【バンクシア】花も葉も実も見どころ満載! 新感覚の超個性的庭木をプロが解説
花も葉も実も見どころ満載! 新感覚の超個性的庭木「バンクシア」
近年、園芸店などでの流通も徐々に増えてきて、人気・認知度も高まっているオーストラリア原産の固有種たち。他の大陸の植物とは違った独特の個性があって、アガベなど硬質で彫刻的なテクスチャーのオーナメンタルプランツと組み合わせたりすると、とても映える素材ですよね。
とはいえ、日本とオーストラリアの気候環境は大きく異なるため、オージープランツの中には日本の気候下では育てにくいものもありますし、まだまだ日本での栽培経験をもとにした情報も少ないのが実情。オージープランツに興味はあるけれど、なかなか導入に踏み切れないなぁ、という方も多いかと思います。
今回から2回に分けて、そんなオージープランツの中から、花も葉も実も個性とバリエーションに富んだ注目の新感覚樹木「バンクシア」をご紹介します。今回はバンクシア属のプロフィールや育て方のポイントといった概要編、次回は日本の温暖地であれば気候環境にも合って比較的育てやすい、個性も際立ったバンクシア10種を珍しい種も含めて乙庭セレクトでご紹介する品種編となります。新しい植栽のヒントや刺激になれば幸いです。
バンクシア属のプロフィールと多彩な魅力
バンクシアはヤマモガシ科の植物で、オーストラリアの砂漠を除くさまざまな地域に約80種が存在し、1種以外はオーストラリア固有種。まさにオージープランツの代表格といえるでしょう。
歴史的に見ると、バンクシアが世界に知られたのは、英国の植物学者・プランツハンターであるジョゼフ・バンクスが、ジェームズ・クック船長の第1回太平洋航海(1768-1771)に同行した際にオーストラリアで収集し、英国に持ち帰った標本が最初。バンクシアという学名も、ジョゼフ・バンクスの名に由来します。
この最初の標本には、今日でも園芸的に親しまれている4つの種、バンクシア・セラータ (Banksia serrata)、バンクシア・インテグリフォリア (Banksia integrifolia)、バンクシア・エリシフォリア (Banksia ericifolia)、バンクシア・ロブル (Banksia robur)が含まれていました。
ブラシやタワシを連想させるような形状の特徴的な花穂、花の後に実る他に類を見ない奇妙な造形の果実、ワイルドで形のバラエティに富んだ常緑葉など、個性的で見どころも多く、今日ではオーストラリアだけでなく、世界中の先進的な園芸家たちから注目を集めています。
バンクシアの特徴として最もよく知られているのは、その花穂(穂状花序)でしょう。ブラシやタワシのように見えますが、これは一つの花ではなく木質の軸の周りに小さな花が密集して細長い円柱状のボリュームとなった「花序」なんですね。1本の花穂に数百から数千の花が付いていて、最も花数が多いグランディス種では、約6,000個の小さな花が集合して一つの花穂を形成しているといわれています。
また、這性で広がるものや低いブッシュ状、高木になるものなど、樹形もさまざま。地植えでもいろいろなシチュエーションで楽しめますね。
オーストラリアの国土面積は日本の約20倍ととても広く、同じ国内でもさまざまな気候環境の地域にまたがっています。バンクシアの原産地も熱帯気候の北部からマイルドな気候の南部、南極に近いタスマニアまで広範囲に及びます。
日本での地植え栽培を考えると、熱帯性の北部原産種は一般に耐寒性の面で冬越しが難しいものが多いです。
比較的冬の気温が下がる南部、中でも降雨量もそれなりにある南東部原産種には、日本の気候下でも栽培可能なものも散見されます。バンクシアの苗を購入する際には、耐寒性情報もチェックして検討するとよいでしょう。
またバンクシアは、フラワーアレンジメントでも人気の高級素材です。生花でもドライフラワーでも、また葉材としても印象的に使われます。
そして、まさに珍奇な造形を呈する実も彫刻的な魅力があり、室内に飾るオーナメントや置き物、博物的なコレクションアイテムとしても人気があります。
