ガーデンストーリー編集部

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樹木
園芸のプロも激推し、【レモンの木】と【オージープランツ】を育ててみよう!
成長の喜びを味わえる果樹と花木 Pix:Orest lyzhechka/shutterstock.com 小さな草花も綺麗ですが、空に向かってグングン伸びる果樹や花木を楽しんでみませんか?買った時は膝丈くらいだったものがどんどん成長して自分の背丈くらいまで伸びた時の喜びは、子供の成長を喜ぶのにも似ています。まして花や果実という恵みをくれたら、こんなに嬉しいことはないですよね! そこで今回、園芸のプロに、おすすめの果樹と花木を教えてもらいました。 今回も答えてくれる街の園芸店「フラワーガーデン・セキ」(目黒区祐天寺) このシリーズでお馴染み『フラワーガーデン・セキ』の関さん。東京は目黒区祐天寺に古くからお店を構え、近隣住民から愛される地域に根ざした園芸ショップです。2代目の関ヨシカズさんは、あらゆる植物の管理に精通した園芸のエキスパート。お店には日々、園芸に関するアドバイスを関さんに求め、大変多くのお客様がご来店されます。 「BiSHの解散は今年一番のニュースです」と、推しのガールズグループの解散を惜しむ関ヨシカズさん。 おすすめ①「レモン」 どんな果樹・花木なのですか? Pix:Spech/Shutterstock.com 常緑の中低木で、皆さんご存じの、あのスッパさ100%の実がなります。あんなにもスッパいのに、ミカン科ミカン属という、じつは甘い果物の仲間なんです。レモンといえばシチリアレモンが有名なため、イタリアが原産と思っている方も多いですが、じつは極東アジア、特にヒマラヤあたりが原産ではないかともいわれています。つまり、正確なことは分かっていないんです。果実にはビタミンCやクエン酸をたっぷり含んでいて、私たちの健康的な食生活にも役に立ってくれています。果実ばかりにフォーカスされがちですが、レモンの木は花も香るし、木を育てるという園芸的な意味でも人気が高いんですよ。 おすすめの理由を教えてください。 実が収穫できて、育てやすいというのが一番の理由です。実を収穫して酎ハイに果汁を絞ってよし、炭酸水に入れてレモンスカッシュにするもよし、揚げ物とかに絞り汁をかければオイリーな感じが中和されてサッパリと食べられてよしと、一鉢あればご家庭で重宝する果物ではないかと思います。ちなみに僕は、揚げ物にはレモンをかけずにソースをかける派ですね。レモンといえば用途は酒に限られます。 四季の移ろいの中でどのような表情を見せるのですか? Pix:Olga Savoskula/shutterstock.com 春先から5月くらいにかけて花が咲き、その後結実して盛夏から初秋にかけて緑色の実がなって、10月くらいに実が黄色く熟す、という感じですね。色味としては、葉や熟す前の実の緑や、花の白、熟した実の黄色といった、決して派手な色彩ではないですが、レモンのイメージ通りの爽やかな色彩を目で楽しませてくれます。 果樹初心者でも育てることは可能ですか? とても育てやすく病気にも強いため、初心者でも簡単に実をならせることができ、収穫を楽しむことができます。しかし、高い確率で、というか、これはもうレモンの木の宿命とでもいいましょうか、初夏にアゲハチョウの幼虫が必ずつき、葉を食べ尽くします! なので、虫と戦う勇気が求められます。 レモンの木の葉を食べるアゲハ蝶の幼虫 Pix:THIRASAK CHUCHOET/Shutterstock.com あまりにもアゲハの幼虫が付くため、レモン目的ではなく、アゲハ蝶を羽化させることが目的でレモンの木を買われる方もたくさんいるんです。アゲハ蝶は美しいですからね。実際うちにレモンの木を買いに来るお客様の中にも、それ目的の方が多くおられます。びっくりでしょ? 実の収穫よりも、葉を食べさせるほうが大切だなんて。当然葉を食べ尽くされたレモンの木は樹勢が弱まり、結実どころか開花もしませんよ。まぁ、蝶が超好きな方には必需の“エサ”なのでしょうね。でも園芸に携わる身としては、葉を食わせるだけ食わせたら捨てちゃうんだろうな、ということを考えると、ちょっとやるせない気持ちになりますけどね。 育て方のコツを教えてください。 ちょうどアゲハの幼虫の話になったので、まず害虫対策から説明しますが、アゲハの幼虫は黄緑色のデカいイモ虫が、ムシャムシャと貪りつくように葉を食べているため、すぐに見つけられます。見つけた時点でつまんで捨てればよいだけですが、なにぶんデカいので、こういうのが不得手な方は、割り箸を使えば簡単に駆除できます。そうは言っても気持ち悪い、という方には薬剤散布による駆除という手もありますが、後々実を収穫して口にするため、そこは判断が分かれるところです。結実に関しては、受粉作業などをしなくても勝手に受粉して結実してくれるので、とてもラクです。ただ、実の数は木の大きさに比例するので、テーブルサイズのものだと1〜2個つけばGood Jobな感じです。水やりですが、夏も冬も水切れで乾燥しないように、土の表層が乾いたらたっぷりと、という感じで行ってください。乾燥しきってしまうと実付きに影響してくるので要注意です。肥料は置き肥を2カ月に1度くらいを定期的にやってあげるとよいです。 何かまつわるエピソードがあれば教えてください。 Pix:ykokamoto/Shutterstock.com レモンに限らず、柑橘系は焼酎との相性が抜群なので、僕はいろんな柑橘系をサワーで試して楽しんでいます。例えばキンカンなんかも、完熟してオレンジ色になるまで待ってから収穫し、それを半分に割って3〜4個をサワーで割った焼酎に入れると、それはもう美味至極ですね。すだちサワーも美味いですよ。すだちは青いうちに収穫し、その酸味を料理で楽しむものですが、収穫せずに放置するとだんだん黄色くなって完熟します。完熟すだちは酸味が引いて甘味が強くなるんです。それを同様にサワーに入れて飲むと格別です。 おすすめ②「グレビレア」 どんな果樹・花木なのですか? Pix:NANCY AYUMI KUNIHIRO/Shutterstock.com オーストラリアをはじめとしたオセアニア地域が原産の、いわゆるオージー系の花木(オージープランツ)です。このカテゴリーはネイティブプランツとも呼ばれますね。種類がものすごくあるので、集めているコレクターもけっこういるんじゃないかな。どの種類も花の形状が一貫して蜘蛛を連想させることから、海外ではスパイダーフラワーとも呼ばれています。半耐寒性の常緑で、低木のタイプから、大きいものだと2mくらいのものもあるので、好みの大きさから選ぶことができます。とてもエキゾチックな花を咲かせ、その色や形状は同じグレビレアなのかと思ってしまうほど多種多様。その多くが耐暑性耐寒性に富み、気候への順応性も高く、基本的には育てやすい花木です。 おすすめの理由を教えてください。 おすすめの理由は、グレビレアの醸し出す「スペシャル感」というか、「ちょっと他とは違う特別な木」の雰囲気ですね。オリーブとかミモザのような、比較的どこの家でも気軽に見ることができる普遍的な花木と違って、グレビレアは扱っている園芸店も決して多くはなく、地方だと大手の園芸店に行かなければ入手できないかもしれません。また、オージープランツはブームというよりはここ何年も人気が定着しているため、大手園芸店などでは特設コーナーを設けています。実際、太田市場に行ってもほとんど競りにかからずに、某大手3社がガバッと予約で囲っちゃってる感じですからね(笑)。他とはちょっと違うテイストで、お庭やバルコニーにインパクトを効かせたい方にはおすすめです。 Pix:Fernando Calmon/Shutterstock.com 最近この近辺(祐天寺、学芸大界隈)でも、グレビレアやバンクシアなど、オージー系の花木でお庭をスタイリングしているお宅をたまに見かけますが、開花の時期に通りかかると、花の形、色彩と、なかなか記憶に焼きつく鮮烈さがありますね。うちのお客様にはグレビレアをシンボルツリーにしている方もおられます。価格は、普通の苗木に比べると3割くらい高くなりますが、数千円から数万円と値段の幅も広いので、まずは実際に店舗に行って見ていただくのがよいと思います。 四季の移ろいの中でどのような表情を見せるのですか? 品種によりますが、多くのタイプが夏に花を咲かせます。花の形も色もさまざまですが、一様に言えるのは、可憐というイメージではなく、むしろ派手で存在感のある花を咲かせ、極彩色の花火のような魅力があります。 グレビレア‘モリー’ Pix:HANAVI/Shutterstock.com グレビレア‘ハニージェム’ Pix:Paskaran.T/Shutterstock.com グレビレア・ロブスタ Pix:aquatarkus/Shutterstock.com グレビレア・ロブスタなど、一部の品種は秋になると紅葉を見ることもできます。しかし、落葉樹ではないので紅葉しても冬季に落葉はせず、春になると青々とした新芽が出てきて入れ替わるように古い葉を落としていきます。ただまぁ、何度も言うようですが、ホントに種類が多いんですよ。基本的に葉の形が種類によってまったく違うし。なので、四季の移ろいの中で魅せる表情も、種類によってぜんぜん違う場合もあるんです。どれだけ違うかは、映像を見てもらったほうが早いかな。 花木初心者でも育てることは可能ですか? グレビレアは基本的にドライな環境を好むため、まずは水やりのコツを習得しなければなりません。なので、これから園芸を始めるという本当の意味の初心者の方にはおすすめできません。多かれ少なかれ、植物の栽培経験がある方におすすめします。控えめの水やりが基本なので、同様の水やりを行う多肉植物経験者には容易に育てることができると思います。 育て方のコツを教えてください。 まず、日当たりと風通し、これは必須です。土も普通の培養土で構いません。太陽は直射日光をたっぷりと浴びさせてください。水やりは、地植えの場合は完全に雨任せでよいのですが、鉢植えの場合は控えめが基本です。ただし水を控えすぎてカラカラになると枯れてしまいます。しかも、一般的な植物は水が枯渇すると葉や茎が垂れ下がり、その状態が渇水状態を知らせてくれるのですが、グレビレアは水が枯渇すると何の前触れもなく、急に枯れます。怖いですよね。逆に水が多すぎても一撃で枯れるんです。怖すぎますよね。なので、週のうち何回あげる、とかではなく、ちゃんと気候ごとに土の状態をこまめに観察しながら水やりをしないといけません。 Pix:Karen McFarland/Shutterstock.com 特に夏場は一気に水を吸ってグングン伸び、午前中にたっぷりとあげても午後にはカラカラになるので、確実に日に2度はあげる感じです。また、日照や湿度の変化で土の乾き方も変わってくるので、天気予報をこまめにチェックし、土の状態、茎や節が瑞々しいかなど、毎日の観察が大切です。気温が低くなるこれからの季節はグレビレアも越冬に備えて根のパフォーマンスを落としていくため、乾燥への警戒よりも、土の湿った状態が長く続かないように気を付けてください。気温が低いと完全に乾くまで時間がかかりますが、乾いたらすぐにあげられるように、鉢に水分計などを挿しておくのもおすすめです。ちなみに、僕ら園芸業者は鉢の重みで中の水分量を判断したりもします。満水時と渇水時の鉢の重みを手の感触で覚えておくと水やりも上達しますよ。 耐寒性が強いため0℃あたりまで耐えられますが、念のため5℃を切ったら屋内に取り込むようにしてください。また、グレビレアはオーストラリアの痩せた土地に自生しており、栄養が少ない土壌から、細胞膜を生成するためには欠かせないリン酸を優先的に摂取できるよう根が進化しているため、肥料過多になると枯れる傾向があります。このため、購入した市販の土に元肥が混ぜ込んである場合、肥料はむしろあげなくてもよいくらいです。どうしてもあげたいという場合は、リン酸がほぼない油カスなどをあげるとよいでしょう。 クックタウン(豪州)の痩せた大地に咲く野生のグレビレア。 Pix:Howlandsnap/Shutterstock.com 植え替えの時に元肥として土に混ぜ込んで使用する「マグアンプK」などは、リン酸を多く含んでいるため、絶対に混ぜ込まないでください。植え替えの時は、元肥のあまり入っていない安価な土のほうが逆によかったりします。まぁ・・・こうやって説明してみると、グレビレアは園芸中級者に適した植物、ですかね。 何かまつわるエピソードがあれば教えてください。 昔の話ですが、まだグレビレアの流通が少ない時代に仕入れたことがあって、その時入れたグレビレア・ロブスタの2本のうちの1本を、植え替え後に迂闊にも水のあげすぎで枯らしてしまったことがあるんですよ。気づいたらあっという間に茶色くなって全体がしな垂れていたんで、これが噂の一発撃沈かと。まさかの経験でした。 おすすめ③「リューカデンドロン」 どんな果樹・花木なのですか? Pix:Totokzww/Shutterstock.com リューカデンドロンも樹形が綺麗ですよ。常緑樹なので、四季を通じてスタイリッシュな葉と樹形を楽しむことができます。色鮮やかに花が咲いているように見える部分は花ではなく、花びらみたいな色彩と形状に変化した苞葉(ほうよう)で、この苞葉の中に、決して存在感があるとはいえない果実のような花が咲きます。花よりも、花を包み込むそっち(苞葉)のほうが目立つという、ちょっと変わった花木です。 赤い大輪の花びらのようなものが開いた苞葉で、中心の黄色い球状のものが花だ。Pix:Phan/Shutterstock.com 80種以上の品種があり、野生のものは10mを超える高木もあります。そんなリューカデンドロンは、園芸界的にはオージープランツとして扱っているところが多いのですが、実際の原産地は南アフリカなんです。でも、オーストラリアにもたくさん自生していて、それは遥か昔、アフリカ大陸とオーストラリア大陸が地続きで繋がっていたことに由来するという説が有力ですが、ほかにも諸説あるようです。しかし実際に日本に入ってくるのは、そのほとんどがオーストラリアからの輸入です。安価な品種でも3,000〜4,000円で、2〜3万円するものも多いので、とても高級な花木です。 おすすめの理由を教えてください。 苞葉が黄色く色づき花が濃橙色のタイプ。 Pix : Iv-olga/Shutterstock.com 苞葉がグラデーションのある紫に色づき、花が緑色のタイプ。 Pix : Zachary Aronowitz/Shutterstock.com おすすめ理由はグレビレアと同じですね。ちょっと変わったプランツで個性をアピールしたいという方には、とてもマッチしたものではないかと思います。花を楽しむグレビレアと違い、苞の色彩を愛でるというのも一味違っていて面白いですよね。苞の色づき方も品種によって異なるため、コレクションする楽しみもあります。また、ドライフラワーとしても人気の品種なので、そういった楽しみ方もできます。 リューカデンドロンのドライフラワー。写真のもので300円。店舗スタッフ曰く、特別な処理なども行わず、3週間程度室内にただ干しておくだけで簡単に作れるとのこと。 四季の移ろいの中でどのような表情を見せるのですか? 苞の色彩は、春から初秋までは緑で、その緑色も品種ごとに落ち着いた緑だったり、光の加減によってシルバーがかったシャープな緑だったりと、さまざまなバリエーションがあります。そしてどの品種も中秋を過ぎた頃につぼみを出し、葉がそのつぼみを包み込むように苞葉と化し、同時に色づき始めます。春にかけて色味は増し、‘レッドデビル’や‘ストロベリーフェア’という品種は赤く、‘イエローデビル’はヒマワリのような黄色に、ほかにも紫色やグラデーションがついた色彩を放つものもあり、これからの季節にそんな色彩を楽しむことができます。 リューカデンドロン‘レッドデビル’ Pix : Maria Art/Shutterstock.com 樹木初心者でも育てることは可能ですか? グレビレアと同じで、水やりのタイミングに慣れる必要があるため、完全な園芸初心者にはおすすめはしません。ある程度園芸の心得のある方におすすめです。ただし、地植えにする場合は雨任せの水やりで問題なく、冬も氷点下にならなければ大丈夫なので、関東以南の方なら園芸初心者でも大丈夫だと思います。 育て方のコツを教えてください。 育て方は基本的にグレビレアと同じなので、前述のグレビレアの育て方を参照していただければよいです。とにかくオージー系のものは肥料を極端に控えることですね。 何かまつわるエピソードがあれば教えてください。 5〜6年前、近隣住宅の庭にリューカデンドロンの地植えの仕事をさせていただいたんですが、植えた当時は僕の胸に届くか届かないかくらいだった株が、今では3mを超えるところまで成長しているので、たまに家の前を通るとやはり感慨深いものがありますね。と同時に、やはり地植えは大きくなるな、と思いました。まぁこれはどんな植物にも言えることですが。ただ、リューカデンドロンは地植えに適したものと適さないもの、鉢植えのほうが楽に栽培できるものと、さまざまなので、その品種を購入する園芸店に「地植えしたいんですが」と、アドバイスを求めるのが一番だと思います。 おすすめ④「サンカクバ(三角葉)アカシア」 どんな果樹・花木なのですか? 三角形のナイフのような葉が特徴的なサンカクバアカシア。Pix : BearFotos/Shutterstock.com アカシアは一部の品種がミモザの名称でも知られていますが、いくつもの小ぶりな黄色い花がたわわに咲く姿が可愛らしくて、庭木としても人気のオーストラリア原産の花木です。豪州産が続きますが(笑)。今回はアカシアの中でも樹形がおしゃれな、サンカクバ(三角葉)アカシアを紹介しようと思います。小ぶりの連なった葉が特徴的な一般的なアカシアに比べ、大きめで三角形のシルバーがかった葉が特徴。ちょっと離れて全体像を見ると観葉植物のような趣もあって、とてもおしゃれなんです。葉がナイフみたいなので、海外ではナイフリーフ・ワトルとも呼ばれています。 確かにナイフのような葉が鋭角的なイメージを醸し出しているが、同時に美しさが際立つ。 これは普通のアカシア(ゴールデンワトル)。葉の違いが一目瞭然だ。 Pix : Raksan36studio/Shutterstock.com ちなみにワトルというのは、簡潔にいえば日本でいうミモザ(=フサアカシア)で、もともとはオーストラリアの固有種なんです。確かオーストラリアの国花なんじゃなかったかな。ただややこしいことに、アカシア=ワトルというわけではなく、一説には1,000種以上あるといわれるアカシアの中で、多くの種類がアカシアではなく遺伝的にはワトルか、っていう分類学上の論争も起きていると聞きます。いずれにしても僕はこのサンカクバアカシアが個人的には一番好きかな。花は一般的なアカシアと同じ黄色の房状ですが、房がやや大きい印象ですね。夏についたつぼみが冬に咲くので、これからの時期に花を楽しめます。夏から秋にかけて花芽がついていないものを店頭で買うと、そのシーズンは花が咲かないのが確定しているので、今の時期(11月)に買う方は花芽の有無を確かめてから購入してください。耐寒性も耐暑性も強く、とても育てやすいですよ。アカシアはシンボルツリーにしている方も多く、本来は庭木として地植えするほうが向いているのですが、鉢植えにしてコンパクトに楽しむのも洒落ています。 ブラジルのさるお宅のアカシアの木。シンボルツリーの名に恥じない見事なものだ。Pix:Paulo Rennes Marçal Ribeiro/flickr.com おすすめの理由を教えてください。 まぁ、前述のオージープランツと同じ理由ですが、普遍こそ全て、という人たちに対し「まぁ奥さん、お宅は普通のミモザなのね、うちのは三角葉なのよ、おしゃれで困っちゃうわ(笑)」と、差をつけたいという意識が高い方にはおすすめです。意識が高いというか・・・この言い方だと嫌味な奥さんですね(爆)。 冗談はさておき、開花が極寒の1〜2月という、園芸的に花が最も少ない時期に咲くので、まさにこれから楽しめる、というところもおすすめです。しかも、虫がつきにくく、病気も少なく、とにかく強い! 四季の移ろいの中でどのような表情を見せるのですか? 常緑なので紅葉などはしませんが、早くて1月あたりから房状の黄色い花が幾つも咲き始め、まさに厳冬期に可愛らしい黄色い花で楽しませてくれます。 Pix:Guillermo Guerao Serra/Shutterstock.com 花木初心者でも育てることは可能ですか? 水やりの面では、前出の2つのオージープランツほど難しくはありませんが、水切れを嫌うため、水を絶やさず、かつ多湿にせず、というところを注意していただければ大丈夫です。水よりも剪定かな。サンカクバアカシアはとにかく急速に伸びるので、伸びたら剪定が必須です。つまり剪定経験が必要となるので、初心者というよりは、樹木花木の栽培経験が1〜2度はあったほうがよいと思います。地植えの場合は放置で構わないので、その限りではありませんが。でも僕は個人的にはこのサンカクバアカシアが花木の最初の一歩でもよいと思います。基本がタフだし、剪定はこれをきっかけに勉強すればよいと思いますよ。 育て方のコツを教えてください。 管理は太陽がバッチリと当たるところで、風通しも確保してください。水やりですが、グレビレアのようにあげすぎで一発枯れということもないので、夏も冬も基本的に水を切らさないようにすれば大丈夫です。特に夏は土表面をこまめにチェックして、表面が乾いていたら間髪入れずたっぷりと、な感じで大丈夫です。わりと重要なのは剪定ですね。とにかく旺盛に伸びるので、デカくなったら容赦なく切る、でよいと思います。深めに切っても枯れることはありません。ただし、夏を過ぎて剪定すると花芽を落としてしまう可能性があるため、花期が終わる4月くらいの剪定が理想的ですね。肥料は他のオージープランツ同様、リン酸少なめか、ほぼない状態のものをあげてください。 何かまつわるエピソードがあれば教えてください。 僕にまつわる話ではないのですが、確か3月のどこかで※、女性にミモザを贈って感謝を伝える「ミモザの日」というのがあるんですよ。アカシアのことをミモザと呼ぶのはイタリアが発祥なので、そのイベントもイタリア発祥のはずです。そんな伊達なこと、僕がやったことあるかって? それは秘密ですね。ただ、いつかはやるかもです(笑)。 【ミモザの日とは】「ミモザの日」はイタリアで制定され、女性に日頃の感謝を込めて愛と幸福を呼ぶミモザ(フサアカシア)の花を贈るものとされる。3/8と制定されたのは1975年に国連が3/8と定めた「国際女性デー(International Women's Day)」に因む。 写真の女性の持つのは普通葉のミモザだが、これが三角葉だと存在感もアップする。 Pix:Gustova Svetlana/Shutterstock.com 関さんから愛のメッセージ Pix:Wavebreakmedia/Shutterstock.com 果樹に花木、どちらも鉢でお世話するとなると、何かと手間をかけなければ、果実や花、という成果を得ることができません。なので、成果を求めるには、相応のお世話を、手間を惜しまずにしてあげてください。よく、花が咲かないから、実がならないからという理由で、植物を放置する方がおられますが、以前も言ったかもしれませんが、植物が花を咲かせたり実を付けるのは、子孫を残すという本能的な行動であり、何も人間を喜ばせるエンターテインメントとして行っていることではないのです。もちろん皆さん、開花や収穫を楽しむために購入すると思いますが、それらは植物たちのあるべき自然のローテーションなので、咲かないから、実がならないからと諦めずに、そこをちゃんと目指していただきたいと思います。今はこのガーデンストーリーも含め、ネットで情報が容易に入手できる時代。しかしそれだけを鵜呑みにせず、「ネットではこう説明されているんですけど」と園芸店にも相談し、文字情報と生の声という、二つの情報を突き合わせてみると、自ずと最適な栽培方法が見えてきて、園芸の手腕も上がるのではないかと思います。果樹も花木も、それぞれのあるべき姿を人の手で実現させてあげるのも、「戦い」なんだよね。 編集後記 いかがでしたか? 樹木&花木の特集。個人的には、関さんのお店に意外にもオージープランツが充実していたことに驚きましたが、ブーム前に既に着目し取り扱って来たあたり、さすが関さんです。街の園芸店主にしておくには惜しい(笑)。というより、酒場の大将も似合うのではないかと、毎回話をするたびに思います。関さんがやる園芸と酒の店、楽しいだろうなぁ。さて、これから本格的な冬突入ですが、皆さん十分にご自愛ください。次回の関さんのお話も楽しみにしていてください!
