2023年5月6日は、英国の新国王チャールズ3世の戴冠式が行われ、日本でも式典の様子がニュースで報じられましたが、ロンドンではあちこちの街中でストリートパーティーが行われ、記念日を多くの国民が祝ったといいます。この式典を日本でも祝いたい!と、バラ咲く自宅の庭で「チャールズ3世の戴冠式を祝うローズパーティー」を催したローズライフコーディネーターの元木はるみさんに、その様子と特別なメニューについて教えていただきます。
目次
戴冠式を祝う2023年のローズパーティー
今年は、今までで一番早く訪れたバラの開花シーズンとなり、私は大慌てで庭仕事をし、ローズパーティーの準備もしと、慌ただしい5月でした。皆様はどう過ごされたでしょうか?
バラが咲く季節は、我が家でローズパーティーを開くのが恒例となっています。今年は、初めて開いた2003年から数えて21年目だと気づき、あっという間の年月の経過に驚いています。
今年もおかげさまで、ささやかながら、5月に6日間のローズパーティーを開催させていただきました。
日替わりでテーマを変えて行いましたが、なかでも英国の新国王チャールズ3世の戴冠式が5月6日に行われたのを機に、「チャールズ3世の戴冠式を祝うローズパーティー」をテーマに、ナショナル・トラストサポートセンター理事である徳野千鶴子先生に協力していただき、イギリスの戴冠式を祝うストリートパーティー公式メニューから、3つのメニューを再現したパーティーを開催しました。その様子と3つのメニューについて詳しくご紹介したいと思います。
ゲストを迎えるパーティーの準備とおもてなし演出
例年よりだいぶ咲き進むのが早くてハラハラしましたが、なんとかバラも散らずに咲き揃い、安堵したパーティー当日の朝。到着したゲストの方々には、全員が集まるまで自由に庭を散策していただきました。
門の近くでは香り高いイングリッシュローズ‘エヴリン’がちょうど咲いて、バラもゲストをお出迎えしていました。
今回は、2つのテーブルで色調を変えて用意しました。半戸外で庭に近いコンサバトリーは、英国菓子やガーデンティーに合う、イギリスのスポード社の「ブルー・イタリアン」の食器を(上写真)、室内は、ローズ色のファブリックに合わせて、イギリスのロイヤル・アルバート社の「レディ・カーライル」をセットしました。
テーブルには、コロネーションマークが表紙になったメニューを徳野千鶴子先生が用意してくださいました。このマークは、一般の方も自由に使えるようにと、戴冠式を祝うストリートパーティーに関する公式HPでダウンロードができたとのことでした。
イギリス(英国)は、正式には、「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」であり、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、イングランドの4つの「国」から構成される立憲君主制国家です。
マークには、スコットランドの「アザミ」、ウェールズの「ラッパ水仙」、北アイルランドの「シャムロック(クローバー)」、イングランドの「バラ」、そして「チューダーローズ」が描かれています。
「チューダーローズ」は、「バラ戦争」(15世紀に起きた王位継承権を巡るランカスター家とヨーク家の争い)にランカスター家が勝利し、ヘンリー7世によってチューダー朝が開かれた際、両家のバラの紋章(ランカスター家は赤薔薇、ヨーク家は白薔薇)を組み合わせてできた紋章です。以来、現代の王家にも伝統的な紋章として引き継がれています。
さて、そんなマークがついたメニューを広げると、左側に「ロイヤルファミリーと会ったことはありますか?」「休日何をしますか?」など会話文が印刷されています。これは、イギリスでのストリートパーティーにおける会話のきっかけになるよう、例文が記載されているのです。
ストリートパーティーは、文字通りストリートで行われるもので、その目的は、人と人とのコミュニケーションです。ちなみに、公園や学校などの広場で行う場合は「ビッグランチ」と呼ぶそうです。じつはイギリスでは、こうした「ストリートパーティー」や「ビッグランチ」をとても重視する動きがあります。それは、「人を孤独にしない」という取り組みです。孤独によってアルコールや薬物に依存したり、孤独死に繋がることもあります。しかし、こうしてコミュニティーを作ることで、誰もが少しでもよりよい人生を送ることができるよう、そのきっかけとして、「ストリートパーティー」や「ビッグランチ」が推奨されているのです。
ウェルカムドリンクは、市販のローズシロップを炭酸で割ったものを用意。日差しが強い日でしたので、クールダウンしていただきました。
コロネーション・ストリートパーティーの公式メニューを再現
当日、英国チャールズ3世の戴冠式を祝うストリートパーティー公式メニュー5つの内から3つを徳野千鶴子先生が再現してくださいました。
徳野千鶴子先生には、メニューの再現だけでなく、そのメニューの背景に隠れたさまざまなエピソードもお聞きすることができました。
コロネーション オバジーン&エビのタコス
3つのメニューの中の1つ目が、「ナディア・フセインさんのコロネーション オバジーン(ナス)」です。
