2024年の五輪開催を目前に、パリでは、セーヌ川を挟んだトロカデロ広場とエッフェル塔、そしてシャン・ド・マルスに続く「グランドサイト」と呼ばれるエリアの再整備が進んでいます。95%を既存施設と仮設施設を利用して行う、オリンピック史上最もサスティナブルな大会を目指すパリ五輪に合わせ、祭典の中心となるセーヌ川に沿った各所の環境整備が急ピッチで進むなか、特に注目したいのが、全体では54haのパリの最も大きな公園が新たに生まれることになる大型緑化計画「OnE(ワン)」。フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがレポートします。
パリのランドマーク、エッフェル塔

「グランドサイト」の中心にあるエッフェル塔が建てられたのは、今から約130年以上前のこと。「鉄の貴婦人」と呼ばれ、世界から親しまれるエッフェル塔を擁するこのエリアは、19世紀末から20世紀の初頭にかけては幾度も世界万博の会場となりました。さまざまな異国の文化や最新技術が展示され、世界へ向けて流行を発信した歴史的な場所でもあります。

しかし、その後の周囲の景観整備は一貫性を欠いており、エリア全体の持つ歴史的景観としての価値が見えにくくなってしまっていました。エッフェル塔は年間700万人以上が訪れる世界的な観光名所ですが、その周辺を訪れる観光客の数だけでも、多い時期で一日14万人と、エッフェル塔とその近隣はまさにパリの観光の中心地と言えます。プロジェクト「OnE」では、その歴史的景観としての価値が伝わるように空間を再整備するとともに、さらなる都市緑化を進めることで、世界からの来訪者にとっても、地域住民にとっても快適な、新たなパリの景観が生まれようとしています。
プロジェクト「OnE」

景観設計にあたっては国際コンペが行われ、「グスタフソン・ポーター + ボウマンGustafson Poter + Bowman社」が選出されました。アメリカとイギリスを拠点にする造園家キャスリン・グスタフソン(1951~)は、ロンドンのケンジントン公園の中にあるダイアナ・メモリアル・ファウンテンなどを初め、数々のランドスケープデザイン作品で知られています。2014年には日本でも大林賞を受賞しているので、名前に聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。

シンプルでスタイリッシュな外観とともに、その土地の過去を未来に繋げるような空間づくりを行うプロジェクトで定評のあるグスタフソンと異業種混成のチームが提案するこのプロジェクトは、タイトル「OnE」からも察せられるように、あらゆる面からの調和的・統一的な空間づくりを目指すことが中心にあります。
その調和の空間を支える3つの柱は、
1)歴史的側面の尊重
2)整備に際してのサスティナビリティ、生物多様性等の環境配慮
3)地域住民も観光客も、人々が快適に過ごせる場所づくり
とのこと。東京ドーム11個分を超えるスケールでの、シームレスな緑化空間の創造は、まさに新しいパリの景観の誕生です。
パリの最も大きい公園が新たに誕生

では、このプロジェクトによってどんなところが変わるのか、一緒に見ていきましょう。
まずはエッフェル塔を眺望する右岸のトロカデロ広場です。現在は交通量の非常に多いロータリーの中心が、段状の緑の庭園に変わり、一部が歩行者専用エリアとなるとともに、その下のヴァルソビ広場からイエナ橋も緑化・歩行者エリアとなります(自転車や緊急車両は通行可)。

これまではエッフェル塔への眺望はあるものの、車の通行に遮られ、空間としては断続的だったエリアに緑の中心軸が生まれ、セーヌ川にまたがる大きな公園が誕生します。ヴァルソビ広場の既存の噴水の周りは、さらに緑化されるとともに、景観の一部を構成しつつ腰掛けとしても使えるような段状のベンチが設られます。
トロカデロ広場とエッフェル塔をつなぐセーヌ川のイエナ橋は、現在もマリアージュの記念フォトスポットとして人気の場所。ここにもコンテナを用いた植栽で緑の空間が続き、エッフェル塔最寄りのビラケム駅があるブランリー河岸に至ります。これはさらにフォトジェニックな場所になりそうな予感。

そしてブランリー河岸も、安全性、快適性を担保する歩行者道路と自動車道路を隔てる樹木や生垣、花々の植栽がなされた緑の空間へと変身します。観光客向けの案内所などの施設が設けられ、また、続くエッフェル塔直下の広場はすっきりと、トロカデロ広場からシャン・ド・マルスへと抜ける中心軸がしっかりと見渡せる空間に整理整頓され、さまざまなサービス施設や土産物店などが、統一された空間の中に再配置されます。

さらに、シャン・ド・マルスへと続く公園となる空間は、中心にベンチとしても使える石材で形作られた広い芝生のコーナー、周りは生物多様性を豊かにするのに役立つような樹種を選定した植林による、豊かな緑の空間となる予定。観光客の一休みにも、地域住民の散歩やランニングにもどちらにも対応した、非日常と日常が上手に混じり合う、リラックス空間となる様子。
歴史都市パリの景観が大きく変わる、かつてない大規模な緑化計画が描くのは、多くの人の流れを妨げず、それでいて人々にとって快適な、広々とすっきりとした緑の空間という挑戦です。五輪開催までにすべてのエリアの工事が完成するのは難しいようですが、セーヌ川を挟んだトロカデロ広場とエッフェル塔近辺が一体となる公園の緑化空間がはっきりと体感できるほどにはなる様子です。

これまでも積極的に緑化政策が進められているパリの街。緑化政策とともに重要な未来の街づくりの鍵となる「ソフトモビリティ(徒歩や自転車など、自動車以外の交通手段)」のためのインフラ整備、その両方を兼ね備えた新たなパリの顔として構想されるが、緑の公園空間というのは嬉しい限りで、とても楽しみです。
【Information】
◉グスタフソン・ポーター + ボウマンGustafson Poter + Bowman
◉プロジェクトの3D映像
Credit

写真・文/遠藤浩子
フランス在住、庭園文化研究家。
東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
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