレンジメントやブーケなどは滅多にお目にかかれませんが、かつて1869年当時のアメリカ・ニューヨークのお花屋さんでは、この‘サフラノ’が、冬の切り花としても人気品種であったとのことで、とても驚きました。 ‘サフラノ’以外では、‘イサベラ・スプロント’、‘マルシャル・ナイル’などのティーローズ、‘ラマルク’などのノワゼットローズ、‘ヘルモサ’などのブルボンローズも切り花として人気だったそうです。その後、ティーローズが片親となり誕生したハイブリッド・ティー・ローズの品種が増え、切り花におけるバラの人気系統は、枝が真っすぐに伸び、花首がしっかりとして上を向いて咲くハイブリッド・ティー系統へと変わっていくこととなりました。 古書に記された‘サフラノ’ 以前にもご紹介させていただきましたが、こちらは、アメリカで園芸会社を経営し「園芸の父」と呼ばれたピーター・ヘンダースン(1822-1890)の1869年の著書『Practical Floriculture』の中で、バラの栽培について書かれた第15章を、水品梅處が日本語に翻訳した、日本で最初の西洋バラについての栽培書です。 この中で、‘サフラノ’に関する記述があり、「濃黄色、花多く、茶の香気あり」また、「深黄色の蕾、セミダブルの花」などと書かれています。 こちらも、アメリカで園芸会社を経営し、ヨーロッパのバラの園芸家たちとの交流もあったサミュエル・ボウン・パーソンズ(1819-1906年)の、1869年の著書『Parsons on the Rose』を、安井真八郎が日本語に翻訳したものです。 この中でも‘サフラノ’に関する記述を見ることができ、茶薔薇(ティーローズ)の項に、「薄桃色ノ花ノ半開(サキカケ)ノ時、最モ美ナリ」と書かれています。 「采女(うねめ)」の和名を持つ‘アンナ・オリビエ’ 光沢のある杏色の美しい花を咲かせるこちらのバラが日本に輸入されると、「采女」という和名を付けられました。 采女とは、日本の朝廷において、天皇や皇后の食事や身の回りの庶事を専門に行う女官のことで、良家の容姿端麗な子女から選ばれたそうです。 「桜鏡」の和名を持つ‘ドュセス・ド・ブラパン’ ピンクを帯びたコロコロと愛らしい花を咲かせるこちらのバラは、1873~74(明治6~7)年、開拓使によって、アメリカから「美香登」「天國香」などとともに日本に輸入され、「桜鏡」という和名が付けられました。 1877(明治10)年に、京都で出版された花銘表『各國薔薇花競』では、75品種のバラの和名が掲載されていますが、「桜鏡」と「西王母」の和名も見ることができます。 和名「雪見車」の‘ザ・ブライド’と和名「金華山」の‘レディ・ヒリンドン’ 「花嫁」を意味する品種名の通り、眩しいほどの清らかな純白の花は、日本に輸入されると「雪見車」という和名が付けられました。 山吹色の花色は、紫がかった新葉や茎とよくマッチして、おしゃれで落ち着いた雰囲気です。 ティーローズの中でも香りが強く、お砂糖をたっぷり入れた紅茶のような甘い香りがします。こちらのバラに付けられた和名は「金華山」、そして、もう一つ「金鵄(きんし」という名が付けられました。 このように、明治~大正時代の日本では、同じ品種に異名がいくつも付けられるということが起き、後々、正しい元の品種名を特定することが困難になってしまいましたが、明治維新後に、急に外国語を使用することに抵抗があったのか、和名を付けることになってしまったようです。 これは、日本だけでなく、アメリカなどでも元の品種名に異名を付けることがよくありました。たとえば、戦争の敵国(ドイツなど)のバラに英名を付けるなど。敵国の言葉を使用したくないという気持ちの表れだったと思います。 目の前に咲くバラの背景を知ると、そのバラがこれまでに歩んできた道のりの一端が垣間見えるようで、ますます愛おしく感じられるます。 ぜひ、秋にも咲くオールドローズのティーローズも、お楽しみいただきたいと思います。
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実録! バラがメインの庭づくり第9話 バラからの注意信号~待ち遠しい秋のバラ
秋バラ開花前に株の状態をチェック! 酷暑の夏、残暑の秋を乗り越え、10月の秋バラの開花シーズンも目前となりました。 しかし、庭を見回っていると、よいことばかりとは限りません。黄色くなってしまった葉を見つけたり、株元にオガクズのようなものが見つかったりと、この時期も油断できないと感じます。 今回は、シーズン前にできるだけ早く察知したいバラからの注意信号と、その主な原因・対策をご紹介したいと思います。 バラからの注意信号「葉が急に黄色くなり、落葉してしまった」 その原因と対策 バラの葉が黄色くなったり、さらには落葉してしまったことには、以下の6つの原因が考えられます。 水分不足 根を切って傷めた 不適切な施肥 ハダニによる被害 濃い農薬の散布 台風後の塩害 これらの原因に対しては、すぐ対処できるものと、これまでの栽培方法を思い出してみて見直すべきものとがあります。葉の不調がもしあったら、解決できることはすぐ実行し、今後注意すべき点は、忘れないようにメモなどに書き残しておきましょう。 バラからの注意信号1.水分不足 今の時期は、秋の長雨が続いたり、夏よりもだいぶ気温が下がってきたことから、つい安心して晴天が続いても水やりを怠ってしまうなど、水分不足が第一に考えられます。 特に、軒下にあるバラは、雨が少し降った程度では根まで届かず、水分不足になりがちです。 【水分不足の対策】 晴天が2日以上続いたら、水やりを行い、軒下のバラには雨が降っても気を配り、水やりを怠らないこと。ただし、水はけのよいバラに適した用土に植えられていることが前提です。 バラからの注意信号2.根を切って傷めた 夏の元肥や中耕を行った際、シャベルなどで深く掘りすぎて、大切な根を切って傷めてしまうことがあります。