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英国王室に受け継がれる「ロイヤルマートル」と森の治療薬レモンマートル活用法

英国王室に受け継がれる「ロイヤルマートル」と森の治療薬レモンマートル活用法

2022年9月8日に崩御されたエリザベスⅡ世の葬儀の際、棺に飾られた植物についてはニュースでも報じられましたが、その中で改めて注目されたのが、マートルです。マートルとはどんな植物か、また、なぜマートルが添えられたのか、そして、レモンマートルの効用を生かした暮らしでの使い方などを、バラ文化と育成方法研究家で「日本ローズライフコーディネーター協会」の代表を務める元木はるみさんに教えていただきます。

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イギリス王室で育てられている植物たち

エリザベス女王葬儀
Benjamin McMillan/Shutterstock.com

今年、2022年9月8日に御年96歳で崩御されたエリザベスⅡ世女王陛下、そのご葬儀(国葬)の際、棺に飾られた植物について、花好きの方々の間でも注目されました。ニュースでも報じられていた通り、これらの植物は、バッキンガム宮殿、クラレンスハウス、ハイグローヴハウスの庭園から摘まれたものが使われたそうです。

エリザベス女王葬儀
Kelly Chow/Shutterstock.com

ダークレッドのダリア、スカビオサ、アジサイ、3~4品種のバラ、イングリッシュオークの葉、ローズマリー、ギンバイカ(マートル)の枝などが、テレビの中継画面からも見て取れました。中でも中央の頂点にあしらわれていたギンバイカ(マートル)は、じつはイギリス王室にとって、とても大切な植物だったのです。

縁起物の植物「ギンバイカ(マートル)」

ギンバイカ
Gherzak/Shutterstock.com

学名/Myrtus communis
和名/ギンバイカ(銀梅花)  別名/マートル、ミルタス、イワイノキ
科名・属名/フトモモ科ギンバイカ属
原産地/主に地中海沿岸 常緑低木

日当たりのよい、温暖な場所を好む常緑低木。花が終わった頃、すぐに剪定すれば翌年の花を楽しむことができます。

和名の「銀梅花(ぎんばいか)」は、5~7月に咲く5弁の白い花が、梅に似ていることから付けられました。美しい糸のような細いオシベが特徴です。

マートル
S.Zykov/Shutterstock.com

古くは、古代エジプトで繁栄・豊穣の象徴とされ、愛と美の女神ヴィーナスに捧げるご神木とされました。キリスト教では、聖ヨハネが葉からオイルを作り、イエスの洗礼に使用したともいわれています。

ハーブとしては「マートル」と呼ばれ、花や葉にユーカリに似た香りがあります。料理の香り付けや結婚式の飾りに使ったり、お酒に浸けて香りを移したものを「祝い酒」として利用したことから「イワイノキ」(祝いの木)の別名があります。

ギンバイカ
Ivan Semenovych/Shutterstock.com

「繁栄」「豊穣」「平和」「美」「愛」「結婚」「純潔」「忠誠」「貞節」「幸運」などの象徴とされ、誕生から結婚式、葬儀まで幅広く利用される縁起物の植物です。

レモンマートル
レモンマートル KarenHBlack/Shutterstock.com

葉に斑が入る斑入り銀梅花(バリエガータ)もあり、花のない時期でも観賞価値があります。

また、シナモンの香りのシナモンマートル、レモンの香りのレモンマートルは、オーストラリア原産のフトモモ科バクホウシア属の常緑低木です。

イギリス王室に受け継がれるマートル

常緑樹のマートルが、なぜ王室で育てられ、どのように使われてきたのか、エピソードをご紹介します。

ヴィクトリア女王と「ロイヤルマートル」

女王
Abel Brata Susilo/Shutterstock.com

18歳の若さで女王となったヴィクトリア女王(1819年5月24日 – 1901年1月22日、在位:1837年6月20日 – 1901年1月22日)は、1840年、21歳の時に、アルバート王子(ザクセン=コーブルク=ゴータ公子)と結婚しました。