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観葉・インドアグリーン
インテリアの格を上げたいなら観葉植物【オーガスタ】が超おすすめ! 育て方と魅力を徹底解説
オーガスタってどんな植物? 今回ご紹介するのはストレリチア・ニコライ(Strelitzia Nicolai)。日本ではオーガスタの名で知られていますが、海外では一般的に学名のストレリチア・ニコライで流通しています。原産地は南アフリカやマダガスカルですが、持ち込まれて帰化したものがメキシコ東部やオーストラリアにも自生しています。上に向かって交互に伸びる硬く長い茎の先には船のスクリュープロペラのような形の大きな葉があり、その重みで茎がしな垂れる姿はとても優雅。空間をリッチに昇華させるエキゾチックプランツは数多くありますが、気品という点に関してはオーガスタの右に出るものはいないのではないでしょうか。 新芽が外側から止めどなく生えてくる様子が分かる。この新芽がやがて雄々しく成長し、部屋に彩りを添える。 海外では直立した木質茎がバナナの木に似ていることからWild banana(野生のバナナ)や、特徴的な花にちなんでGiant white bird of paradise(楽園の巨大な白い鳥)とも呼ばれています。 自生地のオーガスタ。確かにバナナの木にも似ているし、巨大な鳥にも見える。尖った苞(ほう)の上に咲く白い花も南国チックなたたずまいだ。 Pix:Olga S photography/Shutterstock.com オーガスタの属するストレリチア属は、比較的短期間で大きくなるのも特徴で、原産国のマダガスカルおよび南アフリカで自生する野生種には、高さ12m・幅4mを超えるものもあります。そうした株は、まるでパプアニューギニアの国鳥「極楽鳥(ゴクラクチョウ)」が羽ばたいたような美しい花を咲かせることから、ストレリチア属には「ゴクラクチョウカ:極楽鳥花」という和名がついています。 ストレリチア属の中でも、純白な花と、美しい瑠璃色のブラクト(花苞:かほう)が特徴的なオーガスタには「ルリゴクラクチョウカ:瑠璃極楽鳥花」という、なんとも華麗な和名が付いています。ちなみに花苞とは、開花に至るまでつぼみを保護する、いわば殻のような役割を果たす部分を指します。 Pix:Perry Correll/Shutterstock.com しかし、家庭用の観葉植物として農園で育苗されたストレリチア属の開花はごく稀。10m以上の巨大株に育った場合に、ごく稀に美しい花を咲かせることがあります。観葉植物として市場に出ているオーガスタを10m以上に育てるのも簡単ではありませんし、大きく育ったからといって花が咲くとも限りません。正直なところ、植物園でもない限り、開花は稀です。しかしなんと! オザキフラワーパークの店頭でオーガスタが開花したことがあるんです。10mには及ばないものの、比較的大きい株が突然開花し、超稀少な開花株にお客様はもちろん、スタッフもびっくり! 買われたお客様はラッキーでした。ちなみにオーガスタは観葉植物を扱っている園芸店なら比較的容易に手に入ります。また、インテリアとの親和性がとても高いため、セレクトファニチャーのショップなどで販売していることも。巨大株は数万円しますが、大人の身長ほどの大きさの株だと1万数千円ほどでお買い求めいただけます。オザキフラワーパークでは、ポットサイズ(880円)から販売していますので小さいうちから育てて成長の早さを実感するのもアリですね! オーガスタは、通常だと動物に見られる黄色い色素「ビリルビン」を含むことが確認された数少ない植物の一つです。ビリルビンは、役割を果たした赤血球が分解される際に生じる色素。つまり、血液が流れていない植物に存在するのは非常に稀なことなのです。なぜオーガスタにビリルビンがあるのかは、2010年にこれを発見したFDA(アメリカ食品医薬品局)のキャリー・ピローネ博士もまだ研究途中のため解明には至っていません。ただ、オーガスタとビリルビンの関係を研究することが、がんや糖尿病の治療薬に進化をもたらすのではないかと期待されており、私たちにも遠からず恩恵をもたらすのではないかとも言われています。すごいですねオーガスタ! 名の由来 名の由来は簡単にいえば上図の通り。 まずは学名の「ストレリチア・ニコライ」の由来について解説します。属名の「ストレリチア」は18世紀英国の国王ジョージ3世の妻のシャーロット(シュトレリッツ)妃に敬意を表して付けられました。シャーロット妃は芸術分野のパトロンとしても知られ、また英キューガーデン(王立植物園)の拡大に貢献したアマチュア植物学者でした。小種名の「ニコライ」は19世紀ロシアの皇帝ニコライ1世の三男で、ロシア帝国植物園(現ロシア科学アカデミー植物園)を管理していた大公ニコライ・ニコライエヴィチへのオマージュを込めて、後年になりロシアの植物学者レーゲルにより付けられたとされています。また、ストレリチアの由来でもあるシャーロット王妃が、ドイツのメクレンブルク=シュトレリッツ大公家出身であり、大公家の世嗣カール・ミヒャエル公がロシア出身であったことも、ストレリチア・ニコライの誕生に大きく影響しているとも言われています。和名のオーガスタの由来は諸説あり、正確なところは分かっていません。ただ、学名を命名したレーゲルのフルネームがエドゥアルト・アウグスト・フォン・レーゲルであり、そのミドルネームのアウグストが由来であるという説が濃厚です。ちなみにアウグストはラテン語で、アウグストゥス=尊厳あるもの、巨大なものを意味しているため、その生涯で3,000以上の植物を発見し命名したレーゲルの偉業と、ストレリチア・ニコライのダイナミックな樹形にインスパイアされて、いつの間にかオーガスタと呼ばれるようになったのか、などと勝手ながら想像します。 野生のオーガスタ。葉1枚あたり小柄な大人くらいの大きさがあるというのだから、圧巻である。Pix:Jimenezar/Shutterstock.com オーガスタの種類 オザキフラワーパークでも人気のストレリチア・レギネ ストレリチア属にはオーガスタのほかにも、レギネ(レジーネ)や、希少種のアルバ(和名:白極楽鳥花)、ユンケア(別名:アフリカの砂漠バナナ)など、少ないながらもいくつかの種類があります。 ちなみに、植物学的にはオーガスタといえばアルバのことを指すのですが、アルバは絶滅危惧種のため流通しておらず、このため市場ではストレリチア・ニコライがオーガスタとして流通しています。 野生のストレリチア・アルバ Pix:David Jalda/Shutterstock.com オーガスタの育て方 置き場所と日常のお手入れ Pix:Olenaduygu /Shutterstock.com オーガスタはレースのカーテン越しの柔らかい光が当たる場所での管理が好ましいです。ほかの多くの観葉植物同様、オーガスタも亜熱帯出身の植物のため、太陽は大好きなのですが直射日光は苦手です。昨今の暑夏の陽射しは異常なほど強いため、わずか数分レースのカーテンが開いていたために葉焼けしてしまうこともあるので、直射日光には十分注意してください。耐陰性が強いため、外光が届かない室内でも栽培は可能ですが、間延びして葉が開かなかったりする可能性があります。せっかくの大きく美しい葉を楽しむためにも、お日様の恵みだけはしっかりと与えてあげましょう。また、お日様の恵みだけでなく、風の恵みも与えてあげましょう。植物が健康に育つためには風も必須で、この場合の風は、植物がたなびくような風ではなく、風によって植物を取り巻く空気が流れることが重要。エアコンを使用していないときは窓を開けておけばよいのですが、そうもいかないときに役に立つのがサーキュレーター。サーキュレーターが室内の空気を循環させることにより、オーガスタも自然界にいるような気持ちで、日々を過ごすことができます。ただし、エアコンやサーキュレーターの風を直接当てるのはNGです。詳細はこちらの記事で解説しています。【観葉植物などの栽培に役立つサーキュレーターの使い方をプロが徹底解説!】 葉水も日常のお手入れでは欠かせません。オーガスタは葉が大きいので、ホコリが溜まりやすく、放置しておくと生育不良や病気の原因にもなるため、予防措置として葉水は毎日あげることをおすすめします。加えて、葉水のたびに葉を拭いてあげましょう。すると、美しい葉をいつまでも維持することができます。その際、葉面洗浄剤を使用すると、葉の色艶も増し、オーガスタの魅力が倍増するので、さらにおすすめです。【オザキフラワーパークでも爆売れの商品、住友化学園芸の葉面洗浄剤「MY PLANTS」をオーガスタで試す!】 ストレリチア属の花言葉には、成功、自由、不死、忠誠心、愛、思慮深さ、楽観主義など、多くの意味があり、オーガスタは風水的には人と人との良好な関係を築き、大きな葉は金運を招くとも言われています。ゆえに、リビングや、オフィス、施設など、人が集う場所に置く方もとても多いです。 ペットのいるご家庭では置き場所に要注意! オーガスタには葉にも茎にも動物にとって血糖異常をもたらす成分が含まれているため、猫や犬などのペットの手の届かない場所で管理してください。成分に含有する消化管刺激物は嘔吐や下痢、腹痛を引き起こすことがあるため、万一ペットがオーガスタを口にした場合は速やかに動物病院を受診してください。本記事おける観葉植物のペットに対する安全性は、下記「アメリカ動物虐待防止協会」のANIMAL POISON CONTROL/Toxic and Non-Toxic Plants List (ペットに対する有毒無毒リスト)を引用しています。ASPCA/Toxic and Non-Toxic Plants List 夏の管理温度、冬の管理温度 夏は人間が過ごしやすい25~30℃くらいが適温です。室温が40℃近くまで上がると根が傷むことがあるため、不在時の室温には気をつけてください。冬は管理環境が5℃以下にならないよう注意してください。5℃近辺まで気温が低下するようになったら、ココヤシファイバー(椰子の繊維)やバークチップ(赤松の樹皮片)で土表面を覆う「マルチング」がおすすめです。マルチングは保温効果があるため、冬場の土中の根の保護に有効ですが、見た目もオシャレになるため一石二鳥ですよ。 ココヤシファイバーによるマルチング。 水やり Pix:Zhuravlev Andrey/Shutterstock.com 生育期の春~秋は土の表面が乾いたら、鉢底から余分な水が流れ出るくらい、たっぷりと与えます。この余分な水が、土の中の老廃物などを押し流してくれます。冬が近づくにつれ生育が緩慢になるため、株の耐寒性を高めるために水やりの頻度を調節します。夜間、外気の最低気温が10℃を下回る11月から12月頃は、土の表面が乾いた事を確認してから2〜3日後に水やりをします。あげ方は生育期同様に鉢底から水が流れ出るくらいたっぷりと与えます。厳冬の1〜2月は週1回程度でも問題ないでしょう。室温が暖房と加湿器で常に快温適湿な場合であっても、日照時間の変化により株は季節の変化に対応するスイッチが入り、根が吸水パフォーマンスを落とすため、冬季に生育期同様の水やりを行うと根腐れを起こす場合があります。水のあげすぎにはくれぐれも注意してください。 肥料/活力剤等 春~秋の時期に観葉植物用の錠剤肥料を与えます。錠剤肥料を置き肥する際、錠剤が幹に触れていたり、幹に近い場所に置くと、正しい効果が得られなかったり、根が肥料焼けを起こす場合があります。必ず鉢の縁に近い場所に、用法に定められた量を施肥してください。 剪定 Pix:Zhuravlev Andrey/Shutterstock.com 古い葉や傷んだ葉は根元付近で剪定します。ただし、剪定した場所から新たに新芽が出てくる植物ではありません。オーガスタは左右対称に芽を出して葉を展開していく植物のため、剪定する場合は外側の古い葉を剪定し、中央の葉は病気などの場合を除き、基本的に残しておきます。株は切られた分、新たな芽を出そうとパワーを消費するため、成長力が鈍化に向かう秋季冬季は避け、必ず3月から7月の間に行ってください。 増やし方 オーガスタは根が丈夫なため、容易に株分けで増やすことができます株分けに適した時期は、根が成長に向かう春から梅雨前です。根のパフォーマンスが衰える秋〜冬に株分けを行うと、子株はもちろん、親株も枯れるリスクがあるため避けてください。また、株分けする子株が瑞々しく、健康である場合のみ株分けが可能です。 株分けの方法は、一旦株を鉢から引き抜きます。 Pix:Amverlly/Shutterstock.com 親株を残し、外側の子株だけを丁寧に分離するのですが、分離しやすいように、抜いた株から余計な土をシャワー等で落としてください。 Pix:Zhuravlev Andrey/Shutterstock.com 先に述べたようにオーガスタは根が強く、分離の際、多少なら根を切っても、またすぐに再生するため問題はありません。ただし、ハサミに雑菌がついていると切り口から感染してしまう可能性があるので、ハサミは事前に刃を消毒してからご使用ください。※コンロの火で刃をあぶり殺菌する方法もありますが、高価な園芸鋏は刃が赤くなるまであぶると切れ味が落ちるので注意してください。 分離したら親株を元の鉢に戻し、子株を新たな鉢に植えます。植えたら、すぐに水やりはせず、48時間程度置いてから水やりをします。その際、発根を促すために「メネデール」を規定量希釈してあげると、成長が促進されます。 植え替え Pix:Simol1407/Shutterstock.com 2〜3年に1回は土のリフレッシュのため、新しい用土に植え替えを行いましょう。土は観葉植物用の培養土で大丈夫です。オーガスタは根の発育が良いため、2〜3年すると鉢内が根で満たされてしまいます。そうなると、鉢内が過密になり、酸欠と栄養不良に陥ってしまいます。このため、2〜3年に1回植え替えをし、その際に手揉みで古い根をふるい落とすことにより、根と土の両方をリフレッシュし、株をさらに成長させることができます。 病害虫 Pix:olpo/Shutterstock.com 室内の空気循環が悪いとカイガラムシが発生する場合があります。カイガラムシは樹液を吸って成長し、その結果植物を枯らしてしまう害虫です。活動期は発見しにくく、十分に養分を吸って死骸となった状態で発見されることが多いため、とても厄介。そうなると葉についた死骸を歯ブラシやピンセットで取り除く必要があります。しかしこれがまた取れにくいのです。取りにくいからと言って放置してしまうと、他の病気を誘発する恐れがあります。厄介なカイガラムシは春先や晩秋に、付く前に予防しましょう。方法として、「クロチアニジン」という成分が入っている薬剤を株全体に散布します。当該成分が葉の内部に浸透し作用するため、予防効果は絶大です。【注意】薬剤の使用は屋内では行わず、ゴム手袋、マスクをして屋外で行ってください。カイガラムシは前述したように、空気循環が悪いと発生しやすい害虫です。薬剤散布に抵抗がある方は、サーキュレーターを使用して部屋の空気を循環させることで、カイガラムシの発生を防ぐことができます。 オザキフラワーパークのおすすめオーガスタ4選+1 「うちのオーガスタは良型が多いのでまずは見に来てください!」と、ガチでオーガスタ推しの後藤さん。 毎回さまざまなおすすめ観葉植物をチョイスしていただいている後藤さんに、今回はおすすめのオーガスタを4品と、オーガスタ以外のストレリチア1品を選んでいただきました。オーガスタは広めのリビングや店舗での見栄えがよいため、オザキフラワーパークでは大型で高価格の商品から飛ぶように売れていくそうです。※下記の商品をお求めの際は、事前に店頭在庫をご確認ください。 大型タイプ 縦185cm(鉢含む:以下同) 横 (最大広がり幅)125cm価格13,000円(税込) 大型タイプは、高さが185cmと高く、管理場所の環境さえ良ければ(日照と風が理想的な状況)、どんどん伸びていきます。このぐらいの大きさの商品が一番売れゆきがいいですね。オーガスタらしいオーガスタ感を味わえる、まさにオーガスタ好きにおすすめのオーガスタです。何回でも連呼しますよ(笑)。それぐらいおすすめの株です。 中型タイプ 縦100cm 横65cm 価格6,800円(税込) 高さ1mの中型の株は、場所を選ばずに置けるのが魅力ですね。葉の大きさ、密度、色、すべての面において優秀な株で、大株に成長した時の姿が楽しみです。こちらの商品も、オーガスタらしさがギュっと詰まった、とてもよい株です。 小型タイプ 縦60cm 横50cm価格1,980円(税込) 高さ60cmの小型タイプは、室内でちょっとした棚や、陽当たりのよい玄関などに置くと、とても見栄えがしますよ。お値段も手頃で、このサイズだと合わせる鉢もたくさんあるので、鉢もコーディネートして買われるお客様が多いですね。 小型タイプ(手乗りサイズ) 縦40cm 横35cm 価格880円(税込) まさにミニチュアオーガスタといった趣のある、とても可愛らしい手乗りサイズです。とはいっても、ちゃんとオーガスタの“映え”を心得た、とても美しい姿をしています。1,000円でお釣りがくるという価格も魅力的で、一人暮らしの方や、これからオーガスタを始める方のマイ・ファースト・オーガスタとしても大人気です。 ストレリチア・レギネ 縦80cm 横40cm 価格2,980円(税込) オーガスタではありませんが、同じストレリチア属の親戚にあたるレギネも紹介します。レギネはオーガスタに比べ、葉が若干シャープで、色はややシルバーがかったコーティングがあり、スタイリッシュな印象です。育て方は前述の基本通りで大丈夫ですが、オーガスタよりは耐寒性が劣るため、冬場の夜間は室温が高くても冷気が滞留する窓辺からは離して管理したほうがよいです。 後藤さん’sスタイリング 縦185cm(鉢含む:以下同) 横 (最大広がり幅)125cm価格13,000円(税込)+鉢カバー 直径38cm 高さ38cm価格11,000円(税込)+受け皿 直径34.5cm 価格1,100円(税込)=合計価格25,100円(税込)樹形が格好いいオーガスタを活かすために、鉢カバーにはシンプルさを求め、色合いも温もりと落ち着きの中に洗練された主張が垣間見えるオレンジイエローのFRPという特殊プラスチック製のものをチョイスしました。今回は鉢カバーとして使用しましたが、鉢底穴があるため、そのまま鉢として植え込むこともできます。 Instagramで楽しもう! オーガスタとインテリア インテリアとの親和性も高く、お部屋のイメージを確実にワンランク上げてくれるオーガスタ。Instagramで#オーガスタと検索すると2.3万もの投稿が! 巷のプランツラバーたちがどのようにオーガスタを楽しんでいるのか、ちょっとのぞいてみましょう。これからご自宅に迎える方は、インテリアコーディネートの参考になるかも。 (写真左)ayamame_plantsさん邸のオーガスタは、この時お迎えしたばかりとのこと。おしゃれにディスプレイされたウンベラータやゴムの木などの先住プランツたちも、喜んで新しい家族を出迎えてくれているようですね!今はテーブルに乗る中型サイズのオーガスタですが、1〜2年もしたらきっと圧倒的な存在感を誇るのでしょうね。とにかく、植物たちがみんな楽しそう!(写真右)tiare_homeさん邸のオーガスタはなかなかの株立ち。陶製と思わしきスクエア鉢のソイルカラーがオーガスタのグリーンを絶妙に引き立てていますね。背後で存在感を放つバイクとのコラボレーションがこれまたオシャレですねぇ! ここでお酒飲みたいです(笑)。 (写真上)g_____k.a.rさん邸のオーガスタは、高い天井に向かって、これでもか! というくらいに伸びていますね。天井高にこれだけ余裕があるとまだまだ大きくなって、ゆくゆくは開花が期待できそう!大型のシーリングファンがお部屋の空気を撹拌してくれるので、オーガスタもさぞ居心地がよいでしょうね。伸びていく先の天井がウッドというのも、家主さんのこだわりを感じさせます。う〜ん、このうちの子になりたい(笑)。 編集後記 いかがでしたでしょうか、オーガスタ特集。昔ゴルフを嗜んでいた私的には最初、オーガスタというとゴルフトーナメントの聖地、米ジョージア州の「オーガスタ・ナショナルゴルフクラブ」が一番はじめに思い浮かびました。ゴルフコースのオーガスタはグリーンの難易度が悶絶級なんですが(もちろん回ったことはない)、グリーンはグリーンでもインドアグリーンのオーガスタは誰でも気軽に育てることができて、しかもそのおしゃれな樹形は、タイガーウッズや石川遼をも虜にしたとかしないとか。私的には今回、オザキフラワーパークの後藤さんにオーガスタの魅力を解説していただいたことにより、ゴルフ場のオーガスタよりも、ストレリチア・オーガスタが「オーガスタ」の第一イメージになりました。読者の皆さんの心に、ストレリチア・オーガスタがホールインワンすると嬉しいです。
