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フランク・レイス・スキナー~寒冷地向けバラの育種家【花の女王バラを紐解く】

フランク・レイス・スキナー~寒冷地向けバラの育種家【花の女王バラを紐解く】

花の女王と称され、世界中で愛されているバラ。数多くの魅力的な品種には、それぞれ誕生秘話や語り継がれてきた逸話、神話など、多くの物語があります。数々の文献に触れてきたローズアドバイザーの田中敏夫さんが、バラの魅力を深掘りするこの連載で今回取り上げるのは、多くの園芸品種を生み出したフランク・レイス・スキナー博士。ハニーサックルやクラブアップルなどと共に、寒冷地向けバラの育種にも取り組み、美しく丈夫な品種を作出したスキナー博士の生涯と、彼が世に送り出したバラの数々をご紹介します。

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寒冷地でも育つバラの作出

寒冷な気候のもとでも元気に育つバラの育種を目指したカナダの女性育種家、フェリシタス・スヴェジダさんのことは、以前ご紹介しました。

今回は、スヴェジダさんに先駆けて、カナダで寒冷地向けバラの育種に取り組んだ、フランク・レイス・スキナー博士(Dr. Frank Leith Skinner)をご紹介したいと思います。

晩年のフランク・レイス・スキナー博士
晩年のフランク・レイス・スキナー博士。Photo/ Saskatchewan Perennial Society [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]

フランク・レイス・スキナー博士の生涯

フランク・レイス・スキナー(Frank Leith Skinner)は1882年、スコットランド東部の小さな港町、ローズハーティに生まれました。町には学校がなかったのでしょうか、近くの町、アバディーンの学校へ通学していましたが、1895年、魚加工業を営んでいた父が事業に失敗したことがきっかけとなって、一家は故郷での暮らしに見切りをつけ、カナダへ移住しました。

一家はカナダ中央部、マニトバ州、ドロップモアに居を定め、牛を飼い、小麦を育てて徐々に生活の基盤を固めていきました。しかし、スキナー自身は肺炎など肺疾患に苦しみ、農作業などの重労働につくことができませんでした。

彼は、牛追いをしながら美しいカナダの草原を眺めたり、自宅周辺で園芸に携わったりと静かな時間を過ごすことが多かったようです。こうして“美的”感覚を培ったことが、後年、彼が数々の園芸植物を作り出す礎となったようです。スキナーは、ハニーサックル、クラブアップル、梨、ライラック、クレマチスやバラなど、多くの園芸植物に名を残した育種家として名声を得ることとなりました。

長く独身でしたが、65歳のとき、看護師をしていた31歳のヘレン・グミングと結婚し、5人の子どもを得ました。そして1967年、住み慣れたドロップモアで死去。享年84歳でした。

スキナー博士の育種した品種

スキナーはドロップモアに栽培農場を経営し、250種に及ぶ樹木、35種のバラを育種しました。

バラ以外の園芸植物について、今日でも広く植栽されている品種をいくつかあげておきましょう。

ハニーサックル‘ドロップモア・スカーレット(Dropmore Scarlet)’

ハニーサックル
Edita Medeina/Shutterstock.com

クラブアップル ‘ルドルフ(Rudolph)’

クラブアップル
Kamyshnikova Viktoria/Shutterstock.com

本拠地にちなんだ梨’ドロップモア(Dropmore)’

北米先住民のフォークロアにちなんだ、ライラック’ハイアワサ(Hiawatha)’

ミュージカルのヒロインに捧げたと思われるマクロペタラ系のクレマチス’ロージー・オグラディ(Rosy O’Grady)’

などです。

これらの園芸種に加え、バラの育種の試みも早くから始めていました。

彼の目指したものは、カナダのような寒冷気候のもとでも丈夫に育つ品種を作ることでした。そのため、次にあげたような冷涼地域でも育つ原種を交配に用いました。

  • ハマナス(Rosa rugosa):ミディアム・ピンク、白など。日本では関東以北などに自生。
  • ロサ・スピノシシマ(Rosa spinnosissima):白花、小さな葉、トゲが密生する黒肌の茎、スコッチ・ローズ、ピンピネリフォリアとも。スコットランドに多く見られる。
  • ロサ・ラクサ(Rosa laxa):淡いピンク、中央アジア産。ヨーロッパでは園芸種の台木として、今日でも広く利用されている。
  • ロサ・アルベルティ(Rosa alberti):白または淡いピンク、中央アジア産。
  • ロサ・コレアナ(Rosa koreana):白、またはピンク。スピノシシマに近い。
  • ロサ・ペルシカ(Rosa persica):濃色のオレンジ、黄色などの花弁、花心にこげ茶のブロッチが入る。

スキナーが育種したバラは今日、実株を見ることが難しくなりつつありますが、現在でも流通している品種のいくつかをご紹介しましょう。

スキナーズ・レッドリーフ・パーペチュアル(Skinner’s Red Leaf Perpetual)

淡いピンクのシングル咲き、原種ロサ・グラウカの系統と思われるグレーパープリッシュな葉色が特徴とのことです。名前の通り、秋の紅葉が美しく、また、返り咲きする性質も備えているとのこと。スキナーのドロップモアの農場で発見された、いわゆるファンド(再発見)ローズです。

ベティ・ブラント(Betty Bland)-1925年

バラ ベティ・ブラント
Photo/ Lauri Simonen [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]
北米原産の原種ロサ・ブランダ(R. blanda)を種親、いずれかの園芸種(品名不明)との交配により生じたとのことです。