この不思議なバンクシアの実ですが、種子がとても硬い殻に包まれており、オーストラリアの森林で発生する山火事(ブッシュファイア)で火に炙られることで実がはじけて種子がまかれ、火災後の降雨で発芽することで知られています。地域の気候風土に最適化した進化の形態で、とても興味深いですね。
バンクシアの栽培ポイント1
リン酸系肥料を好まないので肥料は控えめに
学術的な説明よりは、ざっくりと把握するほうが実地のガーデニングでは使いやすいと思いますので、詳細は省きますね。バンクシアは、オーストラリアの降水量も肥料分も少ない風土、つまり「やせ地」に適応して進化してきました。
特に、花を咲かせるのに役立つリン酸系の栄養素について、オーストラリア原産の他の多くの植物と同様に、バンクシアも、リン酸分の少ない大地から効率よくリン酸を吸収できる根の仕組みになっています。そのため、普通のガーデンプランツと同じように肥料を与えると多肥になってしまい、調子を崩しやすいのです。日頃、植物に肥料をマメに与えている「お花好き」の方ほど、枯らしてしまいがちなんですね。
リン酸肥料に少しでも当たると枯れてしまうほどの過敏さではありませんが、バンクシアは全般的に多肥を好まない傾向があります。ですから植え付ける際には、肥沃な土地や、花を咲かせる用途でリン酸が多めに配合された培養土の使用は避けたほうが賢明でしょう。
植え付け後、生育の様子を見ながら、リン酸分の少ない肥料を控えめに追肥するのが安全です。見方を変えれば、頻繁に施肥をしなくてもよいため、案外手間いらずともいえます。ちなみに乙庭では、オージープランツや南アフリカ原産のプロテアやリューカデンドロンなどには、リン酸分を含まない化成肥料と、海藻原料でリン酸分がとても少ない有機肥料を併用して育てています。
上写真は、リン酸分がとても少なく、微量栄養素に富んだ海藻を原料とした乙庭愛用の有機質肥料です。紅茶葉のような見た目も気に入っています。前出のリン酸無配合化成肥料と共に、乙庭のオンラインショップでも販売しています。
バンクシアの栽培ポイント2
適地は「暖かい日向」。完全な乾燥は禁物!
バンクシアは私もお気に入りの植物で、群馬県の乙庭でもこれまでさまざまな種を屋外栽培し、過酷な夏冬を越えられるか試してきました。
上の写真は、乙庭が現在の群馬県前橋市に移転する前、お隣の高崎市での店舗植栽です。この場所でもバンクシアの屋外試験栽培を行っていました。
前橋市は冬季の最低気温はマイナス5℃程度まで下がり、地表は凍結し霜も降ります。また、夏季は日本有数の酷暑地ともなる土地柄ですので、ここ前橋市で夏冬を屋外地植えで越せる植物は、関東平野部以南の温暖な地域であれば、概ね問題なく屋外栽培可能といえるでしょう。
ただし、バンクシアは雪の重みで枝が折れやすいものも多いので、降雪量の少ない地域向けです。また、耐寒性があるとはいえ、冬季の気候が日本よりもマイルドな地域原産の植物たちなので、強い北風に晒される場所や、日当たりが悪く凍結した土が解けにくい場所などに植えると越冬成績が悪くなります。建物の南側など、北風を避けられて、昼間の土中温度が上がりやすい場所を選んで植えると安全です。
特に小さな苗は耐寒性が万全ではありませんので、まずは鉢植えで、真冬の間は凍結しない程度の場所で保護してあげるとよいでしょう。温暖な春~初夏に定植して、秋までによく根付かせるのがポイントです。
またオーストラリアというと、上写真に見られるようなカラカラの乾燥地をイメージしがちですが、実は、バンクシアをはじめとするオージープランツの多くは、ある程度ドライ寄りの環境を好むものの、土壌が完全に乾燥すると一気に強いダメージを受けたり、枯れてしまうものが多いです。 地植えの場合、土中まで完全に乾燥してしまうことはほとんどないのでさほど心配いりませんが、 鉢植えの場合は水切れに注意しましょう。
では、次回の記事では、実際に栽培してみた経験も踏まえ、日本の気候環境でも育てやすく、なおかつ個性の際立ったバンクシアのおすすめ種を、乙庭セレクトでご紹介します。どうぞお楽しみに!
●花も葉も実も見どころ満載! 新感覚の超個性的庭木[バンクシア]10選 品種編【乙庭Styleの植物35】
「人間の価値って個性でしょ」
(石原慎太郎 1932-2022 )
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