そうすると水分や栄養分を吸い上げることができず、株が弱ってしまいます。 【根を切って傷めた対策】 冬以外の生育期は、根を切らないよう夏の元肥、中耕は浅めに行うこと。 バラからの注意信号3.不適切な施肥 小さな粒状の化学肥料を一度にたくさん施してしまうと、水やりや降雨によって、その肥料がバラの用土の中に潜り込み、根を傷めてしまうことがあります。また、液肥を多く与えすぎたり、希釈倍率を間違えて濃い液肥を与えてしまった場合も、同じく根を傷める原因になります。さらに、化学肥料ばかり長年使い続けると、バラには吸収されない塩類(ナトリウム、塩素、炭素、硫酸など)が土の中に残ります。こうして塩害が起きると、最初は葉が黄色くなり、次第に元気がなくなり生育が悪くなってしまいます。 ●『肥料の必要性とは? 有機質肥料と化学肥料の違いについて解説』 【不適切な施肥の対策】 肥料は、なるべく有機質肥料を選び、急激に根に負担がかからないようにします。ただし、未発酵の有機質肥料だと、触れた根を傷めてしまうことがあります。 特に、鉢植えのバラの用土の中に、油かすなどの未発酵の有機質肥料を混ぜ込んでしまうと、用土の中で発酵し、その際生じる発酵熱によって根が傷んで、あっという間に葉が黄色くなり落葉。さらには、枯れてしまうこともありますので、根に触れても安全な発酵済みの有機質肥料を使用するか、未発酵の有機質肥料を使う場合は、固形のものを選び、根に直接触れない地表に置き肥するなど、注意が必要です。 また、即効性のある液肥は、パッケージに記載されている使用に際しての用法・用量を必ず守りましょう。 長年の化学肥料の使用により、塩害が考えられる場合は、塩類を吸着させ薄めるために、完熟堆肥などの有機繊維質を軽くすき込むと高kがあります。本格的な改善策は、冬に行います。 【現在時点での施肥】 9〜10月は、夏の元肥と追肥が効いて、バラも開花準備に入っている時期です。 この期間は、花肥であるリン酸分が多めの肥料を追肥で与えますが、即効性を期待するなら液肥をおすすめします。しかし、雨天続きの場合は、固形肥料をまくのも一つの方法です。 いずれも、用法・用量を守り、与えすぎには注意しましょう。 なお、つぼみが色付き始めたら、全ての施肥はストップしてください。いつまでも施肥を続けていると、奇形や汚い花が咲くことにつながります。 また、チッ素分の多い肥料をこの時期に与えると、チッ素過多により、黒点病やうどん粉病にかかりやすく、花もつぼみのままボーリングしやすくなってしまいます。 バラからの注意信号4.ハダニによる被害 ハダニは、高温乾燥時に発生しやすいので、秋の長雨の時期には、被害が少なくなるのですが、南側の軒下など雨が当たらず乾燥しやすい場所や、風通しの悪い場所にあるバラには、この時期でもハダニが発生し、被害が出ることがあります。ハダニは、葉の裏にクモの巣のように白っぽく覆うように付いていることが多く、放置していると、葉がすすけたように黄色くなり、徐々に落葉していきます。 【ハダニの対策】 ハダニの被害が見られたら、シャワーの水で勢いよく洗い落とします。 バラからの注意信号5.濃い農薬の散布 特に、自分自身で農薬を希釈する場合、希釈倍率を規定よりも濃くして散布してしまうと、葉や根を傷める原因となります。また、小粒状の農薬を多量にまいてしまい、水やりや降雨によって、地中に農薬成分が一季に入り込むと、根を傷め、株が弱ってしまいます。 【濃い農薬の散布回避の対策】 農薬は、希釈倍率と、散布する回数や量などを守りましょう。新芽や新葉には、少し薄めにして散布を始めるとよいでしょう。 バラからの注意信号6.台風後の塩害 海水などを巻き上げて雨を大量に降らす台風の後は、海から遠くても塩害を起こすことがあります。 【台風後の塩害対策】 台風の後は、株全体に真水をかけて洗い流します。 その他、水はけの悪い場所に植えられていたり、黒点病や癌腫病、テッポウムシなどの害虫による被害でも葉が黄色くなり落葉し、ひどい場合は枯れてしまうことがあります。 いずれも、「葉が黄色くなる」のは、バラからの信号であり、まさに「注意」するよう訴えかけてきているのです。 今年、被害が多く聞かれるテッポウムシ 現在、多くの方より、「今年は、テッポウムシの被害が多い」という声を聞きます。 私の庭でも見回り中に、大切にしてきた‘ブーケ・パルフェ’(CL/ベルギー Lens 1989年作出)の株元に、オガクズのようなものを見つけました(上写真)。 これは、ゴマダラカミキリムシの幼虫のテッポウムシが、幹の中で食害し、穴から木くずの混ざった糞を排泄したものです。 株元に小さな穴がないか探し、穴を見つけたら、薬のノズルを差し込み、薬剤を噴射します。そしてその後、数日間は、オガクズがまた出ないか(テッポウムシがまだ生きているか)観察します。 ゴマダラカミキリムシの幼虫テッポウムシとは ゴマダラカミキリムシの成虫は、7月に太い株の地際の樹皮の下に産卵します。テッポウムシと呼ばれるのは、主にゴマダラカミキリムシの幼虫のことで、1~2年間に渡り幹の中をトンネル状に食害し、穴から木くずの混ざった糞を排出します。 テッポウムシに食べられた木は、水の通り道である道管が傷つけられて水分を運ぶことができなくなり、最悪の場合は枯死してしまいます。被害にあったかどうかを調べる方法は、幹の株元付近をよく観察すること。小さな穴やオガクズ状の糞があったら、前述のようにすぐに対処しましょう。 被害にあう前に成虫を退治したり、卵を産み付けられる前に対策することも大切です。 成虫は、バラの幹や枝の樹皮を食害し、その部分が茶色くなって、枝先をしおれさせます。成虫のカミキリムシは光るものを嫌うことが分かってきましたので、株元にアルミホイルなどの光を反射するものを巻きつけると効果があるといわれています。 