キャプテン・トーマス~ゴルフ場設計家、イングリッシュ・セッターのブリーダー、そしてバラ育種家【花の女王バラを紐解く】
花の女王と称され、世界中で愛されているバラ。数多くの魅力的な品種には、それぞれ誕生秘話や語り継がれてきた逸話、神話など、多くの物語があります。数々の文献に触れてきたローズアドバイザーの田中敏夫さんが、バラの魅力を深掘りするこの連載で今回取り上げるのは、ゴルフ場の設計者として有名でありながら、バラ育種家の顔も持つという異色の育種家、キャプテン・トーマス。キャプテン・トーマスの生涯と、彼の生み出した丈夫で美しいバラの数々をご紹介します。
目次
キャプテン・トーマス

今回は、そんなユニークな育種家、キャプテン・トーマスをご紹介しましょう。
キャプテン・トーマスの生い立ちと功績
ジョージ・C・トーマスJr.(George Clivvord. Thomas, Jr.:1873-1932)は米国ペンシルバニア州、フィラデルフィアに生まれました。父ジョージ・トーマスSr.は投資銀行のオーナーの一人という富裕な一家でした。
ペンシルバニア大学卒業後、父の銀行で金融業務に従事していましたが、1907年頃から、10代のときから始めていたゴルフ・コースの設計に専念するようになりました。
その後第一次世界大戦が勃発し、米国が連合軍側に参戦すると空軍のパイロットとして活躍。3度墜落するという過酷な経験をしたものの、無事終戦を迎えることができました。彼がキャプテン・トーマスと呼ばれるのは、戦時の階級、大尉(キャプテン)にちなんだものです。
1919年に戦役を終えて帰国すると、カリフォルニアのビバリー・ヒルズへ居を移し、ゴルフ場の設計を続けました。キャプテン・トーマスが生涯に設計したゴルフ場は20を超えています。ロサンジェルス郊外のリヴィエラ・カントリー・クラブ(Riviera Country Club)は最高作と評され、当初の設計のまま今日まで維持されているとのことです。


さて、そんなキャプテン・トーマスがバラ育種を始めたのは1912年、ペンシルバニア時代のことです。1914年には、早くも著作『戸外におけるバラ栽培の実用書(Practical Book of Outdoor Rose Growing)』を刊行しています。
彼は育種した多くの品種に、一家が保有していたフィラデルフィア郊外の農場“ブルームフィールド・ファーム(Bloomfield Farm)”にちなみ、ブルームフィールドの名を冠しています。
1932年、ビバリー・ヒルズにおいて心臓発作により死去しました。享年58歳でした。
キャプテン・ジョージ・C・トーマスは1910年代から20年代にかけて時代をリードしたゴルフ場設計家であり、余技としてイングリッシュ・セッターのブリーダーに取り組み、バラ育種も行っていたと捉えてよいでしょう。
キャプテン・トーマスが育種したバラ
育種にあたって、キャプテン・トーマスは、丈夫で庭に植栽して景観を彩る品種をつくろうとしていたのではないかといった印象を受けます。
代表的な品種をいくつかご紹介しましょう。
ドクター・ヒューイ(Dr. Huey)- 1914年

小輪、セミ・ダブルの花、花色は暗く、渋みのある濃い赤。樹高300〜450cmほどで、硬めの枝を伸ばすクライマーとなります。非常に丈夫で、環境を問わず旺盛に成長します。その性質を高く評価され、アメリカでは一時期、園芸バラの台木として使用されていました。
種親は‘ドロシー・パーキンス’の色変わりである淡いピンクのランブラー‘エセル(Ethel)’。花粉親は深紅のチャイナ・ローズ‘グルス・アン・テプリツ(Gruss an Teplitz)’が使用されました。
花色は‘グルス・アン・テプリツ’そのものですが、交配親は2品種とも柔らかにアーチングする枝ぶりですので、この交配から”頑健な”と表現したい、硬い枝ぶりのクライマーが生じたことには、正直なところ驚きを禁じえません。
1914年に育種され、1920年、米国バラ協会で交流のあったバラ愛好家、ドクター・ロバート・ヒューイ(Dr. Robert Huey)に捧げられました。キャプテン・トーマスは先にご紹介した著作の冒頭で、バラ育種への道へ誘ってくれたのはヒューイ博士であったと感謝の念を表し、書を献じています。
ブルームフィールド・アバンダンス(Bloomfield Abundance)- 1920年