ヴィクトリア女王は、アルバート公の祖母から贈られたブーケの中に入っていたマートルを挿し木し、ワイト島にある別邸「オズボーンハウス」の庭園に植えたとのことです。

ロイヤルマートル
CoolJosh/Shutterstock.com

その木は今も健在で、国の繁栄に貢献し、幸せな家庭を築いたヴィクトリア女王とアルバート公を称え、繁栄と幸せな結婚の象徴として「ロイヤルマートル」と呼ばれています。以来、英国王室の花嫁のウェディングブーケには、この「ロイヤルマートル」の小枝を入れることが習わしとなっているそうです。

エリザベスⅡ世女王、キャサリン妃はじめロイヤルウェディングブーケには、その「ロイヤルマートル」が入れられました。

葬儀の棺に添えられたマートルの小枝

エリザベス女王葬儀
Turgut Cetinkaya/Shutterstock.com

再び、エリザベスⅡ世女王のご葬儀の話に戻りますが、棺に添えられた花々の中のマートルの枝は、1947年のエリザベスⅡ世女王とフィリップ殿下の結婚式のウェディングブーケに使われた枝を挿し木して育てられたものと伝えられています。

つまり、ヴィクトリア女王が夫アルバート公の祖母から贈られたマートルの小枝を挿し木して育て、その成長したマートルの小枝を、エリザベスⅡ世女王がご自身の結婚式のブーケに使用。そのブーケのマートルが再び挿し木で育てられ、今回のご葬儀に使用されたという訳です。

このことからも、イギリス王室にとって受け継がれる「ロイヤルマートル」は、大切で特別な植物だということが分かります。

「森の治療薬」といわれるレモンマートル活用法

レモンマートル

レモンマートル(科名・属名/フトモモ科バクホウシア属)の葉には、香りの成分であるシトラールがレモンの約20倍も含まれており、含有率は世界一とされています。

シトラールには、抗菌・抗ウイルス・鎮痛・鎮静作用があり、免疫力の低下が原因で引き起こされる病気を予防する効果があるとされています。また、そのレモンのような香りをかぐことで、リラックス効果、癒やし効能があり、心と体の両方に効果が期待できるハーブです。

オーストラリアの先住民アボリジニは、古くからこのレモンマートルを「森の治療薬」と呼び、薬草として活用してきました。

お茶として楽しむ

レモンマートルのお茶

耐熱性のポットに、8~10枚ほどの水洗いした葉を入れ、熱湯を注ぎ、5分間蓋をしてよく蒸らします。お茶の味が濃くなったら、また熱湯を注いで繰り返しいただくことができます(*但し、子宮収縮作用促進効果もあるといわれているので、妊婦さんの服用はご注意ください)。

レモンマートルのお茶

また、香りのよいバラの花弁とブレンドしていただくのも美味しく、おすすめです。

ローズ・ポンパドゥール

ブレンドしたバラの花弁は‘ローズ・ポンパドール’で、甘く爽やかなフルーティー香が強く香ります。レモンマートルをドライにして保存する際は、写真のようにレモンマートルの葉を小さくカットしておくと、抽出しやすく美味しくいただけます。

飾って楽しむ

レモンマートルのブーケ

香りのブーケ(タッジー・マッジー)を作って室内に飾ります。逆さにして飾りながらドライにすれば、室内で長く香りを楽しめます。

*タッジー・マッジーは、ヨーロッパの中世の時代、抗菌作用などの効能のある香草を小さく束ねて、伝染病予防や魔除けとして持ち歩いたのが由来といわれています。

プレゼントとして贈る

レモンマートルのブーケ

レモンマートルの花言葉は、ギンバイカ(マートル)と同様に、「愛」や「幸運」ですので、プレゼントにも最適です。

ブーケ材料/レモンマートル、ローズマリー、ラベンダー、カルーナ、バラ(‘ヴィウーローズ’ ’アンナ・ユング’ ‘ローズ・ポンパドール’)

レモンマートルのリース
マートルに実った果実ごとリースにしても絵になります。Katinkah/Shutterstock.com

エリザベスⅡ世女王のご葬儀を通して、「マートル」という植物へのイギリス王室の想いを強く感じ取り、知ることができました。そして、私も庭で育てているマートルには、さまざまな効能が期待できることも再認識しました。マートルは、今までもこれからも庭木としての役目を担いながら、付加価値をさらに広げ、人々の生活の中で存在感を増していくのではないでしょうか。

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