秋バラの開花まであと少し。引き続き、お手入れを頑張りましょう。 私が心惹かれてきた秋バラをご紹介 さて、ここからは、これまで私が出合った秋のバラの中から、朝、晩、日中の気温差が織りなす、この季節ならではの美しさが印象に残った6品種をご紹介させていただきます。 ‘アンナ・ユング’ 四季咲きのバラですが、特に秋の花色は光沢が加わり、外側の花弁の縁に、濃いピンクがはっきりと乗り、とても美しい花を咲かせます。 ‘マダム・アントワーヌ・マリー’ こちらも、春よりも花弁の花色の濃淡がはっきりと浮き出て、ほっそりとした茎に、中輪の整った剣弁の花を美しく咲かせます。 ‘ジェームズ・ギャルウェイ’ 秋に、よりいっそう日もちする花は、その間、ゆっくりと花弁を広げながら花色をピンクから薄く退色させるまで優雅に咲き誇ります。 ‘フラゴナール’ 桃色ピンクの中心に、秋は、よりはっきりとオレンジ色が帯びてくるのが分かります。 豊かなフルーティー香も、秋の静けさの中でより際立って感じられます。 ‘ライラック・ビューティー’ シルバーがかるライラック色の花弁に、赤紫の覆輪の花を咲かせますが、秋は、ゆっくりと退色し、全体が淡い優しい色合いへと変化します。 ‘マンダリナ・コルダナ’ もともと日もちに優れた品種ですが、秋はさらに長く楽しめて、明るく光沢のある花色が、時間の経過とともにいっそう輝きを増していくような美しい花を咲かせます。 菊を背景に、秋のバラを活けて 一年の中でも、最も花色が冴える秋バラのシーズン、本当に待ち遠しいですね。
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育て方
実録!バラがメインの庭づくり第8話~夏に弱ったバラの回復法&つぼみの利用
夏バテから回復させて次のシーズンにつなぐお手入れ まだ残暑が厳しい時期ですが、秋になってからのバラの恩返しに期待して、元気を取り戻してくれるよう、少し心と手をかけてあげましょう。 また、害虫予防や夏剪定によってカットしたバラのつぼみの利用法もご紹介します。 周辺をきれいに整える雑草取り まずは、バラの株元や周囲の雑草を取り除きましょう。株元や周囲の草を取り除くと、固くなってしまった用土が軽く耕され、水分や栄養分が地中に染み入りやすくなります。 しかし、草が大きく育ち、その根が地中深く張ってしまっていると、草を抜いた時にバラの根が切れて傷めてしまうことがあるので、雑草は小さなうちに、こまめに取り除くのがベストです。 水切れに注意して、2週間に1回活力剤 気温の高い日は、水切れに特に注意し、2週間に1回は活性液(活力剤)を与えます。 この時期は、花を咲かせることよりも、株の元気を回復させることに重点を置きましょう。株が元気になれば、また美しい花を咲かせてくれます。そのためには、水分や栄養分を吸い上げる根の力をまず回復させるために、活性液(活力剤)を使います。さまざまな活性液(活力剤)が市販されていますので、使用方法を守って与えてください。 整枝と夏剪定を行います 枯れ枝や細く弱々しい枝、内側に向かって伸びたふところ枝、不要な枝などを切り除き、整枝を行います。 秋バラは、10月中旬~11月頃が最も美しく咲く時期です。剪定から開花までは、約50日前後かかりますので、バラが最も美しく咲く時期に開花を迎えられるよう、つる性のバラ以外は、9月上旬~14日頃までに、株全体の1/3~1/4をカットする夏剪定を行います。 これは、あくまでも目安ですので、下葉や新芽がほとんどなくなってしまうようでしたら、剪定はもっと浅めに行い、株の保護のため、光合成が少しでも多く行われるようにします。 一季咲きのバラは、剪定をしなくても構いませんが、枝が暴れているようでしたら、管理しやすいように整枝や剪定を行っておくと後々楽です。 つる性のバラは、来年の樹形を頭に描きながら、残す枝を決め、不要な枝や暴れて管理が大変な枝は、整枝や剪定を行っておきます。 夏の元肥 株に栄養を補充し、秋の開花を促す施肥を8月下旬~9月上旬に行います。 以前は、四季咲き性の地植えの株には、株元から半径約20cm離れた場所に円を描くように溝を浅く掘り、そこに、完熟堆肥バケツ1.5ℓ、炭小粒または燻炭150g、有機質肥料適量をすき込む方法を行ってきました。しかし昨今の酷暑の中、なかなかその作業は大変だということと、溝を掘った時に根を切って傷めてしまった場合、株を弱らせることにも繋がるため、最近では、草を取り除いて軽く耕された状態の土に、有機由来の原料で栄養分がバランスよく配合されたペレット状の固形肥料を、ぱらぱらと撒くようにしています。 また、鉢植えの株にも、肥料を地植えと同様に施していますが、用土が減っている場合は、上に盛り土します。そして、引き続き、水枯れに注意し、活性液(活力剤)を利用しながら、株の回復を促します。 葉が増えてきたなどの回復が見られた株には、リン酸分(花肥)の多い即効性のある液肥を2回ほど、つぼみが色付く頃まで与えます。 ※リン酸分の多い液肥は、葉が落ちてしまっている株にはいきなり与えず、葉が元気に復活してから与えます。つぼみが色付いたら、全ての施肥はストップします。 新葉を守りながら秋の開花シーズンへ 新しい葉がたくさん出てきたからといって安心はできません。高温の日が続けば、ハダニが発生しますし、新鮮な新しい芽や葉を狙う害虫たちもまだたくさんいます。 ご自身のバラを育てる目的に合わせた育て方で、薬剤を利用するか、無農薬で頑張るかを決めて、新しい葉を病害虫からしっかり守ろうという意識を持って、秋の開花シーズンに繋げていただきたいと思います。 切り取った夏のつぼみの利用法 真夏の花は、咲いても小さく、残念ながらきれいな花は望めません。 また、コガネムシを集め、食害され、卵を産み付けられ、孵化した幼虫にバラの根を食害されることにもつながる可能性を秘めています。 害虫予防とバラの体力温存のために、私は夏のつぼみはほとんど切り取ってしまいます。 しかし、ただ捨ててしまうのでは、かわいそうでもったいないので、切り取ったつぼみを暮らしに活用しています。 香りのあるバラのつぼみは、よく水洗いし、ハーブティーや紅茶に入れて楽しみます。 香りの少ないバラのつぼみは、ドライにして保存し、エッセンシャルオイルを足したポプリやクラフト作りなどにも利用しています。ささやかな楽しみを実践しながら、秋の到来に期待して過ごしましょう。