現在流通している‘ブルームフィールド・アバンダンス’は、小輪、ポンポン咲きのような丸弁咲きの花が豪華な房咲きとなります。花色は淡いピンク。透明感があり、同時に温かみのある印象を受けます。柔らかな細い枝が頭をもたげるように伸び、その先に花をつけるため少し変わった印象を受けます。
種親にピンクのランブラー‘シルビア(Sylvia)’、花粉親はピンクのHT‘ドロシー・ページ・ロバーツ(Dorothy Page Roberts)’を使用したとトーマス自身が記述していますが、長い間、‘スプレー・セシル・ブルナー’との類似が繰り返し指摘されてきました。‘セシル・ブルナー’は小輪のポリアンサで、樹形は小型です。“スプレー”タイプは、枝変わりしてクライマーになったものでした。
そして、現在‘ブルームフィールド・アバンダンス’として流通している多くは、実際には‘スプレー・セシル・ブルナー’であることが、米国、南フロリダ大学によるDNA検査により判明したとのことです。

なお、下は現在流通している、‘セシル・ブルナー’です。


フリーランド・ケンドリック(W. Freeland Kendrick)- 1920年
明るいピンクの大輪花を咲かせるクライマーです。
種親に淡いイエローのランブラー‘アヴィアチュール・ブレリオ(Aviateur Blériot)’、花粉親には、ペルネ⁼ドゥシェが育種したピンクの大輪花を咲かせるHT‘マダム・カロリーヌ・テストゥー(Mme. Caroline Testout)’が使われました。
W・フリーランド・ケンドリック(W. Freeland Kendrick)は1924-1928年の間、アメリカ・フィラデルフィアの市長だった共和党の政治家です。キャプテン・トーマスと同年生まれですので、ひょっとしたら学生時代からの友人だったのかもしれません。

ブルームフィールド・デンティ(Bloomfield Dainty)- 1924年

種親は、ペンバートン育種の白花のHM‘ダナエ(Danaë)’。花粉親は、ペルネ⁼ドウシェが育種したコーラル・レッドのHT‘マダム・エドワード・エリオ(Mme. Edouard Herriot)’だと記録されています。
比較的柔らかな枝ぶり、シングル咲きのイエローの花が咲き競う、大型のシュラブです。多弁となる品種が多い昨今、とても有用な品種だと思います。今日、実株を観賞できるチャンスがほとんどなくなってしまったのが残念な品種です。
ブルームフィールド・カレッジ(Bloomfield Courage)- 1925年

種親は、原種の照葉ノイバラ(R. luciae var. wichuraiana)、花粉親はノイバラ系ランブラーである‘ターナーズ・クリムゾン・ランブラー(Turner’s Crimson Rambler)’が使われたと記録されているようですが、一季咲きの品種同士の交配で、返り咲き種が出現するのかという疑問も生じます。
ビショップ・ダーリントン(Bishop Darlington)- 1926年

種親は白花のランブラー‘アヴィアチュール・ブレリオ(Aviateur Blériot)’、花粉親は白花のHM‘ムーン・ライト(Moonlight)’だとのことです。
エドナ・トーマス(Ednah Thomas)- 1931年
中輪、 ピンクにオレンジが乗った、華やかな色合いのクライマー。
キャプテン・トーマス夫人のエドナに捧げられました。
ソフィー・トーマス(Sophie Thomas) – 1931年
オレンジまたはライト・イエロー、大輪、ダブル咲きとなるHTクライマー。
ソフィーはジョージJr.の娘ジョセフィーヌ(Josephine)のニックネーム。娘にささげられた品種です。
キャプテン・トーマス(Captain Thomas)- 1935年(公表)

アプリコットのHM‘ブルームフィールド・コンプリートネス(Bloomfield Completeness)’と、イエロー・ブレンドのHT‘アトラクション(Attraction)’との交配によるとされています。
トーマスの死去(1932年)後に公表されました。
Credit

写真・文/田中敏夫
グリーン・ショップ・音ノ葉、ローズ・アドバイザー。
28年間の企業勤務を経て、50歳でバラを主体とした庭づくりに役立ちたいという思いから2001年、バラ苗通販ショップ「グリーンバレー」を創業し、9年間の運営。2010年春より、「グリーン・ショップ・音ノ葉」のローズ・アドバイザーとなり、バラ苗管理を行いながら、バラの楽しみ方や手入れ法、トラブル対策などを店頭でアドバイスする。
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