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病に苦しむ人にこそ、光と緑に溢れる素敵な空間を。「マギーズ東京」

病に苦しむ人にこそ、光と緑に溢れる素敵な空間を。「マギーズ東京」

「がんです」。自分が、あるいは家族が「がん」と診断されたとき、多くの人は動揺し、自分自身を見失うことがあります。「仕事はどうなる?」、「家族にどう伝えたらいい?」、「治療費は?」…。抱えきれぬ不安を一身に背負う人々を支えるために英国で生まれた、チャリティー活動によるがん患者とその家族、友人のための無料がん患者相談支援施設「マギーズセンター」。名だたる建築界の巨匠たちが手がけるこの施設は、人の尊厳を支える空間デザインがコンセプトです。

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病院の敷地内に建てられているマギーズ・グラスゴー。故マギー・ジェンクスさんの娘、リリー・ジェンクス氏によって手がけられた中庭は、林の中にいるような自然な雰囲気。photo/©maggies

「空間デザインには人の心を癒し、希望を与える力がある」。

その信念を貫き、英国でがん患者とその家族を支えるための無料相談支援施設「マギーズセンター」を創設したマギー・ジェンクス。彼女は英国で造園家・造園史家として活躍していましたが、1993年に乳がんが再発。余命数カ月という衝撃的な事実を告げられた直後にも、次の患者のために診察室を早々に出ていかなければならなかった自身の経験から、がんに悩む人々には医療機関のほかに、不安や悲しみを受け止めてくれる場所が必要だと思いました。そして、そうした場所にこそ、建築と庭が一体になった美しい空間デザインが不可欠であると考えたのです。

医療施設の多くは、医療者側の効率や安全管理が優先された設計になっており、ときとしてその画一的な空間は、心身に不安を抱えた人々にとって冷たく感じられることがあります。一方、マギーは患者側の立場で、また造園家として、人に安らぎと希望を与える空間づくりを目指しました。マギーが設けた施設デザインの定義は、次のようなものです。

・自然光が入って明るい
・安全な(中)庭がある
・空間はオープンである
・執務場からすべて見える
・オープンキッチンがある
・セラピー用の個室がある
・暖炉がある、水槽がある
・一人になれるトイレがある
・280㎡程度
・建築デザインは自由

マギーズ・グラスゴー。レム・コールハース氏による施設デザインは英国建築家協会の建築賞を受賞している。photo/©maggies

マギーのコンセプトに賛同し、これまでザハ・ハディドや黒川紀章、ダン・ピアソンといった世界的建築家や造園家が設計を行い、マギーズセンターは数々のデザイン賞を受賞しています。今やマギーズセンターの設計を担うことは一流の証。マギーズセンターは英国中に個性豊かな展開を見せています。

そして2016年、東京・豊洲に日本初のマギーズセンター「マギーズ東京」が誕生しました。マギーのコンセプトに従い、建築家の阿部勤さん、佐藤由巳子さん、青山加奈さんが建築コーディネートを担当し、敷地面積約400㎡に、中庭を挟んで本館とアネックスの平家2棟が並ぶ開放的な空間が生まれました。ここでは平日10時から16時まで、予約なしでがん患者やその家族のために、専門知識を持った看護師やカウンセラーが、さまざまな情報提供とサポートを無料で行っています。

四季折々の花や実が彩る庭の入り口は、訪れる人を温かく優しく迎え入れてくれます。本館には内部のキッチン空間とつながる木造のデッキがあり、気候のよい時には、広々としたデッキで陽の光を浴びたり、遠くの景色を楽しむことができます。コーディネーターの一人、佐藤由巳子さんは、この場所がクリエイティブで美しくあることは、施設の機能と同様にとても重要だと話します。

「病を抱えた人々は、ときとして明日への希望を持つことが困難で、自分自身を見失ってしまうことがあります。しかしデザインには、人のプライドを再生させる力がある。かっこいい、素敵な、オシャレな空間が、病を患うあなたのために用意されているということが重要なこと。そして、そういう空間の中に身を置き、安心して過ごすことで、病気であっても、例え余命が限られていたとしても、自分がどうしたいのかを考え、自分で物事を決断することができるのです。実際、ここでサポートに当たる看護師たちは、泣いて混乱する患者さんが、マギーズ東京で過ごすうちに自身の考えを持ち、自立していく過程を目の当たりにし、それを“マギーズマジック”と呼んでいます」。

いついかなる時も、最後の瞬間まで尊厳を持って生きるためのデザイン。そこには緑が不可欠であり、それはマギーズという限られた場所だけでなく、家や学校、病院、会社、公園などあらゆる空間デザインで応用されるべき考えかもしれません。

自然素材でできたシラス壁のリビングルームがガラス越しに見えます。このガラス壁は必要に応じて、木製のブラインドで隠すことができます。

Information

マギーズ東京
〒135-0061 東京都江東区豊洲6-4-18
TEL:03-3520-9913 FAX:03-3520-9914
http://maggiestokyo.org/

開館時間
月曜日~金曜日
(午前10時~午後4時まで)
※土日・祝日はイベント時のみオープン
2017年は1月10日(火)から。

●マギーズ東京はチャリティによって運営されています。どなたでも1,000円からのご寄付により、このチャリティ活動にご参加いただけます。

みずほ銀行市ヶ谷支店 普通口座2281171
口座名義/トクヒ)マギーズトウキョウ

Tポイントでもご寄付を受け付けています。
Yahoo!Japan ネット募金よりお手続きできます。

取材・写真・文(©以外)/3and garden

 

 

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