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実録! バラがメインの庭づくり第7話~コガネムシとの戦い
梅雨明けから盛夏のバラ栽培の悩みとは 今年の梅雨は、雨天の日が多く、なかなか外での作業が進みません。 そんな庭では、前回の第6話でご紹介した黒点病やうどん粉病などのバラの病気に加えて、コガネムシが猛威をふるっています。 コガネムシによるバラへの被害 コガネムシとは甲虫類のことで、バラに被害を与える種類には、マネコガネ、ヒメコガネ、ドウガネブイブイ、ハナムグリ、ゾウムシなどが挙げられます。 これらは食害性害虫で、成虫は5月頃から飛来し、バラの花弁やつぼみ、葉などを食害します。そして、土の中に潜って産卵し、孵化した幼虫は根を食害しながら越冬し、成虫となったものが翌春から夏にかけて地上に出て再び食害します。幼虫にほとんどの根が食害されてしまうと、いくらバラの肥料を与えたとしても、ひどい場合は枯れてしまうことがあります。 コガネムシの対処法をご紹介 成虫、幼虫とも対処方法は「見つけ次第捕殺」することです。では、具体的にそれぞれの対処法をご紹介しましょう。 【コガネムシの成虫の場合】 私は、虫を手で捕まえたりすることは、何の抵抗もなく行えますが、苦手な人は、市販の薬剤に頼るのがよいかと思います。甲虫類に効果のあるスプレーや乳剤など、説明書をよく読んでご使用ください(※薬剤によっては、散布をした場合、花弁などを飲食に使用することができなくなるものもありますのでご注意ください)。 また、雄を誘引する性フェロモンと、両性を誘引する食物誘引剤を使用したフェロモントラップなど、コガネムシを誘引して駆除する方法もあります。 【コガネムシの幼虫の場合】 特に鉢植えで育てている場合は、冬に鉢の土替えを行う際に、必ず土の中にコガネムシの幼虫がいないかチェックし、駆除する必要があります。地植えの場合も安心せずに、見つけ次第、駆除します。ご自身の手で捕殺するのが苦手な方は、土に撒くだけの粒剤などを使用すると楽で効果があります。また、コガネムシの幼虫は腐葉土を好むため、バラの用土や株元には腐葉土ではなく完熟堆肥を使用するとよいでしょう。 皆さんがバラを育てる目的や、ご自身に合った方法で、バラを食い荒らすコガネムシたちとの戦いに、ぜひ打ち勝ってくださいね。 新しい自宅で懐かしむバラの香り さてこちらは、昨年、以前の庭に咲いた‘ウィリアム・シェイクスピア2000’(En.R)と‘マイカイ’(Ch)、食香バラの‘豊華’をリキュールに漬けておいた「ローズ・リキュール」です。 よく漬かった「ローズ・リキュール」に炭酸水とレモン汁を入れて。夏にもおすすめの飲み物です。 リキュールの簡単な作り方をご紹介します。 <材料A> 香りのよいバラの花弁……容器の約2/3の量 <材料B> 氷砂糖……容器の約1/4の量 容器にAとBを入れ、35度の焼酎(リキュール)をAとBが全て漬かるように注ぐ。そして密封し、1カ月以上、冷暗所に保存してでき上がり。 中の花弁は、そのまま漬けておいても、こし器で取り除いても、どちらでもOKです。 バラがたくさん咲いたら、ぜひ試してみてください。 以前の庭は、残念ながらもうなくなってしまいましたが、このリキュールをいただいていると、庭の香りが蘇るようです。 たくさんのかけがえのない日々を、あの庭でバラたちと共に過ごしてきたことが思い出されます。 以前の住まいは、家と庭の間に玄関ポーチを広めに取ったお気に入りのスペースがありました。私自身がイメージしたスケッチを大工さんに渡し、つくってもらったのですが、その広めのポーチでは、庭仕事の合間に休憩したり、お茶を飲んだり、バラをお披露目するパーティーの際は、華やかにお菓子や花を飾ったり……。お客様の笑顔や楽しい会話に包まれて、おかげさまで、美しい時間を過ごすことができました。 新居に設けた庭にアクセスする半戸外空間 先日、無事にすべての引っ越しが終わった新しい住まいでも、家と庭の間に、小さなスペースを設けました。 4畳半弱のコンサバトリーですが、雨天でも窓のすぐ外に咲いているバラを眺めることができます。また、全面扉を開け放つこともできますが、蚊が入らないように網戸も設置したので快適です。 以前の庭では、6月以降は蚊が発生するためポーチを利用しにくかったのですが、今回はその経験を生かしたことで、蚊の心配は少なく過ごせそうです。 写真は、日本画家の木下美香さんが描いてくださった以前の庭と、バラ‘ワイズ・ポーシャ’(En.R)。蚊にたくさん刺されたことも、想い出の一つです。 こうして引っ越しが一段落して、改めて以前の庭が懐かしく思えています。
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実録! バラがメインの庭づくり第6話~梅雨の時期のお手入れ
