季節は「夏」の南半球ニュージーランド 〜植物の特徴&秋恒例の庭イベント〜
夏を迎えるニュージーランド
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日本では冬に当たる12~2月頃、南半球のニュージーランドは夏を迎えています。8,800kmのフライトで約12時間でたどり着く「地球の果て」では、まったく新しい世界が見られます。所要時間は日本からドイツまでと同じくらいですが、その変化の大きさはまるで異なります。ちなみに、私の故郷であるドイツでもニュージーランドは人気の渡航先で、24時間以上かけて訪れた人々は、南島、北島どちらかでも3週間は滞在するのが一般的。ニュージーランドの環境は、日本で生まれ育った人にはとてもエキゾチックに感じられることでしょう。
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ニュージーランドと聞いて想像するのは、自然や荒々しい海、広々とした平原に散らばる何百万頭ものヒツジや牛でしょうか。都市であれば、オークランド、ウェリントン、クライストチャーチなどが有名です。
私も数年前、ニュージーランドを訪れ、ワクワクするような景色や町、村、そしてもちろんさまざまなガーデンやランドスケーププロジェクトを見ることができました。その経験が素晴らしかったので、ぜひもう一度訪れたいと思っています。
ニュージーランドのガーデンと植物事情
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私のニュージーランドへの興味は、あるガーデン雑誌に掲載されていた1つの個人邸のガーデンから始まりました。いろいろなガーデン協会に属していたので、さまざまな美しい庭園が掲載されたそれぞれの会報誌が送られてきていたのです。
それらの会報誌のどれかに、オープンでナチュラルな、海に臨んだ広いガーデンの写真がいくつか掲載されていました。その中の1枚、ニュージーランドの南島、マールボロの写真に興味を引かれました。すぐにその写真を切り抜き、行きたいガーデンを集めたガーデンバケットリストに追加。何年も経ってから、ようやくニュージーランドを訪れることができました。
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ニュージーランドのガーデンで印象に残ったことは、多くのガーデンが、ニュージーランドのネイティブプランツで構成されていること。自生植物の利用については、どこのガーデンでもオーナーや地元の人との話題になりました。自生植物を自然のままに保つことにプライドと情熱を持っているのです。それまで、ドイツでは何が自生種なのか、それほど深く考えたことはありませんでした。ヨーロッパ地域にはたくさんの植物が育ち、隣国も多いので、どの植物がどこから来たのか、はっきりと分からないことも多いのです。
ヨーロッパでガーデンプランツとして愛されているギボウシ(ホスタ)も、もともとは日本原産の植物。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
また、例えば私はドイツのバイエルンで生まれ育ち、世界中を旅した後、日本に落ち着きましたが、このような来歴を持つ植物も多くあります。別の地域から運ばれてきた植物はその地に適応し、ある時点でどこに属しているのかを区別するのは難しくなります。植物は、自分の生まれ育った文化圏とは全く異なる日本で暮らしている私のように、自生地とは異なる厳しい環境でも順応して育つことができるのです。
ブレナム市のブドウ棚。fotoshort/Shutterstock.com
私のニュージーランド滞在は8週間で、訪れたのは南島のみ。クライストチャーチも訪ね、何日も公園や公共スペースと共に住宅地の個人邸の庭も巡って過ごしました。ホテルから見えた、歩道や自転車道と車道とを区切る、たくさんの宿根草やグラスを使った緑地帯なども興味深いものでした。クライストチャーチからおよそ300km北にあるブレナム市も訪れました。広大なブドウ棚と美味しいワインで有名な場所です。
ラパウラ・スプリングス・ガーデン・マールボロ
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このブレナム市は、11月に、「ガーデン・マールボロ」と呼ばれるニュージーランドでも指折りのガーデンイベントが行われることでもよく知られています。メインスポンサーが有名なワイナリーのラパウラ・スプリングス・ファミリーなので、正式名称は「ラパウラ・スプリングス・ガーデン・マールボロ」。会期は4日間で、2022年は11月2~5日の日程で行われました。
