神奈川・横浜で30坪(約99㎡)の庭を持ち、15年庭づくりをしてきた前田満見さんが、2016年に友人と2人で初めてイギリスを訪ねました。テーマは、憧れのイングリッシュガーデンを巡る旅。湖水地方からコッツウォルズ、ロンドンで訪れた数々のガーデンは、想像と期待を遥かに越えた美しさと、言葉では言い尽くせないほどの感動を与えてくれました。

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これまで、感動を与えてくれたイングリッシュガーデンを5カ所ご紹介してきましたが、途中で立ち寄った場所も、忘れられない旅の思い出です。その中で、特に印象に残った場所を3カ所ご紹介したいと思います。

BARNSLEY HOUSE GARDEN

コッツウォルズ滞在中に訪れたバーンズリーハウスガーデンは、チャールズ皇太子の庭をデザインしたガーデンデザイナー、故ローズマリー・ヴェレーさんの自邸です。「英国で最も美しい庭」と称されるほど有名ですが、現在はホテルとなり、宿泊者、又はレストラン利用者だけが見ることができる庭園となっています。

私たちは運よく、ランチの予約がとれたので、ランチタイムまでの約2時間、庭園を散策することができました。この庭園の見どころは、何といっても「キングサリとアリウムのトンネルの小径」。以前、ガーデン雑誌でその写真を見た時から、キングサリ(別名キバナフジ)の透き通るような黄色い花穂とアリウムの薄紫色の花のコンビネーションの美しさに目を奪われ、そのシーンがずっと心に残っていました。

ワクワクしながらその場所に行ってみると、何と、キングサリはバッサリと剪定され、盛りを過ぎたアリウムだけが咲いていました。ちょっと残念でしたが、むき出しになっていた鉄製のアーチから、キングサリの誘引方法や実際のスケール感を体感できただけでも満足でした。

そのほかにも、手入れの行き届いた芝生の合間に植栽された、カノコソウやサルビア、ゲラニウム、カラマツソウなど、ナチュラルで優しい色合いの草花にも親しみを感じました。そして、嬉しいことに、ちらほらと開花したバラも見ることができました。

感激だったのが、満開の‘フェリスバイド’。淡い黄色〜ピンクのグラデーションの小輪の花のなんと美しいこと。蜂蜜色の石壁に映えて、とても華やかでした。そして、楽しみにしていたランチは、マナーハウスのレストランのテラス席でいただきました。

ポタジェで収穫した野菜中心の料理は、フレッシュハーブの香りが効いて風味豊か。最高のイギリス流ホスピタリティーを味わえた、とても贅沢な時間でした。

Daylesford Organic Shop

デイルズフォードは、コッツウォルズ発祥のオーガニックショップ。広大な農地に、牛、鶏、羊などが放し飼いにされ、野菜は農薬や化学肥料を使用せずに栽培されています。

創始者のキャロル・バンフォード夫人は、1970年代、食材を効率的につくるために農薬や化学肥料、更に化学物質が添加された食品が溢れていたことから、「子どもたちに安全で美味しい食材を」と、コッツウォルズで開拓した農地を、オーガニック農法に変えていったそうです。

デイルズフォードは、そんな子どもを想う母の愛情から生まれたのですね。彼女の播いたタネは、今やイギリス屈指のオーガニック農園となり、そこで収穫された食材や加工品を扱うショップが、コッツウォルズとロンドンにあります。2010年には、国外初となる東京・青山に出店しましたが、残念なことに、2015年に閉店しています。

私がデイルズフォードを知ったのは、青山のショップに立ち寄ったことがきっかけでした。1階は、加工品や雑貨が置かれ、2階がカフェ&レストラン。どの品物もお値段は少々高めでしたが、品質の良いおしゃれなパッケージのジャムや調味料、使い勝手のよさそうなトートバッグなどの雑貨がお気に入りでした。残念ながら、2階のカフェはいつも混んでいて利用したことはありませんが、ナチュラルで明るい店内は居心地よく、デイルズフォードのポリシーが随所に感じられました。「きっと、コッツウォルズ本店は、もっともっと素敵なんだろうな」と……。

本店は、辺りに民家さえないコッツウォルズの小さな村の中にありました。ペパーミントグリーンを基調とした三角屋根の店先には、ハーブ苗や野菜が可愛らしくディスプレイされ、その店構えを見ただけで店内の様子がどんなに素敵か想像できました。残念ながら、店内を撮影することはできませんでしたが、袋詰めにされていない採れたての野菜や果物、卵や精肉、チーズやハムなど、あらゆる食材が所狭しと並べられ、そのおしゃれなディスプレイに大興奮! 思わず購買意欲をそそられました。

店の奥のカフェ&レストランは、午前中にもかかわらず、家族連れや男女を問わずたくさんの人で賑わっていました。私たちもここでお茶を飲みたかったけれど、あいにくこの日は、電車でロンドンに向かう途中。時間に余裕がなく店内を見て回るだけで精一杯でした。それにしても、こんな小さな村のデイルズフォードに、これだけたくさんの来客があるなんて、ちょっとびっくり。さすが、オーガニックの先進国イギリスですね。「安全な食」や「オーガニック」に対する意識が、単なる流行ではなく、普通の生活の中に根づいていることを改めて実感しました。私たちも、ぜひ見習いたいものです。

Victoria&Albert Museum

旅の後半に3泊したロンドン。ちょうどエリザベス女王陛下生誕90年の祝賀行事が催されていたようで、2階建てバスの窓から見える街の景色に、その余韻が見てとれました。特に、リージェント・ストリートは、歴史的建造物にユニオンジャックの国旗が掲げられ、壮観のひと言! そんなロンドンの美しい街並みを堪能しながら、ビッグ・ベンや国会議事堂、ロンドン・アイ、ウエストミンスター寺院、ケンジントン宮殿、ハイドパークなどの観光名所を巡り、美術館や博物館も見て回りました。

中でも、特に印象に残っているのがVictoria&Albert Museum。ここは、時代を反映するアートやデザインの歴史が一堂に集結した世界最大の美術館。目もくらむような素晴らしい装飾品や工芸品で溢れていました。それでいて、入館料は無料なのですから、さすがイギリスです。実は、この美術館には、私たちがどうしても行きたかった場所がありました。

それは「モリスルーム」と呼ばれている、あの「モダンデザインの父」ウィリアム・モリスがデザインしたカフェです。ここは、モリスがまだ無名だった時代に、初めてデザインを手がけた公共の場所だとか。モスグリーンを基調とした室内は、モリスらしい植物をモチーフにした壁紙が貼られ、美しいステンドグラスから漏れる柔らかな光のなんと美しいことでしょう。それを見ているだけで心が和み、何時間でも座っていたくなるようなカフェでした。

そして、「モリスルーム」の隣には、もうひとつ「ギャンブルルーム」というレストランがありました。こちらは「モリスルーム」とは対照的に、高い天井からガラスを散りばめたような丸いモダンなライトと、古典的なステンドグラスと陶製のレリーフの壁や柱が融合した、豪華できらびやかな室内。ここがレストランであることを疑ってしまうほど美しい空間でした。それもそのはず、この「ギャンブルルーム」も、「モリスルーム」も、世界初のミュージアムレストラン&カフェなのだとか。どちらも芸術性に溢れた、とても贅沢で素敵な空間でした。

Credit

写真&文/前田満見

高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。

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