梅雨時期の庭の様子 6~7月は梅雨のただ中ですが、バラの二番花や三番花を楽しみながら、今後のバラに関わる大切なお手入れをする時期でもあるのです。 四季咲き性のバラの場合、5月に待ちに待った一番花が咲き、その花がらを取り除くために、5枚葉(本葉)の上でカットしておくと、その5枚葉の付け根から、新しい芽が伸びてきます。順調に伸びれば、5月下旬~6月に再び開花が見られますが、それらの花のことを「二番花」といいます。その後、春と同じように花がらをカットしていくと、品種によっての違いはありますが、約40~50日毎に花を咲かせてくれます。 同時に、この梅雨時には急に伸長したシュート(新梢)の出現などが見られるので、バラが最も育つ時期であることを実感します。今回は、この時期に、具体的にどのようなお手入れをしたらよいのかをご紹介します。 【お手入れ1】 6~7月に発生しやすい主な病害虫とその防除 雨量の多い梅雨時は、植物の生育が旺盛になりますが、同時に湿度も高く、バラの場合、せっかく新しいシュートが出て、新しい葉が茂っても、病気にかかってしまったり、害虫に食害されたりと、被害が最も多い時期でもあるのです。 では、具体的な病気について解説していきましょう。 黒点病(黒星病) 症状 カビ(糸状菌)による斑点性の病気。梅雨や秋雨などの多湿時に発生しやすく、真夏の高温時には、一時少なくなります。放置すると黄茶色になり落葉します。その結果、光合成が抑えられ、根の成長や株の成長に支障をきたし、次期の花にも影響が出てしまいます。雨の多いこの時期は、病斑の胞子が雨の跳ね返りなどで周囲に広がりやすくなります。 ただし、他の果樹類などに発生する黒点病とは病原菌が違うため、相互感染は心配ありません。チッ素肥料の過多でも発生しやすくなります。 対処方法 黒点病にかかった葉は、見つけ次第すぐに取り除きます。 ご自身のバラを育てる目的に合わせた薬剤を使用しましょう。薬剤を使う場合、同じものを使い続けると、その薬剤に対する抵抗力がつき、散布しても効果が出なくなってしまいますので、系統の違う薬剤をローテーションさせて散布します。 また、チッ素肥料を過剰に与えないようにしてください。病気に悩まされないようにするには、近年多く作出されるようになった病気に強い品種を選ぶことも大切です。 うどん粉病 症状 カビ(糸状菌)による伝染性の病気です。初夏や初秋の曇天で冷涼、乾燥した日が続くと発生しやすく、真夏の高温時には一時発生が少なくなります。白い粉をまぶしたように見えるカビが、特に新しい葉や茎、つぼみに発生します。放置すると株全体に広がり、光合成が抑えられるため、根の成長や株の成長に支障をきたし、次期の花にも影響してしまいます。発病した葉の上に胞子ができ、風に乗って周囲に広がるため、密植や不整枝の場合は蔓延する可能性が高くなります。チッ素肥料過多でも発生しやすくなります。 対処方法 うどん粉病にかかった葉は、見つけ次第すぐに取り除きます。密植を避け、整枝を行い、ふところ枝(株の内側に向かって伸びている枝)や枯れた枝などを整理するとよいでしょう。黒点病と同様に、ご自身のバラを育てる目的に合わせた薬剤を使用し、株の様子を見ながら、系統の違う薬剤をローテーションさせて散布します。 また、チッ素肥料を過剰に与えないようにしてください。病気に悩まされないようにするには、近年多く作出されるようになった病気に強い品種を選ぶことも大切です。 灰色かび病(ボトリチス病) 症状 カビ(糸状菌)による伝染性の病気です。雨天などで湿度の高い日が続く梅雨や秋雨の時期に発生しやすく、密植や、日当たり・風通しが悪くて蒸れやすい場所にある株、肥料や水やり不足による弱った株、また、咲き殻をそのまま放置しておくなどの管理不十分な株に多く見られます。花弁やつぼみに小さな斑点が現れ、症状が進むと灰色のカビで花やつぼみ全体が覆われ、茎や葉にも広がります。胞子が風で飛散し、周囲の株に広がります。チッ素肥料過多でも発生しやすくなります。 対処方法 日頃のバラの管理を適切に行い、密植をせず、日当たりと風通しがよい場所に植えることが大切です。花がらは放置せず、こまめに切り取り、病気にかかってしまった部分は見つけ次第取り除きます。冬の元肥や追肥などは、適量やバランスを守って適期に施し、バラが健康に育つよう心がけましょう。病原菌は、ほかの植物(果樹、庭木、野菜、草花)などにも幅広く相互感染するため、バラ以外の植物にも気を配る必要があります。 薬剤については、黒点病、うどん粉病と同様。 ハダニ 症状 高温で乾燥時に、ハダニが発生しやすくなるので、梅雨明け直後は要注意です。クモの仲間であるハダニが葉などに寄生すると、そこから汁を吸い、バラはうまく光合成が出来なくなって弱ってしまいます。最初は葉に微小な白い斑点が見えますが、放置しているとクモの巣状になり、やがて株全体がクモの巣で覆われたような状態となります。 対処方法 密植を避け、風通しをよくし、高温・乾燥時の水やりは、株全体にシャワーでかけます。特に葉裏にハダニが付いていないか注意し、ハダニが付いていたら水で洗い落とします。 ゴマダラカミキリムシ 6~7月は、ゴマダラカミキリムシが飛来し、晴れた日の朝などに、よくバラの枝先に止まっていることがあります。そして7月になると、バラの幹の地際付近に卵を産み付けるので、見つけ次第捕殺します。ゴマダラカミキリムシの幼虫を「テッポウムシ」と呼びます。テッポウムシは幹の内部を食べ荒らし、地際にオガクズに似た糞を残します。そのまま放置すると株が枯死する場合もあるので、地際の糞の近くにある株元の穴を探して、専用の薬剤のノズルを差し込み、薬剤を注入して退治します。 【お手入れ2】 樹勢回復とシュート発生を促す追肥 花が咲き終わり、花がらを取り除いた株元には、「お礼肥(おれいごえ)」と呼ばれる追肥を施します。 この時期の追肥の目的は、それまでの開花でエネルギーを消耗した樹勢の回復と、新しくシュートを発生させ、株を若返らせることです。 追肥用の肥料はいろいろ販売されていますが、私は、バラにとって大切な三大栄養素であるチッ素、リン酸、カリがバランスよく含まれている有機質の固形肥料を選んでいます。 施す際には、まずバラの株元周囲の草を取り除き、枝先を剪定します。