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都市のガーデニングを実践するドイツの“エディブルシティ”ビンゲン・アム・ライン

都市のガーデニングを実践するドイツの“エディブルシティ”ビンゲン・アム・ライン

saiko3p/Shutterstock.com

「エディブルシティ」をご存じですか? 都市に食と農の繋がりを取り戻す取り組みで、SDGsなど環境の重要性が高まる昨今、世界で少しずつ広まってきています。ドイツの都市、ビンゲン・アム・ラインもその一つ。今回は、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、ビンゲン・アム・ラインの取り組みをご案内。コラムではエルフリーデさんの実践する夏のガーデニングアイデアもご紹介します。

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“エディブルシティ” とは

市民農園
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Meyer-Rebentisch, Dr. Karen

「エディブルシティ」とは、なんだか不思議な響きですよね。食べられる町?

エディブルといっても、お菓子やパンでできた町ではありません。エディブルシティは、そこに暮らす市民が誰でも安全な食べ物にアクセスできるよう、都市生活に自然や食の成り立ちとの繋がりを取り戻すという取り組みです。このコンセプトはさほど新しいものではありませんが、まだ世界での広がりは始まったばかり。イギリス発祥といわれ、ベルリンやアンダーナッハといったドイツの都市に広がり、そして2016年にビンゲン・アム・ラインでも採用されました。このビンゲン・アム・ラインが、今回ご紹介するエディブルシティです。今回は、このビンゲン・アム・ラインという都市の取り組みをご紹介したいと思います。

ビンゲン・アム・ラインの取り組み

ビンゲン・アム・ライン
ビンゲン・アム・ライン。Dmitry Eagle Orlov/Shutterstock.com

ビンゲン・アム・ラインはドイツのラインラント・プファルツ州にある、人口およそ25,000人の町です。

ビンゲン・アム・ラインでエディブルシティの取り組みが始まったのは、2016年の春のこと。ビンゲンが目標とした都市はドイツの大都市アンダーナッハで、より早くから同じようなコンセプトを取り入れていました。アンダーナッハでは、より健康的な都市の気候、作物の多様性、さらにはガーデニングを通じた失業者へのサポートを打ち出しています。

さて、ビンゲン・アム・ラインでは、熱心なガーデンファンと自然に興味がある人々が活動グループを作り、公共空間の緑化や都市の中に野菜を育てる生産的なゾーンを作ることを進めてきました。行政と職業大学(Fachhochschule)と協力し合い、それを実現したのです。

野菜
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ビンゲン・アム・ラインのエディブルシティとしての最初の取り組みは、サラダ菜やニンジン、リーキ、キャベツ、トマト、キュウリなどの植え付けをすること。カシスやレッドカラントといった果樹やベリー類も忘れてはいけません。プロジェクトがスタートするにあたって作られた野菜花壇の中央には、つる野菜のための支柱として木製のポール7本もセッティングされました。そして、この場所の正式な発足を祝う市からのプレゼントとして、市長からはレーキやクワ、ジョウロなどのガーデニングツールがグループのメンバーに贈られました。行政との協力関係がうかがえますね。

ブルククロップ
ブルククロップ。Dmitry Eagle Orlov/Shutterstock.com

グループの活動場所は、ビンゲン・アム・ラインの町にあるブルククロップ(クロップ城)あたり。ブルククロップは、2002年に「ライン渓谷中流上部」として登録されたユネスコ世界遺産の一部です。コブレンツからビンゲン・アム・ラインまでつながる、ライン川沿いのこの世界遺産は、日本でもライン川クルーズとして人気がありますね。城壁やそのエリアを囲んで広がる成熟した小さな森など、素晴らしい景色が見られ、片側にはブドウ畑が、もう片側には暗色のレンガの城壁に守られた都市が広がります。

ブルククロップから始まった活動の場所は広がりを見せ、その後ビンゲン・アム・ラインのダウンタウンにある広場には野菜畑が、大学にはレイズドベッドが追加で導入されています。