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ガーデン・マールボロでは、ワークショップやガーデンツアー、講演、特産品やグルメ、イベントなどが楽しめます。2022年のフェスティバルには、世界的にも有名なガーデンデザイナーのポール・バンゲイや、ジョシュ・エメットによるライブクッキング、パカラカパーマカルチャーを立ち上げたヨタム・ケイなども登場。国際的に有名なダニーデンのラーナック城のヘッドガーデナー、フィオナ・イーディーは自生植物マニアで、オークランドのオラティア・ネイティブプラントナーセリーで働いていた経験があり、ニュージーランドのガーデンのためにおすすめの自生種100種をまとめた本も書いています。ガーデン・マールボロは、こうした一流のガーデナーと接する素晴らしい機会となります。
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また日曜日には、さまざまな植物や園芸工具、園芸用品が並ぶガーデンマーケットに、食べ物の屋台が計200 も並ぶ「イートストリート」も開催。土曜日の夜には、同じ趣味を持つガーデン愛好家や講演者と話せるガーデンパーティーも楽しめます。そのほかアートオークションもあり、抽選会ではガーデニングを奨励するコミュニティプロジェクトの資金集めも行われています。
ガーデンフェスティバルでも見られるネイティブガーデン
さて、私がニュージーランドを訪れるきっかけとなったMORITAKIというネイティブガーデンも、ウィザー・ヒルズ近くのブレナム市にあります。庭のオーナーが1990年代に購入した際には、まだ放牧場のようなむき出しの荒野でした。日本人の友人の手助けもあり、山や滝、小川、池を生かしたガーデンプランを練り、庭をつくってきたそうです。今ではヤシの仲間のニカウヤシ(Rhopalostylis sapida)、大きなリムノキ(Dacrydium cupressinum)、高木になるカウリ(Agathis australis)、ニューサイラン(Phormium tenax)といったニュージーランド原産の植物が多く育つ庭になっています。ガーデン・マールボロの期間中も、何年にも渡り、MORITAKIのガーデンが公開されています。
ニュージーランド固有のニカウヤシ。Roberto Dani/Shutterstock.com
私もひと目見た時から魅了された、自生植物を生かした美しいガーデンです。オーナーは初めから、見ず知らずの他人である私をとてもフレンドリーに歓迎してくれ、その率直な人柄や庭の明るい空気感は、じつに素晴らしいものでした。
ニュージーランドの植物を取り入れて
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ニュージーランドの植物は、日本でもどんどん人気になっていますね。なかでも人気の高いものがニューサイラン。私の住む湘南や東京地域では、冬でも多くの家の庭先でニューサイランが育っています。きれいなテラコッタの鉢植えにして、玄関先に置いてある姿もよく見ます。とてもいいアイキャッチャーですし、同時にちょっとした目隠しにもなります。
ニューサイランは白やソフトピンク、橙色などの花も印象的ですが、観賞するのは主にカラフルで美しい葉。葉色は緑から赤、ピンク、紫、黄、サーモンピンクなどで、斑入り品種もあります。高さも幅があり、コンパクトなものなら1mほど、大きなものでは3mにも成長します。ほかの花と合わせても素敵ですよ。
葉色が豊富なニューサイラン。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
例えば日本自生のフウチソウなどと組み合わせて、ニュージーランド風の雰囲気をガーデンに取り入れてみてはいかがでしょうか。ちなみにフウチソウはドイツでとても人気があり、宿根草協会による2022年の「今年の宿根草」にも選ばれています。ドイツでは「Japanisches Berggras」、日本の山のグラスという意味の名前で呼ばれています。
フウチソウはドイツでも人気の宿根草。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Mann, Dirk
植物に対してエピソードや思い入れがあると、ガーデニングがより楽しくなり、植栽もより生き生きと魅力的になりますよ。
今年のガーデン・マールボロはもう終わりましたが、いつかぜひ訪れてみてください!
2023年は11/8~12に行われる予定です。チケットの販売は2023年7月からスタート。ガーデン・マールボロは、私の行きたい場所リストにもまだ載ったままですが、皆さんのリストにも入れてみませんか?
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Lauermann, Andreas