不要な枝を取り除いて整枝した後に、株の株元に適量を撒いています。 【お手入れ3】 充実した株に成長させるためのシュートの処理方法 バラの株自体がシュートを出すことは自然の摂理で、3〜4月頃から見られます。 私の新しい庭でも、土や肥料、植え場所の条件がそのバラに合ったのか、2月に移植した株からとても元気のよいシュート(株元からのベーサルシュート)が出て、生きる力強さを見せつけてくれました。 元気のよいシュートには、これからの未来が詰まっています。特に、一季咲きのバラのシュートは、来年の花数や花の状態にまで関わります。つまり、もう来年の春の花の準備に入ったともいえます。 しかしながら、勢いよく伸長したシュートをそのままにしておくと、栄養がシュートに取られ、他の枝が弱ってしまったり、バランスの悪い株になってしまいます。 つるバラ系以外のシュートは、できれば、ほうき状に花が咲いてしまう前にピンチを行い、株の充実を図ります。ピンチや施肥、そして梅雨の雨は、ベーサルシュートなどの発生を促し、株の若返りと共に、枝数や葉を増やし、光合成が十分行えるようにします。十分な光合成ができれば根と株が充実していき、今秋や来春に、よい花が咲くことにつながります。 【お手入れ4】 5月のバラの季節を振り返ること 失敗から学ぶ 今年1月に行った以前の庭からの移植作業を乗り越えて、無事に咲いてくれたバラたちですが、中には咲く時期がだいぶ遅くなってしまった品種がいくつかありました。 それらの株は、移植の際、枝をあまり短くカットせずに長いまま植えてしまったという共通点に気がつきました。 移植で根がだいぶ短くなってしまっているのに、大きな株のままでいて欲しいという願望からか、枝を短くすることに抵抗を感じていたのです。結果、それはバラに負担をかけることになったのか、なかなか新芽が出ずに、とても心配しました。しかし、なんとか新芽を出してくれて、5月遅くに、花を咲かせてくれました。 やはり、根の量に見合った枝の長さにしないといけないと、改めてバラから学びました。 新しく庭に迎えたバラ この春、新しく庭に迎えたバラは、現在5品種ほどです。その中から今回は、‘エウリディーチェ’をご紹介します。 優美で繊細なフリルのように波打つ花弁と、淡い花色、整った花形に、ダマスクとブルーの心地よい爽やかな香りが印象的です。 鬱陶しい梅雨の時期ではありますが、庭のバラや植物たちにたくさんの‘ときめき’をもらい、癒やされています。今後も、大切なバラたちが元気でいてくれるように、この時期、バラのお手入れをがんばっていきましょう。
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実録! バラがメインの庭づくり第5話~バラの開花を心ゆくまで愛でる
私たちを癒やすバラの存在 今年もバラの季節がやってきました。 ただ例年と大きく違うのは、多くのバラ園が休園となり、外出も自粛という状態です。 その一方、「おうち時間」が増えたことで、自宅でガーデニングに励しむ時間も増え、不安やストレスを癒やす心のケアを、植物に求めるようになった方も多いと感じています。癒やしをくれる植物の中でも、特にバラは、花色や花形の美しさに加え、芳香の面からも人に力をくれる存在です。 そんなバラたちは、私にとってもなくてはならない存在です。思いがけず住まいを引っ越すことになりましたが、それまで育ててきたバラとも変わらずに、ずっと一緒に暮らしたいという思いから、新しい庭へバラも移植することにしました。その数は、約90品種。今年の1月から移植を始め、そして迎えた5月。新しい庭で初めて咲くバラたちの姿を見ることができ、感無量です! 門まわりに咲くバラたち 家の顔ともいえる門まわりには、明るく元気が出るような黄色~クリーム色、白やアプリコットといった花色のバラを植栽しました。中でも、門の前で出迎えてくれる多花性の元気なバラは‘ゴールデン・ボーダー’(F)です。 門柱の石の色に合わせて、イングリッシュローズの‘クロッカスローズ’(クリーム色)と‘アブラハム・ダービー’(アプリコット色)、HTの‘オフェリア’(手前のクリーム色)などを植栽しました。 バラのボーダーガーデン バラがメインのボーダーガーデンの足元には、リクニスやリナリア、オルレア、ハーブのヤロウなどを植栽しました。 小花が風に揺れ、バラとバラをつないでいます。優しい印象のナチュラル風ガーデンに見えるよう、心がけて草花を混植しました。 フェンスを彩るバラたち フェンス周りにもたくさんの花が咲いています。バラは、風通しと日当たりを好むことを考慮して、塀を高くすることはせずに、フェンスを設置しました。日当たりがよい分、毎日水をしっかり与えることが大切です。 フルーティーな香りに、グラデーションがかる大輪のアプリコットピンクの花が美しいイングリッシュローズの‘アブラハム・ダービー’は、半日陰の以前の庭と比べて、だいぶ元気になり、ホッとしています。 ‘メイ・クイーン’は、3mを超す大きな株だったので、移植しても大丈夫だろうかと心配でしたが、とても元気よく枝を伸ばし、花を咲かせてくれました。本当によかったです。 東側の隣家との間に設けたフェンスに誘引したのは、上方に‘プロスペリティ’(HMsk)と、その下方にはローズ・ドラジェ色といわれる‘ルイーズ・ドゥ・マリアック’(S)(下)。右下は、‘ボレロ’(F)です。 ‘プロスペリティ’も、以前の庭より元気になりました。 アンティーク風のフェンスに、アイボリーの花色がマッチしています。 暮らしの中でもバラ咲く喜びを味わう 庭に咲くバラや草花の姿をただ眺めることができるだけでも喜ばしいことですが、自分で面倒をみながら育ててきたバラや草花を摘んで、花瓶に活けたりアレンジメントにして飾れるようになったことも、とても嬉しいことです。 庭を眺めながら、お茶をいただく至福のひととき。 