エディブルシティを目指す活動

野菜
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

ビンゲン・アム・ラインの取り組みのモットーは、「ぜひ触って、収穫して!」ということ。「触らないで!」ではないのです。ポリシーとしては、収穫OKのサインが掲示されたら、マークがついているものは、どれでも持って帰っていいとしています。

もちろん、地元の人々が除草や植え付けを手伝ってくれるのは大歓迎。ここでは、野菜は農薬、除草剤、殺菌剤を使用せず、すべてオーガニック栽培で育てられています。厳選された、古くから栽培されている地元野菜も重要です。栽培されてきた歴史があり、果実や野菜の収穫はもちろん、種子も確実に採れると信頼できる植物たちです。種子が採れるということは、新しい株を増やして栽培するために、とても大切なポイントです。

現在では、約15人のボランティアグループが中心となってガーデニング作業をし、70人がニュースレターを受け取っています。スケジュールやプロジェクトの計画を立てるミーティングは月に1度。ミーティングには誰でも参加でき、また活動には都合のつくときにだけ参加します。やることは常に何かありますからね。

ビンゲン・アム・ラインが目指すエディブルシティの目標は、次のようなものです。

  • 自然と植物にもっと感謝すること
  • 食料がどこから来るかを経験すること
  • 都市の中に新たなアクティブで楽しめる場所をつくること
  • そこに住む住民と共に公共空間をデザインすること
  • 生物多様性を改善すること
  • グループでガーデニングして楽しむこと
  • 子どもたちが環境に関わる取り組みを行うモチベーションとなること

時に花壇などが荒らされ、一度は杭が数本なくなっていたこともありますが、それを除けば、今のところ大きな被害は出ていません。ポジティブなことのほうがずっと多いのです。

これからの世界に寄り添うエディブルシティ

トドモーデン
イギリス・トドモーデン。Lachlan1/Shutterstock.com

ビンゲン・アム・ラインから離れて、早くからエディブルシティのコンセプトを取り入れた、イギリスの例を見てみましょう。

トドモーデンの町に作られたエディブルネットワークは、素晴らしい実例です。草の根運動が、この町をフルーツやハーブ、野菜が実り、誰もが分け合える町に変えたのです。もともと観光客が集まるとても魅力ある街、という訳ではありませんでしたが、この活動により注目が集まり、またこのようなプロジェクトに興味のある「ベジタブルツーリスト」も集まるようになりました。

このように、エディブルシティでは、公園や空き地といった都市の空間がどのようにより効率的に活用できるか、そして住民にも玄関前でも育めるたくさんの可能性を示すことができます。さらに、住民同士が互いに知り合い、一緒に植物を育てて収穫することで、助け合いの関係も生まれ、SDGsの目標を達成するのにも役立ちます。エディブルシティは、これからの世界に大切なコンセプトになっていきそうですね。

市民農園
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Meyer-Rebentisch, Dr. Karen

日本では、「スペースがないから…」という言葉をとてもよく聞きます。
確かに、活用できるスペースは限られたものです。しかし、その限られたスペースの見方や使い方を決めるのは自分次第。その限られたスペースでも、工夫次第で豊かな実りが得られるかもしれません。日本でも、エディブルシティが広がっていくのを楽しみにしています。

コラム:ガーデニングのここが気になる!
どのように夏のガーデンを乗り切るか?

夏のガーデン
Marina Lohrbach/Shutterstock.com

近年の夏の暑さでは、ガーデニング作業でも気軽に外に出るわけにはいきません。今回は、私が夏のガーデニングで気をつけていることについてお伝えしたいと思います。

私は現在、3つのガーデンを手入れしています。3つともに状況が異なるので、それぞれに応じた暑さ対策をするのが効果的です。

ガーデン
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

1つ目のガーデンには3mにもなる大きな木々があり、そのため暑い日でも木陰で作業することができます。いくつかの方角に木が植わっているので、一日中どこかの木陰にいることができます。木陰がなければ、30分も作業しないうちにめまいがしてしまうことでしょう。ここは早朝のうちに庭仕事を済ませてしまうのがベストですが、週末の朝4時半から起き出して草むしりをするのは、休日の過ごし方としてはちょっと大変。平日の日々の仕事の後には、やっぱり休息が必要ですし、それは多くのガーデナーさんも同じことでしょう。特に梅雨の後は、すべての植物がすごい勢いで伸びていくので、草取りはとても大変です。

