ルネサンス期の王侯貴族の間で注目を集め、競ってつくられた「オランジェリー」というものをご存じですか? 当時流行していた東方の植物を育てるためにつくられたもの、というのがヒントです。ルネサンス期の庭園に欠かせない存在として、ヨーロッパ各地に広まっていったといわれる「オランジェリー」についてご紹介します。

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ルネサンス期のガーデンに流行したオランジェリーとは

オランジェリー、という言葉を聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか? おそらく、多くの人がフランス・パリにある美術館「オランジュリー美術館(Musée de l’Orangerie)」を連想するのではないでしょうか。オランジュリー美術館は、クロード・モネの名画『睡蓮』の連作を所蔵していることで名高い、世界的な美術館です。ほかにも、パブロ・ピカソやオーギュスト・ルノワールなどの有名な作品を収めています。

モネの『睡蓮』を収めるために整備されたオランジュリー美術館。

さて、この美術館のオランジュリーという名前は、実はオランジェリーのフランス語読み。それもそのはず、オランジュリー美術館は、テュイルリー宮殿にあった古いオランジェリーを整備して生まれた美術館なのです。

このオランジェリーとは、ルネサンス期の庭園で、オレンジを冬越しさせるために生まれた施設のことです。当時、オレンジはすでに原産地のインドや中国から持ち込まれていましたが、アルプス山脈の北の地方では冬の寒さのために栽培はできず、贅沢な東方の植物として珍重されていました。この貴重なオレンジやシトロンなどの樹木を、寒い冬の間管理するために生まれた温室の原型がオランジェリー。最初期のものは16世紀のドイツに始まるといわれ、初めはオレンジの木を囲っただけの簡素なものでしたが、17世紀の終わり頃には固定式のオランジェリーが登場します。

固定式オランジェリーの構造は、南側にガラスをはめ込んだアーチ状の大きな窓を取り、ほかの3面をレンガでつくったものが一般的です。その中に、移動できるよう鉢や木箱に植え込んだオレンジを置き、火を焚いて内部を暖めていました。

雪の中にたたずむ、スウェーデン・ヘスレホルムのHovdala城のオランジェリー。

このオランジェリー、もちろん本来の温室としても使われたのですが、オレンジの樹木もオランジェリーも貴族や領主の所有する贅沢品であり、オランジェリーは宮殿や大邸宅を構成する一部でした。そのため、次第に社交の場としても発展していきます。オランジェリーが最盛期を迎える18世紀頃には、大きなテーブルや椅子が据えつけられ、果樹が発する爽やかな香りを楽しむ居室やパーティーの会場、音楽の演奏会場としても利用されたそうです。オランジェリーで栽培されるオレンジなどの南方の植物は、社交の場を飾るエキゾチックな装飾演出としても重要だったのです。

ドイツ・ダルムシュタットのオランジェリー。
ドイツのヴィルヘルムスヘーエ城にあるオランジェリー。

その後、産業革命や植民地の拡大など、さまざまな理由と背景により現代的な温室が発展し、オランジェリーの需要は少なくなっていきました。しかしながら、現在でも冬の晴れた日に、陽光を取り込んで暖かなオランジェリーで過ごすひとときは、とても心地よいもの。ゆったりとティータイムを楽しめば、ヨーロッパ貴族の生活の一端を味わえることでしょう。

Credit

文/3and garden

ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

参考文献/「英国の温室の歴史と椰子のイメージ」新妻昭夫(恵泉女学園大学園芸文化研究所報告「園芸文化」第1号)

Photo/ 1,4)Pinkyone/ 2)Stefan Ataman, Alex Ionas/ 3)KorArkaR/ 5)Antony McAulay 6)LaMiaFotografia/ 7)mije_shots/ Shutterstock.com

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