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イベント・ニュース
世界バラ会議福山大会まであと2年! バラで盛り上がる福山市レポートなど園芸・ガーデニング業界最新情報をお届け
特集:「世界バラ会議福山大会まであと2年 バラで盛り上がる福山市」 今号の第一特集のテーマは、世界バラ会議福山大会。「第20回世界バラ会議福山大会2025」は、2025年5月18日〜24日まで、広島県福山市で開催されます。テーマは、「Roses for the Future〜福山からはじまる、新しい未来〜」、コンセプトは「みんなで創る みんなで盛り上げる みんなで輝く」。 福山市は日本のバラの魅力と、福山市のバラのまちづくりを世界に発信すべく、市全体で大会づくりに取り組んでいます。 福山市世界バラ会議推進プロジェクトマネージャー・上田善弘さんに本大会についてご紹介いただきました。 世界バラ会議とは 世界バラ会議は世界バラ会連合が、3年ごとに各地で開催する世界大会です。 世界バラ会連合には39カ国のバラ団体が加盟し、日本からは(公財)日本ばら会が加わっています。 世界大会の間の2年間には地域大会および国際ヘリテージローズ(遺産バラ、後世に残すべき貴重な遺伝資源としての古い品種や野生バラ)会議が開催されます。 これらの大会(会議)では、加盟国を中心として世界中のバラ愛好家が集まり、バラについての最新の知識の啓発と普及、バラの分類やコンテスト審査基準の標準化などについて議論し、愛好家の相互親睦、情報交換が行われます。そのために、講義、連合の各種委員会会議、現地視察および交流会が開催され、大会の前後にはバラ園視察を主とするツアーが企画されます。 日本では2006年に大阪市で初めて世界大会が開催され、日本を含め世界27カ国から約700名が集いました。それ以来、約20年ぶりの日本での開催になるのが福山大会です。 注目は、世界大会ごとに決定される栄誉の殿堂入りバラと、世界バラ会連合が認定する優秀庭園賞。2022年にオーストラリア・アデレードで開催された世界大会では、グラウンドカバータイプのバラ ‘フラワー・カーペット®️・ローズ・ピンク’が殿堂入りのバラに選ばれました。殿堂入りのバラは、世界中で愛され、バラの発展に貢献した品種が選ばれ、時のバラ品種の潮流を象徴するものとなります。 2022年オーストラリア・アデレードでの世界バラ大会の様子。 なぜ福山なのか 福山のバラの歴史を辿ると、戦後復興と深い関わりがあることがわかります。福山市は終戦間際の1945年8月8日の空襲により、街の約80%が焼け野原となりました。この荒廃した街の中心部に市民が約1,000本のバラを植栽したことから始まっています。現在、ここはバラ公園として市民に親しまれ、花の季節には美しい景色を展開しています。 その後、行政と市民が一体となってバラ植栽を進め、2016年には累計100万本のバラが配布・植栽され、「100万本のばらのまち福山」が実現します。この間、バラが市の花に制定され、市内に植栽されたバラを管理する地域リーダーの養成のため、福山ばら大学が開講されました(2010年に開講。2022年までに584名が修了)。 これらの長年にわたる活動と、バラが戦後復興のシンボルとなってきたこと、さらにはバラから育まれた利他の心(ローズマインド)などが世界バラ会連合に評価され、福山で世界大会が開催される運びとなりました。 連合旗の引き継ぎの様子。いよいよ福山市に世界バラ会議がやってきます。 「ローズ・エキスポ・フクヤマ2025(福山ばら博覧会2025)」 福山市での大会期間中は、街をあげて市内全域を使ったばらの祭典「ローズ・エキスポ・フクヤマ2025(福山ばら博覧会2025)」が開催されます。 福山市では、1968年から毎年5月第3週末の2日間、福山ばら祭が開催されてきました。コロナ禍で中断されましたが、再開された2023年のばら祭には41万人もの人々がバラを目当てに福山を訪れました。 「ローズ・エキスポ・フクヤマ2025」も福山ばら祭と同時開催になり、よりにぎやかな祭典となることでしょう。 約41万8千人が来場した2023年の福山ばら祭。 福山市の未来に向けたまちづくりや市民活動をご紹介 本特集ではそのほか、福山市の未来に向けたバラのまちづくりについて、福山市のまちづくりに深く関わる神戸国際大学教授/株式会社ARTFUSION代表取締役・白砂伸夫さんに、そして、「100万本のばらのまち」を支えるローズマインドを持った市民活動について、福山ばら会会長・石井稔さんにお話を伺っています。 福山市のバラや、バラを扱う生産者7社に聞いた各社イチオシの品種10種も必見。ぜひ、誌面をお手に取ってご覧ください。 リニューアルが予定されている福山のシンボル、ばら公園のエントランスの完成イメージ。 満開のばら公園。バラのアーチは撮影スポットしても人気。 特集:「ドライガーデンから考える環境に適したガーデン」 「乾燥に強い植物」という限られた条件ながらも、美しいベス・チャトーガーデン。 特集「ドライガーデンから考える環境に適したガーデン」では、チェルシーフラワーショーでも金賞に輝き、イギリスにおいて関心が高まっているドライガーデンについて取り上げています。 干ばつ問題から火が付いたイギリスのドライガーデン まず、「ドライガーデンの本質を考える」をテーマに、ガーデンデザイナーの吉谷桂子さんにお話を伺いました。 ドライガーデンへの関心の高まりは、環境問題に起因しています。 イギリスでは90年代半ばから干ばつが問題になり、水道水の利用について制限が設けられています。そうした背景から、乾燥に強い植物で構成したガーデンの需要が高まり、ドライガーデンが注目されるようになりました。 2017年のチェルシーフラワーショーでは、マルタ島の乾燥した環境を模したモダンガーデン「The M&G Garden」がグランプリを受賞。今年は、砂漠を想起させるベージュ色のアイリスが印象的なドライガーデン「The Nurture Landscapes Garden」が金賞を受賞しました。 2017年のチェルシーフラワーショーでグランプリを受賞した「The M&G Garden」(デザイナーはJames Basson)。使われなくなった石灰岩の採石場を利用してつくられた庭園というイメージ。 2023年のチェルシーフラワーショーで金賞を受賞した「The Nurture Landscapes Garden」。乾燥した砂地にベージュ色のアイリスが馴染んでいる。(写真:白井達也) さらに現在は、水不足だけでなく、さまざまな自然災害に耐えうるガーデンに注目が集まり、ナチュラリスティックガーデンのブームにつながっています。 日本の気象災害というと、夏の猛暑と豪雨が代表的ですが、昨今は干ばつの心配もあります。例えば前述の「The M&G Garden」のような庭は、水が溜まりやすい構造をしているため、多湿の日本には向いていません。 そこで吉谷さんは、盛り土やレイズドベッドで水はけをよくするなど、日本で植物が生きていける環境をデザインに落とし込んだデザインを考案しています。東京パークガーデンアワードのモデルガーデン「クラウド」がよい例といえます。 東京パークガーデンアワードのメンテナンスフレンドリーな宿根草メインのモデルガーデン「クラウド」。日本の厳しい夏の日差しに耐えられる植物として、アガパンサスを植えている。 ドライガーデンは、水不足の中でいかに庭を存続させるか、という環境問題から始まりましたが、その本質は「厳しい環境に適した植物で、いかに美しい植物の庭をつくるか」という点にあるのかもしれません。 2社によるドライガーデンの事例をご紹介 そのほか、本特集では、日本庭園の世界観を取り入れた“NEO DRY GARDEN”を追求する「BOHEMIANS」(株式会社BOB/g.d.o)の菊地亮さんに、和風テイストにドライガーデンを加えた独自の外構・植栽の解説を、そして、ユッカロストラータやアガベを中心に、ドライガーデンに使われる植物を扱うRYU PLANTS NETWORK代表の桧野竜治さんに、日本のドライガーデンを楽しむために必要な要素について、お話を伺っています。 BOB/g.d.oが手がけた東京都武蔵野市吉祥寺の物件。 RYU PLANTS NETWORKの植物園のようなハウス内(埼玉県川口市)。 業界の最新情報が盛りだくさんの『グリーン情報』 このほか、『グリーン情報』9月号では、特集「遊べる・学べる 都市の緑地」として6月に開幕した都市緑化仙台フェアからみるこれからの都市緑化の在り方、園芸店紹介として栃木県宇都宮市の「とちぎ園芸」、生産者紹介として愛知県春日井市の「H&Lプランテーション春日井農場」をご紹介しています。また、エクステリアガーデンの現場で働く専門家によるハウツー・事例紹介、業界最新ニュース、学べるクイズコーナーなど、園芸・ガーデニング業界の幅広く深い情報が満載。ぜひお手にとってご覧ください。 『グリーン情報』のお求めはガーデンストーリーウェブショップへ 『グリーン情報』はガーデンストーリーウェブショップからご購入いただけます。ショップページはこちら↓↓https://www.gardenstory.shop/shopbrand/ct8/
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ガーデンセラピーを学ぶ! 「ガーデンストーリークラブ」オフ会レポート
ガーデンセラピーを実践する教室「花音の森」 写真/堀久恵 オフ会の会場は、埼玉県熊谷市にある「花音の森」。代表の堀久恵さんは、地元熊谷市の気温が年々高くなっていることを実感する中、エアコンの効いた場所や自然とかけ離れた空間に身を置く生活は自身の体に合わないのでは? と感じるようになりました。そして『日本一暑い街・熊谷でエアコンに頼らず暮らす』という革新的なテーマを掲げ、ここ、「花音の森」を立ち上げました。ナチュラルな空間で快適に暮らすために、建物の設計や素材選びにこだわることに加え、庭の植物の選び方や配置によって、自然の持つ力を上手に利用しています。 ガーデンセラピーとは? ガーデンセラピーとは、園芸療法・食事療法・森林療法・芸術療法・芳香療法からなる自然療法の総称。さまざまな植物を暮らしの中に取り入れ、ストレスをケアして健康寿命を延ばそうという取り組みです。 例えば、庭でハーブを育てて収穫し(園芸療法)、食べて(食事療法)、使う(芳香療法)、といったように、植物を通してさまざまな療法を掛け合わせて実践できるのがガーデンセラピーの特徴です。 そんなガーデンセラピーをトータルで体験できる場所として作られた「花音の森」では、寄せ植え作りや庭の植物をインテリアとして楽しむ方法を学んだり、ハーブを使った料理や飲み物作り、精油を使って香りのアイテムを作るなど、植物のある暮らしの楽しみ方を学習することができます。 自然の力を生かした住まい方 「花音の森」代表の堀久恵さん オフ会の前半は、「花音の森」の取り組みや、堀さんが実践するガーデンセラピーを取り入れたライフスタイルなどについての講義。「花音の森」ができたきっかけに始まり、エアコンに頼らない暮らしを実現するために実行した家づくりの仕組みについてお話しいただきました。 エアコンなどの機械をできるだけ使わず、太陽の熱・風・水・庭の植物といった自然エネルギーを最大限に活用・調節して、快適な住まいをつくる手法を「パッシブデザイン」と呼びます。家と庭のプランにこのパッシブデザインを取り入れ、四季のある日本の気候変化に対応できるよう建築士や造園技能士と相談を重ねて家づくりを進めました。 例えば、南向きの掃き出し窓の前はウッドデッキを広めに設置し、周りにはコナラを中心とした植栽とパーゴラを設置してブドウを植えています。夏は葉が茂ってデッキ周りを覆い、室内に日差しが入ってくるのを防ぐ一方で、冬は落葉するため日差しが確保できる、という仕組み。 また、窓については夏は風がよく通り、冬は北風を入れないために大きさや位置、開閉の向きを工夫しています。そして、壁の素材には漆喰を採用。漆喰は、夏は湿気を吸い込み、冬には湿気を放出してくれるため、壁自体が湿度調節をしてくれるのです。 ※より詳しい「花音の森」の庭づくりや暮らしの様子については、下記の連載をご覧ください。「花音の森」レポ 五感を刺激する、植物のある暮らし 続いての話題は、ガーデンセラピーと密接に関係する「五感」について。人は5つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を通じて外界の状態を認識します。五感でキャッチした情報は脳へ送られ、次に起こす行動や思考などが生まれており、五感と脳には深い関係があります。五感が刺激されることで脳が活性化し、豊かな感性や発想力が養われたり、心身の健康につながるのです。 ガーデンセラピーを暮らしのなかで実践する堀さんの一日を少しのぞいてみましょう。 6:00/起床。庭に出て植物に触れ、木々の中で新鮮な空気を吸い朝日を浴びる。草花の手入れをしたり、ハーブを摘む。→森林療法・園芸療法・芳香療法【視覚・聴覚・嗅覚・触覚】 8:30/仕事スタート。精油で芳香浴をしたり、庭で摘んだローズマリーを傍らに置いて香りを漂わせ、集中力アップ。→芳香療法【嗅覚】 12:30/ウッドデッキで昼食。庭で摘んだハーブを使ったガパオライスと、フレッシュハーブティーをいただく。→森林療法・食事療法【視覚・聴覚・嗅覚・味覚】 14:00/息抜きの間食。パーゴラになるブドウの手入れをしつつ、食べごろの果実を摘んでおやつに。→園芸療法・食事療法【視覚・味覚・触覚】 17:00/仕事が一段落。部屋に飾るフラワーアレンジメントや、スワッグをつくる。→芸術療法・園芸療法【視覚、触覚】 このように、暮らしに植物を取り入れるガーデンセラピーには五感を刺激するアクションが多数含まれているのです。 「花音の森」の庭散策 講義の後は庭散策へ。庭づくりスタートから4年半が経った「花音の森」のガーデンは、家屋を取り囲むコナラの木が成長し、夏場は家の壁面の大部分が隠れるほどに葉が繁っています。木々に覆われたことによりたっぷりと日陰ができ、庭や室内を通る風が心地よく爽やかに感じられます。樹木には柿などの果実、ベジトラグにはまんまると美味しそうなナスなど、あちこちに実りが。 一面に広がる青々とした芝は、ロボット芝刈機がせっせと手入れをしていました。「雑草を抜かずに表面だけ刈って根を生かすことで、雨が降っても土が流れないようになっています」と堀さん。庭を見学しながら、会員さまからは庭の手入れのテクニックについてや、見慣れない木々を見つけて「あの木はなんですか?」と質問が飛ぶなど、皆さま興味津々の様子でした。 オフ会には、堀さんの愛犬のノアくんとリンちゃんも参加。2匹は庭に飛び出すと、芝の上をゴロゴロと転がったり、かけっこをしたりと、気持ちよさそうにのびのびと過ごしていました。その様子から、人間だけでなく犬にとっても庭が心地よい空間になっていることが伝わってきました。 ハーブを摘んでフレッシュハーブティーを楽しむ 庭散策の後は、庭で育つレモングラスを会員さま自らの手で収穫。レモングラスの葉は両端が鋭く、手を切らないように注意しながらハサミでカットします。レモングラスはその名の通り、レモンのような柑橘の香りをもつイネ科の多年草。香りがよいので料理やお茶の材料として使われるほか、石鹸や化粧品の香料としても用いられています。 収穫を終えたら、いよいよフレッシュハーブティー作りです。先ほど摘んだレモングラスに、アップルミントとスペアミントを加えてブレンドティーに。ハーブティー自体は馴染みがあるものの、摘んだばかりのフレッシュハーブで淹れたハーブティーは非常に香り豊かで、「美味しい!」「うちでもやります!」とフレッシュハーブならではの新鮮な味わいに皆さま感動された様子でした。 写真左:倉重編集長/写真右:鶴岡副編集長 テーブルを囲んでのティータイムは、ガーデンストーリーの倉重編集長、鶴岡副編集長も交えて、ハーブを使用したパウンドケーキとクッキーをお供にハーブティーを楽しみながら、「うちの庭ではね…」とガーデニングトークで盛り上がり、皆さまの笑顔があふれる中、会はお開きとなりました。 オンラインコミュニティで、日々コメントなどを通して交流する会員さま。他県で暮らす庭友達と直接会ってコミュニケーションを取ることで、より一層親睦を深めることができました。そして、自然や植物の力を生かした住まい方やガーデンセラピーを取り入れたライフスタイルについて学び、それぞれの暮らしにどう活用できるかを考えるきっかけとなったのではないでしょうか。講師を務めていただいた堀さん、参加者の皆さま、ありがとうございました! オンラインコミュニティ「ガーデンストーリークラブ」とは? ガーデンストーリークラブは、 ガーデニングを通じて全国の花好き・ガーデニング好きな方々と交流を深めるオンラインコミュニティです。ご入会いただくと、下記のようなさまざまな機能や特典をお楽しみいただけます。 ・オンラインサロンへの参加(過去に開催された55本以上のサロン動画も会員専用サイトにて24時間視聴可能)・レッスン参加費の会員特別優待・毎月開催のプレゼント企画への参加・会員専用サイトの投稿機能で栽培レポートや情報交換による会員さま同士の交流・植物に関するお悩み相談へガーデンストーリーの執筆陣をはじめとする園芸のプロが回答・ガーデンストーリーウェブショップでの購入割引・スターターキットとしてオリジナルグッズのプレゼント・会員限定記事の配信(不定期)※オンラインサロンまたはレッスンは月1回以上開催 新規入会時には、「スターターキット」として、上写真のようなオリジナルバッグ、ミニブック0号、年間卓上カレンダー、クリアファイル、ポストカードをセットでお贈りします。また、ご入会中は毎月グリーティングカードを、5月はミニブックを、11月は卓上カレンダーをお贈りいたします。 「ガーデンストーリークラブ」の詳細・ご入会はこちら ガーデンストーリークラブへのご入会や、入会するとできること、会員さまの声、入会までの流れ、皆さまから寄せられるよくあるご質問などをご紹介しています。以下バナーをクリックしてご覧ください。ご入会お待ちしております! ※ご入会のお申し込み画面で、クーポンコード「gscfree30」をご入力いただくと1カ月分の会員費が無料になります
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イベント・ニュース
話題の「植物用LED」6選、イベントレポートなど園芸・ガーデニング業界最新情報をお届け