新居では、バラの庭に面する場所にコンサバトリーを設けました。雨の日は、この部屋からもバラを眺められますし、お天気がよい日は扉を大きく開いて、まるで庭にいるような感覚で食事をすることができます。 パウダーピンクのバラ‘メルヘンツァウバー’(F)を中心に、左右に‘プシュケ’(S)、黄色のバラ‘ゴールデン・ボーダー’、オルレア、カモミール、シルバーレースを添えて。 ケーキにもバラの花びらを飾りに使うことができます。 なお、バラの花弁を飲食に利用する場合は、農薬を使用せずに栽培しましょう。病害虫予防には、有機農産物栽培に使用できる有機JAS適合資材を選ぶ必要があります。 無農薬栽培をするために植え付け時やお手入れに使った資材については、以下の記事を参考に。 ●実録! バラがメインの庭づくり第3話 ~移植したバラ、春の管理方法〜 植え付けから開花までの管理を日々頑張ってきたおかげで、今年のバラの季節にも、こうして自宅でバラの花を愛でることができました。 それぞれのバラを見渡しながら、よくぞ移植に耐えて咲いてくれたと、感謝の思いがこみ上げます。 本来の樹形や樹勢に戻るまでには、もう少し時間がかかりそうな品種もありますが、焦らず、楽しみながら面倒を見ていくつもりです。 そして、また新たに庭にバラを迎えて、理想の庭に近付けていきたいと願っています。どんなバラを選んだかは、またの機会にご紹介できたらと思います。
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実録! バラがメインの庭づくり第4話~開花直前4月の管理方法
順調に生育するバラたち 以前の庭から冬の間に移植したバラは、生育には個体差はありますが、なんとかほぼ順調です。 2020年の春は、関東地方でも暖かく気温の高い日が多いかと思えば、突然雪が降ったりと気温の変化が激しい毎日でした。そんな中でも4月になると、さまざまな草花が花開き、バラもつぼみを膨らませています。 この時期は、いよいよもうすぐ始まるバラの開花シーズンに向けて、楽しみながら、バラが少しでもご機嫌よく、美しく咲いてくれるよう、少し手を貸しながら引き続き見守っていきましょう。 生育の個体差の原因とは? 庭を見回ると、とても順調に葉を展開し、つぼみをたくさんつけているバラの中に、つぼみどころか葉の展開が遅く、心配なバラを見つけることがありました。 このような心配なバラを見つけたら、どうしたらよいのでしょう。 まず、展開が元々ゆっくりな性質の品種かどうかを調べ、そうであれば安心してそのまま成長していくのを待ちます。しかし問題なのは、展開が元々ゆっくりな性質の品種ではないのに、展開が遅いバラです。 まず考えられる原因は、 移植の際、根を切り過ぎたなど、根が傷み、水分や栄養分を上手く吸い上げられない。 短くなった根に対して、枝の長さが長過ぎたり、本数が多いなど、根と地上部とのバランスが悪い。 移植した場所が、そのバラの適地ではない。 雨が降ったとしても、軒下などに植えられているため雨が当たらず、水分不足になっていた。 根が肥料焼けを起こしてしまった。 植えた場所の土が粘土質など、固すぎる。 移植時期が間違っていた。 冬剪定が遅かった。 などが挙げられるかと思います。 私の庭の成長が遅いバラは、1、2、4が原因かと思いました。そのため枝の本数を減らし、芽を1枝に対して5~8芽ほど残して切り戻しを行い、雨が降った日の次の日であっても、そのバラには水をしっかり与えるようにしました。 では、この他に、具体的に行った作業をご紹介いたします。 「出開き」症状への対策 花芽ができる時期に寒さに当たってしまったり、日照や栄養が不足すると、「出開き」と呼ばれる、葉が2~3枚ほどのまま、いつまでたっても増えない状態になってしまうことがあります。株が弱々しい場合は、光合成のためにそのままにしておきますが、生育が順調な株なら、病気や蒸れの予防のためにも出開きを元から手で抜き取ります。 「ブラインド」症状への対策 「出開き」に比べて葉が展開したのにもかかわらず、いつまでも先端につぼみがつかない状態を「ブラインド」と呼びます。この場合、ブラインドの下の大きな5枚葉の上の部分(写真内赤い印)をソフトピンチ(手で折り取る)または、ハードピンチ(ハサミで切り取る)を行い、つぼみができるのを待ちます。ただし、病気や蒸れの予防のために必要ない小枝と判断した場合は、ブラインドのある小枝を元から除去することもあります。 ※枝の先端がまだ新しく柔らかい場合は、手で行うソフトピンチをおすすめします。理由は、新しい枝のダメージを最小限に抑えたいからです。 「シュートピンチ」で株を充実させる エネルギーを分散させて枝数を増やすことで葉や花数を増やしたい時、また、バランスのよい株に育てたいなどの際に、勢いのあるシュートや株元から発生したべーサルシュートの下から5~6枚の葉を残して、その上の5枚葉の上でピンチすることを「シュートピンチ」と呼んでいます。 順調に生育していけば、しばらくするとピンチした部分や、その下の段からサイドシュートが発生し、枝数が増え、葉や花数も増えます。 ただし、枝を長く伸ばしたいなどの場合は、シュートピンチは必要ありません。 開花前に施す「追肥」 この時期、生育が順調な株には、花数を増やすのが目的で、リン酸分の多い即効性のある液肥も有効ですが、移植などにより生育が芳しくない株には、リン酸分の多い液肥は控えめにし、花数よりもまずは株の充実を図ることが大切です。 また、固形の肥料は、液肥よりもゆっくり効果が表れるため、4月下旬前までには施肥を済ませます。 この時期に行う「病害虫予防」 4月は引き続き、つぼみをだめにしてしまうゾウムシに要注意です。また、徐々にうどん粉病も発生し始めますので、ご自身のバラを育てる目的に合わせた予防と対策を行ってください。