スキナー自身はロサ・ブランダとHPの‘キャプテン・ヘイワード(Captain Hayward)’を用いたと記録していたようですが、種は2倍体、花粉は4倍体、交配の結果は3倍体となるはずのところ、実際には2倍体ですので、間違いであることが明確になりました。高さ2mに達するシュラブとなります。

ジョージ・ウィル(George Will)- 1939年

ジョージ・ウィル
Photo/ Erling Østergaard [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]
樹高120〜150cmの中型のシュラブとなります。

スキナーは、ハマナスと日本にも自生しているオオタカネバラ(R. acicularis)との交配により生じた無名の実生種と、品名不明の園芸バラとの交配によると解説しているようですが、これにも異説があって、種親はハマナスとロサ・ウッドシー(R. woodsii)の交配によるのではないかというものです。

どうも、これも異説のほうが正しいと見られているようですので、スキナーは交配親の記録にはあまり神経を使わなかったのかもしれません。

ワサガミング(Wasagaming) -1939年

ワサガミング(Wasagaming)
Photo/ Erling Østergaard [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]
淡い色合いの大輪花を咲かせる、大型のシュラブとなります。

種親は‘ジョージ・ウィル’と同じ、ハマナスとオオタカネバラとの交配による実生種。

花粉親にはゲシュヴィント作出の‘グルス・アン・テプリツ(Gruss an Teplitz)’が使用されたと記録されていますが、種親への疑問は、この品種にもつきまとっているようです。

ワサガミングは、カナダ・マニトバ州北部に位置するライディング・マウンテン国立公園内にあるリゾート地です。

スザンヌ(Suzanne)-1950年

スザンヌ(Suzanne)
Photo/Anita Böhm-Krutzinna [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]
カップ型、ライト・ピンクの中輪花を咲かせます。

種親にロサ・ラクサといずれかの園芸種との交配種(無名)、花粉親にロサ・スピノシシマが使用されたとのこと。

ウィル・アルダーマン(Will Alderman)-1954年

ウィル・アルダーマン(Will Alderman)
Photo/ Olga Fall [CC BY-NC-SA 3.0 via Rose-Biblio]
大輪、カップ咲きのハマナス交配種です。

比較的小さめな立性のブッシュになるようです。

種親にはハマナスとオオタカネバラの交配により生じた無名種、花粉親にはいずれかの園芸種が用いられたと記録されていますが、‘ベティ・ブラント’や‘ジョージ・ウィル’の際にあげた疑問の通り、無名種の種親は、ハマナスとロサ・ウッドシーの交配によるものではないかと考えられています。

モスマン(Mossman)-1954年

モスマン
Photo/今井秀治

ライト・ピンクの大輪花を咲かせるモスローズです。

種親は同年に公表された‘ウィル・アルダーマン’と同じ、ハマナスとオオタカネバラの交配により生じた無名種、花粉親にモスローズ(詳細不明)が用いられたようです。

ユニークな品種名が、地名、人物名、あるいは単にモスが密生することからなのか、どんな由来で命名されたのかはよく分かっていません。

この美しいライト・ピンクのバラは国内で入手可能です。

イザベラ・スキナー(Isabella Skinner)-1964年

ライト・ピンクの大輪花を咲かせるクライマーです。

種親はロサ・ラクサとティーローズの交配により生じた無名種、花粉親にはフロリバンダ(詳細不明)が用いられたとのことです。

香りが強いこと、よく返り咲きすること、しかも優れた耐寒性を備えていること、そして、それらに加え、トゲがほとんどない扱いやすさも人気の理由かもしれません。スキナーが育種したバラでもっとも出回っているものでしょう。

じつは、大変興味深い記事を見つけました。

オランダのナーサリーである、F. J. グルーテンドーストが自身の名を冠して1918年に公表したハマナス系のバラ‘F. J. グルーテンドースト’は、現在、オランダのデュ・ゴイ(De Goey)という人物が育種したとするのが一般的な理解です。記事ではそれに異を唱えています。

「スキナーは、原種ハマナスとディープ・ピンクのポリアンサ‘マダム・ノルベール・ラヴァヴァスー(Mme. Norbert Lavavaseur)’を交配した珍しい花形となる品種を2箱に分けて発送したことがあるが、1箱は紛失してしまっていた。ところが、15年後になって、オランダから当の品種が‘F.J.グルーテンドースト’として市場へ提供された。カーネーションのように花弁縁に強い刻みが生じるこのすぐれた品種について、スキナーが育種したという言及は公式にはなされていないようだ…」

‘F. J. グルーテンドースト’
‘F. J. グルーテンドースト’ Photo/田中敏夫

育種者デュ・ゴイという人物は、この‘F. J. グルーテンドースト’の育種者としてのみ記録されているだけで、それ以上の詳細はよく分かっていません。スキナー自身の主張とともに、もっと確かめる必要があるように思います。

Credit

田中敏夫

写真・文/田中敏夫
グリーン・ショップ・音ノ葉、ローズ・アドバイザー。
28年間の企業勤務を経て、50歳でバラを主体とした庭づくりに役立ちたいという思いから2001年、バラ苗通販ショップ「グリーンバレー」を創業し、9年間の運営。2010年春より、「グリーン・ショップ・音ノ葉」のローズ・アドバイザーとなり、バラ苗管理を行いながら、バラの楽しみ方や手入れ法、トラブル対策などを店頭でアドバイスする。

写真/今井秀治

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