ほんものの植物を使った唯一無二のアクセサリー「Hakumokuren(ハクモクレン)」 【植物にまつわる素敵な仕事】
植物にまつわる、ものづくりの物語。日本には、植物の力を生かして、真摯に製品を生み出している人や企業が多くあります。今回お話を伺ったのは、ボタニカルブランド「Hakumokuren(ハクモクレン)」を主宰するmiwaさん。フラワーアレンジメントやアロマサシェをはじめ、miwaさんが一つひとつ丁寧に制作するハンドメイドのアクセサリーが話題です。人気の秘訣は、すべての作品に「ほんものの植物」が使われていること! ブランド誕生のきっかけや故郷とのつながりなど、作品にかける思いを伺いました。
目次
緑に囲まれた子ども時代を経て、ジュエリーの仕事へ
私の故郷は、島根県雲南市です。山や川に囲まれた緑豊かなところで育ちました。祖父母は農家を営み、とくに祖母は花が好きで、たくさんの草花をタネから育てていました。私は小さな頃から野山を駆け回って遊び、いつも植物に囲まれて暮らしていたんです。
しかし、若い頃って田舎は退屈に感じて「無いもの」に憧れるんですよね。私もご多分に漏れず、華やかな都会と美しいものに憧れて、大阪のジュエリー会社に就職しました。
店舗での販売業務からスタートして、貴金属の素材や扱い方などの基礎を学びながら、名古屋、東京への転勤も経験。お客様からお話を伺って、好みに合うものを提案し、喜んでいただける仕事は楽しく、やりがいもありました。とくに婚約指輪など「一生に一度」のお買い物に立ち会う経験や、クオリティの高い宝石類を数多く見ることができたのは、現在のアクセサリーづくりにも、大きな糧になっていると感じます。
植物のない暮らしに違和感を覚えて、転職を決意
忙しい毎日を送っていましたが、その頃「何かが足りない」と、いつも感じていました。何が足りないのか? 何を無くしたのか? いろいろ考えて、それが「植物」だと気づいたんです。子ども時代、草花は空気や水のように「あるのが当たり前」の存在でした。でも、それがなくなって初めて、自分にとって植物が「無くてはならないもの」だったことに気づかされました。私は、植物から豊かさや癒やしをもらっていたんだと。それに気づいて、植物のない生活に違和感を覚えるようになりました。
それで、生け花やフラワーアレンジメントを習うなど、植物を趣味や暮らしに取り入れる工夫を始めたんですが、それだけでは飽き足らない。そこでフラワースクールで知識を身につけ、植物関係の仕事に転職しました。
選んだのは、観葉植物ショップです。その店は、ただ鉢植えを売るのではなく、お客様が気に入ったグリーンと鉢を選び、その場で植え替えしてお渡しする、というスタイルでした。この仕事では、さまざまなコーディネートを見て「透明感のあるガラスの鉢にはすっきりしたヤシ系」とか「デコラティブな鉢には塊根植物」など、色や素材の合わせ方を学びました。
この頃、とある造園会社さんからも不定期でお仕事をいただいていました。現場に出向き、花壇や寄せ植えをつくる作業、庭やオフィスグリーンのメンテナンスを経験し、植物を身近に感じながら、さらに知識や経験を積むことができました。
ショップや造園の現場で、日々植物の世話をして実感したのですが、植物は日当たりが好きなものや強い日射しは苦手なもの、水も多いほうがよかったり乾燥気味がよかったりと、種類によって環境はさまざまです。居心地のよい場所なら順調にすくすく育ちますが、どんな環境でもOK! という植物はありません。人間もきっと同じで、誰にでも「自分に合う場所」「自分らしく輝ける場所」が必ずあると思えるようになったのも、植物に関わる仕事を通して学んだことの一つです。
植物収集の趣味から、友人のひと言で一念発起
植物を使ったアクセサリーを作り始めたのは、友人のひと言がきっかけでした。私は当時、趣味で個性的な葉っぱやタネをコレクションしていたのですが、年月を重ねると色褪せ、形が崩れていってしまいます。これを少しでも美しくキープするにはどうしたらいいかと考え、樹脂で固めて保存していました。それを見た友人が「アクセサリーにしてみたら?」と言ったのです。それで、ネックレスやブローチにしてみようと、試行錯誤を始めました。
ブランドのコンセプトとして掲げたテーマは「植物の美術館」。それぞれの植物が持っている自然の美しさを引き出すことを心がけました。たとえば、これは「タビビトノキ(旅人の木)」のタネ。葉が巨大な扇状に広がる不思議な南国の木ですが、タネも独特です。人工的に着色したのではなく、もとから鮮やかなコバルトブルーなんです。このふわふわした青い皮の中に黒いタネが入っています。この「青」の美しさを伝えたくて、樹脂で閉じ込め、真鍮と天然石を額縁のように配置しました。印象派みたいな青だと感じたので、美術館の白い壁に掛けられた絵画のようなデザインを考えたんです。