特集:「LED新時代」 今号の特集のテーマは、「LED新時代」。植物用LEDはここ数年で飛躍的に進化してきました。生産の現場では生産効率を上げ、売り場では植物の見せ方の幅が広がり、消費者の手元では室内で育てられる植物が増えるなど、LEDの活躍の場は着実に広がっています。 本特集では、LEDが使われている2つの現場、生産者とホームセンターを訪れ、それぞれの視点からのLED活用による効果などを取材。さらに、植物LEDメーカー6社の商品、そして生産者7社に聞いた室内におすすめの植物をご紹介しています。 花の産地で使われるLED照明〜花匠〜 台湾やインドネシアの提携農場で育った苗を購入し、花芽を出すところから東近江市のハウスで育成。ハウスの天井にはずらりとLEDが並び、コチョウランの成長を助けている。 花匠(滋賀県東近江市)は、約1,000坪のハウスで年間10万株のコチョウランを生産しています。同社では、冬の日照不足を補うため、昨年から植物育成用のLED照明(以下LED)を導入しました。 花匠が取り入れたのは、花芽を出す効果のあるLED「NEXLIGHT TUBE(ネクスライトチューブ)」合計1,600本。メーカーの豊川温室では、生産者各々に合うLEDの使い方、レシピを作っており、花匠へのLED導入時にも光の測定器を使い、一棟一棟に合うLEDの使い方をサポート。 その結果、冬場もコチョウランの成長が遅れることなく、出荷ができたといいます。輪数の調整も可能になって、高品質な花を安定して生産できるようになりました。 施設環境維持を電気に頼っているため、停電が長引いた時などに太陽光発電や蓄電池など予備の電気を動かせるようにしなければならないという課題はあるものの、コチョウランの生産はLEDにより変わりつつあります。 この流れがさまざまな花の生産地に波及すれば、LEDによって新しい花の提案が生まれる時代が来るかもしれません。 観葉植物売り場に植物用LEDを設置〜コーナン吹田インター青葉丘店〜 LED付き什器。一番下に水のタンクがあり、底面給水の要領で水やりができる。タイマーでON/OFFを制御する。 コーナン吹田インター青葉丘店(大阪府吹田市)では、2019年6月のリニューアルを機に観葉植物売り場に植物用LEDを設置して4年。都市型店が多く、外売り場を広く取ることが難しい中で、店内にも植物売り場をつくる必要があったことからLEDを取り入れました。 当時は家庭向けの植物LEDはまだまだ普及していなかったため、導入したのは生産農家向けのLEDを応用した照明器具。観葉植物売り場約100坪に対し、LED付き棚型什器12台と、天井から下げるスポットライト型のLED16本を設置しました。 天井から下げているLEDは補光用で、ピンク色の光を照射します。店を閉めた夜中に点灯し、その短い時間だけで十分に植物の鮮度を保っています。特に奥まった場所にある、高さ3mにもなるウンベラータは、リニューアル時の4年前から順調に成長し、そろそろ植え替えが必要になるほど元気だといいます。 一方、LED付き棚型什器には、アジサイやマーガレット、ケイトウなど、外の売り場に並べられるような植物も陳列されています。底面給水で自動で水やりもでき、1段ごとに光と水やりの設定を変えられるため、1台でさまざまな植物に対応できるのもこの什器の長所です。 また、植物用LEDの太陽光に近い光は、植物を生き生きと見栄えよく演出するのにも効果的。こうした工夫の甲斐があってか、近年は若いファミリー層の来店も増えています。 植物の育成や補光はもちろん、観葉植物を魅力的に見せる展示にも使える植物用LED。売り場ごとの短所を補い、魅力に変える活用方法がまだまだ眠っているのではないでしょうか。 東京都八王子市にあるぐりーんうぉーく多摩店。LEDで補光している。 各メーカーの植物用LED 続いて、各メーカーイチオシの植物用LEDをご紹介します。 豊川温室『PLANTS NEXLIGHT』 PLANTS NEXLIGHTシリーズの「PAR30」。口金E26に対応しており、本体はブラックとホワイトの2色。消費電力は10.5Wで、光は白色。スポットライトのようにして植物に照射できる。 ミニサイズの「PAR16」。テーブルに置くミニ観葉植物に適したサイズ感。 蛍光灯型の「TUBE」。ハウス照射にもおすすめ。 施設園芸用ハウスの設計施工から始まった豊川温室が、農業用LED開発に着手したのは2006年。公共研究機関や地域の農家などと共同で研究・試験を繰り返し、確かな効果が証明できたこともあり、全国のJAや市場、コチョウラン、バラ、キク、カーネーションなどの有名生産地、さらには海外の花の生産現場でも取り入れられています。 生産の現場で使われている技術を家庭向けにカスタマイズして作られたのが、『PLANTS NEXLIGHT』。高島屋植物園と共同開発された商品です。スタンダードな電球型の「PAR30」と、テーブルに置けるミニサイズの「PAR16」、近接照射の蛍光灯タイプの「TUBE」などを展開しています。 BARREL『HADES PLANTSLIGHT』 3500K(暖色)と5000K(白色)の2種に、それぞれ本体カラーをブラック、ホワイトの2色展開。取り付けにはダクトレールが必要。 「AMATERAS」でおなじみのBARRELは、8月に新商品「HADES PLANTSLIGHT(以下HADES)」の発売を予定しています。 「AMATERAS」や「TSUKUYOMI」といった既存の製品は、消費電力20Wと家庭で使いやすい反面、その分植物に近づける必要がありました。 そこでHADESは消費電力を最大45Wに。天井にセットして、スポットライトのように植物を照らしても光が十分に届くようになりました。 HADESが本領を発揮するのは、広い空間。例えば、大型施設の壁面緑化や、商業施設に設置した観葉植物、園芸店などですが、さらには一般家庭でも、建築デザイン時に植物ありきでHADESを設計に組み込んでもらう、というのもBARRELはビジョンとして描いています。 CONTEST『vegepod kitchengarden』 インテリアとしても楽しめる高いデザイン性を持つ「vegepod kitchengarden」。室内の雰囲気に合わせて選べるホワイト、ブラックの2色展開。 「ベジポッドキッチンガーデン(以下ベジポッド)」は、オーストラリアのvegepod社の製品。LEDライトと底面灌水システムにより、室内で手軽にキッチンガーデンを楽しむことができます。パソコンの周辺機器を連想させるデザインは、食卓用テーブルに置いても違和感がなく、室内インテリアとしてもしっくりきます。 植物に応じてLEDの高さ調節が可能で、備え付けの水位計により給水のタイミングが目視で確認できるなど、手軽に栽培ができる工夫がなされています。 BRID『PLANTS LIGHT』 消費電力5Wの「PLANTS LIGHT40」(直径6.5cm、高さ9.5cm)と、消費電力9Wの「PLANTS LIGHT60」(直径7.5cm、高さ10.5cm)の2種類に、電球色と昼白色の各2パターンをラインアップ。 食品や繊維の原材料、インテリア商品販売など幅広いビジネスを展開するメルクロス株式会社のオリジナルブランド、BRIDが企画した植物用LEDが「PLANTS LIGHT」。シンプルな電球タイプで、好みの照明器具との組み合わせが可能。インテリア性を高めた一方、植物の生育にも効果を発揮するよう、共同企画した照明メーカーとともに、植物の光合成に必要とされる有効な光の色の強弱に合わせた色構成を実現しました。 横浜植木『LEDプラントマグネット棚バー』 長さ55cmのLEDプラントマグネット棚バー。植物工場や研究施設で使用されてきた植物育成用LEDの性能を再現。家庭でも使用しやすい白色LEDで植物をより鮮やかに演出する。 当初、暗くなりがちな園芸店の棚下の有効活用に対応する製品として開発された「LEDプラントマグネット棚バー」。昨今、多肉植物や観葉植物を楽しむ人が増えていることも背景にあり、ECサイトを中心に個人需要も順調に伸びています。開発でこだわったのは、太陽光と照明との色の差異を表す演色性。共同開発者のフューチャーライト株式会社と共に研究を重ね、屋内であっても自然光の下で見る植物本来の色と瑞々しさを再現し、同時に植物を育てる楽しさも体感できる現在のLEDチップの配色と配置を導き出しました。そのほか、マグネットによる取り付け方法や、最大60度の範囲で照射角度が調整できる機能、また、一つのコンセントで4本まで同時接続できる点など、使い勝手を十分に考慮した仕様になっています。 カクト・ロコ『多肉植物の小さな庭』 LED本体とスタンドの組み合わせによる使用例。光が分散せず植物を際立たせるのが特徴。 「多肉植物の小さな庭」を販売する株式会社カクト・ロコは、多肉植物やサボテンを扱う専門ナーサリー。多肉植物を知り尽くした同社のLEDライトは、曇天時の光量に設定されており、その波長は多肉植物以外の植物にも適しています。 製品はスタンドとLEDライトが取り付けられた天板の別売りで、設置環境に応じて選択ができます。天板に取り付けられたLEDライトは、バータイプのものを縦方向に10本配置。スタンドの高さは40cmの固定で、背丈が高い植物にも対応可能です。 LEDと合わせたい、室内におすすめの植物6選 特集最後には、生産者7社に聞いた植物用LEDを使いながら楽しみたい植物をご紹介しています。室内の半日陰でも育ちますが、LEDを使うとさらに元気に育ち、育てる楽しみをより実感できるでしょう。 フィカス・ウンベラータ 株式会社エコグリーンヒガシおすすめ セントポーリア オグリ/農事組合法人ロイヤルグリーンおすすめ フィカス・アルテシマ 有限会社田原迫ヤシ園おすすめ モンステラ・デリシオサ 有限会社三浦園芸おすすめ ベゴニア「流れ星」 花郷園おすすめ アデニウム・アラビカム 株式会社カクト・ロコおすすめ 業界の最新情報が盛りだくさんの『グリーン情報』 このほか、『グリーン情報』7月号では、園芸店紹介として愛知県名古屋市の「YOKONI PLANTS」、生産者紹介として千葉県東庄町の「飯田グリーン」をご紹介しています。また、エクステリアガーデンの現場で働く専門家によるハウツー・事例紹介、業界最新ニュース、学べるクイズコーナーなど、園芸・ガーデニング業界の幅広く深い情報が満載。ぜひお手にとってご覧ください。 『グリーン情報』のお求めはガーデンストーリーウェブショップへ 『グリーン情報』はガーデンストーリーウェブショップからご購入いただけます↓↓ショップページはこちら。https://www.gardenstory.shop/shopbrand/ct8/
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観葉・インドアグリーン
育て方が超簡単な【ゴムの木】は初心者にピッタリの観葉植物! 種類も豊富なおすすめ11選付き
ゴムの木ってどんな木? ゴムの木は、ゴムの原料となるラテックスという樹液が出る植物の総称で、さまざまな種類があります。そして、どの品種もとても強靭な生命力を誇ります。原産地の東南アジア諸国や南アフリカ、ラテンアメリカ以外でも、寒冷地を除く世界各地で帰化した自生種を見ることができます。多くの種類の中で、私たちが観葉植物として目にするゴムの木は、主にクワ科のフィカス属に分類されるものです。フィカスは常緑・落葉樹合わせて世界中で800種類以上あるといわれ、現在記載されている顕花植物(花を咲かせ結実し、種により繁殖する植物)の中で最大の種属の 1 つです。属名のフィカスとはラテン語のイチジクを指し、その名のとおりイチジクの実がなります。しかし、観葉植物のフィカスは改良された園芸品種のため、イチジクがなることはありません。実はならずとも、人々を魅了してやまないのは、美しく神々しさを感じさせる葉と、いかにも亜熱帯の植物らしいエキゾチックな容姿。ゴムの木は葉の出方もかなり特徴的。葉は頂端分裂組織のサヤの中で発育し、新しい葉が発育するにつれてサヤも大きくなります。 そして成熟するにつれてサヤを脱いでゆき、サヤはやがて脱落します。 成熟した葉がまるで蝶が脱皮するようにサヤから出てくる。写真は「フランスゴムの木」という種類のゴムの木。 脱ぎ捨てられ脱落したサヤ。この新葉誕生のプロセスにも面白みを感じる。 どの品種も自生地の環境が過酷なため、その遺伝子を受け継ぎ、耐乾燥・耐陰性が高く、数ある観葉植物の中でも屈指の育てやすさ。初心者の方に、特におすすめです。値段の幅は広く、マニアが好むような希少種は数万円しますが、オザキフラワーパークでは398円のミニサイズから買うことができます。また、テーブルに置くようなサイズも1,000~4,000円の間で数種類あります。 【ゴムの木と人類の文化】ゴムの木は、聖書(旧約・新約共に)の中にもエピソードが描かれており、また自生する亜熱帯地域では信仰の対象としている部族も数多く、宗教的伝統を通じて人類の文化に多大な影響を与えてきました。ちなみに、植えられた日付が分かっている中で最も古い現存するゴムの木は、紀元前 288 年にスリランカのティッサ王によってアヌラーダプラの寺院に植えられた「スリ・マハ菩提樹」(下写真)で、これが人類最古の植樹とされています。Boyloso/Shutterstock.com ゴムの木の種類 ゴムの木にはとても多くの種類があります。単に観葉植物の「ゴムの木」として販売されているものの多くは、インドゴムの木(学名:フィカス・エラスティカ)です。街の園芸店では「ゴムの木」という名称のほかにも、フィカス・ウンベラータのように「フィカス・○○」と学名を商品名にして販売されているケースもあり、小規模なお花屋さんでは前者、オザキフラワーパークのような専門店では後者のケースが多いです。ただ、フィカスが付かなくても観葉植物でゴムの木の仲間はとても多く、インドアプランツの定番ベンジャミンも、学名はフィカス・ベンジャミナといい、ゴムの木の仲間です。また、一見して塊根植物に見えるガジュマルや、コアラの主食として有名なユーカリも、じつはゴムの木の仲間です。 ゴムの木は同じ品種でも、店頭ではまるで異なる品種のように販売されているものがあります。その代表的な例は「ノーマル樹形」と「ねじれ(曲がり)樹形」。ノーマル樹形は自然のままの樹形を指し、ねじれ樹形は人の手によって幹に力を加え、長い時間をかけてスパイラル状(螺旋状)や編み込みなど、独特の樹形に作られたものです。ねじれ樹形はノーマル樹形よりも価格が割高になりますが、アーティスティックな樹形を楽しみたい方に人気です。 いったいどうすればこのような幹を作ることができるのだろうか・・・。 Pix:ombra7/Shutterstock.com ねじれ樹形の商品は、幹の要所要所をロープで引っ張った状態で長期にわたり生育させたり、ワイヤーで幹の成長を誘導するなど、人の手によってある意味無理やり不自然な樹形に作り上げられていますが、これにより株の寿命が短くなったり、お手入れが煩雑になったりすることはなく、後述する通常の育て方で大丈夫です。 ゴムの木の育て方 置き場所と日常のお手入れ Pix:Ground Picture/Shutterstock.com 熱帯地域原産で太陽光が大好きなゴムの木ですが、観葉植物として購入したものは、直射日光に長時間あたると葉が日焼けをおこしてしまうため、レースのカーテン越しにやわらかい陽射しが入る場所で管理してください。基本的にどの品種も耐陰性がとても高いため、直射日光にさえ気をつければ、置き場所はそこまで気にしなくても大丈夫です。ただし、冷暖房の風が直にあたる場所は厳禁です。エアコンの人工的な風に長時間あたり続けることにより、植物が本来持つ代謝機能が阻害されてしまうためです。とはいえ、植物が健康に育つためには、光・水・風が必要不可欠。前者2つに対し、風は室内栽培では不足しがちですが、空気の循環を促してくれる重要な要素です。これを室内で補うには、サーキュレーターの使用をおすすめします。 ゴムの木の葉は、葉水が大好きです。葉水は葉の代謝を高め、病害虫の予防にもなるため、四季を通して葉水を毎日行うと色艶のよい健康的な葉が育ちます。 Pix:JOHN CHEESEBURGER/johncheeseburger.com ちなみに、葉水後、葉についた水滴が乾くと水道水に含まれるカルシウムなどの成分が白い跡となって残ります。白い跡は葉に害を及ぼすことはありませんが、ホコリが溜まりやすくなるため、目立ってきた場合は霧吹きで水を吹きかけて、キッチンペーパーやタオルなどで優しく拭いてあげてください。 【屋外で育てるとみるみるうちに・・・】昨今の日本の気候は亜熱帯化が顕著なため、屋外での鉢植え栽培も可能ですが、真夏の直射日光下では葉が焼け、焼けた葉はしばらくすると落ちてしまいます。しかし、ゴムの木は高い環境適応力を持つため、落葉するたびに徐々に日焼け耐性の強い葉に生え変わっていきます。と同時に樹勢も増していき、集合住宅のベランダで栽培している場合は、あっという間に上の階のベランダに達してしまうため、こまめに剪定する必要があります。ちなみに剪定を怠ると、写真下のようになります(品種はフランスゴムの木)。ただし、このように屋外で栽培できるのは関東以南の太平洋側に限った話で、降雪量の多い地域では冬場の夕刻以降は屋内に取り込むようにしてください。 幼児およびペットのいるご家庭では置き場所に要注意! ゴムの木は、幼児および犬や猫などペットのいるご家庭では、確実に触れることのできない場所で管理してください。万一、幼児やペットが誤って樹液を口にした場合は速やかに医療機関を受診してください。樹液成分のラテックスは付着したり口にすることによりアレルギー症状が出ることがあり、重度の場合は痙攣などの神経症状を起こすこともあります。最初は軽度の症状でも時間と共に重篤化する可能性もあり、夜間の場合であっても救急診療を受診することをおすすめします。 夏の管理温度、冬の管理温度 夏は20~30℃といった人間が過ごしやすい温度が理想的です。冬は10℃以上を保つようにしてください。頻繁に10度以下になると防御のために葉を落としますが、また生えてくるので心配はいりません。しかし、ゴムの木は基本的に四季を通して温暖な亜熱帯出身の植物のため、防寒対策を行うことをおすすめします。防寒対策としておすすめしたいのがマルチング。マルチングはココファイバー(椰子の繊維)や、バークチップ(松の樹皮を細かく砕いたもの)を土の表面に敷き詰めることにより鉢内の温度を保つ手法で、見た目もリッチな感じになり、インテリアとしてもグレードアップします。 ココファイバーによるマルチングの様子。 Pix:JOHN CHEESEBURGER/johncheeseburger.com 水やり 成長期にあたる春〜秋(3〜11月)は、土の表面がしっかり乾いたら鉢底から流れ出るまでたっぷり与えます。休眠期の冬(12〜2月)は成長も緩慢になるため、土の表面がしっかり乾いた状態から3日ほどしてから、同様に鉢底から流れ出るまでたっぷり与えます。おおよそですが、週1程度のサイクルで水やりをする感じです。ただ、元来乾燥に強いため、2週間程度なら水を与えなくても枯れることはありません。成長期、休眠期共に注意してほしいのは、受け皿にたまった水を放置しないこと。これを放置すると根腐れの原因となるため、水やり後30分ほどしたら、受け皿にたまった水は全部捨て、受け皿は常に乾いた状態を保つようにしてください。 肥料/活力剤等 成長期には土の上に置くだけでOKの「置き肥」を株元から離れた鉢の縁あたりに置いてあげるとよいでしょう。または、「ハイポネックス」などの液体肥料を2週間に1回与えるのもよいでしょう。活力剤は「メネデール」を2週間に1回与えると、より丈夫な株に育つことが期待できます。ゴムの木は、どの種類も多肥を好むものではありません。与えすぎると枝が無駄に伸びる「徒長」につながり、また根を傷める原因にもなるため、必ずパッケージに記載の規定量を守ってください。特に、斑(ふ=斑点のような模様)のある品種は、肥料を与えすぎると、模様が消えてしまう「先祖返り」という現象を引き起こす原因となるため、むしろ規定量より少なめに与えるとよいでしょう。 剪定 ゴムの木は原種が高木のものが多く、好環境で育てるとかなりの速度で成長するため、気づいてみたら天井に到達していたということも。このため、ある程度大きくなったら剪定を行ったほうがよいです。高さ調整の剪定は、ちょうどよい高さのところで、そこから上をバッサリと切る摘心(てきしん)というカットを行います。摘心は成長点を切るため、ゴムの木の上へ上へと伸びようとする力が横へ分散します。そのためわき芽がどんどん出て、横方向に広がるボリューミーな樹形を作ることができます。ただし、ゴムの木の剪定には注意が必要です!ゴムの木はどこを切っても白い乳液状の樹液が出てきます。下の映像を見ていただければ分かるように、飛び出すというよりは滲み出てきます。この樹液はラテックスと呼ばれる物質で、ゴム製品の原料となるものです。これが皮膚に付着すると、樹液が含有するタンパク質に体がアレルギー反応を起こし、かぶれや湿疹を発症することがあります。肌の弱い強いにかかわらず、剪定は樹液が付着しないように十分気をつけるか、ゴム手袋などを装着して行ってください。万一樹液が付着した場合は、すみやかに石鹸などで洗い流してください。 [ゴムの木から滲み出るラテックス] 【コロンブスのおかげで開けた白い液体の未来】なぜゴムの樹液は水分でなく白い液体ラテックスなのでしょう? じつは、ゴムの木も基本は他の植物同様、幹や茎、枝の中を通る維管束(植物の血管みたいなもの)に流れているのは水分なんです。ただ、水分の中に天然ゴムの粒子が分散して漂っているためにあのように白く見えるのです。なぜゴム粒子が含まれているのかはまだ解明されていません。しかし、遠い昔にコロンブスがハイチ島でこの白い液体に出会い、欧州に持ち帰ったことにより、今日の私たちの生活が豊かになったことは確かです。ちなみに、樹液のラテックスから作られるゴム製品は、工場や農園でその道のプロにより製造されています。安全のため、ご自宅で観葉植物のゴムの木から“自家製ゴム”を作るのはお控えください。 増やし方 Pix:platycerium_n_green/Instagram.com ゴムの木は、挿し木や取り木で簡単に増やすことができます。増やす方法は主に、カットした部分に発根剤を塗ってそのまま土に挿しておく方法と、水を入れた容器に挿しておく方法の2通りがあります。写真は後者の水耕栽培で、写真を提供していただいたplatycerium_n_greenさんが、カットしたゴムの木(フィカス・バーガンディー)の葉を水を入れたボトルに挿し、1年が経過した状態です。ご覧のように、しっかりと発根しているのが確認できます。 植え替え 2~3年に1回は植え替えを行いましょう。ゴムの木は生育旺盛なため、比較的早いペースで鉢内は根でギッシリと埋め尽くされてしまいます。