前回も記しましたが、私はバラの花びらを暮らしに活用したい目的から、農薬を使用せずに栽培、または、化学殺虫成分不使用の有機農産物栽培に使える有機JAS対応資材を選んで病害虫予防に使用しています。 また、土壌改良とそれによる根張り、バラの健全な生育を期待して、活力液を土壌や葉に散布しています。 バラと一緒に育てる草花 上記のようなバラのお世話を日々行いながら、バラの株元に植える草花を選ぶのも、この季節の楽しみの一つです。バラに組み合わせて育てている植物をピックアップしてご紹介します。 黄色い花色のバラ‘ゴールデン・ボーダー’の株元には、レウカンセマム‘デイジーメイ’やビオラ、フランネルフラワー、カレックス‘エバーシーン’、ラベンダーなど。 バラが主役のボーダー花壇には、アガパンサス、ヤロウ、ネメシア・メーテル、リクニス・コロナリアなどが、優しい花色でバラを引き立ててくれることでしょう。 すでに花穂をあげているのは、ルピナス・テキセンシス。 ふわふわと花穂が光に輝くボリジとフローレンス・フェンネルが寄り添っています。このようなハーブ類も無農薬栽培のバラの庭には似合うと思うのです。 斑入りシャガを背景に、ビオラとリシマキアの組み合わせの一画。 シルバープリペットの緑もみずみずしく。 大輪ネメシアのネシアと赤葉のヒューケラ・ドルチェ‘チェリーコンポート’が彩り鮮やかに。 もうあと少しでバラが咲き誇る嬉しい季節がやってきます。 今年は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、バラ園は休園になるところが多く、本当に残念でなりません。せめて、日々のお手入れの時間から、その一瞬、一瞬をかけがえのないものと思い、大切に過ごしていきたいと思います。 併せて読みたい ・実録! バラがメインの庭づくり第1話 移植作業を行う前までにすべき10のこと ・バラの大敵・黒星病の予防&対策をバラの専門家が解説 ・【バラの育て方】初心者さん必見!バラの基本的な育て方と種類・病気を解説
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実録! バラがメインの庭づくり第3話 ~移植したバラ、春の管理方法〜
バラの開花を待ちながら 前回『実録! バラがメインの庭づくり第2話 〜冬の植え付け編〜』でご紹介した冬に移植したバラ苗も、3月になると新芽が出て、春の息吹が感じられるようになりました。 今回は、移植したバラたちが、新しい庭でこれから元気に育つよう、少し手助けとなるような春の管理方法をご紹介いたします。 1.大切なのは見回りと観察 バラの移植は、古株や大株になるほど負担が大きいものです。以前の庭で、長年育てていたものでも、移植時には根も枝も短く切り込むために、その後は生育が鈍る場合があります。 またその逆で、以前よりも元気に芽吹きを見せる苗もあり、どのバラも生育状況は同じと決めつけずに、よく見回って様子を観察しながら、個々の苗に合ったお手入れをすることが大切です。 2.春直前に行う剪定について 充実した芽を残す 2月下旬~3月上旬にかけて行う本剪定ですが、移植して間もない苗は、まず状態をよく観察することが大事です。芽吹きが順調な苗は、充実した芽を残して剪定し、芽吹きが遅れている苗は、しばらく様子を見ながら判断します。マニュアル的な剪定ではなく、個々のバラに合わせた剪定を行います。 また、移植した苗は、枝をかなり短くしていることが多いので、本剪定を必要としない場合もあります。 枯れ込んでしまった枝の剪定 写真のような、先端が枯れ込んだ枝がある場合は、その下の緑色の部分まで切り戻します。また、残念ながら茶色くなり枯れてしまった枝は、根元から切って整枝します。 3.芽かきの手順 移植した苗が順調だと、芽かきができるほど新芽が出てきます。同じ箇所からいくつも新芽が出ている場合には、一番よい芽を残して、他は手で抜き取ります。 芽かき前 芽かき作業「手で抜き取る」 芽かき後 株の内側に向かって伸びている新芽は、将来「ふところ枝」となります。通気性が悪く病気にかかりやすくなるので、これも抜き取っておきます。 取り除いた新芽 4.水やり 移植した苗が、元気に新芽を出し、また、芽吹いた新芽が元気に育つためにも、水やりはしっかり行います。 ただし、水はけが悪い場所に植え付けた場合は、根腐れを起こすことがありますので、水はけのよい用土に植えることが前提です。 移植した時に使用した活力剤ですが、その後も2週間に1回程度、水やり時に使用すると根張りがよいようです。 5.追肥「芽出し肥」を施す 3月頃に与える追肥を「芽出し肥」と呼び、この追肥はリン酸分の割合の多い肥料を施します。 ただし、肥料は多ければよいということではなく、適量を施すことが大切です。特に化成肥料は多すぎると根焼けを起こし、葉だけでなく株全体が枯れてしまうことがありますので注意してください。 与える量は地植えの場合で100g(袋の記載を参照)。ただし、冬の寒肥を十分撒いた、または寒肥を与えた後、あまり時間がたっていない場合などは、半分程度に減らすとよいでしょう。 6.病害虫予防 春、特に気をつけたいバラにとっての害虫は、新芽を食い荒らすゾウムシです。見かけ次第捕殺します。 もし、育てたバラの花弁を飲食やポプリなどに活用したい場合は、無農薬栽培、または、化学殺虫成分不使用の有機農産物栽培に使える有機JAS対応資材を選んで病害虫予防に使用します。 植物が目覚める季節に思うこと 新しい庭では、根付くかどうか心配していたバラ以外の植物も、花数は少ないですが無事に咲いてくれて、安堵しました。 樹形が整うまでは時間を要しますが、丁寧にじっくり育てていきたいと思っています。 バラも、5月の開花シーズンに向けて、つぼみを膨らませていく大切な時期ですので、引き続き、お手入れをがんばりたいと思います。