ポカポカ陽気の春。草花たちが次々に芽吹き、日ごとに大きくなっていきます。鈴木ハーブ研究所の庭でも、フキノトウやヨモギ、スイートバイオレットなど、さまざまな野のハーブが顔を出し始めました。社長の鈴木さちよさんは、庭を歩いて野のハーブを摘み、お料理を作ります。「おーい、できたよー」。社員さんも一緒に、春の庭でほっこりお昼ごはんです。
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春は黄色から始まる

「これはクロモジの花。枝にいい香りがあって高級楊枝の材料として有名ですけど、うーん、花には香りがないですね〜。でもこの黄色の花を見ると、春だなあってうれしくなります。ほら、あっちはトサミズキの花」と春の庭を楽しそうに歩くのは、鈴木さちよさん。ハーブを利用した茨城県の化粧品メーカー「鈴木ハーブ研究所」の社長で、社屋の隣に500種以上のハーブが育つ庭をつくっています。
「この庭はハーブを利用して化粧品を作る私たちが、実際のハーブがどのような姿形をして、どんな香りがするのかを観察したり、実際に食べたり利用したりするためのサンプルガーデンなんです」

山菜は代謝を促す春のハーブ
春の庭では、フキノトウやコゴミ、ウルイなどが顔を出し始めました。山菜は春のハーブ。独特の苦味には、植物性アルカロイドが含まれており、腎臓や肝臓の機能を高め、冬の間に低下した代謝を促し、老廃物を体外へ排出する作用があります。
「ハーブというと西洋の文化と思われがちですが、日本の野山にも昔から暮らしの中で利用されてきた植物、つまりハーブがいっぱいあります。山菜は春のハーブです。私は幼い頃、春になるといつも祖母と山菜を摘みに行っていたんですが、そういう体験を子どもたちや社員にもしてほしくて、この庭にはフキノトウやコゴミ、アシタバなど山菜もいっぱい植えているんです」


庭を歩きながら、フキノトウやヨモギ、菜の花、クコの若芽、カラスノエンドウなどを摘んでいく鈴木さん。ひと回りすると、手の中が摘み草でいっぱいになりました。
「カラスノエンドウって雑草として嫌われることも多いですが、若芽を湯がいていただくと豆苗みたいなコクがあっておいしいんですよ。クコの若芽も栄養たっぷり。杏仁豆腐にのってるあの赤いクコの実は、ビタミンやポリフェノールが豊富に含まれることで知られていますが、葉っぱも漢方やお茶などで古くから利用されているんです。結構、野山に自然に生えているんですよね」

クコの葉おにぎり、フキノトウ味噌、カラスノエンドウのお浸し

クコの若芽はサッと湯がいてごはんと混ぜ、おにぎりにしました。フキノトウはフキノトウ味噌に、カラスノエンドウはお浸しにして柚子味噌のタレでいただきます。凝った料理にしなくても、今しがた庭から摘んだばかりの野のハーブは香り豊かで野趣あふれる味わいです。

春の花の彩りサラダ

カレンデュラやスイートバイオレット、菜の花など、春の花はエディブルフラワーとしてサラダの彩りに。花の基部はやや苦味があるので、花びらをちぎって散らします。カレンデュラは皮膚のガードマンとも呼ばれ、外用では湿疹や火傷、日焼けに効果があります。内服では胃の不調や喉の炎症などに用いられ、古くから使用されるハーブの代表です。甘い香りのスイートバイオレットは鎮静作用やデトックス作用があり、お茶でも利用されます。また、ハプスブルク家の皇妃エリザベートが愛したスミレの砂糖漬けも有名です。菜の花はつぼみをいただくのが一般的ですが、黄色のかわいい花も美味しく、料理の彩りとしても重宝します。

ハーブバターと春の花のクラッカー

チャイブやイタリアンパセリを細かく刻んでバターと混ぜれば、香りのよいハーブバターがすぐ完成します。これにニンニクを混ぜたものはエスカルゴバターとしてフランス料理でよく使われますが、今回は入れずに軽やかに仕上げました。クラッカーに塗って、エディブルフラワーを飾ったら、見た目も可愛い一口おやつです。

植物の力を借りて、楽しく強く

毎週火曜日は庭の手入れを担当するスタッフとともに、庭でお昼ごはんが定例に。この日は社屋から社員も呼んで、野の花ハーブを味わうお昼ごはんです。「フキノトウ味噌、いい香り!」「その香りには胃腸の働きをよくする成分があるんだよ」「作り方教えてください!」「カラスノエンドウも食べてみて」と、にぎやかで穏やかな時間が流れます。

「この庭は化粧品を作る私たちが素材を理解するための場でもあるのですが、若い人たちに普段の暮らしの中でも上手に植物の力を借りる方法を伝えたいとも思っているんです。はっきり病気というわけではないけれど、ちょっと変だな? って心身に違和感を感じたり、不安感が強くなったりすることって、誰にでもあるものです。そういうときに、庭や野山の身近な植物を使って、自分で自分をケアできたら、右往左往しなくて済みますよね。予期せぬ事態というのは、どんな時代にも誰の人生にも起きると思いますが、そういうときにただ動揺するだけでなく、どうしたらいいかという術(すべ)を知っていたら心強いですよね。そういうことをこの庭を通して、若い人たちに楽しく伝えていければなと思っています」
協力
鈴木さちよ
鈴木ハーブ研究所代表。茨城県生まれ。幼い頃から植物に触れて育つ。20代でハーブの有用性に関心を持ち、自身で栽培しながらアロマテラピーやメディカルハーブについて学び、日本メディカルハーブ協会ハーバルセラピスト、ナード・アロマテラピー協会アロマ・アドバイザーの資格を取得。海外の自生地を訪れたり、現地のハーブのあるライフスタイルを体験し、現在はそれらの知識を自社のスキンケアコスメの製品作りにも活かす。500種以上のハーブが香る庭の手入れも行っている。
Credit
取材&文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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