そして根詰まりを起こしたゴムの木は、根で水分を吸収するのに限界を感じ、幹や枝の途中から気根といわれる根をいくつも出すようになります。 太い幹から無数に気根が出ている様子。 ただ、それはそれでワイルドで面白いと、気根が出た姿を好む方もいますが、ゴムの木にしてみたら、根が満遍なく水や養分を吸える状態のほうが好ましいはず。ですから、植え替えのたびに2回りほど大きな鉢に替えてあげてください。ちなみに、植え替えは真夏と真冬を除き、気温が23〜25℃くらいの時期に行い、使用する鉢土は市販の観葉植物用土で大丈夫です。 病害虫 ゴムの木の葉に付着したカイガラムシ。 Pix:olpo/Shutterstock.com ゴムの木に発生しやすい害虫は、カイガラムシとハダニ。かかりやすい病気は、カビの一種である炭疽病です。これらの病害虫予防に最も効果があるのは、風通しのよい場所での管理と日々のお手入れ(=葉水)です。万一発生、あるいは罹患した場合は、薬剤を用いて退治あるいは治療を行ってください。管理場所で風通しが確保できない場合は、前述のようにサーキュレーターを用いて室内の空気を循環させてあげると、病害虫予防に効果があります。 オザキフラワーパークのおすすめゴムの木11選 「僕もいくつかのゴムの木を育てています」と、ゴムの木LOVEの後藤さん。 毎回さまざまなおすすめ観葉植物をチョイスしていただいている後藤さんに、今回はおすすめのゴムの木を11本選んでいただきました。先月ゴムの木が100本以上入荷したというオザキフラワーパークですが、ゴムの木は店頭に並べば瞬く間に売れていく超人気商品。ここでしか買えない高品質なゴムの木を求め、近隣のみならず、遠くから車で3時間かけてくるお客様もいらっしゃるのだとか。まずは、そんなオザキフラワーパークのゴムの木の売り場風景を、ちょっとのぞいてみましょう。【オザキフラワーパークのゴムの木売り場】 ※下記の商品をお求めの際は、事前に店頭在庫をご確認ください。 おすすめ1:「フィカス・アルテシマ(大)」 高さ191cm(鉢含む:以下同) 横87cm 価格24,000円(税込) 鉢カバー:外径41cm 内径35.5cm 深さ41cm 価格22,000円(税込) インドや東南アジアが原産のフィカス・アルテシマは、黄色い斑が入った存在感のある葉が魅力。樹高がかなり高くなるため、ラテン語で最も背が高いことを意味する「アルテシマ」と名付けられました。写真の株は樹高191cmとかなり大きく、また、太い幹がゆるやかな螺旋を描いているため、お部屋で亜熱帯感を存分に楽しみたい方におすすめです。鉢カバーは、どことなく月面を彷彿させる模様。この2つを合わせることにより、有機質と無機質が融合したような独特の印象を醸し出してくれます。もちろん、鉢カバー無しの本体のみでもお買い求めいただけます。乾燥に強いため、前述の基本に則って育てていただければ、初心者の方でも簡単に育てられます。 おすすめ2:「フィカス・アルテシマ(小)鉢付き」 高さ56cm 横28cm 価格7,450円(税込) 小ぶりのアルテシマで、オレンジ色の陶製の鉢とのセット。ヒビが入ったような模様に釉薬で光沢を与えることにより、ノスタルジックな中にもモダンさを感じさせる鉢が、螺旋状の幹のアルテシマを引き立てます。アルテシマの迷彩模様のようなこの色彩は眺めるたびに元気をくれるので、部屋に活気が欲しい方におすすめです!写真のものは高さ56cmですが、どんどん伸びていくので成長がとても楽しみな株です。 おすすめ3:「フィカス・ベンガレンシス(大)」 高さ102cm 横68cm 価格9,800円(税込) くっきりした葉脈のある美しい葉のフォルムとユニークな樹形が人気のフィカス・ベンガレンシスは、インドのベンガル地方が原産のためこの名がつきました。現地では菩提樹(霊樹)を意味するバニヤンツリーとも呼ばれ、宗教的に神聖な木として崇められています。そんな神秘的な魅力と、独特の樹形もあいまって、ゴムの木の中でも1、2を争う人気品種です。前述の基本に則って育てていただければ、初心者の方でも簡単に育てられます。 おすすめ4:「フィカス・ベンガレンシス(小)」 高さ53cm 横29cm 価格3,480円(税込) ベンガレンシスの小さい株です。大きいものよりも樹形はシンプルですが、小株ながらも螺旋状の幹はやはり存在感がありますね。葉の色彩がシンプルな分、よけいに幹の存在感が目立ちます。成長も早いので、今のこの価格はお買い得です。 おすすめ5:「フィカス・ティネケ」 高さ48cm 横27cm 価格3,480円(税込) アイボリー、オリーブ、グリーンの迷彩模様の地色に茜色の葉脈が走る、とても美しい葉が魅力のフィカス・ティネケ。インドや東南アジアが原産で、現地では20mに達する株もある、とても大きく成長するゴムの木です。といっても、鉢物はそこまで大きくはなりませんが、写真の48cmほどの株も、大切に育てていただければ2〜3年で大人の身長くらいまでには余裕で成長します。特に注意してほしいのは置き場所。耐陰性に富むゴムの木とはいえ、この美しい葉模様は日照が乏しい場所で管理すると、ここまでくっきりとは出ません。かといって直射日光は厳禁なので、とにかくレースのカーテンなどで遮光した明るい場所で管理することが肝となります。あとは前述の育て方に則っていただければOKです。 おすすめ6:「フィカス・ウンベラータ」 高さ46cm 横32cm 価格3,480円(税込) アフリカ熱帯地域が原産のフィカス・ウンベラータ。葉が大きな品種のアイコン的存在で、こちらも街中でよく見かけると思います。全体的に主張が強めの樹形が多い他のフィカスの仲間に比べると、葉が可愛らしいハート形をしているためか、優雅な印象があります。ウンベラータの名前は、ラテン語の日傘(ウンベラ)に由来します。この大きな葉を日傘に見立てるなんて、名付けた人はなかなか洒落たセンスをしていますよね。フィカス・ウンベラータは風水の世界でも名の通ったゴムの木で、ハート形の葉は愛の象徴であり、また「永遠の幸せ」「夫婦愛」という花言葉も持つため、運気をもたらすゴムの木とされています。そのあたりを詳しく知りたい方は風水師を訪ねてください。育て方は前述の基本に則っていただければOKです。 おすすめ7:「フィカス・ジン(メリクロン苗)」 高さ32cm 横21cm 価格1,980円(税込) 蒸留酒みたいな名前ですが、このフィカス・ジンは、なかなか希少なゴムの木で、置いてある店も少ないと思います。僕も育てていますが、モザイクアートのような、アーティスティックな葉がとても印象的です。新芽は赤みがかっているのですが、徐々にアイボリーとグリーンに変化していくため、その過程もとても美しいです。ちなみに、メリクロンとは、昨今のバイオテクノロジーにより生み出された育苗方法で、植物の成長点組織を完全無菌環境の下で培養して育苗する手法を指します。この方法の利点は、ウイルスなどの感染を完全に遮断し、形の整った苗を大量に生産できることです。つまり、通常売り場では形のよいものから売れていきますが、メリクロン苗はどれもが均一に形が整っているため、当たりハズレがなく、しかも健康な苗、ということです。数量限定なので、興味を持たれた方はお早めに。 おすすめ8:「フィカス・ルビー」 高さ48cm 横32cm 価格1,480円(税込) フィカス・ルビーは、インドおよびマレーシア原産。3色の斑が入った葉の美しさに、つい時間が経つのを忘れて見とれてしまいます。葉の裏面は小種名のごとくルビーのような深い赤色で、表裏それぞれが異なる表情で楽しませてくれます。育て方は前述の基本に則っていただければOK。とにかく、この美しい葉の色彩を保つためには明るい場所での管理がマストです。もちろん直射日光は厳禁で。ルビーは光量が足りないとすぐに葉を落としますが、明るい場所に移動すれば元の美しい葉を出してくれます。 おすすめ9:「フィカス・バンビーノ」 高さ51cm 横28cm 価格3,480円(税込) 西アフリカのカメルーン西部からシエラレオネあたりが原産のフィカス・バンビーノは、フィカス・リラタという種類に属しており、正式にはフィカス・リラタ・バンビーノといいます。園芸品種としては、英国王立園芸協会の庭園功労賞も受賞している由緒あるゴムの木です。くっきりとした葉脈が美しい葉は皮革のようで、出始めのうちは先端がシャープなのですが、しばらくすると丸みを帯びた可愛らしい形になります。他の品種に比べて成長が遅いので、あまり大きくしたくない方にはおすすめです。写真の商品は幹が綺麗に螺旋を描いており、かなりおしゃれですよね。育て方は前述の基本に則っていただければOKですが、バンビーノはとにかく葉水が大好きなので、頻繁にしてあげてください。バンビーノもなかなか手に入れることのできないレアな品種なので、ぜひこの機会に。 おすすめ10:「ガジュマル」 高さ22cm 横14cm 価格398円(税込) このラインナップにガジュマルがあって、「え?」と驚く方も多いのではないでしょうか。ガジュマルはその見た目から「塊根植物(コーデックス)」と思っている方が多いのですが、じつは学名を「フィカス・マイクロカルパ」といって、れっきとしたゴムの木の仲間なんです。原産は熱帯アジアやハワイやオーストラリアなどの西太平洋で、近いところでは沖縄にも自生しています。ガジュマルの名前の由来はいくつかあるのですが、茶色い幹の部分から出る何本もの気根(根の一種)が絡まる感じが、沖縄の方言も混じり、からまる→ガジュマル、になったという説が有力視されています。ちなみに、この気根はコンクリートも突き破って成長するほどの強さがあります。見た目の可愛さに反して、生命力はかなり攻め気味なんです。樹形の可愛らしさもさることながら、この丈夫さも人気の理由で、観葉植物初めの一歩をガジュマルで迎える方も大勢います。成長も早く、写真のガジュマルも前述の基本通りに育てていただければ瞬く間に大きくなりますよ。 おすすめ11:「フィカス・バーガンディ」 高さ170cm 横80cm 価格19,000円(税込) ラグジュアリーな品格を感じさせる葉の色が魅力のフィカス・バーガンディ。別名「黒ゴム」とも呼ばれ、葉が漆黒に近い赤紫色=バーガンディのため、この名がつきました。でも、出始めの葉はどちらかというとルビーレッドのような色をしているため、黒と赤の2色のコントラストを楽しむことができます。このカラーテイストは、どこか大人の色気を感じさせますね。写真の株は、幹の螺旋が主張しすぎない絶妙な巻き具合のため、シックな葉色も相まって、どんな空間にもマッチします。この1鉢を置くだけで、お部屋の格調を高めてくれるでしょう。あまり成長が早い品種ではないのですが、高さが170cmあるので存在感もバッチリ!育て方は基本通りでOKです。 後藤さんのおしゃれ技フィカス・バーガンディ 高さ170cm 横80cm 価格19,000円(税込)+ティランジア・ストリクタビックス(エアプランツ) 直径30cm 価格3,980円(税込)+鉢カバー 外径41cm 内径35.5cm 深さ41cm 価格22,000円(税込)= 合計価格44,980円(税込) 僕はゴムの木に、エアプランツ(ティランジア)を合わせるのが好きです。今回は、大人の魅力漂うフィカス・バーガンディに、ティランジア・ストリクタビックスを吊して遊び心を加えてみました。アダルトな品格が漂う中にも、尖った少年のような冒険心が垣間見える、そんなプランツに昇華したんじゃないかなと思います。仕事も遊びも妥協しない大人の方、いかがでしょう?(笑) 編集後記 いかがでしたでしょうか、ゴムの木特集。こうやって記事を作っていると、いろんな発見があったり、その植物に対する見方が変わったり、また愛着が湧いたりするのですが、じつは、かかりつけのクリニックにもグネグネした幹のゴムの木が待合室に置いてあり、ちょうど記事を作っているタイミングだったこともあって、まじまじと見ながら葉を触ったりしていたんです。そしたら、隣にいた年配の方に「あなた、この木がお好きなのね」と言われ、つい「いやぁ、不思議な木ですねぇ」と知らない体で返答したため「これはゴムの木と言ってね・・・」と私が診察室に呼ばれるまでの間、10分間にわたり熱烈講義を受講させていただきました。ご老体は増やすのがお好きで、増やしてはお友達にあげているのだそうです。とまぁ、ゴムの木は人の輪も広げる「輪ゴム」、なのでしょう。お後がよろしいようで。この記事を読んで育ててみようと思った方は、お気に入りのゴムの木に出会えるといいですね!
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イベント・ニュース
癒しの空間で大人の集中時間を満喫! ガーデンストーリー主催対面レッスン「カリグラフィーで書くプランツタグ」レポート
花好き同士で距離が縮まる参加者さま 晴天の8月19日、窓外に深緑を望む東京・西麻布にあるガーデンストーリー編集部にて行われたレッスン。2019年以来見合わせが続いていた対面レッスンは、オンラインコミュニティ「ガーデンストーリークラブ」会員さまからも開催のご要望が多く、待望の実現となりました。レッスンの内容は、植物の名前を記す“プランツタグ”(園芸ラベル、プランツネーム、ネームプレートともいう)に、カリグラフィーで文字入れを行うというもの。 植物の名前は意外と植えた本人でも時間が経つと忘れてしまうもの。というのも、例えばバラには何万という種類があり、‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンドゥ’とか‘ブラン・ドゥブル・ドゥ・クベール’のような複雑な名前がたくさんあるのです。また、宿根草などは冬に地上部がなくなってしまうので、そこに植物が植っているということが分かるプランツタグの存在は、結構大事。そんな実用的なプランツタグですが、書き入れる文字がおしゃれなら、タグ自体が庭の素敵なオブジェになる! ということでこのレッスンを開催。カリグラフィーとは西欧の文字を絵画的に美しく見せる技法で、アルファベットを流れるような曲線で描くのが特徴です。 講師を務めていただいたのは、『癒しのリラックスカリグラフィー教室』の町田真澄先生。丁寧でわかりやすいレッスンが好評でファンが絶えない町田先生は、2児の母でもあり、家庭を大切にしながら日々講習活動を行っています。 アロマの香りと癒しの音楽に包まれる空間で大人の集中時間を体験 会場には町田先生のカリグラフィー作品が展示され、季節に合わせた可愛い小物のディスプレイ、ラベンダーとローズマリーがふんわり香るアロマ、さらに、心安らぐ癒しの音楽が流れ、五感を通じてリラックスできる空間が演出されました。これらは『癒しのリラックスカリグラフィー教室』の名を冠するレッスンを行う町田先生が大切にしていること。また、今回はレッスン参加への感謝の気持ちが込められたサンクスカードや、参加者さまの名前を書き入れたおしゃれなネームタグ入りミニボトルのプレゼントが用意され、レッスンの随所に先生の温かい心配りが感じられました。 参加者のみなさまはカリグラフィーがほぼ初体験。「カリグラフィーに興味を持っていたけど、なかなかチャレンジする機会がなく、このレッスンを楽しみにしていた」という方も多くいました。初体験のみなさまに向け、カリグラフィーの歴史や使用する道具、書体のバリエーション、さらに今回使用するプランツタグに書くためのおすすめのインクや塗料についてなど、詳しく先生が解説してくれました。 写真中央は、レッスンに集中する倉重編集長 座学の後はいよいよ実践へ。まずは筆文字サインペンを使って、お手本をなぞりながら、基本ストロークや強弱の付け方を学びました。ガーデンストーリー編集部からは倉重編集長も参加。みなさま、まだまだ余裕の表情に見えます。 続いて、カリグラフィーペンを使ってAからZまでの小文字と大文字の書き方を練習。大文字に比べ小文字のほうが使用頻度が高いため、小文字の書き方と文字の繋ぎ方を重点的に学びました。カリグラフィーペンの使用は慣れるまでになかなか時間がかかる様子で、「インクが少なくてかすれちゃった」「力の入れ具合が難しい…」など、あちこちから声が上がりました。集中して丁寧に文字を書いているので、ついつい息をするのを忘れてしまう方も! これはカリグラフィーあるあるのようで、「息、してくださいね〜」と先生の優しい声かけで笑いが起こります。町田先生がテーブルを回りながら一人ひとりにレクチャーを行い、みなさまどんどんステップアップしていました。 最後はいよいよプランツタグへの清書です。今回は、馴染みのある植物の代表である「Viola」「Daisy」「Tulip」の3種類をプランツタグへ清書しました。紙に書くこととの勝手の違いや、いざプランツタグに書くとなると“本番感”が出るようで、「緊張する〜!」とあちらこちらから呟きが…。あまり緊張を助長しないよう、編集部はちょっぴり遠くから見守らせていただきました。 プランツタグへの清書が終わり、記念すべき初のカリグラフィーのオリジナルプランツタグが完成です! 今回は、初めての方でも書きやすいように文字数の少ない花名でレッスンを行いましたが、練習を重ねてカリグラフィーに慣れれば、花の品種名など、自身のガーデンに合わせて好きな文字が書けます。素敵なプランツタグを増やして、ガーデニングをもっと楽しんでいただけたら嬉しいですね。 編集長のイギリス土産でティータイム レッスンの後は、今年イギリスへ庭巡りの取材に行った編集長が現地でセレクトした紅茶とお菓子でティータイム。レッスンの感想や、共通項であるガーデニングの話題で盛り上がりました。約3年半ぶりに開催した今回の対面レッスン。直接みなさまと親交を深めることができ、リアルならではの温かさを体感する貴重な機会となりました。 “花好き・ガーデニング好き”という共通点もあり、みなさますぐに打ち解け合い終始和やかなムードで運んだレッスン。町田先生、参加者のみなさま、ありがとうございました! 講師紹介 9月開催レッスンのお知らせ 2023年9月30日(土)には、鮮やかなガーデン用のマムを主役にした華やかな寄せ植えづくりのオンラインレッスンを開催します。講師は、八ヶ岳にある種苗メーカー「エム・アンド・ビー・フローラ」の難波良憲さん。連載『1鉢で華やか!寄せ植えブーケ』の寄せ植え寄稿が大好評の難波さんがセレクトするおすすめの花苗と、鉢、土など、材料一式をご自宅にお送りいたします。 レッスン当日の様子の録画は後日視聴アドレスをメールでお知らせいたしますので、復習が可能なだけでなく、ご都合により当日参加ができない方もお好きな時間に動画を視聴して作成できるレッスンとなっております。また、ガーデンストーリークラブにご入会の方は会員特別価格でご参加いただけます。(価格は下記商品ページに明記、ガーデンストーリークラブの詳細は次項を参照)秋を華やかに演出するロングライフな寄せ植えづくりを、ぜひご一緒に楽しみませんか? ▼レッスンの詳細・お申し込みは下記商品ページからhttps://www.gardenstory.shop/shopdetail/000000000123/ レッスン費の優待など特典いろいろ! 「ガーデンストーリークラブ」 ガーデンストーリークラブは、 ガーデニングを通じて全国の花好き・ガーデニング好きな方々と交流を深めるオンラインコミュニティです。会員専用サイトでは、下記のようなさまざまな機能や特典をお楽しみいただけます。 ・オンラインサロンへの参加(過去に開催された55本以上のサロンも24時間視聴可能)・レッスン参加費の会員特別優待・毎月開催のプレゼント企画への参加・投稿機能で栽培レポートや情報交換による会員さま同士の交流・植物に関するお悩み相談へガーデンストーリーの執筆陣をはじめとする園芸のプロが回答・ガーデンストーリーウェブショップでの購入割引・スターターキットとしてオリジナルグッズのプレゼント・会員限定記事の配信(不定期)※オンラインサロンまたはレッスンは月1回以上開催 新規入会時には、「スターターキット」として、上写真のようなオリジナルバッグ、ミニブック0号、年間卓上カレンダー、クリアファイル、ポストカードをセットでお贈りします。また、ご入会中は毎月グリーティングカードを、5月はミニブックを、11月は卓上カレンダーをお贈りいたします。 「ガーデンストーリークラブ」の詳細・ご入会はこちら ガーデンストーリークラブへのご入会や、入会するとできること、会員さまの声、入会までの流れ、よくあるご質問などをご紹介しています。以下バナーをクリックしてご覧ください。ご入会お待ちしております! ※ご入会のお申し込み画面で、クーポンコード「gscfree30」をご入力いただくと1カ月分の会員費が無料になります
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園芸用品
観葉植物などの栽培に役立つサーキュレーターの使い方をプロが徹底解説! おすすめサーキュレーター4選もご紹介!