ナディアさんは、ご両親がバングラデシュ出身の1984年生まれのイギリス人女性です。2人のお子さんをもつ専業主婦でありながら、第6回ベイキングオフ大会に出場し、優勝を果たしました。その後、イギリスの勲章MBEも授与されています。
そのナディアさんが考案されたのが「コロネーション オバジーン(ナス)」。ナスの上にかかっているドレッシングは、ギリシャヨーグルトにカレー粉などが入っています。
カレー粉といえば、1953年のエリザベス2世女王の戴冠式の昼食会に、ル・コルドン・ブルーのロンドン校の校長ローズマリー・ヒュームさんが考案した特別メニュー「コロネーションチキン」が出されたことを思い出される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
カレーは、インドのスパイス。エリザベス2世女王の戴冠式当時、インドはイギリスの植民地でしたが、現在のイギリスの新首相スナク氏は、インド系イギリス人です。長いインドとの絆を意味するかのようですね。また、カレー粉が入っているお料理は、金色に見えることからも、コロネーションにふさわしいといわれているそうです。
以前はチキンでしたが、今回はベジタリアンでも食べることができるように、野菜のナスが使用されています。
そして、同じお皿に乗ったもう一品は、「グレッグ・ウォレスさんのエビのタコス パイナップルサルサ添え」です。グレッグさんは、もとはコヴェントガーデンで八百屋を営んでいたそうですが、TVに出演したのをきっかけに、人気料理研究家となられた方で、ダイエットメニューがお得意だそうです。
今回のサルサソースも、塩分が少なくて済むように、スパイスで味付けすることを考案されました。
「コロネーション オバジーン」も、「エビのタコス パイナップルサルサ添え」も、大変美味しく、多様性を意識した新しい時代の王室の在り方が伝わってくるようなお料理でした。
いちごとジンジャーのトライフル
さて、徳野千鶴子先生に再現していただいた3つ目のメニューは、「アダム・ハンドリングさんのいちごとジンジャーのトライフル」です。
アダムさんは、ミシュラン1つ星レストランのオーナー兼シェフで、5店舗ほどレストランをオープンしている実力者。季節の果物いちごと、新国王がお好きなジンジャーの入ったトライフルを考案しました。
ジンジャーは、「ヨークシャーパーキン」という「ジンジャーブレッド」のような生地に入っていて、それを粗く刻んで、トライフル容器の底に入れます。
その上にいちごゼリーを乗せ、ジンジャーカスタード、生クリーム、ナッツを順に重ねていきます。
一見、シンプルなようですが、とても手の込んだ一品で、いちごとジンジャーが予想以上に合い、ナッツがアクセントとなった、とても美味しいデザートでした。
チャールズ3世のお気に入りのフルーツケーキ
そして、こちらの「チャールズ3世のお気に入りのフルーツケーキ」も、徳野千鶴子先生に作っていただきました。
フルーツケーキは、チャールズ3世も大好きな、イギリスでは最もポピュラーで伝統的なお菓子。ラム酒に漬けたドライフルーツやナッツ、スパイスを入れ、焼いた後にブランデーを染み込ませて熟成させるため、保存の効くお菓子です。誕生日や結婚式のほか、シムネルケーキ(復活祭などに供されるケーキ)としても作られています。
今回のレシピは、紅茶メーカーのウィッタード社が戴冠式を記念して発表したもので、チャールズ3世のお好みのダージリンの紅茶に浸したドライフルーツを使い、焼き上がったケーキには、ドライフルーツを浸した紅茶の残りを染み込ませました。パーティーではご紹介の料理のほかに、スコーンやキッシュも楽しんでいただきました。
料理とともに3つのブランド紅茶もサーブ
紅茶も、コロネーション記念の紅茶や、チャールズ国王と縁の深い紅茶を用意させていただきました。
右から、ハロッズの「チャールズ3世コロネーション記念イングリッシュ・ブレックファーストティー」、フォートナム&メイソンの「チャールズ3世コロネーション・オーガニック・ダージリンティー」、ハイグローヴの「オーガニック・アールグレイティー」。
レストランでは味わえない、特別なメニューを楽しませていただき、徳野千鶴子先生、誠にありがとうございました。また、イギリスから遠く離れた日本で、バラ満開の時期に、ご参加の皆様とチャールズ3世の戴冠式のお祝いができたことも大変嬉しく、また一つ素敵な思い出ができました。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 元木はるみ - 「日本ローズライフコーディネーター協会」代表 -
神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。近著に『薔薇ごよみ365日 育てる、愛でる、語る』(誠文堂新光社)、『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)、『ときめく薔薇図鑑』(山と渓谷社)著、『バラの物語 いにしえから続く花の女王の運命』、『ちいさな手のひら事典 バラ』(グラフィック社)監修など。TBSテレビ「マツコの知らない世界」で「美しく優雅~バラの世界」を紹介。
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