カンナ
大きな銅葉を広げるカンナ。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

木陰以外で少しでも涼しく過ごすための仕掛けは、野菜畑の隙間にカンナを植えること。私は、スペースがある場所では、独特な構造美を与えてくれるカンナが大好きです。7月に入るとびっくりするほど成長して背が高くなるので、これからはちょっとした緑陰も作ってくれることでしょう。カンナは草丈や大きさをコントロールするのも掘り上げるのも簡単ですし、大きな葉は小道やほかの植物の足元に敷いたりして再利用すれば、土を乾燥から守ってくれます。

2つ目のガーデンは、小さな市民農園。ここには残念ながら、まったく日陰がありません。この場所に行くのは、基本的に夕方5時半か、できれば6時を回ってから。そうでもなければ暑すぎて作業どころではありません。そこで、陰を作ってくれる植物として、ここではキクイモを植えてみました。キクイモは丈高く成長し、現在は150cmを超えて、ちょっとしたシェードを作ってくれています。カンナに比べると、一度植え付けた後は掘り上げるのは難しいですが。より簡単なのはヒマワリでしょう。大きくなる品種であれば草丈が高くなり、天然の風よけやパラソルになってくれます。こうした日陰があれば、草取りや収穫も少しラクになりますよ。

キクイモ
キクイモの花。Olga_Anourina/Shutterstock.com

3つ目は、一番簡単な場所。私の玄関前のガーデンです。エントランスガーデンは朝のうちに作業するのがお気に入り。海から吹く穏やかな風が、水やりや花がら摘みの間、気持ちのいい夏の空気を運んでくれます。午後になると、この場所も作業をするには暑くなりすぎるので、お昼までにはすべて終わらせなければなりません。

一方、バックヤードのガーデンは11時ぐらいまでとても日当たりがよい場所なので、午後2時過ぎからお茶を飲んだり庭仕事をするのにぴったり。以前ご紹介したウッドデッキができてから、リビングのソファより、そのデッキに座ることが多くなりました。

このように、夏のガーデニングでは、それぞれのガーデンの場所や状況の違いに応じた、適切な作業時間を探ることが大切です。それは常に変化しますし、新しいアイデアを考えるのも楽しいものです。もちろん、パラソルやシェードで日陰を作ることもできますが、時に邪魔になったり、風が強い日には飛ばされてしまうこともあるので、私は緑陰を利用するのが好みです。

日陰以外に、夏のガーデンで大いに助けとなるのは、4つ車輪がついた小さなガーデンカートで、楽な姿勢で作業することができます。ほかに、「1つ足」と呼んでいるコンパクトでどんな場所での作業でも使いやすいプラスチック製のスツールも活躍。時に落っこちることもありますが、バランスを保つのもなかなか楽しいものです。

夏の庭
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

外で作業する際は、十分な水分補給も忘れてはいけません。木陰で休憩をしっかりとり、蚊よけもしておきましょう。蚊などの虫は、日によってどうしてもまとわりついて離れないことがあり、そんなときは体中虫に刺されるより、早めに作業を切り上げたほうがラクです。もちろん蚊取り線香は常に手離せませんし、虫除けスプレーも欠かせません。私のサマーハットには虫除けのネットもついていますが、時に邪魔になりますし、黒いネットなしでガーデンを楽しみたいのです。

近年の夏は外出をためらわれるような危険な暑さですが、一切外に出ないのではなく、よいタイミングを見計らって、場所に応じてガーデニングを楽しみましょう。

夏の庭
Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich

緯度の高いドイツに比べ、日本では日の出ている時間が短いですが、私は日が落ちてから庭仕事をするのがお気に入り。とても穏やかな時間を過ごせます。もっとも、ライトと強力な蚊よけは欠かせませんけどね。

それでは、楽しい夏のガーデニングを!

Credit

ストーリー/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。

Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood

取材/3and garden 

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