植物にとってサーキュレーターがおすすめな理由とは 植物にとって風が大事であることと、その理由 インテリアの重要なアイテムとして室内に彩りとやすらぎをもたらしてくれるインドアグリーン。でも、本来は大自然の中で活き活きと育つはずの植物を、室内という不自然な環境で育てるわけですから、植物にとってはストレスが生じています。植物が成長するためには「光(太陽光)」、「水」、「風」が欠かせません。しかし室内で植物を栽培していると、風に関しては見逃しがちです。この「風」をサーキュレーターが担うことで、室内での植物を取り巻く環境が自然環境に近づき、植物のストレスは緩和され、株本来の持つパフォーマンスを発揮してくれます。そして結果的に病害虫の予防にもつながり、成長が促進されます。 サボテンの幹肌についてしまったカイガラムシ。無風状態だと発生しやすく、また短期間で増えるため、こうなるとせっかくの美しい緑色が台無しだ。 Pix:Boyloso/Shutterstock.com どんな風が植物にとっては良い風なのか 植物にとっては常に葉が揺れているような風に吹かれているよりも、目に見えずとも植物の周囲の空気が流れている(循環している)ことが重要。家電でこれを再現するには、風を直接あびる目的のリビング扇風機よりも、風を室内の広範囲に送り出すことで空気循環を促すサーキュレーターの方が適しています。 サーキュレーターなどの家電を取り扱う「山善」に聞いてきました! ではいったい、サーキュレーターのどのような働きが、植物にとってよい効果をもたらすのか?そのためにはサーキュレーターのことを詳しく知る人物に聞くのが一番! ということで今回、サーキュレーターをはじめとした季節家電製品を数多く手がける株式会社山善の村上さんに、サーキュレーターのいろんなことを聞いてきました。 「サーキュレーターのことならお任せください!」と村上さん。 サーキュレーターと扇風機の違い まずは「サーキュレーター」とご家庭でよく使う扇風機(リビング扇風機)の違いについて解説します。ちなみに、両者は用途がそれぞれ異なるため、本来は使い分けることが前提で設計されています。 【リビング扇風機】 Pix:antoniodiaz/Shutterstock.com <用途> 近くに居る人2〜3人が涼感を得る目的で体に風を受けるためのもの。 <特徴> 羽根が大きい分、筐体が大きい風が広範囲に拡散するため、人体の広範囲で風を受けることができる。風が拡散されるため遠くまでは届かないが、風質がマイルド。 【サーキュレーター】 <用途> 部屋の空気を撹拌し、循環を促すためのもの。風に瞬発力があるため、顔だけ風を浴びたいなど、体の一部分に限定して風を受ける使い方なら、涼感を得る目的としても使用できる。 <特徴> 直進性のある風を出すことに特化しているため、遠くまで風が届く。近い距離の風力が強い。風の量が少ない(量は少ないが、瞬発力のある風が束になり次から次へと空気を押し出し、室内の空気を循環させることができる)。人体に直接あたると、当てた箇所にピンポイントで風があたる。 ただ、最近はサーキュレーターとリビング扇風機の垣根がなくなりつつあります。リビング扇風機は筐体が大きく存在感があるため、お部屋の間取りによってはどんな部屋にもコンパクトに収まるサーキュレーターを選ぶケースが増えているからです。このため、かつては一般的ではなかったサーキュレーターの市場がひろがり続け、逆にリビング扇風機の市場が狭くなってきているという現象が起きています。また、サーキュレーターを使うことでエアコンの効率も高まるため、設定温度を控えめにすることができます。電気代高騰の昨今は経済的な面からもサーキュレーターを導入する方が増えています。 植物にとっては直接的な風よりも、室内の空気が動いていることが重要。つまり室内の植物のために空気を循環させるという目的の場合、リビング扇風機では効果が低く、サーキュレーターでなければ目的に合致しないということですね。しかも省エネにもなるのなら、植物にも人にもメリットがあってまさに一石二鳥! サーキュレーターを選ぶ際のポイント サーキュレーターを購入するときは、どの機能を優先するかで選べばよいと思います。購入にあたってそれぞれの製品の機能を調べ、優先順位を決めてはいかがでしょうか。現在市場に出回っているサーキュレーターを選ぶ際のポイントをいくつかご紹介します。 ポイント① 静音性能(DCモーターか、ACモーターか) Pix:KI-TSU/photo-ac.com 現在サーキュレーターの種類は、DCモーターで動くタイプのものと、ACモーターで動くタイプの2種類に大別されます。両者には以下の長所と短所があります。 【DCモーターは駆動音が静かで、省エネだが本体価格が高い】 DCモーターはACモーターに比べ、電気の供給が一定(直流)のため、安定した弱風には定評があります。また、静音性能が優れており、中程度まで風量なら人間が日常生活で静かだと感じる値(40dB=図書館)でサーキュレーターを動かすことができます。電気の供給が一定ということは省エネ効果にも優れていて、これはあくまでも目安ですが、広めの畳数をカバーできる20Wタイプの製品を、少なめの風量で日中9時間使用した場合、1日あたり約5.6円、1カ月で約174円、年間で約2,008円という感じです。24時間回しっぱなしという場合は1日約14.9円、年間で約5,439円になります。またDCモーターは風量を最小〜最大の間で細かく調節できるため、好みの風量が選びやすいです。しかし、DCモーター製品の価格は1万円前後の物が多く、5千円以下の価格帯で買えるACモーター製品よりも高価になりますが、寿命の面ではACモーターより優れています。 DCモーターは細かく風量が設定できるため、得意とする安定した微弱風でゆっくりと部屋の空気を循環させれば、自然界の空気のゆらぎに近い状態を作ることができ、室内の植物にとってはうれしいかぎり! 寝室に植物がある場合は静音性の高さは魅力的ですね。予算が許すのであればDCモーターの製品を選んで間違いはないでしょう。 【ACモーターは本体価格は安いが、駆動音が大きく、電気代も高め】 一般的には、ACモーターは、電気の供給が一定ではない(交流)ため、DCモーターよりも駆動音が大きくなる傾向があります。しかし、昨今のACモーターは技術的にも進んでおり、静音設計や静音モードを採用することで、DCモーターと遜色ないほど静音性能が向上しました。AC、DCの両者の駆動音を実際に耳で聞いて比較すれば「ああ、DCだね」となりますが、最初の購入がACモーターの場合は、寝室に置いても「静音モード搭載機」なら気にならないという方も大勢おり、むしろ本体価格面で初期投資が安くすむため、ACモータータイプを選ぶ方もたくさんおられます。また、ACモーター製品の多くは風量が弱・中・強など、ざっくりとした段階調節しかできませんが、シンプルに使いやすい最低限の機能以外は必要ない、という方にはこれは長所となります。ただし、消費電力がDCモーターよりも高いため、光熱費高騰の昨今、長時間の使用だとコスパが悪くなる可能性もあります。30Wタイプの製品を、少なめの風量で日中9時間使用した場合、1日あたり約8.4円、1カ月で約260円、年間で約3,120円という感じです。24時間回しっぱなしという場合は1日約22.3円、年間で約8,140円になります。※DCモーター、ACモーター共に、電気料金目安単価31円/kWh(税込)で算出 多肉などのマニアックな植物の徒長(生育不良)を防ぐ目的で長時間回すなど、長い目で見たコスパの面で選ぶのならDCモーターが有利と思いますが、初期費用を抑えたい方も多いと思います。何しろ、ACモーターモデルはDCモーターモデルの半分ほどの価格で手に入るため、植物のための最初の一台、特に、寝室が別室で、リビングに置いてある植物のために、という使い方であれば、静音性能面はまず問題にならないので、ACモーターモデルという選択肢も十分にアリだと思います。 ポイント② 適応畳数(出力と風量) 何畳の広さをカバーするか=適応畳数は、サーキュレーターの出力で決定されます。当社製品でいうと、消費電力17W(ワット)のもので適応畳数が18畳まで、26Wのもので30畳まで、となっていす。適応畳数は、その製品が空気を循環させることのできる広さを表すものです。最大風量はもちろんですが、最小風量であってもその畳数内の広さであれば、空気を循環させることができます。ただし、循環速度は遅くなります。循環速度というのがイメージしづらいと思いますが、サーキュレーターは人体が直接風を感じるために使用するものではないため、循環により人体が直接的に涼や暖を感じるわけではありません。人体に例えて、エアコンを心臓、空気を血液、サーキュレーターは血液を全身にくまなく循環させる血管とイメージしてみてください。循環速度は早ければよいというものではなく、速度が遅くても空気が循環することが大事なのです。ただし、サーキュレーターから送り出された空気は家具などにぶつかることにより風の方向も変わるため、空気の循環効率を高めるには、風の進路に障害物が無いほうが望ましいです。また、製品の出力が高ければ高いほど、弱風量でもしっかりと空気を回してくれるため、大は小を兼ねるではないですが、適応畳数が広めの製品=高出力タイプの製品を購入すれば、複数の部屋の循環も行えるなど、後々有効活用することもできます。 昨今はUSB給電による安価な低出力サーキュレーターの商品も多数あり、そういった製品を植物に向け“複数台”使用するのと、17W(18畳までカバー)のDCサーキュレーター1台を使用するのではどちらがいいか、という質問をぶつけてみました。村上さんの答えは「室内の植物をとりまく空気を自然環境に近づける、という目的で言えば、USB給電の5〜10Wほどの製品では複数台使用しても、お部屋の空気循環を満たすには、出力と風量が圧倒的に足りないと思います」とのこと。室内の植物のためには、ちゃんとコンセントから給電する“家電”のサーキュレーターを使用したほうがよいでしょう。 ポイント③ 自動首振りの有無と角度(上下左右、360°首振り) サーキュレーターの風を広範囲に届けるには、自動首振りが有効です。上下左右自動のものや、左右自動で上下が手動のもの、中には360度自動で首を振る製品もあるため、お部屋の広さや用途に応じてお選びいただけます。サーキュレーターの目的は人や観葉植物など、対象物に直接的に風を感じさせるためのものでなく、室内の空気を風によって動かして回す(循環させる)ものなので、首振り機能が充実していれば、それだけお部屋の空気の流れも広く満遍なく循環させることができて、エアコンの効きもよくなります。 自然界における空気の流れは常に一定パターンというわけではなく、不規則な風のゆらぎの中で植物たちは成長していきます。自動首振り機能は広範囲に風を循環させ、お部屋の空気の流れを自然のゆらぎに近い状態にするため、この機能を活用するとお部屋の植物が喜びそうですね! ポイント④ お手入れのしやすさ(分解洗浄) 昨今各社とも目玉機能としているのが「分解洗浄」。空気を背面から吸い前面から排出するサーキュレーターは、日常の使用で全面と背面のカバーと羽根(ブレード)が汚れがちです。今までのクリーニング方法は、ドライバーを使ってネジを外し、前面カバーのみを外してあとは手探りでお手入れ、というのが主流でしたが、それだと手の届かないモーター付近や背面カバーの汚れを除去することができませんでした。しかしここ最近は、工具を使わずに簡単に前後カバーと羽根を外せる「分解洗浄可能モデル」が増えてきました。 たかが汚れと侮ってはいけません。背面や前面に溜まったホコリを放置すると、サーキュレーターが下図のような、ホコリを含んだ風を循環させることにより、健康にも影響を及ぼす可能性もあります。 あくまでもイメージです。 写真提供:山善 このため、定期的なお掃除を心がけてください。分解方法は各社異なりますが、ほとんどの製品が、老若男女問わず苦なく分解&組み立てができるようになっています。弊社の製品で洗浄を実演してみましたので動画をご覧ください。 サーキュレーターのお手入れを怠ると、室内の植物の葉にもホコリが溜まりやすくなります。特に、美しい葉が魅力の観葉植物の葉にホコリが溜まると見た目にもよくはないですし、光合成の効率も落ちて成長にも影響が出てきます。このため、サーキュレーターのお手入れは定期的に行いたいですね。そういう意味でも、工具不要で全分解できるのはとても便利ですね! ポイント⑤ その他便利機能 【リモコン】 サーキュレーターもリモコンがあるとやはり便利です。リモコンでは主に、ON/OFF、風量切り替え、自動首振りの設定、タイマーセットなどが行えますが、エアコンのリモコンと異なり、とても薄くて小さいものなので管理に気をつけましょう。 【タイマー】 就寝時などに重宝します。自由に時間を設定できるものもありますが、大体1時間刻みで、最大8時間でOFF、といったものが多いです。 多肉植物や観葉植物にはコレクション性の高い品種も多く、そういった珍奇植物愛好者の方は、“24時間回しっぱなし”という使い方をされる方も多いようです。しかしモーターにも寿命があるため、タイマー機能を活用し、機器を休ませながら使用すると機器の長持ちにつながります。 室内の置き場所により、空気はどう流れていくのか? “サーキュレーターを効果的に使用するにはどこに置くのが最適か”というところを、図とともに解説いたします。以下のお部屋を模した図はあくまでも、エアコンを稼働させた場合の置き場所のモデルケースです。下図を参考に、平らで、可能な限り遮蔽物の無い場所に設置してください。 【冷房時の置き場所】 空気循環のイメージ図(実際は家具などがあるため、図のように植物が直接的に冷気を浴びるわけではない) 冷房時ですが、冷たい空気は重いため、エアコンから出る冷風は自然と下降します。ゆえに冷房を起動させた時、最初はルーバー(羽板)が自動的に上を向く仕組みになっています。この下へ落ちていく冷気を、エアコンに比較的近い位置の地面に設置したサーキュレーターの背面で吸わせ、サーキュレーターが送り出す風に乗せて地表を這わせます。サーキュレーターで送り出された空気は壁で跳ね返ることにより向きを変え、減衰はするものの、サーキュレーターの回転により後から後から押し出されてくるため、製品の適応畳数以内の広さであれば、上図のように方向を変えながらフェードアウトすることなくグルグルと室内を循環します。ちなみに、このグルグルの速さ(循環速度)をコントロールするのが風量です。風量は一般的な使い方では弱〜中を使いますが、室内の換気を行いたい場合は風量を最大にすると効果的です。また、実際のお部屋には家具などが置いてあるため、それらが循環効率を落とさないよう、自動首振り機能などを使うのをおすすめします。 空気の跳ね返りのイメージ図 植物の成長に欠かせない光合成。その効率を高めるために、植物の葉では、根が土から吸い上げた水分を葉から蒸発させる「蒸散」が行われます。常に風が当たっている状態だとこの蒸散作用が阻害され生育不良を起こしてしまうため、サーキュレーターは植物に直接風があたらない場所に設置しましょう。これは暖房時や、エアコンを使用しない場合も同様です。ちなみに葉が無いサボテンはこの蒸散を、あのぷっくりとしたボディが夜間にごく僅かな量だけ行うんです(だから水分が詰まっているんですね)。このため、サボテンを育てている方は、夜間に優しく弱風でサーキュレーターを回してあげるとサボテンの生育にもプラスになります。 【暖房時の置き場所】 空気循環のイメージ図(実際は家具などがあるため、図のように植物が直接的に暖気を浴びるわけではない) 暖かい空気は軽いため、上に行く性質があります(ゆえに暖房を起動させた時、最初はルーバーが自動的に下を向く仕組みになっています)。このため、サーキュレーターは部屋の中央に設置し、風を天井に向け、天井で跳ね返った暖気は壁を伝い下に向かい床に溜まり、それをサーキュレーターの背面で吸い上げて、再び暖気を上に送る、という循環を行います。この時も、サーキュレーターは首振りモードに設定し、部屋の広範囲に暖気が行き渡るようにするとよいでしょう。 観葉植物は亜熱帯地域のものが多いため、こうしてお部屋の空気がただ暖かいだけでなく、流動していることにより、自然環境に近い状態で冬を越すことができます。そうすることで、翌年の芽吹きがよくなることが期待できます。 【2部屋を循環させる場合の置き場所】 空気循環のイメージ図(実際は家具などがあるため、図のように植物が直接的に冷気や暖気を浴びるわけではない) 2部屋を循環させる場合は、サーキュレーターを、2部屋をまたぐ位置の水平な地面で、エアコンに対して背を向けた状態で設置します。エアコンにより冷却、または加温された空気を、サーキュレーターが背面から吸い込み、前面から押し出すことにより、矢印の方向に空気の流れを作ります。この場合も、自動首振りモードを使用することで、家具などの影響を最小限に抑え、効率よく広範囲に空気を送り出すことができます。ただし、2部屋でもちゃんと空気は循環しますが、2部屋の合計畳数が、製品の適応畳数以下である必要があります。 「冷房」、「暖房」、「2部屋循環」はそれぞれ、エアコンを稼働した前提で解説していますが、エアコンをOFFにした状態でも、同様の空気の流れを作ることができるため、春や秋など、外の気温が最適な時は、窓を開けて新鮮な空気を取り込みつつサーキュレーターを回して換気してあげると、室内の空気もリフレッシュされ、植物たちも喜ぶでしょう。 山善おすすめの洗えるサーキュレーター 山善がおすすめする洗えるサーキュレーターは、DCモーター搭載のYAR-CD20ES。白い筐体が一般的なサーキュレーターですが、本製品はホワイトのほか、グレージュとブルーグレーのカラー展開もしているため、お部屋の雰囲気を損なうことなく、お好みのカラーでサーキュレーターのある生活を楽しむことができます。目玉機能はなんといっても360度自動首振り機能。正面から真上を通って一周するように首が回転し、お部屋の空気を広範囲に撹拌するため、植物のあるお部屋で使用すれば、自然環境に近い空気の流れの中で、大切な植物を育てることができます。 DCモーターの利点である静音・省エネで20畳までの空間をカバーでき、風量調節も8段階と細かく調整することができるのも魅力です。もちろん、簡単に全分解でき、前後カバーと羽根は丸洗いOKなので、清潔に、長くおつきあいいただけます。お買い求めは、下記「山善ビズコム」からご購入いただけます(スペック詳細も下記リンクよりご確認いただけます)。価格8,980円(税込) 送料無料(沖縄・離島除く)山善ビズコム https://yamazenbizcom.jp/item/76220.html 販売現場のプロ、島忠ホームズに聞く、2023年おすすめのサーキュレーター4選 山善がサーキュレーター作りのプロなら、こちらはサーキュレーター販売のプロ。ご家庭の幅広いニーズにお応えするホームセンター「島忠ホームズ」の佐野さんに、よく売れているサーキュレーターを紹介していただきました。※季節品のため売り切れの際はご容赦ください。※店舗により取り扱いのない商品もございます。 「初期投資の安くすむACモータータイプが売れていますね」と、島忠ホームズの佐野さん。 YAMAZEN 洗えるサーキュレーター YAS-AFKW18(W) こちらは山善のACモータータイプのものとなります。工具不要で分解洗浄を行うことができます。駆動音がDCモーターに比べて大きくなるACモーターですが、こちらの商品は、通常のACモーターの弱風よりも駆動音を抑えた設計となっていて、更に静音モードも搭載されているため、就寝時の快眠のサポートとしても役立ちます。DCモーターで18畳タイプだと大体7,000円以上はするため、ACモーターゆえのコスパのよさが人気です。ちなみに、当店では週に15から20台はサーキュレーターが売れるのですが、中でも山善のもの、特にこの機種は人気でよく売れますね。 価格:4,982円(税込5,480円)定格消費電力:42/37W(50/60Hz)首振り角度(約) 左右(自動):60度 / 上下(手動4段階):90度 風量調節:3段階 外形寸法(約):幅240×奥行213×高さ320mm 質量(約):2.0kgコードの長さ(約):1.6m YAMAZEN 洗えるサーキュレーター YAR-AFVW18(W) リモコン付き 山善のACモータータイプ2つ目は、リモコン付きの自動左右上下首振りモデルです。一度使うと、もう無しのものでは考えられないのがリモコンです。リモコンでは、オン/オフ、風量、左右首振り、上下首振り、タイマー、といった5つの機能を離れた場所からコントロールできます。もちろん、本体でも、ボタンによりこれらをコントロール可能。LED照明がついているため、好みの設定にする際の視認性に優れ、全体的な見た目もダイヤルタイプのものよりもリッチなテイストが感じられます。風量調節が5段階から選べるので、前出の下位機種よりもより細かく風をコントロールすることができます。 価格:7,255円(税込7,980円)定格消費電力:40W/46W首振り角度(約) 左右(自動):60度 / 上下(自動):90度 風量調節:5段階 外形寸法(約):幅250×奥行215×高さ335mm 質量(約):2.2kgコードの長さ(約):1.6m ニトリ 分解して洗えるサーキュレーター12畳用 ホワイト FS2DNS ニトリの「分解して洗えるサーキュレーター12畳用」は、カラーが黒と白から選べる分解洗浄可能タイプです。前面カバー、背面カバー、羽根が工具いらずで簡単に外して水洗いすることができるので、いつでも清潔な風を送ることができます。左右60度の自動首振り機能付きですが、上下90度の角度調整は手動となります。ダイヤル1つのみのシンプル操作で、3段階の風量調節ができ、右側3段は首固定、左側3段は首振りでの風量調節となっています。ACモーター駆動のため、DCモーターよりはモーターの駆動音が大きくなりますが、昨今のACモーターの技術進歩は目覚ましく、ACモーターでも気にならないというお客様も多くいらっしゃいます。黒のサーキュレーターはなかなか珍しいため、お色で選ばれる方が多いですね。ビカクシダなど、インテリア性が高い植物を栽培されている場合は空間がシックにまとまるため、おすすめです。価格も税込で4,990円と、5,000円を切っているため、とてもお手頃です。 価格:4 ,537円(税込4,990円)定格消費電力:30W/28W(50Hz/60Hz) 首振り角度(約) 左右(自動):60度 / 上下(手動):90度 風量調節:3段階 外形寸法(約):幅232×奥行232×高さ312mm 質量(約):2.15kgコードの長さ(約):1.5m おおたけ メカサーキュレーター UF183AT 360度自動首振りなので、お部屋の空気を満遍なく撹拌してくれます。風量調節はダイヤル式で3段階となっているため、細かい調整はできませんが、見た目のままのシンプルな操作性が人気です。何よりも、360度首振りタイプは複雑な構造のため価格も高くなりがちですが、4,000円を切るというのはかなり魅力的な価格だと思います。【360°自動首振りの様子はコチラ】※2倍速で再生しています。 エアコンの温度を下げて併用すれば、360度自動首振りタイプは左右自動首振りタイプよりも効率よく部屋の空気を回せるため、電気代の節約にも効果があり、コスパの面でも期待できます。 価格:3,619円(税込3,980円)定格消費電力:34W/36W首振り角度(約) :上下左右(自動):360度 風量調節:3段階 外形寸法(約):幅254×奥行252×高さ333mm 質量(約):1.7kgコードの長さ(約):1.4m この記事のまとめ ①サーキュレーターの使用を室内の植物への環境作りを主目的とする場合、自動首振り機能があるを選び、首振りと弱風を使用し、部屋の空気を広範囲かつマイルドに循環させる。②サーキュレーターには「DCモータータイプ」と「ACモータータイプ」があり、目的により選べる。・長時間(日に10時間以上)使用する場合はコスパ面でDCモーターのほうが有利・寝室に観葉植物があるなど、静音性を求めるならDCモーターのほうが有利・初期投資を安く済ませたい場合はACモーターのほうが有利③サーキュレーターは定期的に清掃を行わないと植物にもホコリが溜まってしまうため、工具不要で簡単に全分解し洗浄が行える製品を購入すれば、お掃除に手間がかからなくなる。④サーキュレーターの置き場所は、平坦な床面に起き、植物に風が直接向かわないように置く。エアコンを稼働する場合は、冷房時はエアコンに近い位置でエアコンに背を向け、暖房時は部屋の中心で送風口を上向きにして置く。いずれの場合も、エアコンの設定温度を控えめにすることができ、経済的。 取材後記 山善のお話を聞いていると、DCモーターの製品に軍配があるのかなと思っていましたが、販売現場ではACモータータイプがまだまだ売れているということは意外な発見でしたね。それだけ、ACモーター製品の性能が上がったということなのかもしれませんが、やはり初期投資の安さというのが一般消費者としては大きな魅力なのかもしれませんね。私たちのように、植物に対する用途で考えると、村上さんの説明の結果総合的に、モーターの違いによる駆動音の大小というよりは、お部屋の空気の流れをいかに自然環境に近づけるか、という観点では首振り機能のほうが重要に思えますが、このまま原油高による電気代の高騰が続くことを考えると、長期的な目線では、初期投資はかかるもののDCモーター搭載機のほうがいいのかな、と個人的には思いました。ちなみに、拙宅近所の、いわゆる街の電気屋さんに、ACモーターサーキュレーターのコスパを尋ねたところ、「本体価格の安さが、パフォーマンスとしてDCモーターの製品を凌駕するのは、購入後約2〜3年程度の話で、3年以上使用するのならば最初高くても結果的にDCモーターのほうが安く済むよ」とのことでした。どちらを選ぶにせよ、室内で植物を栽培する方は、ぜひこの機会にサーキュレーター導入のご検討をおすすめします。