このアクセサリーたちから、クロード・モネの「睡蓮」のような、光のきらめきを感じてもらえるとうれしいですね。
こんなふうに、デザインは素材となる植物をじっくり見て、そこからインスピレーションを得ることが多いです。葉や実や花びらなど、素材によって出来上がりの形状を変え、ボール状の樹脂に閉じ込めたり、大きめの葉などは形を活かして表面を塗り固めたりします。
樹脂は気泡が入りやすいのですが、それがあると植物の形状が見えにくくなるので、気泡は全部ハリなどで潰して無くします。これが意外と大変な作業。また、表面に樹脂を塗り重ねるときも、漆のようにごく薄く、何度も何度も繰り返します。りんご飴みたいに、ドボンと樹脂液につけて完成!となればラクなんですが(笑)、そう簡単ではありません。細かい作業が続くので、肩と首がいつもパンパンに凝っていて……ハンドメイド仲間とは「いいマッサージ屋さん知らない?」と、マメに情報交換しています(笑)。
気高く優美に咲く、大好きな花をブランド名に
「Hakumokuren(ハクモクレン)」というブランド名は、私の大好きな花からもらいました。優美で気品のある花ですが、一般のモクレンよりも大きく育つ樹木で、高さが10mを超えるものもあります。高い枝先に咲くので、ハクモクレンの花は近くでまじまじと見ることは難しいんです。けれど、その特別感が素敵。そして、花が終わるとアッサリ落ちるところにも、潔い魅力を感じます。ハクモクレンの花のように、これからも静かな存在感を放つ作品を生み出していきたいですね。
美しくキラキラしたものに憧れてジュエリー会社に、そして大好きな植物の仕事を経てアクセサリー制作へ。気づけば「好きなこと」ばかり仕事にしてきました。子どもの頃から、興味あることにしか集中できない性格で、勉強は苦手だけれど、美術と家庭科だけは得意でした。そんな子どもがそのまま大きくなった感じです(笑)。
とはいえ、「合わなかったら、失敗したらどうしよう」という不安は常にあったし、こだわりを持ち続けるのは、勇気と努力がいりました。でも、1歩踏み出してみて、ダメだったら引き返せばいい、別の道を探せばいい、と言い聞かせながら少しずつ進んできたように思います。それに、踏み出してしまうと前に進まざるを得なくなり、やらなきゃいけない状況をつくると、不思議と何とかなったりするんです。仕入れ、制作、販売まで全部自分ひとりでやらなくてはならず、大変なこともいっぱいありますが「好きなことだから」「お客様に楽しい気持ちになってもらいたい」という思いが、前に進む力になっています。
そして、これからも「やりたいこと」はいっぱいです。一つは素材づくり。現在、アクセサリーの素材はドライフラワーの専門店などから仕入れることが多いのですが、将来は、生の植物を集めて素材づくりから関わっていきたいと考えています。また、植物に囲まれて暮らしていた「島根」が私の原点なので、島根県特産の植物を使うなど、ものづくりで故郷の魅力を発信する、というのも大きな夢です。まだまだ新しい挑戦を続けていきたいですね。
Hakumokurenの作品は、オンラインショップのほか、全国各地のポップアップイベントなどにも出展しています。miwaさんが一つ一つ手づくりしたアクセサリーは、ほんものの植物がもつ自然な美しさが備わり、ずっと大切にしたくなる愛おしさを感じます。あなたもぜひ、お気に入りを見つけてみませんか?
Hakumokurenジュエリー販売ページはこちら(ガーデンストーリーWebショップ)
Information
Profile/miwa(みわ)
ボタニカルブランド「hakumokuren(ハクモクレン)」主宰。ジュエリー会社、観葉植物ショップ、造園業などを経て独立。アクセサリーをはじめ、フラワーアレンジメント、サシェなどのデザイン、製作を手がける。ITFA公認フラワーアレンジメントベーシック取得。
Credit
取材・文/新 明子
出版社勤務を経て、編集&ライターとして独立。女性誌編集部に5年在籍した経験を生かして、ライフスタイル一般、美容、人物インタビュー記事などを担当。その後、縁あって園芸専門誌の編集部に3年在籍。園芸にまつわる喜怒哀楽を味わい、植物の魅力に目覚める。自宅のベランダでは、レモン、ユーカリ、ジューンベリー、ハーブなどを栽培。新苗から育てたバラ‘ノヴァーリス’を溺愛中。
写真/3and garden
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