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ガーデン&ショップ
【牧野植物園広報部インタビュー】愛されキャラの牧野富太郎と博士の思いをつなぐ牧野植物園の未来
牧野植物園について 牧野植物園には、県内のほとんどの人が、子どもの時に遠足で来たって言うんですよ ガーデンストーリー編集部(以下GS):植物園のあるこの地は、牧野富太郎博士が何度か植物採集に訪れていたそうですが、そうしたことからこの場所に植物園ができたのでしょうか? 橋本:そうですね 牧野博士はここに限らず、高知全体をフィールドとして調査に行っています。その中でも、この植物園のある五台山にも何度か植物調査に訪れています。しかし、ここに植物園の設立が決まったのは、その調査からもっと後の話になります。 園の設立に関しては、明確に博士からの希望があったわけではなく、県民はじめ有志の働きかけによるものだと聞いていますが、牧野博士自身も「植物園」というものの建設の必要性はかねがね明言されていたことが書籍などで確認できます。計画が具体的になったのは昭和29年で、まず「牧野博士記念植物園設立準備会」ができ、昭和31年に設立が決定しました。 これは推測ですが、おそらくその準備会の中で、いくつか候補地が挙がったのではないでしょうか。地形の調査も行ったようですし。でも結局は、博士に「どこがいいですか?」と伺ったところ、博士が「それなら五台山がいい!」という鶴の一声で、ここに建てられるということが決まりました。 当時のここ五台山は、いくつかの私有地が混在していて、最終的に竹林寺の当時のご住職からご厚意をいただき、お寺の一角であった宿坊(寺院の宿泊施設)と呼ばれるエリアにつくることになったと聞いています。 北園の山頂付近に広がる「こんこん山広場」に横たわる2本のスモモの木は私有地時代の名残で、当時は無数のスモモの木が花を咲かせ、山肌を白く染めたそうだ。 GS:植物園の存在は、地元にどのような影響を与えて来たと思いますか? 橋本:当園は地元の方々に親しんでいただいており、来園のお客さま、特に県内の方に「過去に園に来たことありますか?」と尋ねると、多くの方が「子どもの時に遠足で来た」っておっしゃるんですよ。 今でも小中高と、遠足や課外授業で来られる方も多いのですが、県民の多くの方が幼少期から学生時代に、少なくとも一度は訪れているように思います。 私どももさまざまなイベントを催していますので、大人になってからはそういった催事の話題をきっかけに再訪しようかな、という流れもあるようです。 GS:それは素敵な話ですね。幼少期の思い出にこんな素敵な植物園の思い出があるなんて、うらやましいですよ。 橋本:特に高知市内にお住まいの方には、そういった思い出が深いのではないでしょうか。また、今回NHKの連続テレビ小説の題材になったこともあり、多くの方が「我が地元に牧野植物園在り!」と再認識され、再訪される方も多いですね。 GS:地元の方にとっては、今回連続テレビ小説の題材になったことは、これ以上ない誇りでしょうね。 橋本:そう思います。 牧野植物園がきっかけでさらに植物愛が増してもらえるのは嬉しい GS:植物園が日本の園芸文化にもたらした影響についてはいかがでしょうか? 橋本:地元に対してはこのように大きな影響を持つ牧野植物園ですが、日本の園芸文化への影響というところでは、私自身の考えとしては、当園の在り方が、園芸のそれとはちょっと方向性が異なるかなと思います。しかし牧野博士の研究は、その垣根をまたいでいたものもあるため、人の手によって愛でられ栄えてきた日本の園芸文化と、自然界の植物を分類していく博士の研究とは、少なからず交わる部分もあるとは思います。GS:確かに、日本の園芸文化というと、例えば変化朝顔とか江戸菊のように、人の手によって改良を重ねられ、美術工芸品のような位置付けで楽しまれる植物が代表的ですね。 橋本:そうですね。もちろん、植物を愛する畏敬の念に隔たりはないのですが、ただ、牧野植物園に来園される方は、どちらかというと園芸植物よりも、山野草や高山植物のような人の手によるものでない野生の植物、ありのままの自然が好きな方が多い印象です。 しかし最近では、蘭が好きな方が来園されたり、多肉植物が好きな方が来園されたりと、近年は割とボーダーレスでお客さまが来園されるようになったと思います。 私たちとしては、きっかけはなんでもいいんです。研究としては線引きがあっても、植物を愛でる気持ちに線引きなどあろうはずもなく、お散歩がてら来ていただくのも嬉しいですし、博士のことを伝記などで読んだり、今回の連続テレビ小説を通じて興味を持たれたり、さまざまなきっかけで牧野植物園に遊びに来ていただければ嬉しいんです。 こうして、今まで植物に興味があった方も、なかったけど持ち始めた方も、園芸というよりは、もっと大きなところで植物への興味の足掛かりに牧野植物園を使っていただければ嬉しいですね。それにより日本の園芸文化にも、植物を愛する方を一人でも多く生み出す、というフィードバックができるのではないかと思います。 GS:園を散策してみて、植物一つひとつにじつに細かくプレートが立てられていて、いかに博士が植物分類学に心血を注いでいたかがうかがえました。来園者はこのプレートからより深い植物の知識を得ることができ、より関心も高まりますよね。そういった意味でも博士の研究と現在の園芸文化とのクロスオーバーの役目を、この植物園が果たしているのだな、と思います。 私たちの生活とも関わりの深い植物などが多数植えられた薬用植物区の一部。植えられている全ての植物の側には、その植物の詳細が記されているプレートが立つ。 橋本:当園は自然風植栽を意識しているため、例えばご自身が鉢植えとして楽しまれているものが、自然の中でどのように息づいているかを見ると、よりその植物への愛も増すと思いますし、栽培のヒントにもなったりするのではないでしょうか。 博士自身も園芸文化を決して否定せず、むしろ植物を愛する気持ちに対しては心は一つ、という考えの方だったので、牧野植物園がきっかけで来園者の植物愛がさらに増すというのは嬉しい限りではないかと思います。 GS:ここは場所柄、山に吹き抜ける強風が植物の幹を太くし、強くしていると伺いましたが、言ってみればそれが自然の創り出す造形美であり、植物が健康に育つためには、いかに風が重要かも分かりました。 牧野富太郎博士について <写真提供:高知県立牧野植物園> 研究って一方通行では決して醸成されないもの GS:牧野富太郎博士は植物について並々ならぬ関心と情熱を持ち、研究や教育普及活動に生涯を捧げた方ですが、同じ道を歩まれている後進の方々から見るとどんな方ですか。 橋本:やはり日本の植物学や植物分類学というものについて、まだ当時(明治〜昭和期)は欧米に遅れをとっていた日本のレベルを世界レベルまで引き上げたのは牧野博士なので、そのレガシーを継承し、同様の研究を専門とする現在の学者たちから見れば牧野博士はまさに先駆け的な存在です。 また、牧野博士は採集した植物を描いた植物図の分野でも日本では先駆者であり、そのディテールの再現性と息を呑むような美しさには、先進的だったはずの海外の植物学者も驚嘆したと言われています。 明治11年、牧野富太郎が16歳の時に描いたもの。少年の頃にすでにここまで緻密な植物図を描いていた。 GS:牧野博士は植物分類学の研究を世界水準まで高めたということですが、そもそも当時、日本の植物学は海外から注目はされていたのでしょうか? それとも、謎めいた極東の小国から、牧野博士が積極的に海外に向け情報を発信していて、それが功を奏して海外からも注目を浴びるようになったのですか? 橋本:すでに世界から注目されていたとは思いますが、当時は、文明的、歴史的な背景もあり、情報流通は極端に少なかったと思います。おっしゃるように、未知なことが多い極東の小国から、博士のほうから積極的に発信したのだと思います。そもそも研究って一方通行では決して醸成されないものなので、徐々に情報のネットワークが作られ、レベルも上がり、評価を得た、ということだと思います。 GS:一方通行だった研究を双方通行にして、日本の学術レベルを底上げした博士の功績は偉大ですね。 そもそも、牧野博士が一般常識人であったら植物分類学者牧野富太郎は生まれていなかった GS:そんなフロンティア精神溢れる博士には、ユニークなエピソードもたくさんありそうですね。 橋本:牧野博士はとにかく、どんなことにも探究心が旺盛で、凝り性だったようですね。幼少期には実家の番頭が持つ懐中時計を借りた博士は、その仕組みが知りたくて、借り物にもかかわらず、バラバラに分解してしまったそうなんです。 GS:貸した方はさぞびっくりしたでしょうね・・・。連続テレビ小説でもそのようなシーンが盛り込まれると面白いですね!(実際に放映で、子供時代に番頭さんの懐中時計を分解しちゃったという形で再現された)。 橋本:そうですね(笑)、あとは、博士は海外から大量のシリーズ物の書籍を取り寄せたりもしていたんですが、それらも抜け落ちることなく、ちゃんと全巻揃えてコンプリートしていたそうです。とにかく凝り性だったようですね。凝り性がゆえに、家計が傾いたのですが・・・。GS:家計を傾ける凝り性のことを「Rock ‘n’ Roller」というんですよ(笑)。独り身ならいざ知らず、妻君のご苦労は察して余りあります。 橋本:全財産を研究に注ぎ込んでしまうわけですから、確かに妻の壽衛さんは大変だったと思います。でも壽衛さんは、お子さんには「お父さんは世界的な研究をしている人だから、我が家は決して裕福ではないけれど、決して恥ずべきことではないんだよ」と言って、最大限の理解を示して家庭を支えていたんです。 そもそも論ですが、牧野博士が一般常識人であったら、植物分類学者牧野富太郎は生まれていなかったのではないかと思います。 若き日の牧野富太郎と妻壽衛。<写真提供:高知県立牧野植物園> GS:ある分野で突出した人は、一般常識が通じない部分が必ずどこかにあると聞きます。まさにそれですね。私の経験則では、そういう人は自己陶酔型が多いですが、牧野博士にはそれが感じられない。 橋本:そうなんです! 博士は大人子供老若男女の分け隔てなく、誰にでも同じように接して植物の知識を広めていった方なので、そんなところが多くの人に愛され、愛されるから支援者が現れ、親しみを持たれるからこそ、日本全国から標本が集まり、博士も知識を集積することができたんです。その結果、現在語り継がれている偉業の数々を成し遂げることができたんです。 GS:細い一本の糸が束になって、太い一本になった、ということですね。 橋本:はい。博士のお人柄の成せる技ではないかと思いますね。 出生の地、佐川町の風土も大きな影響を与えた GS:14歳の頃に小学校を自主退学し、早くも植物研究の道を歩み始めている博士ですが、牧野富太郎博士が若くして植物に強く関心を持つに至ったのはなぜなんでしょうか? 橋本:牧野博士は幼少の頃に両親と祖父を亡くされて、祖母に育てられました。そんな少年時代に、肉親の愛に代わって心を満たしてくれるものが植物だったと自らも語っています。つまり、何か一つきっかけがあったというより、常に植物に寄り添い、共に日々を送っていたわけです。加えて、日本の野生植物の種類の約4割が自生しているともいわれている地元高知の自然の豊かさも大きな影響を与えたのではないでしょうか。10代〜20代前半の頃は、博士はすでに高知県の植物をくまなく調査していました。ですから影響というか、高知の自然こそ、博士の研究の源になったのだと思います。 GS:植物王国土佐の大地を駆け巡るフットワークの軽さもさることながら、そもそも学習意欲も旺盛だったのですね。 橋本:それは間違いないですね。地元でも有数のレベルの高い私塾に通い、そこで読書、天文学や物理学、英語の読み書きを学んでいました。教育に熱心に取り組み、多くの識者を輩出しているこの佐川町の風土も大きな影響を与えたのではないでしょうか。 高知は山を越えるごとに地域の特色も変わるのですが、佐川町は「佐川山分学者あり」(佐川は山も多いが学者も多いという意味)という言葉ができるほど、学問が盛んな町だったため、そのあたりも後年の富太郎を形成する苗床になったはずです。 GS:学問で肥えた土から、まさに黄金の苗が芽生えたわけですね。 橋本:いろんな要素はあると思いますが、やはり牧野富太郎を突き動かしたのは、ひとえに植物への愛ではなかったのかなと思います。 GS:歴史の必然というかなんというか、どれか一つでも欠けていたらもしかしたら牧野富太郎は生まれなかったのかもしれませんね。 橋本:そうですね、もし両親と言わずとも、どちらかの親が存命だったり、他の子どもみたいにちゃんと学校に通っていたり、場所が高知でなかったり、このどこかが異なるだけで牧野富太郎の人生は私たちが知っているものとは違う歩みになっていたのかもしれません。 今回のドラマをフックにして、牧野富太郎の存在を広く周知したい GS:ところで、その牧野博士は昨年生誕160年を迎えましたが、博士の存在がクローズアップされている今年2023年、牧野植物園としては博士が日本の園芸に残した博士の足跡、功績をどのように伝えていきたいですか? 橋本:牧野富太郎は、まだ全国的に知名度は低いと思うんですよ。確かにドラマのおかげで知った方も多いとは思いますが、それでもいまだに高知のパブリックイメージは、高知=坂本龍馬、だと思うんです。 我々としては、今回のドラマをフックにして、牧野富太郎という世界レベルの植物分類学者がいたんだという事実、そしてそれを生んだのが高知であるということを発信し、その結果植物に興味をもってもらい、牧野富太郎のエッセンスを当園で感じてもらう。いわば、「情報」を「体感」へと繋げていければ、と考えています。 なので、私たちとしてはひたすら牧野富太郎という人の偉業と人間性を発信していき、今までの高知=坂本龍馬が、高知=牧野富太郎というように瞬時にイコールで結びつく、そんなところを目指しています。 園内に植えられていた高知の特産品「ブンタン」。マーマレードにすると絶品! 高知は果物も豊富なのだ。 NHKの連続テレビ小説「らんまん」について ドラマ化を推進する会が結成され、署名活動が行われた経緯もあります GS:NHKの連続テレビ小説「らんまん」について、地元の方、そして植物園の皆さまはどんな風に受け止めていらっしゃるのでしょうか? 橋本:じつは以前からぜひドラマの題材に、というリクエストは県内の複数の箇所から出ていました。また、それを推進する会が結成され、署名活動が行われた経緯もあります。署名活動が直接的にNHK側の選考判断材料になったかは分かりかねますが、県民を挙げて牧野博士の周知を願っていたわけですから、これはあくまでも私の予想ですが、そういった活動が少なからず選考に影響を与えた部分もあるのかな、とは思います。 GS:橋本さん自身は、テレビ化の決定を聞いたとき、どう思いました? 橋本:それは嬉しかったですよ! ここ(牧野植物園)に携わっている全ての人が、牧野博士のことを愛し、敬意を払っているので、博士の偉業と魅力が世間に、しかも全国ネットで周知されることを名誉に感じています。 GS:実際に署名活動に携わった方たちにとっては、まさに思いが報われた瞬間だったのですから、これはもうシャンパンファイトでもしたい気分だったでしょうね。こうして、ドラマの題材になったことによって、牧野植物園はどう変化すると思いますか? 橋本:そうですね、まぁ忙しくはなるでしょうね(笑)。 でも先ほども言ったように、それがきっかけで牧野富太郎に興味を持ち、植物に興味を持ってもらうことは、私たちにとっては嬉しい相乗効果です。お客さまに今後どのようなアプローチで植物に興味を持ち続けていただくのかを考えながら、牧野植物園もコンテンツをブラッシュアップしていかなければなりません。このたび、正面入り口と南門の間に植物研究交流センターという建物を新たにオープンしました。 そこではさまざまなワークショップやイベントを行っています。また、リニューアルしたレストランやミュージアムショップもお楽しみいただけるのではないかと思います。 牧野博士は“植物は楽しいものだ”ということを世界中の人に知らせたかったし、実際に知らせたわけですから、変化するというよりは、変わらずにその思いを継承していきたいですね。 建設中(2022年12月当時)の植物研究交流センター。 牧野植物園のこれから 牧野植物園を通じて、植物に関する正しい情報を発信していくことが私たちの使命 GS:Webマガジン「ガーデンストーリー」の読者は園芸を愛好する人たちがさまざまな形で園芸を楽しんでいます。読者の皆さまに対し、牧野富太郎博士のどんな部分を知ってほしいですか? また、牧野植物園のこれからの取り組みなどを教えてください。 橋本:博士の行っていた植物研究は、基本的に人の手が加わっていない自然そのものの植物が対象であったため、人の手が加えられる園芸文化と必ずしも合致する部分ばかりではないのですが、ベースにある植物愛というところでは大きく共通していると思います。 ただ牧野博士の場合は(想いが)突き抜けてしまっていたために、研究者として偉大な功績を遺すことができたのですが、その突き抜けていた部分を、連続テレビ小説や当園を通じて、感じて、そしてファンになっていただければ嬉しいですね。なにしろ牧野富太郎は生前、自身のことを「草木の(妖)精」と言ってはばからなかったそうですから。 GS:植物への興味の有無に関わらず、牧野富太郎という人の生き様に対して、連続テレビ小説を通じて興味を持つ方は多いと思います。 橋本:牧野博士の時代と違い現代は情報が氾濫しているため、一つの分野を追求するのって難しいと思うんです。それがいばらの道になったら、楽な道も簡単に探せるわけですから。だからある意味博士みたいなブレない生き方に憧れを覚える視聴者の方も多いのではないでしょうか。 そうして興味を持っていただいた方に、植物の種を本来あるべき姿で保存していくということの大切さ、そして高知県の自然の豊かさを、私たちも牧野博士のそれにならい、ブレずに積極的に発信していかなければなりません。発信する上で、この牧野植物園は重要な拠点となっているので、今後ますますその価値を高めていきたいと思います。 近年は植物の情報をネットで簡単に検索できますが、誤った情報も非常に多く見受けられます。私たちは、この牧野植物園を通じて、植物に関する正しい情報を発信していくことを使命としています。 GS:粛々と、牧野博士の偉業を紡いでいくと。 橋本:そうですね、そんなところです。すいません、答えになっているかな(笑)。 GS:いや、情報の信頼性を追求するのは、私たち園芸メディアにとってもそれは使命であるので、正しい情報を元に植物愛好者を増やしていくという形で、牧野博士を見習い、その想いを紡いでいけたら嬉しいです。今回はいろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございます。南園に牧野博士の立派な銅像がありましたが、博士にくれぐれもよろしくお伝えください。 橋本:伝えておきます(笑)。 南園にある牧野富太郎博士像 取材後記 35年ぶりの高知。35年も経つと、初めて来た土地のような感覚でしたが、以前のことで鮮明に覚えているのは高知市民の親しみやすさ。すごくソウルフルで、今回の取材でお世話になった広報の橋本さんも、そんな方でした。 好青年で、時にクールに、またある時は熱っぽく語る、植物愛に溢れる橋本さんですが、牧野富太郎という人物をリスペクトしまくっているその姿を見ていて、この方は牧野富太郎と同時代に生を受けていたら、きっと牧野博士に可愛がられたのだろうな、と思いながら、お話を聞いていました。 ちなみに、この記事を作っている今(6月)、予見した通り連続テレビ小説効果で園内はだいぶ混み合い、忙しいらしいです。忙しいけれど、ホスピタリティー溢れる橋本さんのことだから、きっと手を抜かないのだろうな…。 話に聞く牧野博士も、それはホスピタリティー溢れる方だったそうです。今回の取材は、そんな土佐っ子の心意気を肌で感じる取材となりました。
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ガーデン&ショップ
高知県立牧野植物園は見どころ満載! 牧野富太郎の想いが詰まった園内おすすめスポットを一挙紹介!
牧野植物園の見所をもっと知る! 日本の植物分類学に偉大な足跡を遺した牧野富太郎。その生涯をモチーフに描かれたNHKの連続テレビ小説「らんまん」が絶賛放映中です。 ガーデンストーリー編集部ではこれに先立つこと2022年初冬、牧野富太郎の業績を顕彰してつくられた、高知県立牧野植物園を訪れ、一足先に牧野富太郎の足跡をたどってきました。そして牧野博士と牧野植物園の関係を解説した第1回目に引き続き、今回はその広さゆえに一度ではお伝えしきれなかった牧野植物園にクローズアップし、その見どころや、おすすめスポットを映像と共に紹介したいと思います。 おすすめスポット① エントランスまでの道のり 日本最後の清流とも称される美しい四万十川をはじめ、日本一の消費量を誇る鰹料理など、見どころ食いどころ満載の観光王国高知県。さらに、牧野富太郎博士がクローズアップされたことにより、植物王国としての顔に注目が集まっています。 日本で確認されている植物のうち約40%の植物が生育しているといわれる高知県の自然を体感できるのが、牧野植物園正面玄関からエントランスまでの約100mのアプローチ「土佐の植物生態園」。このエリアでは、高知県の豊かな植物生態を、山→川→海辺と、段階的に体感することができます。 山野草が好きな方の中には、この場所で半日過ごす方もいるのだとか。まだエントランス前ですよ! こんなところにも、牧野植物園の「自然のままの植物の生態を知ってほしい」という本気度が伝わってきます。 おすすめスポット② エントランスと本館建屋 エントランスを抜けるとすぐ、右側にボタニカルショップ nonoca(野の花)と、レストラン「アルブル」(現在は新店舗C.L.GARDENとして南園に移転し、ここではカフェ・アルブルとして営業中)があります。 ボタニカルショップ nonocaでは、季節の花の鉢植えや、牧野博士の植物図をあしらったグッズなどの牧野植物園オリジナルグッズ、高知産の土産ものなどを購入することができます。 私のイチ推しは、スコットランド沖合のアイラ島に自生する22種の希少な野生のボタニカルを手摘みで採取して造られた蒸留酒(ジン)「THE BOTANIST」。 一般的なジンの持つハーブ感というよりは、いくつもの花の香りが複雑に交わるような、フローラルアロマが特徴。お酒の強い方はロックで心地よいアロマをダイレクトに楽しんでほしいですが、弱い方はトニックウォーターで割ってジントニックにして楽しんでください。 ちなみに、商品名のBOTANISTとは植物学者のことを指します。牧野博士を顕彰した牧野植物園のお土産としてはもってこいですね。 BOTANISTをはじめ、アルコール等の飲料類は取材時の nonocaから植物研究交流センター 3Fの牧野ミュージアムショップ「サクラ」に販売場所が移っているためご注意ください。 おみやげ類は売り切れるものもあるため、先に購入して散策中は園内のコインロッカーに入れておくのがおすすめです。コインロッカーは本館nonoca、植物研究交流センター 3Fサクラ、共に入り口付近に設置されています。 さて、本館建屋を中央に進むと、空に向かって存在感を示しているのはタイワンマダケ。 ある意味、エントランスを抜けてきたお客様を最初にお出迎えするのがタイワンマダケだ。 タイワンマダケは1896年に牧野博士が東京帝国大学(現在の東京大学)の依頼で台湾を調査した際に発見した台湾固有種で、1916年に「台湾植物図譜」の著者、早田文蔵博士が発見者の牧野博士にちなんで、学名の種小名をmakinoiとして発表しました。原産地の台湾では工芸品の材料としても使用されています。 建築家内藤廣の意匠が反映された独特の傾斜の屋根、タイワンマダケ、土佐の空、この3つが揃うと誠に美しい。 おすすめスポット③ 植物研究交流センター3Fレストラン「C.L.GARDEN」 C.L.GARDENは「子どもの頃に憧れた木の上の小屋のようなレストラン」をコンセプトに、ココット(鋳物ホーロー鍋)のハンバーグランチや、ふもとの市場で仕入れたお魚ランチなど、旬の野菜をふんだんに使ったシェフ自慢の地産地消の洋食メニューが魅力。そんなC.L.GARDENから、夏限定のメニューの情報が届きましたのでご紹介します。 窓の向こうのガラス張りの建物は温室棟。 夏限定ドリンク ベリースカッシュ ブルーベリーやストロベリーなど数種類のベリーが味わえるスカッシュ(炭酸ジュース)です。 管理栄養士曰く、ベリーに多く含まれるポリフェノールには、暑さによる疲労の回復効果がある「抗酸化作用」、血管を拡張し熱中症状を改善する「血流改善作用」、熱中症に起因する炎症の予防と罹患後の緩和に効果のある「炎症抑制作用」という3つの効能が、熱中症への対策として有効であるとされています。 夏の園内は無理して歩くと大変なことになるので、こまめな休憩を心がけ、美味しく体にもよいベリースカッシュを熱中症対策にお役立てください。 ブルーレモネードスカッシュ 定番のレモネードスカッシュにブルーシロップが加わり、見た目にも涼しげな夏らしいドリンクです。南国のような土佐の空に溶け込む色彩は映えること間違いなしです! ティーソーダ アイスティーシロップを炭酸で割ったドリンクで、レモンを添えていますので、さわやかな味わいが暑い日にぴったりです。 余談ですが、牧野博士が育った佐川町は日本産の紅茶「土佐和紅茶」の産地でもあるんです。残念ながらこちらのティーシロップには使用されていませんが、渋みが少なくマイルドな味わいの土佐和紅茶、ぜひお土産にいかがですか? 夏季限定フードメニュー シェフ特製ハンバーグのココットランチ 玉ねぎの旨みたっぷりの自家製ハンバーグメニューは幅広いお客様に愛されているメニューです。メイン(スープ・サラダ・ハンバーグ)にライスが付きます。 鶏ひき肉と野菜のカレー 人気のカレーは、これ目当てに五台山を登ってくるお客さまもいるほどファンが多い一品です。 キッズプレート 小学生までのお子様がご注文可能なお子様ランチです。思わず大人も頼みたくなる、美味しいがつまったプレートです(ふりかけごはん・ミニスープ・フライドポテト・鶏のから揚げ・ミニハンバーグ・フルーツ)。 <レストラン内外観写真提供:高知県立牧野植物園 メニュー写真提供:C.L.GARDEN> 「C.L.GARDEN」【場所】植物研究交流センター 3F【営業時間】9:00~17:00モーニング 9:00~11:00(オーダーストップ 10:30)ランチ 11:00~15:00 (オーダーストップ 15:00)カフェタイム 15:00~17:00(オーダーストップ 16:30)【座席数】約60席【TEL】088-802-6951メニュー詳細はこちらから おすすめスポット④ 回廊 本館と展示館を結ぶ170mの回廊は、周辺を四季折々の草花が彩り、遠くに高知市街が望めるため、映え必至のフォトスポットとしても大人気です。 冬季の回廊は晴れた午前中に歩くと、乾いた空気が景色をより一層美しく魅せる。 初夏の回廊は生命力溢れる緑に満ちている。 <写真提供:高知県立牧野植物園> 取材時(12月)は園を彩る花が少ないながらも、ツワブキの黄色い花が回廊に彩りを添えていました。冬季にしか出会えない花の中で、最も見たかった花のひとつがバイカオウレン。牧野博士ゆかりの花で、その葉が牧野植物園のシンボルにもなっています。 バイカオウレンを見てみたい方は、ぜひ冬の牧野植物園を訪れてみてください。この回廊途中、展示館への曲がり角の直前右側の石垣の上に目をやると、可愛らしいバイカオウレンがあなたを待っています。 <写真提供:高知県立牧野植物園> 「まきのQRガイド」を使おう! 園内の植物の多くは、解説が記載されたプレートが立っているため、その植物の情報を知ることができます。特に牧野博士にゆかりの深い植物には、プレートによる説明プラス、お手持ちのスマホでプレートに表示されているQRコードを読み込むことで「まきのQRガイド」につながり、より詳しい情報を得ることができます。積極的に使えば「まきの通」になれるかも。 おすすめスポット⑤ ふむふむ広場 ふむふむ広場は植物を五感で感じるエリア。今回は展示館近くにあるハーブ園エリアを散策しましたが、ちょうどお手入れをしていた園の管理スタッフ渡辺さんに出会い、ここでの楽しみ方を伝授していただきました。 その極意はなんと、ここに植えられているハーブは、遠慮せずに葉をちぎったり花を摘んだりしてください! とのこと。園内の植物の葉や花をむしり取るなんてちょっと気が引けますが、実際に植物に触れ、香りや手触りを楽しみながら植物と触れ合うことができます。特にお子さんの情操教育に役立ててほしいと、高知の植物をこよなく愛する渡辺さんは語っておりました。 ただし、この楽しみ方はハーブ園に限ってのことなので、他のエリアで植物の葉をちぎることは固く禁じられています。 こんなにも綺麗な花を咲かせていると、葉をむしるのも少々気が引けるが・・・。 おすすめスポット⑥ 展示館とスエコザサ 回廊の終点、展示館ではさまざまな企画展が催されています。取材時は牧野博士の生誕160年の特別企画展「牧野博士と図鑑展」という、博士の研究の歩みを紹介するブースが設けられており、そこには博士直筆の植物図などが展示されていました。中でも感銘を受けたのは博士直筆の「植物随記」。いわゆるメモ書きと察しますが、160年以上前に植物のことをこんなにも克明に記した博士直筆のノートを間近で見ることができたのは大変貴重な体験でした。 ちなみに、展示館では現在、写真家菅原一剛「MAKINO 植物の肖像」展が行われています(2023年10月1日まで)。牧野博士の標本となった植物一点一点の、写真家菅原一剛氏による「肖像写真(ポートレイト)」が展示されているので、また違った視点から牧野博士の偉業を堪能することができると思います。これから牧野植物園に行かれる方は、ぜひ展示館に足を運んでみてはいかがでしょうか。【詳細はこちらから】展示館では期間限定の催しが行われているため、事前にスケジュールをチェックして行かれることをおすすめします。【イベントカレンダーはこちらから】※「企画展」の部分が展示館の催事情報です。展示館中庭には水盤が設置されていて、夏場は水面を吹き抜ける風がこの中庭に冷気をもたらしてくれます。 自宅にお庭がある(もしくはこれから作る)方はデザインの参考にもなるのでは。 一歩下がって眺めると、鏡のような水面に映る木々や空が、周囲の景色と迎合して、まるで絵画を眺めているような気分にさせてくれるため、フォトスポットとしてもおすすめです。この水盤の水は雨水を循環させたもので、昨今、資源循環型社会が声高に唱えられていますが、遥か以前に環境保全とデザイン性を融合させた建物を設計した建築家内藤廣氏の先見性には感嘆を禁じ得ません。展示館手前の回廊脇には、牧野博士が、前年他界した妻の名にちなんで命名したスエコザサを見ることができます。 スエコザサは昭和2年(1927年)に牧野博士が仙台市内で発見しました。博士が名付けた数ある植物のうち、愛妻の名を付けたのがなぜこのササだったのかは諸説ありますが、仙台市野草園の元園長でスエコザサ研究の第一人者でもある上野雄規氏によると、実は牧野博士はササの研究にもかなり注力しており、ササの葉のしなやかでありながらも凛とした力強い姿(実際ササは冬にマイナス10℃〜マイナス20℃になっても芽を残して生き残る)に、妻壽衛さんの姿を重ね合わせたことが大きな理由ではないかとされています。そして、研究に理解を示し、身を挺してサポートしてくれた妻の分まで、今後より一層研究に力を注ぐという強い意志を、妻の名を命名することで自他に示したかったのではないか、と語っています。まぁ、実際のところは博士のみ知るですが。 何にせよ、愛妻を失った時の博士の喪失感は察するに余りあります。風にそよぐスエコザサの乾いたざわめきは、まるで博士の悲しみが音になったようでした。このような曰くを持つこのスエコザサ、来園されたらぜひご覧になってください。そして在りし日の牧野夫妻の姿に想いを馳せてみてください。といっても、NHKの連続テレビ小説を視聴されている方は、あの二人の姿で想像してしまうでしょうね(笑)。ドラマではそのあたりがどう描かれるのかも楽しみですね。 おすすめスポット⑦ 板根 板根(ばんこん)という根をご存じですか? 板根とは、巨木の横走する根の背面全体が肥大化してまるで屏風のようになる現象を指します。熱帯多雨林※でよく見られ、表土が浅く、土中の酸素や栄養が乏しい環境で、呼吸や栄養吸収を補い、また自らを支えるためにこのように根を発達させると考えられています。ここ牧野植物園でも、北園と南園をつなぐ通路を横切る「お遍路道(四国霊場を巡るための道)」を下ると、ツブラジイという四国や九州で見られるブナ科の樹木の板根を見ることができます。映像でもわかりますが、上り下りそれぞれ1分ほどの所用時間ですが、ここを歩くのは正直運動靴でないとキツいですね。園内を散策していても大々的な看板があるわけではないので、意外と見逃されがちなこの板根。こんな奇怪な根っこ、多分見たことないと思うので一見の価値アリです! 【POINT】 ※熱帯多雨林とは、年間の平均気温が25℃以上で年間降水量が2,000mmを超える多雨な森林を指します。高知県は日本でも有数の多雨地帯で、年間の降水量が山間部だと3,000mmを超え、東部では4,000mmを超える場所もあります。 おすすめスポット⑧ 温室 温室の中はまさに南国! 異国情緒漂う棟内は、観葉植物として人気の植物や、サボテン、蒐集家が多いことでも話題の塊根植物、童話に出てきそうな水生植物などなど、非日常を感じさせてくれる植物たちがひしめき合う空間。ちょっとしたジャングル探訪気分にさせてくれます。 特におすすめなのは温室に入ってすぐのドームと高い壁の間を抜けていく通路。映像の中でも触れていますが、宮崎駿氏のアニメ作品、天空の城ラピュタをご存じの方は、まるでラピュタの城内に入り込んだかのような錯覚を覚えます。もちろんスタジオジブリと温室は関係ありませんが、劇中で重要な役どころを担う「ロボット兵」がどこかから現れそうな鬱蒼とした雰囲気は、同作が好きな方は思わずニヤリとしてしまうのではないでしょうか。 取材後記 私の今回の牧野植物園初来園は、取材(仕事)ということもあり、牧野博士のゆかりに絡めて物を見がちでしたが、牧野博士に対する予備知識ゼロで来園しても、見る人が決して飽きないルート設定がなされているため、植物が、自然が好き、という動機だけでも十分に広大な植物園を楽しむことはできると思いました。でも結局はね、歩き回っていると牧野富太郎のことをもっと知りたくなるのですよ。 私の場合は広報課の担当者が付きっきりで案内してくださったためそういう胸中に至りましたが、植物と牧野博士の学び、というところでは単独で周るのには限界があると思うので、そう頻繁に行けない方は、同行ガイドが園内を案内してくれる有料の「園内ガイド」を申し込むことをおすすめします。 【園内ガイドの詳細はこちらから】 ただ、ガイドのアテンドは10名以上からとなっているので、お友達を集めて行くのが一番ですが、SNSで当日の同行者を募るのもアリかもですね。 高知県立牧野植物園、私が近くに住んでいたらおそらく毎週末通うことでしょう。植物の知識も増え、とにかく起伏の多い園内を歩くことによりよいダイエットにもなるという、一石二鳥ですからね。またぜひ訪れたく、そしてこんな植物園が地元にある近隣住民が羨ましい、そんな取材でした。